- 592 名前:渚の怪談1 mailto:sage [2010/07/10(土) 16:19:27 ID:qknu7djc]
- 安来への里帰りの日程も終わりに近づいたある日、フミエは藍子を連れて
叔母の輝子の家に遊びに行った。叔母が、店の若い衆にオート三輪で迎えに 来させてくれたのだ。 よく晴れた気持ちのいい日で、フミエは義姉から借りた乳母車に藍子を乗せ、 海岸へ散歩に出た。 「ああ〜、やっぱり海はええなあ・・・。」 松林の日陰に腰かけ、おだやかな海をみつめているうちに、フミエはつい うとうとと眠ってしまった。 強烈な磯の香りに目を覚ますと、 「これ・・・女!」 フミエの前に白い着物を着た女が立っている。 髪は長く、ところどころに枝サンゴや貝がら、海草が絡まり、背はすらりと 高い。何より恐ろしいことに、青白いその顔はフミエにそっくりであった。 金縛りにあったように動けないでいるフミエにかまわず、女は語りだした。 「だいぶ落ちぶれておるようじゃが、そなたは私のけん族じゃな。 それゆえ波長が合って私が見えるのであろう。」 (落ちぶれたなんて、し、失礼な〜><) 「わが名はフミ姫。いくさの世に、安来一帯をおさめる飯田家に生まれた。 幼少の頃よりあらゆる武術にしたしみ、特に櫓をあやつっては漁師にも 勝ると言われたものじゃ。」 突然、フミエは自分がフミ姫と一体化し、馬を駆って山野をかけめぐり、 波濤を割って海にこぎ出だすのを感じた。 城とは名ばかりの、堅牢な塀や櫓に囲まれた館。姫とはいえ、いくさとなれば 女たちと兵糧作りに精を出す、そんな生活・・・。 「私は家中の誰よりも背が高く、男勝りなものじゃから、巴御前よ板額よと はやされ、二十歳を過ぎても輿入れの話もなく、父上も半ばあきらめて おいでじゃった。それをよいことに、乳母の実家の網元の屋敷を根城に、 舟ざんまいの日々をすごしておった。」 (女のノッポは、苦労しますよね・・・。)
|
|