女性崇拝
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著者名:岡本かの子 

 西洋人は一体(いったい)に女性尊重と見做(みな)されているが、一概(いちがい)にそうも言い切れない。欧州人の中でも一番女性尊重者は十指(じっし)の指すところ英国人であるが、英国人の女性尊重は客間(きゃくま)だけの女性尊重で、居間へ入ると正反対だという説がある。
 事実、英国人ぐらい文筆上で女性に対し諷刺(ふうし)や皮肉を弄(ろう)し、反感を示している国民は少い。バーナード・ショウの如(ごと)きも「人と超人」で、女性は魅力に依(よ)って男から種の胚子(はいし)を奪い取り、次の時代の超人を造ろうとする自然の意図(いと)を無意識で執行(しっこう)する盲目の使途であるというように書いている。
 英国の倶楽部(クラブ)の発達というものが、家庭における主婦の形式的女権(じょけん)の窮屈(きゅうくつ)から逃(のが)れようとする男性の自由の欲望から発達したものだという話もある。
 そうかと思うと、それほどけばけばしく女性尊重を放送しないフランス人が、家庭は全く主婦の女王の傘下(さんか)に従順(じゅうじゅん)に温(あたた)まって易々諾々(いいだくだく)である。フランス人に言わせるとこの方が生活にも人生にも利口(りこう)なやり方だと言う。
 武士道(ぶしどう)と言えば、女は眼中(がんちゅう)にないような風に言われながら、正妻(せいさい)となるとなかなか格式を与えて十分な権利を主張せしめている。淀君(よどぎみ)にうつつを抜かした秀吉が、北の政所(まんどころ)に対する態度などにみても相当彼女を立てているところがある。
 フェミニストにもいろいろある。全然女性なるものを知らない理想主義風に尊敬するものもあれば、変態的の性格から女性にへりくだるものもある。また「英雄が女性の胸に額をつけるとき、遠き星の囁(ささや)きを聴く」事業上の霊感の交媒者(こうばいしゃ)として女性に神秘を感じ、フェミニストたるものもある。ジョセフィンに対するナポレオンはそれであった。
 兎(と)に角(かく)真のフェミニストは質的のものだ。女性から言えば、弱々(よわよわ)しくフェミニストたらざるを得ない男性より昂然(こうぜん)としていても、女性に理解力ある男性の方が見込みがある。




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