オリックスバファロー ..
76:《OTHER SIDE・3 2/3》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:43:11 1b6FiKuM0
ネッピーはそのリプシーに背中を向けて座り、海に残る航跡をぼんやりと見ていた。
(パンツが見えるのが嫌ならさ、もっと長いスカート履くか、ライナみたいにズボン履け
ばいいじゃん)
風に揺れるミニスカートがリプシーには気になるらしい。
「お年頃だからね」
ネッピーの隣で、同じ方向を向いて座っている大島コーチが言った。
両手で小型無線装置を抱えている。小型だが、大島の体と比べると充分な大きさが感じら
れた。
「普段スタジアムでは平気でスカートヒラヒラさせてんのに……。ねえ、大島コーチまでなに
も一緒にここまで来なくても……」
「だって、連絡係がいないと不便だろ?」
ニコニコしながら答える。
「多分島だと携帯は使えなくなるからね、ヘッドセットタイプの無線ね。トランシーバー
みたいなもんだよ。ちゃんと防水加工されてるから。あと、食料はこれだけ買いこんであ
るからね。いざとなったら釣りでもして増やすけど」
77:《OTHER SIDE・3 3/3》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:44:20 1b6FiKuM0
リプシーは真っ直ぐ前を見つめていた。目の前に広がる海。
視線はただ一人の人物の面影を追っていた。
(始めて意識したのは、あの日)
中日との交流戦。
中日のマスコットであるドアラがリプシーの元へとやって来た。
リプシーはファンの子供達と、ネット越しにやりとりをしていた。
ふいに肩に柔らかい何かが乗った。
見ると、ドアラがリプシーの肩を抱いている。
ビックリしたのと同時に、その存在のインパクトに驚いた。
そしてドアラは、何食わぬ顔でリプシーの肩を抱く手に力をこめてきた。
(な、何この人……いえ、何このドアラ……)
戸惑ってしまった。リプシーは子供の構える携帯カメラにポーズをとりたいのに、ドアラ
が邪魔をする。心なしかドアラはドラゴンズ側へリプシーを引っ張って行こうとしている
ようにも思えた。
(ちょ、ちょっと痴漢……!)
その時だった。
「へえー、これが噂のドアラかー」
そう言って、あの人が現れた。さり気なくドアラの注意を引く。
「握手しよう、握手」
その人が両手を差し出すと、ドアラも両手を差し出した。リプシーの体が自由になる。
その人はさりげなくリプシーに「お逃げ」と合図を送った。
その時から、リプシーはその人に目を奪われるようになった。
(私をドアラのセクハラから助けてくれた……)
気のせいだったのかもしれない。単にあの人がドアラと遊びたくて、偶然だったのかもし
れない。
それでもいいのだ。
リプシーはそれ以来あの人を見つめ、あの人のさりげない部分をいくつも見出した。
今度はリプシーがあの人を救う番だ。
(必ず……必ずお助けします……どうかご無事で……)
78: ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:47:20 1b6FiKuM0
今回は以上です。
年末に向けてちょっと仕事が増えてきそうなので、投下量が少なくなるかもしれません。
出来るだけ週1回のペースで投下出来るよう頑張ります。
79:代打名無し@実況は実況板で
06/11/14 20:50:57 K6nbKr5D0
ちょwwwドアラwww
ペースなんて気にしなくても投下していただければそれで十分でございますハイ
80:代打名無し@実況は実況板で
06/11/14 23:01:05 Z7Ns8DL+0
職人さん乙です。無理はいけませんからお仕事がんばってくださいね
ってかドアラwww痴漢なのかよwww
81:名無しさん
06/11/15 01:03:48 kHI9LoSEO
また明日だな…
82:代打名無し@実況は実況板で
06/11/15 09:30:48 uVdpVo7lO
リプシーの想い人が気になる罠
83:代打名無し@実況は実況板で
06/11/15 10:20:11 J4ydDHF2O
ちょwwwドアラwww一番最悪www
84:代打名無し@実況は実況板で
06/11/15 13:00:52 NK4Ci6hmO
職人さん乙!超乙!
無理はなさらないでくださいね(´・ω・`)
一瞬ドアラがリプシーの想い人かと思ったwwwww
ファルルのペンダント……(´;ω;`)
85:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 02:18:41 59bUxzuqO
保守
86:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 12:34:49 Jzmzm04I0
ほしゅ
87:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 19:57:01 O+N+NKVN0
保守
88:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 20:06:05 6Uz0HJXr0
新スレ立ててから埋めろよ>本スレ
89:代打名無し@実況は実況板で
06/11/17 02:23:01 1OQFf+SeO
ほ
90:代打名無し@実況は実況板で
06/11/17 19:46:05 1OQFf+SeO
し
91:代打名無し@実況は実況板で
06/11/18 08:08:31 0fxSnAJ4O
ゅ
92:代打名無し@実況は実況板で
06/11/18 21:09:52 r8Hlk2/I0
保守
93:代打名無し@実況は実況板で
06/11/19 14:55:02 NS2/Vboy0
捕手
94:代打名無し@実況は実況板で
06/11/20 00:18:54 A+fLosnGO
ほしゅ
95:代打名無し@実況は実況板で
06/11/20 10:22:28 wGNC5C7hO
おはよう保守
96:代打名無し@実況は実況板で
06/11/20 22:58:34 Eg0gktt90
おやすみ保守
97:代打名無し@実況は実況板で
06/11/21 09:53:08 QHVMNgUHO
捕手
98:「85・希望死因・過労及び熱中症 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:11:27 0Ui6RH/f0
菊地原は空腹を感じていた。
鞄を失った。地図の無いことがどれだけ危険かは十分わかっている。簡単な島の地図は頭
の中に残っているが、細かいエリアの区切りなどはわからない。次に禁止エリアが増えた
時にはどうすればいいのか。
(あまり歩きまわるのもよくないんだがな)
歩かなければならない理由があった。仲間が欲しい。地図を持っている仲間が。喉も渇い
ている。どこかに水はないだろうか。市街地の方に行けばあるだろうか。炎天下にしばら
く倒れていたのがいけなかったのだろう。徐々に疲労も感じてきている。微かに腹部が痙
攣しているようだ。
体の酷使には慣れている方だが、今の状況は訳が違う。
ユニフォームのボタンをひとつちぎり取り、口に放り込んだ。こうすれば自然と唾が出る。
本で読んだ知識だが、少しは気休めにでもなるだろう。
6月とはいえ、昼間の陽差しは容赦ない。爆風で帽子も失った。汗が止まらない。
(熱中症が恐いな)
空腹で、水分も無い。最悪だ。
体力には自信のある方だ。でなければ連投が仕事の中継ぎなど出来ない。脅威の疲労回
復度を誇る菊地原だ。けれど。
(さすがにきついな。まだ2日目だってのに)
微かに眩暈がする。腹部や四肢の痙攣も確か熱中症の症状ではなかったか?
(これは水よりもまず塩分補給だな……塩とか梅干だ。いきなり水をガブガブ飲んだらヤ
バイって聞いたことあるぞ……)
これまでに貰ったファンレターのほとんどに、こう書かれていた。
『お体をお大事に』
『体に気をつけてがんばってください』
友人たちからも言われた。
『死なない程度に頑張れ』
笑いながら話したものだ。仲間内でも連投が菊地原のステータスになりつつあるようだ。
困った時の菊地原。
それがチーム内での存在意義だった。
99:「85・希望死因・過労及び熱中症 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:13:19 0Ui6RH/f0
無言のまま、土の上を歩く。サクサクと乾いた音がする。いい天気だ。
いい天気すぎる。日陰が見当たらない。あったとしても、自分の体をゆっくり休められる
ような場所ではない。
(歩いて行けば、どこかに日陰か水があるさ)
自分を励ましながら歩く。
昨夜はあまり眠れなかった。こんな状況に放り込まれてぐっすり眠れる方が変なのだ。な
のに一緒にいた萩原があっさり寝てしまった。物事を考えすぎる萩原が、あんなにあっさ
り眠ってしまうとは意外だった。それとも菊地原が緊張しすぎているのだろうか。
徐々に体が汗をかかなくなる。
(これってヤバイ状態だよな)
熱中症の一歩手前。すぐにでも日陰を見つけて休まなければ。口の中がカラカラだ。
(………畜生)
「菊?」
声がした。ずっと地面ばかり見ていた顔を上げる。目が霞む。視界が揺れている。
「菊、大丈夫か?」
心配そうな声が歩み寄って来る。菊地原の目の前が真っ暗になった。
「菊!」
崩れ落ちる菊地原の体を支えようとして腕を伸ばした的山は、巻き込まれるようにして一
緒に地面に倒れた。
「菊!しっかりしろ!」
水を取りだし、菊地原の口に当てる。少しは飲んでくれたが、十分とまでにはいかなかっ
たようだ。その体温の高さに驚く。菊地原の意識は朦朧としていた。
「菊!」
頬を叩く。菊地原はまともな反応を返さなかった。
100:「85・希望死因・過労及び熱中症 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:14:12 0Ui6RH/f0
「菊………」
心配そうな表情をしていた的山が、ニヤリと笑った。
「………お前が勝手に倒れたんだ」
そのまま菊地原の体を横たえる。
「熱中症、水分不足、過労……理由ならなんでも後からつけられる」
空を見上げる。まだ眩しい太陽がしっかりとその存在感を示している。腕時計を見る。ま
だあと2時間は太陽が照っていてくれるだろう。
「お前さんなら、過労で死んでもおかしくないよなあ。死因、過労及び熱中症」
立ち上がる。
「このまま静かに、眠ったみたいに死ぬ方が楽だろ?」
ふと菊地原のポケットの膨らみに気がついた。手を伸ばし、それを取り出す。
「手榴弾か……こいつはいいや」
見つけた1個だけを自分の鞄にしまって歩き出す。振り返らず。
「……別に俺は何もしてないからな」
何もしない、罪。
目を閉じたまま、菊地原は動かない。
【残り・32人】
101:「86・あの時… 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:15:49 0Ui6RH/f0
出発したその夜に川辺で川越に声をかけられて以来、坂口は誰とも会っていなかった。
どこかで声を聞いたような気もする。爆発音や破裂音を聞いたような気もする。けれど、
それが殺し合いの副産物だという確証はどこにも無かった。
坂口は何も見てはいない。森の中、小さな家の中にずっと篭っている。下手に出歩くのは
危険だ。自分から危険に飛び込んでいく必要はない。与えられた武器も、どことなく微妙
だ。まるでチーム内における自分の立ち位置のように。
毒薬を一体どう使えばいいのか。誰かに毒を飲ませるには、まずその誰かに近づかなけれ
ばならない。近づくにはここを出て歩かなければならない。そして何か食べ物に添えてこ
の毒を差し出すのだ。混ぜるか、かけるか、強引に飲ませるか。
偽りの仲間を作るべきだろうか。
(仲間……)
もし相手が銃を持っていたら、自分は相手に近づけるだろうか?坂口が毒を提供する前に、
自分の胸に風穴が開くかもしれない。
(………弱い武器だよな)
寂しい。不安だらけだ。誰を信じればいいのかわからない。
もうこんなことを繰り返し、数時間以上考えている。ずっと同じことばかり考え続けてい
る。簡単に答えが出るのならこんな苦労はしない。考えているうちに、時間だけがどんど
ん過ぎてゆく。
何ひとつ、建設的なものがない。
(こういう優柔不断なところが俺の駄目な点だよな。走塁とか、瞬間の判断が必要だって
のに、いつもスタートで躊躇っちゃうんだ。散々コーチにも言われてきたことなのに……)
コンコン。
ふいに音がした。一瞬それが音だと気づかず、どこから聞こえたかもわからず、空白の時
間があってから慌てて周囲を見回した。
窓ガラスを叩いた音だと気づき、驚いて立ち上がる。念の為、室内で見つけて手元に置い
ておいた火かき棒をしっかりと握った。少し距離を取って、窓を見た。
笑顔の本柳がかろうじて窓から顔を出している。きっと背伸びをしているのだろう。その
横には伏せ目がちの目まで見える人物。あの感じは恐らく川越だ。
本柳は坂口を見つけ、ホッとしたような嬉しそうな表情で手を振った。
102:「86・あの時… 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:17:01 0Ui6RH/f0
笑顔。見慣れた仲間の笑顔。親しげな笑顔。
あの笑顔のどこを疑えというのか。ましてや本柳と川越だ。チームで1、2を争うくらい
の「いい人」なのだ。疑うことなく無条件で信頼出来る2人がやって来たのだ。
坂口は急いで窓辺へと歩み寄った。仲間がいたのだ。ようやく独りではなくなるのだ。
昨夜、川越は仲間を信じろと言った。けれど坂口は信じなかった。川越に背を向けて逃げ
出した。それでも川越は「頑張れ!」と叫んでくれた。
そして今、自分はやっと川越と本柳を信じようとしている。
もっと早く信じればよかったのだ。そうすれば、こんな不安で寂しい時間を送ることもな
かった。
あの時川越を信じていれば、もっと違う展開になっていたはずなのに。
坂口の笑顔を見て、本柳も満面の笑顔になる。
(よかった!やっと……!)
そう思って窓を開けた瞬間、本柳が何かを取り出し、坂口の頭部に痛みが走った。
(え?!)
「あ、失敗」
本柳がライフルを構えていた。その先からは白い煙が上がっている。
痛みを感じる箇所に手をやった。ヌルリとした感触。驚いてその手を見る。血に濡れてい
た。
(え?!)
銃弾が頭部を掠ったのか。
「ミスった。も一度」
本柳がライフルを構え直す。
「う、うわ!」
坂口は慌てて家の奥に逃げようとした。途端にビシッという痛みが首に走った。痛みはそ
のまま首に巻きつき、ギリギリとした継続的なものに変わった。
「え?」
急に息苦しくなった。見ると窓から長いロープのようなものが伸び、坂口の首に巻きつい
ている。そのロープは川越によって絶え間無く引っ張られていた。
(な、なんだ?!)
声に出そうとしても出なかった。喉が締め上げられているのだ。
103:「86・あの時… 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:18:08 0Ui6RH/f0
逃げようとする。が、首に巻きついたそれに引っ張られて動けない。逃げようとすればす
るほど、自分の首を絞めることになる。かといって首を緩める為に窓辺へと歩み寄れば、
本柳の銃口が待っている。
(ひ………!!)
本柳が再びライフルを構える。標的になっているのは自分。本柳が顔をしかめて片目をつ
ぶり、照準を合わせる。
(本柳さん!!)
泣きそうな思いで叫んだ。声には出来ず、心の中で。
あの時、信じろと言った川越。
信じなかった自分。
そして、今信じようとした自分。
一体何が正しいのか。
坂口は混乱した。
しかし一向に本柳は引き金を引かない。呼吸の出来ない苦しさと、向けられた銃口への恐
怖が坂口の心を支配する。それ以外は何も考えられない。
(あ………ああ……あ………!)
静かだった。
ただ時折ロープの軋む音だけが小さく聞こえた。
やがて、ピクン、ピクンと坂口の頬が引きつった。カッと目を見開いたまま、その体が崩
れ落ちた。
静かだった。
「撃たなくてすんじゃったな」
安心した口調で呟きながら、本柳が窓を乗り越えて家の中に入ってくる。
入り口の方を見ると、予想通り中から鍵がかかり、バリケードが張られていた。
続いて川越が窓を乗り越えてくる。右手に畳んだ鞭を持って。
本柳は倒れている坂口を無視して、鞄を漁った。
「食べ物と飲み物、地図と……これかな?」
手にした小壜を見る。
「毒薬か……」
104:「86・あの時… 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:19:14 0Ui6RH/f0
本柳が小さくため息をつく。
「ちょっと難しい武器だな……」
川越の方を見た。右手に鞭を持ったまま、ボーッとしている。本柳は毒薬の小壜を川越に
渡した。
「持ってて下さい」
ぼんやりとした動きで川越はそれを受け取る。
「ん?」
本柳の視界に、鳥籠にしてはやや大きめの籠が見えた。一羽の鳥がいる。あまり家庭では
見かけないような、原色鮮やかな鳥。腹を空かせているのか、目を閉じ、じっと動かない。
歩み寄り、中を覗き込んだ。水と餌が入っているはずの桶は空になっている。
「………食うかな」
本柳は自分の鞄からペットボトルを出し、まずは桶の片方に水を注ぎ入れた。そしてもう
片方に、パンを小さくちぎって詰めた。そして詰めきれない分を少し、籠の端に置いた。
鳥はパチ、パチ、と二回瞬きをしてから、ようやく目を開けた。本柳は静かに籠の扉を閉
めた。
「安心していいぞ、誰もお前をいじめたりしないから。餌、食っていいんだぞ、腹減って
んだろ?」
鳥は早速水に飛びついた。そしてパンに。本柳は嬉しそうに笑った。
「よかった、やっぱり腹減ってたんだな」
夢中になっている小鳥を見つめ、改めて川越を見た。
「行きましょう。また援護お願いしますね」
本柳の表情は、小鳥を見つめている時と変わらない。無邪気な表情でライフルを抱え直す。
2人が再び窓から外へと出て行った。
あの時川越を信じていれば、もっと違う展開になっていたはずなのに。
【×坂口智隆 残り・32人】
105:「87・探り合い 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:20:35 0Ui6RH/f0
首輪探知機を手に、下山は市街地へと足を伸ばした。
移動しない時は電池がどれくらい持つかわからないので、大体30分置きくらいに電源を入
れる程度にしていた。掌サイズの黒い手帳のような形。取り扱い説明書は本体付属のポケ
ットにしまえるようになっている。何かとお手軽なコンパクトサイズ。
(ゲームでも出来たらいいんだけどな)
ゲームに夢中になって、誰かに背中から襲われては意味がないけれど。
今、その探知機はひとつの明かりを灯していた。下山はその明かり目指して歩く。遠くか
ら見て、敵ではないようなら声をかける。明らかに敵なら………
(逃げるよな、俺の場合。それが無難だって)
相手の持っている武器にもよるだろうが、それはまたその時に考えればいい。武器を持っ
ていても恐くない人間もいれば、武器を持たずともその存在自体が恐ろしい人間だってい
るのだ。
(誰とは言わないけどさ……)
はたして自分はどちらに属する人間なのだろう?
画面を見る。徐々に自分の首輪が、相手の首輪に近づいている。
そしてとうとう、相手の詳しい居場所を見つけた。
『Cafe Bs』
そんな看板のかかった店。建物の外からでもコーヒーのいい香りがする。
一瞬「罠」という言葉も思い浮かんだが、腹の虫が鳴った。コーヒーの香りには勝てなか
った。扉にかかっている中立地帯の説明をしっかりと読み直し、慎重にドアを開けた。
「いらっしゃーい」
カウンターの中から元気な声をかける相川に驚いた。そして、カウンターに座ってコーヒ
ーを飲んでいる迎がいた。ビックリした顔で下山を見ている。
下山は場を和ませるように、軽く手を上げた。迎も曖昧な返事を返した。そのままカウン
ターの端に腰を下ろす。念の為、少しの距離を取った位置に。
「何にしましょ?」
相川がメニューと砂時計を差し出す。
106:「87・探り合い 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:21:55 0Ui6RH/f0
「本格的なんだな」
「キチンとコーヒー専門店のマニュアルもらって来たんで」
「じゃあ、抹茶オレ」
「それコーヒーじゃないです」
「じゃあ……アイスカフェオレ」
「かしこまりました」
ペコリとお辞儀をして、相川が作業を始める。
「……シモさん」
恐る恐る迎が声をかけてきた。
「なんだ?」
「誰か、恐い人、いました?」
「いや、俺は会ってない。お前は?」
迎は両手でコーヒーカップを包むと、静かに呟いた。
「……死体、見ました」
「誰の」
「……近藤。地面に犯人の名前っていうか、手掛かり残して」
「………誰だ?」
「お待ちどう様ー」
相川が下山の前にアイスカフェオレを置いた。カランと氷が音を立てる。
「地面に残ってた文字からすると、吉井さんかユウキさんか歌さんです」
下山は少しだけガムシロップを入れ、一口飲んだ。
「俺、コボの敵、討ちたいです」
『近藤』ではなく、ニックネームで呼んだ。
「俺ら、ずっとサーパスで頑張ってきました。あいつの努力も見てるし、俺も負けないよ
うに頑張ってきました。だから、敵討ちたいです」
「敵は他にもたくさんいるかもしれないぞ」
「わかってます。だから、吉井さんかユウキさんか歌さんに会ったら……」
そこで言葉が止まった。再びドアが開いたからだ。
107:「87・探り合い 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:22:56 0Ui6RH/f0
「いらっしゃーい」
元気な声に迎えられたのは村松だった。ボウガンを肩にかけ、中を見回している。自然と
迎は身構えてしまった。
「……中立地帯、なんだよな?」
村松のいぶかしげな問いかけに、相川は元気よくうなずいた。
「はい!ここで戦い始めたら、すぐに首輪が爆発します」
「……そうか」
村松は迎と下山から離れた席に座った。すぐに村松に砂時計が与えられる。何を意味して
いるのか、ブランボーがサムアップして見せた。
「……なんで相川たちがここにいるんだ」
「まあいろいろありまして、お手伝いを」
「手伝いってのは俺達のか、それともオーナー側か」
一瞬、相川が返事に詰まる。そして、俯きがちの視線で答えた。
「………オーナー側です」
しかしすぐに顔を上げ、自信に満ちた声で答えた。
「正確にはサーパス側です!」
紛れも無い宣言。それが相川の本心だった。
「そうか」
それきり、村松は黙ってしまった。
「……コーヒー飲みますか?」
「……エスプレッソ。シナモンスティックはあるか?」
「はい。少々お待ち下さい」
「村松さん」
意を決したような口調で、迎が声をかけた。村松は無言のまま静かに迎を見つめた。
「吉井さんかユウキさんか歌さんに会いましたか?」
「いや。その3人がどうした?」
迎は自分が見たことを話し始めた。下山に説明した時よりも、もう少し詳しく。
相川はカウンターの奥の部屋に姿を消した。
【残り・32人】
108:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 05:37:30 OeUAJVbiO
ORIX
109:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 15:32:30 ZSVihz9O0
。・゚・(ノД`)・゚・。坂口いいいいいいいい
110:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 17:23:43 X/EzJn6gO
グッチが……グッチが………(´;ω;`)
111:「88・タナボタ 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/22 21:46:03 AVuGJqTq0
ぼんやりとしたまま、川越は緩やかな坂道を登っていた。歩く、というよりも、勝手に両
足が動いていた。前を歩いている人物に続いて、後ろを歩く。自分でものを考えていない
状態。白い靄のかかった記憶の中。
突然、鋭く甲高い声で鳥が一声鳴いた。
ハッとして、右手に握っていた小壜を落とした。
後ろから規則的に聞こえていた足音が止まったので、本柳が慌てて振り返った。
「どうしました?」
「あ……」
少しずつ、頭の中の靄が晴れて行く。
「敵ですか?!」
敵。
その一言がキーワード。再び川越の頭の中が白に侵食される。
「……いや」
「なら行きましょう。川越さん、前歩いて下さい」
即されて前へと進む。
あの時認識した解放の合図は、鋭く甲高い鳴き声。なかなかあの鳥は姿を現さない。
一方、地面に落ちた小壜は緩やかな坂を転がっていった。死の液体で満たされたそれは
コロコロと転がり、やがて丸太にコツンとぶつかった。
「ん?」
丸太に腰掛けていた筧がそれに手を伸ばす。そっと取り上げ、貼られてあるラベルを見る。
(毒薬?)
小首を傾げる。また奇妙な武器に出会ったものだ。
誰が落としたのだろう?何故ここに?
立ち上がる。
目の前で牧田が殺されてから、筧は歩き続けていた。一所に止まっていては、敵の格好の
標的になる。どこにどんな罠が仕掛けてあるかわからない。常に動いていなければ。
そんな脅迫観念に押され、筧は歩き続けていた。しばしこの丸太に腰掛けて休み、またそ
ろそろ出発しようとしていたところだった。
112:「88・タナボタ 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/22 21:46:48 AVuGJqTq0
疲労していた。仲間にも出会えず、ひとりぼっちのまま、あてもなく歩き続ける。
地図に載っている市街地。そこに向かえば食料や、何か使えそうな道具があるかもしれな
い。そう思って方向を定めて歩いた。
あの罠は突然だった。牧田の命を奪った事故。いわゆるトラップタイムのひとつだったの
だろうか?
(いや、オーナーは違うトラップの話をしてた……)
ということは、あれはオーナー側のトラップではない。違う敵の仕掛けた罠。
誰か……一緒にこの島に放り込まれた選手の仕掛けた罠。
牧田の死体をハッキリとは見なかった。その体は照明器具に押し潰され、隠された。筧は
無我夢中でそこから逃げ出した。そして次の放送の時、牧田の名前が読み上げられた。
(………ひとつ間違えば、あれは俺だった)
(俺は運が良かったんだ)
(そうだ、まだ俺にはツキがあるんだ)
(こうやって、簡単に新しい武器まで手に入った。神様は俺に味方してる)
歩き続け、市街地が見えてきた。やがてその店を見つけた。『Cafe Bs』。扉に貼ってある注
意書きを読み、どこかホッとしながら中に入った。
村松、下山、迎が一斉に筧を見つめる。筧もその視線に驚き、ドアノブを握ったまま足を
止めた。
「あ、あの……」
「中立地帯だそうだ。何もしないよ」
村松が声をかける。
「そ、そうですか」
中途半端に笑いながら筧は店内に入った。ドアを閉める。安心したせいで、バタン、と少
し乱暴に。
突然、相川がカウンター奥の部屋から飛び出して来た。
高らかな宣言と共に。
「トラップターイム!」
【残り・32人】
113: ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/22 21:47:40 AVuGJqTq0
昨夜、連投規制に引っかかってしまったので、残っていた分を投下させて頂きました。
ブランクが出来てすみません。
114:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 21:55:39 f71n9TZ60
新作乙です。お仕事がんばって下さいね。
心優しいはずなのに操られてやたらに殺しまくる羽目になった川越が不憫でたまらない・・・
本柳、何てことしてくれたんだよ・゚・(ノД`)・゚・
115:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 23:25:59 hHwUQsBj0
投下乙です。
飛び出してくる相川がなんか緊張感ないなあ・・・
116:代打名無し@実況は実況板で
06/11/23 17:51:00 ULU+tn4f0
乙です。
ここでトラップタイムとは、いったい何が始まるのだろうか!?
117:代打名無し@実況は実況板で
06/11/24 16:40:16 TiJgdXOI0
捕手
118:代打名無し@実況は実況板で
06/11/25 13:23:26 d1WWCDfr0
保守
119:代打名無し@実況は実況板で
06/11/25 23:43:13 P8eZCFgrO
ビリバトスレ復活したねホシュ
120:代打名無し@実況は実況板で
06/11/26 18:29:39 VUtmU1tL0
保守党
121:代打名無し@実況は実況板で
06/11/26 22:45:58 kxmi35ZHO
続きまだぁー(・∀・ )っ/凵 ⌒☆チンチン
122:代打名無し@実況は実況板で
06/11/27 00:05:59 MdRWXZq2O
(^亮^)<とらっぷたーいむ!!
123:代打名無し@実況は実況板で
06/11/27 17:02:13 kWSjL+OlO
>>122
そっちの相川じゃねえwwwwww
124:代打名無し@実況は実況板で
06/11/28 02:02:52 P8gTB6pnO
ホシュ
125:「89・ロシアンコーヒー 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:46:33 awMTKvDK0
全員の視線が相川に集まる。見つめるというレベルを越え、凝視していた。相川はそれを
気にしないようにしながら、4人に満遍なくぎこちない笑顔を振りまいた。そしてカウン
ターの上に丁寧に、4個のコーヒーカップを並べた。4個とも模様が違う。けれど大きさ
は同じ。相川の手が震えているせいか、小さくカチャカチャと音がした。
「村松さんご注文のエスプレッソを4つご用意しました。さ、みなさんどうぞこちらへ!」
何かを振り切るように、元気な声を出す。奇妙な雰囲気に下山と迎が顔を見合わせた。村
松も大きな目をキョトンとさせている。入り口に立ったままの筧は、ガルシアに即されて
中へと進んだ。そのままガルシアの巨体が出口を塞ぐ。
「さ、どうぞカップのある席にお座り下さい!」
相川がカウンター内から改めて4人を呼び寄せる。真っ先に筧がカップに歩み寄った。1
個1個、コーヒーの香りをしっかりと味わうように、必要以上に顔を近づけている。なに
もそこまで顔を寄せなくても、と迎は思った。筧はそれほどコーヒー通だったろうか?微
かな香りの違いや濃さにこだわるほどコーヒー好きだったろうか?確かに筧の様子は異常
なほどで、液体の薄さ、濃さの違いまで見ているようだ。まるで体でカップを隠すように
して念入りに調べている。1つのカップを選ぶと、ようやくその前の席に腰を下ろした。
「さ、村松さんも。ご注文のエスプレッソですよ。下山さんも迎も」
不審そうな顔つきで村松が席を立つ。残りの2人もカウンター中央に集まる。そしてそれ
ぞれが適当に選んだ席に座った。特別コーヒーにこだわりは無い。エスプレッソと言われ
ても、濃いコーヒーというぐらいしか知らない。目の前には申し分ない香りが立ち上るコ
ーヒー。カウンター越しの相川が姿勢を正した。
「では、ご説明致します。これからみなさんにこのコーヒーを飲んで頂きます。自信作の
エスプレッソです。エスプレッソの作り方は念入りに練習してきたんです。嫁さんもOK
出してくれました。とっても美味しいと思います。………でも」
内緒話をするように、そっと身を屈めた。
「でもこれは、ロシアンコーヒー」
明るい口調で語りたかったようだが、肝心の箇所で声が震えた。
126:「89・ロシアンコーヒー 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:47:59 awMTKvDK0
「ロシア製のコーヒーってわけじゃなくて、このうち3つは美味しい普通のコーヒー、た
だし、残りの1個だけ………毒が入ってます」
言葉の意味を理解し、4人の表情が凍りつく。
「このトラップは、この店に選手が4人揃ったらスタートだったんです。4人も同時に集
まらないと思っていたんですけど……やっとスタート!」
相川が高らかに宣言した。
「さ、どうぞお飲み下さい、冷めないうちにどうぞ」
カップに手を伸ばす者などいない。ただ緊張感に満ちた時間が流れた。
下山はチラリと出口の方を見た。仁王立ちしているガルシアを突破するのは無理なようだ。
深呼吸をする。事態はとんでもない方向へ行き着いてしまった。しかも最悪な状況。席を
選んだ時点で、飲むコーヒーは目の前のものに決まってしまっている。
生き残れる確率は4分の3。比較的高いとは言える。だが……
(なんだよ……なんでこんな………ここは中立地帯だろうが!)
誰も自発的に戦いなど起こしてはいないのに。
(なんでこんな時に、ここに来ちまったんだ!)
キレて暴れたくもなる状況。しかしそんなことをしては真っ先に自分が殺されるのだろう。
誰かの何かによって。下山の手は震えていた。チラリと横目で隣を見る。筧の腕の震えが
見てとれた。4人がコーヒーを飲んだ次の瞬間、誰かが死んでいるのだ。最後の言葉も残
せず。最後の思いも託せず。
拒否権の無い選択。知らぬ間に選ばされてしまった運命。
(どうして………)
そんな言葉しか浮かばない。冷静に何かを考えようとするのに、何も浮かばない自分がも
どかしい。
「さ、冷めないうちに、どうぞ」
同じように緊張している相川が告げた。まだ手元が震えているらしく、それを隠そうと手
を組んだり揉み手をしたり忙しそうだ。
思わせぶりにグラボースキーが机をコン、と叩いた。
127:「89・ロシアンコーヒー 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:49:11 awMTKvDK0
最初に手を伸ばしたのは村松だった。
「………」
しっかりした手つきで、目の前にあるコーヒーカップを手に取った。
「……俺が注文したんだしな。頂くよ」
誰とも目を合わせることなく、カップを口に運んだ。唇に液体が触れる。熱すぎず、ぬる
すぎず、すんなりと飲める熱さだった。村松は一気に飲み干した。
「さ、みなさんも」
相川が即す。その右手に銀色に光る鋭いものが、まるで3人を脅すように見えた。
下山、筧、迎も慌ててカップを手に取った。そして3人同時に一気にコーヒーを飲み干し
た。味などわからないまま。
カチャン、カチャンとソーサーにカップが戻される。
誰も何も喋らなかった。
静かな時間、誰かのほんの少しの変化も逃さないように。
重苦しい沈黙。時計の針の音まで聞こえていた。
相川はもしもの時の為に銀色のナイフを握っていた。その手に脂汗がにじんだ。自分の作
ったコーヒーに毒を入れた。どのカップに入れたかは、自分だけが知っている。自分によ
って、誰かが死ぬ。自分が今、誰かを殺すのだ。
目の前に並んでいる4人の顔も、緊張感に満ちている。カップを見つめている者、机のや
や遠くを見つめている者、じっと俯いている者、目を泳がせている者。
(は、早く決着ついてくれ……俺の方が耐えられないよ……)
そう思った時、グラリと1人の体が揺れた。
そのまま前に倒れ、机に突っ伏す。カップが倒れた。
誰も何も言わないまま、その体を見つめていた。
もう動かないその体を。
【×筧裕次郎 残り・31名】
128:「90・ダブルトラップ 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:50:27 awMTKvDK0
「……筧、でしたね」
相川が呟く。少し声が喉に引っ掛かり、水を飲んだ。緊張は隠せなかった。
「トラップタイムはこれで終わりです。あとはどうぞご自由に」
「ご自由にって言われても、この島からは出られないんだろ」
「ええ」
村松の問いに、やや冷静さを取り戻しながら答える。また水を飲んだ。量が足りなくて新
しい水を注ぎ足し、それをまた飲み干した。
大きく一回深呼吸をしてから、下山が立ち上がった。手を合わせ、目を閉じて筧の体をそ
っと拝み、村松を見た。
「村松さん、どうします?」
「………脱出する方法を考える」
「1人で?」
「1人は厳しい。仲間を探す」
村松も立ち上がる。やはり目を閉じ、動かない筧の体に黙礼した。
もう戸口にガルシアはいなかった。自由に出入りが出来る普通の時間に戻ったのだ。
今は少しでも筧の死体から離れたかった。下山も村松もカウンターから距離を取った。
「………俺は、信じられますか?」
いつもよりトーンの低い下山の真剣な問いかけに、村松は小さく笑った。
「信じたいな」
「じゃあ、共同戦線張りませんか?1人で考えるより、2人で考えた方が有利です。脅す
つもりじゃないけど……俺を仲間にした方が有利ですよ」
下山は小さな機械を取り出した。
「俺の支給品、これなんです」
「………なんだ?」
村松が屈み込むようにしてそれを見る。
「………首輪探知機」
右手で簡単な操作をした。
「自分のいる近くに首輪があれば、ランプが点滅するんです。カーナビみたいな感じです
かね」
129:「90・ダブルトラップ 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:51:21 awMTKvDK0
現在の場所には2つのランプが灯っていた。
「……2つ?」
この店の中で首輪をつけた人間は4人。筧が消えて、残りは3人のはずだ。
村松と下山は揃って迎の方を見た。まだ椅子に座ったままの姿勢でいる。
「迎?」
声をかける。その背中は微動だにしない。
「迎、もう大丈夫だ」
そっと歩み寄り、肩をポンと叩いた。途端に迎が口から血を吹き出した。
「ぎゃあっ!」
叫んで飛びのいたのは相川。迎の体も筧と同じように前のめりに倒れた。
「ど、どういうことだ?!」
下山が狼狽える。
「し、死ぬのは1人だって言っただろ?!」
問い詰めるように相川を見た。
「1人ですよ!俺は1個のカップにしか入れてない!」
必死な顔で相川が弁解する。
「お前まさか……っ!」
村松は一声叫ぶと同時にボウガンを相川へと向けた。
「迎のカップにまで毒を入れたのか!」
「1個だって言ってるでしょう!」
「そんな嘘誰が……!」
「嘘じゃありません!」
「じゃあなんで迎まで……!」
「まさか俺たちのカップにも……!」
ボウガンの狙いがしっかりと定められる。相川は壁際に逃げたが、鋭い矢の先も相川を狙
って動いた。
「解毒剤は!」
「そ、そんなものありませんよ!だから言ってるじゃないですか!」
「ンの野郎っ!」
130:「90・ダブルトラップ 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:52:43 awMTKvDK0
村松の人差し指が動いたその瞬間、バンッ!という音がした。村松の首元から赤とピンク
がかった何かが飛び散った。同時に引き金が引かれ、ボウガンから矢が飛び出す。矢は
相川の胸に当たったが、ガツッという音と共に床に落ちた。
大きく揺れた村松の体が、重心を失って床に崩れ落ちる。首元から赤い液体が溢れ出た。
思わず下山は両手で口を抑え、壁側を向いてしゃがみ込んだ。堪え切れずにその場で吐
いた。慌ててブランボーが濡れタオルを持ってくる。そのまま下山の背中を撫でた。
「ダイジョブ、シモ、ダイジョブ」
そう繰り返して。
相川は自分の胸元を見た。防弾チョッキがこんな風に役立つとは。この店に入れられる前
に与えられた。やはり着ていて正解だった。
そっと筧を見た。筧は席に座る前に、コーヒーカップを選ぶ振りをしながらポケットから
小さな瓶を取り出していた。そして、他の選手、相川からも見えないように注意しながら、
1個のカップにその中身を注ぎ込んだ。おそらく毒だろうと思った。
ここは中立地帯。殺し合いは許されない。奥の決闘部屋以外で殺し合いを始めた者は、首
輪が爆発する。そう入り口にも書いてある。
だが筧は人殺しをしようとした。
相川は止めなかった。何故なら、筧は相川が毒を入れたカップの前に座ったから。
そして、真っ先に筧自身が死んだ。
そして、筧の仕掛けた毒に迎がやられた。
それらを見て我を失った村松は、相川を殺そうとして、中立地帯規定通り首輪が爆発した。
(一気に3人も減ったのか……)
相川はコップに冷たい水を入れると、まだしゃがみこんで吐いている下山へと差し出した。
【×迎祐一郎 ×村松有人 残り・29人】
131:《OTHER SIDE・4 1/2》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:53:55 awMTKvDK0
「リプシー、ちょっと止めて」
小雨が降り始めた海の上、大島が言った。
「え?あ、はい」
言われた通りおとなしく船を止める。逸る気持ちを抑え、手招きする大島の方へと歩み寄
った。
「少し、あの島に関する話をしておきたいんだ」
膝の上で手を組み、ネッピーとリプシーの顔を交互に見る。
「この船を借りる時にね、こんなことを言われたんだよ。『あの死の島に何しに行くんです
か?』って」
「死の島?」
2人が同時に問い返す。大島はいつもの笑顔だったが、それが大島なりの真面目な表情だ
ということは2人にはわかっていた。
「この島から人が消えた理由。少しだけ聞けたんだ。港で話してもよかったんだけど誰が
聞いてるかわからないし、君たちは目立ち過ぎるから場所を変えた方がいいと思って。だ
ったら海の上かな、と」
大島は鞄から1枚の地図を取り出した。双子島の見取り図だ。
「ここ、左下、この橋の先にある小さな島。ここに研究所が建ってるんだ」
大島が指さす。
「この研究所で、とある研究が行われていた。その実験結果が漏れてしまったんだ」
「実験って……?」
リプシーが尋ねる。不安げな瞳で、穴が開きそうなほど真剣に大島を見つめた。
「微生物、というか、細菌というか……まあとにかく、人間の日常生活にはあまり必要な
いものだね。むしろご遠慮願いたい」
132:《OTHER SIDE・4 2/2》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:54:42 awMTKvDK0
「………島の人たちは?」
恐る恐るネッピーが尋ねる。大島は小さく首を横に振った。
「だ、だって、そんなことあったなら、報道されたって……!」
「揉み消されたんだよ。報道規制だ」
「で、でも、島の人達が急にいなくなったら……」
「過疎の島だよ。観光事業も無くなった」
大島がそっと呟いた。
「………社会から消された島なんだ」
その一言に、ネッピーがうなだれる。親しかった2人の友人を思い出したのかもしれない。
本土から離れた小さな島で起こった悲劇。それを引き起こしたのは人間だ。
「風が吹いてしまったんだよ」
大島の説明が続く。
「風……?」
「ああ、海流とかいろんな気象条件から、普段は研究所は風下なんだ。でも、ある季節に
は時折気まぐれな風が吹く。普段とは逆方向からやってくる海風が」
「その風が………島の人々を?」
「偶然が重なったんだ。細菌が漏れた。滅多に吹かない風が吹いた」
そして大島は大きく息を吐いた。軽く座り直して、再び2人を見る。
「港の人たちがね、時折研究所に向かうらしいスーツの男を見かけたそうだ」
何かを予感して、ネッピーは息を潜めた。
「ネクタイピンには、オリックスグループのマークがついていたそうだ」
リプシーが耳を塞いだ。
133:「91・チャンス 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:56:27 awMTKvDK0
突然木の上から落ちてきた男に、ユウキと平野恵一は慌ててその場から飛びのいた。
研究所への道のり、綺麗な花畑を抜けた。ユウキが何げなくそこに立っている木を蹴った。
そうしたら頭上から降ってきたのだ。
「後藤さん?!」
「いてて……」
長い銃を抱えたまま腰をさすっている。ユウキは小さく舌打ちをした。
(またオリックス組かよ)
平野が駆け寄って後藤を起こす。
「ゴッツさん、大丈夫ですか?」
愛称で呼びかけると、後藤は照れ笑いをした。
「すまん、居眠りしてたんだ」
「木の上で?」
「ああ、ここなら隠れられると思って」
「……その銃で狙撃する為にですか?」
ユウキの問いかけに後藤は悪びれることもなく答えた。
「まさか。少し休みたかったんだ。ずっと歩いてたし」
後藤は軽く伸びをすると平野を見た。
「阿部ちゃん見てないか?」
「阿部さん?」
「そう、阿部ケンじゃなくて、阿部ま、の方」
「見てないです」
「そうか……ま、そう簡単に見つかるはずないよな」
そう言って、銃を肩に掛け直す。腕時計を見た。
「日没まではまだいくらかあるな。まだ探せるか」
「阿部さん探してるんですか?」
ユウキが尋ねる。その目はじっと後藤の銃を見つめていた。
134:「91・チャンス 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:57:12 awMTKvDK0
「ああ」
「阿部さん、ヤバイんですか?」
「何が?」
「何がって………探すくらいだから」
「んなこと知らん」
飄々とした後藤の答えに、ユウキは心の奥で舌打ちをした。
「そうだ、ゴッツさん、一緒に研究所に行きませんか?」
平野が笑顔で問いかける。
「研究所に行けば、何かわかるかもしれないんです。行きましょうよ」
仲間を見つけた嬉しさなのか、平野の声も明るい。
だが、後藤は静かに首を横に振った。
「阿部ちゃん、見つけないと」
「研究所の方向にいるかもしれませんよ?それに一緒に行動してる方が安心ですよ」
やはり後藤は首を横に振った。
「島の端に行くのは人探しには向かないと思う」
「根拠は?」
「なんとなく」
平野は小さくため息をついた。後藤の対応は掴み所がない。これ以上説得しても無駄なよ
うだ。
いつの間にかさりげなく、ユウキは後藤の背後に回っていた。
ベルトに差している小型ナイフに手をかける。
出来れば近鉄組に限定しておきたかったのだが、そろそろ我儘を言ってはいられないよう
だ。時間は着実に減ってゆく。生き残りたいならより好みをしている場合ではないのだ。
平野や後藤と一緒にいると、どうも緊迫感が失われてしまう。特に後藤のにやけ顔は危険
だ。作戦かもしれない。それに、何よりも魅力的なあの銃。
(後ろから抱え込んで、ナイフで首をひとっ掻きだ。それだけでいい。恵一にはゴッツさ
んが武器を隠し持ってたって言えばいい。お前は狙われてたんだ、それに俺が気づいて助
けてやったんだって)
135:「91・チャンス 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 23:01:48 awMTKvDK0
体の後ろでナイフを握り直す。攻撃は一瞬だ。一撃で終わらせなければ。
(しっかり狙えよ……)
狙いを定める。定めようとしても、後藤の普段の癖なのか体が左右にユラユラ揺れている。
(落ち着けよ、こいつ……性格みたいにフラフラすんなよ!)
ようやく後藤の体の揺れが止まった。
(………よし!)
飛びかかろうとした瞬間。
「あ」
後藤がしゃがんだ。
態勢を崩しそうになったユウキが、慌ててナイフを隠す。
「おー、いい石だねー」
後藤が右手に拾い上げたのは、玉虫色に輝く小石だった。
「石?」
平野が覗き込む。
「なんかキラッて光ったから、気になって。綺麗だろ」
「ホント。水晶とか天然石の類ですかね?」
「どうだろ?俺が拾ったから俺の」
「誰も取りゃあしませんよ」
平野が笑う。後藤も笑いながら石をポケットにしまった。
(マイペース過ぎるよ、ゴッツさん……)
半ば呆れながらユウキは思った。どうやらここでこの人物を手にかけることは難しいよう
だ。平野ごと一緒に消せるのなら、それほど躊躇わないのだが。ラッキーカードは平野が
持っている。奪うことは簡単だが、研究所で何が待っているのかわからない。その為には
自分以外にもう1人いた方がいい。もしもの時の為にも。
それにしても自分の武器が心もとない。もっとしっかりした武器が欲しい。
136:代打名無し@実況は実況板で
06/11/28 23:02:30 3w1jccLAO
投下乙です!
137:「91・チャンス 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 23:02:54 awMTKvDK0
(神様が俺を諌めてるって?)
心の中で苦笑いをする。
(でもさ………)
ユウキの心は決まっている。
(そう簡単には許せないんだ)
すべて、もう決めたこと。
後藤が荷物を背負い直す。肩掛けを巧みに両腕に通し、荷物をリュックサックのように背
負っている。そして、両手で細身の長い銃を抱えた。
「じゃあ、行くよ」
笑顔で手を振る。
「ゴッツさん、気をつけて下さいね」
寂しげに平野が声をかけた。
「ああ、阿部ちゃん見つけたら俺が探してたって伝えてくれな」
「はい」
伝えたとしてもその後、会えるのかはわからないが。
眩しい夕陽の中、後藤が歩いて行く。
何かを予感するかのように、平野の視界の中でその姿は何故かうっすらと滲んで見えた。
【残り・29人】
138: ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 23:08:04 awMTKvDK0
今回はここまでになります。
また突然、連投規制がかかったんですが、今回はすぐに解けました…
139:代打名無し@実況は実況板で
06/11/28 23:25:08 D95tj3lW0
投下お疲れ様です。
予感ってなんか意味深ですね。気になる・・・
140:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 02:23:04 h8PDM51Z0
投下乙です、いつも楽しみにしております^^
ブランボーの優しさにホレタ
141:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 07:21:32 5DCcl2wGO
142:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 14:41:27 wnA1CIORO
投下乙です!!
ぜひ後藤と阿部ちゃんには再会して欲しいなぁ…(´・ω・`)
143:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 15:40:12 XLWNKnhH0
投下乙でした。
村松・・・村松が死んだシーン読んだときリアルで村松ーっ!!って叫んじゃったよ。
しかし(゚∀゚)は可愛いなw
144:代打名無し@実況は実況板で
06/11/30 16:17:37 CA3H517S0
ほす
145:代打名無し@実況は実況板で
06/12/01 10:54:10 +yjheG340
捕手
146:代打名無し@実況は実況板で
06/12/02 01:35:21 FKrmveUm0
ほしゅ
147:代打名無し@実況は実況板で
06/12/02 13:30:12 XIaLO34m0
148:代打名無し@実況は実況板で
06/12/03 11:17:02 0E4ejY1CO
ほす
149:代打名無し@実況は実況板で
06/12/04 00:01:06 DDyw14ZN0
hosyu
150:代打名無し@実況は実況板で
06/12/04 22:37:50 FgyXerj0O
☆ゅ
151:代打名無し@実況は実況板で
06/12/06 01:11:20 /mPXPm5RO
152:「92・小さな未来 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/12/06 12:58:34 AIwqa0rW0
子猫を胸に抱き、萩原は崖下の砂浜をぼんやりと歩いていた。
独りではない。けれど1人。どことなく寂しさを感じたが、別に意識するほどのことでも
ない。独りは慣れている。高校の時から親元を離れた。それ以来、独りで生きることを学
んだ。今では家で家族と共に過ごした時間よりも、離れている時間の方が長くなってし
まった。野球留学をした者なら、これくらい当たり前だ。
しばらく歩いて、ようやく崖の上へと上がる階段を見つけた。綺麗な砂浜だったので、こ
の島に住んでいた人達が遊びに来ていた道があるだろうと思っていた。その通りになって、
少しホッとする。
綺麗な花壇が見えてきた。寂れた島とはいえ、花畑や花壇が多い。それだけ気候に恵まれ
た自然の楽園なのだろうか。ならばこの島には人間などいない方がいい。そう思った。
萩原が崖下から上に行きたかった理由はただひとつ。
「……お前の好きなご飯も見つかるかもな」
優しく子猫に話しかける。子猫も何かを理解したのか、萩原を見上げて小さく「にゃあ」
と鳴いた。
「……せめて、お前に美味いもん食わせてやりたいよな」
ボソリと呟く。
「………神戸に連れて行ってやりたいな………美味いもん沢山あるんだ……プリンとか、
お前絶対気に入るぞ?」
顔を寄せ、人差し指で子猫の額をつつく。子猫は顔をクシュッと縮めた。
「……俺はさ、結婚もしてないしさ、生きててもこの後どうなるかわかんないしさ、だか
らさ、せめてお前は……まだ子供なんだからさ……まだまだいろんな楽しいこと………楽
しいこと、いっぱいあるから……」
思い出すのは高校時代。投手ではなく、4番を打つ野手だった。高校2年の春はかなり勝
ち進んだ。自分でもそれなりに活躍出来たと思っている。これがスカウトの目に留まった
らしい。
そして高校3年の春。あっさり敗退してしまったけれど、精一杯走った。精一杯バットを
振った。打算も何もなく、ただ真っ直ぐ前を見つめていた。
153:「92・小さな未来 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/12/06 12:59:13 AIwqa0rW0
開会式、入場行進の前。トイレに行った時に1人の選手とすれ違った。背中を見たら「1」
を付けている。誰かが「おーい、4番打者―!」と声をかけた。一瞬萩原は自分のことか
と思ったが、「1」をつけた選手がそちらへと走って行った。
あれは誰だったのだろう。なんとなく石川県代表の選手だったような気がする。彼は今ど
こで、何をしているだろう。まだ野球を続けているのだろうか。それとも野球の全てを捨
て、全く違う環境にいるのだろうか。
野球は様々なドラマを起こす。出会いも、別れも。
あの頃はいくつもの可能性に満ちていた。そして今、自分は野手としてではなく、投手と
して野球を続けている。不可思議な可能性。
その神のみぞ知る不可思議な可能性は、この島でも通用するのだろうか。
「……なあ猫、お前にはまだ沢山の可能性があるんだよ」
打者としてプロに入って、投手として立場を得た。それも萩原の可能性だった。
「………そうか」
ようやくわかった。萩原の生きる理由。この島で生き残る理由。
「………お前の可能性の為に、生きて帰るよ」
子猫を守る為に。子猫の未来の為に。小さな小さな可能性の為に。
それが、儚いものであっても。
「お前が俺を頼ってくれるなら、俺はお前を守るよ」
萩原は崖の上への階段を登りきる。
青い空が広がる。
目の前に広がる花畑。そして遠くに見える、森。
まだぼんやりしてはいるけれど、方向は定まった。
腕の中で安らぐ、小さな未来の為に。
【残り・29人】
154:《OTHER SIDE・5 1/2》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/12/06 13:00:13 AIwqa0rW0
「じゃあ、行くんだね?」
大島の数度目の問いかけにも、リプシーはしっかりとうなずいた。ネッピーも覚悟は出来
たようで、さっきまでとは全く違う表情だった。すでに迷いは無く、ただ真っ直ぐに大島
を見つめた。
「行かせて下さい。僕もリプシーも、選手の皆さんを助けたいんです」
海風に髪を靡かせ、告げる。リプシーも続けた。
「お願いします。風が……風が吹く前に行かせて下さい!今選手のみなさんがどんな状況
にいるかもわからないんです!一刻も早くあの方……いえ、みなさんを助けたいんです!
もうこれ以上、大切な誰かを失うのは嫌です!」
リプシーのスカーフが揺れる。影でキラリと光るペンダント。そのペンダントを大島も知
っていた。
「………わかったよ。もう何も言わない」
大島は無線機を2人に渡した。2人は説明書を見ながら、早速それらを準備し始めた。本
体である小型子機を腰のベルトに留め、ヘッドセット型のマイクとイヤホンを各自が装着
する。親機はやや大きめ。大島が両手で持つと、まるでクーラーボックスを抱えている釣
り人のようだった。
「それから、これ食べて」
大島が差し出したのは、オレンジ色のジャム。
「………マーマレード?私、好きですけど」
「戦の前の腹ごしらえですか?」
「いや、ちょっと噂でね」
大島は頭を掻きながら答えた。
「オリックスのネクタイピンをした人がね、いつも決まったメーカーのマーマレードをね、
買い込んで行ったらしいんだなあ。だから」
「はあ………」
「この辺もね、ちょっと気になるから赤堀たちに調べてもらってる」
鞄から小さなクロワッサンを数個取り出し、2人に渡した。2人は怪訝に思いながらもパ
ンでマーマレードをすくい、渡されるままに食べ始めた。クロワッサンは出来立てらしく
仄かに温かく、微かな甘みが気持ちを少し落ち着かせてくれた。
155:《OTHER SIDE・5 2/2》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/12/06 13:01:00 AIwqa0rW0
「リプシー、ちゃんと噛みなさい。急いで行きたいのはわかるけど」
「………はい」
普通の状況で食べればマーマレードジャムももっと美味しかったのだろう。だがこの切羽
詰った海の上という特殊な状況が、2人の食べるスピードを速めた。パンを口に運び、数
回噛んだだけで飲み込む。その繰り返し。大島が小さくため息をついた。
「そういう食べ方が一番太るんだよ、リプシー」
リプシーは何も答えず、ただ黙々とパンを口に運んでいる。
「………じゃあ、行くか」
大島が立ち上がる。双眼鏡を取り出し、島の方を見た。
どこかから音が聞こえてきた。
「えっ?」
ほぼ同時にそれに気づいた3人は、音のする方を見た。
一艘の大きめのクルーザーが、もの凄いスピードでこちらに向かって進んで来ていた。ど
んどん波が大きくなる。見えている船もどんどん大きくなる。
「え、ちょっと、止まるか曲がるか……」
しかしクルーザーはこちらの船めがけて突進して来ている。リプシーは慌てて舵に飛びつ
き、船を回避させようとした。
「動かない!」
悲鳴にも近い叫び。
「まさか舵に細工……!」
大島が叫ぶ。船はクルーザーの起こす波にあおられた。クルーザーの方もようやく気づい
たのか、それとも故意なのか、ようやく船体を翻した。
ガツンと船尾がぶつかる。小さな方、大島たちの船が傾く。
「うわっ!」
「きゃあ!」
豪快に船が横転する。3人の体は勢いよく波間へと放り出された。
156:「93・行方不明 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/12/06 13:02:36 AIwqa0rW0
市街地の隅でようやく薬局を見つけた。ドラッグストアではなく、昔ながら「薬局」だ。
オレンジ色の象が店先に立っていた。どことなく懐かしい気がした。この島は時代の最先
端から約5年ほど遅れているのかもしれない。いや、きっと時間がゆっくり流れているの
だ。何も急ぐ必要のない、長閑な島なのだ。
けれど光原はそこで急がなければならなかった。一刻一秒を争う状態。ほんの一瞬の判断
が命取りになるかもしれない。きっと今の光原たちの表情を、この島の住人たちは好まな
いだろう。疑心暗鬼と怯え、信じたいのに信じられない、そんな複雑な顔つきだ。
けれど光原は信じていた。少なくとも金子は仲間だ。光原のために食料調達もしてくれた。
信じあい、助け合える仲間だ。これだけは自信を持って言える。
「……おじゃまします」
誰もいないとわかっていながら一言断って、中に入った。鍵はかかっていなかった。ここ
の住人は、そんなに急いでこの島を出て行ったのだろうか。
痛み止めを見つけた。使用期限はギリギリだが、それでも多少の役には立つだろう。
(バファリンならスタンダードだし、大丈夫だよな?エキセドリンの方がいいのかな……
痛み止め、痛み止め、と……あとはノーシンにイブ……あれ?打撲の痛みって、こういう
ので止められるのかな……)
少し首を捻る。
(………まあいいや、全部持っていっちゃえ!)
それらしき薬を鞄の中に突っ込むと、光原は急いで元いたコンクリートの建物へと走った。
きっと金子は今も痛みに耐えながら歯を食いしばっているのだろう。弱音も吐かず、それ
らを飲み込んで。我慢強い奴なのだ。年下の金子が頑張っているのだ。年上の自分が頑
張らないでどうする。自分にそう言い聞かせた。きっと金子は喜んでくれるに違いない。
「ありがとうございます、ミツさん」
そう言って笑うだろう。だから光原も笑い返そう。「どうってことないって」そう言って、
これからのことをまた考えよう。手を結ぶ仲間を探そう。光原と金子がこうやって信じ合
えるのだ。きっと他の人達だって………
道の端を走る。目印にしておいた信号機を右折し、真っ直ぐ走る。危うく間違えてホテル
らしき建物を目指そうとしてしまった。高さは似ているが、雰囲気は全く違う建物だ。
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