われらの小さな“婦人民主”
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著者名:宮本百合子 

『婦人民主』が週刊紙として発刊されることになった。日本の明るい民主化のために、人口の半分どころか三百余万も多い婦人大衆が、どんなに重大な役割をもっているか。このことについては、婦人が急速に自覚しはじめているばかりでなく、心ある男子は皆ふかく理解している。
『婦人民主』の新らしい使命はふたとおりある。生々と、明日に伸びる婦人大衆の声をあまねくこだまして、まだ仄暗い封建のしきたりに閉されている隅々にまで、その活溌な響きを伝えること。同時に、日本の平和と幸福とのために、婦人の任務の価値を十分知っている有能な男子の社会活動の諸分野に、婦人の創意と批判とを参加させ反映させる公の機会の一つとすること。この二通りの作用をとおして、男子と婦人との真面目、積極な協働こそ、民主的な社会生活問題の解決の方法であることを学んでゆこうとするのである。
 日本の過去に、民主的な社会生活の経験がなかった。明治になっても、半ば封建であった。今日改正が問題となっている民法上の婦人の差別を見てもよくわかる。これは、日本婦人がおくれていることを語るばかりではなく、婦人のそのような低い地位によって日本の社会全体の低さを示すことであった。つまり男も女も不幸で無権利であったことを証明する。
 この頃急に民主日本への翹望が語られるが、その解釈は、まだしっかりしていない。民主の社会という場合には、少くとも人権が確立し婦人の社会的地位の差別がとりのぞかれ、人種偏見から解放され、言論、出版、政治活動の自由のある社会を意味している。専制と封建の権力、習慣がとりのぞかれた社会、或は、それらの過去の鎖をすてようとする新鮮な大衆の要求に立つ社会をさして云うのである。民主的とは民主性そのものを毒す保守の特権や政治ブローカーと、目前の便宜から妥協したりすることではない。民主の方向は、歴史の発展から導き出されたそれ自身の誇りある性格に立っているのである。
『婦人民主』の特色は、婦人をくいものにするすべての営利出版に抗して、清純、良心的な立場から発刊される点である。あくまでも、真摯な婦人大衆との協働によって、この小さい『婦人民主』を、愛するに足るものに育て上げたいと願っている。〔一九四六年八月〕



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