- 157 名前:雫と深月――家族関係 mailto:sage [2011/06/07(火) 15:18:53.12 ID:p1GMW8wk]
- 「ああ、こんなもの親じゃなければ、誰が面倒なんて見るものか!」
断じて、断じて子供に言ってはいけない言葉だった。 聞かされた深月は、ショックのあまりにへたり込んだ。 両手は震える体を抑えるように、自分を抱いている。 落ち着け――自分が暴発しても深月は救われない。 心の中で念仏のように繰り返し言い訊かせないと、雫の熱は下がらなかった。 「……では、どうでしょう?これ以上、深月さんと一緒に暮らしても、お互いが不幸になるだけじゃないですか?」 「じゃあ、どうしろと言うんです?これは家族の問題なんだ。口出しは止めて頂きたい」 撫然とした表情で父親が言う。母親も同じ顔だ。 「私に深月さんを任せては頂けませんでしょうか?」 一瞬でうろたえた顔に変わる。 「駄目ですよ!この子は…」 「故あって、人様の前には出せない子供でしてね。家の恥を他所に晒す訳にはいかんのです」 「ご心配なく。私は深月さんの体の事を存じておりますので」 無表情な顔と、冷たい声で話す雫に何を思ったのか、父親が下卑た笑いを雫に向けた。 「そうか……ハハッ、あんた、コイツとやったんだな!?そうじゃなければ、いくら教師でもこんなに親切にはなれんからなぁ!?」 事実だが、雫は表情を変えない。それよりも、この下衆に怒りを通り越して情けなさの方が勝ったからだ。 「違うと言ったところで、信用しては頂けないでしょうね」 「当たり前だ!この牝豚が!この事は教育委員会に訴えてやるからな!教師が教え子をたぶらかした、ってな!」 「お好きにどうぞ。深月さん、行きましょうか」 話は終わったとばかりに、深月を抱き抱えて家を出る。そして車を急発進させた。 「せ、先生!ダメだよ!あの人本当にやっちゃうよ!?そんな事になったらクビになっちゃうよ!!」 血の気を無くした震える声で、深月が雫を止めようとする。しかし、雫が浮かべていたのは、いつもの優しい微笑みだった。 「大丈夫よ。そんな事にはならないから。それよりも服とか生活用品を買いに行かなきゃね」 鼻唄混じりに運転する雫の横顔を、深月は不安げに見ている事しか出来なかった。 「あの人達、マジで何もしなかったのかな……」 一ヶ月後、流石におかしいと深月が疑問を口にする。 「大丈夫だってば。言ったでしょ?表沙汰にしても、深月を虐待していたのはあの人達だし、世間体を気にしたら裁判も出来ないし」 「うん……そっか……そうだよね!」 明るい声で喜ぶ深月。やっと出口の見えないトンネルを抜け出せたようだ。 「雫!お風呂に入ろ!」 「あ、ゴメンね。これだけ終わらせるから、今日は一人で入って」 「ぶー!……分かったよぅ」 仕事兼、勉強部屋を出る深月を見送りながら、雫は暗い微笑みを浮かべた。 「………それだけじゃないけどね……」 机の中から3枚綴りの書類を取りだし、パシッと指で弾いた。
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