心の飛沫
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著者名:宮本百合子 

  胡坐

 ああ 草原に出で
 ゆっくりと楡の木蔭
 我が初夏の胡坐を組もう。

 空は水色の襦子(サティン)を張ったよう
 白雲が 湧いては消え 湧いては消え
 飽きない自然の模様を描く。
 遠くに泉でもあるか
 清らかな風のふくこと!
 私は、蟻の這い廻る老いた幹に頭を靠(よ)せ
 牧人のように
 外気に眼を瞑って 光を吸う。

 耀(ひかり)や熱に 魂がとけ
 軽々と情景に翔ぶ この思い。

  カーテン

 若き夫と妻。
 明るい六月の電燈の下で
 チラチラと鋏を輝かせ
 針を運び
 繊細なレースをいじる。――

 「どう?……これでよろしいの?
 長くはなくって?」
 妻は薄紫のきものの膝から
 雪のようなきれをつまみあげた。
 「いいだろう。寸法を計ったのだもの」
 夫は 二足で 傍らの小窓に近づいた

 六月 窓外の樹々は繁り
 かすかな虫の声もする 夜。

 朝 彼等の小窓に
 泡立つレースのカーテンが
 御殿のように風に戦いで 膨らんだ。
〔一九二四年六月〕



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