物理学革新の一つの尖端
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著者名:長岡半太郎 

るといつてよろしい。そも/\吾人が最初に解釋すべくして、まださつぱり手のつかない事柄は、陰電氣と陽電氣の差別である。陰量子は電子に宿し、陽量子は水素原子に宿してゐる。しかして核の方は電子より千八百倍の質量を有てゐる。その理由如何といはるれば、只そんな配合に測定せらるゝといふより他はない。この最も重要なる問題が解決せられざる以上、電氣を論ずるもの、物質を説くものは、暗路をたどらねばならぬ。結局根本問題に觸れてをらぬのは、大なる缺陷である。研究はよろしくこの本壘に向つて突進せねばならぬ。電氣を談ずる人が陰陽電氣の本質を辨へざることは古語の論語讀みの論語知らずの如く、そぞろにファウストが慨嘆して(ファウスト悲壯劇第一部夜の段)
その秘密が分つたら、辛酸の汗を流して
うぬが知らぬ事を人にいはいで濟まうと思つたのだ
 と獨り言を吐いた感觸を想はしむるのである。
 こゝに僅かだから書いたことは、近ごろの物理學の進路を、汽車の窓から覗くやうなもので、見ても何だか判然しないことが多い。讀者はこれを諒とせられんことを望む。




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