予選通過作品選評
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著者名:宮本百合子 

        「水中の町」 モチズキ ヨシ

 全体メロドラマ的にあつかわれすぎている。ヤミ屋の親分、子分、水中の町の顔役、その結たくがたて糸となっていて町のあたりまえの人たちの水中生活の姿が浮び出ないしそこで赤旗をもっている人々の活動も添えものとしてあつかわれていて着実な町の生活とのつながりの現実の場面がわからない。情景のとらえかたは極めてメロドラマティックで、このごろの大衆小説の一部にあらわれているヤミやものにやや近くなった。織田作之助が書いた小説のあるもののようにこしらえた筋で小説を動かしてゆくことは、文学を勉強しようとする人にとって警戒しなければならない。

        「蒙古一九四五年」 松井 太朗

 作者は材料の整理に失敗したし、テーマをはっきりは握しないで百枚目ぐらいから、つかみはじめている。前半の旱魃の状況、その対策、日本人官憲の収奪の詳細は、百枚からあとにあらわれている。蒙古における敗戦前の日本人官憲の混乱、主人公の不安な感情をテーマとする人間の歴史的像のなかへ、もっと集約して折りたたまるべきである。その背景とし、侵略者としての本質をかたるエピソードとして、土方という隊長の階級的タイプを一貫して描きつつ、主人公野田その他の性格と動きとを蒙古の原始的生活の前に描き出さるべきであった。
 二百七枚の原稿の間には論文またはレポートの部分が三十枚以上ある。そのために小説としての統一がみだされ、構成が散漫となっている。
 この作者は構成に注意して、大きくどっさりある自分の材料に向うことが必要である。そして新しいリアリズムの文学には、新しい社会人の感覚から生れる心情的要素も重要であることをつけ加えたい。
〔一九四八年六月〕



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