加藤正宛書簡
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著者名:野呂栄太郎 

お手紙拝見いたしました。
野村耕作氏の研究は希望閣から出版することに決定、昨年夏頃校了になっているはずです。それが未だに発売できずにいるのは、多分一は希望閣の財政上の理由に、他は私が病臥(びょうが)続きのためお約束の序文を書くことができなかったからだと思います。あとの点ではなはだ申訳なく思っている次第です。で、その当時、私が序文の執筆できるのを待っていては出版が後れるから、そのままで直ぐ出すように市川氏に申し上げたところ、それでは希望閣としては困るから、同人社からでも出すようにして見ようというようなことを言っておられたように記憶します。私のこの記憶にして誤りなければ、他に適当な出版所さえあれば希望閣としては紙型その他を快く譲ってくれるのではないかと思います。
次に、私の序文の問題ですが、これは今日国際的に新しいテーゼが出て、あの問題に対する一般的理解が進んでいるので、いまさら私ごときが蛇足(だそく)を添える必要はないと思います。もし誰か序文を書くなり、簡単でも注意書きでも付す必要のある場合には、三二年テーゼを充分読まれることはもちろん、特にクーシネンの『日本帝国主義と日本革命の性質』(『インタ』昨年十月号所載)の一〇三ページ上段以下、とりわけ一〇三ページと一〇六ページとに注意して読まれることを希望します。なお、念のため申し添えたいことは、広告文などではもちろん、序文等においても三二年テーゼ、二七年テーゼ、及び「草案」を引き合いに出されることは避けられた方がよいと思います。(このことは三二年テーゼの正しい理解を徹底さす必要を決して排除するものでありません。むしろそれが阻害され曲解されることを恐れるからです)ことに二七年テーゼ、草案、三二年テーゼを相互対比したり、または野村氏の見解を正当化するために二七年テーゼを(しかも野村氏の理解されるような意味でならなおさら)固執されたりすることのないことを、老婆心までに申し上げます。
もっと詳しく申しあげればよいのですが、病臥中で意にまかせませんから悪しからず。
   三月十三日
野呂栄太郎  加藤正様




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