- 428 名前:女房孝行 1 mailto:sage [2010/06/24(木) 10:24:19 ID:zR/L6kOO]
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「今日、お前の誕生日だろう。」 夕餉の途中で切り出すと、布美枝は目を丸くした。 「めずらしいですねえ。そげなこと覚えとられるなんて。」 「う…いや…実は忘れとったんだが、今日こみち書房の前を通りかかってな…。」 「ああ、さては美智子さんと偶然会って、そげな話になったんですね。」 変だと思いました、と布美枝はクスリと笑っている。 …あれはおそらく、偶然ではない。 すずらん商店街の情報網を使い、茂が通るのを知っていて、 待ち伏せしていたのだろう。 美智子の目は決意に満ちていた。 「先生、今日、何の日かご存じ?」 「は?」 「…もしかして、忘れていらっしゃるの?」 「…申し訳ない、さっぱり話が見えんのですが。」 本気で聞き返すと、 「もう!布美枝ちゃんのお誕生日ですよ!」 「!ああ〜あ〜、そういや、そげでしたなあ。」 ようやく話を掴めてほっとする暇もなく、畳みかけられた。 「先生。いつも忘れていらっしゃるんでしょう。 今年は、ちゃんとお祝い、してあげて下さいね。」 「はあ、そげなもんですか。」 「あたりまえですよ。東京じゃあ、布美枝ちゃんの家族は先生だけなんですからね。」 「ほほう、なるほど…」 のらくらとした茂の態度に業を煮やしたのか、 美智子の後ろから、突然、姑・キヨの爆撃がとんできた。 「先生!なーに他人事みたいに言ってんですか! 誕生日くらいね、女房孝行したってバチあたりませんよ!」
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