“子供の本”について
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著者名:宮本百合子 

 子供の本を買いに行って、いつも当惑する一つのことがある。それは、どの本も一つの頁へあんまりどっさりの内容をつめこもうとして、絵でも実にこせついていて、子供らしい感覚の伸びやかさが無視されていることである。
 うちの小さい甥は、フクチャンに絶大の親愛を傾けている。けれどもフクチャンの絵本はどうにも買ってやろうという気がしない。一頁をいくつにも区切って、新聞の絵の一コマの狭さのものがそのまま、ただびっしり詰められてあるきりで、ゆったりと心持ちよい線で描き出されたフクチャンを子供らに見せてやろうという愛の配慮やユーモアはないのである。
 児童のための良書ということが各方面の関心をひいている折から、私は切にこの点を一般の注意にのぼせたく思っている。子供の想像力が湧き動くだけのゆとりは、子供の本の頁になくてはならないものだと思う。隅から隅まで語りつくされているこせこせした頁を明けくれ眺めて、子供の心は受動性ばかりつよめられてゆくだろう。小学校一年生の算数の本にもこの紙面にスペースの足りない憾(うら)みは感じられるのである。良書は内容の徳性に加えて、子供の心理の抑揚の溌剌さが尊重されていなければならないと思う。




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