若草物語
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著者名:オルコットルイーザ・メイ 

「そのとおり! 音楽のすばらしい才能をもっていながら、じぶんでは気づかずにいる、あるおじょうさんを、ぼくは知っていますが、その人は、ひとりでいるとき、どんなりっぱな音楽を作曲しているのか知らずにいるし、そのことを人からいわれても本気にしません。」
 ローリイのそばに立っていたベスが、それを聞いていいました。
「そんなすてきな方とお友だちになりたいわ。きっと、あたしのためになる方よ、あたしなんて、とてもだめ。」
 ローリイは、いたずらっ子らしく、
「あなたは知っていますよ。その人は、ほかのだれよりも、あなたのためになっていますよ。」と、いったので、ベスは顔をあからめ[#「あからめ」は底本では「あかめ」]、はずかしがってクッションに顔をうめました。
 ジョウは、ベスをほめてもらったお返しに、ローリイに勝をゆずりました。ベスはほめられてからは、いくらすすめられても、ピアノをひこうとしませんでした。ローリイは、いいきげんで、たのしそうにうたいました。
 ローリイが帰って[#「帰って」は底本では「帰てっ」]いってから、エミイは、
「ローリイは、なんでもできる方なの?」と、いうと、おかあさんが、
「教育もあり、天分もあるから、かわいがられて、増長しなければ、りっぱな方におなりでしょう。」と、答えました。
「うぬぼれたりなさらないでしょう?」と、エミイが尋ねました。
「ちっとも。だから人をひきつけるのよ。」
「たしかに、気どらないのは、りっぱなことだわ。」と、エミイはしみじみいいました。
「教養とか才能は、へりくだっていても、あらわれて来ます。見せびらかさなくてもいいわけです。」
 ジョウが、そのとき、
「あなたの帽子や服やリボンを、みんな一度に身につけて、人に見せびらかさなくてもいいわけね。」と、いったので、おかあさんのお説教は、にぎやかな笑い声のなかにおしまいとなりました。

          第八 ジョウの原稿

 エミイが、土曜日の午後、ねえさんたちの部屋へいくと、メグとジョウが外出の支度をしていましたが、ないしょらしいので、
「おねえさんたち、どこへいらっしゃるの?」と、尋ねました。すると、ジョウは
「どこへだっていいじゃないの、小さな[#「小さな」は底本では「小さに」]子はそう聞きたがらないものよ。」と、つっけんどんにいいました。
「わかったわ! ローリイといっしょに、七つの城のお芝居を見にいらっしゃるのね。あたしもいくわ。おかあさんは、見てもいいとおっしゃったわ。あたしお小遣もあるし。」
 メグは、なだめすかすように、
「まあ、あたしのいうことをお聞きなさいよ[#「お聞きなさいよ」は底本では「お聞ぎなさいよ」]。おかあさんは、あなたの目がまだなおっていないから来週ベスやハンナといっしょに、いくといいって。」
 エミイは、あわれっぽい顔をして、
「いやだあ、おねえやんやローリイといく、半分もおもしろく[#「おもしろく」は底本では「おおもしろく」]ないわ。ね、お願いだからいかせてよ。長いことかぜひいて家にばかりいたんですもの、ねえ、おとなしくしますから。」と、せがむのでした。
「いっしょに[#「いっしょに」は底本では「いっしに」]つれていってはどう? あつ着させていけば、おかあさんだって、なにもおっしゃらないでしょう。」と、とうとうメグが、しかたがないというようにいいました。
「それなら、あたしいかないわ。二人だけ招待されたのに、つれていくのは失礼だわ。」
 このジョウのいいかたや態度は、ますますエミイを怒らせました。靴をはきながら、エミイは、
「メグねえさんがいいっておっしゃったから[#「から」は底本では「かち」]、あたしいきます。じぶんで切符買うから、ローリイにめいわくかけません。」
「あたしたちのは指定席よ。と、いって、あなた一人はなれていられないしさ、そうすると、ローリイがじぶんの席をゆずるでしょう[#「でしょう」は底本では「ででよう」]。それじゃ、つまらない。もしかしたら、ローリイが切符もう一枚買うかもしれないけど、それじゃずうずうしいわ。だから、おとなしく待っていらっしゃい。」
 ジョウは、仕度にあわてて、針で指をさしたので、ますますふきげんになって、エミイをしかりつけました。
 エミイは泣き出しました。メグがなだめていると、階下でローリイがよんだので、二人は、いそいでおりていきました。二人が出かけていくのを、エミイは窓から見おろして、おどかすようにさけびました。
「今に、後悔するわよ。ジョウさん、おぼえていらっしゃい!」
「ばかな!」と、ジョウがやり返して、玄関の扉をぴしゃっと閉めました。
「七つの城」のお芝居は、とてもよかったので、三人はたのしく見物しました。けれど、ジョウはときどき、きれいな王子や王女に見とれながらも、[#「、」は底本では「。」]心にくらい影がさしました。妹が、後悔するわよといった言葉が、あやしく、耳にのこっていたからでした。
 ジョウとエミイは、前からよくはげしいけんかをしました。二人とも気がみじかく、かっとするとひどくめんどうなことになるのでした。けれど、二人とも長く怒ることはなく、けんかの後では、たがいによくなろうとするのですが、日がたつと、またくり返すことになるのでした。
 二人が家へ帰ったとき、エミイは知らん顔をして本を読んでいました。ジョウは、帽子を二階へしまいにいきましたが、この前けんかをしたとき、エミイがひき出しをひっくり返したので、たんすやかばんや、たなの上などをしらべましたが、なんともなっていないので、エミイがじぶんを許してくれたものと思いました。
 けれど、それはジョウの思いちがいであることが、あくる日になってわかりました。その日の午後ジョウ[#「ジョウ」は底本では「メグ」]は血相をかえて、メグとベスとエミイが話しあっているところへ、とびこんで来て、息をきらして尋ねました。
「だれか、あたしの原稿とった?」
 メグとベスは、いいえといいましたが、エミイは炉の火をつついてだまっていました。
「エミイ、あなたですね。」
「あたし、持ってないわ。」
「じゃ、どこにある?」
「知らないわ。」
「うそつき! 知らないとはいわさないわ。さあ、早い白状なさい。白状しないか。」
 ジョウは、ものすごい顔でどなりました。
「いくらでも怒るがいいわ。あんなつまらない原稿なんか、もう出ないわよ。」
 エミイは、どうにでもなれというような、いいかたでした。
「どうして!」
「あたしが焼いちゃったから。」
「なに? あんなに苦労して、おとうさんがお帰りになるまでに書きあげるつもりの、あの大切な原稿を、ほんとに焼いたの?」
 ジョウは、まっさおになり、目は血ばしり、ふるえる手でエミイにとびかかりました。
「ええ、焼いたわ。昨夜、いじわるしたからよ。おぼえていらっしゃいといったでしょう。」
 ジョウは、悲しみと怒りに、かっとなって、
「ばか、ばか! 二度と書けないのよ。あたし一生あなたを許さない。」
 メグもベスも、どうしようもありませんでした。ジョウは、エミイの横っつらをひっぱたいて、部屋をとび出し、屋根部屋のソファに身を伏せて泣きました。
 おかあさんは、帰宅してその話を聞き、エミイをしかりました。エミイはわるいことをしたと思いました。けれど、ジョウの原稿は、五六篇のかわいいお伽話でしたが、文学的才分と全精力を数年間かたむけて書いたもので、ジョウにとっては、とり返しのつかぬ損失でしたから、ジョウは、お茶のベルが鳴ったとき、いかにもこわい顔をして出て来ました。エミイは、ありったけの勇気をふるい起して、
「ジョウ、ごめんなさいね、あたし、ほんとうにわるかったわ。」と、あやまりました。
 ジョウは、ひややかに、
「許してあげるものか。」と、答え、エミイにとりあいませんでした。
 だれも、この大事件のことを口にしませんでした。ジョウがじぶんの怒りをやわらげるまで、なにをいってもしようがないからです。そんなわけで、その晩はたのしくなく、みんなだまって針仕事をしました。おかあさんが、おもしろい物語を話しても、なにかもの足りなくて、家庭の平和は、すっかりみだされていました。[#「いました。」は底本では「いました。いました」]おもくるしい気分は、メグとおかあさんがうたっても晴れませんでした。
 おかあさんは、ジョウにおやすみなさいのキッスをしたとき、やさしい声で、
「ねえ、怒りを明日まで持ち越さないように、今夜中にきげんをなおしましょうね。おたがいに、ゆるし合い助け合いましょう。明日からは、またたのしくね。」と、ささやきました。
 ジョウは、おかあさんの胸に、顔をうずめました。悲しみと怒りを、涙で流したかった。けれど、あまりにいたでは深く、とうとう頭をふり、エミイに聞えよがしに、
「あんまりひどいんですもの、許してやれませんわ。」
 そういって、ジョウは、さっさと寝室へいってしまったので、その夜はおもくるしい気分でおわりました。
 つぎの日も、おもくるしい気分は去らず、みんなつまらなそうでした。ジョウは、ぷんぷんして、ローリイを誘ってスケートにでもいってみようと思って出かけていました。エミイは、じぶんのほうからあやまったのに、ジョウがまだ怒っているので、なお気をわるくしました。メグは、エミイにむかって、[#「、」は底本では「、」」]
「あなたがわるかったのよ。大切な原稿をなくされたんですもの、なかなか許せないわ。だけど、いいおりを見て、あやまればいいと思うの。だから、あなたもスケートにいってごらんなさい。そしてジョウがローリイと遊んで、きげんがよくなったとき、ジョウにキッスしてしてあげるか、なにかやさしいことしてあげるのよ。そしたら、心から仲なおりしてくれるにちがいないわ。」
 この忠告が気にいったので、エミイはいそいそと仕度をして、後をおいかけました。川までは、そんなに遠くなかったが、エミイがいったとき、二人はすべる用意ができていました。ジョウは、エミイのすがたを見ると、くるりとせなかをむけました。ローリイは、エミイの来たのに気がつかず、氷のあつさをしらべるために、そのひびきを聞きわけながら、用心ぶかく岸にそってすべっていきました。ローリイは、角をまがるとき、
「岸について来なさい。まんなかはあぶない。」
 そういって、すがたが見えなくなりました。
 ジョウが、すべって、その角までいったとき、エミイはずっとはなれたところで、川のまんなかへすべっていきました。ジョウは、みょうな心さわぎをおぼえましたが、ふいに氷のさける、ばりっという音とともに水けむりをたて、エミイがりょう手をあげ、悲鳴とともに落ちこむのを見ました。その悲鳴に、ジョウは心臓がとまると思うくらい、おどろきました。ローリイをよぼうとしましたが声が出ません。すると、なにかが、じぶんのそばを走ったと思うと、
「ぼうをもって来て、早く、早く!」と、ローリイのどなる声が聞えました。
 それから、ジョウは、まるで夢中でした。ただし冷静なローリイのさしずのままになって、おびえているエミイを救いあげること[#「こと」は底本では「ことと」]ができました。
 ふるえて、ぼとぼとしずくをたらしながら泣いているエミイを、二人は家までつれて帰りました。ジョウは、口ひとつきかず、青い顔をし、手にきずをし、服はさけたままで、とびまわり、なにかと用事をしました。さわぎがおさまった後、エミイは毛布にくるまって炉の火の前でねむってしまいました。
 おかあさんは、エミイのそばにすわってましたが、ほっとして、ジョウをよんで、手にほうたいをしてやりました。
「おかあさん、だいじょぶでしょうか?」
「ええ、けがもしていないし、かぜもひかなかったようです。あなたが、よくくるんで、大いそぎでつれて来てくれたからね。」
「ローリイが、みんなしてくれたのです。わたしは、エミイをほっといたから、一人ですべっていって落ちたんです。もしかして死んだら、あたしのせいですわ。」
 ジョウは、後悔の涙を流しましたが、それはもっと重い心の痛みからのがれることのできた、感謝の涙でもありました。
「みんな、あたしの、おそろしいかんしゃくからですわ。ああ、どうして、こうなんでしょう。おかあさん。どうぞあたしを救って下さい。」
「ええ、ええ、救ってあげますよ。そんなに泣かないでね。今日のことよく覚えておいて、二度としないと誓いなさい。おかあさん[#「おかあさん」は底本では「おおあさん」]だって、じつは、あなたとおなじくらい、かんしゃくもちなんですよ。それに、おかあさんはうち勝とうとしているんです。」
「まあ、おかあさんが? だって、一度だって、かんしゃくを起しなすったの、見たことがありませんわ。」
 ジョウは、おどろしい目をまるくしました。
「なおすのに四十年かかりました。やっとおさえられるようになりました。ほとんど、まい日、怒りたくなるけど、顔に出さぬようになったのです。これからは、怒りたく[#「怒りたく」は底本では「怒りたくない」]ならないようにしたいのですが、それには、もう四十年かかるかもしれません。」
 ああ、その言葉はジョウにとって、どんなお説教より、はげしいおしかりより、よい教訓でありました。そして、四十年も祈りつづけて欠点をなくそうとしたおかあさんのように、じぶんもどうかしてこの欠点をなおしたいと思いました。
「ねえ、おかあさん、どういうやりかたなさるの? 教えて下さい。」
「そう、あたしは、今のあなたより、すこし大きくなったころ、おかあさんをなくしました。あたしは、自尊心が強いので、じぶんの欠点をたれにうち明けることもできず、ただ一人で長い年月を苦しみました。なん度も失敗して、にがい涙を流しました。そのうちに、あなたたちのおとうさんと結婚して、しあわせになったので、じぶんをよくすることが、らくになりました。けれど、四人の娘ができ、貧乏になって来ると、またまたむかしのわるい欠点がでて来そうです。もともと、あたしは忍耐心がないので、娘たちがなにか不自由しているのを見ると、とてもたまらない気持になるんです。」
「まあ、おかあさん! それじゃ、なにがおかあさんを救って下すったんですか?」
「あなたのおとうさんです。おとうさんは、忍耐なさいます。どんなときも、人をうたがうことなく不平なく、いつも希望をもっておはたらきになります。おとうさんは、あたしを助けなぐさめ、娘たちの御手本になるように、教えて下すったのです。だから、あたしは娘たちのお手本になろうとしてじぶんをよくすることに努めました。」
「ああ、おかあさん。もしあたしが、おかあさんの半分もいい子になれたら本望ですわ。」
「いいえ、もっともっといい人になって下さい。今日味ったよりも、もっと大きな悲しみや後悔をしないように、全力をつくして、かんしゃくをおさえなさい。」
「あたし、やってみます。でも、あたしを助けて下さいね。あたしね、おとうさんは、とってもおやさしいけど、ときどき真顔におなりになり、指に口をあてて、おかあさんをごらんになるのを見ましたわ。そうすると、おかあさんは、いつも口をむすんで、部屋を出ていらっしゃいます。そういうとき、おとうさんに、おかあさんは、お気づかせになったんですか?」
「そうなんです。そういうふうに、助けて下さいとお頼みした[#「した」は底本では「しんだ」]んです。おとうさんは、お忘れにならないで、あのちょっとしたしぐさや、やさしいお顔つきで、あたしがきつい言葉を出しそうになるのを救って下すったのですよ。」
 ジョウは、おかあさんの目に涙があふれているのを見て、いいすぎたかしらと、心配になって尋ねました。
「あたし、あんなふうにいったの、いけなかったでしょうか? でも、あたし思ったこと、おかあさんにみんないってしまうの。とてもいい気持なんですもの。」
「ええ、なんでもおっしゃい。そうやって、うちあけてくれると、おかあさんはうれしいのよ。」
「あたしは、おかあさんを悲しませたのではないかと思って。」
「いいえ、おかあさんは、おとうさんのことを話しているうちに、お留守ということ[#「こと」は底本では「ごと」]がしみじみ[#「しみじみ」は底本では「みじみ」]さびしくなり、おとうさんのおかげということを思ったりしたので。」
「だって、おかあさんは、おとうさんに従軍なさるように、おすすめになったし、出発のときもお泣きにならなかったし、留守になってからも一度もこぼしたりなさらないし、だれの助けもあてにしていらっしゃらないし。」と、ジョウは、いぶかしそうにいいました。
「あたしは、愛する御国のために、あたしの一ばん大切なものをささげたのです。どうしてぐちがいえましょう。あたしが人の助けがいらないように見えるのは、おとうさんよりも、もっといいかたがおかあさんが慰め励まして下さるからなの、それは、天国のおとうさんです。天国のおとうさんに近づけば、人の知慧や力に頼る必要はなく、平和と幸福が生れます。さ、あなたもこのおとうさんのところへいきなさい。すべての心配や悲しみや罪をもって。ちょうど、あなたがおかあさんのところへ心から信頼して来るように、」
 ジョウの答えは、ただおかあさんに、しっかりすがりつくことでした。そして、だまって、心からある祈りをささげ、いかなる父や母よりも、いっそう強いやさしい愛で、すべての世の子供をむかえて下さる「おとうさん」に、近づいていくのでした。
 エミイは、眠ったまま、ねがえりをうって、ため息をつきました。ジョウは、今すぐに、じぶんの過失をつぐないたいと思うためか、今までにないまじめな表情をしました。
「あたし、かんしゃくをつぎの日までもち越して、エミイを許さなかった。もしローリさんがいなかったら、とんだことになったんだわ。ああ、どうしてあたしは、こんなにいけないんでしょう?」
 ジョウは、エミイの上によりかかり、枕の上のみだれ髪をなでながら、そういいましたが、それが聞えたもののように、エミイはばっちり目を開け、ほほえみをうかべて手をさし出しました。二人はなんともいいませんでしたが、毛布にへだてられながらも、しっかりと[#「しっかりと」は底本では「しっりと」]抱き合い、心こめたキスに、すべてを許し忘れてしまいました。

          第九 虚栄の市

 四月のある日、メグはじぶんの部屋で、いもうとたちにかこまれながら、トランクに荷物をつめこんでいました。おかあさんは、娘たちが年ごろになったら与えようと考えて、むかしのはなやかだった時代の記念品のしまってある杉箱を開けて、絹の靴下と、きれいな彫刻のある扇子と、かわいい青いかざり帯を下さいました。
 あくる日は、うららかな天気で、メグはたのしい二週間の遠出に家を出ました。上流のマフォット家の客になりにいくのです。おかあさんは、あまりこの訪問をよろこびませんでしたが、メグが熱心に頼むし、サリイがよく面倒を見ると約束してくれたので、冬の間よくはたらいたごほうびの意味で許したので、メグは、上流社会の生活を味わう第一歩をふみ出したのであります。
 マフォット家に客となってみると、メグはそのすばらしい家や、そこに住む人々の上品さに、気をのまれてしまいました。その生活は、軽薄でしたが、みんなが親切でしたから、らくな気持になりました。すばらしいごちそうをたべ、りっぱな馬車で乗りまわし、上等な服を着かざって、なにもせずに遊び暮すことは、たしかに、たのしいことでした。それはメグの趣味にかない、メグはその家の人たちの、会話や態度や服の着こなしや、髪のちぢらしかたなどを、まねしようと努めました。そして、金持の家の暮しのゆたかさにくらべると、貧乏なわが家の暮しが、いかにも味気なく不幸に見えて来ました。
 メグは、マフォット家の、三人のわかいおじょうさんたちの気にいって、散歩、乗馬、訪問、芝居やオペラ見物、夜会など、いつもいっしょに、たのしい時間をすごしました。そして、ベルには婚約者があることがわかりましたが、メグはそれに興味をもち、ロマンチックなことに思えました。
 マフォット氏は、ふとった老紳士で、メグのおとうさんを知っていました。マフォット夫人も、やはりふとった婦人で、メグをかわいがってくれ、「ひな菊さん」という名で、よんでくれました。
 いよいよ、夜会があるという日、三人はみんなすばらしい服を着て、はしゃいでいるのに、メグはじぶんのポプリンの服のみすぼらしさに心がおもくなりました。それでも、服のことなど、なんとも思っていないように、三人は親切にメグにむかって、髪をゆってあげようとか、かざり帯をしめてあげようとかいいましたが、メグはその親切のなかに、じぶんの貧しさへのあわれをみてとり、いっそう心は重くなるのでした。
 そこへ、女中が花のはいっている箱をもって来ました。アンニイが、
「ジョージから、ベルへ来たんだわ。」と、いいましたが、女中は、手紙をさしだしながら、
「マーチさんへと、使いの者が申しました。」と、いいました。
「まあ、すてき。どなたから? あなたに恋人があるとは知らなかったわ。」
 みんなは、強い好奇心をいだきました。
「手紙は母から、花はローリイからですわ。」
「まあ、そうなの。」と、アンニイは、みょうな表情でいいました。
 母からの手紙は、みじかいけれど、よい教訓でした。メグはポケットにしまいました。また、花はしずんだ[#「しずんだ」は底本では「じずんだ」]気持をひきたててくれました。その幸福な気持で、メグは、しだとばらをわずかとって、あとは気前よくわけましたので、メグのやさしさに心ひかれたようでした。メグが、みどりのしだを髪にさし、ばらの花を胸にさしたので、服はそのためにいくらかひきたって見えました。
 メグは、その夜、心ゆくまでダンスをしました。みんなが親切にしてくれ、歌をうたえばいい声だとほめ、リンカーン少佐は、あの目の美しい令嬢はどなたと尋ねましたし、マフォット氏は、メグの身体にばねみたいなものがある、ぜひメグとダンスするといいました。
 こうしてたのしくしていたのに、温室のなかに腰かけて、ダンスの相手がアイスクリームを持って来てくれるのを待っていたとき、うしろで話す話し声をふと聞いて、メグは気分をこわされました。
「いくつぐらいでしょう?」
「十七八かしら、」
「あの娘たちのうちの一人が、そういうことに、なったらたいしたものですよ。サリイがいってましたが、あの人たちは、このごろとても親しくしていて、それに、あの老人は娘たちに、まるで夢中になっているんですって。」
「それやマーチ夫人の計略ですよ。娘のほうではそんな気はなさそうだけど、」
 そういったのは、マフォット夫人でした。
「あの子ったら、おかあさんからだなんてうそついて、花がとどいたら顔をあかくしたわ。いい服さえ着せたら、きれいになるでしょうに。木曜日にドレス貸して[#「貸して」は底本では「貸しで」]あげようといったら、あの子、気をわるくするかしら?」
「あの子、自尊心は強いけれど、モスリンのひどい服しかないのだから、気をわるくはしないでしょう。それに今晩の服をやぶくかもしれないから、貸してあげる口実になるわ。」
「そうねえ。あたしローレンスをよんで、あの子をよろこばしてあげましょう。そして、後で、からかってあげましょう。」
 そこへ、ダンスの相手がもどって来ました。メグは、今のうわさ話に怒りをもやし、すぐにも家へ帰って、おかあさんに心の痛みを訴えたくなりました。
 けれど、メグの自尊心は、むろんそのことを[#「ことを」は底本では「ことる」]させるわけもなく、できるだけ、ほがらかにふるまったので、だれもメグの努力に気づきませんでした。
 夜会がおわると、メグはほっとしました。ベットのなかで考えていると、ほてったほおに、涙が流れました。あのおろかなうわさ話は、メグに新らしい世界を開いてくれ、古い平和の世界を根こそぎみだしてしまいました。あわれなメグは、ねぐるしい一夜をあかし、おもいまぶたの、いやな気分で床をはなれました。
 その朝は、だれもぼんやりしていました。娘たちが編物をはじめる気力が出たときには、もうおひるでした。メグは、みんなが好奇心で、じぶんのことを気にしていることを知りましたが、ベルが手をやめて感傷的ないいかたで、こういったので、なにもかもわかりました。
「ねえ、ひな菊さん、木曜日の会に、あなたのお友だちのローレンスさんに招待状を出しましたの。あたしたち、お近づきになりたいし、それに、あなたに対する敬意ですからね。」
「御親切にありがとうございます。でも、あのかた、いらっしゃらないでしょう。七十に近い、お年よりですもの。」
「まあ、ずるい、あたしのいうのは、わかいかたのほうよ。」と、ベルは笑いました。
「わかいかたって、いらっしゃいませんわ。ローリイなら、ローリイなら、まだ子供で、いもうとのジョウくらいでしょう。あたしはこの八月で十七ですもの。」
「あんなりっぱな花をおくって下すって、ほんとにいい方ね。」と、アンニイが、意味ありげにいいました。
「ええ、いつでも下さるの。あたしの家のみんなに。あのかたの家に、いっぱい花があるし、あたしの家ではみんなが花がすきだからです。母とローレンスさんとはお友だちでしょう。だから、あたしたち子供同志も遊びますの。」
 メグは、この話を、うちきってくれればいいと思いました。
「ひな菊さんは、まだ世間のことにうといのね。」と、クララはうなずきながら、ベルにむかっていいました。
「まるで、まだあかちゃんね。」と、ベルは肩をすぼめました。
 そのとき、マフォット夫人が、レースのついた絹の服を着てはいって来ました。
「あたし、これから娘たちのものを、もとめにまいりますが、みなさん御用はありませんか?」
「ございませんわ、おばさま、ありがとう。あたしは木曜日には、あたらしいピンクの絹のを着ますし。」と、サリイがいいました。
「あなた、なにお召しになるの?」と、メグにサリイが尋ねました。
「昨夜の白いのを来ますわ。ひどくさけましたが、もしうまくなおせましたら。」
「どうして、かわりを家へとりにおやりにならないの?」と、気のきかないサリイがいいました。
「かわりなんか、あたしありませんわ。」
 やっとメグがいったのに、サリイは人のよさそうな、びっくりしたふうで、
「あれっきり、まあ、」と、いいかけましたが、ベルは頭をふって、サリイの言葉をさえぎってやさしくいいました。
「ちっともおかしくないわ。まだ社交界に出ていないのに、たくさんドレスこしらえておく必要ないわ。ひな菊さん、いく枚あっても、お家へとりにいかせなくてもいいわ。あたしの小さくなった、かわいい青色の絹のが、しまってありますから、あれを着てちょうだいな。」
「ありがとうございます。でも、あたしみたいな子供には、この前のでたくさんですわ。」
「そんなことおっしゃらないで、あなたをきれいにしてみたいの。だれにも見せないように仕度してシンデレラ姫みたいに、ふたりでふいに出ていって、みんなをおどろかしたいの。」と、ベルは笑いながら、けれど、あたたかい気持ですすめるので、目雲それをこばむことはできませんでした。
 木曜日の夕方、ベルと女中で、メグを美しい貴婦人にしあげました。髪をカールし、いい香りの白粉をぬりこみ、唇にさんご色の口紅をぬり、空色のドレスを着せ、腕環、首かざり、ブローチなど、装身具でかざりたてました。美しい肩はあらわに、胸にばらの花はあかく、ベルも女中も、ほれぼれと[#「ほれぼれと」は底本では「ほればれと」]ながめました。
「さあ、みんなに見せてあげましょう。」と、ベル[#「ベル」は底本では「べる」]は、ほかの人たちのつめかけている部屋へ、メグをつれていきました。
 メグは、ハイヒールの青い絹の舞踏靴をはき、長いスカートをひきずり、胸をわくわくさせながら歩いていきました。鏡がかわいい美人だと、メグにはっきり教えてくれたので、メグはかねての望みがかなえられた満足を味わい、じぶんから進んで、美しさを、見せびらかそうとさえしました。ベルは、ナンとクララにむかって、
「あたしが、着かえて来る間に、ナン、あなたは裾さばきと、靴のふみかたを教えてあげてね。ふみちがえてつまずくといけないから、それから、クララ、あなたの銀のちょうちょを、まんなかにさして髪の左がわのカールをとめてあげてちょうだい[#「ちょうだい」は底本では「ようだい」]。あたしのつくった、すてきな作品をだめにしちゃいやよ。」と、いって、じぶんの成功に、さも満足らしい顔つきで、いそいで出ていきました。
 ベルが鳴りひびき、マフォット夫人が、使いをよこして、娘たちにすぐ来るように、告げたとき、メグはサリイに、ささやきました。
「あたし、階下へいくのこわいわ。なんだか、とてもへんな、きゅうくつな気持で、それに半分、はだかみたいで。」
「とてもきれいだからいいわ。あたし[#「いいわ。あたし」は底本では「いいわあ。たし」]なんかとてもくらべものにならない。ベルの趣味はすてき、ただつまずかないようにね。」
 心のなかにその注意をたたみこんで、メグは無事に階段をおり、客間へ、しずかにはいっていきました。メグは、たちまちみんなの目をひきつけ[#「ひきつけ」は底本では「ひさつけ」]、この前の夜会のときと、まるでちがって、わかい紳士たちが、ちやほやして、いろいろ気にいるようなことを話しかけました。ソファに腰かけて、他人の品定めをしていた数人の老婦人たちは、メグに興味をもち、なかの一人がマフォット夫人に身もとを尋ねました。
「ひな菊マーチです。父は陸軍大佐で、あたしどもとおなじ一流の家がらですが、破産しましてね、ローレンスさんと親しいんです。家のネッドはあの子に夢中なんですよ。」
「おや、そうなんですの。」と、その老婦人はもっとよく見ようとして眼鏡をかけました。
 メグは、聞えないふりをしましたが、夫人のでたらめにはあきれました。けれど、その妙な気持を心のすみにおしつけ、笑いをたたえて、貴婦人らしくふるまっていました。ところがメグの顔からきゅうに笑いがきえました。正面にローリイの姿を見たからで、その目はじぶんを非難しているではありませんか。ローリイは、笑っておじぎをしましたが、メグはこんな姿でなくじぶんの服を着ていればよかったと思いました。メグは、そばへいき、
「よくいらっしゃいました。お出でにならないと思っていました。」
「ジョウが、ぜひいって、あなたのようすを見て来てほしいというので来たんです。」
「ジョウに、なんておっしゃるつもり?」
「どこの人だかわからなかったといいます。だって、まるで大人みたいで、あなたらしくないんですもの。」
「みんなでこんななりにさせたの、あたしもちょっとしてみたかったけど。ジョウびっくりするでしょうね? あなたもこんなの、おいや?」
「ぼく、いやです。わざとらしく、かざりたてたの、いやです。」
 年下の少年からいわれた言葉としては、あまりにするどく、メグはふきげんになって、
「あなたみたいな、失礼な人、知らないわ。」と、いって、そこを去り、窓ぎわへいってたたずみ[#「たたずみ」は底本では「たにずみ」]、きゅうくつなドレスのために、ほてったほおを夜気にひやしました。大好きなワルツの曲がはじまっても、そのままでいると、ローリイが来て、ていねいに手をさしのべました。
「失礼なこといって、お許し下さい。いっしょに踊って下さい。」
「お気持をわるくするとこまります。」
「いいえ、ちっとも、ぼくダンスしたいのです。そのドレスは好きじゃないけど、あなたはほんとうに、すてきです。」
 メグは、にっこり笑って気持をやわらげ、二人は音楽に合せておどりはじめました。
「ローリイ、あたしのお願い聞いてね、家へ帰ってもあたしのドレスのこといわないでね、家の人々は、じょうだんがわからないし、おかあさんには心配させるから。」
「どうしてそんなものを着たんです?」
 ローリイの目がなじっていました。
「どんなに馬鹿だったか、自分でお母さんにいうから、あなたいわないでよ。」
「いわないと約束します。でもきかれたらどういいましょう!」
「あたしがきれいで、たのしそうだったとだけ、いってちょうだい。」
「きれいだけど、さあ、たのしそうかしら? たのしそうに見えない。」
「ええ、たのしくないの。おもしろいことしてみたかったけど、やっぱり性にあわないわ。あきてしまうわ。」
 このとき、マフォット家の若主人のネッドが来たので、ローリイは顔をしかめました。
「あの人、あたしに三回もダンスを申しこんでいるの。だから来たんでしょう。」
 メグがいかにもいやそうにいうので、ローリイは、これはおもしろいと思いました。
 ローリイは、それっきり夕飯のときまで、メグと話しませんでした。食事のとき、ネッドとその友達のフィッシャアを相手に、メグがシャンペン酒を飲むのを見たローリイは、だまっていられませんでした。
「そんなもの飲むと、明日、頭痛がしますよ。ぼくは飲みません。おかあさんだって[#「だって」は底本では「たって」]、お気にいらないでしょう。」
 ローリイは、ネッドとフィッシャアに聞かれないように、メグによりそって、そうささやきました。
「今夜は、あたし気ちがいみたいなお人形なの。明日からはいい子になるわ。」
「それじゃ、明日もここにいたいんですね。」
 ローリイに、ついとはなれて立ち去りました。
 メグは、踊ったり、ふざけたり、しゃべったり、ローリイがあきれるほど、はしゃぎました。帰りがけに、ローリイがあいさつに来ると、メグは、もう頭痛になやまされていましたが、
「いいこと! 頼んだこと忘れないでね。」と、むりに笑顔をつくっていいました。
「死をもっての沈黙」と、ローリイは、フランス語で、芝居がかりで答えて立ち去りました。
 メグは、もう疲れきっていました。わびしい気分で床にはいりましたが、あくる日も一日気分がわるく、土曜日になって、二週間の遊びと、ぜいたくざんまい[#「ざんまい」は底本では「さんまい」]にあきあきして家へ帰って来ました。
 日曜日の晩、メグはおかあさんとくつろいだとき、あちこち見まわしながら、
「年中、お客さわぎなどいやだわ。しずかに暮すのたのしいわ。りっぱでなくても、じぶん[#「じぶん」は底本では「じぶ」]の家が一ばんいいわ。」と、のびのびした表情でいいました。
「そう聞いてかあさんはうれしい。あなたがりっぱなところへいったので、家がつまらなく[#「つまらなく」は底本では「つまちなく」]、みじめに見えやしないかと、心配していたのよ。」と、おかあさんの目の、気づかわしそうな影が消えました。
 メグは、おもしろそうに、いろいろの冒険を話しました。けれど、心の中になにかおもくるしいものがあるらしく、九時がうってジョウがねようといい出したとき、メグは[#「メグは」は底本では「メグに」]思いきったというふうに
「おかあさん、あたし白状することがありますの。」
「そうだと思っていました。どんなこと!」
「あたし、むこうへいきましょうか?」と、ジョウが気をきかしていいました。
「いいえ、いて。なんでもあなたには、うち明けてるじゃないの。いもうとたちの前では、はずかしいけど、あなたには、あたしのした、あさましいこと、すっかり聞いてほしいわ。」
「さあ、聞きましょうね。」と、おかあさん[#「おかあさん」は底本では「あかあさん」]は、にこにこしながらも、すこし心配そうでした。
「みんなで、あたしをかざりたてたことは、お話しましたが、髪をカールしたり、白粉をぬったり、ドレスを着せたりしたこと、まだ話しませんでしたね。ローリイは、正気の沙汰ではないと思ったでしょう。あたしは、お人形のようだとか、美人だとかおだてられました。つまらないこと[#「こと」は底本では「と」]とはわかっていながら、おもちゃになりました。」
「それっきり?」と、ジョウがいいました。
「まだ、あるの。シャンペンを飲んだり、ふざけたり、はねまわったり、けがらわしいことばかり」と、メグは自責の念に堪えられないようでした。
「もっと、なにかあったでしょう?」と、おかあさんが、やさしくメグのほおをなでながらいいました。
「ええ、とてもばかげたことなの。だって、みんながあたしとローリイのこと、あんなふうにいったり考えたりするのんですもの。」
 メグは、マフォット家で聞かされたいろんなうわさ話をしました。おかあさんは、こんな考えを純真なメグの心につぎこんだことを不快に思って、唇をぎゅっとむすんでいました。ジョウは、怒ってさけびました。
「そんなばかなこと、あたし聞いたことがないわ。なぜおねえさんは、その場でいってやらなかったの?」
「あたしにはできなかったの。でもあんまりひどいので、しゃくにさわるし、はずかしいし、帰って来なければならないのに、帰るのも忘れてしまって。」
「あたしたちのような貧乏人の子供について、そんなつまらぬうわさ話をしていることを、ローリイに話したら、きっとどなりつけるでしょうね。」
「ローリイにそんなこといったら、いけませんわ。ねえ、おかあさん。」
 おかあさんは、まじめな顔でいいました。
「いけません。ばかなうわさ話は、二度と口にしてはいけません。できるだけ早く忘れることです。あなたをいかせたのは、おかあさんの失敗でした。親切なんでしょうが、下品で、教養があさく、わかい人たちにいやしい考えを持たせる連中ですからね。メグ、今度の訪問があなたにわるい影響があるようなら、かあさんは残念です。」
「御心配下さらないで。あたしは、自分のいけなかった[#「なかった」は底本では「なかっだ」]ことをなおしますわ。けれど、あたしはみんなから、ちやほやされて、ほめられるの、わるい気はしませんの。」
 メグは、はずかしそうにいいました。
「それは、しぜんな気持です。それがために、ばかげたことをしなければいいんです。ただ、ほめられたとき、それだけの価値がじぶんにあるか反省して、美しい、へりくだる娘になることです。」
 それから、話は計略のことになりましたが、メグはおかあさんにむかって尋ねました。
「マフォット夫人のおっしゃったように、計略をたてていらっしゃる[#「いらっしゃる」は底本では「いらっっしゃる]の?」
「ええ、たくさんたてています。だけどマフォット夫人のいうのとはちがいます。あたしのは、娘たちが、美しくて教養のある、善良な人になって幸福な娘時代をすごし、よい、かしこい結婚をして、神さまの御意により、苦労や心配をできるだけすくなくして、有益なたのしい生涯を送ってほしいのです。りっぱな男の人に愛され、妻としてえらばれることは、女の身にとって一ばんたのしいことです。あたしは、娘たちがこういう美しい経験をすることを、心から望んでいます。そういうことを考えるのはしぜんで、メグ、その日の来るのを望み、その日を待つのは正しいことですし、その支度をしておくことは[#「おくことは」は底本では「おくことに」]かしこいことです。あたしは、あなたがたのために、そういう大望をいだいています。けれど、ただ世間へおし出し、金持と結婚させたいのではありません。お金持だからとか、りっぱな家に住めるからとか、そんなことだけで結婚したら、それは家庭といえません。愛がかけているからです。お金は必要で大切なものです。上手に使えばたっといものですが、ぜひとも手にいれるべき第一のものとか、ごほうびとか思ってはこまります。かあさんは、あなたがたが、幸福で、愛されて、満足してさえいれば、自尊心や平和なくして王位にのぼっている王女さまたちになってもらうより、かえって貧乏人の妻になってもらいたいと思います。」
 メグは、そのとき、ため息をしていいました。
「貧乏な家の娘は、せいぜい出しゃばらなければ、結婚のチャンスはつかめないって、ベルがいってましたわ。」
 ジョウは、気づよくいいました。
「そんなら、あたしたちは、いつまでも、えんどおい娘でいましょう。」
「ジョウのいうとおりです。不幸な奥さんや、だんなさんをあさりまわっている娘らしくない娘よりも、幸福なえんどおい娘でいたほうが、よろしい。なにも心配することはありません。メグ、ほんとに愛のある人は、相手の貧乏などにひるむことはありません。かあさんの知っているりっぱな婦人のなかには、むかしは貧乏だったかたがいくらもあります。けれど、愛をうける、ねうちのあるかたのばかりだったから、人がえんどおい娘にしておかなかったのです。そういうことは、なりいきにまかせておけばいいので、今は、この家庭を幸福にするように努め、やがて結婚の申しこみをうけたらばその新らしい家庭にふさわしい人になるし、もしかしこい結婚ができなければ、この家に満足して暮すのです。それから、もう一つ、よく覚えていてほしいのは、かあさんはいつでもあなたが秘密をうち明けることのできる人ということ、また、おとうさんは、あなたがたのよいお友だちであるということです。そして、おとうさんとあたしは、あなたがたが結婚しても、独身でいても、あたしたちの生活のほこりであり、なぐさめであることを信じ、また望んでもいるということをね。」
 メグとジョウは、
「おかあさん、あたしたちきっとそうなります!」と、ほんとに、心からさけんで、おやすみなさいをいいました。

          第十 ピクイック[#「ピクイック」は底本では「ピックイク」]・クラブと郵便局

 春がめぐって来ると、いろいろと新らしいたのしみがはやり、しだいに日がのびるにしたがって、長い午後の時間に、いろいろの仕事やあそびができるようになりました。
 庭に手入れをしなければなりませんでした。姉妹はめいめい四分の一の地所をもらって、じぶんのすきなようにやりました。ハンナが、どれがどのかたの庭か、支那から見たってわかるといいましたが、まさにそのとおりで、四人の趣味はひとりひとりちがっていました。
 メグは、ばらとヘリオトロープと天人花と、かわいいオレンジの木をうえました、ジョウの花壇には、二シーズン、けっしておなじじものがうえられたことがなかったのは、たえず新らしい実験を試みるからで、今年は日まわりをうえるはずで、その種子はにわとりと、そのひよこの餌にするためでした。ベスは、スイート・ピイ、[#「、」は底本では「・」]もくせい草、ひえん草、なでしこ、パンジイ、よもぎなど、古風な香りゆたかな花や、小鳥の餌になるはこべ、子猫のためのいぬはっかなどをうえました。エミイは、小さくはあるが、かわいいあずま家をつくり、にんどうだの、朝がおだのを、その上にはわせ、いろんな花を咲かせました。そして、せの高い白ゆりだの、やさしいしだなど、たくさんの花をうえこみました。
 晴れた日には、庭いじり、散歩、川でのボートあそび、花の採集など、雨の日には、室内のあそびごとに時間をすごしました。そのあそびのなかには、もとからのもあり、新らしいのもありましたがその一つ、ピクイック・クラブというのは、イギリス文豪ジケンスの作品中から、その名をとったものでした。このクラブは、そのころはやっていた秘密会で、土曜日の夕方、ひろい屋根部屋で開き、ずっと一年もつづけて来たのです。会はこんな順序で行われます。ランプをおいたテーブルの前に、三つのイスをならべ、ちがった色でクラブの頭文字のP、C、二つの大きな字をぬいつけた四つの白いきしょうが用意されました。そして、「ピクイック週報」という週刊新聞が発行され会員はみんななにか寄稿することになって、文才のあるジョウが、編集にあたりました。
 今後七時、四人の会員は、クラブ室にのぼっていき、くびに、きしょうをまきつけ、ものものしい態度で席につきました。ディケンスの小説のなかの名を借りて、メグは一ばん年上なので、サミエル・ピクイック氏[#「ピクイック氏」は底本では「ビクイック氏」]。ジョウは文学的才能があるので、オーガスタス・スノーダグラス氏、ベスは、トラシイ・タップマン氏、エミイは、ナザニエル・インクル氏でありました。会長のピクイック[#「ピクイック」は底本では「ビクイック」]が、週報を読みました。週報には、創作物語、詩、地方のニュース、おかしな広告、たがいの、欠点や短所を注意しあういましめなどが、いっぱいのっていました。今夜は、玉のはいっていない目がねをかけた会長が、テーブルをたたいて、せきばらいをし、おもむろに読みはじめました。
 会長が、週報を読みおわると、いっせいに拍手の音が起り、つぎにスノーダグラス氏が、ある提案をするために立ちあがりました。
「会長ならびに紳士諸君。」と、議会で演説するような堂々たる態度と調子ではじめました。「わたくしは、ここに一名の新会員の入会許可を提議したいと思うのであります。その人は、その名誉をあたえられるにふさわしい人物でありまして、入会されたならば、クラブの精神、週報の文学的価値に寄与するところ大なるものがありましょう。そして、その人とは、ほかならぬテオドル・ローレンス氏です。ねえ、入れてあげましょう。」
 ジョウの演説は、最後で調子がかわったので、みんな大笑いしました。けれど、すぐに、みんな気づかわしそうな顔をして、ひとりも発言しませんでした。そこで、会長が、
「投票によってきめることにします。」と、いい、つづいて「この動議に賛成のかたは、賛成といって下さい。」と、大声でうながしました。
 すると、おどろいたことに、ベスのトラシイ・タップマン氏が、おずおずした声で、
「賛成」と、いいました。
「反対のかたは、不賛成といって下さい。」
 メグとエミイ、すなわち、ピクイック氏と、インクル氏は、不賛成でありました。そして、まずエミイのインクル氏が立ちあがって、いと上品にいいました。
「わたしたちは、男の子たちを入会させたくありません。男の子たちは、ふざけたり、かきまわしたりするだけです。これは、女のクラブですから、わたしたちだけで、やっていきたいと思います。」
 ついで、メグのピクイック氏が、何かうたがうときにするくせの、ひたいの小さなカールをひっぱりながらいいました。
「ローリイは、わたしたちの週報を笑いものにし、あとでわたしたちをからかうでしょう。」
 すると、スノーダグラス氏は、はじかれたようにとびあがって、熱をこめて、
「わたしは紳士として誓います。ローリイはそんなことは致しません。かれは書くのがすきで、わたしたちの書いたものに趣きをそえ、わたしたちが[#「たちが」は底本では「たが」]センチメンタルになるのを防いでくれると思います。そう思いませんか? わたしたちは、かれにすこししかなし得ませんが、かれはわたしたちにたくさんのことをしてくれます。よって、かれに会員の席をあたえ、もし入会すれば、よろこんで迎えたいと思います。」
 いつも受けている利益をたくみに暗示されたので、ベスのタップマン氏は、すっかり心をきめたようすで立ちあがりました。
「そのとおりです。たとえ、すこしぐらいの不安はあっても、かれを入会させましょう。もしかれのおじいさんも、はいりたければ入会させてよいと思います。」
 ベスのこの力ある発言に、みんなおどろき、ジョウは席をはなれて握手を求めに来ました。
「さあ、それでは、もう一度投票します。諸君はわたしたちのローリイであることを頭にいれて、賛成といって下さい。」
 ジョウのスノーダグラス氏が、いきおいこんでさけぶと、たちまち、賛成という三つの声がいっしょに聞えました。
「よろしい、ありがたいしあわせ! さて、それでは、時をうつさず、さっそく新会員を紹介させて下さい。」と、ジョウは、戸だなを開けると、くずいれぶくろの上に、おかしさをこらえて顔をあかくして、ローリイがすわっていました。このいたずらに、すっかりやられた三人が、
「いたずら者。ひどいわ!」と、ぶつぶついっているあいだに、ジョウはかれをひき出し、会員章をあたえて席につかせてしまいました。
「きみたち、ふたりのずるいのにはおどろかされましたぞ。」と、ピクイック氏は、こわいしかめっ面をしようとしましたが、かえってにこにこ顔になってしまいました。その新会員に、うやうやしく敬礼をして、きわめて愛想のよいようすでいいました。
「会長閣下および淑女諸君、いや、これは失礼、紳士諸君、どうぞ自己紹介をお許し下さい。わたくしは、このクラブの末席[#「末席」は底本では「未席」]をけがすサム・ウェラーと申します。」
「すてき すてき」と、ジョウはテーブルをたたきながらいいました。
「ただ今、わたくしを、じょうずにひっぱり出して下すった、忠実な友だち、そして、尊敬すべき後援者は、今夜のずるい計画については、すこしも責任はないのでありまして、これはすべてわたくしがたてた計画で、わたくしがむりをいって、やっと承知させたのであります。」
 ローリイが、手をふりながらそういうと、そのじょうだんが、おもしろくてしようがないというふうに、スノーダグラス氏は、
「みんなじぶんのせいにしなくってもいいわ。戸だなにかくれることは、あたしがいい出したんだわ。」といいました。
「この人のいうことなど心にかけてはいけません。計画をしたわる者はわたくしです。しかし名誉にかけて、二度とこんなことはしません。今後は、永久につづくこのクラブのために、大いに力をいたす考えであります。」
「ヒャ! ヒャ!」と、ジョウはフライ鍋のへりをたたきながらさけびました。
「つづけろ! つづけろ!」と、インクル氏は、会長がうやうやしく礼をしている間にいいました。
「おお、一言申しておきたいことは、小生の受けた名誉を感謝いたしたく、となり合う両国民の親善関係をふかめる一助として、庭のすみに郵便局をつくったことであります。もとはつばめ小屋でしたが改造しました。手紙、原稿、本、小づつみ、なんでもとりつぎ、時間の節約に役だつと思います。両国民はそれぞれかぎをもちますわけで、ここにそのかぎを贈呈することをお許し下さい。」
 ウェラー氏が、かぎをテーブルの上において、自席にもどると、さかんな拍手、さけび声が起りました。つづいていろんな討議がおこなわれ、めいめい、かっぱつに意見をかわしました。そして、新人会員のばんざいを、最後にとなえて散会しました。
 たしかに、ローリイのサム・ウェラー氏の入会は、このクラブに生気をふきこみ、書くものでも、週報にちがったおもむきをそえました。郵便局は、すばらしい考えでした。たくさんの奇妙なものがとりつがれました。悲劇台本、ネクタイ、詩、漬もの、草花の種子、長い手紙、譜本、しょうがパン、[#「、」は底本では欠落]ゴム靴、招待状、注意書き、小犬などでした。ローレンス老人も、このあそびをおもしろがって、おかしな小づつみや、ふしぎな手紙や笑いの電報などを送って来ました。また、ローレンス家の園丁はマーチ家の女中ハンナにひきつけられ、本気で恋文を書いて来ました。その秘密がばれたとき、みんなはどんなに笑いころげたことでしょう!

          第十一 経験が教える

「[#「「」は底本では欠落]六月一日、明日はキングさんの家の人、みんな海岸へ出かけていって、あたしはひまになるの! 三ヶ月のお休み! なんてうれしいんでしょう!」
 あるあたたかい日、家へ帰って来たメグが、ジョウを見つけてさけびました。ジョウは、いつになく疲れたようすで、ソファの上に横たわり、ベスがそのほこりだらけの靴をぬがしてやっていました。エミイは、みんなのためにレモン水をつくっていました。
 ジョウがいいました。
「マーチおばさんも、今日お出かけになったわ。すてきでしょ。いっしょにいってほしいと、いわれやしないかと、びくびくしちゃった。それで、あたし、おばさんを早くたたせたいので、お気にめすように、それこそいっしょうけんめいにはたらいたわ。だけど気のきいたこのおつきを、つれていこうと思われたら大へんだと心配したの。それでおばさんを馬車にのりこませると、なにかいってたけど聞えないふりをして、大いそぎで逃げて帰ったの、ほんとに助かったわ[#「助かったわ」は底本では「助かったわわ」]。」
「よかったわね。それで、メグねえさん。この休みになにをなさるつもり?」と、エミイが尋ねました。
「うんと朝ねぼうして、なにもしないの。だって冬からこっち、朝早くからたたき起されて、ひとのためにはたらいてばかりいたんですもの。大いに休んであそぶのよ。」
「ふうむ、あたしはそんなだらけたの大きらい。たくさん本を集めておいたから、あの古い林檎の枝の上で、このかがやかしい少女時代をよくするために勉強するの。」と、ジョウがいいました。
「あたしたちも、勉強はやめにして、おねえさんのまねしてあそびましょう。」と、エミイがいうと、ベスも、よろこんで、
「ええ、いいわ。あたし新らしい[#「新らしい」は底本では「新ちしい」]歌をすこしおぼえたいし、人形さんの夏服もつくらなければならないし。」と、いいました。
 そのとき、おかあさんが、針仕事の手をやめて、みんなにむかっていいました。
「一週間、はたらかないであそんでごらんなさい。土曜日の晩になると、つまらないということが、きっとわかるでしょう。」
「そんなことありませんわ。とてもうれしいわ。きっと。」と、メグがいいました。
「ねえ。わが友、祝杯をあげましょうよ。あそびは永久に! あくせくしっこなし!」と、ジョウはレモン水がいきわたったとき、そのコップを高くささげてさけびました。
 みんなはたのしそうに飲みほしました。そのときから、ぶらぶらあそびがはじまりました。あくる朝も、メグは十時までねどこのなか。ジョウは花瓶に花もささず、ベスはそうじをしないし、エミイの本はちらかったまま、ただ「おかあさんの領分」だけが、きちんと片づいているだけでした。この部屋では、メグは、休息も読書もできず、あくびが出るばかり、給料で夏のどんなドレスが買えるかなどと考えるのでした。ジョウは、午前のうちはローリイと川へボートこぎにいき、今後は林檎の木の上で「広い世界」という物語を涙を流して読みました。ベスは、戸だなをかきまわし、そのままにして、ピアノへ気をうつしていきました。エミイは、じぶんの花園のスケッチをはじめました。それから散歩にいきましたが、夕方になってぬれねずみになって帰って来ました。
 お茶のとき、四人はその日のことを、いろいろ話し合いましたが、たのしかったけれど、いつになくその日は、永く感じられたということに、みんなの意見は一致しました。そして、つぎの日も、また、つぎの日も、休んであそびました。ところが、いよいよ一日が永く感じられ、なんとなくおちつかない気分になって来ました。すると、悪魔は四人の心をねらい、いろんなわるいことを見つけて、あばれはじめたのであります。
 たとえば、メグは布地を小さくきりすぎて、一枚の服をだいなしにしてしまいました。ジョウは、本を読みすぎて目がぼやけ、いらいらした気分となって、やさしいローリイと、けんかして[#「けんかして」は底本では「けんかしてして」]しまいました。ベスは、あそんでばかりいないで、いつもの習慣で家事のお手つだいをするので、わりにいいほうでしたが、それでも、家のなかの気分に動かされて、いらいらしてしまい、人形をしかりとばしたりしました。エミイは、ひとりであそぶことが、むずかしいことがわかりました。一日中、絵をかいてもいられませんし、人形あそびはきらいでしたし、すっかり心のつかれをおぼえました。
 金曜日の晩になると、だれもあそびにあきたとはいいませんでしたが、もう一日で一週間がおわるので、うれしく思いました。おかあさんのほうでも、ほうれごらんと、ちゃんと見てとって、この教訓をいっそう印象づけたいと思って、わざとハンナに土曜日一日、休みをあたえました。
 土曜日の朝、みんなが起きてみると、台所には火の気はなく、食堂には朝御飯はなし、おかあさんもハンナもいません。
「あら、どうしたっていうんでしょう!」
 ジョウがさけんだとき、メグはもう二階へかけあがっていき、まもなく、ほっとして、けれど、すこしはおかしそうな顔をしておりて来ました。
「おかあさんは、御病気ではないけど、おつかれでおやすみよ。今日一日は、みんなで好きなようになさいって。」
「そう。いいじゃないの、おもしろいわ、あたしなにかしたくて、うずうずしてたんですもの。」と、ジョウがいいました。
 まったく、今、四人はすこし仕事がしたくなりました。メグがコック長となってさっそく食事の仕度がはじまり、みんなおもしろがってやりました。おかあさんは、じぶんのことはかまわないでといいましたが、おかあさんの食事は用意され、ジョウが二階へはこびました。わかしすぎた紅茶はにがく、オムレツはこげ、ビスケットは重曹でかたまって、ぶつぶつしていましたが、おかあさんは、感謝して受け、ジョウが去ってしまうと、おかしくてたまらなくて、ひとりで笑ってしまいました。
「かわいそうに、みんなこまっているでしょう。でも、そうつらいとも思っていないだろうし、後のためにもなることだから。」と、つぶやいて、おかあさんはじぶんで用意しておいたもっとおいしい食物をとり出し、運ばれた食事はわからないようにしまつして、食べたことにしておいたので、みんなはうれしがりました。これはおかあさんらしい、ちょっとしたうそでした。
 ところで、階下ではいろんな不平が起りました。食事の失敗に、コック長はひどくくやしがりました。ジョウは、
「いいわ。お昼の食事は、あたしが女中になって用意するわ。ねえさんはおくさんになって、お客さまの相手をしてちょうだい。」と、いって、ローリイをよぶことを提案しました。

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