にらめつくらの鬼瓦
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著者名:沖野岩三郎 

、家内も職人も、みんな出て来て、
「今に見ろ。こつちの鬼瓦は、火をふくぞ。そしたら西山の鬼瓦は閉口して、二つに破れて落ちるぞ。」と、云つてゐました。
 五時一分前になりました。もう、たまらなくなつて、東山の方では、
「今に見ろ。」と、どなりました。そのこゑを聞いた、西山の方でも、
「今に見ろ。」と、どなり返しました。
 五時になりました。両方の鬼瓦は、一度に、しゆう、しゆうと、すさまじく火を吹きはじめました。ごん七さんも、ごん八さんも、首をかしげて、かんがへました。

 京一さんと今雄さんとは、あくる日、また学校の裏庭の、桜の木の下で、ひそひそと話しては、笑つてゐました。すると、にはかに、ごう、ごう、と、地の下が、鳴りはじめました。
「京一さん、地震だよ。」と、今雄さんが言つた時、たて物が、がたがたと、動きました。二人は、ひしと、だき合つて、桜の木の下に、立つてゐますと、どこかで、どうん、がらがらと、大へんなひびきが、いたしました。
「あ、うちの鬼瓦が、屋根から、おつこちたのだ。」
 二人は同時に、叫びました。そして、門のところへ、走つて行つてみますと、おほぜいの生徒が、そこに立つてゐて、
「東山の鬼瓦…… 西山の鬼瓦……」と、言つて、さわいでゐました。

 東山の鬼瓦は、まつさかさまに、泉水の中におちたので、角が、めちやめちやに折れて、頭が八つに、われてしまひました。
 西山の鬼瓦は、庭石の上に落つこちて、顔のまん中に、ぽつこりと、大きな穴があいて、眼(め)も鼻も口も、無くなりました。
 ごん七さんは、めちやめちやにわれた、鬼瓦を拾ひあつめながら、
「下らない競争をして、かんじんのしごとを、一月も休んだ。もう、こんな下らない競争はよしませう。」と、言ひました。
 ごん八さんは、顔のまん中に大穴の開いた、鬼瓦をながめながら、
「下らない争をして、註文(ちゆうもん)の瓦をやく事を、すつかり忘れてしまつた。もう、こんな下らない競争は、よしませう。」と、言ひました。

 ごん七さんところの四階は、三階になりました。
 ごん八さんところの四階は、二階になりました。
 ごん七さんところの三階は、平家になりました。
 ごん八さんところの平家は、とりはらはれて、そこは、瓦を、かはかす場所になりました。
 ごん七さんところの平家は、取りのけられて、そのあとは、瓦をやく所になりました。

 あくる年の四月に、京一さんも今雄さんも、同じ一番で六年級になりました。
 ごん七さんの、やく瓦は、石ころでたたいても、こはれないといふ評判が、日本中へ、ひろがりました。
 ごん八さんの、やく瓦も、投げたつて、こはれないといふ評判が、高くなりました。
 そして、東山も西山も、だんだん商売が、はんじやうしました。

 東山の上から、赤い旗を振つて、
「きみのところへ どうわとくほんが つきましたか。」と、信号しますと、西山の上から、
「つきました あすのあさ がくかうへ もつていつて かして あげます。」
と、あひづをしました。

 ごん七さんは、今雄さんが、旗をふつてゐるのを見て、
「もう、鬼瓦がないんだから、旗をふらないでも、いいぢやないか。」と、叱(しか)るやうに言ひました。
 ごん八さんも、京一さんの、旗を振るのを見て、
「もう、下らない競争はよせ。」と、叱るやうに言ひました。
 あくる日、今雄さんと京一さんとは、学校の裏庭で、相談しました。そして、その日の夕方、おうちへかへつて、今までの事を、すつかり、白状することにしました。
 ごん七さんも、ごん八さんも、二人ながら、自分の子供さんの、かしこいのに、感心しました。
 それから、東山と西山とでは、毎日、赤と白との旗をふるやうになりました。それは、東山へ瓦の註文があつても、瓦の足りない時は、西山へ旗をふつて、足りないだけを、すぐ持つて来てもらふのです。そのかはり、西山へ瓦の註文が有りすぎた時は、その半分を、東山でやいてもらふやうに、旗をふつて、たのむのです。その信号手は、いつも京一さんと、今雄さんでした。
 東山と西山とが、仲(なか)よくなつた時、世間の人は、両方の瓦を、
「打つても投げても、こはれない瓦だ。」と、いつて、ほめました。




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