金のくびかざり
[青空文庫|▼Menu|JUMP]
著者名:小野浩 

        一

 よし子さんのお家も、あすは、クリスマスです。
 毛なみの、つやつやした、まっ黒いネコは、夜どおし、煙突のてっぺんにすわって、サンタクローズのおじいさんが、このお家をまちがいなく見つけてくれればいいがと、黄色い目をひからせて、見つめていました。よし子さんは今夜は、きっと、おじいさんが、あたしのほしくてほしくてたまらない、小さな金のくびかざりを持って来てくれるにちがいないと言って、おねんねをしました。
 イヌは、家(うち)の中の煙突の下を、ふさふさしたしっぽで、きれいにお掃除をしました。せっかくサンタおじいさんが、金のくびかざりをもって煙突から下りて来ても、そこがあまりきれいでなくては、いやな気持になって帰ってしまうかもしれないからです。
「オウムさん、あなたはこのクリスマスに、よし子さんには何をして上げるの。」
と、イヌは、籠(かご)の中のオウムに声をかけました。
「私(あたし)は、お目ざめのうたをうたって上げるわ。」と、オウムは言いました。
「それは毎朝のことで、別にめずらしくもないじゃないの。」
「でも、いつものうたとはちがうのよ。あたしが、さっき、つくったばかりの、それはいいうたなんですの。」と、オウムは言いました。
「ふふん、うたなんか、うたったって、クリスマスの役には立たないや。ごらんよ、ぼくたちのやってることを。ネコがこの上にいて目を光らせていなかったらこの家(うち)は空から見えないし、僕がここをきれいにしておかなければ、おじいさんははいって来(き)やしないよ。僕たちのすることは、こんなものだ。」
 イヌは、しっぽを振って、大いばりにいばりました。
「あたしだって、何かしたいのだけれど、でも、籠の中にいるんですもの。あたしにはうたをうたうことしか、出来ないわ……。今に、いい節がつくんだけれど。」
 オウムは、さびしそうに、小さな声でこう言いました。イヌは、それには、ヘんじもしないで、
「では、僕は、おじいさんが来るまで、一寝入りするんだ。」
 こう言って、ごろりと、横になってしまいました。

        二

 お部屋(へや)の中はしいんとして、夜(よる)が、だんだんふけていきました。
 しばらくすると、屋根の上に、みしみしという足音が聞えました。イヌは、はっと目をさまして聞耳を立てました。オウムは、ずっと、ねないで、まっていたのです。
「掃除はきれいに出来たかな。」
 サンタクローズのおじいさんは、こう言いながら、えんとつの上にいたネコを背中にしょって、すらりと、お部屋へ下りて来ました。そして、ポケットから、かきつけを出して、
「ええッと、よし子さんは何がほしいのだったかな。」と、言い言い読みかえしました。
「私(あたし)の歩き人形にはお靴(くつ)を二つ。
 白い熊(くま)ちゃんには毛皮の帽子を。
 ネコにはちりちりと鳴る鈴を。
 イヌにはぴかぴか光る首輪を一つ。
 オウムにはあたらしいうたのふしを
 それから、私(あたし)には……」
 サンタおじいさんは、そこでつまってしまいました。暗くて字がよく見えないので、かきつけを眼のそばによせて、
「はてな、よし子さんのほしいものは何だったっけな。」と、おじいさんは考えこみました。
「小さな金のくびかざりです。」と、イヌとネコとオウムとが、一どに言いました。
「小さな金のくびかざり? おお、そうだった。昨夜(ゆうべ)ちゃんと、つくって……それから、どうしたっけな。」
 おじいさんは、少しあわてて、ポケットというポケット……円(まる)いポケット、四角なポケット、上のポケット、下のポケットを……さがしまわしました。でも、くびかざりはどこにも見つかりません。
「おやおや、どうしたんだろう。もって来ないはずはないのだが……はてなはてな。」
 おじいさんは、しきりに首をひねりました。
 イヌとネコは心配して顔を見合せました。自分たちのもらうものはどうでもいいけれど、だいじなお嬢さまが、あれほどほしがっていらっしゃる、くびかざりですから、どうしてもさがし出してもらわなければなりません。
 おじいさんは帽子もとって見ました。靴もぬいで見ました。しかし、どこにもありません。ネコやイヌやオウムは、それこそ、がっかりしてしまいました。
 と、ふいに、「おお、そうだ。」と、おじいさんは、むねをたたきました。「思い出したよ。あれはわしの家(うち)のコウノトリのくびにかけてある。かけたまま忘れて出て来たんだよ。」
 イヌとネコは、ためいきをついて、おじいさんの顔を見つめました。
「これから取りに帰っては、ほかの子どものところへまわれないし、さて、どうしたらいいだろうな。」
「僕がとりにいきましょうか。」と、イヌが言いました。「僕もネコも早い四本足がありますよ。」
「だめだだめだ。わしのうちはとおいとおい空の上なんだから、四本足だろうが六本足だろうが、これから行って、あけがたまでに帰って来ることはとても出来ない。」
「では、私(あたし)がとんでまいりましては?」と、オウムが籠(かご)の中から、羽ばたきをして言いました。
「なるほど。」おじいさんは、にこにこうなずきました。「おまえなら間に合うかもしれないね。」
 おじいさんは、さっそく、オウムを籠の中から出しました。そして、みんなと一しょに門口(かどぐち)に出てオウムにおしえました。
「ほら、ごらん、ずうッと向うに、大きな星が三つ光ってるだろう。わしの家(うち)は、その一ばん左の星のすぐうしろにあたるんだよ。」

        三

 オウムは、さっと飛び立ちました。こんなにして力一ぱい、つばさをのばして飛ぶのは何年ぶりでしょう。オウムは、一気に高くとび上って、矢のようにかけ出しました。
 はてしもなく遠い、長い長いつめたい道でしたけれど、オウムは、とうとう、まよいもしないで、サンタクローズのお家につきました。そのおうちの、ふわふわした白い毛皮の屋根の上に、赤い、きれいな煙突が、にょきりと立っていました。
「おはいんなさい。」と、窓にまたたいている灯(あかり)が言いました。「おへやの中はあったかよ。」
 オウムはへとへとにつかれきっていました。でも、夜(よ)があけないうちに……よし子さんが目をさまさないうちに、帰らなければならないので、ちっとでもぐずぐずしてはいられません。
「おうちのコウノトリさんは、どこにおいでです。おじいさんのお使いで、くびかざりをいただきにまいりました。」と言いました。
「ああ、くびかざりッて、これでしょう。」と、屋根のてっぺんから声がして、おじいさんに可愛(かわい)がられている、コウノトリが、くびにきらきらした、金のくさりをさげて、出て来ました。
「さあ、もっていらッしゃい。おじいさんがわすれていったのですよ。」と、コウノトリはにこにこして、くさりをはずして、オウムの、くびにかけてくれました。
 オウムは、大よろこびで、おじぎをして、
「さようなら。灯(あかり)さんにもさようなら。」と言って、どんどんかけてかえりました。
「よし子さんは、まだお目ざめじゃアないでしょうね。」と、オウムは、おうちへかえるなり、いきをはずませてききました。
「ああまだだよ。もらって来た?」と、イヌとネコが、目をひからせてききました。
「ごらんなさいよ。」と、オウムは、くびのくさりを見せました。
「ほう、えらいえらい。」
「ああ、よかった。」と、イヌとネコは、かわりがわり言いました。
「僕なんか、もうオウムさんのまえではいばれないよ。」と、イヌは、さっき、オウムをばかにしたのを、あやまるように言いました。オウムは、にこにこ笑いながら、よし子さんの枕(まくら)もとへ、くびかざりを、そっと、おいときました。
 イヌや、ネコや、あるき人形や白熊へのおくりものは、おじいさんがちゃんとそろえて、よし子さんのおねだいの下へおいていったのです。
「さあ、もう、お目ざのおうたをうたってもいい時間ね。」と、オウムは、そう言って、うつくしい声で、夜中につくったあたらしい、朝のおうたをうたいました。
 ひとりでに、流れて出て来る、あかるい、ほがらかなそのうたのふしは、サンタクローズのおじいさんからのおくりものでした。
 よし子さんは、そのおうたで目をさましました。よし子さんが、まくらもとに小さな金のくびかざりを見つけて、おどり上ってよろこびました。
 よし子さんにも、イヌにもネコにも、オウムにも、それはそれはたのしいクリスマスでした。




ページジャンプ
青空文庫の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
作品情報参照
mixiチェック!
Twitterに投稿
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶし青空文庫

Size:7358 Bytes

担当:undef