ラテン語の文法
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語順

ラテン語は強い屈折を持つ言語であるため、語順を柔軟に変えることができる。通常の散文においては主語、間接目的語、直接目的語、修飾語・句、動詞という語順になる傾向があった。従属動詞を含む他の成分、例えば不定詞などは、動詞の前に置かれた。

形容詞および分詞は通常名詞の直後であるが、美しさや大きさ、量、質、真理を表す修飾語は修飾する名詞に先行した。関係節は関係代名詞が示す先行詞の後が普通であった。こういった語順が古典ラテン語の文章語にありふれていた時代でも、しばしば異なった語順が見られた。また、口語での語順がどうであったかを示す決定的な証拠はない。(俗ラテン語も参照)

一方で、詩歌では韻律を守るために語順が変わることがあった。ラテン語では、強勢ではなく、母音の長短(長母音・二重母音と、短母音とでの対立)や子音の結合が韻律を支配した。ローマ世界の詩人が目で読むためでなく、耳で聞くために詩を創作したことを念頭に置く必要がある。なぜなら創作物の多くは聴衆の娯楽のために供されたためである。それ故に語順の変化は韻律のためならず、修辞的な意味もあり、聴衆の理解を妨げないように工夫された。ウェルギリウスの『選集』では次のような例がある。"Omnia vincit amor, et nos cedamus amori!": "Omnia", "amor", "amori"は個々の句の中であまりこない位置に置かれているため、印象が鮮明になっている。なお、この文の韻律はヘクサメトロスと呼ばれるものであり、同じくウェルギリウスが編纂した古代ローマ帝国の国民的叙事詩『アエネイス』でも用いられている。

以下に文例を示す。なお、この例ではローマ人に一般的な名前である"Marcus"が、文中での文法的な役割に応じて末尾が変化している。英語などの場合には語順の変化は文法違反になったり意味が曖昧になったりするが、ラテン語の場合これらの例文の語順は、文法的に完全に正しく、意味も明確である。

Marcus ferit Corneliam. (主・動・対) 訳:「マルクスがぶった、コルネリアを」

Marcus Corneliam ferit. (主・対・動) 訳:「マルクスがコルネリアをぶった」

Cornelia dedit Marco donum. (主・動・与・対) 訳:「コルネリアが贈った、マルクスにプレゼントを」

Cornelia Marco donum dedit. (主・与・対・動) 訳:「コルネリアがマルクスにプレゼントを贈った」

動詞

活用の詳細は、活用の節を参照。

動詞はラテン語文法の中でも複雑な項目である。個々の動詞には多数の変化形があり、三つの法(直説法、仮定法、命令法)と二つの態(受動態、能動態)、二つの数(単数、複数)、三つの人称(第一人称、第二人称、第三人称)、他の雑多な形式が区別される。

動詞は主要な六つの時制(現在、未完了、未来、完了、過去完了、前未来)に対して活用する。現在、完了、未来の時制には、不定詞分詞が備わっている。

ラテン語の動詞には4種類の活用形があり、不定詞形の語尾、-?re, -?re, -ere, -?reで識別できる。

時制(ラテン語:tempus)
現在(ラテン語:praesens)
発話の時点で起きている事象を表す。英語での対応する表現:The slave carries (or is carrying) the wine jar home.
未完了(ラテン語:imperfectum)
過去に継続して起きていた事象を表す。英語での対応する表現:The slave used to carry (or was carrying, or kept on carrying) the wine jar home.
未来(ラテン語:futurum simplex)
未来に起きる事象を表す。英語での対応する表現:The slave will carry the wine jar home.
完了(ラテン語:perfectum)
現時点で完了した事象を表す。英語での対応する表現:The slave carried(or have carried) the wine jar home.
過去完了(ラテン語:plusquamperfectum)
過ぎ去った過去の時点で完了した事象を表す。英語での対応する表現:The slave had carried the wine jar home.
前未来(ラテン語:futurum exactum)
未来のいつかの時点で完了する事象を表す。英語での対応する表現:By tomorrow, the slave will have carried the wine jar home.

(ラテン語:modus):
直説法(ラテン語:indicativus)
事実について述べる場合に用いられる。英語での対応する表現:That slave is carrying a wine jar.
仮定法または接続法(ラテン語:coniunctivus)
可能性や意思、事実に反する仮定などの表現に用いられる。英語での対応する表現:Let the slave carry the jar.

(The subjunctive is also used with the formation of subordinate clauses):

We hoped the slave carry the jar.

If the slave were carrying the jar.


命令法(ラテン語:imperativus)
命令文で用いられる。英語での対応する表現:Carry this wine jar home!

(ラテン語:genus):
能動態(ラテン語:activum)
動詞が主語に示されるものの動作を表す。英語での対応する表現:The slave carried the wine jar home.
受動態(ラテン語:passivum)
動詞が主語に示されるものに対する動作を表す。英語での対応する表現:The wine jar was carried home by the slave.

動詞の4基本形

ラテン語の動詞の活用は、次の4つの基本形の派生として説明される。
現在・直説法・能動態・単数・一人称

現在・不定法・能動態

完了・直説法・能動態・単数・一人称

スピーヌム(目的分詞)

たとえば「愛する」を意味する語を例にとると、この4つはそれぞれ、
amo (私は愛する)

amare (愛すること)

amavi (私は愛した)

amatum (愛するために)

となる。

辞書ではこの最初の形を見出し語とし、他の3つを併記するのが慣例となっている。2番目の形は不定詞として用いられる形であるが、現代の欧州諸語と異なり見出し語とはしない[1]。 上記「愛する」を例にとると、辞書の見出し語は amo であって、その後に省略した形を添え、amo, -are, -avi, -atum のように記載するのが通例である。

一方現代語の語源辞典や、各種読み物の中で軽く語源にふれるような場合には、ラテン語の動詞をひくときに上記2番目(amare)の形を用いることも多い[2]。 とりわけイタリア語フランス語スペイン語などラテン語の血を引く現代語(ロマンス諸語)においては不定法の用法が発達し、辞書の見出しなどにももっぱら不定法の形(「愛する」の同系語を例にとれば、イタリア語: amare、フランス語: aimer、スペイン語: amar[3])を用いるようになっているので、ラテン語を含めた各言語の不定形どうしを対照することは一般的である。
限定詞と人称代名詞

格変化の詳細は、人称代名詞の格変化の節を参照。

ラテン語には不定冠詞や定冠詞が存在しないが、hic, haec, hoc(それぞれ、男性、女性、中性に対応する、近称、英語のthis)、ille, illa, illud(同じく、遠称、英語のthat)などの指示語は存在する。英語における、this,thatのように代名詞としても機能する。

所有形容詞や所有代名詞基数詞や序数詞数量詞疑問詞なども在る。

人称代名詞も三つの人称のそれぞれに対応して存在し、単数、複数が同形で用いられる。多くのロマンス諸語や英語と同様に、三人称に対応する代名詞のみが性の変化を伴う。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Oak-4