晶子詩篇全集
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著者名:与謝野晶子 

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     美濃部民子夫人に献ず

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自序

 美濃部民子様
 わたくしは今年の秋の初に、少しの暇を得ましたので、明治卅三年から最近までに作りました自分の詩の草稿を整理し、其中から四百廿壱篇を撰んで此の一冊にまとめました。かうしてまとめて置けば、他日わたくしの子どもたちが何かの底から見附け出し、母の生活の記録の断片として読んでくれるかも知れないくらゐに考へてゐましたのですが、幸なことに、実業之日本社の御厚意に由り、このやうに印刷して下さることになりました。
 ついては、奥様、この一冊を奥様に捧げさせて頂くことを、何とぞお許し下さいまし。
 奥様は久しい以前から御自身の園にお手づからお作りになつてゐる薔薇の花を、毎年春から冬へかけて、お手づからお採りになつては屡わたくしに贈つて下さいます。お女中に持たせて来て頂くばかりで無く、郊外からのお帰りに、その花のみづみづしい間にと思召して、御自身でわざわざお立寄り下さることさへ度度であるのに、わたくしは何時も何時も感激して居ます。わたくしは奥様のお優しいお心の花であり匂ひであるその薔薇の花に、この十年の間、どれだけ励まされ、どれだけ和らげられてゐるか知れません。何時も何時もかたじけないことだと喜んで居ます。
 この一冊は、決して奥様のお優しいお心に酬い得るもので無く、奥様から頂くいろいろの秀れた美くしい薔薇の花に比べ得るものでも無いのですが、唯だわたくしの一生に、折にふれて心から歌ひたくて、真面目にわたくしの感動を打出したものであること、全く純個人的な、普遍性の乏しい、勝手気儘な詩ですけれども、わたくしと云ふ素人の手作りである点だけが奥様の薔薇と似てゐることに由つて、この光も香もない一冊をお受け下さいまし。
 永い年月に草稿が失はれたので是れに収め得なかつたもの、また意識して省いたものが併せて二百篇もあらうと思ひます。今日までの作を総べて整理して一冊にしたと云ふ意味で「全集」の名を附けました。制作の年代が既に自分にも分らなくなつてゐるものが多いので、ほぼ似寄つた心情のものを類聚して篇を分ちました。統一の無いのはわたくしの心の姿として御覧を願ひます。
 山下新太郎先生が装幀のお筆を執つて下さいましたことは、奥様も、他の友人達も、一般の読者達も、共に喜んで下さいますことと思ひます。

與謝野晶子
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    装幀 山下新太郎先生

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晶子詩篇全集目次

自序
雲片片(小曲五十六篇)
[#ここから2段組]
  草と人
  鼠
  賀川豐彦さん
  人に答へて
  晩秋の草
  書斎
  我友
  恋
  己が路
  また人に
  車の跡
  繋縛
  帰途
  拍子木
  或夜
  堀口大學さんの詩
  岬
  静浦
  牡丹
  弓
  秋思
  園中
  人知らず
  飛行船
  柳
  易者に
  甥
  花を見上げて
  我家の四男
  正月
  唯一の問
  秋の朝
  秋の心
  今宵の心
  我歌
  憎む
  悲しければ
  緋目高
  涼夜
  卑怯
  水楼にて
  批評
  過ぎし日
  春風
  或人の扇に
  桃の花
  杯
  日和山
  春草
  二月の雨
  秋の柳
  冬のたそがれ
  惜しき頸輪
  思は長し
  蝶
  欲望
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小鳥の巣(押韻小曲五十九篇)
夢と現実(雑詩四十篇)
[#ここから2段組]
  明日
  肖像[#「肖像」は底本では「肖像画」]
  読後
  紅い夢
  アウギユスト
  産室の夜明
  颱風
  冬が始まる
  木下杢太郎さんの顔
  母ごころ
  我子等よ
  親として
  正月
  大きな黒い手
  絵師よ
  戦争
  歌はどうして作る
  新しい人人
  黒猫
  曲馬の馬
  夜の声
  自問自答
  我が泣く日
  伊香保の街
  市に住む木魂
  M氏に
  詩に就いての願
  宇宙と私
  白楊のもと
  わが髪
  坂本紅蓮洞さん
  焦燥
  人生
  或る若き女性に
  君死にたまふことなかれ
  梅蘭芳に
  京之介の絵
  鳩と京之介
  Aの字の歌
  蟻の歌
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壺の花(小曲十五篇)
[#ここから2段組]
  コスモス
  手
  著物
  朱
  独語
  □□
  蚊
  蛾
  朝顔
  蝦蟇
  蟷螂
  玉虫
  寂寥
  小鳥の巣
  末女
[#ここで段組終わり]
薔薇の陰影(雑詩廿五篇)
[#ここから2段組]
  屋根裏の男
  或女
  椅子の上
  馬場孤蝶先生
  故郷
  自覚
  約束
  涼夜
  渋谷にて
  浜なでしこ
  恋
  夏の宵
  如何に若き男
  男
  夢
  男の胸
  鴨頭草
  月見草
  伴奏
  初春
  仮名文字
  子守
  寂しき日
  煙草
  百合の花
[#ここで段組終わり]
月を釣る(小曲卅五篇)
[#ここから2段組]
  釣
  人中
  炎日
  月見草
  明日
  芸術
  力
  走馬灯
  空しき日
  麦わら
  恋
  対話
  或女
  爪
  或国
  朝
  或家のサロン
  片時
  春昼
  雪
  猫
  或手
  通り雨
  春の夜
  牡丹
  女
  鬱金香
  文の端に
  教会の窓
  裏口へ来た男
  髪
  磯にて
  九段坂
  年末
  市上
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第一の陣痛(雑詩四十一篇)
[#ここから2段組]
  第一の陣痛
  アウギユストの一撃
  日曜の朝飯
  駆け出しながら
  三つの路
  錯誤
  途上
  旅行者
  何かためらふ
  真実へ
  森の大樹
  我は雑草
  子供の踊
  砂の上
  三十女の心
  わが愛欲
  今夜の空
  日中の夜
  人に
  寂寥
  自省
  山の動く日
  一人称
  乱れ髪
  薄手の鉢
  剃刀
  煙草
  女
  大祖母の珠数
  我歌
  すいつちよ
  油蝉
  雨の夜
  間問題
  現実
  饗宴
  歯車
  異性
  わが心
  儀表
  白蟻
[#ここで段組終わり]
幻想と風景(雑詩八十七篇)
[#ここから2段組]
  曙光
  大震後第一春の歌
  元朝の富士
  伊豆の海岸にて
  田舎の春
  太陽出現
  春が来た
  二月の街
  我前に梅の花
  紅梅
  新柳
  牛込見附外
  市中沙塵
  弥生の歌
  四月の太陽
  雑草
  桃の花
  春の微風
  桜の歌
  緋桜
  春雨
  薔薇の歌(八章)
  牡丹の歌
  初夏
  夏の女王
  五月の歌
  五月礼讃
  南風
  五月の海
  チユウリツプ
  五月雨
  夏草
  たんぽぽの穂
  屋根の草
  五月雨と私
  隅田川
  朝日の前
  虞美人草
  罌粟の花
  散歩
  夏日礼讃
  庭の草
  暴風[#「暴風」は底本では「暴雨」]
  すいつちよ
  上総の勝浦
  木の間の泉
  草の葉
  蛇
  蜻蛉
  夏よ
  夏の力
  大荒磯崎にて
  女の友の手紙
  涼風
  地震後一年
  古簾
  虫干の日に
  机に凭りて
  蜂
  わが庭
  夏の朝
  蝉
  新秋
  初秋の歌
  初秋の月
  優しい秋[#「優しい秋」は底本では「優しい秩」]
  コスモスの花
  秋声
  秋
  街に住みて
  郊外
  海峡の朝
  秋の盛り
  朝顔の花
  晩秋
  電灯
  腐りゆく匂ひ
  十一月
  冬の木
  落葉
  冬の朝
  腐果
  冬の一日
  冬を憎む歌
  白樺
  雪の朝
  雪の上の鴉
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西土往来(欧洲旅行前及び旅中の詩廿九篇)
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  別離
  別後
  ひとり寝
  東京にて
  図案
  旅に立つ
  子等に
  巴里より葉書の上に
  エトワアルの広場
  薄暮
  □ルサイユの逍遥
  仏蘭西の海岸にて
  フオンテンブロウの森
  巴里郊外
  ツウル市にて
  セエヌ川
  芍薬
  ロダンの家の路
  飛行機
  モンマルトルの宿にて
  暗殺酒舗
  驟雨
  巴里の一夜
  ミユンヘンの宿
  伯林停車場
  和蘭陀の秋
  同じ時
  □愁
  モンソオ公園の雀
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冷たい夕飯(雑詩卅四篇)
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  我手の花
  一すぢ残る赤い道
  砂の塔
  古巣より
  人の言葉
  闇に釣る船
  灰色の一路
  厭な日
  風の夜
  小猫
  記事一章
  砂
  怖ろしい兄弟
  駄獣の群
  或年の夏
  三等局集配人
  壁
  不思議の街
  女は掠奪者
  冷たい夕飯
  真珠貝
  浪のうねり
  夏の歌
  五月の歌
  ロダン夫人の賜へる花束
  暑き日の午前
  隠れ蓑
  夜の机
  きちがひ茄子
  花子の歌四章(童謡)
  手の上の花
  一隅にて
  午前三時の鐘
  或日の寂しさ
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目次 終


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與謝野晶子
   晶子詩篇全集



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   雲片片
      (小曲五十六章)



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    草と人

如何(いか)なれば草よ、
風吹けば一方(ひとかた)に寄る。
人の身は然(しか)らず、
己(おの)が心の向き向きに寄る。
何(なに)か善(よ)き、何(なに)か悪(あ)しき、
知らず、唯(た)だ人は向き向き。


    鼠

わが家(いへ)の天井に鼠(ねずみ)栖(す)めり、
きしきしと音するは
鑿(のみ)とりて像を彫(きざ)む人
夜(よ)も寝ぬが如(ごと)し。
またその妻と踊りては
廻るひびき
競馬の勢(きほひ)あり。
わが物書く上に
屋根裏の砂ぼこり
はらはらと散るも
彼等いかで知らん。
されど我は思ふ、
我は鼠(ねずみ)と共に栖(す)めるなり、
彼等に食ひ物あれ、
よき温かき巣あれ、
天井に孔(あな)をも開(あ)けて
折折(をりをり)に我を覗(のぞ)けよ。


    賀川豐彦さん

わが心、程(ほど)を踰(こ)えて
高ぶり、他(た)を凌(しの)ぐ時、
何時(いつ)も何時(いつ)も君を憶(おも)ふ。

わが心、消えなんばかり
はかなげに滅入(めい)れば、また
何時(いつ)も何時(いつ)も君を憶(おも)ふ。

つつましく、謙(へりくだ)り、
しかも命と身を投げ出(い)だして
人と真理の愛に強き君、
ああ我が賀川豐彦(とよひこ)の君。


    人に答へて

時として独(ひとり)を守る。
時として皆と親(したし)む。
おほかたは険(けは)しき方(かた)に
先(ま)づ行(ゆ)きて命傷つく。
こしかたも是(こ)れ、
行(ゆ)く末(すゑ)も是(こ)れ。
許せ、我が斯(か)かる気儘(きまゝ)を。


    晩秋の草

野の秋更けて、露霜(つゆしも)に
打たるものの哀れさよ。
いよいよ赤む蓼(たで)の茎、
黒き実まじるコスモスの花、
さてはまた雑草のうら枯(か)れて
斑(まだら)を作る黄と緑。


    書斎

唯(た)だ一事(ひとこと)の知りたさに
彼(か)れを読み、其(そ)れを読み、
われ知らず夜(よ)を更かし、
取り散らす数数(かずかず)の書の
座を繞(めぐ)る古き巻巻(まきまき)。
客人(まらうど)[#ルビの「まらうど」は底本では「まろうど」]よ、これを見たまへ、
秋の野の臥(ふ)す猪(ゐ)の床(とこ)の
萩(はぎ)の花とも。


    我友

ともに歌へば、歌へば、
よろこび身にぞ余る。
賢きも智を忘れ、
富みたるも財を忘れ、
貧しき我等も労を忘れて、
愛と美と涙の中に
和楽(わらく)する一味(いちみ)の人。

歌は長きも好(よ)し、
悠揚(いうやう)として朗(ほがら)かなるは
天に似よ、海に似よ。
短きは更に好し、
ちらとの微笑(びせう)、端的の叫び。
とにかくに楽し、
ともに歌へば、歌へば。


    恋

わが恋を人問ひ給(たま)ふ。
わが恋を如何(いか)に答へん、
譬(たと)ふれば小(ちさ)き塔なり、
礎(いしずゑ)に二人(ふたり)の命、
真柱(まばしら)に愛を立てつつ、
層(そう)ごとに学と芸術、
汗と血を塗りて固めぬ。
塔は是(こ)れ無極(むきよく)の塔、
更に積み、更に重ねて、
世の風と雨に当らん。
猶(なほ)卑(ひく)し、今立つ所、
猶(なほ)狭し、今見る所、
天(あま)つ日も多くは射(さ)さず、
寒きこと二月の如(ごと)し。
頼めるは、微(かすか)なれども
唯(た)だ一つ内(うち)なる光。


    己(おの)が路(みち)

わが行(ゆ)く路(みち)は常日頃(つねひごろ)
三人(みたり)四人(よたり)とつれだちぬ、
また時として唯(た)だ一人(ひとり)。

一人(ひとり)行(ゆ)く日も華やかに、
三人(みたり)四人(よたり)と行(ゆ)くときは
更にこころの楽(たのし)めり。

我等は選(え)りぬ、己(おの)が路(みち)、
一(ひと)すぢなれど己(おの)が路(みち)、
けはしけれども己(おの)が路(みち)。


    また人に

病みぬる人は思ふこと
身の病(やまひ)をば先(さ)きとして
すべてを思ふ習ひなり。
我は年頃(としごろ)恋をして
世の大方(おほかた)を後(のち)にしぬ。
かかる立場の止(や)み難(がた)し、
人に似ざれと、偏(かたよ)れど。


    車の跡

ここで誰(たれ)の車が困つたか、
泥が二尺の口を開(あ)いて
鉄の輪にひたと吸ひ付き、
三度(みたび)四度(よたび)、人の滑(すべ)つた跡も見える。
其時(そのとき)、両脚(りやうあし)を槓杆(こうかん)とし、
全身の力を集めて
一気に引上げた心は
鉄ならば火を噴いたであらう。
ああ、自(みづか)ら励(はげ)む者は
折折(をりをり)、これだけの事にも
その二つと無い命を賭(か)ける。


    繋縛

木は皆その自(みづか)らの根で
地に縛られてゐる。
鳥は朝飛んでも
日暮には巣に返される。
人の身も同じこと、
自由な魂(たましひ)を持ちながら
同じ区、同じ町、同じ番地、
同じ寝台(ねだい)に起き臥(ふ)しする。


    帰途

わたしは先生のお宅を出る。
先生の視線が私の背中にある、
わたしは其(そ)れを感じる、
葉巻の香りが私を追つて来る、
わたしは其(そ)れを感じる。
玄関から御門(ごもん)までの
赤土の坂、並木道、
太陽と松の幹が太い縞(しま)を作つてゐる。
わたしはぱつと日傘を拡げて、
左の手に持ち直す、
頂いた紫陽花(あぢさゐ)の重たい花束。
どこかで蝉(せみ)が一つ鳴く。


    拍子木

風ふく夜(よ)なかに
夜(よ)まはりの拍子木(ひやうしぎ)の音、
唯(た)だ二片(ふたひら)の木なれど、
樫(かし)の木の堅くして、
年(とし)経(へ)つつ、
手ずれ、膏(あぶら)じみ、
心(しん)から重たく、
二つ触れては澄み入(い)り、
嚠喨(りうりやう)たる拍子木(ひやうしぎ)の音、
如何(いか)に夜(よ)まはりの心も
みづから打ち
みづから聴きて楽しからん。


    或夜(あるよ)

部屋ごとに点(つ)けよ、
百燭(しよく)の光。
瓶(かめ)ごとに生(い)けよ、
ひなげしと薔薇(ばら)と。
慰むるためならず、
懲(こ)らしむるためなり。
ここに一人(ひとり)の女、
讃(ほ)むるを忘れ、
感謝を忘れ、
小(ちさ)き事一つに
つと泣かまほしくなりぬ。


    堀口大學さんの詩

三十を越えて未(いま)だ娶(めと)らぬ
詩人大學(だいがく)先生の前に
実在の恋人現れよ、
その詩を読む女は多けれど、
詩人の手より
誰(た)が家(いへ)の女(むすめ)か放たしめん、
マリイ・ロオランサンの扇。


    岬

城(じやう)が島(しま)の
岬のはて、
笹(さゝ)しげり、
黄ばみて濡(ぬ)れ、
その下に赤き切□(きりぎし)、
近き汀(みぎは)は瑠璃(るり)、
沖はコバルト、
ここに来て暫(しば)し坐(すわ)れば
春のかぜ我にあつまる。


    静浦

トンネルを又一つ出(い)でて
海の景色かはる、
心かはる。
静浦(しづうら)の口の津。
わが敬(けい)する龍三郎(りゆうざぶらう)[#ルビの「りゆうざぶらう」は底本では「りうざぶらう」]の君、
幾度(いくたび)か此(この)水を描(か)き給(たま)へり。
切りたる石は白く、
船に当る日は桃色、
磯(いそ)の路(みち)は観(み)つつ曲る、
猶(なほ)しばし歩(あゆ)まん。


    牡丹

□ルサイユ宮(きゆう)[#ルビの「きゆう」は底本では「きう」]を過ぎしかど、
われは是(こ)れに勝(まさ)る花を見ざりき。
牡丹(ぼたん)よ、
葉は地中海の桔梗色(ききやういろ)と群青(ぐんじやう)とを盛り重ね、
花は印度(いんど)の太陽の赤光(しやくくわう)を懸けたり。
たとひ色相(しきさう)はすべて空(むな)しとも、
何(なに)か傷(いた)まん、
牡丹(ぼたん)を見つつある間(あひだ)は
豊麗炎※(えんねつ)[#「執/れっか」、11-上-10]の夢に我の浸(ひた)れば。


    弓

佳(よ)きかな、美(うつ)くしきかな、
矢を番(つが)へて、臂(ひぢ)張り、
引き絞りたる弓の形(かたち)。
射よ、射よ、子等(こら)よ、
鳥ならずして、射よ、
唯(た)だ彼(か)の空を。

的(まと)を思ふことなかれ、
子等(こら)と弓との共に作る
その形(かたち)こそいみじけれ、
唯(た)だ射よ、彼(か)の空を。


    秋思

わが思ひ、この朝ぞ
秋に澄み、一つに集まる。
愛と、死と、芸術と、
玲瓏(れいろう)として涼し。
目を上げて見れば
かの青空(あをそら)も我(わ)れなり、
その木立(こだち)も我(わ)れなり、
前なる狗子草(ゑのころぐさ)も
涙しとどに溜(た)めて
やがて泣ける我(わ)れなり。


    園中

蓼(たで)枯れて茎猶(なほ)紅(あか)し、
竹さへも秋に黄ばみぬ。
園(その)の路(みち)草に隠れて、
草の露昼も乾かず。
咲き残るダリアの花の
泣く如(ごと)く花粉をこぼす。
童部(わらはべ)よ、追ふことなかれ、
向日葵(ひまはり)の実を食(は)む小鳥。


    人知らず

翅(つばさ)無き身の悲しきかな、
常にありぬ、猶(なほ)ありぬ、
大空高く飛ぶ心。
我(わ)れは痩馬(やせうま)、黙黙(もくもく)と
重き荷を負ふ。人知らず、
人知らず、人知らず。


    飛行船

外(よそ)の国より胆太(きもぶと)に
そつと降りたる飛行船、
夜(よ)の間(ま)に去れば跡も無し。
我はおろかな飛行船、
君が心を覗(のぞ)くとて、
見あらはされた飛行船。


    柳

六(む)もと七(なゝ)もと立つ柳、
冬は見えしか、一列の
廃墟(はいきよ)に遺(のこ)る柱廊(ちゆうらう)[#ルビの「ちゆうらう」は底本では「ちうらう」]と。
春の光に立つ柳、
今日(けふ)こそ見ゆれ、美(うつ)くしく、
これは翡翠(ひすゐ)の殿(との)づくり。


    易者に

ものを知らざる易者かな、
我手(わがて)を見んと求むるは。
そなたに告げん、我がために
占ふことは遅れたり。
かの世のことは知らねども、
わがこの諸手(もろで)、この世にて、
上なき幸(さち)も、わざはひも、
取るべき限り満たされぬ。


    甥

甥(をひ)なる者の歎くやう、
「二十(はたち)越ゆれど、詩を書かず、
踊(をどり)を知らず、琴弾かず、
これ若き日と云(い)ふべきや、
富む家(いへ)の子と云(い)ふべきや。」
これを聞きたる若き叔母、
目の盲(し)ひたれば、手探りに、
甥(をひ)の手を執(と)り云(い)ひにけり、
「いと好(よ)し、今は家(いへ)を出よ、
寂(さび)しき我に似るなかれ。」


    花を見上げて

花を見上げて「悲し」とは
君なにごとを云(い)ひたまふ。
嬉(うれ)しき問ひよ、さればなり、
春の盛りの短くて、
早たそがれの青病(クロシス)が、
敏(さと)き感じにわななける
女の白き身の上に
毒の沁(し)むごと近づけば。


    我家の四男

おもちやの熊(くま)を抱く時は
熊(くま)の兄とも思ふらし、
母に先だち行(ゆ)く時は
母より路(みち)を知りげなり。
五歳(いつゝ)に満たぬアウギユスト、
みづから恃(たの)むその性(さが)を
母はよしやと笑(ゑ)みながら、
はた涙ぐむ、人知れず。


    正月

紅梅(こうばい)と菜(な)の花を生(い)けた壺(つぼ)。
正月の卓(テエブル)に
格別かはつた飾りも無い。
せめて、こんな暇にと、
絵具箱を開(あ)けて、
わたしは下手(へた)な写生をする。
紅梅(こうばい)と菜(な)の花を生(い)けた壺(つぼ)。


    唯一(ゆひいつ)の問(とひ)

唯(た)だ一つ、あなたに
お尋ねします。
あなたは、今、
民衆の中(なか)に在るのか、
民衆の外(そと)に在るのか、
そのお答(こたへ)次第で、
あなたと私とは
永劫(えいごふ)[#ルビの「えいごふ」は底本では「えいがふ」]、天と地とに
別れてしまひます。


    秋の朝

白きレエスを透(とほ)す秋の光
木立(こだち)と芝生との反射、
外(そと)も内(うち)も
浅葱(あさぎ)の色に明るし。
立ちて窓を開けば
木犀(もくせい)の香(か)冷(ひや)やかに流れ入(い)る。

椅子(いす)の上に少しさし俯(うつ)向き、
己(おの)が手の静脈の
ほのかに青きを見詰めながら、
静かなり、今朝(けさ)の心。


    秋の心

歌はんとして躊躇(ためら)へり、
かかる事、昨日(きのふ)無かりき。
善(よ)し悪(あ)しを云(い)ふも慵(ものう)し、
これもまた此(この)日の心。

我(わ)れは今ひともとの草、
つつましく濡(ぬ)れて項垂(うなだ)[#「項垂」は底本では「頂垂」]る。
悲しみを喜びにして
爽(さわや)かに大いなる秋。


    今宵の心

何(なん)として青く、
青く沈み入(い)る今宵(こよひ)の心ぞ。
指に挟(はさ)む筆は鉄の重味、
書きさして見詰むる紙に
水の光流る。


    我歌

求めたまふや、わが歌を。
かかる寂(さび)しきわが歌を。
それは昨日(きのふ)の一(ひと)しづく、
底に残りし薔薇(ばら)の水。
それは千(ち)とせの一(ひと)かけら、
砂に埋(うも)れし青き玉(たま)。


    憎む

憎む、
どの玉葱(たまねぎ)も冷(ひやゝ)かに
我を見詰めて緑なり。

憎む、
その皿の余りに白し、
寒し、痛し。

憎む、
如何(いか)なれば二方(にはう)の壁よ、
云(い)ひ合せて耳を立つるぞ。


    悲しければ

堪(た)へ難(がた)く悲しければ
我は云(い)ひぬ「船に乗らん。」
乗りつれど猶(なほ)さびしさに
また云(い)ひぬ「月の出を待たん。」
海は閉ぢたる書物の如(ごと)く
呼び掛くること無く、
しばらくして、円(まる)き月
波に跳(をど)りつれば云(い)ひぬ、
「長き竿(さを)の欲(ほ)し、
かの珊瑚(さんご)の魚(うを)を釣る。」


    緋目高(ひめだか)

鉢のなかの
活溌(くわつぱつ)な緋目高(ひめだか)よ、
赤く焼けた釘(くぎ)で
なぜ、そんなに無駄に
水に孔(あな)を開(あ)けるのか。
気の毒な先覚者よ、
革命は水の上に無い。


    涼夜(りやうや)

星が四方(しはう)の桟敷に
きらきらする。
今夜の月は支那(しな)の役者、
やさしい西施(せいし)に扮(ふん)して、
白い絹団扇(うちは)で顔を隠し、
ほがらかに秋を歌ふ。


    卑怯

その路(みち)をずつと行(ゆ)くと
死の海に落ち込むと教へられ、
中途で引返した私、
卑怯(ひけふ)な利口者(りこうもの)であつた私、
それ以来、私の前には
岐路(えだみち)と
迂路(まはりみち)とばかりが続いてゐる。


    水楼にて

空には七月の太陽、
白い壁と白い河岸(かし)通りには
海から上(のぼ)る帆柱の影。
どこかで鋼鉄の板を叩(たゝ)く
船大工の槌(つち)がひびく。
私の肘(ひぢ)をつく窓には
快い南風(みなみかぜ)。
窓の直(す)ぐ下の潮は
ペパミントの酒(さけ)になる。


    批評

我を値踏(ねぶみ)す、かの人ら。
げに買はるべき我ならめ、
かの太陽に値(ね)のあらば。


    過ぎし日

先(ま)づ天(あま)つ日を、次に薔薇(ばら)、
それに見とれて時経(ときへ)しが、
疲れたる目を移さんと、
して漸(やうや)くに君を見き。


    春風(はるかぜ)

そこの椿(つばき)に木隠(こがく)れて
何(なに)を覗(のぞ)くや、春の風。
忍ぶとすれど、身じろぎに
赤い椿(つばき)の花が散る。

君の心を究(きは)めんと、
じつと黙(もだ)してある身にも
似るか、素直な春の風、
赤い笑(ゑ)まひが先に立つ。


    或人の扇に

扇を取れば舞をこそ、
筆をにぎれば歌をこそ、
胸ときめきて思ふなれ。
若き心はとこしへに
春を留(とゞ)むるすべを知る。


    桃の花

花屋の温室(むろ)に、すくすくと
きさくな枝の桃が咲く。
覗(のぞ)くことをば怠るな、
人の心も温室(むろ)なれば。


    杯(さかづき)

なみなみ注(つ)げる杯(さかづき)を
眺めて眸(まみ)の湿(うる)むとは、
如何(いか)に嬉(うれ)しき心ぞや。
いざ干したまへ、猶(なほ)注(つ)がん、
後(のち)なる酒は淡(うす)くとも、
君の知りたる酒なれば、
我の追ひ注(つ)ぐ酒なれば。


    日和山(ひよりやま)

鳥羽の山より海見れば、
清き涙が頬(ほ)を伝ふ。
人この故を問はであれ、
口に云(い)ふとも尽きじかし。
知らんとならば共に見よ、
臥(ふ)せる美神(□ニユス)の肌のごと
すべて微笑(ほゝゑ)む入江をば。
志摩の国こそ希臘(ギリシヤ)なれ。


    春草(しゆんさう)

弥生(やよひ)はじめの糸雨(いとさめ)に
岡(をか)の草こそ青むなれ。
雪に跳(をど)りし若駒(わかごま)の
ひづめのあとの窪(くぼ)みをも
円(まろ)く埋(うづ)めて青むなれ。


    二月の雨

あれ、琵琶(びは)のおと、俄(には)かにも
初心(うぶ)な涙の琵琶(びは)のおと。
高い軒(のき)から、明方(あけがた)の
夢に流れる琵琶(びは)のおと。

二月の雨のしほらしや、
咲かぬ花をば恨めども、
ブリキの樋(とひ)に身を隠し、
それと云(い)はずに琵琶(びは)を弾く。


    秋の柳

夜更(よふ)けた辻(つじ)の薄墨の
痩(や)せた柳よ、糸やなぎ。
七日(なぬか)の月が細細(ほそほそ)と
高い屋根から覗(のぞ)けども、
なんぼ柳は寂(さび)しかろ。
物思ふ身も独りぼち。


    冬のたそがれ

落葉(おちば)した木はY(ワイ)の字を
墨くろぐろと空に書き、
思ひ切つたる明星(みやうじやう)は
黄金(きん)の句点を一つ打つ。
薄く削つた白金(プラチナ)の
神経質の粉雪よ、
瘧(おこり)を慄(ふる)ふ電線に
ちくちく触(さは)る粉雪よ。


    惜しき頸輪

我もやうやく街に立ち、
物乞(こ)ふために歌ふなり。
ああ、我歌(わがうた)を誰(た)れ知らん、
惜しき頸輪(くびわ)の緒(を)を解きて
日毎(ひごと)に散らす珠(たま)ぞとは。


    思(おもひ)は長し

思(おもひ)は長し、尽き難(がた)し、
歌は何(いづ)れも断章(フラグマン)。
たとひ万年生きばとて
飽くこと知らぬ我なれば、
恋の初めのここちせん。


    蝶

羽(はね)の斑(まだら)は刺青(いれずみ)か、
短気なやうな蝶(てふ)が来る。
今日(けふ)の入日(いりひ)の悲しさよ。
思ひなしかは知らねども、
短気なやうな蝶(てふ)が来る。


    欲望

彼(か)れも取りたし、其(そ)れも欲(ほ)し、
飽かぬ心の止(や)み難(がた)し。

時は短し、身は一つ、
多く取らんは難(かた)からめ、
中に極めて優れしを
今は得んとぞ願ふなる。

されば近きをさし措(お)きて、
及ばぬ方(かた)へ手を伸ぶる。

[#ここで段組終わり]


[#改丁]


[#ページの左右中央から]

   小鳥の巣
       (押韻小曲五十九章)



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[#ここから2段組]
小序。詩を作り終りて常に感ずることは、我国の詩に押韻の体なきために、句の独立性の確実に対する不安なり。散文の横書にあらずやと云ふ非難は、放縦なる自由詩の何れにも伴ふが如し。この欠点を救ひて押韻の新体を試みる風の起らんこと、我が年久しき願ひなり。みづから興に触れて折折に試みたる拙きものより、次に其一部を抄せんとす。押韻の法は唐以前の古詩、または欧洲の詩を参照し、主として内心の自律的発展に本づきながら、多少の推敲を加へたり。コンソナンツを避けざるは仏蘭西近代の詩に同じ。毎句に同韻を押し、または隔句に同語を繰返して韻に押すは漢土の古詩に例多し。(一九二八年春)

    ×
砂を掘つたら血が噴いて、
入れた泥鰌(どぢやう)が竜(りよう)になる。
ここで暫(しばら)く絶句して、
序文に凝(こ)つて夜(よ)が明けて、
覚めた夢から針が降る。
    ×
時に先だち歌ふ人、
しひたげられて光る人、
豚に黄金(こがね)をくれる人、
にがい笑(わらひ)を隠す人、
いつも一人(ひとり)で帰る人。
    ×
赤い桜をそそのかし、
風の癖(くせ)なるしのび足、
ひとりで聞けば恋慕(れんぼ)らし。
雨はもとより春の糸、
窓の柳も春の糸。
    ×
見る夢ならば大きかれ、
美(うつ)くしけれど遠き夢、
険(けは)しけれども近き夢。
われは前をば選びつれ、
わかき仲間は後(のち)の夢。
    ×
すべてが消える、武蔵野の
砂を吹きまく風の中、
人も荷馬車も風の中。
すべてが消える、金(きん)の輪の
太陽までが風の中。
    ×
花を抱きつつをののきぬ、
花はこころに被(かぶ)さりぬ。
論じたまふな、善(よ)き、悪(あ)しき、
何(なに)か此(この)世に分(わか)つべき。
花と我とはかがやきぬ。
    ×
凡骨(ぼんこつ)さんの大事がる
薄い細身の鉄の鑿(のみ)。
髪に触れても刄(は)の欠ける
もろい鑿(のみ)ゆゑ大事がる。
わたしも同じもろい鑿(のみ)。
    ×
林檎(りんご)が腐る、香(か)を放つ、
冷たい香(か)ゆゑ堪(た)へられぬ。
林檎(りんご)が腐る、人は死ぬ、
最後の文(ふみ)が人を打つ、
わたしは君を悲(かなし)まぬ。
    ×
いつもわたしのむらごころ、
真紅(しんく)の薔薇(ばら)を摘むこころ、
雪を素足で踏むこころ、
青い沖をば行(ゆ)くこころ、
切れた絃(いと)をばつぐこころ。
    ×
韻がひびかぬ、死んでゐる、
それで頻(しき)りに書いてみる。
皆さんの愚痴、おのが無智、
誰(た)れが覗(のぞ)いた垣の中(うち)、
戸は立てられぬ人の口。
    ×
泥の郊外、雨が降る、
濡(ぬ)れた竈(かまど)に木がいぶる、
踏切番が旗を振る、
ぼうぼうとした草の中
屑屋(くづや)も買はぬ人の故(ふる)。
    ×
指のさはりのやはらかな
青い煙の匂(にほ)やかな、
好きな細巻、名はDIANA(デイアナ)。
命の闇(やみ)に火をつけて、
光る刹那(せつな)の夢の華。
    ×
青い空から鳥がくる、
野辺(のべ)のけしきは既に春、
細い枝にも花がある。
遠い高嶺(たかね)と我がこころ
すこしの雪がまだ残る。
    ×
槌(つち)を上げる手、鍬(くは)打つ手、
扇を持つ手、筆とる手、
炭をつかむ手、児(こ)を抱く手、
かげに隠れて唯(た)だひとつ
見えぬは天をゆびさす手。
    ×
高い木末(こずゑ)に葉が落ちて
あらはに見える、小鳥の巣。
鳥は飛び去り、冬が来て、
風が吹きまく砂つぶて。
ひろい野中(のなか)の小鳥の巣。
    ×
人は黒黒(くろぐろ)ぬり消せど
すかして見える底の金(きん)。
時の言葉は隔(へだ)つれど
冴(さ)ゆるは歌の金(きん)の韻。
ままよ、暫(しばら)く隅(すみ)に居ん。
    ×
いつか大きくなるままに
子らは寝に来(こ)ず、母の側(そば)。
母はまだまだ云(い)ひたきに、
金(きん)のお日様、唖(おし)の驢馬(ろば)、
おとぎ噺(ばなし)が云(い)ひたきに。
    ×
ふくろふがなく、宵になく、
山の法師がつれてなく。
わたしは泣かない気でゐれど、
からりと晴れた今朝(けさ)の窓
あまりに青い空に泣く。
    ×
おち葉した木が空を打ち、
枝も小枝も腕を張る。
ほんにどの木も冬に勝ち、
しかと大地(たいち)に立つてゐる。
女ごころはいぢけがち。
    ×
玉葱(たまねぎ)の香(か)を嗅(か)がせても
青い蛙(かへる)はむかんかく。
裂けた心を目にしても
廿(にじふ)世紀は横を向く、
太陽までがすまし行(ゆ)く。
    ×
話は春の雪の沙汰(さた)、
しろい孔雀(くじやく)のそだてかた、
巴里(パリイ)の夢をもたらした
荻野(をぎの)綾子(あやこ)の宵の唄(うた)、
我子(わがこ)がつくる薔薇(ばら)の畑(はた)。
    ×
誰(た)れも彼方(かなた)へ行(ゆ)きたがる、
明るい道へ目を見張る、
おそらく其処(そこ)に春がある。
なぜか行(ゆ)くほどその道が
今日(けふ)のわたしに遠ざかる。
    ×
青い小鳥のひかる羽(はね)、
わかい小鳥の躍る胸、
遠い海をば渡りかね、[#「渡りかね、」は底本では「渡りかね、」」]
泣いてゐるとは誰(だ)れが知ろ、
まだ薄雪の消えぬ峰。
    ×
つうちで象をつうくつた[#「つうくつた」は底本では「つくつた」]、
大きな象が目に立つた、
象の祭がさあかえた、
象が俄(には)かに吼(ほ)えだした、
吼(ほ)えたら象がこおわれた。
    ×
まぜ合はすのは目ぶんりやう、
その振るときのたのしさう。
かつくてえるのことでない、
わたしの知つたことでない、
若い手で振る無産党。
    ×
鳥を追ふとて安壽姫(あんじゆひめ)、
母に逢(あ)ひたや、ほおやらほ。
わたしも逢(あ)ひたや、猶(なほ)ひと目、
載せて帰らぬ遠い夢、
どこにゐるやら、真赤(まつか)な帆。
    ×
鳥屋が百舌(もず)を飼はぬこと、
そのひと声に百鳥(ももどり)が
おそれて唖(おし)に変ること、
それに加へて、あの人が
なぜか折折(をりをり)だまること。
    ×
逆(さか)しに植ゑた戯れに
あかい芽をふく杖(つゑ)がある。
指を触れたか触れぬ間(ま)に
石から虹(にじ)が舞ひあがる。
寝てゐた豹(へう)の目が光る。
    ×
われにつれなき今日(けふ)の時、
花を摘み摘み行(ゆ)き去りぬ。
唯(た)だやさしきは明日(あす)の時、
われに著(き)せんと、光る衣(きぬ)
千(ち)とせをかけて手に編みぬ。
    ×
がらすを通し雪が積む、
こころの桟(さん)に雪が積む、
透(す)いて見えるは枯れすすき、
うすい紅梅(こうばい)、やぶつばき、
青いかなしい雪が積む。
    ×
はやりを追へば切りがない、
合言葉をばけいべつせい。
よくも揃(そろ)うた赤インキ、
ろしあまがひの左書(ひだりが)き、
先(ま)づは二三日(にさにち)あたらしい。
    ×
うぐひす、そなたも雪の中、
うぐひす、そなたも悲しいか。
春の寒さに音(ね)が細る、
こころ余れど身が凍(こほ)る。
うぐひす、そなたも雪の中。
    ×
あまりに明るい、奥までも
開(あ)けはなちたるがらんだう、
つばめの出入(でいり)によけれども
ないしよに逢(あ)ふになんとせう、
闇夜(やみよ)も風が身に沁(し)まう。
    ×
摘め、摘め、誰(た)れも春の薔薇(ばら)、
今日(けふ)の盛りの紅(あか)い薔薇(ばら)、
今日(けふ)に倦(あ)いたら明日(あす)の薔薇(ばら)、
とがるつぼみの青い薔薇(ばら)、
摘め、摘め、誰(た)れも春の薔薇(ばら)。
    ×
己(おの)が痛さを知らぬ虫、
折れた脚(あし)をも食(は)むであろ。
人の言葉を持たぬ牛、
云(い)はずに死ぬることであろ。
ああ虫で無し、牛でなし。
    ×
夢にをりをり蛇を斬(き)る、
蛇に巻かれて我が力
為(し)ようこと無しに蛇を斬(き)る。
それも苦しい夢か知ら、
人が心で人を斬(き)る。
    ×
身を云(い)ふに過ぐ、外(ほか)を見よ、
黙黙(もくもく)として我等あり、
我が痛さより痛きなり。
他(た)を見るに過ぐ、目を閉ぢよ、
乏しきものは己(おの)れなり。
    ×
論ずるをんな糸採(と)らず、
みちびく男たがやさず、
大学を出ていと賢(さか)し、
言葉は多し、手は白し、
之(こ)れを耻(は)ぢずば何(なに)を耻(は)づ。
    ×
人に哀れを乞(こ)ひて後(のち)、
涙を流す我が命。
うら耻(はづ)かしと知りながら、
すべて貧しい身すぎから。
ああ我(わ)れとても人の中(うち)。
    ×
浪(なみ)のひかりか、月の出か、
寝覚(ねざめ)を照(てら)す、窓の中。
遠いところで鴨(かも)が啼(な)き、
心に透(とほ)る、海の秋。
宿は岬の松の岡(をか)。
    ×
十国(じつこく)峠、名を聞いて
高い所に来たと知る。
世(よ)離(はな)れたれば、人を見て
路(みち)を譲らぬ牛もある。
海に真赤(まつか)な日が落ちる。
    ×
すべての人を思ふより、
唯(た)だ一人(ひとり)には背(そむ)くなり。
いと寂(さび)しきも我が心、
いと楽しきも我が心。
すべての人を思ふより。
    ×
雲雀(ひばり)は揚がる、麦生(むぎふ)から。
わたしの歌は涙から。
空の雲雀(ひばり)もさびしかろ、
はてなく青いあの虚(うつ)ろ、
ともに已(や)まれぬ歌ながら。
    ×
鏡の間(ま)より出(い)づるとき、
今朝(けさ)の心ぞやはらかき。
鏡の間(ま)には塵(ちり)も無し、
あとに静かに映れかし、
鸚哥(インコ)の色の紅(べに)つばき。
    ×
そこにありしは唯(た)だ二日、
十和田の水が其(そ)の秋の
呼吸(いき)を猶(なほ)する、夢の中。
痩(や)せて此頃(このごろ)おもざしの
青ざめゆくも水ゆゑか。
    ×
つと休らへば素直なり、
藤(ふぢ)のもとなる低き椅子(いす)。
花を透(とほ)して日のひかり
うす紫の陰影(かげ)を着(き)す。
物みな今日(けふ)は身に与(くみ)す。
    ×
海の颶風(あらし)は遠慮無し、
船を吹くこと矢の如(ごと)し。
わたしの船の上がるとき、
かなたの船は横を向き、
つひに別れて西ひがし。
    ×
笛にして吹く麦の茎、
よくなる時は裂ける時。
恋の脆(もろ)さも麦の笛、
思ひつめたる心ゆゑ
よく鳴る時は裂ける時。
    ×
地獄の底の火に触れた、
薔薇(ばら)に埋(うづ)まる床(とこ)に寝た、
金(きん)の獅子(しし)にも乗り馴(な)れた、
天(てん)に中(ちう)する日も飽(あ)いた、
己(おの)が歌にも聞き恍(ほ)れた。
    ×
春風(はるかぜ)の把(と)る彩(あや)の筆
すべての物の上を撫(な)で、
光と色に尽(つく)す派手。
ことに優れてめでたきは
牡丹(ぼたん)の花と人の袖(そで)。
    ×
涙に濡(ぬ)れて火が燃えぬ。
今日(けふ)の言葉に気息(いき)がせぬ、
絵筆を把(と)れど色が出ぬ、
わたしの窓に鳥が来(こ)ぬ、
空には白い月が死ぬ。
    ×
あの白鳥(はくてう)も近く来る、
すべての花も目を見はる、
青い柳も手を伸べる。
君を迎へて春の園(その)
路(みち)の砂にも歌がある。
    ×
大空(おほそら)ならば指ささん、
立つ波ならば濡(ぬ)れてみん、
咲く花ならば手に摘まん。
心ばかりは形無(かたちな)し、
偽りとても如何(いか)にせん。
    ×
人わが門(かど)を乗りて行(ゆ)く、
やがて消え去る、森の奥。
今日(けふ)も南の風が吹く。
馬に乗る身は厭(いと)はぬか、
野を白くする砂の中。
    ×
鳥の心を君知るや、
巣は雨ふりて冷ゆるとも
雛(ひな)を素直に育てばや、
育てし雛(ひな)を吹く風も
塵(ちり)も無き日に放たばや。
    ×
牡丹(ぼたん)のうへに牡丹(ぼたん)ちり、
真赤(まつか)に燃えて重なれば、
いよいよ青し、庭の芝。
ああ散ることも光なり、
かくの如(ごと)くに派手なれば。[#「なれば。」は底本では「なれば、」]
    ×
閨(ねや)にて聞けば[#「聞けば」は底本では「聞けは」]朝の雨
半(なかば)は現実(うつゝ)、なかば夢。
やはらかに降る、花に降る、
わが髪に降る、草に降る、
うす桃色の糸の雨。
    ×
赤い椿(つばき)の散る軒(のき)に
埃(ほこり)のつもる臼(うす)と杵(きね)、
莚(むしろ)に干すは何(なん)の種。
少し離れて垣(かき)越(こ)しに
帆柱ばかり見える船。
    ×
三(み)たび曲つて上(のぼ)る路(みち)、
曲り目ごとに木立(こだち)より
青い入江(いりえ)の見える路(みち)、
椿(つばき)に歌ふ山の鳥
花踏みちらす苔(こけ)の路(みち)。

[#ここで段組終わり]


[#改丁]


[#ページの左右中央から]

   夢と現実
       (雑詩四十章)



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[#ここから2段組]

    明日

明日(あす)よ、明日(あす)よ、
そなたはわたしの前にあつて
まだ踏まぬ未来の
不可思議の路(みち)である。
どんなに苦しい日にも、わたしは
そなたに憬(こが)れて励(はげ)み、
どんなに楽(たのし)い日にも、わたしは
そなたを望んで踊りあがる。

明日(あす)よ、明日(あす)よ、
死と飢(うゑ)とに追はれて歩くわたしは
たびたびそなたに失望する。
そなたがやがて平凡な今日(けふ)に変り、
灰色をした昨日(きのふ)になつてゆくのを
いつも、いつもわたしは恨んで居る。
そなたこそ人を釣る好(よ)い香(にほひ)の餌(ゑさ)だ、
光に似た煙だと咀(のろ)ふことさへある。

けれど、わたしはそなたを頼んで、
祭の前夜の子供のやうに
「明日(あす)よ、明日(あす)よ」と歌ふ。
わたしの前には
まだまだ新しい無限の明日(あす)がある。
よしや、そなたが涙を、悔(くい)を、愛を、
名を、歓楽を、何(なに)を持つて来よう[#「よう」は底本では「やう」]とも、
そなたこそ今日(けふ)のわたしを引く力である。


    肖像

わが敬(けい)する画家よ、
願(ねがは)くは、我がために、
一枚の像を描(ゑが)きたまへ。

バツクには唯(た)だ深夜の空、
無智と死と疑惑との色なる黒に、
深き悲痛の脂色(やにいろ)を交ぜたまへ。

髪みだせる裸の女、
そは青ざめし肉塊とのみや見えん。
じつと身ゆるぎもせず坐(すわ)りて、
尽きぬ涙を手に受けつつ傾く。
前なる目に見えぬ無底(むてい)の淵(ふち)を覗(のぞ)く姿勢(かたち)。

目は疲れてあり、
泣く前に、余りに現実を見たるため。
口は堅く緊(しま)りぬ、
未(いま)だ一(ひと)たびも言はず歌はざる其(そ)れの如(ごと)く。

わが敬(けい)する画家よ、
若(も)し此(この)像の女に、
明日(あす)と云(い)ふ日のありと知らば、
トワルの何(いづ)れかに黄金(きん)の目の光る一羽(いちは)の梟(ふくろふ)を添へ給(たま)へ。
されど、そは君が意に任せん、わが知らぬことなり。

さて画家よ、彩料(さいれう)には
わが好むパステルを用ひたまへ、
剥落(はくらく)と褪色(たいしよく)とは
恐らく此(この)像の女の運命なるべければ。


    読後

晶子、ヅアラツストラを一日一夜(いちにちいちや)に読み終り、
その暁(あかつき)、ほつれし髪を掻(かき)上げて呟(つぶや)きぬ、
「辞(ことば)の過ぎたるかな」と。
しかも、晶子の動悸(どうき)は羅(うすもの)を透(とほ)して慄(ふる)へ、
その全身の汗は産(さん)の夜(よ)の如(ごと)くなりき。

さて十日(とをか)経(へ)たり。
晶子は青ざめて胃弱の人の如(ごと)く、
この十日(とをか)、良人(をつと)と多く語らず、我子等(わがこら)を抱(いだ)かず。
晶子の幻(まぼろし)に見るは、ヅアラツストラの
黒き巨像の上げたる右の手なり。


    紅い夢

茜(あかね)と云(い)ふ草の葉を搾(しぼ)れば
臙脂(べに)はいつでも採(と)れるとばかり
わたしは今日(けふ)まで思つてゐた。
鉱物からも、虫からも
立派な臙脂(べに)は採(と)れるのに。
そんな事はどうでもよい、
わたしは大事の大事を忘れてた、
夢からも、
わたしのよく見る夢からも、
こんなに真赤(まつか)な臙脂(べに)の採(と)れるのを。


    アウギユスト

アウギユスト、アウギユスト、
わたしの五歳(いつつ)になるアウギユスト、
おまへこそは「真実」の典型。
おまへが両手を拡げて
自然にする身振の一つでも、
わたしは、どうして、
わたしの言葉に訳すことが出来よう。
わたしは唯(た)だ
ほれぼれと其(そ)れを眺めるだけですよ、
喜んで目を見張るだけですよ。
アウギユスト、アウギユスト、
母の粗末な芸術なんかが
ああ、何(なん)にならう。
私はおまへに由(よ)つて知ることが出来た。
真実の彫刻を、
真実の歌を、
真実の音楽を、
そして真実の愛を。
おまへは一瞬ごとに
神変(しんぺん)不思議を示し、
玲瓏(れいろう)円転として踊り廻る。


    産室(うぶや)の夜明(よあけ)

硝子(ガラス)の外(そと)のあけぼのは
青白(あおしろ)き繭(まゆ)のここち……
今一(ひと)すぢ仄(ほの)かに
音せぬ枝珊瑚(えださんご)の光を引きて、
わが産室(うぶや)の壁を匍(は)ふものあり。
と見れば、嬉(うれ)し、
初冬(はつふゆ)のかよわなる
日の蝶(てふ)の出(い)づるなり。[#「なり。」は底本では「なり、」]

ここに在るは、
八(や)たび死より逃れて還(かへ)れる女――
青ざめし女われと、
生れて五日(いつか)目なる
我が藪椿(やぶつばき)の堅き蕾(つぼみ)なす娘エレンヌと
一瓶(いちびん)の薔薇(ばら)と、
さて初恋の如(ごと)く含羞(はにか)める
うす桃色の日の蝶(てふ)と……
静かに清清(すがすが)しき曙(あけぼの)かな。
尊(たふと)くなつかしき日よ、われは今、
戦ひに傷つきたる者の如(ごと)く
疲れて低く横たはりぬ。
されど、わが新しき感激は
拝日(はいにち)教徒の信の如(ごと)し、
わがさしのぶる諸手(もろで)を受けよ、
日よ、曙(あけぼの)の女王(ぢよわう)よ。

日よ、君にも夜(よる)と冬の悩みあり、
千万年の昔より幾億たび、
死の苦に堪(た)へて若返る
天(あま)つ焔の力の雄雄(をを)しきかな。
われは猶(なほ)君に従はん、
わが生きて返れるは纔(わずか)に八(や)たびのみ
纔(わづか)に八(や)たび絶叫と、血と、
死の闇(やみ)とを超えしのみ。


    颱風

ああ颱風、
初秋(はつあき)の野を越えて
都を襲ふ颱風、
汝(なんぢ)こそ逞(たくま)しき大馬(おほうま)の群(むれ)なれ。

黄銅(くわうどう)の背(せな)、
鉄の脚(あし)、黄金(きん)の蹄(ひづめ)、
眼に遠き太陽を掛け、
鬣(たてがみ)に銀を散らしぬ。

火の鼻息(はないき)に
水晶の雨を吹き、
暴(あら)く斜めに、
駆歩(くほ)す、駆歩(くほ)す。

ああ抑(おさ)へがたき
天(てん)の大馬(おほうま)の群(むれ)よ、
怒(いか)れるや、
戯れて遊ぶや。

大樹(だいじゆ)は逃(のが)れんとして、
地中の足を挙げ、
骨を挫(くじ)き、手を折る。
空には飛ぶ鳥も無し。

人は怖(おそ)れて戸を鎖(さ)せど、
世を裂く蹄(ひづめ)の音に
屋根は崩れ、
家(いへ)は船よりも揺れぬ。

ああ颱風、
人は汝(なんぢ)によりて、
今こそ覚(さ)むれ、
気不精(きぶしやう)と沮喪(そさう)とより。

こころよきかな、全身は
巨大なる象牙(ざうげ)の
喇叭(らつぱ)のここちして、
颱風と共に嘶(いなゝ)く。


    冬が始まる

おお十一月、
冬が始まる。
冬よ、冬よ、
わたしはそなたを讃(たゝ)へる。
弱い者と
怠(なま)け者とには
もとより辛(つら)い季節。
しかし、四季の中に、
どうしてそなたを欠くことが出来よう。
健(すこや)かな者と
勇敢な者とが
試(た)めされる季節、
否(いな)、みづから試(た)めす季節。
おお冬よ、
そなたの灰色の空は
人を圧(あつ)しる。
けれども、常に心の曇らぬ人は
その空の陰鬱(いんうつ)に克(か)つて、
そなたの贈る
沍寒(ごかん)[#ルビの「ごかん」は底本では「ごうかん」]と、霜と、
雪と、北風とのなかに、
常に晴やかな太陽を望み、
春の香(か)を嗅(か)ぎ、
夏の光を感じることが出来る。
青春を引立てる季節、
ほんたうに血を流す
活動の季節、
意力を鞭(むち)打つ季節、
幻想を醗酵する季節、
冬よ、そなたの前に、
一人(ひとり)の厭人主義者(ミザントロオプ)も無ければ、
一人(ひとり)の卑怯(ひけふ)者も無い、
人は皆、十二の偉勲を建てた
ヘルクレスの子孫のやうに見える。

わたしは更に冬を讃(たゝ)へる。
まあ何(なん)と云(い)ふ
優しい、なつかしい他(た)の一面を
冬よ、そなたの持つてゐることぞ。
その永い、しめやかな夜(よる)。……
榾(ほだ)を焚(た)く田舎の囲炉裏(いろり)……
都会のサロンの煖炉(ストオブ)……
おお家庭の季節、夜会(やくわい)の季節
会話の、読書の、
音楽の、劇の、踊(をどり)の、
愛の、鑑賞の、哲学の季節、
乳呑児(ちのみご)のために
罎(びん)の牛乳の腐らぬ季節、
小(ち)さいセエヴルの杯(さかづき)で
夜会服(ロオブデコルテ)の
貴女(きぢよ)も飲むリキユルの季節。
とり分(わ)き日本では
寒念仏(かんねんぶつ)の、
臘八(らふはち)坐禅の、
夜業の、寒稽古(かんげいこ)の、
砧(きぬた)の、香(かう)の、
茶の湯の季節、

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