阪神タイガースバトル ..
129:924(3/3)
07/01/25 23:23:02 uIE0ridb0
「もしそうなら、そこから出てきて、わしらの仲間になってくれんか?」
一番言いたかった台詞を投げかけ、金本は相手の反応を待った。だが、
前方の茂みは相変わらず不気味な静寂に包まれたままだった。
「ほれ、お前らもなんか言わんか」
金本は振り返り、残りの三人を促した。
「……そうです。金本さんの言ったとおり、僕らは殺しあう気なんかありません。
というより、何とかしてこんなゲームを止めたいんです」
赤星がまず口を開いた。藤本と的場が負けじと続く。
「そのために、もっと仲間がほしいと思ってるんです」
「頼むから、俺たちと一緒に来てください」
マシンガンを両腕でかかえ、秀太はじっと身を固くしていた。かつての「仲間」
たちの無邪気で真摯な訴えが幾本もの矢のようにわが身を突き刺し、痛め
つける。彼らは変わらない。何も変わっていない。一つまた一つと罪に手を
染め汚れていく今の自分には、その純粋さがねたましく、憎しみすらおぼえる。
(だから! 殺してしまえ―)
だが、なぜか身体は動かなかった。
「なんで出てきてくれん? ひょっとして、ケガでもしていて動けんのか?
だったら、今からそっちへ行ってもいいか?」
ついに金本は思い切った。もし相手が負傷しているなら、急がねばならない。
「サル、ちょっとの間こいつを持っとけ」
相手に意識がある場合、手ぶらで近付かなければ警戒させてしまうと思い、
手持ちのサブマシンガンと懐中電灯を傍らの藤本に渡そうとした時だった。
「あ―」
その時、探知機に目を落とした赤星が声を上げた。
「後ろから、誰か来ます!」
【残り36人】
130:924
07/01/25 23:30:20 uIE0ridb0
すみません、修正します……
>>127の最終行「見ると、ウィリアムスのマシンガンだった。」
改行し忘れていました。
それから>>129の下から2行目「その時、」は不要でした。
131:代打名無し@実況は実況板で
07/01/25 23:41:57 MBNAqMOs0
フオオォオ!!!新作キタ━━(゚∀゚)━━━!
職人様乙です!!
どうなるんだゴレンジャー・・・!(ノД`)
秀太の葛藤も辛いorz
132:代打名無し@実況は実況板で
07/01/26 00:50:32 6BaZyOe50
お、お、俺のゴレンジャーは助けて・・・殺さないでえええええ。・゚・(ノД`)・゚・。
133:代打名無し@実況は実況板で
07/01/26 01:04:42 M6RoR5k5O
新作キタ━━(゚∀゚)━━!!!!
乙です!
今回やっと気がついたけど、秀太って殺人にはまだ庄田1人しか成功してなかったのか…
あとは失敗続きで…
134:代打名無し@実況は実況板で
07/01/26 06:57:10 hS8tt0GZ0
秀太さん、やさしい秀太さんになってよぉぉぉ!
135:代打名無し@実況は実況板で
07/01/26 14:17:59 dPxBjonX0
新作乙です。
って、誰が来たんだぁぁぁぁぁぁ!!!
この「後ろからの誰か」がゴレンジャーが無事ですむかの鍵を握っているのか!?
136:代打名無し@実況は実況板で
07/01/27 19:53:14 sf7Qs0GqO
捕手
137:174(1/13)
07/01/27 23:29:30 E5f1KWJy0
>>129
143.Thank you for your everything
「こんな夜中に木登りですか」
世間話のように切り出してくる伊代野に、葛城は一歩下がって相手の様子を探った。
「さっきの爆発、聞きました?」
「ああ……」
だが、木の陰から出てきた伊代野は、それ以上近づいてくる気はないようだった。
向こうも警戒しているのかもしれない。
「何が……起こってるんでしょうね?」
こちらに分かるわけもないことを問いかけてくる声は、落ち着いてはいるが、不安
に揺れてるようにも聞こえた。
薄暗い中、目を凝らしたらやっと見える、泥にまみれたユニフォーム。雨上がり
の森で木登りをしていた自分も、たぶん向こうから見たら同じように泥まみれに見
えるのだろう。
「葛城さん」
十分な距離を置いたまま、相手を観察していた葛城に、積極的に声をかけてくる
のは伊代野の方だ。
「ご相談したいことがあるんです」
もう一歩、下がった。
「警戒しますよね?」
読めない相手の動向に、明らかに警戒心を増した葛城に気付いたらしい伊代野が
苦笑する。
「俺が危ないと思ったら、いつでも逃げてください」
そう言って伸ばされた人差し指の先を、伊代野が懐中電灯で照らした。
一本の倒木が横たわっていた。
伊代野が倒木の端に座った後、葛城は逆の端から恐る恐る近づき、バッド一本半
程距離を空けて座った。
落ち着かない空気の中、お互いが体勢的には落ち着いたところで、沈黙が背に
のしかかった。
138:174(2/13)
07/01/27 23:30:34 E5f1KWJy0
「実は俺、人を殺してしまったんです」
「……っ」
唐突に切り出された告白に、全身が強ばった。恐怖というよりは、そのことを自分
に告白してきた伊代野に、自身の罪をも見透かされているような衝撃を感じた。
吐露した彼の横顔をのぞき見る。
膝の上に組まれた両手に落とされた視線。
まるで牧師に向かい懺悔するようなその仕草に、肋骨の内側がサボテンを押し込めた
ように痛んだ。
自分も言ってしまうべきだろうか。
鳥谷にも言っていない秘密だ。
「……実は……俺も人を殺した」
絞り出した声は、ギリギリ伊代野に聞こえたはずだ。それでも、彼はさほど驚いた
様子は見せなかった。一度だけこちらを見やり、また視線を手元に落とす。
その仕草に促されるように、葛城は今まで誤魔化し、隠し続けていた思いを吐き
出した。
「不可抗力だったんだ。―いや、言い訳やな。だけど俺に殺意はなかった。殺す
気なんてこれっぽっちもなかった。ハメられたんや……あいつに」
「その気持ち、よく分かりますよ」
優しく、頷く伊代野。
彼も人を殺して『しまった』と言った。
「でも、人殺しは人殺しですよね」
そのセリフが、ズシンと心臓にのし掛かる。
「俺思ったんです。人殺しの罪に段階はあるのかなって。ほら、裁判とかでは同じ
人殺しでも、罪の重さって違ってくるじゃないですか。あれって正しいと思います?」
裁判、といきなり現実的な話を持ち出されて、葛城は一瞬回答に詰まった。あまり
真剣に考えたことはなかった。ニュースで流し見るだけのそれは、どこか別世界の話
のように思っていたからだ。
「俺は正しいと思ってたんです。でも、いざ殺してみると、よく分からなくなって……」
伊代野の視線に呼応するように、組まれた両手で作られた輪が歪んだ。
139:174(3/13)
07/01/27 23:32:01 E5f1KWJy0
「だってどんな事情があっても、人を殺したことに変わりはないでしょう? 俺たち
は今殺さなきゃ殺されるような世界にいるけど、それでも人殺しは人殺しだ。正当化
なんてされない」
一息でそう言った伊代野の顔は、奇妙に歪んでいた。泣き出しそうにも見えるし、
笑い出しそうにも見える。
やがて大きく息を吐き出し、結論を突きつける。
「人殺しは罪なんです。罪に段階なんてない」
「……そんなに、自分を責めるな」
我ながら陳腐な台詞だと思いながらも、慰める。
うなだれた伊代野の姿は決して格好のいいものではないが、そんな彼に、葛城は
尊敬の念すら抱き始めていた。
彼は自分が逃げ出していた問題に、真っ向から立ち向かっているのだ。
その末に苛まれている。
考えれば考えるほど、自分の罪の重さに、自己嫌悪の沼にはまっていく。
「俺も、お前と同じやからよく分かる。『仕方がない』なんて言葉本当は使っちゃ
いけないんや。その人の命を奪ったという事実そのものがその人に対する罪なんやから」
佐久本を思い出す。彼には妻も子もいたはずだ。
彼の人生を奪うと同時に、見知らぬ彼の妻の夫と子供の父親という大切な存在を
奪ってしまった。
伊代野は理屈っぽい男だった。
行き当たりばったり、勘と本能で行動する葛城とは違い、己の行動一つ一つに納得
できる意味を持たせるのを好む男だった。
そしてその習性は、この場合不幸を呼ぶもの以外何ものでもなかったに違いない。
「でもな、自分を正当化したくないからって、自分を責めてばかりいてもしょうが
ないやろ? 頭おかしくなっちまう。……ああもう、俺もこんなこと言ってたら自分
がすっげー自己中な嫌なヤツな気がしてイヤなんだけどよ。割り切るっていうか……」
「割り切る?」
ピクリと、伊代野の肩が揺れた。
140:174(4/13)
07/01/27 23:34:51 E5f1KWJy0
「そう。だってさ、起こっちまったもんは仕方がないんや。……あー、また仕方が
ないって言葉使っちまったな。仕方がなくはないんやが、ただずっと自分の罪を責
めててもさ……なんつーか、前に進まないやろ? あんなことがあったけど、俺は
やっぱり生きていたいと思うし、それはエゴだって分かってるけど、誰かを殺した
からじゃあ俺も償って死にますっていうのもまた違うと思うんや。生きて償うって
のが、どうやって出来るのか自分でもよく分からんけど……」
「割り切る……」
「あ、割り切るってのはちょっと嫌な表現やったな! そんな無責任なもんじゃ
なくて……」
「よく分かりました」
「え?」
その声の場違いな明瞭さに、思わず聞き返した。
「ありがとうございます、葛城さん」
こちらを向いた伊代野の瞳には、力強い輝きが戻っていた。
「葛城さんに相談してよかった。やっぱり、自分が間違っていないって自信が持て
ました」
興奮気味に身を乗り出した彼の口から、止めどなく言葉が溢れた。
「そうです。割り切るしかないんです。本当はあの時分かってたんです。絶好の
チャンスだったから沖原さんを殺した時、俺に罪悪感はなかった。あの時あんな
にも容易く引き金を引けたおかげで、俺は生き残る為に必要な勇気を手に入れる
ことができた。―1人殺しても、2人殺しても罪の重さは変わらないって」
この男はこんなにも饒舌だったのかと。
息を継ぐ間もなく、滑舌良く巻くし立てる伊代野に圧倒されていた。
だが最後の言葉に、葛城は自分が押すボタンを間違ってしまったことを悟った。
いつの間にか、伊代野との間合いが詰まっていた。間近で見るユニフォームの
汚れが泥ではなく、赤黒く染みついた血の跡であることに気づいた時―伊代野
が動いた。
ようやく身体が動き、逃げだそうとした葛城の背中に熱い衝撃が走った。
「ぐっ……」
激痛に、その場に倒れ込む。何とか身を捻ると、薄暗い中に浮かぶ白々しい
輝きが目に入った。
無造作に伊代野がぶら下げる、日本刀。鋭利な刃にこびりついた、渇いた血。
141:174(5/13)
07/01/27 23:35:31 E5f1KWJy0
(俺は……また騙されたのか?)
童顔で年以上に幼く見える彼の姿に、同じく童顔の後輩の顔が重なる。虫も殺さ
ないような顔で自分を唆し、罪を背負わせた悪魔。
伊代野もまた、あの男と同じ種類の人間だったのだろうか。
(違う。こいつは迷ってたんだ)
時間が経つにつれ、彼が罪とは何か、人殺しとは何かという課題に苛まれていた
のは事実だ。あの告白は決して偽りのものではない。そう信じたい。
彼が迷った末に相談した相手が葛城であったのは偶然だ。そして葛城が人を殺した
過去を持つ人間であったのも偶然だ。
そんな偶然が重なり、葛城は逃げずに人殺しの伊代野の相談を受け―そして、
引き金を引いてしまった。
(俺はどう応えれば良かったんだろう)
人殺しは悪だと責めて立てれば良かったのだろうか。
一人殺すのと二人殺すのは罪の重さが全然違うから、今ならまだ償える、間に合う
と気休めを嘯けば良かったのだろうか。
「葛城さん!?」
その時、今一番聞きたくない声が耳に入った。
(ダメだ―!)
地面に顎を擦り付けながら、無理矢理顔を動かす。
駆け寄ろうとしていた鳥谷が、状況を把握し、愕然とした様子で足を止めた。
もう葛城は時間の問題と思ったのか、伊代野の足が鳥谷へと向く。
日本刀を振り上げ、飛びかかろうとした足にしがみついた。
(頼む、来るな、来ないでくれ!)
完全に伊代野の殺意は今、鳥谷に向いている。不用意に近づいたら、葛城の二の舞だ。
「くっ……」
しがみついてきた葛城に、伊代野が動きを止められ、疎ましそうに呻いた。
力任せに足を振り上げようとしてくる相手に、石にでもなったつもりでかじりつく。
背中の傷は、もはや痛いという感覚のレベルを逸していた。致命傷だ。今すぐ救急車
が駆けつけてくれて集中治療室に放り込んでくれたら一命を取り留めるかもしれないが、
そんな期待はこの島では出来そうにもない。
(俺は死ぬ)
だったら……
142:174(6/13)
07/01/27 23:36:10 E5f1KWJy0
(可愛い後輩を逃がしてやるくらいしか出来ることはないんじゃないか!?)
「鳥谷! 逃げろ!!」
「でも……!」
「早く行けぇ!」
地面に石膏で塗り固められたように動かない鳥谷に舌打ちする。自分だって長く
は持たない。押し問答をしている時間はない。
「くそったれ!」
自分はまだ生きている。やがて死ぬにしても、まだ生きているのだ。だから、彼
は葛城育郎を見捨てることが出来ない。
(俺を見捨てて逃げろと言って逃げるヤツじゃないか……だったら―)
言い方を変えるしかない。
「お前は、早く矢野さんのトコに行ってやれ!」
その言葉に、初めて鳥谷の表情に迷いの色が浮かんだ。
「あんだけ離れようとしなかったやろうが! お前が死んだらあの人はどうなるんだ!」
どうなるかなんて知らない。高熱の病人を放っておくのは心配だが、普通なら
眠っていればそのうち治るし、風邪さえ治れば彼は一人でも生きていけるだろう。
葛城が知る限り、矢野輝弘という男はとても強い。
肉体的な強さというわけではない。筋力や喧嘩の強さでは、同じくチームリーダー
で同級生の金本や下柳には劣るだろう。
だが、内面的な、芯の強さという意味では、彼らにも勝るかもしれない。
少なくとも、10歳以上年下の鳥谷が守ってやらねばならないほど、彼は弱い人間
ではないはずだ。
だがそんなことはどうでもいいのだ。口実が必要だった。
理由はよく分からないが、ここまでの言動を見る限り、鳥谷は矢野に対して何らか
の使命感や責任感を負っている。
それを利用して、彼をこの場から追い返すことが出来ればそれでいい。
(俺なんかに付き合って、ここでお前は死ぬわけにはいかないんだろうが……!)
未来のある若者。チームを、もしかしたら球界を背負うことになるかもしれない青年。
無限に広がる可能性や才能が妬ましくなかったと言えば嘘になる。だが、こんな
ところで未来を閉ざされるのはあまりにも悲しい。そんなことで喜べるほどエゴの
塊ではないつもりだ。
彼の才能の裏付けには、驕らない努力があることはよく知っているから。
143:174(7/13)
07/01/27 23:38:29 E5f1KWJy0
「とっとと行け! 先輩命令や!」
(不甲斐ねぇ先輩だけどな!)
トレードで流れてきて、一軍とファームをうろうろしている先輩と、鳴り物入り
で入団した期待のゴールデンルーキーの後輩。
彼が名実共にタイガースの主力になった暁には、世話をしてやった礼にメシでも
おごらせる予定だったが、どうにもそれは敵わないらしい。
「俺は大丈夫やから!!―鳥谷ッ!!」
葛城の全身全霊の叱咤に、一瞬、鳥谷の顔が泣きそうに歪んだ。
「信じてますからッ!!!」
一言そう叫び、ようやく鳥谷が踵を返した。そこからは、振り返りもせずに全力
で走り去る。そのことに、葛城は安堵した。
(そうだ、それでいい)
『信じている』という言葉は、そのまま自分が『大丈夫』といった台詞にかかる
のだろう。残念ながら大嘘だ。自分が彼に嘘をつくのはこれが初めてではないから、
まあ許してくれるだろう、という適当な言い訳を考える。
(ああそれとも―)
『それとも、俺じゃあ信用ないか?』
先延ばしにされていた、あの質問の答えだろうか。
それなら、死ぬ前にいい土産が出来た。
目の前が暗くなっていく。手探りで伊代野の腕を伝い、右手に握られた日本刀を
掴んだ。片刃が指に食い込む激痛も、袈裟切りされた背中の傷に比べれば蚊に刺され
たようなものだ。
「っ……がぁぁぁっ!」
今まで引き留めていた足を離して、タックルをかます。元々体重をかけていた方向
に急に力を加えられ、よろめいた伊代野に飛びかかった。
(こいつも決して悪いヤツじゃなかったんだ)
少なくとも、人を殺した罪というものを真剣に考えるだけの良心と倫理を持った
ヤツだった。もしかすると、考えることを放棄した自分より良心的な人間だったかも
しれない。
彼も自分も、このゲームの犠牲者だ。自分達が殺しているのではなく、このゲーム
が殺させているのだ。
144:174(8/13)
07/01/27 23:39:28 E5f1KWJy0
「お前みたいなヤツは、これ以上罪を犯しちゃダメなんだよ!!」
倒れ込んだ相手に馬乗りになって叫ぶ。
「お前やって分かってンやろ!? これ以上繰り返してどうする!?」
一人殺すごとに、きっと彼はまた悩み続ける。
悩んで、苦しんで、そして壊れていく。
悲し過ぎる罪の連鎖。
「お前ははじめっから人殺しになんか向いてなかったんや! もっと何も考えずに殺
れるような人間じゃなきゃあかんねん! お前は、イイヤツ過ぎんだよ!! ゲホッ
……ガ、…ゴポ……ッ!」
よくもまだこんなデカイ声が出せるものだと思う。そのツケか、肺の辺りから不快
な感覚が迫り上げ、噎せ返った拍子にごぽごぽと朱い血が吐き出された。嫌な音を立
てて落ちたそれが、組み敷いた伊代野の顔に飛び散る。
フッ……と、他人の吐血まみれになりながら、伊代野が嗤った。
その瞬間、この男と何かを共有できた気がして、葛城も笑ってみた。
多分、笑顔を作れるだけの筋肉は、もう動かなくなっていただろうが。
刃を握る手に力を込める。そろそろ、数本指が切れ落ちた頃だろうか。
(なぁ神様)
いるのかいないのか分からない、高みの見物をしている白髪白髭の爺に問いかける。
(やっぱり、人殺しに段階はあるのかい?)
二人目を殺したら、やっぱりそれは地獄行き決定なんだろうか。
それが誰かを助ける為でも。
だったら、相討ちはカウントに入れないようにして欲しい。お互い殺し合ったん
だからプラスマイナスゼロだ。よく分からないがそういうことにしておこう。
(伊代野―)
あの世にも情状酌量の余地があるなら、是非とも弁護人には伊代野に立ってもらい
たい。佐久本は多分弁護してくれないだろう。訳も分からず殺されたのだから。
(代わりに俺が、足りねぇ頭で精一杯お前を弁護してやるから)
意識を失う直前。
最後の力を振り絞り、葛城は伊代野の首に日本刀を振り落とした。
天国へ行く勝訴をもぎ取ったら、2人で一緒に祝杯を挙げよう。
145:174(9/13)
07/01/27 23:40:13 E5f1KWJy0
木の根に躓いて転倒する。
服の上から擦った膝が痛い。
泥と血の味を口の中に感じながら、鳥谷は額を土にこすりつけて奥歯を噛み締めた。
ここまで全力で走ってきて、身体は動くことを拒否していた。それでも、無理やり
に身体を動かそうと藻掻く。脳をドラム式洗濯機に放り込んだような混乱。まるで
無茶苦茶に、極彩色の感情がぐるぐると駆け巡る。
(帰らないと……)
ほんの少し目を離していた間に、葛城は殺された。
(そうだ、殺された―!)
その事実にグラリと視界が揺らぐ。
『信じている』? どの口がそんな無責任な言葉を吐き出すのだろう。
どう見ても致命傷だ。日本刀で背中を裂かれ、こんなろくな医療設備もない場所
で生き延びられるわけがない。それは本人だって分かっていたはずだ。それなのに
―だからこそ、身を挺して自分を逃がそうとしてくれた。
立ち眩みを起こしそうな絶望に苛まれる。
堪え、鳥谷は立ち上がった。
(そうだ、殺された)
そして、自分は見捨てた。
(早く、帰らないと……)
ほんの少し目を離している間に、今この瞬間、矢野が目を覚まして、再びあの家
を離れる決意をしているかもしれない。
誰かが忍び込んでぎらついた刃を向けているかもしれない。
今まさに、誰かが忍び込んで。足音を潜ませて……
眠る矢野輝弘。その喉元に突き付けられた―月光に浮かぶ刃の輝き。
「……っ!」
想像の中の白刃に、数分前にリアルに見たそれが重なり、鳥谷は息を飲んだ。
少し。
ほんの少し。
ほんの数分。
ほんの数秒。
ほんの少し前まで、確かに葛城育郎は隣で笑っていたというのに。
146:174(10/13)
07/01/27 23:41:29 E5f1KWJy0
「何で……」
別れはあまりにもあっさりと訪れた。重い言葉を交わす暇すらなかった。
『そりゃあ葛城さんは得意かもしれませんけど、……俺はこういう野蛮なことは
あんまり』
『悪かったな、野蛮で』
『ちょっ、葛城さん、人登らせといて無責任じゃないですか?』
『じゃ、頑張りたまえよ、タカシくん』
彼と別れる前の最後の会話。あまりにも軽くて、馬鹿らしいそれに後悔する。
森の中で矢野と行き倒れていた自分を助け、ここまで世話してくれた先輩に、
悪態しかついていない。
『それとも、俺じゃあ信用ないか?』
あの時、応えなかった自分に彼はどう思ったのだろうか。
信用の定義なんかを小難しく考えて、結局その答えを先延ばしにしてしまった。
信じていなかったわけではないのに。
信頼とか信用とか、そんな無形のものを理屈と言語でこねくり回して、賢くなろう
としていた。
(誰かを信じることは理屈じゃないのに)
自分の信頼の在処を探したとき、思い浮かんだ顔が葛城育郎だった。
何故あの時の気持ちをそのまま言葉に出来なかったのだろう。
自分のことで精一杯で、彼がどんな気持ちで自分に接してくれていたのか、気遣う
余裕などなかった。結局、葛城がどんな体験を経て、あの時あそこにいたのか、それ
すらロクに聞けずじまいだった。
つつけば溢れて零れ出しそうな脆い均衡に縋って、現状から目を逸らしていた。
多分、自分はそういう人間なのだ。
真正面からぶつかることも、自分の気持ちを正直にぶつけることも、避けて取り
繕って、大切なことを伝え損なうのだ。
147:174(11/13)
07/01/27 23:42:16 E5f1KWJy0
助けてくれてありがとうとも。
一緒に来てくれてありがとうとも。
信用してくれてありがとうとも。
心配してくれてありがとうとも。
言わなきゃいけないことはたくさんあって、言うチャンスはたくさんあったはず
なのに。
「俺は何一つちゃんと伝えてない……ッ!」
軽口を交わせる居心地の良さに甘えていなかったか。
目の前を遮る枝をちぎり取る。自身への怒りの捌け口を求め、それすらも原動力
に変えて、鳥谷は限界の来た身体に鞭打って走り続けた。
(いつも同じだ)
和也も、桧山も、葛城も。
失う度に後悔ばかりしている。
自己への嫌悪感に、ココロがどうにかなりそうだ。
(もう、繰り返さない……)
涙と泥を袖でぬぐい、鳥谷は口を結んだ。
これ以上失いたくはない。伝え損ないたくない。
誰のために葛城を見捨てて来たのか、誰のためにここまで走り続けているのか、
それが明確なのだけが今の鳥谷にとっての救いだった。きっと何もなく逃げ出した
のなら、己が生きていることすら許せなくなる。
鬼のような形相で、刃物を振りかざす伊代野を前にして、咄嗟に足がすくんだ。
(俺は―)
無力だ。
誰かを見捨てて逃げるしか出来ない人間が、誰かを護ろうなんて思い上がりもいい
ところかもしれない。それでも。
「俺は―」
視界が開け、集落が近づいてくる。もう何度も通ったその道を、ほとんど感覚だけ
で走り抜け、鳥谷は一見の民家を目指した。
質素な門構えの一軒家が近づいてくる。
『矢野さんのこと、頼むぞ』
『お前が死んだらあの人はどうなるんだ!』
彼は―矢野輝弘は―あそこにいるだろうか。
148:174(12/13)
07/01/27 23:42:55 E5f1KWJy0
「俺は―っ!」
バタン!
蹴破りそうな勢いでドアを開け、締める。
土足のまま家に上がり、ある部屋のドアを開く。
「ハァ、ハァ……ッ」
「鳥谷……?」
息を切らし、飛び込んできた後輩に、矢野が驚いたように呼びかけた。
布団の中で身を起こし、目を見開いてこちらを見つめてくる先輩に、安堵と共に
疲労が押し寄せ、鳥谷はその場にへたり込んだ。
「起きてた……んですか……」
「いや、今起きたとこ。どっか行ってた?」
あっけらかんと言う矢野に影はない。
彼は葛城育郎がここにいたという事実すら知らないのだ。ならば、自分が眠って
いる間に起こった惨劇に、いたずらに心を波立たせる必要はない。
彼は多分、何も知らずにいた己の無力さを責め立てるだろうから。
(言わないと……)
それとは別に、伝えなければいけない言葉があると思った。
「矢野さん……ありがとうございます」
いざ伝えようと思ったとき、伝える相手がいなくなっている状況はもう嫌だ。
「……ここにちゃんといてくれて」
「……俺、寝てただけやし」
床に膝をついたまま、そんなことを言ってくる鳥谷に、矢野が困ったように笑った。
「なぁ、何があったん?」
気がつくと、布団から這い出した矢野が目の前にいた。目線を合わせてしゃがみ
込み、泣き出した子供の相手でもするような声音で聞いてくる。
149:174(13/13)
07/01/27 23:43:27 E5f1KWJy0
「何もないです」
「そんな泣きそうな顔で普通ぶられても、俺には何も分からん」
「…………」
「俺は超能力者じゃないからお前が黙ってても何考えてるんか分からんし」
「…………」
「お前も超能力者じゃないから、誰にも言わずに全部、何でもかんでも解決できる
わけちゃうやろ」
「…………」
なぜバレたのだろう、と考えるのも無駄なことだ。矢野輝弘がそういう男だという
だけだ。
こういう力強い言葉を、相手が望んでいる時に自然と口にしてしまうのが、彼が
精神的支柱と言われる所以の一つかもしれない。彼相手に、隠し通そうとした自分
の甘さを痛感する。
ポーカーフェイスは得意だったはずだが、こんな時に使えないなら何の役にも
立たない。
喉の奥から込み上げてくる熱を飲み込み、鳥谷は拳を握りしめた。
(強くなりたい)
もう少しでいいから強くなりたい。
こんなところで泣き崩れ、先輩に縋るような弱い人間ではいたくない。
「俺は役に立てへん先輩やけど」
すっと、差し出された右手。
「泣きそうな後輩の話を聞いてやるくらい出来るから」
差し伸べられた手に触れた瞬間、鳥谷は声を上げて泣いた。
【残り34人】
150:代打名無し@実況は実況板で
07/01/27 23:51:57 DgoalUnt0
新作キテター
職人さまおつです
。・゚・(ノД`)・゚・。
。・゚・(ノД`)・゚・。
。・゚・(ノД`)・゚・。
151:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 00:02:31 l9wBdY+S0
ぬおおおおおお!泣いたあああああ
152:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 00:10:01 94wgRL5F0
職人さん乙です
イクローの男らしさと矢野の優しさに泣いた。。゜(゚´Д`゚)゜。ウァァァン
153:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 00:15:43 044W9YgT0
。゚(゚´Д`゚)゜。ウァァァン
おいらもマジ泣きしたよ!
ずっと言いそびれて、やっと口に出来た「ありがとう」の一言が、すごく重いよ!
葛城、伊代野、天国行きの勝訴もぎ取れよ!
職人さんGJGJGJ!乙!
154:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 01:12:50 THDlwEXe0
泣く…もう泣く……!!!・゚・(ノД`)・゚・
悲しいんだけど…最後の葛城と矢野に救われた…・゚・(ノД`)・゚・
職人さんありがとう…!!
155:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 01:44:31 mPw2OO6KO
職人さん乙です!
ああ駄目だ、リアル葛城のことあんまよく知らんのに… .゚。(ノД`)゚。
かっこよすぎだろ葛城ー!!
156:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 06:26:29 aFc/f6JZ0
あぁぁぁ・・・。矢野さんがやさしくて、もう!!!
157:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 09:08:14 SMAwsU8DO
すごいのキター!乙です!
葛城の最期も鳥谷と矢野のラストもすごい好きなんだが
あえて葛城と伊代野の会話が深いと言ってみる
鳥谷は、泣ける場所があるってのは実は幸せなことなんじゃないかと思った
とにかくありがとう
158:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 12:42:38 ToqtCzN20
うおお新作キテタ━━(゚∀゚)━━!!
なんというかもう……職人さん…乙です…!・゜・(PД`q。)・゜・
全てが切ないけど、最後のくだりがやさしいなぁ。好きだー。。
159:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 13:25:40 ZUwKfiRJ0
虎バトは心理描写、心の機微を書くのが絶妙
鳥谷や金本のような強そうな人の弱い部分や、矢野のような弱そうな人の強い部分に唸らされた
160:代打名無し@実況は実況板で
07/01/28 14:43:23 /mOf4PXW0
>>159
禿しく同意
もう悲しくて泣いたらいいのか
感動で泣いたらいいのかが解らん・・・泣いた・・・
アドゥー以来にめっちゃ泣いた・・・
本当に乙です。
これ誰か本に汁
161:代打名無し@実況は実況板で
07/01/29 00:19:22 rGMP2Yup0
本にしたいなぁ…
買い手も沢山つくだろうしなにより手もとに置いておきたい
162:代打名無し@実況は実況板で
07/01/29 00:55:19 gzK2/1Ma0
本いいよねえ
でも実際問題は同人誌になっちゃうんだろうけど…
誰かこっそりでもしてくれないかなあ
163:代打名無し@実況は実況板で
07/01/29 19:14:51 2w1bN+d20
データはいつか消えるからなぁ。
物にして残しておきたい。
同人誌にしたらどんだけ金とページがかさばるんだ・・・orz
164:代打名無し@実況は実況板で
07/01/30 21:01:20 UPQJJ9Xu0
保守しときます
165:代打名無し@実況は実況板で
07/01/31 12:03:50 bjEcZEEKO
今日初めて読みました。
リアル葛城&鳥谷ファンとしては感動物でした。
リアルでは影が薄いが、ここの葛城はかっこよかった。
職人さん、これからも頑張ってください。
あと、この話が最初から読める場所ってありますか?
166:代打名無し@実況は実況板で
07/01/31 13:02:22 Yh7vCp4U0
>>165
>>2の保管庫に行くといいよ
167:代打名無し@実況は実況板で
07/01/31 13:03:06 Yh7vCp4U0
ごめん、>>3だった
168:代打名無し@実況は実況板で
07/01/31 13:12:15 xDmkQcnx0
正捕手
169:代打名無し@実況は実況板で
07/01/31 13:43:50 bjEcZEEKO
>>166,>>167
ありがとう。早速読んでみるよ
170:代打名無し@実況は実況板で
07/02/01 19:46:10 QJ59iUp90
(* ・x・)<捕手
171:代打名無し@実況は実況板で
07/02/02 00:08:32 6Q9M+alaO
( ミネヲ)<保守〜
172:代打名無し@実況は実況板で
07/02/02 20:58:15 E65YopjZ0
ほしゅ
173:代打名無し@実況は実況板で
07/02/03 16:10:46 A2LAxkLgO
ほすほす
174:代打名無し@実況は実況板で
07/02/04 14:26:44 48d3G17o0
保守〜〜
175:代打名無し@実況は実況板で
07/02/05 00:06:00 jUJkVuXsO
峰夫恋しやホ〜ヤレホ〜守♪
176:代打名無し@実況は実況板で
07/02/05 21:41:02 4T+SpuXP0
あーみん?保守
177:924(1/6)
07/02/05 23:09:04 IE3K5sjq0
>>149より
144.処置なし
手前の民家や建物に隠れて見づらいが、数百メートルほど向こうの森の
あたりがうっすらと明るく、煙が立ち昇っている。それを除けば暗い風景の中で
うごめくものは何一つない。だが、自分たち以外に生き残っている34人が
確かにどこかに潜んでいる。皆、何を思い、どのように過ごしているのか―。
そんなことを考え、中谷仁(背番号66)は窓のそばを離れられなかった。
「中谷、どうしたんや? 寝えへんのか?」
藤原通(背番号2)が声をかけてきた。
突然響き渡った謎の轟音。小宮山慎二(背番号60)の提案で二階に上がり、
音がした方向の窓を開けてみると、遠くで火事が起こっていると確認できた。
おそらく、あの音は何かが爆発したせいだろう。気にはなるが、わざわざ
確かめに行くのも危険だ。結局、今夜はこのまま寝ようということになった。
「いや、外見てたら、みんなが今どうしてるんか気になってな。……とか、どこで
何してるんやろなあ」
さり気なく中谷は「彼」の名を出してみた。藤原が敵とみなす一軍の中でも特に
重要なポジションを占める男だが、同時に気のおけない同級生でもある。
小宮山の告白どおり藤原が果たしてそこまで異常な思考に陥っているのか、
これである程度つかめるはずだ。いかに一軍の選手を信用できない状態でも
「彼」をも敵視するとは考えにくい。
「井川?」
中谷の予想に反して、藤原の声はとがめるような調子を含んでいた。
「お前、井川のことなんか気にしてんのかよ?」
まさかそこまでは、と思いつつも中谷はそ知らぬ風で続けた。
「そら、まあ同い年やし、入団以来の間柄やし」
「やめとけ。心配するだけ損や」
今度はおそろしく冷ややかな声だった。
(こいつは……)
178:924(2/6)
07/02/05 23:10:28 IE3K5sjq0
「なんでや?」
中谷は徐々に強くなる動揺を抑え、尋ねた。
「あいつは一軍の人間や。それも主力中の主力、エース様や。俺らのこと
なんか、どうでもいいに決まってるやろ」
藤原は吐き捨てるように言った。中谷は自分の見通しが甘かったと思い
知らされた。予想以上に重症だ。この考えを改めさせることはできないのか?
「お前さあ、寝る前にもそんなこと言ってたけど、なんでも一軍の人間で
ひとくくりにしてしまうのは、ちょっと乱暴と違うか? 井川かて、あいつの
性格はお前もよく知ってるやろ? あんないいやつは、そうおらん」
反論を試みると、藤原の顔がふっと曇った。
「普段はいいやつでも……人間こんなことになると人が変わってしまうもんや。
悲しいけどな」
(俺はお前がこんなになってしもたのが悲しいわ)
中谷は心の中で嘆いたが、気を取り直して言い返した。
「一軍のみんながみんな、そうとは限らんやろ」
「お前は人がよすぎるんや。信用できんやつは、信じたらあかんのや」
「そしたら……お前はこの先もし一軍の誰かに会ったら、どうするんや?」
一番気にかかっていた問いを発してみる。
「そんなん、決まってるやろ。やるしかない」
「やるって?」
「殺す」
間髪をいれず当たり前のように返ってきた短い言葉。きっぱりと言い切る
藤原の「信念」に中谷は思わずたじろいだ。だが、引くわけにはいかない。
「……向こうにそんな気がなかったとしても、か?」
「ないわけないやろ。あいつらは絶対にこっちのことなんか見くだしてる。
会ったら殺そうとするに決まってる」
「けど、久保田かて具体的にお前らに何かしようとしたわけやないんやろ?」
「何かされてからでは遅いんや。やられる前にやらなあかん」
「それはそうやけど、一軍全員が敵ってのはいくらなんでもメチャクチャや。
一軍の人かて、お前が言うみたいな人ばっかりやないって」
179:924(3/6)
07/02/05 23:12:18 IE3K5sjq0
「中谷……。お前、なんでそんなにあいつらの肩持つんや?」
藤原は恨めしそうな目を向けてきた。中谷は困惑した。
(なに? 今度はそう来るんかよ?)
「いや、あのな。肩持つとか、そういう問題やなくて……」
「お前はあいつらの味方なんか? てことは、ほんまは俺らの敵なんか?」
やれやれ、と中谷はため息をつき、大きく首を振った。
「ちーがーう。俺はただ、殺し合いなんかまっぴらごめんなだけや。お前が誰か
殺すとこなんか、見たくないんや」
「俺かて、ごめんや。けど、この島にはそんな理屈なんか通用せんような、殺す
気満々になってるやつがいっぱいいるんや。もう二十何人も死んでるんやぞ?
やらなあかん時は、こっちかてやるしかない。お前や小宮山には無理かも
しれんけど、俺にはできる。そやから、俺がやる。この三人の中やと、俺しか
お前らを守れへんのやから」
一転、何かの使命感に取りつかれたかのように真摯な表情で語る藤原に
対し、中谷は複雑な思いを抱かざるを得なかった。
「うん、その気持ちは俺もホンマありがたいと思ってる」
彼に悪意はなく、むしろ純粋だ。だからこそ―手に負えない。
「ありがたいんやけど、誰かれの見境なしに殺すのだけはやめてほしいんや」
「見境なし?」
藤原は心外そうにじろりと中谷をにらんだ。
「なんか、まるで俺が殺人鬼みたいやんけ。俺がやるのは、敵だけや」
まずい、と思いつつ中谷は急いで次の言葉を探した。
「いや……そやから、その敵っていうのがな? お前の言う敵の定義ってのが
ほんまに正しいんか、もう一度考えてみた方がいいって言ってるんや」
なるべく藤原を刺激しないよう穏やかに言ったが、相手は聞こうとはしない。
「俺はよーく考えた。考えたからこそ、分かったんや。人間ってのは所詮、
自分と関係ないやつ自分と違うやつにはとことん薄情なもんや。そしたら、
俺らにとって誰が敵で誰が味方なんかは自然に答えが出るやろ? お前は
秀太さんに襲われかけたくせに、なんで分からん?」
180:924(4/6)
07/02/05 23:14:23 IE3K5sjq0
「そうや、俺は確かに秀太さんに庄田を殺された。けど、そのことを一軍の人
全員に当てはめるのは危険やと思てる。結局は、人それぞれや。一軍の中に
かて信用できる人はいるはずや」
「お前はほんま分かってへん!」
突然、藤原が声を荒げた。
「俺らは今、殺し合いの戦場にいるんやぞ? そうやって信用したらあかん
相手を信用することが、いちばん危険なんや」
ああ言えばこう言う相手に藤原はいら立っている。それは中谷とて同じだった。
「危険や危険や言うわりにはお前、俺のことはえらい簡単に信じたよな。
それはええんか?」
「当たり前やろ。お前は俺と同じ仲間やねんから」
一軍の人間、即ち自分と違う立場の人間は信用できないと言い張る藤原の
論理は、裏を返せば同じ立場の人間なら信用できるということだ。
だが、そこには大きな落とし穴がある。
「あのなあ、それこそ危険やぞ? 一軍やから信用できんとは限らんのと
同じで、二軍の人間やから信用できるってもんでもないしな」
「じゃあ、お前のことを信じるなって言うんか?」
またもや思いがけない問いをぶつけられ、中谷は言葉に詰まった。
「いや、そうやなくて……」
「結局、そういうことやないか」
「違うんや。……あー、なんかもう、わけ分からんようになってきた!」
中谷は大げさに両手で自分の頭を抱えた。なぜ、こうも極端なのか。
「俺かて、わけ分からん……」
少しの沈黙の後、しぼり出すように藤原がつぶやいた。
(―え?)
思わず顔を上げた。藤原の声があまりにも悲痛な響きを伴っていたのだ。
「なんで、お前にこんなこと言われんとあかんのか……分からん」
今にも泣き出しそうな声だった。いや、藤原はすでに―泣いていた。
「俺はお前のこと信じてるのに……お前はそうやないってことか……」
181:924(5/6)
07/02/05 23:18:40 IE3K5sjq0
「いや、藤原。俺はな……」
藤原の急変に面食らいつつも何か言おうとした時、横から声が飛んできた。
「あの……どうしたんですか?」
ハッとすると、小宮山が心配そうな顔で部屋の入り口に立っていた。
「こみ……やまあっ……」
藤原はぼろぼろと涙を流しながら彼に駆け寄った。
「藤原さん?」
驚く小宮山に対し、まるで悪さをされた子どもが先生か親に言いつけるように
藤原は訴えた。
「中谷が……俺のこと、信じられんって……。なんで、そうなるんや……」
小宮山はしばらく黙って聞いてやっていたが、やがておずおずと中谷に視線を
向けてきた。彼の表情も戸惑っており、藤原の話を鵜呑みにしている風では
ない。中谷は一つ嘆息し、気持ちを切り替えた。
「違うって。そんなわけないやろ? ……俺はお前のこと、信じてるって」
これは嘘ではない。自分を仲間だと思ってくれる藤原の気持ちは信じている。
だが、中谷は少し後ろめたい気持ちだった。
「……ほんまに?」
「ほんまやって。さっきはいろいろ言ったけどな」
その気持ちは信じている。信じたい。けれど―。
「それやったら……いいんやけど」
藤原はゆっくり何度もうなずくと、涙をぬぐった。
中谷は二人と共に一階の部屋に戻り、もとのように床についた。
だが、小宮山の衝撃的な告白に加えて藤原との言い争いで血が昇った頭は
完全にさえ切っており、これまでにもまして眠れそうになかった。
藤原がこんな風に壊れてしまったことが悲しく、悔しく、腹立たしく、同時に
恐ろしくもあった。いいやつだったのに。せっかく、仲間になれたのに。
(なんで、こうなるんや……)
突き詰めて考えていけば、彼をこうまで狂わせてしまった原因は一にかかって
このゲームにある。その意味では、藤原は哀れな被害者だ。
(それはそうなんやけど……でも―)
182:924(6/6)
07/02/05 23:22:17 IE3K5sjq0
真に怒りを向けるべき相手は他にいる。それはよく分かっている。だが、その
点を酌んで藤原を心から思いやってやれるほど自分はできた人間ではない。
元凶がなんであれ、相手が危険な存在であることに変わりはないのだから。
さしあたって考えねばならないのは、彼とこのまま行動を共にして良いかと
いうことだ。常軌を逸した思い込みに支配されてすでに殺人を犯し、この先も
犠牲者を増やしかねない男と―。
もう一つ気になるのは、猫の目のようにくるくると変わる彼の不安定な感情と
態度だった。それも、こちらが思いもよらないような変化を見せる。へたに
刺激すると何をされるか予測すらつかない不気味さと、得体の知れない
そら恐ろしさがある。
(逃げた方が……いいんと違うか?)
藤原から離れるという選択肢が頭をよぎった時、ふと隣で頭まで深々と布団を
かぶって横になっている小宮山のことが気になった。爆発音にさえぎられて
聞きそびれたが、彼は何を思って藤原と行動を共にしているのか。
パートナーを眼の前で殺害した男が自分に対しては好意と信頼を寄せてくる。
一緒に命を奪われないだけましとはいえ、実に気味が悪い話だ。中谷自身も
秀太に庄田を殺されたが、もしあのとき秀太が同じように接してきたとしたら、
受け入れられるわけがない。相手との武器の差や拒絶した時のリスクを
考えてひとまずおとなしく従うとしても、隙があれば絶対に逃げ出すだろう。
小宮山が藤原の異常さを恐れていることは間違いない。ならば、逃げる
チャンスがなかったのか、それとも恐怖で逃げるに逃げられないのか?
(もしそうやったら、小宮山も一緒に連れて逃げた方が……)
その時、奥の藤原が大きく一つくしゃみをした。自分の考えを読み取られて
いるような気がして、中谷はぎくりとした。
藤原は鼻をすすり、ごそごそと身体の向きを変えた。今度は、彼もすぐには
寝付けないようだ。
【残り34人】
183:代打名無し@実況は実況板で
07/02/06 00:32:18 R43pylTdO
乙です!
中谷がどう反応するかと思ったら、直談判とは。勇気あるな中谷……!
でも、その真っ直ぐさが今は心配でたまらない……
ところで一つ気になった箇所を。
>>177
>自分たち以外に生き残っている34人が 確かにどこかに潜んでいる。
とある部分は、中谷たち3人を除いた「31人」になるのではないでしょうか?
184:924
07/02/06 01:01:53 PX8j1V+r0
>>183
ご指摘をありがとうございます。
中谷は喜田・葛城・伊代野の死を知らないため
最新の放送時点での生存者37人から3人引いて34人としましたが、
考えてみればその後に死者が出ているかもしれないのに
「確かに」と言い切るのはやはりおかしいので、
>>177の3行目以下は次のように修正いたします。
うごめくものは何一つない。だが、自分たち以外に生き残っている34人が
確かにどこかに潜んでいる。皆、何を思い、どのように過ごしているのか―。
↓
うごめくものは何一つない。だが、放送後に新たな死者が出ていなければ、
自分たち以外に34人がどこかに潜んでいることになる。
皆、何を思い、どのように過ごしているのか―。
185:代打名無し@実況は実況板で
07/02/06 13:31:59 EQehnGpq0
新作投下乙です!
中谷の歯痒さも解るが藤原の歯痒さも解る・・・
ううう(´Д`;)
186:代打名無し@実況は実況板で
07/02/07 01:06:27 vtEa6NQA0
ほ
187:代打名無し@実況は実況板で
07/02/07 01:35:59 McxbarHvO
うわぉ!スリリング藤原キター!
中谷とのやりとりに冷汗出ました。
188:代打名無し@実況は実況板で
07/02/08 00:12:04 wjSOzrqv0
新作乙です!
藤原がいつスイッチ入るかとヒヤヒヤしながら読んだよ・・・
うあーもー藤原こえーー
189:代打名無し@実況は実況板で
07/02/09 00:20:43 SvR/zX7BO
ほしゅ
190:代打名無し@実況は実況板で
07/02/09 18:52:02 +O5tMgISO
ほすほす
191:代打名無し@実況は実況板で
07/02/10 11:06:54 Yp0BelTI0
ほしゅです
192:代打名無し@実況は実況板で
07/02/10 20:21:11 hR1uzHPmO
7番キャッチャー矢野
193:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 00:12:40 5PmK6SAe0
今岡に代わりまして〜代走浅井〜〜。
194:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 18:07:37 sgVQWsPl0
保管サイトで127まで読んで来ました。
桧山矢野鳥谷関連に泣けました。
195:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 19:24:35 QTwXoapDO
下柳も泣けた。
196:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 20:16:41 EgQsRdly0
俺は安藤吉野に泣けた。
そういえば吉野ってどうなってんだろう・・・
197:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 21:32:49 UfO+uh9R0
>>194
128以降は>>3の暫定板で読めるよ
吉野といえば片岡に死体と思われて助かったんだけど
放送でまだ生きていると分かったはずだから
片岡がどうするのかすげー気になる
198:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 22:08:33 CyX6q6P60
藪と井川でも泣ける
ゴレンジャーは、序盤はほのぼのする
199:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 22:47:38 sgVQWsPl0
>>197
194です。ありがとう、読んで来ました。
桧山派なので、なんでしryとか思うんですけど、あまりの美しさに許す、みたいな。
だから桧山関係(矢野鳥谷今岡)を主に読み飛ばしたのですが、今日改めて全部読みました。
おかげで頭が痛いw
関本も良いですよね、「やっぱ速い------!!」で、笑っちゃったんだけど
そこ笑う所じゃないかw
200:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 22:53:05 4FeExMlh0
安藤吉野は泣いた。
普通に売られてる下手に泣かせようとする病気ネタ小説とか比べ物にならんくらい泣いた。
関本は和む(・ω・)ノ
201:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 22:59:45 aTMZvOpY0
「ちくしょー!」って言いながら走って逃げるようなバカ熱いタイプには癒されます
202:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 23:26:18 nUlXxulyO
新作が来たのかと思っちゃったくらいスレ進んでるw
ここを読むようになってから、若手選手を(多少なりとも長い目でw)応援するようになったなあ…
感慨深い。
203:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 23:28:14 sgVQWsPl0
いいよね、セッキー。
やっぱりねえ・・・おはぎ入水の章が効いてると思うんですよ。
どんだけ笑う所が出ても、彼はおはぎの心を抱いて生き延びて二岡に会わにゃぁ・・・
というわけで、頑張ってくれよセッキー
204:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 23:53:34 fYcZEJ390
自分も安藤吉野は泣けた
吉野早く目を覚ませ!と思ってたw
桧山は退場したけどおいしい役だと思った。密かに影響度高いし
関本はワロタ
205:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 23:53:54 l/DXt24p0
桜井vs喜田の殺伐とした会話が大好きだ
206:代打名無し@実況は実況板で
07/02/11 23:56:34 aTMZvOpY0
しおらしい桜井いいよねw
207:代打名無し@実況は実況板で
07/02/12 00:06:29 sgVQWsPl0
もう、あまりにも面白くて
読みやすいように自分で登場人物付きインデックス作ってます。
208:代打名無し@実況は実況板で
07/02/12 15:59:08 tYRk59no0
ゴレンジャーと関本は少年漫画みたいな雰囲気があって燃える
209:代打名無し@実況は実況板で
07/02/13 05:14:25 IOFC5nyZ0
泣きながら保守
210:代打名無し@実況は実況板で
07/02/13 15:29:55 d3Yji3PG0
[`ー」ー]ほしゅ。
211:代打名無し@実況は実況板で
07/02/13 21:12:28 hsa5rCx80
小宮山ほしゅ
212:代打名無し@実況は実況板で
07/02/13 23:28:56 CZhKUCMTO
補習
213:代打名無し@実況は実況板で
07/02/14 00:01:10 xz6DWzDI0
214:代打名無し@実況は実況板で
07/02/14 00:26:13 /jpmJEZn0
金本さんの動きは出て来たけど、矢野、今岡はどう動くのかなあとか
215:代打名無し@実況は実況板で
07/02/14 09:43:26 oQE3ca5n0
…で、ポスト井川はどうなった?
216:代打名無し@実況は実況板で
07/02/14 20:24:09 2SN2xp+r0
桧山さんにはなかされっ放しでした。
今後のキーパーソンじゃないでしょうか?
今岡さんにとっても鳥谷さんにとっても。
217:代打名無し@実況は実況板で
07/02/15 16:27:27 kbg+XUhz0
ほしゅ
218:代打名無し@実況は実況板で
07/02/15 20:50:57 fGpAj4Dz0
矢野にとっての桧山はどうだったのかなと
鳥谷を一人にしてる間に二人は何か話したのかな?とか
矢野への関わりは既にやや遅い感もあるのでEXでもいいけど
今岡は宿題があるからきっと(桧山が)出ると信じてる分、早く出してー、と
219:代打名無し@実況は実況板で
07/02/17 00:53:36 WnQgGxaJ0
保守
220:代打名無し@実況は実況板で
07/02/17 15:49:20 Y1R/L42q0
1番・中・赤星
2番・二・今岡
3番・三・シーツ
4番・左・金本
5番・右・濱中
6番・遊・鳥谷
7番・一・林
8番・捕・矢野
控え・桧山、藤本、関本、桜井、赤松、野口
先発・福原、能見、下柳、久保田、安藤
中継・橋本、杉山、江草、ジャン、小嶋
抑え・藤川、ウィリアムス
221:代打名無し@実況は実況板で
07/02/17 16:10:07 Y1R/L42q0
2年後
1番・中・赤星
2番・三・喜田
3番・二・今岡
4番・右・林
5番・左・濱中
6番・遊・鳥谷
7番・一・桜井
8番・捕・浅井
控え・金本、矢野、桧山、藤本、関本、赤松
先発・藤川、能見、ジャン、久保田、ボーグルソン
中継・福原、橋本、下柳、江草、小嶋、安藤、杉山
抑え・ウィリアムス
222:代打名無し@実況は実況板で
07/02/17 19:29:13 AusZ6RN2O
>>221
まだ桧山辞めてないのかよww
223:代打名無し@実況は実況板で
07/02/17 19:37:00 NstWt22f0
88 :代打名無し@実況は実況板で :2007/02/16(金) 23:47:44 ID:Aym1i9KK0
名物名所がない名古屋にノリブランドの誕生だぎゃ〜!
89 :代打名無し@実況は実況板で :2007/02/17(土) 08:12:28 ID:pdLsdGUX0
日本の大都市で「中村区」があるのは名古屋だけ。
のりにはちょうどいいかも。
224:代打名無し@実況は実況板で
07/02/18 10:50:24 ttapO0Xh0
捕手
225:代打名無し@実況は実況板で
07/02/18 20:17:52 UfWjcmgs0
岡田監督が“サバイバル”決行明言
URLリンク(www.daily.co.jp)
約束どおり、サバイバルでいくで
226:代打名無し@実況は実況板で
07/02/18 20:27:23 fgV1YbxS0
狩野捕手
227:代打名無し@実況は実況板で
07/02/19 00:35:59 ViDW2YPBO
ジェフはどうなってしまうんだろう…。
228:代打名無し@実況は実況板で
07/02/19 23:30:27 ojr0YnPaO
保管庫がもう半年以上更新されてないな
229:代打名無し@実況は実況板で
07/02/19 23:45:07 74gyIfNS0
>>228
だね
一応全話読めるようにはなってるけど、初めて読む人とかわかりづらくないかな?
230:924(1/5)
07/02/20 23:21:27 QLuZ9j4e0
>>182より
145.それぞれの道
「なに!?」
金本が藤本に渡しかけたサブマシンガンをひったくった。
「まっすぐこっちに来ます! 一人です」
赤星は探知機を皆に見せた。スピードは遅いが、光が一つ確実にこちらへ
向かってきている。
「とりあえず、そっちに移動じゃ」
全員、金本がSMGで指し示した木々の陰に急いだ。
ほどなくして、濡れそぼった落ち葉をゆっくりと踏み分ける音が聞こえ始め、
次第に大きくなってきた。金本がSMGを胸元で構える。赤星は様子を
うかがおうとそうっと木の陰から顔を出した。その瞬間、近付きつつあった
人影が不意に崩れた。
「大丈夫か!?」
金本が一目散に飛び出して行った。三人が慌ててあとを追う。
「!? ―しっかりしてください!」
いちはやく相手を認識した金本の言葉づかいが急に変わった。地面に
うつぶせに倒れたその男は、二軍監督の木戸克彦(背番号70)だったのだ。
「木戸さん!?」
金本が抱き起こすと、木戸の右の鎖骨付近は血で真っ赤に染まっていた。
赤星は一瞬、思わず目をそむけた。
「……違う。俺は……敵やない」
木戸はうっすらと目を開けると、弱々しい声でつぶやいた。
「安心してください! 僕らも敵じゃありません」
藤本が声をかけたが、木戸の目はうつろで焦点が定まっていない。
「俺は……お前らを……」
そこで木戸の言葉は途切れた。同時にまぶたが閉じられ、彼はそれきり
動かなくなった。
231:924(2/5)
07/02/20 23:22:10 QLuZ9j4e0
「木戸さん!」
「しっかりしてください!!」
金本、藤本、的場が必死で声をかける中、赤星はおそるおそる探知機に目を
やった。画面中央に黄色い光が固まっている。その数は―。
「……大丈夫、です」
皆が一斉に赤星の方を見た。
「木戸さんは気を失っただけです。探知機の光は消えてませんから」
「ほうか……」
金本がホッとした声をもらしたが、藤本は安堵の色を浮かべかけた顔をすぐに
引き締めた。
「でも、このままじゃ……。アジトで手当てした方がよくないですか?」
「帰るのか? ユタカさんと秀太たちのことはどうするんだ?」
赤星が藤本に尋ねると、金本は眉間にしわを寄せてしばらく考えていたが、
やがて決心したように言った。
「……今夜のところは、しゃあない。木戸さんをほっとくわけにはいかんし、
一緒に連れて捜し回るわけにもいかん」
「でも……」
赤星が言いかけた時、横から的場が聞いてきた。
「あの茂みの二人はどうします?」
皆ハッとした。木戸の出現に気を取られ、誰もがすっかり忘れていたのだ。
赤星は素早く立ち上がった。
「見てきます!」
茂みの少し手前に来たところで探知機を確認したが、二つあるはずの光は
どちらも見当たらなかった。
(まさか―)
いやな予感がした。探知機の光が消える理由は二つしかない。茂みの
向こうにいた二人がその場を離れたか、生命の灯が消えたかだ。彼らが
推測したように重傷を負って動けなかったのだとすれば―。赤星は大急ぎで
茂みの裏側に回りこんだ。
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