村芝居
著者名:魯迅
「ええ、わたしどもは御馳走になったよ。初めはお前のとこのものは、要らなかったんだが、ね、御覧、お前はわたしの蝦を嚇(おど)かして逃してしまったよ」と雙喜は言った。
「御馳走か――ちげえねえ」六一爺さんはわたしを見ながら櫂をとめて笑った。
「迅ちゃん、きのうの芝居は面白かったかね」
わたしは頷いて「ええ」と答えた。
「豆はうまかったかね」
「ああ大変うまかったよ」
六一爺さんは非常に感激して、親指をおこして、得意になって喋舌った。
「さすがは大どころで育った学者だけあって、目が高い。乃公の豆は一粒撰(よ)りなんだぜ。田舎者にゃわからねえ。全く乃公の豆は、ほかのもんとは比べ物にならねえ。乃公はきょう幾らか、おばさんのところへ持ってってやるんだ」
彼はそこで櫂を押して過ぎ去った。
わたしは母親に喚(よ)ばれて晩飯を食いに帰ったら、卓上の大どんぶりに煮立ての羅漢豆があった。これは六一爺さんがわたしの母とわたしに食べさせるために贈ってくれたもので、彼は母親に向って、わたしのことを箆棒(べらぼう)にほめていたそうだ。
「年はいかないが見上げたもんだ。いまにきっと状元(じょうげん)に中(あた)るよ。おばさん、おめえ様の福分は乃公が保証しておく」
わたしは豆を食べたが、どうしてもゆうべの豆のような旨みは無かった。
まったく、それからずっと今まで、わたしは本当にあの晩のようないい豆は二度と食べたことはなかった。――あの晩のようないい芝居も二度と見たことはなかった。
(一九二二年十月)
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