太陽系統の滅亡
著者名:木村小舟
彼ら二、三の同志は、心からなる感謝を学者に捧げたが、学者はすでに慰安を以て瞑目し、その体は氷よりもさらに冷たくなっている、されど彼の顔は、愉快なる微笑さえ浮んだのが見らるる。
残れる者どもは、これを見て敢て驚きもせず、また悲しとも思わなかった、蓋(けだ)し死は分秒を争うに過ぎぬからである。
かかる悲惨極まる有様の下に、地球の生物は刻々に亡び、太陽は一分毎に光りを失い、月はますます地球に接近する、そしてその月が、恐ろしい音響を以て地球と衝突し、遂に二体合一せる刹那(せつな)の物凄い有様は、何人も見たものがなかった、故にそれは未来数億万年後に、新しき世界に人として生れ来る者も、想像に描く能わざるべく、地球の末期(まつご)は、かくて永久に神秘の内に閉さるるであろう。
(「冒険世界」明治四〇年五月号)
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