若草物語
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著者名:オルコットルイーザ・メイ 

一人は、めのうの指輪よりもお行儀のいいほうがいいということがわかりました。それで、四人の娘たちは、ぐちをやめ、さずかった恵みを感謝し、もっとよくなろうと考えました。」
「おかあさんは、あたしたちのお話をとって、あたしたちをお説教なさるの、ずるいわ。」と、メグがいいますと、ベスがいいました。
「あたし、そういうお説教すきだわ。おとうさんがよく話して下さったわ。」
 エミイは、つぶやくように、
「あたし、そう不平いわないけど、もっとつつしむわ。スージーさんのやりそこないで、あたしほんとに教えられたんですもの。」
 すると、ジョウが、ふざけて、
「おかあさんの教えは、よかったわ。もしか忘れたら、チョール人のおじいさんみたいに、子供らよ慈悲ちゅうもんを、ようくかんげえねせえと、おかあさん、おっしゃって下さい。」と、いいました。これでおもおもしい空気が、あかるくなりました。

          第五 おとなりどうし

「まあ、ジョウ、なにをなさるの?」
 ある雪のふる午後、妹のジョウがごむ靴をはき、古ばけた上衣に、ずきんといういでたちで、ほうきとシャベルをもって広間へ出て来たのを見て、そうたずねました。
「運動にいくの。」
「今朝、二度も散歩して来たんだもの、たくさんだわ。家にいて火にあたりなさいよ。」
「いやなこった。ねこじゃあるまいし、火のそばでいねむりなんかするの大きらい。あたし冒険がすき、これからなにかさがしにいくの。」
 メグは炉に足を出して本を読み、ジョウは通路の雪をどけはじめました。ところで、マーチの邸はローレンスの邸と、生垣でへだてられていました。いずれも、森や芝生の多い、いなかめいた気分のなかにつつまれていましたが、ローレンスの邸では、大きな馬車をいれる納屋や、温室や、りっぱな石づくりの家があるのに、マーチの邸には、赤茶けたふるびた家が見すぼらしくあるだけでした。
 けれど、ローレンスのりっぱな家はなんとなくさびしく、ここにおじいさんと、ただ二人で住むぼっちゃんに友だちもありませんでした。ジョウは考えました。「[#「「」は底本では欠落]かわいそうに、少年の心のわからないおじいさんから、お部屋にとじこめられているんだわ。ローリイには、にぎやかな、わかわかしい遊び相手がいるんだわ。」
 ジョウはなんとかして、ぼっちゃんを誘い出そうと、冒険をもくろんでいると、ローレンス老人が馬車で出かけました。すてき、すてき、ぼっちゃん一人ならと、生垣のところまで道をつけていくと下の窓にはカーテンがおりていて、召使の姿も見えませんが、上の窓には、やせた手と、ちぢれた髪の黒い頭が見えました。
「かわいそうに、病気でねているんだわ。こんなさびしい日に。」
 ジョウは、一かたまりの雪を窓を目がけてなげました。黒い頭がすぐにふりむき、大きな目がいきいきとかがやきました。
「いかが、御病気なの?」
 ローリイは、窓を開けてしゃがれ声で答えました。
「ありがとう。いくらかいいんです。ひどいかぜをひいて、一週間ねちゃいました。」
「まあ、お気のどく、なにして遊んでいらっしゃるの?」
「なにもしてません。家はお墓みたい。」
「本は読まないの?」
「あんまり読みません。読ませてくれないんですもの。」
「だれにも読んでいただけないの?」
「おじいさんに、ときどき。でもぼくの本はおじいさんにおもしろくないし、ブルック先生に頼むのは、いつだっていやだし。」
「じゃ、お見舞に来る人もいないの?」
「いないんです。男の子はがやがやさわぐし、ぼくは頭がよわってるんです。」
「女の子はいないの、本を読んだりなぐさめてくれる女の子は? 女の子は静かだし、看護婦ごっこすきよ。」
「そんな女の子知りませんもの。」
「あんた、あたしを知ってる?」
 ジョウが笑うと、ローリイがさけびました。
「知ってる! あんた来てくれる?」
「ええ、あたしは、おとなしくも、やさしくもないけど、おかあさんがいいとおっしゃったらいくわ。」
 ジョウは、ほうきをかついで家へ帰りました。そのあいだに、ローリイはお客を迎えるために、髪にブラシをかけ、あたらしいカラをつけ、五六人の召使たちに部屋をかたづけさせました。やがて、ジョウが玄関にたちベルをおしました。ローリイは、こころよくジョウを迎えました。
 ジョウは、親切のあふれた顔をして、片手にはおおいをした皿をもち、片手にはベスの三匹の子ねこをだいてあらわれました。
「おじゃまにあがりました。荷物までしょって、おかあさんがよろしくって。メグはお手製の白ジェリイをお見舞ですって。おいしいんですよ。それから、ベスはねこをおなぐさみにつれていくようにって。お笑いになるでしょうが、ことわりきれなくて。」
 ローリイは、ねこを見て笑い、はにかみを忘れ、すぐにうちとけました。ジョウが、皿のおおいをとると、緑の葉のわと、エミイの秘蔵のジェラニュームの赤い花をそえた白ジェリイがあらわれました。
「ああ、きれいだ、食べるのがおしい。」
「たいしたものではないの。ただ、みんながお目にかけたかっただけ。でも、あっさりしてるからめしあがれてよ。それにやわらかいから、のどが痛くても、するっとはいってしまうわ。それはそうとこの部屋なんて気持がいいんでしょう。」
「女中が女中なので、片づいていなくて。」
「じゃ、あたし二分間で片づけてあげるわ。」
 ジョウは、てきぱきとはたらきました。部屋の感じが一変したので、ローリイは満足してお礼をいいました。
「さあ、今度はぼくがお客さまをよろこばせなくちゃ。」
「いいえ、あたしはあなたをなぐさめに来たのよ。なにか本を読んであげましょうか?」
「ありがとう、でもそこにある本、みんな読んでしまったんです。だから、あなたさえよかったら、お話のほうがいいんだけど。」
「いいですとも、一日だって話すわ。ベスはあたしがおしゃべりをはじめたら、いつやめるかわからないなんていうのよ。」
「ベスさんというのは、ときどき小さなバスケットをもって出ていく、あかい顔の。」
「ええ、いい子ですわ。」
「すると、あの美しいかたがメグさんで、まき毛のかたがエミさんですね?」
「どうしてごぞんじ、そんなによく。」
 ローリイは、さっと顔をあかめました。
「だって、ここにいると。たのしそうなみなさんがよく見えるんですもの、夜、カーテンを閉め忘れた窓ごしに、おかあさんをかこんで、いらっしゃるところも見えます。おかあさんのお顔は、やさしく花のようです。ああ、だけど、ぼくには母はいない。」
 母の愛にうえた少年の目は、ジョウのあたたかい胸をうごかしました。すなおなジョウは、じぶんが、いかにゆたかな家庭の愛に恵まれているかを感じたので、よろこんでそれを病気のさびしいかれに、分けあたえたいと思いました。
「では、カーテンをおろさずにお好きなだけ見せてあげます。いいえ、それより家へいらっしゃい。おかあさんはいい人よ、ごちそうたくさんして下さるわ。ベスは歌をうたい。エミイはダンスをする。メグとあたしはおかしなお芝居の道具を見せて笑わしてあげるわ。そうして、みんなでおもしろく遊ぶのよ。でも、おじいさん来させて下さる?」
「あなたのおかあさんが頼んで下さればね。おじいさんは親切で、ぼくのすきなことをさせてくれます。」
 ローリイは、マーチ家の人たちのことについてたくさんの興味をもち、ジョウの口から姉妹たちのことを聞いてうれしそうでした。ことに、ジョウが、せっかちの、気むずかしいおばさんの世話をしにいく話をおもしろがって、そのおばさんのところへ気どった老紳士が結婚申込に来たとき、むく犬がその紳士のかつらをひっぱって、はげ頭がむき出しになった話では、ころげまわって、涙が出るほど笑ったので、女中がおどろいて、のぞきに来たくらいでした。
 ジョウは、話が成功したのでとくいになって、家のお芝居のこと、いろんな計画のこと、おとうさんのこと、その希望や心配、家のなかの一ばんおもしろいことなど、のこらず話しました。それから本の話になりましたが、ジョウはローリイがやはり本ずきで、じぶんよりもたくさん読んでいるのをうれしく思いました。
「そんなに本がすきなら[#「すきなら」は底本では「すきなち」]、おじいさんの文庫へいきましょう。」
 文庫は、ジョウをよろこばせました。ずらりとならんだ本のほかに、絵や彫刻や古い品物のはいったたんすがあり、ゆったりしたイスがそなえてありました。ジョウは、そのビロウド張りのイスに腰をかけて、
「まあ、りっぱだ! あなたは、一ばんこの世でしあわせなぼっちゃんですよ!」と、いいましたがそのときベルが鳴りました。あ、おじいさんだと、はっと、しましたが、まもなく女中が来て、お医者さんが来たといい、ローリイは診察してもらいに出ていきました。ジョウは、ほっとして、文庫のなかを見物しましたが、老紳士のりっぱな肖像画の前に足をとめてながめました。そのとき、扉が開いたけれど、ジョウはふり返ってもみずに、
「この人、親切そうな目をしていらっしゃるから、あたしもうこわくないわ。でも口もとはきつそうだし、とても意地っぱりみたいね。うちのおじいさんほど、きれいではないけど、あたし好きだわ。」
 すると、うしろで声がしました。
「どうも、ありがとう。」
 ふりかえると、ローレンス老人が立っていたので、ジョウはちぢみあがりました。顔はあかくなり動悸がうちます。逃げ出すのに卑怯だし、ふみとどまることにしたものの、ほんものの老人の目は、肖像画の目よりも、もっとやさしかったので、そんなにこわくなくなりました。
「そうすると、あなたは、わたしがこわくないのかね?」
「そんなに。」
「あなたのおじいさんほど、きれいではないというのだね?」
「ええ、きれいではありませんわ。」
「わしは、意地っぱりかね?」
「そう思います。」
「それだのに、わしが好きだって?」
「ええ、好きです。」
 この答えが老人をよろこばせました。老人はジョウの手をにぎり、その顔をのぞきこんで、
「顔はにていなくても、あなたは、りっぱなおじいさんの性質をうけついでいる。おじいさんは勇気があり正直だった。わたしは、あのかたと、友だちであったことを誇りに思っていますわい。」
「ありがとうございます。」
 ジョウは、気がらくになりました。
「あなたは、家の子と、なにをしていなさったのかね? ええ?」
「近所づきあいをしようとしただけです。」
「あなたは、あの子を元気づける必要があるとお考えかね?」
「ええ、すこしさびしそうですもの。わかいお友だちがあるといいでしょう。わたしたち、女ですけど、お役にたちたいと思います。あなたのとどけて下さったりっぱなクリスマスのプレゼントを、とてもありがたく思っていますのよ。」
「いや、あれはあの子の考えたことじゃ。ところで、あの気のどくな婦人はどうしたな?」
「らくに暮していますわ。」
「そうか、おかあさんのやり口は、いつも貧乏な人たちを恵んだおじいさんのやり口とおなじだ。いつか天気のいい日に、おかあさんをお訪ねしたいといっておいて下され。ほら、お茶のベルだ。さあいっしょにお茶をのんで、近所づきあいをしてもらおう。」
 ローレンス老人は、礼儀正しくジョウにうでをさし出し、二人はうでをくんで階段をおりていきました。すると、そこへローリイが帰って来て、そのありさまを見てびっくりしました。まったく、これは考えることもできないことでした。
 老人は、四はいのお茶をのむ間、あまりしゃべりませんでした。老人は、ローリイがジョウと快活にしゃべって、顔が今日にかぎって、あかくいきいきしているのを見まもっていたからです。
「ふむ、この娘のいうとおり、孫はさびしいのだ。今日、孫はかわった。よし、この家の娘たちが、孫をどうするか見ていよう。」
 老人も、ほんとは気さくで、こだわりがない人だったのです。だから、孫のことも理解することができました。お茶がすむと、ジョウは帰るといい出しましたが、ローリイはひきとめて、ジョウを温室へつれていき、りょう手にもてないほど、美しい花をたくさん切って、
「これ、おかあさんにあげて下さい。そして、おとどけ下すったお薬、とても気にいりましたとおっしゃって下さい。」
 客間へ帰ったとき、老人は炉の前に立っていました。ジョウの目は、そこにあるグランド・ピアノにすいつけられました。
「あなた、ひくの?」
「ときどき」と、ローリイは、ひかえ目に答えました。
「今、ひいてちょうだい。帰ったらベスに話してやりたいから、聞いていきたいの。」
「あなた、さきにひかない?」
「あたしだめなの。音楽はすきだけれど。」
 ローリイがひきました。ジョウは花たばに鼻をおしつけながら、耳をすましました、ローリイが、じょうずなのに、ちっとも気どらないので尊敬をよせました。ひきおわってから、あまりほめたのでローリイはまっかな顔をしました。
「いや、ほめるのはもうたくさん。この子の音楽はまずくはないが、もっとほかのだいじなことに、身をいれてもらいたいのじゃ。ああ、もうお帰りか。ありがとう、またお出で、おかあさんによろしく。では、さよなら、お医者のジョウさん。」
 老人の握手はかたかったが、なにか気にいらないようすでした。あとで、ローリイにたずねたら、ぼくがピアノをひいたからだといいました。なぜというと、いつか話すといいました。ローリイは、
「また、来てね。」と、名残りおしそうでした。
「あなたが、よくなったら、家へ来るという約束をすれば。」
「ええ、いきます。」
 ジョウが帰って来て、のこらず報告すると、みんなもおしかけたくなりました。マーチ夫人は、おとうさんのことを忘れないでいる老人と話したかったし、メグは温室が歩きたかったし、ベスはグランド・ピアノに心ひかれ、エミイはりっぱな絵や彫刻が見たかったのです。
「おかあさん。ローレンスさんは、なぜローリイさんがピアノをひくのをきらうのでしょう?」と、せんさく癖をジョウが出しました。
「よく知らないけど、ローリイさんのおとうさんが、イタリアの女の音楽家と結婚なさったのをきらうからでしょう。ローリイさんがまだ小さいとき、両親がなくなったので、おじいさんがひきとったわけですが、おかあさんのような音楽家になりたいなどという、望みを起されたら、こまるからでしょう。」
「まあ、小説みたいね。」と、メグ。すると、すぐに、ジョウが
「まあ、いやだ。音楽家になりたければならせて、いやな大学にいかせて、苦しめなくてもいいのに。」
 ひとしきり、ローリイのことで話ははずみました。話のすえに、メグがいいました。
「夜会であったけど、たしかにあなたの話のとおり、ローリイは、お作法を知ってるわ。おかあさんがあげた薬って、ちょっと、気のきいたいいまわしね。」
「白ジェリイのことでしょう?」
「まあ、なんておばかさんでしょう! あなたのことを、おっしゃったのよ。」
「そうなの。」と、ジョウは、思いがけないというようすで目をまるくしました。
「あんたみたいな人ってあるかしら? お世辞をいわれてわからないんですもの。」
「そんなばかなこといいっこなしよ。お世辞をいうなんて考えずに、かあさんのないぼっちゃんをみんなで親切にしてあげましょう。ローリイ、遊びに来てもいいでしょう、おかあさん?」
「ええ、ええ、けっこうです。それから、メグさん、子供はできるだけ、いつでも子供でいるほうがいいのよ。」
「あたし、じぶんを子供だなんていわないねまだ十三にもなっていないんですもの。」と、エミイがつぶやきました。
「ベス、あなたはどう?」
「あたし、あの巡礼ごっこのこと考えていたの。おとなしくなろうとして、失望の沼をとおり、試練の門をぬけて、けわしい山をのぼっていくことだの、あのりっぱなもののたくさんあるローレンスさんの家が、あたしたちの美しい宮殿になるかもしれないってことだの、考えていたの。」
「あたしたちは、まあライオンのところまで来ることができたんです。」と、ジョウは、ベスの言葉にいくらか賛成らしく答えました。

          第六 美しい宮殿

 大きな家は、とうとう美しい宮殿になりました。けれど、みんながそこへいくのに、かなりの時間がかかり、ことにベスがライオンのそばをとおりぬけるのに、かなり骨がおれました。そして、ローレンス老人は、一ばん大きなライオンでしたが、訪ねて来て、娘の一人一人に、おどけ言葉や親切な言葉をかけ、おかあさんとむかし話をしてからは、もうだれも老人をこわがりませんでした。もう一つのライオンは、こちらが貧乏で、むこうが金持ということで、それもそのうちに、ローリイが、貧乏でも、愛のこもった家から受けるなぐさめを、どんなにありがたがって[#「ありがたがって」は底本では「なりがたがって」]いるかがわかったので、じぶんたちがローレンスの家から受けるものを、べつに恐縮しないでもいいと思うようになりました。そして、そこに春の草のめばえのように、あたらしい友情がもえました。
 ローリイは、今までおかあさんの味も、姉妹の味も知らなかったので、マーチ家にみなぎるゆたかな、あたたかなものに心をひかれ、ひまさえあると、遊びに来ました。それを心配してブルック先生は老人へくわしく告げました。
「いや、かまわん。遊ばせておくさ[#「おくさ」は底本では「おくき」]。あとでとりかえせばいい。マーチ夫人の意見のとおり、あまり勉強させすぎたのがいけなかったのだ。マーチ夫人がよくやってくれる」
 老人は、もうわかっていました。そして、みんなはどんなにおもしろく遊んだでしょう! お芝居、[#「、」は底本では欠落]そり遊び、氷すべり、にぎやかな夜会、たのしい談話。マーチ家からも三人の姉妹がおしかけ、メグは温室で花たばをつくり、ジョウは文庫で本をむさぼり読み、エミイは絵をうつしました。ただ、ベスだけは、グランド・ピアノ[#「グランド・ピアノ」は底本では「グランド、ピアノ」]にあこがれながら、老人をこわがって、逃げて帰りました。老人は、そのことを知って、わざわざ訪ねて来ておかあさんにいいました。
「ローリイは、ピアノを怠けています。やりすぎたから、いいあんばいなのですが、ピアノは使わんといかん。どなたか[#「どなたか」は底本では「どなかた」]来て使ってもらえんかな、いつはいって来てもいいし、口をきかんでもいい。だまって来て、だまってひけばいいんだが。」
 聞いていたベスは、もうたまらなくなって、
「あたしベスです。音楽が好きです。おじゃまでなければ、まいりたいのですが」
「どうぞ。どうぞ。半日だれもいないんだから、えんりょなく、ピアノを使ってもらえれば、こちらからお礼をいわねばならん。」
 ああ、ベスは顔をほてらし、ローレンスさんの手をにぎり、お礼の言葉がいえないので、ただきつくにぎりしめました。老人は、そっとベスの髪に口をあてて、
「わしには、こういう娘があった。ああ、かわいい子じゃ、さよなら、おくさん。」
 老人が大いそぎで帰っていくと、ベスはおかあさんといっしょによろこび、そのうれしいニュースを仲よしの人形たちに告げに二階へかけあがっていきました。その晩、ベスは今までにない、たのしさでうたいました。あくる日、老人とローリイが出かけたのを見とどけたベスは、こっそりと、客間へしのびこみ、ふるえるゆびでピアノをひきました。おお、その美しい音、ベスはうっとりとなり、よろこびはてしなく、やすまずにひきつづけ、ハンナが食事のむかえに来るまで手をやめませんでした。その後、ベスはまい日のように生垣をくぐり、客間にしのびこんでひきました。ベスは、老人がそのしらべを聞くために、じぶんの部屋の扉を開けることも、新らしい音譜をそなえておいてくれることも、ローリイが広間にいて女中たちの来るのをおっぱらってくれることも知りませんでした。ただ、ベスは、じぶんの望みのかなったことを感謝して、まことにたのしかったのであります。
 二三週間たちました。ある日、ベスはおかあさんにいいました。
「おかあさん、あたしローレンスのおじいさんに、スリッパを一つ、つくってあげたいの。あたしお礼をしたいんだけど、ほかにどうしていいかわからないんです。」
 おかあさんは、にっこり笑って、
「ええ、ええ。つくっておあげなさい。きっとおよろこびになるでしょう。みんなも手伝ってくれるでしょうし、かかるお金は、おかあさんが出してあげますよ。」と、いいましたが、おかあさんは、ベスがめったにおねだりをすることがないので、今、ベスの望みをかなえてやるのを、とくべつうれしく思いました。
 ベスは、メグやジョウと相談して、型をえらび、材料をととのえて、スリッパをつくりはじめました。紫紺の布地に、しなやかな三色すみれの花をおいたのが、たいそうかわいいと、みんながいいました。ベスは、手が器用でしたし、ほとんど朝から晩までかかりきりでしたから、まもなくできあがりました。それから、ベスはごくみじかい手紙を書き、ローリイに頼んで、ある朝、老人がまだ起きないうちに、こっそり書斎のテーブルの上に、スリッパといっしょに、のせておいてもらいました。
 ベスは、心待ちに、待ちましたが、その日も、つぎの日の朝も、なんの返事もありません。きっと老人をおこらせたのだと、ベスは心配しはじめました。けれど、その日の午後、ベスがちょっとお使いに出た帰りに、思いがけないことが起りました。ベスが家のちかくまで来たとき、四つの頭が客間の窓から、見え、たくさん[#「たくさん」は底本では「たんさん」]の手がふられ、いっせいにさけぶ声が耳をうったのです。
「ローレンスさんから御返事よ!」
 ベスは胸をとどろかせながら、いそいで帰って来ました。すると、姉妹たちは扉口のところに待っていて、ベスをつかまえ、わいわいいいながらかついで、客間へつれていきました。
「ほれ、あれよ!」と、みんなが、ゆびさすほうを見たとき、ベスはうれしいのと、おどろいたのとで、まっさおな顔色になりました。ああ、そこには、小さなキャビネット・ピアノがおいてあって、ぴかぴかしたふたの上に「エリザベス・マーチさん」にあてた手紙がのっていました。
「あたしに?」と、ベスはジョウにつかまり、たおれそうな気がしながら、あえぐようにいいました。ジョウは、手紙をわたしながら、
「そう、あんたによ、いい方ね、世の中で一ばんいいおじいさんね、かぎも手紙のなかにあるわ。」といいました。
「読んでちょうだい、わたし読めないわ。へんな気がして、ああ、とてもすてき!」と、ベスはそのおくりものに、すっかりどぎもをぬかれてしまって、ジョウのエプロンに顔をかくしました。ジョウは、手紙を開きましたが、最初の言葉を見て笑い出しました。そこには、
「マーチさん、親愛なるおくさん」と、書いてあったからです。
「まあいいこと! あたしにも、だれかがそんなふうに書いて手紙くれるといいわ。」と、エミイがいいました。エミイは、こういうむかし風の書き出しは、たいそう上品のように思われました。
「小生これまでに、かず多くスリッパを使用いたし候が、あなたよりおくられしスリッパのごとく、小生に似合うものこれなく、三色すみれ、すなわち心を安める花は、小生の愛する花にて、やさしきおくり主を常に思い起させてくれるものと存じ候。よって小生は小生の負債をはらいたく、なにとぞこの老紳士の小さき孫のものたりし、あるものを、あなたにおくることをお許し願い上げ候。心よりの感謝と祝福をこめて、あなたのよろこんでいる友だちでもあり、いやしき召使の、ジェームス・ローレンス。」
「ねえ、ベス、あなた、じまんしてもいいわ! ローリイが話しだけど、おじいさん[#「おじいさん」は底本では「おじいささん」]は、亡くなったお孫さんがすきで、そのお孫さんのものはちゃんとしまっておおきになるんですって。そのピアノを、あなたに下すったのよ。大きな青い目をして、音楽が好きなためよ。」
 ジョウは、そういって、今までに見たことがないほど、たかぶって、ふるえているベスを、おちつけようとしました。すると、メグも、
「ごらんなさい。このローソク立て、まんなかに金のばらのあるみどり色の絹のおおい、きれいな楽譜かけに、腰かけと、みんなそろってるわ。」と、楽器を開けて、そのきれいなものを見せながらいいました。
 そのとき、
「さあ、ひいてごらんなさいまし、かわいいピアノの音を聞かして下さい。」と、家族のよろこびにもかなしみにも、いつでも仲間入りする女中のハンナがいいました。
 そこで、ベスがひきました。みんなは口をそろえて、こんないい音は聞いたことがないといいました。それは、あたらしく調律されて、調子がととのっていました。ああ、なんというすばらしい音色だったでしょう。
「おじいさんとこへいって、お礼をいわなくちゃいけないわ。」と、ジョウが、じょうだんのつもりでいいました。むろん、はにかみ屋のベスが、ほんとにいくとは[#「とは」は底本では「とほ」]思わなかったからですが、ベスは、
「ええ、いくわ、今すぐ」と、いって、庭におり、生垣をくぐり、ローレンス邸の扉を開けてはいっていきました。これには、みんなは、あきれてしまいましたが、ベスがそれからどうしたかを知れば、もっとおどろいたにちがいありません。というのは、ベスは書斎の扉をたたき、おはいりという声を聞くと、はいっていき、おどろくローレンスさんのそばへ立ち、手をさし出しながら、
「あたし、お礼を申しに来ました。」と、いいましたが、やさしい老人の目につきあたって、もうあとの言葉が出なくなり、いきなり、老人の首にだきついて、じぶんの唇をあてました。
 老人は、たとい、屋根がふいにふきとばされても、もっとおどろきはしないでしょう。老人は、すっかりおどろきましたが、それがうれしく、そのかわいい唇づけで、いつものふきげんは消えうせてしまいました。老人は、ベスをじぶんのひざの上にのせて、そのしわだらけのほおを、ベスのばら色のほおにすりよせ、まるでじぶんのかわいい孫娘が、生きかえって来たような気持になりました。ベスは、[#「、」は底本では「。」]そのときから、もう老人をこわがらなくなりました。そして、まるで生れたときから、ずっと知っている人に話すように、やすらかな気持で話しました。なぜなら、愛はおそれをおいのけ、感謝は誇りをおしつぶすからです、ベスが家へ帰るとき、老人は門まで送り、あたたかい握手をしてくれました。そして、いかにもりっぱな軍人らしく帽子に手をかけて、敬礼をし、堂々とひきかえしていきました。
 姉妹たちは、そのありさまを見て、おどろくとともに、うれしくてたまりません。ジョウは、じぶんの満足をあらわすために、おどりあがってダンスをはじめ、エミイはびっくりして、窓からころげおちそうになり、メグは手をあげて叫びました。
「まあ、この世の中は、とうとうおしまいが来たようね!」

          第七 はずかしめの谷

 ある日、ローリイが馬にのって、家の前をむちをふって通りすぎるのを見て、エミイがいいました。
「ローリイさんが、あの馬につかうお金のうち、ほんのすこしでもほしいわ。」
 メグが、なぜお金がいるのか尋ねますと、
「だって、わたしたくさんお金がいるの、借りがあるんですもの、お小遣は、あと一月もしないともらえないし。」
「借りがあるって? なんのこと?」
 メグは、まじめな顔になりました。
「塩漬のライム、すくなくっても、一ダースは借りがあるの。それに、おかあさんは、お店からつけでもって来るのいけないとおっしゃるし。」
「すっかり話してごらんなさいよ。」
「今ライムがはやっているの?」
「ええ、みんなライム買うわ。メグさんだって、けちだと思われたくなかったら、きっと買うわ。そして、みんな教室で机のなかにかくしておいてしゃぶるの。お休み時間には、鉛筆だの、ガラス玉だの、[#「、」は底本では「。」]紙人形やなにかと、とりかえっこするの。また、好きな子にはあげるし、きらいな人の前では見せびらかして食べるの。みんなかわりばんこにごちそうするの、あたしも、たびたびごちそうになったわ。それをまだお返ししてないの、どうしてもお返ししなければねえ、だってお返ししなければ顔がつぶれてしまうわ。」
「お返しするのに、どのくらいいるの?」
 メグは、財布をとり出しながら尋ねました。
「二十五銭でたりますわ。あまったぶんで、おねえさんにも、ごちそうできますわ、ライムお好き?」
「あまり好きじゃないわ。あたしのぶんもあげます。では、お金、できるだけ長く使うのよ、ねえさんだって、もうそんなにないんですから。」
「ありがとう。お小遣のあるの、いい気持ねえ、みんなにごちそうしてあげるわ、わたしこの週は、まだ一度もライム食べないわ。ほんとは食べたいけど、お返しできないのに、一つでもいただくの気がひけるわ。」
 つぎの日、エミイはいつもよりすこし[#「すこし」は底本では「すこ」]おそく学校へ行きました。けれど、しめった、とび色の紙づつみを机のおくにしまう前に、みんなに見せびらかしてしまいました。すると、それから五分とたたぬうちに、エミイが二十四のおいしいライム(エミイはその一つを学校へ来る途中で食べました。)をもっていて、それを大ぶるまいするといううわさが、たちまち仲間につたわり、お友だちの、エミイへのおせじは、ものすごいものとなりました。ケティはつぎの宴会によぶといいましたし、キングスレイは、つぎのお休み時間まで、時計を貸してあげるといいましたし、ライムをもっていないといって、エミイをあざけったことのあるスノーという、いじわるの子もたちまち好意をよせて、エミイの得意でない算数を教えてやるといいました。けれど、エミイは、スノーのいったわる口を忘れてはいけませんでした。それで、きゅうにそんな親切はむだよ、あなたにあげないという、電報を発して、スノーの希望をぺしゃんこにしてしまいました。
 ところが、ちょうどその日、ある名士が学校へ参観に来ました。そして、エミイのかいた地図がおほめにあずかりました。その名誉にエミイは得意になり、スノーははげしい苦しみを味わいました。そこで、名士が教室から出ていくと、重要な質問でもするようなふうをして、デビス先生のそばへいき、エミイがライムを机のなかにかくしていることを告げました。
 デビス先生は、きびしい先生で、チュウインガムのはやったときも、とうとうやめさせてしまいましたし、小説や新聞をもって来ると、とりあげてしまいました。生徒が手紙をやりとりすることもよさせました。ですから、ライムがはやりだすと、ライムをもって来てはいけない、もしもって来た者を見つけたらむちでうつと、おごそかにいわたしたのです。それは、つい一週間ほど前のことでした。
 それに、この日、先生はたしかにきげんがわるかったのです。それで、スノーの告げたライムという言葉は、まるで火薬に火をもっていったようなものでした。
「みなさん、しずかに! エミイ・マーチ、机のなかのライムをもってここへ来なさい!」
 となりにいた生徒が、ささやきました。
「みんなもっていくことないわ。」
 そこで、エミイはす早く半ダースほどを、つつみからふり落して、先生のところへもっていきました。先生は、このライムのにおいが大きらいでしたから、顔をしかめて、
「これで、みんなですか?」
「いいえ。」と、エミイは口ごもりました。
「のこりをもって来なさい。」
 エミイは、じぶんの席へ帰り、いわれたとおりにしました。
「たしかに、もうのこっていませんか?」
「うそ、いいません。」
「よろしい、それでは、このきたならしいものを、二つずつもっていって、窓からすててしまいなさい。」
 このはずかしめに、顔をあかくして、エミイは六度も窓へ往復しました。ライムがすてられると、窓の下の往来から子供たちのよろこびの声が起りました。みんなは、その声を聞いて、ライムをおしみ、無情な先生をにくみました。エミイが、すっかりライムをすててしまうと、えへんと、せきばらいをして、きびしい顔つきでいいました。
「みなさんは、一週間ほど前に[#「前に」は底本では「前た」]、わたしがいい聞かせたことをおぼえているはずです。ところがこうしたことが起って、まことにざんねんです。わたしはじぶんのつくった規則をまもります。さ、マーチ、手を出しなさい。」
 エミイは、びっくりして、りょう手をうしろへまわし、かなしそうな、許しを乞うような目をしました。エミイは、先生のお気にいっていた生徒の一人でしたし、その嘆願の目つきは言葉よりもつよく、先生の心を動かしたようでしたが、だれかが[#「だれかが」は底本では「だれかがだ」]、ちぇっ! [#空白は底本では欠落]と、舌うちする音がしたので、かんしゃくもちの先生は、エミイを許すことなんか、考えようともせず、
「手を出して、さあ!」と、宣告[#「宣告」は底本では「宜告」]をしてしまいました。
 エミイは、自尊心のつよい子でしたから、泣いたりあやまったりするようなことはなく、頭をもたげひるむことなく、その手がはげしく五六度うたれるままに、まかしていました。けれど、人からうたれるのは、これがはじめてで、そのはずかしめは、エミイにとっては、先生からなぐりたおされたほどにも感じました。
「休み時間まで教壇の上に立っていなさい。」
 デビス先生は、どこまでも、ばつを加えるつもりでした。
 これもエミイにとって、たまらないはずかしめでした。けれど、それをやらなければなりません。エミイは、その場にたおれそうになる足をふみしめて、その不名誉の場所に立ち、まっさおな顔をして立ちつづけました。一時間ほどにも思われる十五分がすぎ、先生が、
「休め、もうよろしい、エミイ」と、いったときには、もううたれた手の痛みを忘れ、うれしくてたまりませんでした。エミイは、だれにも口をきかず、ひかえ室へいき、じぶんのものをひっつかんで二度と来るものかと、怒りの言葉をもらして、立ち去りました。
 エミイが、家へ帰ったとき、すっかりしょ気ていました。やがて、ねえさんたちが帰ってきました。ねえさんたちは話を聞いてすっかりふんがいしました。
 メグは、エミイのはずかしめられた手を、リスリンと涙で洗ってやり、ジョウは、すぐにデビス先生をしばりあげろといいました。ベスは、じぶんのかわいいねこも、こんなときのエミイにはなぐさめにならないと、思いました。ハンナは、わる者めと、いって、げんこをふりあげ、夜の食事のじゃがいもが、わる者ででもあるように、すりこ木でつぶしました。ただ、おかあさんだけは、あまり口もきかず、心をいためていたようでしたが、エミイをやさしくなぐさめました。
 エミイが逃げて帰ったことは、親しい友だちのほか、だれも気がつきませんでした。けれど、よく気のつく生徒たちは、デビス先生が、その日の午後からたいへんやさしくなり、それでいていつになくびくびくしているのに気がつきました。ちょうど授業のおわるころ、こわい顔をしたジョウが来て先生に母の手紙をわたしました。
 [#空白は底本では欠落]それから、のこっていたエミイのもちものを一まとめにまとめると、それをもって帰っていきました。
 その晩、おかあさんがいいました。
「エミイ、退学させました。むちでぶつことには賛成できません。デビス先生の教育方針にも感心できないし、友だちもためにならないようです。けれど、ほかの学校へかわることは、おとうさんにうかがってからでないとできません。だから、まい日、これからベスといっしょに勉強するんです。ただ、あなたがライムを机のなかにいれていたことは、同情できません。規則をやぶったのですから。」
「ね、おかあさんは、あたしがあんなふうに、人の前ではじをかかされたのを、あたり前と思っていらっしゃるんですか?」
「あやまちを改めさせるのに、おかあさんならば、あんなやり方をしません。ただ、あなたは、このごろ、すこしうぬぼれ[#「うぬぼれ」は底本では「うぬばれ」]が強くなっていくようです。なおさなくてはいけません。あなたは、才能もありいい性質ももっているけど、それを見せびらかしてはだいなしです。へりくだるという気持、それがあなたをぐっと美しくするでしょう。」
 そのとき、むこうで、ジョウと将棋をさしていたローリイが大声でいいました。
「そのとおり! 音楽のすばらしい才能をもっていながら、じぶんでは気づかずにいる、あるおじょうさんを、ぼくは知っていますが、その人は、ひとりでいるとき、どんなりっぱな音楽を作曲しているのか知らずにいるし、そのことを人からいわれても本気にしません。」
 ローリイのそばに立っていたベスが、それを聞いていいました。
「そんなすてきな方とお友だちになりたいわ。きっと、あたしのためになる方よ、あたしなんて、とてもだめ。」
 ローリイは、いたずらっ子らしく、
「あなたは知っていますよ。その人は、ほかのだれよりも、あなたのためになっていますよ。」と、いったので、ベスは顔をあからめ[#「あからめ」は底本では「あかめ」]、はずかしがってクッションに顔をうめました。
 ジョウは、ベスをほめてもらったお返しに、ローリイに勝をゆずりました。ベスはほめられてからは、いくらすすめられても、ピアノをひこうとしませんでした。ローリイは、いいきげんで、たのしそうにうたいました。
 ローリイが帰って[#「帰って」は底本では「帰てっ」]いってから、エミイは、
「ローリイは、なんでもできる方なの?」と、いうと、おかあさんが、
「教育もあり、天分もあるから、かわいがられて、増長しなければ、りっぱな方におなりでしょう。」と、答えました。
「うぬぼれたりなさらないでしょう?」と、エミイが尋ねました。
「ちっとも。だから人をひきつけるのよ。」
「たしかに、気どらないのは、りっぱなことだわ。」と、エミイはしみじみいいました。
「教養とか才能は、へりくだっていても、あらわれて来ます。見せびらかさなくてもいいわけです。」
 ジョウが、そのとき、
「あなたの帽子や服やリボンを、みんな一度に身につけて、人に見せびらかさなくてもいいわけね。」と、いったので、おかあさんのお説教は、にぎやかな笑い声のなかにおしまいとなりました。

          第八 ジョウの原稿

 エミイが、土曜日の午後、ねえさんたちの部屋へいくと、メグとジョウが外出の支度をしていましたが、ないしょらしいので、
「おねえさんたち、どこへいらっしゃるの?」と、尋ねました。すると、ジョウは
「どこへだっていいじゃないの、小さな[#「小さな」は底本では「小さに」]子はそう聞きたがらないものよ。」と、つっけんどんにいいました。
「わかったわ! ローリイといっしょに、七つの城のお芝居を見にいらっしゃるのね。あたしもいくわ。おかあさんは、見てもいいとおっしゃったわ。あたしお小遣もあるし。」
 メグは、なだめすかすように、
「まあ、あたしのいうことをお聞きなさいよ[#「お聞きなさいよ」は底本では「お聞ぎなさいよ」]。おかあさんは、あなたの目がまだなおっていないから来週ベスやハンナといっしょに、いくといいって。」
 エミイは、あわれっぽい顔をして、
「いやだあ、おねえやんやローリイといく、半分もおもしろく[#「おもしろく」は底本では「おおもしろく」]ないわ。ね、お願いだからいかせてよ。長いことかぜひいて家にばかりいたんですもの、ねえ、おとなしくしますから。」と、せがむのでした。
「いっしょに[#「いっしょに」は底本では「いっしに」]つれていってはどう? あつ着させていけば、おかあさんだって、なにもおっしゃらないでしょう。」と、とうとうメグが、しかたがないというようにいいました。
「それなら、あたしいかないわ。二人だけ招待されたのに、つれていくのは失礼だわ。」
 このジョウのいいかたや態度は、ますますエミイを怒らせました。靴をはきながら、エミイは、
「メグねえさんがいいっておっしゃったから[#「から」は底本では「かち」]、あたしいきます。じぶんで切符買うから、ローリイにめいわくかけません。」
「あたしたちのは指定席よ。と、いって、あなた一人はなれていられないしさ、そうすると、ローリイがじぶんの席をゆずるでしょう[#「でしょう」は底本では「ででよう」]。それじゃ、つまらない。もしかしたら、ローリイが切符もう一枚買うかもしれないけど、それじゃずうずうしいわ。だから、おとなしく待っていらっしゃい。」
 ジョウは、仕度にあわてて、針で指をさしたので、ますますふきげんになって、エミイをしかりつけました。
 エミイは泣き出しました。メグがなだめていると、階下でローリイがよんだので、二人は、いそいでおりていきました。二人が出かけていくのを、エミイは窓から見おろして、おどかすようにさけびました。
「今に、後悔するわよ。ジョウさん、おぼえていらっしゃい!」
「ばかな!」と、ジョウがやり返して、玄関の扉をぴしゃっと閉めました。
「七つの城」のお芝居は、とてもよかったので、三人はたのしく見物しました。けれど、ジョウはときどき、きれいな王子や王女に見とれながらも、[#「、」は底本では「。」]心にくらい影がさしました。妹が、後悔するわよといった言葉が、あやしく、耳にのこっていたからでした。
 ジョウとエミイは、前からよくはげしいけんかをしました。二人とも気がみじかく、かっとするとひどくめんどうなことになるのでした。けれど、二人とも長く怒ることはなく、けんかの後では、たがいによくなろうとするのですが、日がたつと、またくり返すことになるのでした。
 二人が家へ帰ったとき、エミイは知らん顔をして本を読んでいました。ジョウは、帽子を二階へしまいにいきましたが、この前けんかをしたとき、エミイがひき出しをひっくり返したので、たんすやかばんや、たなの上などをしらべましたが、なんともなっていないので、エミイがじぶんを許してくれたものと思いました。
 けれど、それはジョウの思いちがいであることが、あくる日になってわかりました。その日の午後ジョウ[#「ジョウ」は底本では「メグ」]は血相をかえて、メグとベスとエミイが話しあっているところへ、とびこんで来て、息をきらして尋ねました。
「だれか、あたしの原稿とった?」
 メグとベスは、いいえといいましたが、エミイは炉の火をつついてだまっていました。
「エミイ、あなたですね。」
「あたし、持ってないわ。」
「じゃ、どこにある?」
「知らないわ。」
「うそつき! 知らないとはいわさないわ。さあ、早い白状なさい。白状しないか。」
 ジョウは、ものすごい顔でどなりました。
「いくらでも怒るがいいわ。あんなつまらない原稿なんか、もう出ないわよ。」
 エミイは、どうにでもなれというような、いいかたでした。
「どうして!」
「あたしが焼いちゃったから。」
「なに? あんなに苦労して、おとうさんがお帰りになるまでに書きあげるつもりの、あの大切な原稿を、ほんとに焼いたの?」
 ジョウは、まっさおになり、目は血ばしり、ふるえる手でエミイにとびかかりました。
「ええ、焼いたわ。昨夜、いじわるしたからよ。おぼえていらっしゃいといったでしょう。」
 ジョウは、悲しみと怒りに、かっとなって、
「ばか、ばか! 二度と書けないのよ。あたし一生あなたを許さない。」
 メグもベスも、どうしようもありませんでした。ジョウは、エミイの横っつらをひっぱたいて、部屋をとび出し、屋根部屋のソファに身を伏せて泣きました。
 おかあさんは、帰宅してその話を聞き、エミイをしかりました。エミイはわるいことをしたと思いました。けれど、ジョウの原稿は、五六篇のかわいいお伽話でしたが、文学的才分と全精力を数年間かたむけて書いたもので、ジョウにとっては、とり返しのつかぬ損失でしたから、ジョウは、お茶のベルが鳴ったとき、いかにもこわい顔をして出て来ました。エミイは、ありったけの勇気をふるい起して、
「ジョウ、ごめんなさいね、あたし、ほんとうにわるかったわ。」と、あやまりました。
 ジョウは、ひややかに、
「許してあげるものか。」と、答え、エミイにとりあいませんでした。
 だれも、この大事件のことを口にしませんでした。ジョウがじぶんの怒りをやわらげるまで、なにをいってもしようがないからです。そんなわけで、その晩はたのしくなく、みんなだまって針仕事をしました。おかあさんが、おもしろい物語を話しても、なにかもの足りなくて、家庭の平和は、すっかりみだされていました。[#「いました。」は底本では「いました。いました」]おもくるしい気分は、メグとおかあさんがうたっても晴れませんでした。
 おかあさんは、ジョウにおやすみなさいのキッスをしたとき、やさしい声で、
「ねえ、怒りを明日まで持ち越さないように、今夜中にきげんをなおしましょうね。おたがいに、ゆるし合い助け合いましょう。明日からは、またたのしくね。」と、ささやきました。
 ジョウは、おかあさんの胸に、顔をうずめました。悲しみと怒りを、涙で流したかった。けれど、あまりにいたでは深く、とうとう頭をふり、エミイに聞えよがしに、
「あんまりひどいんですもの、許してやれませんわ。」
 そういって、ジョウは、さっさと寝室へいってしまったので、その夜はおもくるしい気分でおわりました。
 つぎの日も、おもくるしい気分は去らず、みんなつまらなそうでした。ジョウは、ぷんぷんして、ローリイを誘ってスケートにでもいってみようと思って出かけていました。エミイは、じぶんのほうからあやまったのに、ジョウがまだ怒っているので、なお気をわるくしました。メグは、エミイにむかって、[#「、」は底本では「、」」]
「あなたがわるかったのよ。大切な原稿をなくされたんですもの、なかなか許せないわ。だけど、いいおりを見て、あやまればいいと思うの。だから、あなたもスケートにいってごらんなさい。そしてジョウがローリイと遊んで、きげんがよくなったとき、ジョウにキッスしてしてあげるか、なにかやさしいことしてあげるのよ。そしたら、心から仲なおりしてくれるにちがいないわ。」
 この忠告が気にいったので、エミイはいそいそと仕度をして、後をおいかけました。川までは、そんなに遠くなかったが、エミイがいったとき、二人はすべる用意ができていました。ジョウは、エミイのすがたを見ると、くるりとせなかをむけました。ローリイは、エミイの来たのに気がつかず、氷のあつさをしらべるために、そのひびきを聞きわけながら、用心ぶかく岸にそってすべっていきました。ローリイは、角をまがるとき、
「岸について来なさい。まんなかはあぶない。」
 そういって、すがたが見えなくなりました。
 ジョウが、すべって、その角までいったとき、エミイはずっとはなれたところで、川のまんなかへすべっていきました。ジョウは、みょうな心さわぎをおぼえましたが、ふいに氷のさける、ばりっという音とともに水けむりをたて、エミイがりょう手をあげ、悲鳴とともに落ちこむのを見ました。その悲鳴に、ジョウは心臓がとまると思うくらい、おどろきました。ローリイをよぼうとしましたが声が出ません。すると、なにかが、じぶんのそばを走ったと思うと、
「ぼうをもって来て、早く、早く!」と、ローリイのどなる声が聞えました。
 それから、ジョウは、まるで夢中でした。ただし冷静なローリイのさしずのままになって、おびえているエミイを救いあげること[#「こと」は底本では「ことと」]ができました。
 ふるえて、ぼとぼとしずくをたらしながら泣いているエミイを、二人は家までつれて帰りました。ジョウは、口ひとつきかず、青い顔をし、手にきずをし、服はさけたままで、とびまわり、なにかと用事をしました。さわぎがおさまった後、エミイは毛布にくるまって炉の火の前でねむってしまいました。
 おかあさんは、エミイのそばにすわってましたが、ほっとして、ジョウをよんで、手にほうたいをしてやりました。
「おかあさん、だいじょぶでしょうか?」
「ええ、けがもしていないし、かぜもひかなかったようです。あなたが、よくくるんで、大いそぎでつれて来てくれたからね。」
「ローリイが、みんなしてくれたのです。わたしは、エミイをほっといたから、一人ですべっていって落ちたんです。もしかして死んだら、あたしのせいですわ。」
 ジョウは、後悔の涙を流しましたが、それはもっと重い心の痛みからのがれることのできた、感謝の涙でもありました。
「みんな、あたしの、おそろしいかんしゃくからですわ。ああ、どうして、こうなんでしょう。おかあさん。どうぞあたしを救って下さい。」
「ええ、ええ、救ってあげますよ。そんなに泣かないでね。今日のことよく覚えておいて、二度としないと誓いなさい。おかあさん[#「おかあさん」は底本では「おおあさん」]だって、じつは、あなたとおなじくらい、かんしゃくもちなんですよ。それに、おかあさんはうち勝とうとしているんです。」
「まあ、おかあさんが? だって、一度だって、かんしゃくを起しなすったの、見たことがありませんわ。」
 ジョウは、おどろしい目をまるくしました。
「なおすのに四十年かかりました。やっとおさえられるようになりました。ほとんど、まい日、怒りたくなるけど、顔に出さぬようになったのです。これからは、怒りたく[#「怒りたく」は底本では「怒りたくない」]ならないようにしたいのですが、それには、もう四十年かかるかもしれません。」
 ああ、その言葉はジョウにとって、どんなお説教より、はげしいおしかりより、よい教訓でありました。そして、四十年も祈りつづけて欠点をなくそうとしたおかあさんのように、じぶんもどうかしてこの欠点をなおしたいと思いました。
「ねえ、おかあさん、どういうやりかたなさるの? 教えて下さい。」
「そう、あたしは、今のあなたより、すこし大きくなったころ、おかあさんをなくしました。あたしは、自尊心が強いので、じぶんの欠点をたれにうち明けることもできず、ただ一人で長い年月を苦しみました。なん度も失敗して、にがい涙を流しました。そのうちに、あなたたちのおとうさんと結婚して、しあわせになったので、じぶんをよくすることが、らくになりました。けれど、四人の娘ができ、貧乏になって来ると、またまたむかしのわるい欠点がでて来そうです。もともと、あたしは忍耐心がないので、娘たちがなにか不自由しているのを見ると、とてもたまらない気持になるんです。」
「まあ、おかあさん! それじゃ、なにがおかあさんを救って下すったんですか?」
「あなたのおとうさんです。おとうさんは、忍耐なさいます。どんなときも、人をうたがうことなく不平なく、いつも希望をもっておはたらきになります。おとうさんは、あたしを助けなぐさめ、娘たちの御手本になるように、教えて下すったのです。だから、あたしは娘たちのお手本になろうとしてじぶんをよくすることに努めました。」
「ああ、おかあさん。もしあたしが、おかあさんの半分もいい子になれたら本望ですわ。」
「いいえ、もっともっといい人になって下さい。今日味ったよりも、もっと大きな悲しみや後悔をしないように、全力をつくして、かんしゃくをおさえなさい。」
「あたし、やってみます。でも、あたしを助けて下さいね。あたしね、おとうさんは、とってもおやさしいけど、ときどき真顔におなりになり、指に口をあてて、おかあさんをごらんになるのを見ましたわ。そうすると、おかあさんは、いつも口をむすんで、部屋を出ていらっしゃいます。そういうとき、おとうさんに、おかあさんは、お気づかせになったんですか?」
「そうなんです。そういうふうに、助けて下さいとお頼みした[#「した」は底本では「しんだ」]んです。おとうさんは、お忘れにならないで、あのちょっとしたしぐさや、やさしいお顔つきで、あたしがきつい言葉を出しそうになるのを救って下すったのですよ。」
 ジョウは、おかあさんの目に涙があふれているのを見て、いいすぎたかしらと、心配になって尋ねました。
「あたし、あんなふうにいったの、いけなかったでしょうか? でも、あたし思ったこと、おかあさんにみんないってしまうの。とてもいい気持なんですもの。」
「ええ、なんでもおっしゃい。そうやって、うちあけてくれると、おかあさんはうれしいのよ。」
「あたしは、おかあさんを悲しませたのではないかと思って。」
「いいえ、おかあさんは、おとうさんのことを話しているうちに、お留守ということ[#「こと」は底本では「ごと」]がしみじみ[#「しみじみ」は底本では「みじみ」]さびしくなり、おとうさんのおかげということを思ったりしたので。」
「だって、おかあさんは、おとうさんに従軍なさるように、おすすめになったし、出発のときもお泣きにならなかったし、留守になってからも一度もこぼしたりなさらないし、だれの助けもあてにしていらっしゃらないし。」と、ジョウは、いぶかしそうにいいました。
「あたしは、愛する御国のために、あたしの一ばん大切なものをささげたのです。どうしてぐちがいえましょう。あたしが人の助けがいらないように見えるのは、おとうさんよりも、もっといいかたがおかあさんが慰め励まして下さるからなの、それは、天国のおとうさんです。天国のおとうさんに近づけば、人の知慧や力に頼る必要はなく、平和と幸福が生れます。さ、あなたもこのおとうさんのところへいきなさい。すべての心配や悲しみや罪をもって。ちょうど、あなたがおかあさんのところへ心から信頼して来るように、」
 ジョウの答えは、ただおかあさんに、しっかりすがりつくことでした。そして、だまって、心からある祈りをささげ、いかなる父や母よりも、いっそう強いやさしい愛で、すべての世の子供をむかえて下さる「おとうさん」に、近づいていくのでした。
 エミイは、眠ったまま、ねがえりをうって、ため息をつきました。ジョウは、今すぐに、じぶんの過失をつぐないたいと思うためか、今までにないまじめな表情をしました。
「あたし、かんしゃくをつぎの日までもち越して、エミイを許さなかった。もしローリさんがいなかったら、とんだことになったんだわ。ああ、どうしてあたしは、こんなにいけないんでしょう?」
 ジョウは、エミイの上によりかかり、枕の上のみだれ髪をなでながら、そういいましたが、それが聞えたもののように、エミイはばっちり目を開け、ほほえみをうかべて手をさし出しました。二人はなんともいいませんでしたが、毛布にへだてられながらも、しっかりと[#「しっかりと」は底本では「しっりと」]抱き合い、心こめたキスに、すべてを許し忘れてしまいました。

          第九 虚栄の市

 四月のある日、メグはじぶんの部屋で、いもうとたちにかこまれながら、トランクに荷物をつめこんでいました。おかあさんは、娘たちが年ごろになったら与えようと考えて、むかしのはなやかだった時代の記念品のしまってある杉箱を開けて、絹の靴下と、きれいな彫刻のある扇子と、かわいい青いかざり帯を下さいました。
 あくる日は、うららかな天気で、メグはたのしい二週間の遠出に家を出ました。上流のマフォット家の客になりにいくのです。おかあさんは、あまりこの訪問をよろこびませんでしたが、メグが熱心に頼むし、サリイがよく面倒を見ると約束してくれたので、冬の間よくはたらいたごほうびの意味で許したので、メグは、上流社会の生活を味わう第一歩をふみ出したのであります。
 マフォット家に客となってみると、メグはそのすばらしい家や、そこに住む人々の上品さに、気をのまれてしまいました。その生活は、軽薄でしたが、みんなが親切でしたから、らくな気持になりました。すばらしいごちそうをたべ、りっぱな馬車で乗りまわし、上等な服を着かざって、なにもせずに遊び暮すことは、たしかに、たのしいことでした。それはメグの趣味にかない、メグはその家の人たちの、会話や態度や服の着こなしや、髪のちぢらしかたなどを、まねしようと努めました。そして、金持の家の暮しのゆたかさにくらべると、貧乏なわが家の暮しが、いかにも味気なく不幸に見えて来ました。
 メグは、マフォット家の、三人のわかいおじょうさんたちの気にいって、散歩、乗馬、訪問、芝居やオペラ見物、夜会など、いつもいっしょに、たのしい時間をすごしました。そして、ベルには婚約者があることがわかりましたが、メグはそれに興味をもち、ロマンチックなことに思えました。
 マフォット氏は、ふとった老紳士で、メグのおとうさんを知っていました。マフォット夫人も、やはりふとった婦人で、メグをかわいがってくれ、「ひな菊さん」という名で、よんでくれました。
 いよいよ、夜会があるという日、三人はみんなすばらしい服を着て、はしゃいでいるのに、メグはじぶんのポプリンの服のみすぼらしさに心がおもくなりました。それでも、服のことなど、なんとも思っていないように、三人は親切にメグにむかって、髪をゆってあげようとか、かざり帯をしめてあげようとかいいましたが、メグはその親切のなかに、じぶんの貧しさへのあわれをみてとり、いっそう心は重くなるのでした。
 そこへ、女中が花のはいっている箱をもって来ました。アンニイが、
「ジョージから、ベルへ来たんだわ。」と、いいましたが、女中は、手紙をさしだしながら、
「マーチさんへと、使いの者が申しました。」と、いいました。
「まあ、すてき。どなたから? あなたに恋人があるとは知らなかったわ。」
 みんなは、強い好奇心をいだきました。
「手紙は母から、花はローリイからですわ。」
「まあ、そうなの。」と、アンニイは、みょうな表情でいいました。

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