いまわれわれのしなければならないこと
[青空文庫|▼Menu|JUMP]
著者名:宮本百合子 

 かなりの復興したとはいっても、東京の街々はまだ焼あとだらけである。大きい邸跡の廃墟に石の門ばかりのこって、半ばくずれたコンクリート塀の中に夏草がしげっている。小さい道をへだてて、バラックのトタン屋根が暑い日をてりかえし、スダレの奥から大きな声でラジオのニュースが響いている。
「――して華々しい戦果をおさめました」
 東京に、またこんなラジオがきこえはじめた。
広島を平和都市に!
長崎を国際都市に!
ノーモア・ヒロシマズ!
 ついこの間までラジオは、やさしい抑揚をつけてそう語った。被原爆地に、眼病のなかでも不治とされる「そこひ」が発生していると報ぜられている。
 日本の一部の人々は、あんまり度々いや応なしに戦争にかりたてられてきたために、神経衰弱のようになっていて、しんから戦争をさけたいと思っているときでも、ちょっとした挑発や暗示にまけやすくなっている。
 わたしたちは平和を求め、そのために努力している世界の意志、自分の意志に、もっともっと明確な信頼を示すべきである。あらゆる国の人民にとって「平和」はジェスチュアではない。生きることそのことである。原爆を第一に経験した日本の住民が、世界の平和投票に率先しないなら、それは、われわれが生きる権利をすててしまっているも同然である。
 原爆使用は禁止されなければならない。このことを世界の正義と良心に向って、しんから叫ぶことのできるのは、そのために肉親を犠牲にした日本の全人民である。平和は戦争に反対することによってのみたたかいとられる。〔一九五〇年七月〕



ページジャンプ
青空文庫の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
作品情報参照
mixiチェック!
Twitterに投稿
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶし青空文庫

Size:1368 Bytes

担当:undef