触覚の世界
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著者名:高村光太郎 

方も傾向も皆充分考慮に値する。けれども考慮は結局時代に関する。動かし難いものを根源に探る触覚が、一番はじめに働き出す。それの怪しいもの、若(もし)くは無いものは掴(つか)むとつぶれる。いかに弱々しい、又は粗末らしい形をしたものでも此の根源のあるものはつぶれない。詩でいえば、例えばヴェルレエヌの嗟嘆(さたん)はつぶれない。ホイットマンの非詩と称せられる詩もつぶれない。そんなもののあっても無くてもいい時代が来てもつぶれない。通用しなくても生きている。性格や気質や道徳や思想や才能のあたりに根を置いている作品はあぶない。どうにもこうにもならない根源に立つもの、それだけが手応を持つ。この手応は精神を一新させる。それから千差万別の道が来る。
 私にとって触覚は恐ろしい致命点である。




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