妖怪年代記
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著者名:泉鏡花 

     一

 予が寄宿生となりて松川(まつかは)私塾に入(い)りたりしは、英語を学ばむためにあらず、数学を修めむためにあらず、なほ漢籍を学ばむことにもあらで、他(た)に密(ひそか)に期することのありけるなり。
 加州(かしう)金沢市古寺町(ふるでらまち)に両隣(りやうどなり)無(な)き一宇(いちう)の大廈(たいか)は、松山某(なにがし)が、英、漢、数学の塾舎となれり。旧(もと)は旗野(はたの)と謂(い)へりし千石取(せんごくどり)の館(やかた)にして、邸内に三件の不思議あり、血天井(ちてんじよう)、不開室(あかずのま)、庭の竹藪是(これ)なり。
 事の原由(よし)を尋ぬるに、旗野の先住に、何某(なにがし)とかや謂(い)ひし武士(ものゝふ)のありけるが、過(あや)まてることありて改易となり、邸(やしき)を追はれて国境(くにざかひ)よりぞ放たれし。其(その)室(しつ)は当時家中(かちう)に聞(きこ)えし美人なりしが、女心(をんなごころ)の思詰(おもひつ)めて一途に家を明渡すが口惜(くちをし)く、我(われ)は永世(えいせい)此処(このところ)に留(とゞ)まりて、外へは出(い)でじと、其(その)居間に閉籠(とぢこも)り、内より鎖(ぢやう)を下(おろ)せし後(のち)は、如何(いかに)かしけむ、影も形も見えずなりき。
 其後(そののち)旗野は此家(このや)に住(すま)ひつ。先住の室(しつ)が自ら其身(そのみ)を封じたる一室は、不開室と称(とな)へて、開くことを許さず、はた覗くことをも禁じたりけり。
 然(さ)るからに執念の留まれるゆゑにや、常には然(さ)せる怪(くわい)無きも、後住(こうぢう)なる旗野の家に吉事(きつじ)ある毎(ごと)に、啾々(しう/\)たる婦人(をんな)の泣声(なきごゑ)、不開室の内に聞えて、不祥(ふしやう)ある時は、さも心地好(こゝちよ)げに笑ひしとかや。
 旗野に一人(いちにん)の妾(せふ)あり。名を村(むら)といひて寵愛限無(かぎりな)かりき。一年(あるとし)夏の半(なかば)、驟雨後(ゆふだちあと)の月影冴(さや)かに照(てら)して、北向(きたむき)の庭なる竹藪に名残(なごり)の雫(しづく)、白玉(しらたま)のそよ吹く風に溢(こぼ)るゝ風情(ふぜい)、またあるまじき観(ながめ)なりければ、旗野は村に酌を取らして、夜更(よふく)るを覚えざりき。
 お村も少(すこ)しくなる口なるに、其夜(そのよ)は心爽(さわや)ぎ、興(きよう)も亦(また)深かりければ、飲過(のみすご)して太(いた)く酔(ゑ)ひぬ。人(ひと)静まりて月の色の物凄(ものすご)くなりける頃、漸(やうや)く盃(さかづき)を納めしが、臥戸(ふしど)に入(い)るに先立ちて、お村は厠(かはや)に上(のぼ)らむとて、腰元に扶(たす)けられて廊下伝ひに彼(かの)不開室の前を過ぎけるが、酔心地の胆(きも)太(ふと)く、ほと/\と板戸を敲(たゝ)き、「この執念深き奥方、何とて今宵(こよひ)に泣きたまはざる」と打笑(うちわら)ひけるほどこそあれ、生温(なまぬる)き風一陣吹出で、腰元の携(たづさ)へたる手燭(てしよく)を消したり。何物にか驚かされけむ、お村は一声きやつと叫びて、右側なる部屋の障子を外して僵(たふ)れ入ると共に、気を失ひてぞ伏したりける。腰元は驚き恐れつゝ件(くだん)の部屋を覗けば、内には暗く行灯(あんどう)点(とも)りて、お村は脛(はぎ)も露(あらは)に横(よこた)はれる傍(かたはら)に、一人(いちにん)の男ありて正体も無く眠れるは、蓋(けだし)此家(このや)の用人なるが、先刻(さきに)酒席に一座して、酔過(ゑひすご)して寝(い)ねたるなれば、今お村が僵れ込みて、己(おの)が傍(かたへ)に気を失ひ枕をならべて伏したりとも、心着(こゝろづ)かざる状(さま)になむ。此(この)腰元は春(はる)といひて、もとお村とは朋輩なりしに、お村は寵(ちよう)を得てお部屋と成済(なりすま)し、常に頤(あご)以(も)て召使はるゝを口惜(くちをし)くてありけるにぞ、今斯(か)く偶然に枕を並べたる二人(ににん)が態(すがた)を見るより、悪心むらむらと起(おこ)り、介抱もせず、呼びも活(い)けで、故(わざ)と灯火(ともしび)を微(ほのか)にし、「かくては誰(た)が眼にも……」と北叟笑(ほくそゑ)みつゝ、忍(しのび)やかに立出(たちい)で、主人(あるじ)の閨(ねや)に走行(はしりゆ)きて、酔臥(ゑひふ)したるを揺覚(ゆりさ)まし、「お村殿には御用人何某と人目を忍ばれ候(さふらふ)[#「候」は底本では「侯」]」と欺(あざむ)きければ、短慮無謀の平素(ひごろ)を、酒に弥暴(いやあら)く、怒気烈火の如(ごと)く心頭に発して、岸破(がば)と蹶起(はねお)き、枕刀(まくらがたな)押取(おつと)りて、一文字に馳出(はせい)で、障子を蹴放(けはな)して驀地(まつしぐら)に躍込(おどりこ)めば、人畜(にんちく)相戯(あひたはむ)れて形(かた)の如き不体裁。前後の分別に遑無(いとまな)く、用人の素頭(すかうべ)、抜手(ぬくて)も見せず、ころりと落(おと)しぬ。

     二

 旗野の主人(あるじ)は血刀(ちがたな)提(ひつさ)げ、「やをれ婦人(をんな)、疾(と)く覚めよ」とお村の肋(あばら)を蹴返(けかへ)せしが、活(くわつ)の法(はふ)にや合(かな)ひけむ、うむと一声(ひとこゑ)呼吸(いき)出(い)でて、あれと驚き起返(おきかへ)る。
 主人はハツタと睨附(ねめつ)け、「畜生よ、男は一刀に斬棄(きりす)てたれど、汝(おのれ)には未(ま)だ為(せ)むやうあり」と罵(のゝし)り狂ひ、呆(あき)れ惑ふお村の黒髪を把(と)りて、廊下を引摺(ひきず)り縁側に連行(つれゆ)きて、有無を謂はせず衣服を剥取(はぎと)り、腰に纏(まと)へる布ばかりを許して、手足を堅く縛(いまし)めけり。
 お村は夢の心地ながら、痛さ、苦しさ、恥(はづか)しさに、涙に咽(むせ)び、声を震はせ、「こは殿にはものに狂はせ給(たま)ふか、何故(なにゆゑ)ありての御折檻(ごせつかん)ぞ」と繰返しては聞(きこ)ゆれども、此方(こなた)は憤恚(いかり)に逆上して、お村の言(ことば)も耳にも入らず、無二無三に哮立(たけりた)ち、お春を召して酒を取寄せ、己(おの)が両手に滴(したゝ)らしては、お村の腹に塗り、背に塗り、全身余さず酒漬(さけびたし)にして、其まゝ庭に突出(つきい)だし、竹藪の中に投入れて、虫責(むしぜめ)にこそしたりけれ。
 深夜の出来事なりしかば、内の者ども皆眠りて知れるは絶えてあらざりき。「かまへて人に語るべからず。執成立(とりなしだて)せば面倒なり」と主人はお春を警(いまし)めぬ。お村が苦痛はいかばかりなりけむ、「あら苦し、堪難(たへがた)や、あれよ/\」と叫びたりしが、次第にものも得(え)謂はずなりて、夜も明方に到りては、唯(ただ)泣く声の聞えしのみ、されば家内の誰彼(たれかれ)は藪の中とは心着(こゝろづ)かで、彼(か)の不開室(あかずのま)の怪異とばかり想ひなし、且(かつ)恐れ且怪(あやし)みながら、元来泣声ある時は、目出度(めでた)きことの兆候(きざし)なり、と言伝(いひつた)へたりければ、「いづれも吉兆に候(さふら)ひなむ」と主人を祝せしぞ愚(おろか)なりける。午前(ひる)少しく前のほど、用人の死骸を発見(みいだ)したる者ありて、上を下へとかへせしが、主人は少しも騒ぐ色なく、「手討(てうち)にしたり」とばかりにて、手続(てつゞき)を経てこと果てぬ。お村は昨夜(ゆうべ)の夜半より、藪の真中(まなか)に打込(うちこ)まれ、身動きだにもならざるに、酒の香(か)を慕(した)ひて寄来(よりく)る蚊(か)の群は謂ふも更(さら)なり、何十年を経たりけむ、天日(てんじつ)を蔽隠(おおひかく)して昼猶(なほ)闇(くら)き大藪なれば、湿地に生ずる虫どもの、幾万とも知れず群(むらが)り出でて、手足に取着き、這懸(はいかゝ)り、顔とも謂はず、胸とも謂はず、むず/\と往来しつ、肌を嘗(な)められ、血を吸はるゝ苦痛は云ふべくもあらざれば、悶(もだ)え苦(くるし)み、泣き叫びて、死なれぬ業(ごふ)を歎(なげ)きけるが、漸次(しだい)に精(せい)尽(つ)き、根(こん)疲れて、気の遠くなり行くにぞ、渠(かれ)が最も忌嫌(いみきら)へる蛇(へび)の蜿蜒(のたる)も知らざりしは、せめてもの僥倖(げうかう)なり、されば玉(たま)の緒(を)の絶えしにあらねば、現(うつゝ)に号泣(がうきふ)する糸より細き婦人(をんな)の声は、終日(ひねもす)休(や)む間(ひま)なかりしとぞ。
 其日も暮れ、夜(よ)に入りて四辺(あたり)の静(しづか)になるにつれ、お村が悲喚(ひくわん)の声冴(さ)えて眠り難(がた)きに、旗野の主人も堪兼(たまりか)ね、「あら煩悩(うるさ)し、いで息の根を止めむず」と藪の中に走入(はしりい)り、半死半生の婦人(をんな)を引出(ひきい)だせば、総身(そうしん)赤く腫(は)れたるに、紫斑々(しはん/\)の痕(あと)を印し、眼も中(あ)てられぬ惨状(ありさま)なり。
 かくても未(いま)だ怒(いかり)は解けず、お村の後手(うしろで)に縛(くゝ)りたる縄の端(はし)を承塵(なげし)に潜(くぐ)らせ、天井より釣下(つりさ)げて、一太刀斬附(きりつ)くれば、お村ははツと我に返りて、「殿、覚えておはせ、御身(おんみ)が命を取らむまで、妾(わらは)は死なじ」と謂はせも果てず、はたと首(かうべ)を討落(うちおと)せば、骸(むくろ)は中心を失ひて、真逆様(まつさかさま)になりけるにぞ、踵(かゝと)を天井に着けたりしが、血汐(ちしほ)は先刻(さきに)脛(はぎ)を伝ひて足の裏を染めたれば、其(そ)が天井に着くとともに、怨恨(うらみ)の血判(けつぱん)二つをぞ捺(お)したりける。此(この)一念の遺物(かたみ)拭(ぬぐ)ふに消えず、今に伝へて血天井と謂ふ。
 人を殺すにも法こそあれ、旗野がお村を屠(ほふ)りし如きは、実に惨中の惨なるものなり。家に仕(つか)ふる者ども、其物音に駈附(かけつ)けしも、主人が血相に恐(おそれ)をなして、留(とゞ)めむとする者無く、遠巻(とほまき)にして打騒ぎしのみ。殺尽(ころしつく)せしお村の死骸は、竹藪の中に埋棄(うづみす)てて、跡弔(あととむらひ)もせざりけり。

     三

 はじめお村を讒(ざん)ししお春は、素知らぬ顔にもてなしつゝ此家(このや)に勤め続けたり。人には奇癖のあるものにて、此(この)婦人(をんな)太(いた)く蜘蛛(くも)を恐れ、蜘蛛といふ名を聞きてだに、絶叫するほどなりければ、況(ま)して其物(そのもの)を見る時は、顔の色さへ蒼(あを)ざめて死せるが如(ごと)くなりしとかや。
 お村が虐殺(なぶりごろし)に遭ひしより、七々日(なゝなぬか)にあたる夜半(よは)なりき。お春は厠(かはや)に起出(おきい)でつ、帰(かへり)には寝惚(ねぼ)けたる眼の戸惑(とまど)ひして、彼(かの)血天井の部屋へ入(い)りにき。それと遽(にはか)に心着(こゝろづ)けば、天窓(あたま)より爪先まで氷を浴ぶる心地して、歯の根も合はず戦(わなゝ)きつゝ、不気味に堪(た)へぬ顔を擡(あ)げて、手燭(ぼんぼり)の影幽(かすか)に血の足痕(あしあと)を仰見(あふぎみ)る時しも、天井より糸を引きて一疋(いつぴき)の蜘蛛垂下(たれさが)り、お春の頬に取着(とりつ)くにぞ、あと叫びて立竦(たちすく)める、咽喉(のんど)を伝ひ胸に入り、腹より背(せな)に這廻(はひまは)れば、声をも得(え)立てず身を悶(もだ)え虚空(こくう)を掴(つか)みて苦(くるし)みしが、はたと僵(たふ)れて前後を失ひけり。夜更(よふけ)の事とて誰(たれ)も知らず、朝(あした)になりて見着(みつ)けたる、お春の身体(からだ)は冷たかりき、蜘蛛の這(は)へりし跡やらむ、縄にて縊(くび)りし如く青き条(すぢ)をぞ画(ゑが)きし。
 眼前(まのあたり)お春が最期(さいご)を見てしより、旗野の神経狂出(くるひだ)し、あらぬことのみ口走りて、一月余(ひとつきあまり)も悩みけるが、一夜(あるよ)月の明(あきら)かなりしに、外方(とのかた)に何やらむ姿ありて、旗野をおびき出(いだ)すが如く、主人(あるじ)は居室(ゐま)を迷出(まよひい)でて、漫(そゞ)ろに庭を□□(さまよ)ひしが、恐しき声を発して、おのれ! といひさま刀を抜き、竹藪に躍蒐(をどりかゝ)りて、えいと殺(そ)ぎたる竹の切口(きりくち)、斜(なゝめ)に尖(とが)れる切先(きつさき)に転(まろ)べる胸を貫きて、其場に命を落せしとぞ。仏家(ぶつけ)の因果は是(これ)ならむかし。
 旗野の主人果てて後(のち)、代(よ)を襲(つ)ぐ子とても無かりければ、やがて其(その)家(いへ)は断絶(たえ)にけり。
 数歳(すさい)の星霜を経て、今松川の塾となれるまで、種々(さま/″\)人の住替(すみかは)りしが、一月(ひとつき)居(ゐ)しは皆無にて、多きも半月を過ぐるは無し。甚(はなは)だしきに到りては、一夜(ひとよ)を超えて引越せしもあり。松川彼処(かしこ)に住(すま)ひてより、別に変(かは)りしこともなく、二月(ふたつき)余も落着(おちつ)けるは、いと珍しきことなりと、近隣(きんりん)の人は噂(うはさ)せり。さりながらはじめの内は十幾人(じふいくたり)の塾生ありて、教場(けうぢやう)太(いた)く賑ひしも、二人(ふたり)三人(みたり)と去りて、果(はて)は一人(いちにん)もあらずなりて、後(のち)にはたゞ昼(ひる)の間(うち)通学生の来るのみにて、塾生は我(われ)一人(いちにん)なりき。
 前段既(すで)に説けるが如く、予が此塾に入りたりしは、学問すべきためにはあらで、いかなる不思議のあらむかを窺見(うかゞひみ)むと思ひしなり。我には許せ。性(せい)として奇怪なる事とし謂へば、見たさ、聞きたさに堪(た)へざれども、固(もと)より頼む腕力ありて、妖怪(えうくわい)を退治せむとにはあらず、胸に蓄(たくは)ふる学識ありて、怪異を研究せむとにもあらず。俗に恐いもの見たさといふ好事心(ものずき)のみなり。
 さて松川に入塾して、直(たゞ)ちに不開室(あかずのま)を探検せんとせしが、不開室は密閉したるが上に板戸を釘付(くぎづけ)にしたれば開くこと無し。僅(わづか)に板戸の隙間より内の模様を窺ふに、畳二三十も敷かるべく、柱は参差(しんし)と立(たち)ならべり。日中なれども暗澹(あんたん)として日の光幽(かすか)に、陰々たる中(うち)に異形(いぎやう)なる雨漏(あまもり)の壁に染みたるが仄見(ほのみ)えて、鬼気人に逼(せま)るの感あり。即(すなは)ち隙見(すきみ)したる眼の無事なるを取柄にして、何等(なんら)の発見せし事なく、踵(きびす)を返して血天井を見る。こゝも用無き部屋なれば、掃除せしこともあらずと見えて、塵埃(ちりほこり)床を埋め、鼠(ねずみ)の糞(ふん)梁(うつばり)に堆(うづたか)く、障子襖(ふすま)も煤果(すゝけは)てたり。そこぞと思ふ天井も、一面に黒み渡りて、年経(としふ)る血の痕の何処(いづこ)か弁じがたし、更科(さらしな)の月四角でもなかりけり、名所多くは失望の種となる。されどなほ余すところの竹藪あり、蓋(けだ)し土地の人は八幡(やはた)に比し、恐れて奥を探る者無く、見るから物凄(ものすご)き白日闇(はくじつあん)の別天地、お村の死骸も其処(そこ)に埋(うづ)めつと聞くほどに、うかとは足を入難(いれがた)し、予は先(ま)づ支度(したく)に取懸(とりかゝ)れり。
 誰(たれ)にか棄てられけむ、一頭(いつとう)流浪(るらう)の犬の、予が入塾の初より、数々(しば/\)庭前(ていぜん)に入来(いりきた)り、そこはかと餌(ゑ)を□(あさ)るあり。予は少しく思ふよしあれば、其頭(かうべ)を撫(な)で、背(せな)を摩(さす)りなどして馴近(なれちかづ)け、賄(まかなひ)の幾分を割(さ)きて与ふること両三日(りやうさんじつ)、早くも我に臣事(しんじ)して、犬は命令を聞くべくなれり。

     四

 水曜日は諸学校に授業あるに関(かゝは)らず、私塾大抵(たいてい)は休暇なり。予は閑(かん)に乗じ、庭に出(い)でて彼(か)の竹藪に赴けり。然(しか)るに予(かね)てより斥候(せきこう)の用に充(あ)てむため馴(なら)し置(お)きたる犬の此時(このとき)折(をり)よく来(きた)りければ、彼(かれ)を真先に立たしめて予は大胆(だいたん)にも藪に入(い)れり。行(ゆ)くこと未(いま)だ幾干(いくばく)ならず、予に先むじて駈込(かけこ)みたる犬は奥深く進みて見えずなりしが、□呀(あなや)何事(なにごと)の起(おこ)りしぞ、乳虎(にうこ)一声(いつせい)高く吠えて藪中(さうちう)俄(にはか)に物騒(ものさわ)がし、其(その)響(ひゞき)に動揺せる満藪(まんさう)の竹葉(ちくえふ)相触(あひふ)れてざわ/\/\と音(おと)したり。予はひやりとして立停(たちど)まりぬ。稍(やゝ)ありて犬は奥より駈来(かけきた)り、予が立てる前を閃過(せんくわ)して藪の外(おもて)へ飛出(とびい)だせり。其剣幕(けんまく)に驚きまどひて予も慌(あわ)たゞしく逃出(にげい)だし、只(と)見(み)れば犬は何やらむ口に銜(くは)へて躍り狂ふ、こは怪し口に銜へたるは一尾(いちび)の魚(うを)なり、そも何ぞと見むと欲して近寄れば、獲物(えもの)を奪ふとや思ひけむ、犬は逸散(いつさん)に逃去(にげさ)りぬ。予は茫然(ばうぜん)として立ちたりけるが、想ふに藪の中に住居(すま)へるは、狐か狸か其類(るゐ)ならむ。渠奴(かやつ)犬の為に劫(おびや)かされ、近鄰(きんりん)より盗来(ぬすみきた)れる午飯(おひる)を奪はれしに極(きは)まりたり、然(さ)らば何ほどのことやある、と爰(こゝ)に勇気を回復して再び藪に侵入せり。
 畳翠(でふすゐ)滋蔓(じまん)繁茂せる、竹と竹との隙間を行くは、篠突(しのつ)く雨の間を潜(くゞ)りて濡れまじとするの難(かた)きに肖(に)たり。進退頗(すこぶ)る困難なるに、払ふ物無き蜘蛛(くも)の巣は、前途を羅(ら)して煙の如(ごと)し。蛇(くちなは)も閃(きらめ)きぬ、蜥蜴(とかげ)も見えぬ、其他の湿虫(しつちう)群(ぐん)をなして、縦横(じうわう)交馳(かうち)し奔走せる状(さま)、一眼(ひとめ)見るだに胸悪きに、手足を縛(ばく)され衣服を剥(は)がれ若き婦人(をんな)の肥肉(ふとりじし)を酒塩(さかしほ)に味付けられて、虫の膳部に佳肴(かかう)となりしお村が当時を憶遣(おもひや)りて、予は思はずも慄然(りつぜん)たり。
 こゝはや藪の中央ならむと旧(もと)来(き)し方(かた)を振返(ふりかへ)れば、真昼は藪に寸断されて点々星に髣(さも)髴(に)たり。なほ何程(なにほど)の奥やあると、及び腰に前途(ゆくて)を視(なが)む。時(とき)其時(そのとき)、玄々(げん/\)不可思議奇絶怪絶、紅(あか)きものちらりと見えて、背向(うしろむき)の婦人一人(いちにん)、我を去る十歩の内に、立ちしは夢か、幻か、我はた現心(うつゝごころ)になりて思はず一歩(ひとあし)引退(ひつさが)れる、とたんに此方(こなた)を振返りし、眼(め)口(くち)鼻(はな)眉(まゆ)如何(いか)で見分けむ、唯(たゞ)、丸顔の真白(ましろ)き輪郭ぬつと出(い)でしと覚えしまで、予が絶叫せる声は聞(きこ)えで婦人が言(ことば)は耳に入りぬ、「こや人に説(い)ふ勿(なか)れ、妾(わらは)が此処(こゝ)にあることを」一種異様の語気音調、耳朶(みゝたぶ)にぶんと響き、脳にぐわら/\と浸(し)み渡(わた)れば、眼(まなこ)眩(くら)み、心(こゝろ)消(き)え、気も空(そら)になり足漾(ただよ)ひ、魂ふら/\と抜出でて藻脱(もぬけ)となりし五尺の殻(から)の縁側まで逃げたるは、一秒を経ざる瞬間なりき。腋下(えきか)に颯(さつ)と冷汗流れて、襦袢(じゆばん)の背(せな)はしとゞ濡れたり。馳(は)せて書斎に引籠(ひきこも)り机に身をば投懸(なげか)けてほつと吐(つ)く息太く長く、多時(しばらく)観念の眼(まなこ)を閉ぢしが、「さても見まじきものを見たり」と声を発(いだ)して呟(つぶや)きける。「忍ぶれど色に出(で)にけり我恋は」と謂ひしは粋(すゐ)なる物思(ものおも)ひ、予はまた野暮なる物思(ものおもひ)に臆病の色頬(ほ)に出でて蒼(あを)くなりつゝ結(むす)ぼれ返(かへ)るを、物や思ふと松川はじめ通学生等に問はるゝ度(たび)に、口の端(はた)むず/\するまで言出(いひい)だしたさに堪(たへ)ざれども、怪しき婦人が予を戒(いまし)め、人に勿(な)謂(い)ひそと謂へりしが耳許(みゝもと)に残り居(を)りて、語出(かたりい)でむと欲する都度(つど)、おのれ忘れしか、秘密を漏らさば、活(い)けては置かじと囁(ささや)く様(やう)にて、心済まねば謂ひも出でず、もしそれ胸中の疑□(ぎくわい)を吐きて智識の教(をしへ)を請(う)けむには、胸襟(きようきん)乃(すなは)ち春(はる)開(ひら)けて臆病疾(とみ)に癒(い)えむと思へど、無形の猿轡(さるぐつわ)を食(は)まされて腹のふくるゝ苦しさよ、斯(か)くて幽玄の裡(うち)に数日(すじつ)を閲(けみ)せり。
 一夕(いつせき)、松川の誕辰(たんしん)なりとて奥座敷に予を招き、杯盤(はいばん)を排し酒肴(しゆかう)を薦(すゝ)む、献酬(けんしう)数回(すくわい)予は酒といふ大胆者(だいたんもの)に、幾分の力を得て積日(せきじつ)の屈託稍(やゝ)散じぬ。談話(だんわ)の次手(ついで)に松川が塾の荒涼たるを歎(かこ)ちしより、予は前日藪を検(けん)せし一切(いつさい)を物語らむと、「実は……」と僅(わづか)に言懸(いひか)けける、正(まさ)に其時、啾々(しう/\)たる女の泣声(なきごえ)、針の穴をも通らむず糸より細く聞えにき。予は其(それ)を聞くと整(ひと)しく口をつぐみて悄気返(しよげかへ)れば、春雨(しゆんう)恰(あたか)も窓外に囁き至る、瀟々(せう/\)の音に和し、長吁(ちようう)短歎(たんたん)絶えてまた続く、婦人の泣音(きふおん)怪(あやし)むに堪へたり。

     五

「あれは何が泣くのでせう」と松川に問へば苦い顔して、談話(はなし)を傍(わき)へそらしたるにぞ推(お)しては問はで黙して休(や)めり。ために折角(せつかく)の酔(ゑひ)は醒(さ)めたれども、酔うて席に堪(た)へずといひなし、予は寝室に退(しりぞ)きつ。思へば好事(よきこと)には泣くとぞ謂(い)ふなる密閉室(あかずのま)の一件が、今宵誕辰(たんしん)の祝宴に悠々(いう/\)歓(くわん)を尽(つく)すを嫉(ねた)み、不快なる声を発して其(その)快楽を乱せるならむか、あはれ忌(い)むべしと夜着(よぎ)を被(かぶ)りぬ。眼は眠れども神(しん)は覚めたり。
 寝られぬまゝに夜(よ)は更けぬ。時計一点を聞きて後(のち)、漸(やうや)く少しく眠気(ねむけ)ざし、精神朦々(もう/\)として我我(われわれ)を弁(べん)ぜず、所謂(いはゆる)無現(むげん)の境(きやう)にあり。時(とき)に予が寝(い)ねたる室(しつ)の襖(ふすま)の、スツとばかりに開く音せり。否(いな)唯(たゞ)音のしたりと思へるのみ、別に誰(た)そやと問ひもせず、はた起直(おきなほ)りて見むともせず、うつら/\となし居(を)れり。然(さ)るにまた畳を摺来(すりく)る跫音(あしおと)聞(きこ)えて、物あり、予が枕頭(ちんとう)に近寄る気勢(けはひ)す、はてなと思ふ内に引返(ひつかへ)せり。少時(しばらく)してまた来(きた)る、再び引返せり、三たびせり。
 此(こゝ)に於て予は猛然と心覚めて、寝返りしつゝ眼(まなこ)を□(みひら)き、不図(ふと)一見(いつけん)して蒼(あを)くなりぬ。予は殆(ほとん)ど絶(ぜつ)せむとせり、そも何者の見えしとするぞ、雪もて築ける裸体(らたい)の婦人(をんな)、あるが如(ごと)く無きが如き灯(ともしび)の蔭に朦朧(もうろう)と乳房のあたりほの見えて描ける如く彳(たゝず)めり。
 予は叫ばむとするに声出(い)でず、蹶起(はねお)きて逃げむと急(あせ)るに、磐石一座(ばんじやくいちざ)夜着を圧して、身動きさへも得(え)ならねば、我あることを気取らるまじと、愚(おろか)や一縷(いちる)の鼻息(びそく)だもせず、心中に仏の御名(みな)を唱(とな)へながら、戦(わなゝ)く手足は夜着を煽(あふ)りて、波の如くに揺らめいたり。
 婦人は予を凝視(みつ)むるやらむ、一種の電気を身体(みうち)に感じて一際(ひときは)毛穴の弥立(よだ)てる時、彼は得もいはれぬ声を以(も)て「藪にて見しは此人(このひと)なり、テモ暖かに寝たる事よ」と呟(つぶや)けるが、まざ/\と聞(きこ)ゆるにぞ、気も魂も身に添はで、予は一竦(ひとすくみ)に縮みたり。
 斯(か)くて婦人が無体にも予が寝し衾(ふすま)をかゝげつゝ、衝(つ)と身を入るゝに絶叫して、護謨球(ごむだま)の如く飛上(とびあが)り、室(しつ)の外(おもて)に転出(まろびい)でて畢生(ひつせい)の力を籠(こ)め、艶魔(えんま)を封ずるかの如く、襖を圧(おさ)へて立ちけるまでは、自分(みずから)なせし業(わざ)とは思はず、祈念(きねん)を凝(こら)せる神仏(しんぶつ)がしかなさしめしを信ずるなり。
 寒さは寒し恐しさにがた/\震(ぶるひ)[#「がた/\震(ぶるひ)」は底本では「がた/\震 ぶるひ」]少しも止(や)まず、遂(つひ)に東雲(しのゝめ)まで立竦(たちすく)みつ、四辺(あたり)のしらむに心を安んじ、圧へたる戸を引開くれば、臥戸(ふしど)には藻脱(もぬけ)の殻のみ残りて我も婦人も見えざりけり。其夜(そのよ)の感情、よく筆に写すを得ず、いかむとなれば予は余りの恐しさに前後忘却したればなり。
 然(さ)らでも前日の竹藪以来、怖気(おぢけ)の附(つ)きたる我なるに、昨夜(さくや)の怪異に胆(きも)を消し、もはや斯塾(しじゆく)に堪(たま)らずなりぬ。其日の中(うち)に逃帰(にげかへ)らむかと已(すで)に心を決せしが、さりとては余り本意(ほい)無し、今夜(こよひ)一夜(ひとよ)辛抱(しんばう)して、もし再び昨夜(ゆうべ)の如く婦人の来(きた)ることもあらば度胸を据(す)ゑて其(そ)の容貌と其(その)姿態(したい)とを観察せむ、あはよくば勇を震ひて言葉を交(かは)し試むべきなり。よしや執着の留(とゞま)りて怨(うらみ)を後世(こうせい)に訴ふるとも、罪なき我を何かせむ、手にも立たざる幻影にさまで恐るゝことはあらじ、と白昼は何人(なんぴと)も爾(しか)く英雄になるぞかし。逢魔(あふま)が時(とき)の薄暗がりより漸次(しだい)に元気衰へつ、夜(よ)に入りて雨の降り出づるに薄ら淋しくなり増(まさ)りぬ。漫(そゞろ)に昨夜(さくや)を憶起(おもひおこ)して、転(うた)た恐怖の念に堪(た)へず、斯くと知らば日の中(うち)に辞して斯塾を去るべかりし、よしなき好奇心に駆られし身は臆病神の犠牲となれり。
 只管(ひたすら)洋灯(ランプ)を明(あか)くする、これせめてもの附元気(つけげんき)、机の前に端坐して石の如くに身を固め、心細くも唯(ただ)一人(ひとり)更け行く鐘を数へつゝ「早(はや)一時か」と呟く時、陰々として響き来(きた)る、怨むが如き婦人の泣声、柱を回(めぐ)り襖を潜(くゞ)り、壁に浸入(しみい)る如くなり。
 南無三(なむさん)膝を立直(たてなほ)し、立ちもやらず坐りも果てで、魂(たましひ)宙に浮く処(ところ)に、沈んで聞こゆる婦人の声、「山田(やまだ)山田」と我が名を呼ぶ、□呀(あなや)と頭(かうべ)を掉傾(ふりかたむ)け、聞けば聞くほど判然と疑(うたがひ)も無き我が名の山田「山田山田」と呼立つるが、囁く如く近くなり、叫ぶが如くまた遠くなる、南無阿弥陀仏コハ堪(たま)らじ。

     六

 今はハヤ須臾(しゆゆ)の間(ま)も忍び難(がた)し、臆病者と笑はば笑へ、恥も外聞も要(い)らばこそ、予は慌(あわたゞ)しく書斎を出でて奥座敷の方(かた)に駈行(かけゆ)きぬ。蓋(けだ)し松川の臥戸(ふしど)に身を投じて、味方を得ばやと欲(おも)ひしなり。
 既(すで)にして、松川が閨(ねや)に到れば、こはそもいかに彼(か)の泣声(なきごゑ)は正(まさ)に此室(このま)の裡(うち)よりす、予は入(はひ)るにも入(はひ)られず愕然(がくぜん)として襖(ふすま)の外に戦(わなな)きながら突立(つツた)てり。
 然(しか)るに松川は未(いま)だ眠らでぞある。鬱(うつ)し怒(いか)れる音調以(も)て、「愛想(あいそ)の尽(つ)きた獣(けだもの)だな、汝(おのれ)、苟(いやし)くも諸生を教へる松川の妹でありながら、十二にもなつて何の事だ、何(ど)うしたらまたそんなに学校が嫌(いや)なのだ。これまで幾度(いくたび)と数知れず根競(こんくらべ)と思つて意見をしても少しも料簡(れうけん)が直らない、道で遊んで居ては人眼に立つと思ふかして途方も無い学校へ行くてつちやあ家(うち)を出て、此頃(このごろ)は庭の竹藪に隠れて居る。此間(このあひだ)見着(みつ)けた時には、腹は立たないで涙が出たぞ」と切歯(はがみ)をなして憤(いきどほ)る。
 傍(かたはら)より老いたる婦人(をんな)の声として「これお長(ちやう)、母様(おつかさん)のいふ事も兄様(にいさん)のおつしやる事もお前は合点(がてん)が行(ゆ)かないかい、狂気(きちがひ)の様(やう)な娘を持つた私(わたし)や何(なん)といふ因果であらうね。其癖(そのくせ)、犬に吠えられた時、お弁当のお菜(さい)を遣(や)つて口塞(くちふさぎ)をした気転なんぞ、満更(まんざら)の馬鹿でも無いに」と愚痴(ぐち)を零(こぼ)す[#ルビの「こぼ(す)」は底本では「にぼ(す)」]は母親ならむ。
 松川は腹立たしげに「其(それ)が馬鹿智慧と謂ふもんだ、馬鹿に小才(こさい)のあるのはまるつきりの馬鹿よりなほ不可(いけな)い。彼(あ)の時藪の中から引摺出(ひきずりだ)して押入の中へ入れて置くと、死ぬ様な声を出して泣くもんだから――何時(いつ)だつけ、むゝ俺が誕生の晩だ――山田に何が泣いてるのだと問はれて冷汗を掻(か)いたぞ。貴様が法外な白痴(たはけ)だから己(おれ)に妹があると謂ふことは人に秘(かく)して居(を)る位(くらゐ)、山田の知らないのも道理(もつとも)だが、これ/\で意見をするとは恥かしくつて言はれもしない。それでも親の慈悲や兄の情(なさけ)で何(ど)うかして学校へも行(ゆ)く様に真人間にして遣(や)りたいと思へばこそ性懲(しやうこり)を附(つ)けよう為に、昨夜(ゆうべ)だつて左様(さう)だ、一晩裸にして夜着(よぎ)も被(き)せずに打棄(うつちや)つて置いたのだ。すると何うだ、己(おれ)にお謝罪(わび)をすれば未(まだ)しも可愛気(かはいげ)があるけれど、いくら寒いたつて余(あんま)りな、山田の寝床へ潜込(もぐりこ)みに行(い)きをつた。彼(あれ)が妖怪(ばけもの)と思違ひをして居るのも否(いや)とは謂はれぬ。妖怪より余程(よつぽど)怖い馬鹿だもの、今夜はもう意見をするんぢやあないから謝罪(わび)たつて承知はしない、撲殺(なぐりころ)すのだから左様思へ」と笞(しもと)の音ひうと鳴りて肉を鞭(むちう)つ響(ひゞき)せり。女(むすめ)はひい/\と泣きながら、「姉様謝罪(おわび)をして頂戴よう、あいたゝ、姉様よう」と、哀(あはれ)なる声にて助(たすけ)を呼ぶ。
 今姉さんと呼ばれしは松川の細君なり。「これまで幾度謝罪をして進(あ)げましても、お前様の料簡が直らないから、もうもう何と謂つたつて御肯入(おきゝい)れなさらない、妾(わたし)が謂つたつて所詮(しよせん)駄目です、あゝ、余り酷(ひど)うございますよ。少し御手柔(おてやはらか)に遊ばせ、あれ/\それぢやあ真個(ほんと)に死んでしまひますわね、母様、もし旦那つてば、御二人で御折檻なさるから仕様(しやう)が無い、えゝ何(ど)うせうね、一寸(ちよつと)来て下(くだ)さい」と声震はし「山田さん、山田さん」我を呼びしは、さては是(これ)か。




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