若草物語
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著者名:オルコットルイーザ・メイ 

 メグは、その夜、心ゆくまでダンスをしました。みんなが親切にしてくれ、歌をうたえばいい声だとほめ、リンカーン少佐は、あの目の美しい令嬢はどなたと尋ねましたし、マフォット氏は、メグの身体にばねみたいなものがある、ぜひメグとダンスするといいました。
 こうしてたのしくしていたのに、温室のなかに腰かけて、ダンスの相手がアイスクリームを持って来てくれるのを待っていたとき、うしろで話す話し声をふと聞いて、メグは気分をこわされました。
「いくつぐらいでしょう?」
「十七八かしら、」
「あの娘たちのうちの一人が、そういうことに、なったらたいしたものですよ。サリイがいってましたが、あの人たちは、このごろとても親しくしていて、それに、あの老人は娘たちに、まるで夢中になっているんですって。」
「それやマーチ夫人の計略ですよ。娘のほうではそんな気はなさそうだけど、」
 そういったのは、マフォット夫人でした。
「あの子ったら、おかあさんからだなんてうそついて、花がとどいたら顔をあかくしたわ。いい服さえ着せたら、きれいになるでしょうに。木曜日にドレス貸して[#「貸して」は底本では「貸しで」]あげようといったら、あの子、気をわるくするかしら?」
「あの子、自尊心は強いけれど、モスリンのひどい服しかないのだから、気をわるくはしないでしょう。それに今晩の服をやぶくかもしれないから、貸してあげる口実になるわ。」
「そうねえ。あたしローレンスをよんで、あの子をよろこばしてあげましょう。そして、後で、からかってあげましょう。」
 そこへ、ダンスの相手がもどって来ました。メグは、今のうわさ話に怒りをもやし、すぐにも家へ帰って、おかあさんに心の痛みを訴えたくなりました。
 けれど、メグの自尊心は、むろんそのことを[#「ことを」は底本では「ことる」]させるわけもなく、できるだけ、ほがらかにふるまったので、だれもメグの努力に気づきませんでした。
 夜会がおわると、メグはほっとしました。ベットのなかで考えていると、ほてったほおに、涙が流れました。あのおろかなうわさ話は、メグに新らしい世界を開いてくれ、古い平和の世界を根こそぎみだしてしまいました。あわれなメグは、ねぐるしい一夜をあかし、おもいまぶたの、いやな気分で床をはなれました。
 その朝は、だれもぼんやりしていました。娘たちが編物をはじめる気力が出たときには、もうおひるでした。メグは、みんなが好奇心で、じぶんのことを気にしていることを知りましたが、ベルが手をやめて感傷的ないいかたで、こういったので、なにもかもわかりました。
「ねえ、ひな菊さん、木曜日の会に、あなたのお友だちのローレンスさんに招待状を出しましたの。あたしたち、お近づきになりたいし、それに、あなたに対する敬意ですからね。」
「御親切にありがとうございます。でも、あのかた、いらっしゃらないでしょう。七十に近い、お年よりですもの。」
「まあ、ずるい、あたしのいうのは、わかいかたのほうよ。」と、ベルは笑いました。
「わかいかたって、いらっしゃいませんわ。ローリイなら、ローリイなら、まだ子供で、いもうとのジョウくらいでしょう。あたしはこの八月で十七ですもの。」
「あんなりっぱな花をおくって下すって、ほんとにいい方ね。」と、アンニイが、意味ありげにいいました。
「ええ、いつでも下さるの。あたしの家のみんなに。あのかたの家に、いっぱい花があるし、あたしの家ではみんなが花がすきだからです。母とローレンスさんとはお友だちでしょう。だから、あたしたち子供同志も遊びますの。」
 メグは、この話を、うちきってくれればいいと思いました。
「ひな菊さんは、まだ世間のことにうといのね。」と、クララはうなずきながら、ベルにむかっていいました。
「まるで、まだあかちゃんね。」と、ベルは肩をすぼめました。
 そのとき、マフォット夫人が、レースのついた絹の服を着てはいって来ました。
「あたし、これから娘たちのものを、もとめにまいりますが、みなさん御用はありませんか?」
「ございませんわ、おばさま、ありがとう。あたしは木曜日には、あたらしいピンクの絹のを着ますし。」と、サリイがいいました。
「あなた、なにお召しになるの?」と、メグにサリイが尋ねました。
「昨夜の白いのを来ますわ。ひどくさけましたが、もしうまくなおせましたら。」
「どうして、かわりを家へとりにおやりにならないの?」と、気のきかないサリイがいいました。
「かわりなんか、あたしありませんわ。」
 やっとメグがいったのに、サリイは人のよさそうな、びっくりしたふうで、
「あれっきり、まあ、」と、いいかけましたが、ベルは頭をふって、サリイの言葉をさえぎってやさしくいいました。
「ちっともおかしくないわ。まだ社交界に出ていないのに、たくさんドレスこしらえておく必要ないわ。ひな菊さん、いく枚あっても、お家へとりにいかせなくてもいいわ。あたしの小さくなった、かわいい青色の絹のが、しまってありますから、あれを着てちょうだいな。」
「ありがとうございます。でも、あたしみたいな子供には、この前のでたくさんですわ。」
「そんなことおっしゃらないで、あなたをきれいにしてみたいの。だれにも見せないように仕度してシンデレラ姫みたいに、ふたりでふいに出ていって、みんなをおどろかしたいの。」と、ベルは笑いながら、けれど、あたたかい気持ですすめるので、目雲それをこばむことはできませんでした。
 木曜日の夕方、ベルと女中で、メグを美しい貴婦人にしあげました。髪をカールし、いい香りの白粉をぬりこみ、唇にさんご色の口紅をぬり、空色のドレスを着せ、腕環、首かざり、ブローチなど、装身具でかざりたてました。美しい肩はあらわに、胸にばらの花はあかく、ベルも女中も、ほれぼれと[#「ほれぼれと」は底本では「ほればれと」]ながめました。
「さあ、みんなに見せてあげましょう。」と、ベル[#「ベル」は底本では「べる」]は、ほかの人たちのつめかけている部屋へ、メグをつれていきました。
 メグは、ハイヒールの青い絹の舞踏靴をはき、長いスカートをひきずり、胸をわくわくさせながら歩いていきました。鏡がかわいい美人だと、メグにはっきり教えてくれたので、メグはかねての望みがかなえられた満足を味わい、じぶんから進んで、美しさを、見せびらかそうとさえしました。ベルは、ナンとクララにむかって、
「あたしが、着かえて来る間に、ナン、あなたは裾さばきと、靴のふみかたを教えてあげてね。ふみちがえてつまずくといけないから、それから、クララ、あなたの銀のちょうちょを、まんなかにさして髪の左がわのカールをとめてあげてちょうだい[#「ちょうだい」は底本では「ようだい」]。あたしのつくった、すてきな作品をだめにしちゃいやよ。」と、いって、じぶんの成功に、さも満足らしい顔つきで、いそいで出ていきました。
 ベルが鳴りひびき、マフォット夫人が、使いをよこして、娘たちにすぐ来るように、告げたとき、メグはサリイに、ささやきました。
「あたし、階下へいくのこわいわ。なんだか、とてもへんな、きゅうくつな気持で、それに半分、はだかみたいで。」
「とてもきれいだからいいわ。あたし[#「いいわ。あたし」は底本では「いいわあ。たし」]なんかとてもくらべものにならない。ベルの趣味はすてき、ただつまずかないようにね。」
 心のなかにその注意をたたみこんで、メグは無事に階段をおり、客間へ、しずかにはいっていきました。メグは、たちまちみんなの目をひきつけ[#「ひきつけ」は底本では「ひさつけ」]、この前の夜会のときと、まるでちがって、わかい紳士たちが、ちやほやして、いろいろ気にいるようなことを話しかけました。ソファに腰かけて、他人の品定めをしていた数人の老婦人たちは、メグに興味をもち、なかの一人がマフォット夫人に身もとを尋ねました。
「ひな菊マーチです。父は陸軍大佐で、あたしどもとおなじ一流の家がらですが、破産しましてね、ローレンスさんと親しいんです。家のネッドはあの子に夢中なんですよ。」
「おや、そうなんですの。」と、その老婦人はもっとよく見ようとして眼鏡をかけました。
 メグは、聞えないふりをしましたが、夫人のでたらめにはあきれました。けれど、その妙な気持を心のすみにおしつけ、笑いをたたえて、貴婦人らしくふるまっていました。ところがメグの顔からきゅうに笑いがきえました。正面にローリイの姿を見たからで、その目はじぶんを非難しているではありませんか。ローリイは、笑っておじぎをしましたが、メグはこんな姿でなくじぶんの服を着ていればよかったと思いました。メグは、そばへいき、
「よくいらっしゃいました。お出でにならないと思っていました。」
「ジョウが、ぜひいって、あなたのようすを見て来てほしいというので来たんです。」
「ジョウに、なんておっしゃるつもり?」
「どこの人だかわからなかったといいます。だって、まるで大人みたいで、あなたらしくないんですもの。」
「みんなでこんななりにさせたの、あたしもちょっとしてみたかったけど。ジョウびっくりするでしょうね? あなたもこんなの、おいや?」
「ぼく、いやです。わざとらしく、かざりたてたの、いやです。」
 年下の少年からいわれた言葉としては、あまりにするどく、メグはふきげんになって、
「あなたみたいな、失礼な人、知らないわ。」と、いって、そこを去り、窓ぎわへいってたたずみ[#「たたずみ」は底本では「たにずみ」]、きゅうくつなドレスのために、ほてったほおを夜気にひやしました。大好きなワルツの曲がはじまっても、そのままでいると、ローリイが来て、ていねいに手をさしのべました。
「失礼なこといって、お許し下さい。いっしょに踊って下さい。」
「お気持をわるくするとこまります。」
「いいえ、ちっとも、ぼくダンスしたいのです。そのドレスは好きじゃないけど、あなたはほんとうに、すてきです。」
 メグは、にっこり笑って気持をやわらげ、二人は音楽に合せておどりはじめました。
「ローリイ、あたしのお願い聞いてね、家へ帰ってもあたしのドレスのこといわないでね、家の人々は、じょうだんがわからないし、おかあさんには心配させるから。」
「どうしてそんなものを着たんです?」
 ローリイの目がなじっていました。
「どんなに馬鹿だったか、自分でお母さんにいうから、あなたいわないでよ。」
「いわないと約束します。でもきかれたらどういいましょう!」
「あたしがきれいで、たのしそうだったとだけ、いってちょうだい。」
「きれいだけど、さあ、たのしそうかしら? たのしそうに見えない。」
「ええ、たのしくないの。おもしろいことしてみたかったけど、やっぱり性にあわないわ。あきてしまうわ。」
 このとき、マフォット家の若主人のネッドが来たので、ローリイは顔をしかめました。
「あの人、あたしに三回もダンスを申しこんでいるの。だから来たんでしょう。」
 メグがいかにもいやそうにいうので、ローリイは、これはおもしろいと思いました。
 ローリイは、それっきり夕飯のときまで、メグと話しませんでした。食事のとき、ネッドとその友達のフィッシャアを相手に、メグがシャンペン酒を飲むのを見たローリイは、だまっていられませんでした。
「そんなもの飲むと、明日、頭痛がしますよ。ぼくは飲みません。おかあさんだって[#「だって」は底本では「たって」]、お気にいらないでしょう。」
 ローリイは、ネッドとフィッシャアに聞かれないように、メグによりそって、そうささやきました。
「今夜は、あたし気ちがいみたいなお人形なの。明日からはいい子になるわ。」
「それじゃ、明日もここにいたいんですね。」
 ローリイに、ついとはなれて立ち去りました。
 メグは、踊ったり、ふざけたり、しゃべったり、ローリイがあきれるほど、はしゃぎました。帰りがけに、ローリイがあいさつに来ると、メグは、もう頭痛になやまされていましたが、
「いいこと! 頼んだこと忘れないでね。」と、むりに笑顔をつくっていいました。
「死をもっての沈黙」と、ローリイは、フランス語で、芝居がかりで答えて立ち去りました。
 メグは、もう疲れきっていました。わびしい気分で床にはいりましたが、あくる日も一日気分がわるく、土曜日になって、二週間の遊びと、ぜいたくざんまい[#「ざんまい」は底本では「さんまい」]にあきあきして家へ帰って来ました。
 日曜日の晩、メグはおかあさんとくつろいだとき、あちこち見まわしながら、
「年中、お客さわぎなどいやだわ。しずかに暮すのたのしいわ。りっぱでなくても、じぶん[#「じぶん」は底本では「じぶ」]の家が一ばんいいわ。」と、のびのびした表情でいいました。
「そう聞いてかあさんはうれしい。あなたがりっぱなところへいったので、家がつまらなく[#「つまらなく」は底本では「つまちなく」]、みじめに見えやしないかと、心配していたのよ。」と、おかあさんの目の、気づかわしそうな影が消えました。
 メグは、おもしろそうに、いろいろの冒険を話しました。けれど、心の中になにかおもくるしいものがあるらしく、九時がうってジョウがねようといい出したとき、メグは[#「メグは」は底本では「メグに」]思いきったというふうに
「おかあさん、あたし白状することがありますの。」
「そうだと思っていました。どんなこと!」
「あたし、むこうへいきましょうか?」と、ジョウが気をきかしていいました。
「いいえ、いて。なんでもあなたには、うち明けてるじゃないの。いもうとたちの前では、はずかしいけど、あなたには、あたしのした、あさましいこと、すっかり聞いてほしいわ。」
「さあ、聞きましょうね。」と、おかあさん[#「おかあさん」は底本では「あかあさん」]は、にこにこしながらも、すこし心配そうでした。
「みんなで、あたしをかざりたてたことは、お話しましたが、髪をカールしたり、白粉をぬったり、ドレスを着せたりしたこと、まだ話しませんでしたね。ローリイは、正気の沙汰ではないと思ったでしょう。あたしは、お人形のようだとか、美人だとかおだてられました。つまらないこと[#「こと」は底本では「と」]とはわかっていながら、おもちゃになりました。」
「それっきり?」と、ジョウがいいました。
「まだ、あるの。シャンペンを飲んだり、ふざけたり、はねまわったり、けがらわしいことばかり」と、メグは自責の念に堪えられないようでした。
「もっと、なにかあったでしょう?」と、おかあさんが、やさしくメグのほおをなでながらいいました。
「ええ、とてもばかげたことなの。だって、みんながあたしとローリイのこと、あんなふうにいったり考えたりするのんですもの。」
 メグは、マフォット家で聞かされたいろんなうわさ話をしました。おかあさんは、こんな考えを純真なメグの心につぎこんだことを不快に思って、唇をぎゅっとむすんでいました。ジョウは、怒ってさけびました。
「そんなばかなこと、あたし聞いたことがないわ。なぜおねえさんは、その場でいってやらなかったの?」
「あたしにはできなかったの。でもあんまりひどいので、しゃくにさわるし、はずかしいし、帰って来なければならないのに、帰るのも忘れてしまって。」
「あたしたちのような貧乏人の子供について、そんなつまらぬうわさ話をしていることを、ローリイに話したら、きっとどなりつけるでしょうね。」
「ローリイにそんなこといったら、いけませんわ。ねえ、おかあさん。」
 おかあさんは、まじめな顔でいいました。
「いけません。ばかなうわさ話は、二度と口にしてはいけません。できるだけ早く忘れることです。あなたをいかせたのは、おかあさんの失敗でした。親切なんでしょうが、下品で、教養があさく、わかい人たちにいやしい考えを持たせる連中ですからね。メグ、今度の訪問があなたにわるい影響があるようなら、かあさんは残念です。」
「御心配下さらないで。あたしは、自分のいけなかった[#「なかった」は底本では「なかっだ」]ことをなおしますわ。けれど、あたしはみんなから、ちやほやされて、ほめられるの、わるい気はしませんの。」
 メグは、はずかしそうにいいました。
「それは、しぜんな気持です。それがために、ばかげたことをしなければいいんです。ただ、ほめられたとき、それだけの価値がじぶんにあるか反省して、美しい、へりくだる娘になることです。」
 それから、話は計略のことになりましたが、メグはおかあさんにむかって尋ねました。
「マフォット夫人のおっしゃったように、計略をたてていらっしゃる[#「いらっしゃる」は底本では「いらっっしゃる]の?」
「ええ、たくさんたてています。だけどマフォット夫人のいうのとはちがいます。あたしのは、娘たちが、美しくて教養のある、善良な人になって幸福な娘時代をすごし、よい、かしこい結婚をして、神さまの御意により、苦労や心配をできるだけすくなくして、有益なたのしい生涯を送ってほしいのです。りっぱな男の人に愛され、妻としてえらばれることは、女の身にとって一ばんたのしいことです。あたしは、娘たちがこういう美しい経験をすることを、心から望んでいます。そういうことを考えるのはしぜんで、メグ、その日の来るのを望み、その日を待つのは正しいことですし、その支度をしておくことは[#「おくことは」は底本では「おくことに」]かしこいことです。あたしは、あなたがたのために、そういう大望をいだいています。けれど、ただ世間へおし出し、金持と結婚させたいのではありません。お金持だからとか、りっぱな家に住めるからとか、そんなことだけで結婚したら、それは家庭といえません。愛がかけているからです。お金は必要で大切なものです。上手に使えばたっといものですが、ぜひとも手にいれるべき第一のものとか、ごほうびとか思ってはこまります。かあさんは、あなたがたが、幸福で、愛されて、満足してさえいれば、自尊心や平和なくして王位にのぼっている王女さまたちになってもらうより、かえって貧乏人の妻になってもらいたいと思います。」
 メグは、そのとき、ため息をしていいました。
「貧乏な家の娘は、せいぜい出しゃばらなければ、結婚のチャンスはつかめないって、ベルがいってましたわ。」
 ジョウは、気づよくいいました。
「そんなら、あたしたちは、いつまでも、えんどおい娘でいましょう。」
「ジョウのいうとおりです。不幸な奥さんや、だんなさんをあさりまわっている娘らしくない娘よりも、幸福なえんどおい娘でいたほうが、よろしい。なにも心配することはありません。メグ、ほんとに愛のある人は、相手の貧乏などにひるむことはありません。かあさんの知っているりっぱな婦人のなかには、むかしは貧乏だったかたがいくらもあります。けれど、愛をうける、ねうちのあるかたのばかりだったから、人がえんどおい娘にしておかなかったのです。そういうことは、なりいきにまかせておけばいいので、今は、この家庭を幸福にするように努め、やがて結婚の申しこみをうけたらばその新らしい家庭にふさわしい人になるし、もしかしこい結婚ができなければ、この家に満足して暮すのです。それから、もう一つ、よく覚えていてほしいのは、かあさんはいつでもあなたが秘密をうち明けることのできる人ということ、また、おとうさんは、あなたがたのよいお友だちであるということです。そして、おとうさんとあたしは、あなたがたが結婚しても、独身でいても、あたしたちの生活のほこりであり、なぐさめであることを信じ、また望んでもいるということをね。」
 メグとジョウは、
「おかあさん、あたしたちきっとそうなります!」と、ほんとに、心からさけんで、おやすみなさいをいいました。

          第十 ピクイック[#「ピクイック」は底本では「ピックイク」]・クラブと郵便局

 春がめぐって来ると、いろいろと新らしいたのしみがはやり、しだいに日がのびるにしたがって、長い午後の時間に、いろいろの仕事やあそびができるようになりました。
 庭に手入れをしなければなりませんでした。姉妹はめいめい四分の一の地所をもらって、じぶんのすきなようにやりました。ハンナが、どれがどのかたの庭か、支那から見たってわかるといいましたが、まさにそのとおりで、四人の趣味はひとりひとりちがっていました。
 メグは、ばらとヘリオトロープと天人花と、かわいいオレンジの木をうえました、ジョウの花壇には、二シーズン、けっしておなじじものがうえられたことがなかったのは、たえず新らしい実験を試みるからで、今年は日まわりをうえるはずで、その種子はにわとりと、そのひよこの餌にするためでした。ベスは、スイート・ピイ、[#「、」は底本では「・」]もくせい草、ひえん草、なでしこ、パンジイ、よもぎなど、古風な香りゆたかな花や、小鳥の餌になるはこべ、子猫のためのいぬはっかなどをうえました。エミイは、小さくはあるが、かわいいあずま家をつくり、にんどうだの、朝がおだのを、その上にはわせ、いろんな花を咲かせました。そして、せの高い白ゆりだの、やさしいしだなど、たくさんの花をうえこみました。
 晴れた日には、庭いじり、散歩、川でのボートあそび、花の採集など、雨の日には、室内のあそびごとに時間をすごしました。そのあそびのなかには、もとからのもあり、新らしいのもありましたがその一つ、ピクイック・クラブというのは、イギリス文豪ジケンスの作品中から、その名をとったものでした。このクラブは、そのころはやっていた秘密会で、土曜日の夕方、ひろい屋根部屋で開き、ずっと一年もつづけて来たのです。会はこんな順序で行われます。ランプをおいたテーブルの前に、三つのイスをならべ、ちがった色でクラブの頭文字のP、C、二つの大きな字をぬいつけた四つの白いきしょうが用意されました。そして、「ピクイック週報」という週刊新聞が発行され会員はみんななにか寄稿することになって、文才のあるジョウが、編集にあたりました。
 今後七時、四人の会員は、クラブ室にのぼっていき、くびに、きしょうをまきつけ、ものものしい態度で席につきました。ディケンスの小説のなかの名を借りて、メグは一ばん年上なので、サミエル・ピクイック氏[#「ピクイック氏」は底本では「ビクイック氏」]。ジョウは文学的才能があるので、オーガスタス・スノーダグラス氏、ベスは、トラシイ・タップマン氏、エミイは、ナザニエル・インクル氏でありました。会長のピクイック[#「ピクイック」は底本では「ビクイック」]が、週報を読みました。週報には、創作物語、詩、地方のニュース、おかしな広告、たがいの、欠点や短所を注意しあういましめなどが、いっぱいのっていました。今夜は、玉のはいっていない目がねをかけた会長が、テーブルをたたいて、せきばらいをし、おもむろに読みはじめました。
 会長が、週報を読みおわると、いっせいに拍手の音が起り、つぎにスノーダグラス氏が、ある提案をするために立ちあがりました。
「会長ならびに紳士諸君。」と、議会で演説するような堂々たる態度と調子ではじめました。「わたくしは、ここに一名の新会員の入会許可を提議したいと思うのであります。その人は、その名誉をあたえられるにふさわしい人物でありまして、入会されたならば、クラブの精神、週報の文学的価値に寄与するところ大なるものがありましょう。そして、その人とは、ほかならぬテオドル・ローレンス氏です。ねえ、入れてあげましょう。」
 ジョウの演説は、最後で調子がかわったので、みんな大笑いしました。けれど、すぐに、みんな気づかわしそうな顔をして、ひとりも発言しませんでした。そこで、会長が、
「投票によってきめることにします。」と、いい、つづいて「この動議に賛成のかたは、賛成といって下さい。」と、大声でうながしました。
 すると、おどろいたことに、ベスのトラシイ・タップマン氏が、おずおずした声で、
「賛成」と、いいました。
「反対のかたは、不賛成といって下さい。」
 メグとエミイ、すなわち、ピクイック氏と、インクル氏は、不賛成でありました。そして、まずエミイのインクル氏が立ちあがって、いと上品にいいました。
「わたしたちは、男の子たちを入会させたくありません。男の子たちは、ふざけたり、かきまわしたりするだけです。これは、女のクラブですから、わたしたちだけで、やっていきたいと思います。」
 ついで、メグのピクイック氏が、何かうたがうときにするくせの、ひたいの小さなカールをひっぱりながらいいました。
「ローリイは、わたしたちの週報を笑いものにし、あとでわたしたちをからかうでしょう。」
 すると、スノーダグラス氏は、はじかれたようにとびあがって、熱をこめて、
「わたしは紳士として誓います。ローリイはそんなことは致しません。かれは書くのがすきで、わたしたちの書いたものに趣きをそえ、わたしたちが[#「たちが」は底本では「たが」]センチメンタルになるのを防いでくれると思います。そう思いませんか? わたしたちは、かれにすこししかなし得ませんが、かれはわたしたちにたくさんのことをしてくれます。よって、かれに会員の席をあたえ、もし入会すれば、よろこんで迎えたいと思います。」
 いつも受けている利益をたくみに暗示されたので、ベスのタップマン氏は、すっかり心をきめたようすで立ちあがりました。
「そのとおりです。たとえ、すこしぐらいの不安はあっても、かれを入会させましょう。もしかれのおじいさんも、はいりたければ入会させてよいと思います。」
 ベスのこの力ある発言に、みんなおどろき、ジョウは席をはなれて握手を求めに来ました。
「さあ、それでは、もう一度投票します。諸君はわたしたちのローリイであることを頭にいれて、賛成といって下さい。」
 ジョウのスノーダグラス氏が、いきおいこんでさけぶと、たちまち、賛成という三つの声がいっしょに聞えました。
「よろしい、ありがたいしあわせ! さて、それでは、時をうつさず、さっそく新会員を紹介させて下さい。」と、ジョウは、戸だなを開けると、くずいれぶくろの上に、おかしさをこらえて顔をあかくして、ローリイがすわっていました。このいたずらに、すっかりやられた三人が、
「いたずら者。ひどいわ!」と、ぶつぶついっているあいだに、ジョウはかれをひき出し、会員章をあたえて席につかせてしまいました。
「きみたち、ふたりのずるいのにはおどろかされましたぞ。」と、ピクイック氏は、こわいしかめっ面をしようとしましたが、かえってにこにこ顔になってしまいました。その新会員に、うやうやしく敬礼をして、きわめて愛想のよいようすでいいました。
「会長閣下および淑女諸君、いや、これは失礼、紳士諸君、どうぞ自己紹介をお許し下さい。わたくしは、このクラブの末席[#「末席」は底本では「未席」]をけがすサム・ウェラーと申します。」
「すてき すてき」と、ジョウはテーブルをたたきながらいいました。
「ただ今、わたくしを、じょうずにひっぱり出して下すった、忠実な友だち、そして、尊敬すべき後援者は、今夜のずるい計画については、すこしも責任はないのでありまして、これはすべてわたくしがたてた計画で、わたくしがむりをいって、やっと承知させたのであります。」
 ローリイが、手をふりながらそういうと、そのじょうだんが、おもしろくてしようがないというふうに、スノーダグラス氏は、
「みんなじぶんのせいにしなくってもいいわ。戸だなにかくれることは、あたしがいい出したんだわ。」といいました。
「この人のいうことなど心にかけてはいけません。計画をしたわる者はわたくしです。しかし名誉にかけて、二度とこんなことはしません。今後は、永久につづくこのクラブのために、大いに力をいたす考えであります。」
「ヒャ! ヒャ!」と、ジョウはフライ鍋のへりをたたきながらさけびました。
「つづけろ! つづけろ!」と、インクル氏は、会長がうやうやしく礼をしている間にいいました。
「おお、一言申しておきたいことは、小生の受けた名誉を感謝いたしたく、となり合う両国民の親善関係をふかめる一助として、庭のすみに郵便局をつくったことであります。もとはつばめ小屋でしたが改造しました。手紙、原稿、本、小づつみ、なんでもとりつぎ、時間の節約に役だつと思います。両国民はそれぞれかぎをもちますわけで、ここにそのかぎを贈呈することをお許し下さい。」
 ウェラー氏が、かぎをテーブルの上において、自席にもどると、さかんな拍手、さけび声が起りました。つづいていろんな討議がおこなわれ、めいめい、かっぱつに意見をかわしました。そして、新人会員のばんざいを、最後にとなえて散会しました。
 たしかに、ローリイのサム・ウェラー氏の入会は、このクラブに生気をふきこみ、書くものでも、週報にちがったおもむきをそえました。郵便局は、すばらしい考えでした。たくさんの奇妙なものがとりつがれました。悲劇台本、ネクタイ、詩、漬もの、草花の種子、長い手紙、譜本、しょうがパン、[#「、」は底本では欠落]ゴム靴、招待状、注意書き、小犬などでした。ローレンス老人も、このあそびをおもしろがって、おかしな小づつみや、ふしぎな手紙や笑いの電報などを送って来ました。また、ローレンス家の園丁はマーチ家の女中ハンナにひきつけられ、本気で恋文を書いて来ました。その秘密がばれたとき、みんなはどんなに笑いころげたことでしょう!

          第十一 経験が教える

「[#「「」は底本では欠落]六月一日、明日はキングさんの家の人、みんな海岸へ出かけていって、あたしはひまになるの! 三ヶ月のお休み! なんてうれしいんでしょう!」
 あるあたたかい日、家へ帰って来たメグが、ジョウを見つけてさけびました。ジョウは、いつになく疲れたようすで、ソファの上に横たわり、ベスがそのほこりだらけの靴をぬがしてやっていました。エミイは、みんなのためにレモン水をつくっていました。
 ジョウがいいました。
「マーチおばさんも、今日お出かけになったわ。すてきでしょ。いっしょにいってほしいと、いわれやしないかと、びくびくしちゃった。それで、あたし、おばさんを早くたたせたいので、お気にめすように、それこそいっしょうけんめいにはたらいたわ。だけど気のきいたこのおつきを、つれていこうと思われたら大へんだと心配したの。それでおばさんを馬車にのりこませると、なにかいってたけど聞えないふりをして、大いそぎで逃げて帰ったの、ほんとに助かったわ[#「助かったわ」は底本では「助かったわわ」]。」
「よかったわね。それで、メグねえさん。この休みになにをなさるつもり?」と、エミイが尋ねました。
「うんと朝ねぼうして、なにもしないの。だって冬からこっち、朝早くからたたき起されて、ひとのためにはたらいてばかりいたんですもの。大いに休んであそぶのよ。」
「ふうむ、あたしはそんなだらけたの大きらい。たくさん本を集めておいたから、あの古い林檎の枝の上で、このかがやかしい少女時代をよくするために勉強するの。」と、ジョウがいいました。
「あたしたちも、勉強はやめにして、おねえさんのまねしてあそびましょう。」と、エミイがいうと、ベスも、よろこんで、
「ええ、いいわ。あたし新らしい[#「新らしい」は底本では「新ちしい」]歌をすこしおぼえたいし、人形さんの夏服もつくらなければならないし。」と、いいました。
 そのとき、おかあさんが、針仕事の手をやめて、みんなにむかっていいました。
「一週間、はたらかないであそんでごらんなさい。土曜日の晩になると、つまらないということが、きっとわかるでしょう。」
「そんなことありませんわ。とてもうれしいわ。きっと。」と、メグがいいました。
「ねえ。わが友、祝杯をあげましょうよ。あそびは永久に! あくせくしっこなし!」と、ジョウはレモン水がいきわたったとき、そのコップを高くささげてさけびました。
 みんなはたのしそうに飲みほしました。そのときから、ぶらぶらあそびがはじまりました。あくる朝も、メグは十時までねどこのなか。ジョウは花瓶に花もささず、ベスはそうじをしないし、エミイの本はちらかったまま、ただ「おかあさんの領分」だけが、きちんと片づいているだけでした。この部屋では、メグは、休息も読書もできず、あくびが出るばかり、給料で夏のどんなドレスが買えるかなどと考えるのでした。ジョウは、午前のうちはローリイと川へボートこぎにいき、今後は林檎の木の上で「広い世界」という物語を涙を流して読みました。ベスは、戸だなをかきまわし、そのままにして、ピアノへ気をうつしていきました。エミイは、じぶんの花園のスケッチをはじめました。それから散歩にいきましたが、夕方になってぬれねずみになって帰って来ました。
 お茶のとき、四人はその日のことを、いろいろ話し合いましたが、たのしかったけれど、いつになくその日は、永く感じられたということに、みんなの意見は一致しました。そして、つぎの日も、また、つぎの日も、休んであそびました。ところが、いよいよ一日が永く感じられ、なんとなくおちつかない気分になって来ました。すると、悪魔は四人の心をねらい、いろんなわるいことを見つけて、あばれはじめたのであります。
 たとえば、メグは布地を小さくきりすぎて、一枚の服をだいなしにしてしまいました。ジョウは、本を読みすぎて目がぼやけ、いらいらした気分となって、やさしいローリイと、けんかして[#「けんかして」は底本では「けんかしてして」]しまいました。ベスは、あそんでばかりいないで、いつもの習慣で家事のお手つだいをするので、わりにいいほうでしたが、それでも、家のなかの気分に動かされて、いらいらしてしまい、人形をしかりとばしたりしました。エミイは、ひとりであそぶことが、むずかしいことがわかりました。一日中、絵をかいてもいられませんし、人形あそびはきらいでしたし、すっかり心のつかれをおぼえました。
 金曜日の晩になると、だれもあそびにあきたとはいいませんでしたが、もう一日で一週間がおわるので、うれしく思いました。おかあさんのほうでも、ほうれごらんと、ちゃんと見てとって、この教訓をいっそう印象づけたいと思って、わざとハンナに土曜日一日、休みをあたえました。
 土曜日の朝、みんなが起きてみると、台所には火の気はなく、食堂には朝御飯はなし、おかあさんもハンナもいません。
「あら、どうしたっていうんでしょう!」
 ジョウがさけんだとき、メグはもう二階へかけあがっていき、まもなく、ほっとして、けれど、すこしはおかしそうな顔をしておりて来ました。
「おかあさんは、御病気ではないけど、おつかれでおやすみよ。今日一日は、みんなで好きなようになさいって。」
「そう。いいじゃないの、おもしろいわ、あたしなにかしたくて、うずうずしてたんですもの。」と、ジョウがいいました。
 まったく、今、四人はすこし仕事がしたくなりました。メグがコック長となってさっそく食事の仕度がはじまり、みんなおもしろがってやりました。おかあさんは、じぶんのことはかまわないでといいましたが、おかあさんの食事は用意され、ジョウが二階へはこびました。わかしすぎた紅茶はにがく、オムレツはこげ、ビスケットは重曹でかたまって、ぶつぶつしていましたが、おかあさんは、感謝して受け、ジョウが去ってしまうと、おかしくてたまらなくて、ひとりで笑ってしまいました。
「かわいそうに、みんなこまっているでしょう。でも、そうつらいとも思っていないだろうし、後のためにもなることだから。」と、つぶやいて、おかあさんはじぶんで用意しておいたもっとおいしい食物をとり出し、運ばれた食事はわからないようにしまつして、食べたことにしておいたので、みんなはうれしがりました。これはおかあさんらしい、ちょっとしたうそでした。
 ところで、階下ではいろんな不平が起りました。食事の失敗に、コック長はひどくくやしがりました。ジョウは、
「いいわ。お昼の食事は、あたしが女中になって用意するわ。ねえさんはおくさんになって、お客さまの相手をしてちょうだい。」と、いって、ローリイをよぶことを提案しました。
 これは、賛成されました。そこで、ジョウは、さっそくローリイに招待状を書いて郵便局へ出しておきました。けれど、ジョウのうで前は、すこしあぶないようでした。メグが心配すると、
「だいじょうぶ、コンビーフも、じゃがいももある。つけ合せに、アスパラガスとえびを買ってくるわ。それから、ちさでサラダをつくりましょう。つくりかたの本を見ればいいわ。デザートは、白ジェリイといちご、もっとぜいたくすれば、コーヒーも出すのよ。」
「ジョウ、あなたは。しょうがパンとキャンディだけしかつくれないじゃないの。あたしこの御馳走には関係しないわよ。だって、あなたが勝手にローリイをよんだんだから。」
「おねえさんは、ローリイを、そらさないようにして下さればいいわ。でもこまったら、なんでも教えて下さるでしょうねえ?」と、ジョウはむっとしました。
「ええ、でもあたしいろんなこと知らないわ。おかあさんに、尋ねてからにするほうがいいわ。」
 ジョウは、じぶんのうでをうたがうようなことをいわれたので、ぷりぷり怒って部屋を出て、おかあさんへ相談にいきました。
「好きなようになさい。おかあさんのじゃまをしないでね。あたしは食事は外でします。家のことなどかまっていられません。今日はお休みです。本を読んだり、手紙を書いたり、お友だちをたずねたりして過します。」
 いつもいそがしいおかあさんが、今日は朝からゆれイスにかけて本を読んでいるふしぎなありさまと、けんもほろろな、その言葉に、ジョウは、
「へんだわ。おかしいわ。」と、ひとり言をいいながら階段をおりて来ると、ベスの泣き声が聞えました。いってみると、鳥かごのなかでカナリヤが死んでいました。
「みんな、あたしのせいよ。えさも水もちっともないわ。」と、ベスはこわばって、つめたくなったカナリヤを手の上にのせて、かいほうしましたが、もうだめでした。
「お墓へいれてやるわ。もうあたし小鳥なんかかわない。」
 ベスは、すっかり気を落していました。
「おとむらいは、お昼からにして、みんなでおまいりしましょう。さ、もう泣かないで、箱のなかへねかせておやり。」と、ジョウはいって、台所へはいりましたが、台所は手のつけられないほど混乱しストーヴは火が消えていました。ジョウは火を起し、お湯がわくまでに市場に買い出しにいくことにしました。えびとアスパラガスと、いちごを二箱買って来ると、火は起きていました。ジョウはまず台所を片づけましたが、ハンナがパンをやくように鍋にしかけたままにしてあったのを、メグがこねなおして、ストーブにのせたまま、客までサリー・[#「・」は底本では欠落]ガーデナアのお相手をしていました。
 ジョウ[#「ジョウ」は底本では「メグ」]は、そこへとびこんでいって、
「ね、パンがお鍋のなかでころがるようになったら、ふくらんだのじゃない?」
 サリイは笑い出しましたが、メグはただうなずいただけでした。ジョウは、すぐにひきかえし、すっぱいパンをそのまま、かまにいれました。
 そのとき、おかあさんは、どんなぐあいにやっているか、あちこちのぞきまわり、あわれなカナリヤを箱にいれて、着せてやる服をぬっているベスに、なぐさめの言葉をかけると、外へ出かけてしまいました。娘たちは、なんだかもの足りない気がしました。
 そこへ、クロッカーがやって来ました。この人は、やせて黄色い顔をしたオールドミスで、いろいろとあたりをながめまわし、お昼の食事をごちそうになりたいといいました。娘たちは、この人がきらいでしたが、年よりで貧乏で友だちもないから、親切にしてあげるようにいわれていました。その人は、いろいろなことを尋ねたり、やたらに批評したり、知人のうわさ話をしたりしました。
 その朝のジョウの苦しい骨折は、たいへんなものでありました。ジョウの骨折は、すべて失敗におわり、アスパラガスは、一時間もにてまだかたく、パンは黒くこげ、サラダのかけじるは食べられるしろものでは[#「しろものでは」は底本では「しろものでほ」]なく、えびには手こずり、じゃがいもはなまにえ、白ジェリイはぶつぶつだらけでした。
「まあ、いいわ。ビーフとパンにバタをつけて食べてもらえばいいわ。だけど、朝のうちまるで、むだになったのがくやしい。」
 ジョウは、いつもより三十分おくれて食事のベルを鳴らしましたが、いつもりっぱな料理を食べつけているローリイと、失敗をほじくり出すような好奇の眼と、それをしゃべり散らす舌をもつクロッカーの前にならんだ料理をながめて、ジョウは顔がほてり、すっかりしょげてつっ立っていました。
 ああ、料理はちょっと味をみただけで、のこされていきます。エミイはくつくつ笑い、メグはこまった顔をし、オールド・ミス・クロッカーは口をつぼめるし、ローリイは景気づけようとして大いにしゃべりました。ジョウの最後の頼みはいちごでした。ガラスの皿に赤いいちごをもり、おいしそうなクリームがかかっています。だが、それを食べた[#「食べた」は底本では「食べた・」]クロッカーは、しかめ面して[#「して」は底本では「しで」]あわてて水を飲みました。ローリイは口をゆがめながらも男らしく食べてしまいました。エミイは、むせかえり、ナプキンで口をおさえて、あたふたと食卓からはなれていきました。ジョウはふるえながら、
「まあ、どうしたの?」と、さけびました。
「お砂糖のかわりに塩をいれたんだわ。クリームすっぱいわ。」と、メグが答えました。
 ジョウは、うめき声をたてて、イスにたおれかかりました。ところが、がまんをしようとしても、おかしくてたまらないというような、ローリイの顔につきあたると、ジョウはきゅうにこの事件がいかにもこっけいに思われ、涙のこぼれるほど笑い出しました。すると、ぶつくさ屋のクロッカーもいっしょに、みんな笑い出し、不幸な宴会は、ともかく陽気におわりました。
「あたし、もう片づける元気ないわ。だから、おとむらいをして、すこしおちつきましょう。」
 ジョウは、みんなが食卓をはなれたときにいいました。クロッカーは帰っていきました。きっとこの料理のことを、しゃべりたかったからでしょう。みんなはベスのために、やっとおちつきました。ローリイは、木立のなかの、しだの下にお墓をほり、カナリヤはやさしいベスの手で、涙とともにうめられ、こけでおおわれ、すみれとはこべの花輪が、墓石の上にかざられました。墓石には、ジョウが、食事の仕度をしながらつくった詩が書かれていました。
 おとむらいがすむと、ベスは悲しみと、さっきのえびとで、胸がいっぱいになり、じぶんの部屋へひっこみましたが、ベッドがそのままになっていて、ねる場所もありませんでした。片づいているうちに、悲しみもやわらいで来たので、台所で片づけものをしているジョウの手つだいをしました。二人はへとへとにつかれました。ローリイは、エミイを馬車にのせてつれ出しました。すっぱいクリームで気持がわるくなっていたエミイは、大よろこびでした。
 やがて、おかあさん[#「おかあさん」は底本では「おかさん」]が帰宅しました。三人の娘たちがはたらいていましたし、戸だなをちょっとのぞいてみて、経験の一部が成功したことがわかりました。
 ところが、やっと片づけたのに、三人は休むこともできませんでした。と、いうのは、数人の来客があり、それお茶、それお使いというわけでした。けれど、露とともにたそがれがせまるころ、姉妹たちは六月のばらが美しく咲きはじめたポーチに集りました。
「なんていやな日だったでしょう。今日は。」
 ジョウが口をきると、メグが、
「いつもより短いような気はしたけど、とてもいやだったわ。」
「ちっとも家みたいじゃないわ。」と、エミイ。
「おかあさんと、カナリヤがいなければ、家のような気がしないわ。」とベスは、涙ぐんで、からの鳥かごを見あげました。
「みなさん、かあさんは帰って来ましたよ、ベス、カナリヤがほしければ、明日買ってあげましょうね。」と、いいながら、おかあさんも娘たちの仲間入りをしました。おかあさんも、一日のお休みが、あまりたのしそうではありませんでした。
「みなさん、あなたたちの経験は、もうたくさんですか!」
「あたし、もうたくさん。」と、ジョウ、ほかの三人も、声をそろえて、
「あたしも!」
「おかあさんは、みなさんが、どんなふうにやるかと思って、わざとなにもかもほうって、出かけました。けれど、今日の経験で、みなさんは、家をたのしくするには、めいめいが、受持の仕事を忠実にやらなければならぬということがわかったと思います。ハンナとあたしが、みんなの仕事をしていれば、あなたがた[#「あなたがた」は底本では「おなたがた」]は、そう幸福で気らくだったとは思いませんが、とどこおりなくやっていけたのです。だから、かあさんは、だれもかれも、じぶんのことばかり思ったら、どんなことになるか、教訓としてみんなに見せておきたかったのです。あなたがたが、たがいに助け合い、まい日のお仕事があれば、ひまになったとき、それがとてもたのしく思えるし、くるしいときにはたがいに、しんぼうし合っていけば、家はどんなにたのしく美しいでしょう。わかりましたか?」
「わかりました。よくわかりました。」
 娘たちは、口々にさけびました。
「では、かあさんのいうことを聞いて、もう一度、小さい重荷をしょうのですよ。たまには重く思えても、みんなのためになり、なれればかるくなっていきます。はたらくことは健康にもよく、たいくつはしないし、わるい心も起らないものです。身体にも心にもよく、お金や流行ものなどより、精神力や独立心をあたえてくれます。」
 みんなは、はたらくことにきめました。よろこんで。ジョウは、お料理をけいこする、メグは、おかあさんにかわって、おとうさんへ送るシャツをぬう、ベスはピアノやお人形あそびにあまり時間をとれないで、まい日勉強する、[#「、」は底本では欠落]エミイは、ボタンのあなかがりがじょうずになるように、また文法にかなう言葉づかいのけいこをすると、てんでに決心をのべました。
「けっこうです。かあさんは、今度の経験がうまくいって、よかったと思います。もうくりかえさなくてもいいと思います。でもね。どれいのように、はたらきすぎないように、はたらくにもあそびにも、時間をきめて[#「きめて」は底本では「きめで」]、まい日を有益にたのしく送って、時間をじょうずに使い、時間のねうちをさとるようになさい。それできたら、貧乏でも、娘時代をたのしくすごせるし、年をとってからも後悔することもなく、この人生をりっぱに生きていけるのです。」
「よくわかりました。」と、娘たちは、おかあさんの教訓を、ふかくも心にとどめました。

          第十二 ローレンスのキャンプ

 ベスは郵便局長でした。たいてい家にいて、時間をきめて局へいくことができましたし、[#「、」は底本では「。」]かぎで小さな扉を開けて、郵便物をとって来て、くばるのがすきだったからです。七月のある日のこと、ベスはりょう手にいっぱい郵便物をかかえて帰り、家中にくばりました。
「おかあさん、はい、花束、ローリイは一度も忘れたことないのねえ。」と、いって、ベスはおかあさんの花瓶にさしました。
「メグねえさんには、手紙が一本、手ぶくろが片っぽ。」
 メグは、おかあさんのそばにすわって、シャツのそで口をぬっていましたが、
「あら、りょうほう忘れて来たのに。お庭に落して来やしない?[#「しない?」は底本では「しないい?」]」
「いいえ、郵便局に片っぽしかなかったわ。」
「片っぽなんていやだわ。でもそのうちに片っぽ見つかるでしょう。あたしのお手紙は、ドイツの歌の訳したのがはいっているだけ、きっとブルック先生がなさった[#「なさった」は底本では「なかった」]のね。」
「ジョウ博士には、手紙が二通、本が一冊、おかしな古帽子、帽子は大きくて、郵便局からはみ出していました。」
 ベスは、書斉でなにか書きものしているジョウに、笑いながらいいました。
「まあ、いやなローリイさん、あたし日にやけるから大きな帽子がはやるといいといったら、流行なんか気にしないで、大きな帽子かぶりなさいっていうから、あればかぶるといったの。いいわ。あたしかぶって、流行なんか気にしないこと見せてあげよう。」
 その帽子をそばの胸像にひっかけて、手紙を読みはじめました。それはおかあさんからの手紙で、ジョウの目はよろこびにかがやきました。
「愛するジョウ――あなたが、かんしゃくをおさえようと努めているのを見て、[#「、」は底本では「。」]かあさんはたいへんうれしく思っています。あなたはその試み、失敗、成功についてなにもいわないし、日々あなたを助けて下さる神さまのほかには、だれも見ていないと考えておいででしょう。けれど、かあさんものこらず見ていました。そして、りっぱな実がむすびそうですから、あなたの決心が真心からであることがわかります。愛する娘よ、しんぼう強く勇ましくやり通して下さい。かあさんが、あなたに同情をよせていることを、常に信じて下さい。」
「まあ、うれしい。百万円もらって山ほど賞讃されるよりうれしい。かあさんが助けて下さるんですもの、あたしやります。」
 ジョウは、顔をふせたので、うれし涙で原稿をぬらしてしまいました。やっと顔をあげたジョウはこのありがたい手紙を、ふいにおそって来る敵へのふせぎの楯にするつもりで、上衣の内がわにピンでとめました。
 もう一つの手紙はローリイからでした。
「やあ、親愛なるジョウさん、明日、イギリス人の男の子と女の子が二三人来るから、おもしろくあそびたいのです。天気がよかったら、ロングメドウへボートでいってテントを張り、べんとうを食べてからクロッケーをし遊ぼうというわけ。焚火をし料理をつくり、ジプシイみたいにやるつもり、みんないい人たちで、そういうことが好き、ブルック先生もいっしょで、男の子のかんとくをして下さるし、ケイト・ボガンさんが女の子をとりしまって下さいます。みんなぜひ来て下さい。食料の心配は無用、すべてぼくのほうで用意します。右とりいそぎ、あなたの永久の友ローリイ。」
「すてきだわ!」と、ジョウはさけんで、メグに知らせるためにいそぎました。
「ね、かあさん、いってもいいでしょう。いけばローリイも助かるわ。あたしボートこげるし、メグはおべんとうの世話ができるし、エミイやベスだってなにか役にたつわ。」
「ボガンの人たち、大人くさくなければいいのね。あの人たちのこと知ってる?」と、メグがいいました。
「兄妹四人ということしか知らないわ。ケイトはあなたより年上、ふた児のフレッドとフランクはあたしぐらい、グレースは九つか十でしょう。ローリイは、その人たちと外国で知り合ったんだって。兄妹のうち男の子が好きらしいのよ。でもローリイは、ケイトをあまり好きでないらしいわ。」
 メグとジョウは、着ていく服について話し合いました。キャンプだから、しわくちゃになってもかまわないものにすることにきまりました。ジョウは、
「さあ、精出して、今日中に、二倍の仕事をしておきましょう。明日、安心して遊べるように」といって、ほうきをとりにいきました[#「いきました」は底本では「いききした」]。
 つぎの日、いい天気を約束しに、お日さまが娘たちの部屋をのぞいたとき、そこでは、娘たちがたのしい遠足の仕度をしていました。ベスは、さっさと仕度をすまして、窓ぎわへいって、おとなりのようすを、たえず知らせました。
「あ、おべんとうをつめている。あら、ローリイが、まるで水兵さんみたいなかこうをして……」
 やがて、みんなの仕度ができました。ジョウは、ローリイがじょうだん半分でよこした旧式の麦わら帽子をかぶり、あかいリボンをしばりました。それを見て、メグがやめなさいというと、ジョウは
「あたし、だんぜんかぶっていくの。だって、かるくて大きくて日よけになるし、みんなおもしろがるわよ。」と、いって、平気で出ていきました。それにつづいて、はなやかな三人の娘たち[#「娘たち」は底本では「娘だち」]の小隊がいきました。
 ローリイは、かけて来て小隊をむかえ、じぶんの友だちに紹介しました。芝生が応接間になり、そこに陽気な光景がひろげられました。すぐにみんなは心やすくなり、えんりょなく話し合いました。
 テントやおべんとうは、クロッケーの道具などといっしょに、さきへ運んでありましたので、一行は二隻のボートにのりこんで岸をはなれました。ローレンス氏は、岸に立って帽子をふっていました。ローリイとジョウが一隻のボートをこぎ、ブルック先生と大学生のネッドが、もう一隻のほうをこぎました。ジョウのおかしな帽子は、みんなを笑わせて気分をやわらげ、ボートをこぐと、つばがばたばたしてすずしい風が起りましたし、ジョウにいわせれば、もし夕立でもふれば、みんなをいれてあげることができるそうでした。
 メグは、もう一隻のボートにのっていましたが、ブルック先生とネッドにとって、よろこばしい存在で、この二人の青年は、メグがいるので、いつもよりいっそうじょうずにボートをこぎました。
 ロングメドウについたとき、もうテントがはられ、クロッケーをするための、鉄輪がとりつけてありました。そこは、気持のよい緑の野原で、まんなかに、三本の樫の樹が、広く枝をはり、クロッケーをする芝生は、きれいに刈りこまれていました。
「キャンプ・ローレンスばんざい!」
 みんなが、よろこびの[#「よろこびの」は底本では「よろこのび」]声とともに上陸すると、ローリイがいいました。
「ブルック先生が司令官で、ぼくが兵站総監、ほかのみんなは参謀です。それから、女のかたはお客さま、テントはみなさんのために、とくに張ったもので、樫の樹のところは客間、ここが食堂、そちらが台所です。あまり暑くならないうちに、ゲームをやって、それから、ごちそうの支度をしましょう。」
 フランク、ベス、エミイ、それからグレースは芝生に腰をおろし、ほかの八人がクロッケーをはじめました。ブルック先生はメグとケイトとフレッドと組み、ローリイは、サリー、ジョウ、ネッドと組みました。みんな張りきって、ものすごく戦い、しばらくは、どちらが勝つか敗けるわかりませんでした。そのうちに、フレッドが、だれも近くにいなかったので、じぶんの打ちいいように、ボールを靴のさきでころがしました。そして、
「ぼくはいったよ。さあ、ジョウ、あなたを敗かして、ぼくが一ばんだ。」と、いいました。
 ジョウは、ずるいフレッドにむかって、やり返しました。そして、しばらく戦いましたが、とうとう勝つことができました。
 ローリイは、帽子をほおりあげましたが、お客の敗けたのをよろこんではいけないと気がつき、小声になってジョウにいいました。
「きみ、えらかったぞ。あいつインチキやった。ぼく見てた。みんなの前でいってやることできないが、二度とやらないだろう。」
 メグも、髪をなおすふりをしてジョウをひきよせ、さも感心したというような顔で、
「ほんとに、しゃくだったわ。でも、よくこらえたわ。あたし、うれしかった。」
「ほめないでよ。メグ。今だってあいつの横っ面はりとばしたいくらいよ。もうすこしであのとき、かんしゃく玉がはれつしそうだったわ。」と、ジョウは、フレッドをにらみつけました。
 時計を出して、ブルック先生がいいました。
「さあ、おべんとうにしましょう。兵站総監、きみは火を起させたり、水をくませたりして下さい。マーチさんとサリーさんとぼくとで食卓の支度をするから、たれかコーヒーをじょうずにいれる人はいませんか?」
「ジョウがじょうずです。」と、メグはよろこんで妹をすいせんしました。
 ジョウは、このごろ、料理のけいこをしたので、こんな名誉な役をひきうけられるのだと思いながら、支度にかかりました。そのあいだに、少年たちは火を起し、近くの泉から水をくんで来ました。司令官とその部下は、すぐにテーブルかけをひろげ、食べものや飲みものをならべ、みどりの葉でかざりました。コーヒーの用意ができると、みんな席につきました。食慾はさかんでしたし、まことにたのしく、しばしば起る大きな笑い声は、近くで草を食べているおとなしい馬をおどろかせました。
 食事がすむと、すずしくなるまで、なにか遊びをしようということになり、樫の樹のかげ、すなわち客間へ席をうつしました。
 ケイトが、尻とり話をしようといいました。
「いいですか、たれかが、勝手なお話をはじめるのよ。そして、好きなだけつづけて、おもしろそうなところで、ぷつっときってしまうのよ。すると、つぎの人がそれをつづけ、じゅんに話していくと悲しいのやおかしいのや、ごっちゃになっておもしろいわ。さ、では、どうぞあなたから。」と、ケイトが命令するような調子でいったので、ブルック先生がはじめました。
「むかし、ある一人の騎士が立身出世しようと思って旅に出ました……」
 ブルック先生は、ゆたかな想像で話しました。この騎士は二十八年も旅をつづけ、ある王宮へいきますと、王さまはまだならしていない馬を、うまくしこんだ者に、ほうびを与えると申されました。そこで、騎士はその馬をしこむために、まい日、のりまわしましていると、お城に美しいおひめさまが、魔法のためにとじこめられ、自由になるお金をつくるために、糸をつむいでいることを知りました。騎士は、貧乏なので、お金はなし、しかたがないので、お城の扉をたたくと……と後の待たれるように話をきりました。

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