- 795 名前:バナナとスコッチ1 mailto:sage [2010/08/03(火) 15:38:09 ID:O+CKBshQ]
- プロダクション設立の祝賀会が終わったあと、かたづけをしていたフミエは、
急にお腹が減っていることに気づいた。天ぷらやギョウザなどを大量に作って いるうちに油酔いして食欲をなくしてしまい、また会の間は大勢の客の接待で、 食べている暇などなかった。 手つかずのままたくさん残っているバナナが目に入った。祝いに駆けつけてくれた ものの、大勢の人々に囲まれている茂に気後れを感じたのか、寂しそうだった 戌井が持ってきた手みやげだ。フミエも、茂とこのところほとんど落ち着いて 話す暇もない日々が続いており、戌井の気持ちがわかるような気がした。 「せっかく戌井さんが持って来てくれたバナナ、誰も食べんと。」 フミエはバナナを一本とり、皮をむいてひと口かじった。 甘くてやさしい味が口いっぱいにひろがり、ほっとひと息ついた。 「なんか、元気が出る味なんだよね・・・。」 貧乏だった頃、藍子がお腹にやどったことを告げたら、茂に困った顔をされた。 姉の家でこれからのことを考えてみようと思った矢先、茂が連れ戻しに来てくれた。 「あの時公園で食べたバナナ、おいしかったなあ。本当に『なんとかなる。』 って思えたもん。」 藍子は無事生まれたが、その後生活はますます苦しくなった。そんなある日、 茂が売れ残って黒くなったバナナを買ってきた。おそるおそる口に入れてみると、 少し発酵している感じはするが、甘くてとろけるようにおいしかった。 「異国の果物なのに、なんだか懐かしい味・・・。それに、元気が出ますね。」 「そりゃあそげだ。俺の命を救った果物だからな。」 茂は、戦争中マラリアの再発で弱っていた茂にバナナを持ってきてくれた現地の 少年トペトロの話をしてくれた。
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