沈黙の扉
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著者名:吉田絃二郎 

私が強ひて沈黙を主張する所以は、ともすれば外に向つてのみ、いのちの伸展を索めようとする現代の私たちの心は、やゝもすれば内なる生命の空虚を忘れんとする傾向を多く持つことを恐るゝからである。
 沈黙は内に向つての争闘である。沈黙は霊の世界に於ける戦ひである。沈黙は我れ自身に向つての争闘である。
 社会、他我に向つて戦はれる争闘は時として絶ゆることがある。けれども我自身に向つての闘ひは永遠に絶ゆることはない。真に生きる者は常に我自身の内に闘ふことを忘れない。
 沈黙は内なる世界の覚醒である。内なるいのちのうごめきである。真に永遠なるいのちの伸展である。
 此の半世界が日暮るゝ時、他の半世界が光明の世界を現すやうに、私達の心が外から内に向けらるゝ時、私達の真実の世界が私達の内に現じて来る。
 沈黙は内なる世界の光被である。




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