酵素
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核酸塩基代謝に関与するプリンヌクレオシドフォスフォリラーゼの構造(リボン図)
研究者は基質特異性を考察するときに酵素構造を抽象化したリボン図を利用する。

酵素(こうそ、: enzyme)とは、生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子である。酵素によって触媒される反応を“酵素的”反応という。このことについて酵素の構造や反応機構を研究する古典的な学問領域が、酵素学 (こうそがく、: enzymology)である。


目次

1 概要

2 役割

3 発見

3.1 鍵と鍵穴説

3.2 酵素の実体の発見

3.3 酵素と分子細胞生物学


4 特性

4.1 基質特異性

4.1.1 誘導適合


4.2 反応特異性

4.3 酵素作用の失活


5 分類

5.1 所在による分類

5.1.1 膜酵素

5.1.2 可溶型酵素

5.1.2.1 分泌型酵素



5.2 系統的分類

5.2.1 命名法



6 構成

6.1 補欠分子族

6.2 補酵素

6.3 サブユニットとアイソザイム

6.4 複合酵素


7 生化学

7.1 酵素反応速度

7.1.1 酵素反応の定式化

7.1.2 阻害様式と酵素反応速度

7.1.3 酵素反応の活性化エネルギー


7.2 反応機構モデル

7.2.1 遷移状態と抗体酵素


7.3 酵素反応の調節機構


8 酵素が働く条件

8.1 最適pH

8.2 最適温度

8.3 基質の濃度

8.4 酵素の濃度


9 利用

9.1 食品

9.2 健康食品を標榜する製品

9.3 日用品

9.4 医療

9.5 工業利用の技術(固定化酵素)

9.6 バイオセンサー


10 生命の起源と酵素

11 人工酵素

12 代表的な酵素の一覧

13 酵素に関する年表

14 脚注

15 関連項目


概要

酵素は生物が物質消化する段階から吸収分布代謝排泄に至るまでのあらゆる過程(ADME)に関与しており、生体が物質を変化させて利用するのに欠かせない。したがって、酵素は生化学研究における一大分野であり、早い段階から研究対象になっている。

多くの酵素は生体内で作り出されるタンパク質を基にして構成されている。したがって、生体内での生成や分布の特性、pH によって変性して活性を失う(失活)といった特性などは、他のタンパク質と同様である。

生体を機関に例えると、核酸塩基配列が表すゲノム設計図に相当するのに対して、生体内における酵素は組立て工具に相当する。酵素の特徴である作用する物質(基質)をえり好みする性質(基質特異性)と目的の反応だけを進行させる性質(反応選択性)などによって、生命維持に必要なさまざまな化学変化を起こさせるのである。

古来から人類は発酵という形で酵素を利用してきた。今日では、酵素の利用は食品製造だけにとどまらず、化学工業製品の製造や日用品の機能向上など、広い分野に応用されている。医療においても、酵素量を検査して診断したり、酵素作用を調節する治療薬を用いるなど、酵素が深く関っている。
役割細胞内の主要代謝経路細胞呼吸における酵素の調節機構
(上の経路図の緑・紫矢印部分だけ)
赤点が酵素、黒線が調節機構を表す。丸く配置された赤点がTCAサイクルである。

生体内での酵素の役割は、生命を構成する有機化合物無機化合物を取り込み、必要な化学反応を引き起こすことにある。生命現象は多くの代謝経路を含み、それぞれの代謝経路は多段階の化学反応からなっている。

小さな細胞内では、その中で起こるさまざまな化学反応を担当する形で多くの種類の酵素がはたらいている。それぞれの酵素は自分の形に合った特定の原料化合物(基質)を外から取り込み、担当する化学反応を触媒し、生成物を外へと放出する。そして再び次の反応のために別の基質を取り込む。

ここで放出された生成物は、別の化学反応を担当する酵素の作用を受けて、さらに別の生体物質へと代謝されていく。その繰返しで酵素の触媒反応は進行し、生命活動が維持されていく。

生体内では化学工業のプラントのように基質と生成物の容器が隔てられているわけではなく、さまざまな物質が渾然一体となって存在している。しかし、生命現象をつくる代謝経路でいろいろな化合物が無秩序に反応してしまっては生命活動は維持できない。

したがって酵素は、生体内の物質の中から作用するべき物を選び出さなければならない。また、反応で余分な物を作り出してしまうと周囲に悪影響を及ぼしかねないので、ある基質に対して起こす反応は1通りでなければならない。酵素は生体内の化学反応を秩序立てて進めるために、このように高度な基質選択性と反応選択性を持つ。

さらにアロステリズム阻害などによって化学反応の進行を周りから制御する機構を備えた酵素もある。それらの選択性や制御性を持つことで、酵素は渾然とした細胞内で必要なときに必要な原料を選択し、目的の生成物だけを産生するのである。

このように、細胞よりも小さいスケールで組織的な作用をするのが酵素の役割である。人間が有史以前から利用していた発酵も細胞内外で起こる酵素反応の一種である。

発見ヒトの唾液に含まれるアミラーゼ(リボン図)。薄黄はカルシウムイオン、黄緑は塩化物イオンエドゥアルト・ブフナー
ノーベル化学賞エミール・フィッシャー

最初に発見された酵素はジアスターゼアミラーゼ)であり、1832年A・パヤンとJ・F・ペルソ (Jean Francois Persoz) によるものである。命名も彼らが行った[1]。彼らは翌1833年には麦芽の無細胞抽出液によるでんぷんの糖化を発見し、生命(細胞)が存在しなくても、発酵のプロセスの一部が進行することを初めて発見した。

また、1836年にはT・シュワンによって、胃液中にタンパク質分解酵素のペプシンが発見・命名されている[2]。この頃の酵素は生体から抽出されたまま、実体不明の因子として分離・発見されている。

「酵素 (enzyme)」という語は酵母の中 (in yeast) という意味のギリシア語の "εν ζυμη"(en zymi) に由来し、1878年ドイツウィルヘルム・キューネによって命名された[3]

19世紀当時、ルイ・パスツールによって、生命は自然発生せず、生命がないところでは発酵(腐敗)現象が起こらないことが示されていた。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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