個性というもの
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著者名:宮本百合子 

 あるまじめな女のひとが次のような話をした。「私は十三四からずっと印刷工場の女工をやったんですが、女工といっても職場で気持がちがいますよ。私たちは、拾うものを片端から自分の生活に関係なく読むもんだから文化的な水準は一等高いけれど、どうしても文学少女みたいになっちゃうんです。それが印刷で働いたものの一番の弱点だと思います。」
 私はその話から、有名なフォード自動車工場の有様を思い起した。あすこは能率増進のために極度に分業化され、たとえば鋲をこしらえる部では何年経とうがそれだけやらせられるから、さてクビになると機械工といってもかたわで修繕工にさえなれない。これは恐しいことであると従業員は訴えているのである。
 私たちは、自分の性格というものまで、今日の社会機構の不自然な分業と、その全計画に参加し得ない組織によって労力だけをしぼられているうちに、いつとなく細分され、一面化されている。現在の家庭というものも女にとってこの例外ではない。私たちはそれに対してはたしてどのような憤りを感じているであろうか。〔一九三五年二月〕



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