子どものすきな神さま
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著者名:新美南吉 

 子どものすきな小さい神さまがありました。いつもは森の中で、歌をうたったり笛(ふえ)をふいたりして、小鳥やけものと遊んでいましたが、ときどき人のすんでいる村へ出てきて、すきな子どもたちと遊ぶのでした。
 けれどこの神さまは、いちどもすがたをみせたことがないので、子どもたちにはちっともわかりませんでした。
 雪がどっさりふったつぎの朝、子どもたちはまっしろな野っぱらで遊んでいました。するとひとりの子どもが、
「雪の上に顔をうつそうよ。」
といいました。
 そこで十三人の子どもたちは、腰(こし)をかがめてまるい顔をまっしろな雪におしあてました。そうすると、子どもたちのまるい顔は、一列(れつ)にならんで雪の上にうつったのでした。
「一、二、三、四、……」
とひとりの子どもが顔のあとをかぞえてみました。
 どうしたことでしょう。十四ありました。子どもは十三人しかいないのに、顔のあとが十四あるわけがありません。
 きっと、いつものみえない神さまが、子どもたちのそばにきているのです。そして神さまも、子どもたちといっしょに顔を雪の上にうつしたのにちがいありません。
 いたずらずきの子どもたちは、顔をみあわせながら、目と目で、神さまをつかまえようよ、とそうだんしました。
「兵隊(へいたい)ごっこしよう。」
「しようよ、しようよ。」
 そうして、いちばんつよい子が大将(たいしょう)になり、あとの十二人が兵隊(へいたい)になって、一列(れつ)にならびました。
「きをつけッ。ばんごうッ。」
と大将(たいしょう)がごうれいをかけました。
「一ッ。」
「二ッ。」
「三ッ。」
「四ッ。」
「五ッ。」
「六ッ。」
「七ッ。」
「八ッ。」
「九ッ。」
「十ッ。」
「十一ッ。」
「十二ッ。」
と十二人の兵隊(へいたい)がばんごうをいってしまいました。そのとき、だれのすがたもみえないのに、十二番目の子どものつぎで、
「十三ッ。」
といったものがありました。玉をころがすようなよい声でした。
 その声をきくと子どもたちは、
「それ、そこだッ。神さまをつかまえろッ。」
といって、十二番目の子どものよこをとりまきました。
 神さまはめんくらいました。いたずらな子どものことだから、つかまったらどんなめにあうかしれません。
 ひとりのせいたかのっぽの子どものまたの下をくぐって、神さまは森へにげかえりました。けれど、あまりあわてたので靴(くつ)をかたほう落としてきてしまいました。
 子どもたちは雪の上から、まだあたたかい小さな赤い靴(くつ)をひろいました。
「神さまはこんな小さな靴(くつ)をはいてたんだね。」
といってみんなで笑(わら)いました。
 そのことがあってから、神さまはもうめったに森から出てこなくなりました。それでもやはり子どもがすきなものだから、子どもたちが森へ遊びにゆくと、森のおくから、
「おオい、おオい。」
とよびかけたりします。




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