世界怪談名作集
著者名:クラウフォードフランシス・マリオン
船長も同じように僕のそばに倒れていた。そのうちに僕はいくぶんか意識を回復してくると、すぐに左の手首の骨が折れているのを知った。
僕はどうにかこうにか起きあがって、右の手で船長を揺り起こすと、船長は唸りながらからだを動かしていたが、ようようにわれにかえった。彼は怪我をしていなかったが、まったくぼうとしてしまったようであった。
さて、諸君はもっとこのさきを聞きたいかね。おあいにくと、これで僕の話はおしまいだ。大工は彼の意見通りに百五号の扉へ四インチ釘を五、六本打ち込んでしまったが、もし諸君がカムチャツカ号で航海するようなことがあったらば、あの部屋の寝台を申し込んでみたまえ。きっと諸君はあの寝台はすでに約束済ですと断わられるだろう。そうだ、あの寝台は生ける屍の約束済になっているのだ。
僕はその航海中、船医の船室に居候をすることになった。彼は僕の折れた腕を治療してくれながら、以後は化け物や怪物を弄(なぶ)り廻さないように忠告してくれた。船長はすっかり黙ってしまった。
カムチャツカ号は依然として大西洋の航行をつづけているが、かの船長は再びその船に乗り込まなかった。むろん僕においてをやだ。実際、あんなに心持ちの悪い、恐ろしかった経験などは、もうまっぴらごめんだ。僕がどうして化け物を見たかという話も――あれが化け物だとすれば――これでおしまいだ。なにしろ恐ろしかったよ。
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