瘠我慢の説
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著者名:福沢諭吉 URL:../../index_pages/person354

     福沢先生の手簡

 拝啓(はいけい)仕候(つかまつりそうろう)。陳(のぶれ)ば過日瘠我慢之説(やせがまんのせつ)と題したる草稿(そうこう)一冊を呈(てい)し候。或(あるい)は御一読も被成下(なしくだされ)候哉(そうろうや)。其節(そのせつ)申上(もうしあげ)候通り、何(いず)れ是(これ)は時節(じせつ)を見計(みはからい)、世に公(おおやけ)にする積(つもり)に候得共(そうらえども)、尚(なお)熟考(じゅくこう)仕候(つかまつりそうろう)に、書中或は事実の間違は有之間敷哉(これあるまじきや)、又は立論之旨(りつろんのむね)に付御意見は有之間敷哉(これあるまじきや)、若(も)しこれあらば無御伏臓(ごふくぞうなく)被仰聞(おおせきけられ)被下度(くだされたく)、小生の本心は漫(みだり)に他を攻撃して楽しむものにあらず、唯(ただ)多年来(たねんらい)心(こころ)に釈然(しゃくぜん)たらざるものを記(しる)して輿論(よろん)に質(ただ)し、天下後世の為(た)めにせんとするまでの事なれば、当局の御本人に於(おい)て云々(しかじか)の御説もあらば拝承(はいしょう)致(いた)し度(たく)、何卒(なにとぞ)御漏(おんもら)し奉願候(ねがいたてまつりそうろう)。要用のみ重(かさね)て申上候。匆々(そうそう)頓首(とんしゅ)。
  二月五日諭吉   …………様
 尚(なお)以(もって)彼の草稿(そうこう)は極秘(ごくひ)に致し置、今日に至るまで二、三親友の外へは誰れにも見せ不申候(もうさずそうろう)。是亦(これまた)乍序(ついでながら)申上候(もうしあげそうろう)。以上。
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     勝安芳氏の答書

 従古(いにしえより)当路者(とうろしゃ)古今一世之人物にあらざれば、衆賢之(しゅうけんの)批評(ひひょう)に当る者あらず。不計(はからず)も拙老(せつろう)先年之行為(こうい)に於て御議論(ごぎろん)数百言(すうひゃくげん)御指摘(ごしてき)、実に慙愧(ざんき)に不堪([ママ])ず、御深志忝(かたじけなく)存(ぞんじ)候(そうろう)。
 行蔵(こうぞう)は我に存す、毀誉(きよ)は他人の主張、我に与(あず)からず我に関せずと存(ぞんじ)候(そうろう)。各人(かくじん)へ御示(おしめし)御座(ござ)候(そうろう)とも毛頭(もうとう)異存(いぞん)無之(これなく)候(そうろう)。御(おん)差越之(さしこしの)御草稿(ごそうこう)は拝受(はいじゅ)いたし度(たく)、御許容(ごきょよう)可被下(くださるべく)候也(そうろう)。
  二月六日安芳   福沢先生
 拙(せつ)、此程(このほど)より所労(しょろう)平臥中(へいがちゅう)、筆を採(と)るに懶(ものう)く[#「懶く」は底本では「瀬く」]、乱(らん)筆蒙御海容度(ごかいようをこうむりたく)候(そうろう)。
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     榎本武揚氏の答書

 拝復。過日御示(おしめし)被下(くだされ)候(そうろう)貴著瘠我慢中(やせがまんちゅう)、事実(じじつ)相違之廉(そういのかど)並(ならぴ)に小生之(しょうせいの)所見(しょけん)もあらば云々との御意(ぎょい)致拝承(はいしょういたし)候(そうろう)。昨今別而(べっして)多忙(たぼう)に付(つき)いずれ其中(そのうち)愚見(ぐけん)可申述(もうしのぶべく)候(そうろう)。先(まず)は不取敢(とりあえず)回音(かいおん)如此(かくのごとく)に候也。
  二月五日武揚   福沢諭吉様




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