染色体
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図1ヒト細胞の分裂期染色体(左)とその拡大図(右)。バーは1 μm。

染色体(せんしょくたい)は遺伝情報の発現と伝達を担う生体物質である。塩基性の色素でよく染色されることから、1888年にヴィルヘルム・フォン・ヴァルデヤー(Heinrich Wilhelm Gottfried von Waldeyer-Hartz)によって Chromosome と名付けられた。Chromo- はギリシャ語 χρ?μα (chroma) 「色のついた」に、-some は同じく σ?μα (soma) 「体」に由来する。


目次

1 染色体の定義

2 染色体の構造

3 染色体の各部位の呼称

4 染色体を構成するタンパク質因子

5 細胞周期における染色体の挙動

6 核型

7 生物種による染色体数の違い

8 染色体研究の歴史

9 関連項目

10 引用文献

11 参考図書

12 資料

12.1 ヒトの染色体の情報


染色体の定義

歴史的背景から、染色体という語には複数の定義がある。
原義では、
細胞分裂期に観察される棒状の構造体を指す。染色体の形態として一般的に認識されている構造は、この分裂期のものである(図1)。

広義では、形態や細胞周期に関わらず、真核細胞にあるゲノムDNAタンパク質の巨大な複合体を指す場合がある。

さらに広義には、真正細菌古細菌あるいはミトコンドリアなどの細胞小器官が持つゲノムを含めて染色体と呼ぶこともある(核様体の項参照)。ウイルスのゲノムも染色体と呼ぶ場合がある。

染色体の構造図2 H2A、H2B、H3、H4のヒストン8量体とDNAから構成されるヌクレオソーム構造。

染色体の最も基本な構成要素は、DNAヒストンである。分裂期の染色体は一対の姉妹染色分体から構成され、それぞれの染色分体には長いDNA一分子が含まれている。DNAは酸性であり、塩基性タンパク質のヒストンとの親和性が高い。DNAとヒストンの重量比は、ほぼ1:1である。

染色体の最も基本的な構造はヌクレオソームである(図2)。4種のコアヒストン(H2A, H2B, H3, H4)が2つずつ集まってヒストン8量体を形成し、146塩基対の2重鎖DNAを左巻きに巻きつける(DNA超らせんの項参照)。ヌクレオソームヌクレオソームをつなぐDNAはリンカーDNAと呼ばれ、そこにはリンカーヒストン(ヒストンH1など)が結合する。ヌクレオソーム構造はさらに凝集して直径30 nmの繊維を形成すると考えられているが、その構造についてはいまだ定説がない。分裂期にはいると、光学顕微鏡下で観察可能な棒状の構造体(第一の定義における染色体)に変換される。この染色体凝縮過程には、コンデンシン複合体やトポイソメラーゼ II が関与する。

クロマチンには、大きく分類してユークロマチン (euchromatin) とヘテロクロマチン (heterochromatin) の二種類がある。ユークロマチンはクロマチン構造がゆるまっており、転写されている遺伝子はこの部分に多く存在する。ヘテロクロマチンは密に凝集しており、この領域ではあまり転写が起きていない。ヘテロクロマチンは更に次の二つに分類することができる。遺伝子の発現はほとんど見られない構成的ヘテロクロマチン (constitutive heterochromatin) と、条件によっては遺伝子の発現が見られる条件的ヘテロクロマチン (facultative heterochromatin) がある。前者は主にセントロメア付近にあり、この領域の DNA は繰り返し配列に富む。
染色体の各部位の呼称図3 分裂期染色体の模式図

分裂期の染色体は一対の姉妹染色分体からなる(図3)。染色分体どうしがより強固に接着している領域はセントロメアと呼ばれる。分裂期にはセントロメア上に形成されるキネトコアに微小管が結合し、染色分体を両極へ牽引する。セントロメアをはさんで長い側を長腕、短い側を短腕という。染色体の末端部はテロメアと呼ばれる特有の構造をしている。
染色体を構成するタンパク質因子

染色体にはヒストンの他にも多くのタンパク質因子が結合している。RNAポリメラーゼのような基本転写因子と呼ばれるタンパク質複合体や、特定の遺伝子座に結合しその遺伝子の発現を制御するもの、クロマチンの状態を維持または変化させるものなどがある。また、トポイソメラーゼと呼ばれる一群の酵素は、DNA超らせん状態を制御する。染色体の高次構造を制御する因子の中で代表的なものには、染色体凝縮に関わるコンデンシン姉妹染色分体の接着に関与するコヒーシンがある。
細胞周期における染色体の挙動図4 分裂中期の細胞。ほとんどの染色体 (青) が赤道面に配列した状態。緑が紡錘体。

有糸分裂の最初のステージ(前期)では、核膜を保持したまま、クロマチンが凝縮を開始する。前中期では、核膜が崩壊し、染色体凝縮がさらに進行する。凝縮の最も進んだ分裂中期では、二つの染色分体(姉妹染色分体)がセントロメアでより強固に結合した形態をとる。細胞の両極から伸びた長い微小管(紡錘糸)はキネトコアに結合する(図4)。分裂後期にはいると、姉妹染色分体間の接着が解除され、紡錘糸は各染色分体を細胞の両極に向けて引き離す。(染色体分離)。こうして、最終的に各娘細胞は1セットの染色分体を受け継ぐ。細胞分裂が完了すると、染色分体は再び脱凝縮して細胞核内に収納される。
核型図5 ヒトのカリオタイプ(男性)。常染色体は大きい順に並べ、番号で呼びあらわす。

ある生物の染色体を調べたいとき、コルヒチン等の薬剤で細胞を処理し細胞分裂をM期で停止させてからギムザ等の染色を施し、凝縮した染色体の数と形状を観察する。こうして撮影された染色体を並べたものが、核型(karyotype カリオタイプ、karyogram カリオグラム とも呼ばれる)である。これを調べて分類学的検討などを行うことを核型分析という。

カリオタイプは種ごとに一定である。例えば、ヒトの二倍体細胞は、22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体を持つ(図5)。性染色体の組み合わせは女性では2本のX染色体、男性ではX染色体とY染色体1本ずつとなっている。女性の2本のX染色体のうちの片方は不活性化されており、顕微鏡下ではバー小体として観察される。

有性生殖を行う多くの種は、二倍体 (2n) の体細胞 と一倍体 (1n) の配偶子を持つ。雄由来の配偶子と雌由来の配偶子が接合(受精)すると、二倍体の接合子(受精卵)となり、体細胞分裂を繰り返して個体をつくりあげる。すなわち、二倍体の体細胞が有する2セットの相同染色体のうち、1セットは父親から、もう1セットは母親から由来する。一倍体の配偶子をつくるための特殊な細胞分裂は、減数分裂と呼ばれる。減数分裂の過程では母親と父親に由来する相同染色体は交叉を起こして遺伝情報を交換する。このように、片親からの染色体をそのまま次の世代に渡すのではなく、世代を経るたびに常に新しい遺伝情報の組み合わせが作られるようになっている。無性生殖で増殖するの多くは染色体を1セットしか持たない。

なお、男性の持つY染色体はかつて、その大きさや遺伝子の位置などがX染色体と異なることから、減数分裂時の遺伝子の組み換えを起こさない、変異しづらい不活性なものとされてきた。しかし最近では、Y染色体においてもX染色体との交叉による乗り換えが起こっていると考えられている。


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