若草物語
◇ピンチです!◇
■暇つぶし何某■

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著者名:オルコットルイーザ・メイ 

          作者について

 この「若草物語」(原名リツル、ウィメン)は、米国の女流作家ルイザ・メイ・オルコット女史の三十七才の時の作です。父を戦線におくり、慈愛ふかい聡明な母にまもられて、足らずがちの貧しい生活ながら、光りを目ざして成長していく四人の姉妹を描いていますが、それは、けっして坦々たる道ではなく、不平、憎悪、苦悶、嫉妬など、さまざまのものが、彼女たちの健気な歩みを妨げるのであります。そして、その多くの試練にたちむかう、四人の姉妹の、それぞれちがった性格の描写は、まことに、明暗多彩、克明精細、しかも、この一篇にみなぎる愛と誠とは、いかなる読者の心をも魅了し、感激させずにはおきません。なお、この物語は、オルコット女史が、いっているように、ほとんどじぶんたちの姉妹をモデルにしたものであり、家で起った事件もとりいれてあります。それがために、この物語の四人の姉妹は、ありふれた娘であるにかかわらず、心にせまる真実性があり、いつも生きているし、長くも生きるのであります。
 それですから、この作は千八百六十八年に公にされて以来、全世界にむかえられ、もう何十万部発行されたかわかりません。そして、今もなおベスト・セラー中にかぞえられています。
 オルコット女史について、簡単に御紹介しますと、出生日は、千八百三十二年十一月二十九日、出生場所は米国ペンシルバニア州のジャーマン・タウン、父は教育家でした。この父は個性を尊重する理想主義の教育を主唱し、私学校を建設しましたが、経営に失敗し、したがって、一家は物質的には恵まれませんでしたが、四人の娘たちは精神的にゆたかな生活をしました。
 オルコット女史は、二女で、この「若草物語」のジョウに作者の面影が出ていますが、文筆の才に恵まれ、教鞭をとるかたわら、作家志願の精進をつづけ、二十三才のとき[#「とき」は底本では「とさ」]、「花物語」という処女作を出しました。
 千八百六十一年、女史の三十歳のときに、南北戦争が起り、女史は篤志看護婦となって献身的なはたらきをしました。その後、三十七歳に「若草物語」つづいて、「グッド・ワイブス」「リツル・メン」など大作を世に送りました。「若草物語」を公にしてからの女史は、物質的にもめぐまれ、父の負債をかえし、母を安楽にさせ、妹のメイには絵の修行をさせてやり、自分もあこがれのヨーロッパ旅行をして、イタリイに滞在しました。
 けれど、母がなくなってから、女史の肩にまた重荷がかかってきました。妹のメイは結婚後しばらくして死に、残されたあかんぼを引きとらなければなりませんでした。女史はいよいよはたらきました。女史の知人は同情して補助をしようとしましたが、女史は補助を受けるのがいやで、困難のなかにも忍耐して努力しました。そうして、女史は千八百八十八年三月六日、五十五歳で、父の死後わずか二日、最愛の父の後を追って、ボストン市で永遠の旅路にのぼりました。女史の一生は、愛と誠をもってする努力精進の一生でありました。
[#改ページ]

          第一 巡礼あそび

「プレゼントのないクリスマスなんか、クリスマスじゃないわ。」と、ジョウは、敷物の上にねそべって不平そうにいいました。
「貧乏ってほんとにいやねえ。」と、メグはじぶんの着古した服を見ながらため息をつきました。
「ある少女が、いいものをたくさんもち、ある少女が、ちっとも、もたないなんて、不公平だと思うわ。」と、小さいエミイは、鼻をならしながらいいました。
「でもね、あたしたちは、おとうさんもおかあさんもあるし、こうして姉妹があるんだもの、いいじゃないの。」と、ベスが、すみのほうから満足そうにいいました。
 ストーブの火に照らしだされた四つのわかわかしい顔は、この快活な言葉でいきいきとかがやきましたが、ジョウが悲しそうに、
「だって、おとうさんは従軍僧で戦争にいっておるすだし、これからも長いことお目にかかれないと思うわ。」と、いったとき、またもやくらい影におおわれ、だれもしばらく口をききませんでした。けれど、やがてメグが調子をかえて、
「おかあさんが、今年のクリスマスは、プレゼントなしとおっしゃったのは、みんな暮しがつらくなるし、兵隊さんたちが戦争にいっているのに、たのしみのためにお金を使うのはいけないと、お考えになったからよ。あたしたち、たいしたことはできないけど、すこしの犠牲ははらえるし、よろこんではらうべきだわ。でも、あたしはらえるかしら?」
 メグは、ほしいものを犠牲にするのがおしいというように頭をふりました。
「だけど、あたしたちの一ドルを献金したって、たいして兵隊さんの役にたつとは思えないわ。あたしはおかあさんやあなたがたから、プレゼントがもらえないのはいいとして、じぶんでアンデインとシントラム(本の名)を買いたいわ。前からほしかったんですもの。」と、本の好きなジョウがそういうと、ベスはため息をつきながら、
「あたしはあたらしい譜本を買いたいわ。」
 エミイも、きっぱりと、
「あたし、フェバアの上等の色鉛筆がほしいわ。ほんとにあたしいるんですもの。」と、いいました。ジョウは、
「おかあさんは、あたしたちのお金のこと、なんにもおっしゃらなかったわ。だから、めいめいほしいものを買ってたのしみましょうよ。これだけのお金をもうけるのに、みんなずいぶん苦労したんだもの。」と、紳士がやるように長靴のかかとをしらべながらいいました。
「そうよ、ほとんど一日中、あのやっかいな子供たちの勉強を見てやるのたまらないわ。」と、メグがまたも不平をいいますと、つづいてジョウが、
「そんなことあたしの半分の苦労じゃないわ。あたしは、神経痛で気むずかしいおばあさんに使われてさ。どんなにしてあげても気にいらなくて、いっそのこと窓からとびだそうか、それとも、おばあさんの横っ面をはりとばしてやろうかと思うくらいよ。」
「不平、いってもしょうがないけど、皿をあらったり、そこらを片づけたり、そんな家のなかの仕事は、ほんとにいやな仕事だわ。手がこわばって、ピアノひけないわ。」
 ベスは大きな[#「大きな」は底本では「大さな」]ため息をついて、荒れたじぶんの手を見ました。すると、エミイも大声でいいました。
「あたしぐらい苦労しているものないわ。だって、あなたたちは、勉強ができないといっていじめたり、服がおかしいといって笑ったり、おとうさんが金持でないといったり、鼻のかっこうがわるいといってあざけったりする生意気な連中と、いっしょに学校にいかなくてもいいんですもの。」
 こうして、みんなが不平をぶちまけたあげく、メグがいいました。
「あたしたちの小さいとき、おとうさんのなくされたお金が、今でもあったらいいと思わない? そうしたら、どんなに幸福でしょう。」
 すると、ベスが聞きとがめていいました。
「こないだ、ねえさんは、キングさんのとこの子は、お金があっても、いつもけんかしたり怒ったりしてるから、あたしたちのほうがずっと幸福だっていったじゃないの?」
「ええ、いったわ。あたしたちは、はたらかなければならないけど、ジョウのいうように、たのしいあいぼうですもの。」
「ジョウねえさん、あいぼうだなんてぞんざいな言葉だわ。」と、エミイは、敷物の上にねそべっているジョウのほうを見ていいました。ジョウは、すぐに起きなおって、エプロンのかくしに、りょう手をつっこんで、口笛を吹きはじめました。
「ジョウ、およしなさい。まるで男の子みたい。」
「だから、あたしするの。」
「あたし、下品な、女らしくない子は大きらい。」
「あたし、気どり屋のおすまし、大きらい。」
 すると、仲裁者のベスがおどけ顔で、
「おなじ小さな巣にいる小鳥、いつもなかよしあらそわぬ。」と、うたいだしたので、二人のとがった声も笑い声となりましたが、メグがねえさんぶってお説教をはじめました。[#「ました。」は底本では「しまた。」]
「二人ともいけないわ。それにジョウは、もう男の子みたいなおいたはやめて、しとやかになさいよ。せいも高いし髪もゆってるのですものもうわかい婦人だわ。」
「そんなら二十才まで、おさげにしとくわ。あたし、男の子のあそびごとや仕事や身なりが好きなのに、女に生れてつまらないわ。この頃は、おとうさんといっしょに、戦争がしたくてうずうずしてるのに、家にいてよぼよぼばあさんみたいに、編物をしてるだけなんだもの。」
「かわいそうなジョウねえさん、まあ名前でも男の子らしくして、あたしたちのにいさんになって、がまんしておくんだわねえ。」
 ベスがなぐさめるようにいいました。メグは、またお説教をつづけました。
「[#「「」は底本では欠落]それから、エミイは、気むずかし屋で、かたくるしいわ。今はかわいいけど、気をつけないと大人になったら、がちょうみたいに気どり屋さんになるわ。上品ぶらないときは、しとやかなのも、いい言葉も好きだけど、あんたのませた言葉は、ジョウの下品な言葉とおなじように、よくないわ。」
「ジョウがおてんばで、エミイが気どり屋さんなら、ねえさん、あたしはなあに?」と、ベスはじぶんもお説教されたがって口をはさみました。
「あなたは、かわいい子、ただそれだけよ。」
 メグは、やさしくそういいましたが、これには、だれも反対しませんでした。
 ところで、みなさんは、この四人の姉妹がどんな人がらか、知りたいでしょう。おもてには十二月の雪がふり、家のなかには、たのしそうにストーブの火のもえている夕暮のうすやみのなかで、編物をしている四人姉妹をスケッチしてみましょう。その前に、部屋のようすをいえば、敷物の色はさめ家具類は質素ですが、壁にはりっぱな絵が一つ二つかけられ、本棚にはぎっしりと本がならび、出窓には菊やばらが咲いています。古い部屋ですが、平和な家庭のなごやかさが、隅々にまで充ちわたっていました。
 長女のマアガレット(メグ)は十六で、かわいい娘です。ふとって、目が大きく、とび色の髪はふさふさとしており、口もとがかわいく、じぶんでもいくらか得意の白い手をしています。
 十五になるジョウは、せいが高く、やせて、小麦色の肌をして、すらりと長い手足をもてあましているようすから、なんとなく仔馬を思わせます。きりっとした口もと、おどけた鼻、きつい灰色の目をもつ顔は、ときにはするどくなり、ときにはおどけ、ときには思い深げになります。その長いゆたかな髪は、すぐれて美しいけれど、いつもむぞうさにネットのなかに束ねています。
 みんながベスとよぶエリザベスは、ばら色の血色の、くせのない髪の、あかるい目をした十三の少女で内気でおだやかですから、おとうさんが「ひっそり姫」という名をつけたのは、たしかにうってつけでした。

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