先生の眼玉に
著者名:夢野久作 URL:../../index_pages/person967
子供が大ぜい遊んでいるところに雪がふって来ました。
「ヤアイヤアイ 雪がふって来た
雪降れ ウント降れ
塩になれ 砂糖になれ」
とみんながよろこびました。
「砂糖になったらどうするか」
と大きな声がきこえましたので、ビックリしてその方を見ますと、白い鬚(ひげ)を生やして、白い着物を着て、白い帽子を冠って、長いすきとおった氷柱(つらら)のような杖を持ったお爺さんが立っておりました。
子供達はおどろいてそのお爺さんの顔を見ていますと、お爺さんはニコニコ笑いながらも一度、
「砂糖になったら何にするのか」
と子供たちに聞きました。
「お餅につけてたべる」
と三吉が答えました。
「お婆さんに嘗(な)めさせる」
と忠太郎が言いました。
「お庭の蜜蜂にやる」
と玉子さんが言いました。
お爺さんはさもさも嬉しそうに、
「感心感心。お前たちはみんないい児だ。それじゃ塩になったらどうするかな」
と尋ねました。
「先生の眼玉にすり込んでやる」
と最前からだまっていた悪太郎が答えました。
お爺さんは急に怖い顔になって、
「よしよし。のぞみ通りにしてやるからまっておれ」
と云ううちに消え失せました。
それと一所に、何も見えなくなる程真白に雪がふり出しました。
三吉と玉子と忠太郎の処に降る雪はみんな砂糖でしたが、悪太郎の処には塩ばかりバラバラと降って、それが眼に入って痛くて堪らなくなりました。
悪太郎は泣きながらおうちへ帰ってしまいました。
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