光ピンセット
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一般的な光ピンセットの構造

光ピンセット(ひかりピンセット、Optical tweezer)は、集光したレーザー光により微小物体(おもに,細胞などを含む透明な誘電体物質)をその焦点位置の近傍に捕捉し、さらには動かすことのできる装置および技術である。捕捉するための力は屈折率の違いにより生じ、典型的にはピコニュートン程度である。この技術は、近年、とくに生物学マイクロマシニングの研究において成果を挙げている。
目次

1 歴史と発展

2 物理学的解釈

2.1 光線光学的解釈

2.2 電磁気学的解釈


3 構成と操作

4 応用

5 注釈

6 参考文献

6.1 学術論文


7 関連項目

8 外部リンク

歴史と発展

光学的手法による微小物体の操作理論がベル研究所アーサー・アシュキンによって1970年代に初めて報告された[1]。数年のち、アシュキンらは最初の実験を行い、顕微鏡下において微粒子を光線照射によって3次元的に捕捉することに成功した[2]

1986年スティーブン・チューレーザー冷却の論文において光ピンセットに言及した(1997年、チューはレーザー冷却における研究によってノーベル物理学賞を受賞した)。インタビューにおいてチューはアシュキンを「原子捕捉・光ピンセットの先駆者」と評した。アシュキンは10 - 10,000 nm径の微粒子の捕捉を可能にしたが、チューはこれをより発展させ、0.1 nm径の捕捉を可能とした。

1980年代、アシュキンらはタバコモザイクウイルスおよび大腸菌の操作を通じて、光ピンセットの生物学への適用を初めて行った[3]。1990年代には、カルロス・バスマンテ、ジェームズ・スプディッチ、スティーブン・ブロックらがこの分野に参入し、光ピンセット・レーザー分光学・一分子細胞生物学の発展に寄与した。

この過程では分子モーターの発見など画期的な発見がなされ、生物物理学などの分野が飛躍的に発展した。

2003年には光ピンセットを用いた細胞の整列に成功した。これには各細胞の光学的特徴が利用された[4] [5]。2004年にはコロラド鉱山学校(英語版)によって、これまで高価・複雑であった光ピンセットの小型化・低価格化を狙ったDLBT (Diode Laser Bar Trapping)が開発された[6]。光ピンセットは今日、細胞骨格の操作、生体高分子の粘弾性測定、細胞操作などに利用されている。

2018年、アシュキンは光ピンセットの発明に関する功績によりノーベル物理学賞を受賞した[7]
物理学的解釈 ガウシアンビームであるレーザーによる微粒子の捕捉

光ピンセットは、強く集光されたレーザー光を用いることにより、ナノメートルからマイクロメートルオーダーの誘電体微粒子を移動できる。多くの場合、レーザー光は顕微鏡用対物レンズを用いて集光される(光ピンセット装置の土台として落射型蛍光顕微鏡が用いられることが多い)。集光された光の焦点付近では、強大な電場勾配が生じる。このとき誘電体微粒子は、電場の一番強い部分へ引き寄せられる。これに加えて、レーザー光の伝播方向へも力が働く。

光ピンセットは極めて精密な構造をもつ。扱える微粒子はナノメートルからマイクロメートルオーダーであり、DNAタンパク質酵素といった巨大分子を一個単位で扱うことができる。

なお、扱われる微粒子はその中心にトラップされるとは限らない。現実的には微粒子の形状がいびつであったり、内部に誘電率の偏りがあるためである。

捕捉された微粒子の挙動に関する説明は、捕捉された粒子の粒径に大きく左右される。粒径が用いるレーザー光の波長より大きい場合、簡単な光線光学(幾何光学)的な取り扱いで十分である。そうではなく、波長に比べて微粒子が小さい場合には、微粒子は電磁場中にある小さな双極子として取り扱う必要がある。
光線光学的解釈

捕捉微粒子の直径が波長よりも十分大きい場合には,トラッピング現象は光線光学で説明できる。図に示すように,レーザーからの個々の光線は,誘電体球に入るときと出るときに屈折する。その結果,光線は入射方向とは異なる方向に出射する。光は運動量を持っているため,進む方向が変わると運動量も変化する。作用・反作用の法則より,絶対値が等しく逆向きの運動量変化が微粒子に生じる。

多くの場合、ガウシアンビーム(TEM00モード)のレーザー光が光源として用いられる。このとき、図の(a)のように微粒子が光軸中心からずれた場所にあれば、全てを足し合わせた力は微粒子を光軸中心に引き寄せる方向に働く。なぜならば、ガウシアンビームの中心にある強い光線(図(a)の光線2)は中心軸から外れる方向に屈折し、微粒子に中心向きの運動量変化を与えるからである。この運動量変化は、ガウシアンビームの周辺部の光線(図(a)の光線1)によって与えられる外向きの運動量変化よりも大きい。図(b)のように微粒子が光軸上にあれば、個々の光線は光軸に対して円対称に屈折するので、光軸に垂直な方向には力が働かない。この場合、屈折による力は光軸方向に働き、散乱力とつりあう。散乱力とのつり合いにより、微粒子の安定な捕捉位置はビームの焦点よりもやや下流になる。
電磁気学的解釈

微粒子が光の波長よりも顕著に小さいとき、レイリー散乱の条件を満たす。微粒子は電場における点双極子とみなし、微粒子にはローレンツ力が加わる。

F = q ( E + d x d t × B ) . {\displaystyle {\boldsymbol {F}}=q\left({\boldsymbol {E}}+{\frac {d{\boldsymbol {x}}}{dt}}\times {\boldsymbol {B}}\right).}

双極子にかかる力は電場に2電荷を代入することによって算出できる。双極子の分極はp = q d となり、ここでd は2電荷の距離を指す。点双極子において、差 dx は無限小をとる。2電荷が反対の符号を持っていることを考慮すると、力は次のようになる。

F = q ( E 1 ( x , y , z ) − E 2 ( x , y , z ) + d x d t × B ) {\displaystyle {\boldsymbol {F}}=q\left({\boldsymbol {E}}_{1}\left(x,y,z\right)-{\boldsymbol {E}}_{2}\left(x,y,z\right)+{\frac {d{\boldsymbol {x}}}{dt}}\times {\boldsymbol {B}}\right)}

F = q ( E 1 ( x , y , z ) + d x ⋅ ∇ E − E 1 ( x , y , z ) + d x d t × B ) . {\displaystyle {\boldsymbol {F}}=q\left({\boldsymbol {E}}_{1}\left(x,y,z\right)+d{\boldsymbol {x}}\cdot \nabla {\boldsymbol {E}}-{\boldsymbol {E}}_{1}\left(x,y,z\right)+{\frac {d{\boldsymbol {x}}}{dt}}\times {\boldsymbol {B}}\right).}

注意すべきことは、E1 は相殺されることである。電荷q をかけると、微小変位dx を分極p に変換することができる。

F = ( p ⋅ ∇ ) E + d p d t × B {\displaystyle {\boldsymbol {F}}=\left({\boldsymbol {p}}\cdot \nabla \right){\boldsymbol {E}}+{\frac {d{\boldsymbol {p}}}{dt}}\times {\boldsymbol {B}}}

F = α [ ( E ⋅ ∇ ) E + d E d t × B ] {\displaystyle {\boldsymbol {F}}=\alpha \left[\left({\boldsymbol {E}}\cdot \nabla \right){\boldsymbol {E}}+{\frac {d{\boldsymbol {E}}}{dt}}\times {\boldsymbol {B}}\right]}


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