- 770 名前:我慢我慢1 mailto:sage [2010/08/01(日) 02:07:56 ID:dZXyAyzv]
- 『悪魔くん』の初回のテレビ放送を、思いがけず境港の両親までも一緒に見届けて、祝杯に沸いた今日。
しかしその夜の茂は、祭りの後の侘しさに似た様相を呈していた。 キィ…キィー… 静まり返った仕事部屋に、イスの軋む音がしている。 風呂上りの布美枝がそっと部屋を覗くと、 イスに座って身体を揺すらせる茂の後姿があった。 「おとうちゃん?」 呼びかけられた茂が、首だけ後ろに向けて布美枝を見る。 「まだお仕事ですか?」 「うん…」 布美枝が肩を揉むと、茂は無言で背もたれに身を預け、目を閉じてじっとしている。 今日の放送に向けて、仕事を詰めていたから疲れているのだろうか。 それとも、こみ上げてくる何かに思いをはせ、感慨にひたっているのだろうか。 戌井との電話でのやりとりを聞いてしまった布美枝は、後者の茂を想像した。 「おとうちゃん」 「ん」 布美枝は少し意地悪く、茂の肩から首に手をまわして、顔のすぐ横から茂を覗き込んだ。 「泣いとったの?」 「だらっ。誰が」 ぷいと横を向いた茂に、少し微笑んで、それからそのままぎゅっと大きな背中を抱きしめた。 「…やめんで良かったですね、漫画」 茂は何も言わなかったが、うんうんと小さく頷いた。 「最近夜が冷えるようになったけん、もう寝ろ。身体冷やしたらいけん」 布美枝の手を解いて、イスごと布美枝に向き直ると、そっと大きくなったお腹に手をやった。 その優しさに感謝して、「おやすみなさい」一礼して立ち去ろうとした。 すると。
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