芥川竜之介氏を弔ふ
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著者名:泉鏡花 

 玲瓏(れいろう)、明透(めいてつ)、その文(ぶん)、その質(しつ)、名玉山海(めいぎよくさんかい)を照(て)らせる君(きみ)よ。溽暑蒸濁(じよくしよじようだく)の夏(なつ)を背(そむ)きて、冷々然(れい/\ぜん)として獨(ひと)り涼(すゞ)しく逝(ゆ)きたまひぬ。倏忽(たちまち)にして巨星(きよせい)天(てん)に在(あ)り。光(ひかり)を翰林(かんりん)に曳(ひ)きて永久(とこしなへ)に消(き)えず。然(しか)りとは雖(いへど)も、生前(せいぜん)手(て)をとりて親(した)しかりし時(とき)だに、その容(かたち)を見(み)るに飽(あ)かず、その聲(こゑ)を聞(き)くをたらずとせし、われら、君(きみ)なき今(いま)を奈何(いかん)せむ。おもひ秋深(あきふか)く、露(つゆ)は涙(なみだ)の如(ごと)し。月(つき)を見(み)て、面影(おもかげ)に代(か)ゆべくは、誰(たれ)かまた哀別離苦(あいべつりく)を言(い)ふものぞ。高(たか)き靈(れい)よ、須臾(しばらく)の間(あひだ)も還(かへ)れ、地(ち)に。君(きみ)にあこがるゝもの、愛(あい)らしく賢(かしこ)き遺兒(ゐじ)たちと、温優貞淑(をんいうていしゆく)なる令夫人(れいふじん)とのみにあらざるなり。
 辭(ことば)つたなきを羞(は)ぢつゝ、謹(つゝしん)で微衷(びちう)をのぶ。
昭和二年八月



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