蚊帳の釣手
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著者名:沖野岩三郎 

の間にか、お父さんはお爺(ぢい)さんになり、おつ母さんはお婆(ば)アさんになつてゐました。
「おや! 万作ぢやないか、まあ大人になつたネ。もう幾つになつたのかい。」
 おつ母さんは嬉(うれ)しさうな顔をして聞きました。
「十二と十二とです。」万作は元気よく返事をしました。
「十二と十二?」お父さんは笑ひながら万作の抱へてゐるものを見て、「それは何ぢや。」と問ひました。
 万作は、につこり笑つて、
「蚊帳です! もうこの蚊帳があれば今年の夏は煙い辛抱(しんばう)をしなくとも宜(い)いです。障子を閉めきらないでも宜いです。これを十二円で買つて貰つて来たのです。喜んで下さい。」と元気よく言ひました。爺さんも婆アさんも大層喜んで今年は早く夏が来れば宜(よ)いがと思つて、蚊の出る頃(ころ)を待つてゐましたが、ブーン、ブーンと唸(うな)つて一疋(ぴき)二疋蚊が出て来ると、
「蚊帳だ! 蚊帳だ!」と大騒ぎをして、それをつらうとしたが四隅(すみ)に吊(つる)す釣手(つりて)がありませんでした。どうせう、かうせうと評定してゐる中、万作は仙人に貰つた袋の事を想ひ出してそれを開けてみると、中に四つの栃(とち)の実が入つてゐました。そして、それに穴をあけて青い紐(ひも)を通してありました。
「これが宜(い)い、これが宜い!」大喜びでそれを四隅の釣手にして早速三人は其中に入つて寝ました。爺さんも婆アさんも、有難い有難いと云つて喜びました。




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