主婦と新聞
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著者名:宮本百合子 

 十一月一日の各新聞のすみに、読者調整のカードがすりこまれていた。
 そのカードには、現在どんな新聞をよんでいるか、これからどんな新聞が読みたいかを書きこむ欄があって、希望新聞の名を書けばその新聞へ切りかわることができるしくみになっていた。
 何年もの間、読みたい新聞を読めずにいたわたしどもは、これをめずらしいことと思ったが、さてと考えてみると、奇妙な感じがした。書きこみのカードのすられている十一月一日の朝日も毎日も四ページで、大々的にスポーツをとりあげていた。月曜日にあたる日は四ページで、しかもスポーツを派手にあつかうその社のおきまりの企画なのだろうか。それとも、このごろのスポーツの流行にことよせて、一家の中で新聞を読むのは男だけだという点をとらえて、読者確保にのり出したのだろうか。
 家庭の主婦の民主化の問題、選挙への積極的な関心がいわれるとき、わたしたちは新聞を読むひまさえもないというのが、痛切な主婦の声としてあげられた。女が読まない新聞を、男のちょいと気をひく記事のあんばいで余計売って大資本の新聞ばかりを残し、資本は小さいけれども婦人の社会的地位にも積極的な関心を示す諸新聞をつぶす結果になるならば、問題は婦人にとって新聞だけのことではなくなって来る。
 どうせわたしたちは読むひまのない新聞といって、新聞の独占へ拍車をかけることは、この社会のすべての大資本、独占資本を援助することになる。新聞を読むひまのないほど、わたしたちの生活を追いつめている資本主義社会のひどい現象を助長することになる。インフレーション政策もけっこうという立場の新聞を支持するとき、主婦たちは、高物価反対という自分たちの声を封じることになるのである。〔一九四八年十一月〕



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