若草物語
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著者名:オルコットルイーザ・メイ 

          作者について

 この「若草物語」(原名リツル、ウィメン)は、米国の女流作家ルイザ・メイ・オルコット女史の三十七才の時の作です。父を戦線におくり、慈愛ふかい聡明な母にまもられて、足らずがちの貧しい生活ながら、光りを目ざして成長していく四人の姉妹を描いていますが、それは、けっして坦々たる道ではなく、不平、憎悪、苦悶、嫉妬など、さまざまのものが、彼女たちの健気な歩みを妨げるのであります。そして、その多くの試練にたちむかう、四人の姉妹の、それぞれちがった性格の描写は、まことに、明暗多彩、克明精細、しかも、この一篇にみなぎる愛と誠とは、いかなる読者の心をも魅了し、感激させずにはおきません。なお、この物語は、オルコット女史が、いっているように、ほとんどじぶんたちの姉妹をモデルにしたものであり、家で起った事件もとりいれてあります。それがために、この物語の四人の姉妹は、ありふれた娘であるにかかわらず、心にせまる真実性があり、いつも生きているし、長くも生きるのであります。
 それですから、この作は千八百六十八年に公にされて以来、全世界にむかえられ、もう何十万部発行されたかわかりません。そして、今もなおベスト・セラー中にかぞえられています。
 オルコット女史について、簡単に御紹介しますと、出生日は、千八百三十二年十一月二十九日、出生場所は米国ペンシルバニア州のジャーマン・タウン、父は教育家でした。この父は個性を尊重する理想主義の教育を主唱し、私学校を建設しましたが、経営に失敗し、したがって、一家は物質的には恵まれませんでしたが、四人の娘たちは精神的にゆたかな生活をしました。
 オルコット女史は、二女で、この「若草物語」のジョウに作者の面影が出ていますが、文筆の才に恵まれ、教鞭をとるかたわら、作家志願の精進をつづけ、二十三才のとき[#「とき」は底本では「とさ」]、「花物語」という処女作を出しました。
 千八百六十一年、女史の三十歳のときに、南北戦争が起り、女史は篤志看護婦となって献身的なはたらきをしました。その後、三十七歳に「若草物語」つづいて、「グッド・ワイブス」「リツル・メン」など大作を世に送りました。「若草物語」を公にしてからの女史は、物質的にもめぐまれ、父の負債をかえし、母を安楽にさせ、妹のメイには絵の修行をさせてやり、自分もあこがれのヨーロッパ旅行をして、イタリイに滞在しました。
 けれど、母がなくなってから、女史の肩にまた重荷がかかってきました。妹のメイは結婚後しばらくして死に、残されたあかんぼを引きとらなければなりませんでした。女史はいよいよはたらきました。女史の知人は同情して補助をしようとしましたが、女史は補助を受けるのがいやで、困難のなかにも忍耐して努力しました。そうして、女史は千八百八十八年三月六日、五十五歳で、父の死後わずか二日、最愛の父の後を追って、ボストン市で永遠の旅路にのぼりました。女史の一生は、愛と誠をもってする努力精進の一生でありました。
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          第一 巡礼あそび

「プレゼントのないクリスマスなんか、クリスマスじゃないわ。」と、ジョウは、敷物の上にねそべって不平そうにいいました。
「貧乏ってほんとにいやねえ。」と、メグはじぶんの着古した服を見ながらため息をつきました。
「ある少女が、いいものをたくさんもち、ある少女が、ちっとも、もたないなんて、不公平だと思うわ。」と、小さいエミイは、鼻をならしながらいいました。
「でもね、あたしたちは、おとうさんもおかあさんもあるし、こうして姉妹があるんだもの、いいじゃないの。」と、ベスが、すみのほうから満足そうにいいました。
 ストーブの火に照らしだされた四つのわかわかしい顔は、この快活な言葉でいきいきとかがやきましたが、ジョウが悲しそうに、
「だって、おとうさんは従軍僧で戦争にいっておるすだし、これからも長いことお目にかかれないと思うわ。」と、いったとき、またもやくらい影におおわれ、だれもしばらく口をききませんでした。けれど、やがてメグが調子をかえて、
「おかあさんが、今年のクリスマスは、プレゼントなしとおっしゃったのは、みんな暮しがつらくなるし、兵隊さんたちが戦争にいっているのに、たのしみのためにお金を使うのはいけないと、お考えになったからよ。あたしたち、たいしたことはできないけど、すこしの犠牲ははらえるし、よろこんではらうべきだわ。でも、あたしはらえるかしら?」
 メグは、ほしいものを犠牲にするのがおしいというように頭をふりました。
「だけど、あたしたちの一ドルを献金したって、たいして兵隊さんの役にたつとは思えないわ。あたしはおかあさんやあなたがたから、プレゼントがもらえないのはいいとして、じぶんでアンデインとシントラム(本の名)を買いたいわ。前からほしかったんですもの。」と、本の好きなジョウがそういうと、ベスはため息をつきながら、
「あたしはあたらしい譜本を買いたいわ。」
 エミイも、きっぱりと、
「あたし、フェバアの上等の色鉛筆がほしいわ。ほんとにあたしいるんですもの。」と、いいました。ジョウは、
「おかあさんは、あたしたちのお金のこと、なんにもおっしゃらなかったわ。だから、めいめいほしいものを買ってたのしみましょうよ。これだけのお金をもうけるのに、みんなずいぶん苦労したんだもの。」と、紳士がやるように長靴のかかとをしらべながらいいました。
「そうよ、ほとんど一日中、あのやっかいな子供たちの勉強を見てやるのたまらないわ。」と、メグがまたも不平をいいますと、つづいてジョウが、
「そんなことあたしの半分の苦労じゃないわ。あたしは、神経痛で気むずかしいおばあさんに使われてさ。どんなにしてあげても気にいらなくて、いっそのこと窓からとびだそうか、それとも、おばあさんの横っ面をはりとばしてやろうかと思うくらいよ。」
「不平、いってもしょうがないけど、皿をあらったり、そこらを片づけたり、そんな家のなかの仕事は、ほんとにいやな仕事だわ。手がこわばって、ピアノひけないわ。」
 ベスは大きな[#「大きな」は底本では「大さな」]ため息をついて、荒れたじぶんの手を見ました。すると、エミイも大声でいいました。
「あたしぐらい苦労しているものないわ。だって、あなたたちは、勉強ができないといっていじめたり、服がおかしいといって笑ったり、おとうさんが金持でないといったり、鼻のかっこうがわるいといってあざけったりする生意気な連中と、いっしょに学校にいかなくてもいいんですもの。」
 こうして、みんなが不平をぶちまけたあげく、メグがいいました。
「あたしたちの小さいとき、おとうさんのなくされたお金が、今でもあったらいいと思わない? そうしたら、どんなに幸福でしょう。」
 すると、ベスが聞きとがめていいました。
「こないだ、ねえさんは、キングさんのとこの子は、お金があっても、いつもけんかしたり怒ったりしてるから、あたしたちのほうがずっと幸福だっていったじゃないの?」
「ええ、いったわ。あたしたちは、はたらかなければならないけど、ジョウのいうように、たのしいあいぼうですもの。」
「ジョウねえさん、あいぼうだなんてぞんざいな言葉だわ。」と、エミイは、敷物の上にねそべっているジョウのほうを見ていいました。ジョウは、すぐに起きなおって、エプロンのかくしに、りょう手をつっこんで、口笛を吹きはじめました。
「ジョウ、およしなさい。まるで男の子みたい。」
「だから、あたしするの。」
「あたし、下品な、女らしくない子は大きらい。」
「あたし、気どり屋のおすまし、大きらい。」
 すると、仲裁者のベスがおどけ顔で、
「おなじ小さな巣にいる小鳥、いつもなかよしあらそわぬ。」と、うたいだしたので、二人のとがった声も笑い声となりましたが、メグがねえさんぶってお説教をはじめました。[#「ました。」は底本では「しまた。」]
「二人ともいけないわ。それにジョウは、もう男の子みたいなおいたはやめて、しとやかになさいよ。せいも高いし髪もゆってるのですものもうわかい婦人だわ。」
「そんなら二十才まで、おさげにしとくわ。あたし、男の子のあそびごとや仕事や身なりが好きなのに、女に生れてつまらないわ。この頃は、おとうさんといっしょに、戦争がしたくてうずうずしてるのに、家にいてよぼよぼばあさんみたいに、編物をしてるだけなんだもの。」
「かわいそうなジョウねえさん、まあ名前でも男の子らしくして、あたしたちのにいさんになって、がまんしておくんだわねえ。」
 ベスがなぐさめるようにいいました。メグは、またお説教をつづけました。
「[#「「」は底本では欠落]それから、エミイは、気むずかし屋で、かたくるしいわ。今はかわいいけど、気をつけないと大人になったら、がちょうみたいに気どり屋さんになるわ。上品ぶらないときは、しとやかなのも、いい言葉も好きだけど、あんたのませた言葉は、ジョウの下品な言葉とおなじように、よくないわ。」
「ジョウがおてんばで、エミイが気どり屋さんなら、ねえさん、あたしはなあに?」と、ベスはじぶんもお説教されたがって口をはさみました。
「あなたは、かわいい子、ただそれだけよ。」
 メグは、やさしくそういいましたが、これには、だれも反対しませんでした。
 ところで、みなさんは、この四人の姉妹がどんな人がらか、知りたいでしょう。おもてには十二月の雪がふり、家のなかには、たのしそうにストーブの火のもえている夕暮のうすやみのなかで、編物をしている四人姉妹をスケッチしてみましょう。その前に、部屋のようすをいえば、敷物の色はさめ家具類は質素ですが、壁にはりっぱな絵が一つ二つかけられ、本棚にはぎっしりと本がならび、出窓には菊やばらが咲いています。古い部屋ですが、平和な家庭のなごやかさが、隅々にまで充ちわたっていました。
 長女のマアガレット(メグ)は十六で、かわいい娘です。ふとって、目が大きく、とび色の髪はふさふさとしており、口もとがかわいく、じぶんでもいくらか得意の白い手をしています。
 十五になるジョウは、せいが高く、やせて、小麦色の肌をして、すらりと長い手足をもてあましているようすから、なんとなく仔馬を思わせます。きりっとした口もと、おどけた鼻、きつい灰色の目をもつ顔は、ときにはするどくなり、ときにはおどけ、ときには思い深げになります。その長いゆたかな髪は、すぐれて美しいけれど、いつもむぞうさにネットのなかに束ねています。
 みんながベスとよぶエリザベスは、ばら色の血色の、くせのない髪の、あかるい目をした十三の少女で内気でおだやかですから、おとうさんが「ひっそり姫」という名をつけたのは、たしかにうってつけでした。
 エミイは、一ばん下ですが、じぶんでは一ばんだいじな人物だと思っています。目は青く、ちぢれた金髪を肩までたらした、あどけない少女で、青白く、やせて、いつも起居ふるまいに気をつける、わかい貴婦人です。

 時計が六時をうちました。ベスはストーブのまわりを掃いて、スリッパをならべてあたためました。やがて、おかあさんのお帰りです。四人の顔によろこびがかがやき、メグはお説教をやめてランプをともしました。
 すると、その古いスリッパが問題になりました。みんなが、じぶんが買っておかあさんにあげるといいはり、また、一もめ、もめそうでしたが、ベスが、
「みんなで、おかあさんにクリスマスのプレゼントをあげましょうよ。じぶんのものは、買わないで。」と、いったので、それはいい思いつきだということになり、あれこれ考えたあげく、メグは上等の手袋、ジョウは上等のスリッパ、エミイはへりのついたハンカチ、ベスはコロン水の小瓶にきめました。
 ジョウは、せなかに手を組み、天井をあおいで部屋を歩きながらいいました。
「おかあさんには、わたしたちが、じぶんのものを買っていると思わせておいて、びっくりさせてあげましょうよ。メグ、明日の午後に買物にいかないと、クリスマスのお芝居のことで、することがたくさんあるわ。」
 すると、メグがいいました。
「あたし今度きりで、もうお芝居なんかしないつもりよ。あんなこと子供くさいもの。」
「だって、ねえさんは一ばんの役者ですもの、ねえさんがぬけたらおしまいよ。エミイ、さあ、いらっしゃい。おけいこしましょう。気を失うところをなさい。あんたは火ばしみたいにかたくなるんだもの。」
「しかたがないわ。気を失うとこなんか見たことないんですもの。」
「こうやるのよ。手を組み合せて、ロデリゴ! 助けて、助けて! と[#「 と」は底本では「と 」]気狂いみたいにさけびながらよろけて部屋を横ぎるの。」
 ジョウは、ほんとに悲鳴をあげてやってみせました。それにならってエミイもやりましたが、まるでぎこちなく、おお! という声だって、絶望どころか、身体にピンでもささった時のようでした、ジョウががっかりしてうめくと、メグは笑いだすし、ベスもおかしがって、パンをこがしてしまいました。
「おけいこしてもむだだわ、そのときになって、できるだけになさい、見物が笑っても、あたしのせいにしてはいやよ、さあ、それでは、今度はねえさんよ。」
 それからは、すらすらと進行しました、ジョウのドン・ペデロは長い科白をまくしたてて世をあざけり、魔女のハーガーは、ひきがえるのいっぱいはいった釜をのぞいて呪文をとなえ、ロデリゴは、おおしくも鉄のくさりをたちきり、ユーゴーは毒をあおいで苦しみながら死んでいきました。
「今までのおけいこのうちで、一ばんうまかったわ、」と、メグがいうと、ベスも「ジョウねえさん、どうしてこんなりっぱなものが書けるの? それに、お芝居もじょうずだわ、」
「それほどでもないけど、この『魔女の呪い』は、すこしはいいかもしれないわ、それはそうと、シェークスピアの『マクベス』がやってみたいのよ。」と、いって、
「目の前にちらつくは短剣か?」と、有名な悲劇役者のしぐさをまね、目の玉を光らし、虚空をつかんでいいました。すると、メグがさけびました。
「あら、フォークにさしてやいてるのは、パンじゃなくて、おかあさんのスリッパよ、」
 なるほど、スリッパが火にかかっていました。ベスは、おけいこを見て夢中だったのです。みんなは大笑いしました。
「ずいぶん、たのしそうね。」と、戸口でおかあさんの声がしました。ねずみ色の外套を着て、流行おくれのボンネットをかぶったおかあさんも、娘たちの目には、この世でならびない、すばらしい人としてうつりました。
「今日はべつになんにもなかったの? おかあさんは、明日送りだす慰問箱の仕度でいそがしくて、御飯までに帰れなかったの。ベス、どなたかお見えになった? メグ、かぜはどう? ジョウ、あなたはひどく疲れているのね、さあさあ、みんな来て、キッスしてちょうだい。」
 マーチ夫人はぬれた外套をぬぎ、あたたかいスリッパをはき、ソファに腰をおろして、エミイ[#「エミイ」は底本では「アミイ」]を膝にのせ、多忙な一日の一ばんたのしいときを、たのしむのでした、メグとジョウとベスは、さっそくとびまわって、食事の支度をし、すべてととのうと、みんなテーブルのまわりにつきました。
「晩御飯がすんだら、みんなにおみやげをあげますよ。」
 さっと、あかるいほほえみ[#「ほほえみ」は底本では「ほえみ」]が、みんなの顔をかがやかしました。ジョウは、ナフキンをほうりあげてさけびました。
「手紙だ、手紙だ、おとうさん、ばんざい!」
「ええ、いいお便りです。おとうさんは、おたっしゃで、案じていたほどでもなく、この寒い冬を元気でお過しなされそうですって。」
 おかあさんは、そういって、まるで宝物でもはいっているように、ポケットをたたいて見せました。さあ、もうゆるゆる食事なんかしていられません。パンを床に落したり、お茶にむせたりしてたいへんでした。
「さあ、それでは、お手紙を読んであげましょうね。」
 みんなは、ストーブの前にあつまりました。おかあさんはソファにかけました。こういう非常のときの手紙は、つよい感動をあたえるものですが、この手紙もそうで、危険に身をさらしたとか、つらいとかということは、すこしも書いてなく、露営、進軍、戦況などがいきいきとした筆で書かれ、たのしく希望にみちていましたが、最後のところで、大きな感動をあたえました。
「娘たちに、わたしの愛とキスをあたえて下さい。昼は娘たちのこと思い、夜は娘たちのために祈り日夜娘たちの愛情のうちに慰めを見出しています。娘たちとあうまでの一年は、長く思われるが、待ちわびるそのあいだに、たがいに仕事につとめ、日々をむだにしないようにとお告げ下さい。娘たちは、御身には愛すべき子供であり、忠実に義務をおこない、[#「、」は底本では「。」]心中の敵と勇ましく戦い、みごとにうち勝って、わたしが凱旋のときには、以前にもまして愛らしく、誇りうるように生長しているように、出発のときに申し聞かせたことを、すべてよく記憶していると思います。」
 ここまでくると、みんな鼻をすすりはじめました。涙をとめることはできません。
「あたしわがままだったわ、おとうさんが失望なさらないように、いい子になります。」と、エミイがいいますと、メグが、
「みんないい子になりましょう! あたし見栄ばかり気にして、はたらくこときらいだったわ、もうやめるわ。」と、さけびました。
「あたしも、いい子になって、らんぼうなまねよすわ。どこかへ、いきたいなんて思わずに、家でじぶんのつとめをするわ。」
 ジョウは、家でおとなしくしてるのは、敵一人や二人にたちむかうよりむずかしいと思いながらいいました。ベスは、だまっていましたが、青い軍用靴下でそっと涙をふき、身近の義務を果すための時間のむだにしまいとして、せっせと編みました。
 おかあさんは、ジョウの言葉につづいた沈黙を、快活な声でやぶりました。
「あなたたちが小さかったとき、「巡礼ごっこ」の遊びをしたことおぼえていますか? みんなせなかに、あたしの小布のふくろをしょって、帽子をかぶり杖をつき、まいた紙をもって、破滅の市の地下室から、日の照っている屋根の上までいき、そこで天国をつくるために、いろいろな美しいものをいただくくらい、うれしいことはなかったでしょう。」
 みんなは、そのときのいろんなできごとを思いだして話しましたが、エミイまでが、もうこんなに大きくなっては、あんなあそびできないというのをとがめて、おかあさんはいいました。
「いいえ、年をとりすぎてはいません。あたしたちは、まあお芝居をしているようなものです。荷物はここに、道は目の前にあります。よいことと、しあわせを求める心が、たくさんの苦労や、あやまちのなかを通りぬけて、ほんとの天国、いいかえれば平和に導いてくれるのです。さあ、小さい巡礼さんたち、今度はお芝居あそびではなく、本気でやって、おとうさんがお帰りになるまでに、どのあたりまで巡礼ができるか、やってみてはどう?」
「おかあさん、それで、荷物ってどこにありますの!」と、エミイが尋ねました。
「ベスのほかは、みんながじぶんの荷物が、なにか、いいましたよ。ベスは、きっとなにもないのでしょう。」
「いいえ、ありますが、あたしのはお皿とはたきと、いいピアノをもっている娘をうらやむしがることですわ。」
「それでは、みんなでしましょう。巡礼ごっこというのは、よい人になろうと努めることね。」
 メグは、考えこむように、そういいました。
「あたしたちは、今夜は、絶望の沼にいたのね、すると、おかあさんが来て、あの本のなかで、救助がやったように、ひきあげて下すったんです。だけど、掟の巻物を、どうしましょう?」
 ジョウが、そういうと、おかあさんが答えました。
「クリスマスの朝、枕の下をごらんなさい。見つかるでしょうよ。」
 ばあやのハンナが、テーブルを片づけているあいだに、四人の少女たちは、あたらしい計画について話し合い、それからマーチおばさんの敷布をつくるために、四つの小さな仕事かごがもちだされ、せっせと針をはこぶ[#「はこぶ」は底本では「ぱこぶ」]のでしたが、今夜はこのおもしろくない仕事に、だれも不平をいいませんでした。
 九時に仕事をやめて、いつものとおり、おわる前に歌を合唱しました。ベスはおんぼろピアノで、こころよい伴奏をしました。メグは笛のような声で、おかあさんと二人で、この合唱隊をリードしました。姉妹たちは、この歌を、
「きらりきらり、ちっちゃな、星さま」と、まわらぬ舌でうたったころから、今だにつづけて[#「つづけて」は底本では「つづけで」]います。おかあさんは生れつきうたがじょうずなので、これが行事の一つとなったわけでした。朝、まず聞えるのは、家のなかを、ひばりのようにうたうおかあさんの声で、晩に聞える最後の声も、おなじたのしいその声でした。姉妹たちはいくつになっても、そのなつかしい子守唄を、聞きあきるということはありませんでした。

          第二 たのしいクリスマス

 クリスマスの朝、まだほのぐらい明方に、ジョウが一ばんさきに目をさました。ジョウは、おかあさんとの約束を思いだして、枕の下へ手をさしこみ、小さい赤い表紙の本をひきだしました。それはこの世でもっともすぐれた生活をした人の美しい物語で、よい道案内だと思いました。ジョウは、「クリスマス、おめでとう。」といって、メグを起し、枕の下を見てごらんなさいといいました。ありました。やはり、あかい絵のある緑の表紙の本で、おかあさんの手でみじかい言葉が書かれていました。まもなく、ベスとエミイが目をさまし、枕の下に本を見つけました。一冊は鳩羽色、一冊は空色の表紙でした。みんなは起きなおり、本をながめて話し合いました[#「ました」は底本では「ましに」]が、そのうちに東の空がばら色に染ってきました。
 メグがいいました。
「まい朝、目がさめたらすこしずつ読んで、その日一日、あたしを助けてもらいましょう。」
 メグが読みはじめると、ジョウは片手をメグの身体にかけ、ほおをすりよせました。ほかの二人もしずかに頁をくりました。三十分ばかりして、メグはジョウといっしょに、おかあさんにプレゼントのお礼をいいに階下へかけおりていきました。
「[#「「」は底本では欠落]おくさまは、どこかの貧乏な人がおもらいにきたので、なにかいるものを見に、すぐお出かけになりました。おくさまみたいに、食物や着物や薪までおやりになる方はありませんよ。」と、ハンナが答えました。ハンナは、メグが生れてから、この家族といっしょに暮してきて、女中というよりは、友だちとしてあつかわれているのです。[#「。」は底本では「。」」]
「すぐにお帰りになると思うわ。だから、お菓子をやいて、すっかり用意しておいてね。」と、メグはかごにいれてソファの下にかくしておいたプレゼントを、いざというときに、とり出せるようにしてから、
「あら、エミイのコロン水の瓶は?」
「エミイが、リボンをかけるとかといって、もっていったわ。」と。ジョウがいいました。
「ねえ、あたしのハンケチいいでしょう。ハンナが洗ってアイロンをかけてくれたのよ。マークはあたしがつけたの。」とベスは、ぬいとりの文字をほこらしげにながめました。
「まあ、この子は、エム・マーチでなく、マザアなんてぬいとりして、おかしいね。」と、ジョウがいうと、ベスはこまったような顔をして、
「いけないの?、エム・マーチだと、姉さんもおなじだから。」
「いいのよ、それならまちがいっこないから。[#「から。」は底本では「か。ら」]きっとおかあさんの気にいるわ。」と、メグは、ジョウには顔をしかめ[#「しかめ」は底本では「しかあ」]、ベスには笑顔を見せていいました。そのとき、扉の音がしたので、ジョウは、「[#「「」は底本では欠落]そらおかあさんだ、かごを早くかくしなさいよ。」
 エミイが、いそいで入ってきました。
「どこへいっていたの? うしろに、かくしているのなあに?」
 メグは、怠け者のエミイが、朝早く外出してきたのを見てびっくりして尋ねました。
「笑っちゃいや。あたし小瓶を大瓶にかえてきたの。これでお金はないわ。もうよくばりはやめにするのよ。」
 エミイのかわいい努力に感じて、メグはさっそく彼女を抱きしめ、ジョウは窓へいき、じぶんの一ばんいいばらの花をとってきて、その瓶をかざりました。
 また扉の音がしました。かごはソファの下にかくされ、姉妹たちはテーブルにつきました。おかあさんがくると、姉妹たちは口をそろえていいました。
「クリスマス おめでとう 本をありがとうございました。もう読みはじめました。まい日読もうと思います。」
「みなさん、クリスマス、おめでとう! さっそく読みはじめてうれしく思いますよ。つづけて読むようになさいね、ところで、食事の前に一言いいたいことがあります。すぐ近くに、あかちゃんを生んだ貧乏な女の人がいます。火の気がないので、六人の子供たちが、こごえないように、一つのベッドにだき合ってねています。それに、なにも食物がないので、一ばん上の子が寒くてひもじくて、とても苦しんでいるといいにきました。みなさん、あなた方の朝御飯を、クリスマスのプレゼントにあげませんか?」
 みんなは一時間近くも待っていたので、ひどくお腹がすいていたので、ちょっとのあいだ、だまっていました。が、ジョウが勇ましくさけびました。
「食べないうちに、おかあさんが帰っていらして、ほんとによかった。」[#「」」は底本では欠落]ベスは御飯を運ぶお手伝いをしたいといい、エミイは、クリームと軽焼を持っていってあげるといいました。その二つともエミイの一ばん好きなものでした。メグは、早くもそばをつつみ、パンを大きな皿にもりました。おかあさんは、満足そうにほほえみながらいいました。
「きっと、みなさんは賛成すると思っていました。さあ、来て手伝って下さい。帰ったらパンとミルクで朝御飯をすませて、夕飯にそのうめ合せをしましょう。」
 すぐ仕度をして、みんなで出かけました。いってみておどろきました。なんと、あわれな部屋でしょう。窓はやぶれ火の気はなく、蒲団はぼろぼろでした。おかあさんは病気で、あかんぼうは泣き、青い顔のひもじい子供たちは、一枚の蒲団にくるまってかたまっていました。みんながはいっていくと、子供たちは目を大きく見はり、青ざめた唇にほほえみをうかべました。
「ああ、神さま! 天使たちがいらした!」と、そのあわれな女は、うれし泣きに泣きながらさけびました。ジョウは、
「頭をかけ手袋をはめたおかしな天使でしょう。」といって、家中の者を笑わせました。
 たちまち、この家にやさしい精霊がはたらきだしたように思われました。薪を運んできた。ハンナは火をおこし、古い帽子や、じぶんの肩かけで窓のやぶれをふさぎました。おかあさんは、母親にお茶やかゆをあたえ、あかんぼうをじぶんの子供みたいに着物を着せ、これからもお世話をしますと約束してなぐさめました。姉妹たちは、そのあいだにテーブルの支度をし、子供たちを炉のまわりにすわらせ、お腹のすいている小鳥たちを養うように食べさせました。
「ああ、おいしい、子供の天使!」と、子供たちは食べながらいって、紫色にこごえた手をあたたかい火であたためました。
 帰ってから、姉妹たちは、パンとミルクしか食べませんでしたが、それはたのしい朝御飯でした。おそらくこの市で、この少女たちより、[#「、」は底本では「。」]幸福であった人はなかったでしょう。
 おかあさんが、すこしおくれて帰って来たとき、プレゼントはもう用意され、ベスの陽気な行進曲とともに、メグがおかあさんを、ていねいに設けの席につけました。おかあさんは、ほほえみをたたえて、プレゼントについている札を読み、スリッパをすぐにはき、ハンケチにコロン水をかけて、かくしにしまい、ばらの花を胸にさし、きれいな手袋をはめました。それから、たのしい談笑とくちづけがつづき、よい思い出としてみんなの心に残ることばかりでした。
 やがて、めいめい仕事をはじめました。仕事は晩のお芝居の支度で、金をかけずにあり合せのもので、気のきいた小道具や衣装をつくるのでした。
 その晩、招かれた十人あまりの少女たちが、上等席のベッドの上にならびました。まもなくベルがなり幕があがりました。「魔の森」です。鉢植や箪笥を利用して森と洞穴をあらわしました。魔女が、洞穴の炉にかかっている鍋をのぞきこんでいると、悪漢ユーゴーが腰の剣をがちゃつかせて登場しました。ユーゴーは、ロデリゴへの憎しみと、ザラへの愛をうたい、[#「、」は底本では「。」]ロデリゴを殺してザラを手にいれたい決心をのべ、洞穴へしのびより、「おい、女、御用だぞ。」と、いってハーガーに出てくるように命じました。
 メグは、白い馬の毛を顔にたらし、赤と黒の衣をまとい、杖をもってあらわれます。ユーゴーが愛の魔薬と死の魔薬を求めると、ハーガーは、あたえることを約束し、愛の魔薬をもってくるように歌で妖精をよびました。
 すると、やわらかな音楽につれて、洞穴のかげから、きらきらした翼をつけ、金髪にばらの花冠のかわいい妖精があらわれ、愛の魔薬をいれた金色の瓶をおとして、すがたをけします。そこで、ハーガーがもう一度うたうと、ものすごいひびきとともに、真黒な小鬼があらわれ、しゃがれ声で返事をしたかと思うと、黒色の瓶をユーゴーに投げつけてすがたをけしました。すると、ハーガーは、ユーゴーに、むかしじぶんの友人を二三人殺したことがあるから、じぶんは彼の計画のじゃまをするつもりだといいます。かくて、幕はさがりました。
 第二幕の舞台はりっぱでした。城の塔が高くそびえ、窓にランプがともっていました。青と白の衣をつけてザラがあらわれ、ロデリゴが来るのを待っていると、まもなく、羽かざりのある帽子をかぶり、赤い外套を着て、ギターをもったロデリゴが来て、塔の下でやさしく小夜曲をうたいました。ザラは、城をぬけだすことを歌で答えます。そこで、ロデリゴは縄梯子をかけ、ザラはそれをつたっておりるのでした。
 ところが、とんだことが起りました。それはザラが、衣の裾の長いことを忘れ、ロデリゴの肩に手をかけておりようとしたとき、裾がからまり塔はすごい音とともに倒れ、二人はその下敷になったのです。芝居はめちゃめちゃになりそうでしたが、気をきかしたドン・ペデロがとびこんできて「笑っちゃだめ、知らん顔をしてやるのよ。」といいながら、じぶんの娘のザラをすばやくひきだし、ロデリゴにむかって立てと命じ、怒りと嘲りを浴せながら王国から追放するぞと宣告しました。ロデリゴはなにをと、その老人をののしり、立ち退くことを拒みました。その勇ましい態度に、ザラもちからを得て、父である領主にたてついたので、彼は二人を城の牢屋にほうりこむことを命じますと、家来がだまってひきたてていきました。
 第三幕は、城の広間で、魔女ハーガーが、牢屋の二人を救い出し、ユーゴーを殺そうと思ってあらわれます。魔女はユーゴーの足音を聞いてかくれます。ユーゴーは二つのコップに魔薬をつぎ、小女に、「これを牢屋にいる囚人にあたえ、わしがすぐに行くと告げよ。」と、いいつけます。家来はそばへいって、なにかを告げる間に、ハーガーは二人のコップを害のないものにかえます。小女はそれを運んでいき、ユーゴーはうたった後に魔薬のはいったほうを飲み、もだえ死にます。そこで、ハーガーは、じぶんのしたことを告げますが、その歌は、一ばんすばらしいできばえでした。
 第四幕、ロデリゴが、ザラにうらぎられたと知って、絶望して胸に短刀をつきさそうとします。そのとき部屋の下で歌がうたわれザラの心はかわらないが、今あぶない目にあっているから、ロデリゴにもし真心があるなら、ザラを救いだせると告げます。ロデリゴはよろこび、投げあたえられたかぎで扉を開け、くさりをたち切って愛人を救いに走ります。
 第五幕は、ザラと父ドン・ベデロのはげしい争いからはじまります。父はザラを尼寺へやろうとしますが、ザラは聞き入れず、[#「、」は底本では「。」]悲痛な訴えをつづけ、気絶しそうになったとき、ロデリゴがきて結婚を求め、つれていこうとします。父はロデリゴが金持でないのを理由にこばみます。そこへ、家来がハーガからの手紙と袋をもってきますが、手紙にはハーガーは、わかい二人に遺言によって莫大な財産をあたえ、もしザラの父がわかい二人を幸福を妨げるならば、その身におそろしい呪いがかかると書いてありました。そして、袋を開けると、ブリキの金貨がきらめきました。これで、頑迷な領主の心もとけ、わかき二人の結婚を許したので、一同はたのしい合唱をして、感謝のいのりのうちに、愛する二人は、ザラの父の前にひざまずき、祝福をうけるところで幕がおりました。
 嵐のような喝采がおこりましたが、上等席のベッドが、きゅうにたたまれ、大さわぎになりました。幸にけがもなく救いだされましたが、そのさわぎのおさまらないうちに、女中のハンナがあらわれ、
「おくさまが、みなさんに、夕飯に階下へ来るようにとおっしゃってです。」と、いいました。
 これは、ふいうちで、食卓を見たとき、息がとまるほどおどろきました。だって、アイスクリームが、赤と白と二皿、お菓子、果実、フランスボンボン、そして、食卓の上には、温室咲きの大きな花束がありました。
「妖精が下すったの?」と、エミイ。すると、ベスは、
「サンタ・クロースよ、きっと。」
 メグは、白いひげをはやし、白い眉毛をつけたまま、
「おかあさまだわ。」と、いいました。ジョウは、
「マーチおばさまが、すてきな思いつきで、とどけて下さったのよ。」と、いいました。
 おかあさんは、にっこり笑いながら、
「みんなちがいます。ローレンスさまが、下すったのです。」
「ローレンスの、ぼっちゃんのおじいさまですって? どうしてでしょう? わたしたちを、ごぞんじないのに。」と、メグが、おどろいていいました。
「ハンナが、ローレンスさんの家の女中さんに、今朝のことを話したのです。ローレンスさんは、それを感心なさって、ていねいな手紙で、今日のお祝いにプレゼントをしたいといって、およこしになったのです。」
「ぼっちゃんが、思いついたんだわ。いいぼっちゃんだわ。お友だちになりたいけど。」と、ジョウがいいますと、それをきっかけに、ローレンス家のうわさに花がさきました。
 ローレンスさんは、お金持だが、ちょっとかわっていて、あまりつきあいもしませんが、ぼっちゃんは、いい子で遊びにきたいらしいけど、はにかみ屋だもので、遊びに来れないらしいというようなことが話されました。すると、おかあさんは、
「ぼっちゃんは、りっぱな紳士のようです。いい折があったらお友だちになるといいと思います。この花は、じぶんで持っていらっしゃいました。二階のさわぎを耳にして、さびしそうに帰られたのです。」
「では、いつか、ぼっちゃんが見てもいいお芝居をしましょう。」と、ジョウがいいました。
「あたし花束なんか、もらったことないわ。きれいねえ。」と、メグは花束に見入っていました。そのとき、おかあさんが、
「花束はかわいいけれど、ベスさんのばらはなおかわいい。」と、いって、胸にさしたベスのしぼみかけたばらをかぎながらいいますと、ベスはおかあさんに身をすりよせて、
「あたし花束をおとうさんのところへお送りしたかったの、おとうさんは、あたしたちみたいに、たのしいクリスマスをしてはいらっしゃらないでしょう。」と、小さい声でいいました。

          第三 ローレンスのぼっちゃん

「ジョウ、どこ!」と、メグが屋根部屋の梯子の下からよびました。
「ここよ。」
 かけあがっていくと、ジョウは日なたぼっこをして林檎をかじりながら本を読んでいました。
「とても、いいニュース。明日の晩、来てほしいという、ガーデイナアのおくさんの正式招待状よ。」と、メグはその手紙を嬉しそうに読みました。
「大晦日の晩に、小宅で舞踏会を催します。ミス・マーチ、ミス・ジョセフィン、お二人とも御光栄下されたく存じます。ガーデイナア夫人――おかあさんはいってもいいって。だけど、あたしなにを着ていこうかしら?」
「そんなこと、きいたってだめよ。ポプリンの服しかないんだから、あれを着ていくほかないの知ってるくせに。」と、ジョウは、林檎を口いっぱいほおばっていいました。
 さあ、それから、メグは、絹の服があればいいとか、手袋のいいのがないとか、くよくよと、こだわってばかりいましたが、ジョウは服に焼けこがしがあるけど、平気が着ていくし、手袋なしですますつもりでした。ジョウにとっては、そんなことたいして心わずらすことではありませんでした。
「あたしのことは心配しないでいいわ。できるだけ、おすましして、しくじらないように気をつけるわ。それでは返事を出しなさいよ。」
 そこで、メグは、服の用意にとりかかるために出ていき、ジョウは、なおしばらく林檎を[#「林檎を」は底本では「林檎をを」]かじって本を読んでいきました。
 大晦日の晩は、客間はからっぽでした。二人の妹は、着付役にまわり、二人の姉は、夜会のお仕度という、きわめて重要なお仕事に夢中でした。化粧はかんたんでも、二階へかけあがったり、かけおりたり、笑ったりしゃべったり大さわぎで、メグが額の上にすこし捲髪がほしかったので、ジョウがこてで焼いたら、つよい髪の焼けるにおいが家中にただよいました。その失敗に、メグは泣きだすしジョウは心苦しそうでした。このほか、小さい失敗は、かず知れず、それでもやっと二人の仕度はできあがりました。メグは、銀褐色の服、空色ビロウドの、リボンに、レースのふち飾り、そして、真珠のピンをさしました。ジョウは、海老茶色の服に、かたい、男のするようなカラア、それに白菊を飾りにしただけでしたが、ともかく、二人ともすっきりとしていました。二人とも、きれいな手袋を片方ずつはめ、よごれた方をもちました。苦心のお仕度でありました。
 姉妹が、すまして歩道へ出ると、おかあさんは、
「いってらっしゃい、お夜食はたくさん食べちゃいけませんよ。ハンナを十一時に、お迎えにあげるから、帰っていらっしゃい。」と、いって、窓をしめましたが、すぐに、また、
「もしもし、二人ともきれいなハンカチもっていますか?」と、念をおしました。
「ええ、まっ白よ、ねえさんはコロン水もかけました。」と、ジョウは答えました。
 二人は、カーデナア夫人の家にいくと、その化粧室で、かなり長いあいだ鏡をのぞいてから、すこしびくびくしながら、階下におりていきました。二人は、めったに舞踏会などに招待されたことがないので、今晩の会は略式でも、二人にとっては大きな事件でした。
 りっぱな老夫人カーデイナア夫人は、にこやかに二人を迎えてくれ、六人の娘のなかの長女に二人を渡しました。メグはサーリーさんを知っていたので、すぐに親しく話し出しましたが、女の子らしいおしゃべりに興味をもたないジョウは、服に焼けこがしがあるので、用心ぶかく壁をせにして立っていました。部屋のむこうで、快活な五六人の男の子が、スケートの話をしていたので、ジョウはそこへいってもいいかと、メグに合図をしましたが、メグの眉がおどろくほどあがったので、動くことができませんでした。しかたなしに、ジョウは、ただ一人とりのこされ、ダンスがはじまるまで、人々をながめているばかりでした。
 ダンスがはじまると、メグはすぐに相手ができて、にこにこして踊りましたが、きゅうくつな靴の痛さをがまんしていることは、だれにも気がつかれませんでした。ジョウは、髪の毛の赤い青年がやってくるのを見て、ダンスを申込まれては大へんだと思い、いそいでカーテンのかげに入ると、そこには、はにかみ屋さんの「ローレンスのぼっちゃん」がいました。ジョウは、さっそく、クリスマスのプレゼントのお礼をいいますと、
「あれは、おじいさんのプレゼントです。」
「でも、おじいさんにおっしゃったのは、あなたでしょう?」
 ぼっちゃんは笑っていました。それから、いろいろ話しているうちに、ジョウは、このぼっちゃんが、ローリイという名で、長いあいだ、外国にいたことを知りました。
「まあ、外国へ、あたしは旅行の話を聞くのは大好き!」
 ローリイは、どう話したらいいかわからないようでしたが、ジョウが熱心にいろいろ質問したのでエヴェの学校のことや、この前の冬、パリイにいた話をしました。ジョウは、めずらしい外国の話にたまらなくなって、
「ああ、いってみたい!」と、いいました。
 それから、話はフランス語のことになり、ジョウが、じぶんは読めてもしゃべれないだけれど、ちょっと話してみてほしいといいますと、ローリイは、フランス語でいいました。
「あのかわいいスリッパはいた人はだれですか?」
 ジョウは、わかったので、すぐに答えました。
「あれは姉のマーガレットです。あなたは、わたしのねえさんをかわいいと思いますか?」
「ええ、おねえさんは、なんとなくドイツの少女を思わせます。いきいきして、それでしとやかで、りっぱな淑女みたいに踊りますね。」
 ジョウは、姉をほめられてうれしく、ぜひメグに話してやろうと思いました。ローリイは、もうすっかりはにかみもせず、心を開いて話し、ジョウも、今は服のことなど忘れて、快活ないつものジョウになり、ローリイが好きになりました。それで、ローリイのことを、姉妹に話してやるために、顔かたちや身体つきなどをよく憶えておこうと思っていくども見なおしました。けれど、年はいくつでしょう? ジョウは、おいくつといいそうにしましたが、やっとこらえて、遠まわしに尋ねることにしました。
「もうじき大学へいらっしゃるんでしょう?」
「まだ二三年はだめです。十七にならなくてはいけません。」
「では、まだ十五ですか?」
「来月、十六です。」
「あたしは大学へいきたいけれど、あなたはいきたそうではありませんのね。」
「ぼくはいやです。ぼくはイタリイに住んでじぶんの好きなように暮したい。」
 ジョウは、ローリイのいう、その好きなように暮したいということを、くわしく聞きたいと思いましたが、眉をひそめてふきげんに見えたので、気をかえさせようと思って、足拍子をとりながら、
「ああ、いいポルカね。あなたなぜいってダンスなさらないの?」と、尋ねました。
「あなたもいけば。」
「あたしはだめ。あたし姉さんに踊らないといったの、なぜって、いうと……」
 ジョウが、いおうか、笑ってすまそうかとしていると、ローリイは、しきりにわけを尋ねます。だれにもいわないならばと念をおして、
「服にやけこがしがあるんです。あたしわるいくせがあって、よくやけこがしするの。」
 ローリイは笑いませんでした。
「そんなこと平気ですよ。それじゃ、あっちの細長い広間で踊りましょう。だれにも見られないから。」
 ジョウは感謝して、よろこんでついていき、だれもいない、その広間で、ポルカを踊りました。ローリイは、ダンスがじょうずで、ドイツ流を教えてくれたが、まわったりはねたりすることが多いのでおもしろく踊れました。音楽がやむと、二人は階段にやすんで話しましたが、つぎの部屋でメグが手まねきしたので、ジョウがしぶしぶいってみると、メグは足をかかえ、青い顔をしてソファにすわっていました。
「高いかかとがひっくりかえって、くるぶしをひどくいためたの。痛くて立てそうもないわ。どうやって家へ帰ろうかしら?」
 ジョウは姉のくるぶしをそっとなでてやりながら、
「あんまりかかとが高いから、けがすると思ったわ。お気のどくね。だけど、どうしたらいいでしょう。馬車を頼むか、ここに夜通しいるか。」と、こまった顔をしました。
「馬車を頼めば高いし、頼みにいってもらう人もいないし、ここへはとめてもらえないし、あたしハンナが来たら、なんとか考えるわ。あら、みんな夜食にいくわ。あなたもいって、あたしにコーヒーもらって来てよ。あたし疲れて動けないわ。」
 ジョウは、いそいでいきましたが、あちこち部屋をまちがえて、やっと食堂にはいり、コーヒー茶わんに手をかけたとたん、こぼして服の前をよごしてしまいました。それを、あわてて手袋でこすったので、手袋もよごしてしまいました。
「お手伝いしましょう。」
 親しみのある声がしました。それは片手にコーヒー茶わん、片手にアイスクリームの皿をもったローリイでした。
「あたしねえさんのところへ、コーヒーをもっていこうとしましたら、また、やりそこないましたの。」
「ちょうどいい。わたし[#「わたし」は底本では「たわし」]がもっていってあげましょう。」
 ジョウがさきにいきました。ローリイは、なれたものごしで、コーヒーとアイスクリームを、メグにすすめ、ジョウのために、もう一度とりにいってくれました。三人が、しばらく話しているうちにハンナが来ました。メグはびっこをひきひき帰り支度をしに二階へいきました。そのあいだに、ジョウは玄関へいって、下男らしい人に、馬車をやとうことを頼みましたが、その人はその日だけやとわれた下男で、近所のことは知りませんでした。すると、ローリイが聞きつけて来ていいました。
「どうか送らせて下さい。道はおなじですし、それに雨もふっています。」
 ローリイは、じぶんを迎えに来たおじいさんの馬車に、メグとジョウとハンナをのせました。みんなは、ぜいだくな箱馬車にのって、たのしい、ゆたかな気持にひたりながら帰りました。ローリイは馭者台にのったので、メグは痛い足を前に出すことができ、姉妹は気がねなしに話をすることができました。
「あたし、とてもおもしろかったわ。」と、ジョウは髪をかきあげながらいいました。
「あたしもよ、けがするまでは、サーリイさんのお友だちの、マフォットさんという方と仲よしになったのよ。サーリイさんと一週間とまりがけで来るようにといって下すったわ。サーリイさんは、春になってオペラがはじまるといらっしゃるんですって。あたしおかあさんがいかして下さるといいけど。」
 メグは元気づきながらいいました。
「おねえさんは、あたしがにげ出したあの赤い髪の人と踊ったのね、あの人、いい人だった?」
「ええ、髪はとび色よ。ていねいな方で、あたし気持よく踊ったわ。」
「あの人、足を出すとき、ひきつった、きりぎりすみたいだったわ。ローリイさんとあたし笑ってしまったわ。あたしたちの笑うの聞えなかった?」
「いいえ、それやぶしつけだわ。あなたたち、そこにかくれて、なにしてたの?」
 ジョウは、そこでじぶんたちのやったことを話しました。その話がおわったとき、馬車は家へつきました。姉妹は、あつくお礼をのべて馬車をおり、そっと家へはいりましたが、扉の音で二つの小さな頭がうごき、ねむそうな、けれど熱心な[#「熱心な」は底本では「熱心が」]声がしました。
「ねえ、会の話をしてよ?」
 ジョウは、メグのいう、ひどいお作法をやって、妹たちにボンボンをもってきてやりました。妹たちはそれをもらい、その夜の胸のわくわくするような話を聞いて、まもなく寝入ってしまいました。メグは、ジョウは、薬をぬってほうたいをしてもらいながら、
「馬車で夜会から帰り、ねま着のまますわって、女中に世話してもらって、りっぱな貴婦人みたいだわ。」と、いいました。
「あたしたちは、髪の毛をやいたり、服が古かったり、手袋が片方だけだったり、きつい靴をはいてくるぶしをくじいたり、とんまのまぬけだけどね[#「だけどね」は底本では「だけねど」]、たのしかったわねえ。」と、ジョウがいいましたがほんとにそのとおりだったのです。

          第四 重い荷をかついで

「やれやれ、またお荷物かついで仕事をはじめるの、なんてつらいんでしょう。」
 会のあくる朝、メグはため息をつきました。一週間たのしく遊んだあとで、いやな仕事はやすやすはじめられませんでした。
「いつまでも、クリスマスかお正月だといい。そうしたらおもしろいでしょうね。」と、ジョウは、あくびまじりに答えました。
「そしたら、今よりか半分もおもしろかないわ。だけど、お夜食や花束をいただいたり、会へいったり、馬車で帰ったり、読書したり、休養したりして、こつこつはたらかない[#「はたらかない」は底本では「はたちかない」]ですむような人、うらやましいわ。」と、メグがいいました。
「でも、そんなことできないわ。だから、ぐちをこぼさないで、おかあさんみたいに、ほがらかに[#「みたいに、ほがらかに」は底本では「みたいにほ、がらかに」]歩いていきましょう。」
 けれど、メグの心は晴れません。髪をきれいにする元気すらありません。
「ああ、いやだ。せっせとはたらいて、年をとって、きたない気むずかし屋になるんだわ。貧乏でおもしろく暮せないばっかりに。」
 こういってメグは、ふくれた顔をして階下へいき朝の食事のときもふきげんでした。みんなも気分がひきたちませんでした。ベスは頭痛がするので、ソファの上に横になり、親ねこと三びきの子ねこを相手に気をまぎらそうとしました。エミイは勉強がはかどらないのに[#「はかどらないのに」は底本では「はがどらないのに」]、ゴム靴が見つからないのでぷりぷりしました。ジョウは口笛をふいて、さわぎをひきおこしかねないようすでした。おかあさんは、いそぎの手紙を書くのにいそがしく、ハンナも前の晩おそかったので、ふきげんでした。
「こんないじわるの家ってありやしない!」
 ジョウは、インキのつぼをひっくり返し、靴のひもを二本とも切ったので、とうとうかんしゃくを起して、じぶんの帽子の上にどさりとすわり、大声でそうさけびました。
「なかで、あなたが一ばんいじわるよ。」と、エミイがやり返し、石盤の上にこぼした涙で、まちがいだらけの計算を消してしまいました。[#「。」は底本では「。」」]
「ベス、こんなうるさいねこ。あなぐらにほうりこんでおかないと。水でおぼれさせれしまうわよ。」と、メグは、じぶんのせなかにかじりついたねこを、はなそうとしながらいいました。
 ジョウは笑う。メグはしかる。ベスはあやまる。エミイは、十二の九倍がいくつになるか、わからなくて泣きました。
「さあ、しずかにしておくれ、今朝早く出さなければならないのに、がやがやうるさくして、書けやしません。」と、おかあさんは手紙の書きそこないを消しながらいいました。
 それで、ちょっと静まりました。ハンナが来て、熱いパイを二つおいて、出ていきました。姉妹たちのいく道は遠く寒く、三時前までに帰れないので、これはおべんとうでもあり、また、手をあたためることもできました。それでこのパイのこと「マフ」ともよんでいました。
「では、かあさんいってまいります。今朝はあたしたちだだっ子でした。でも、天使になって帰って来ます。」
 ジョウは、そういって、メグといっしょに出かけました。町角でふりかえると、いつも窓でにっこり笑うおかあさんの顔があり、それが励ましになるのでした。二人は今朝もふりかえり、おかあさんの笑顔を見ると、元気になろうとつとめ、しばらく歩いてから、べつべつの道をいきました。メグは保姆の仕事、ジョウはマーチおばさんのところへはたらきにいくのでした。
 おとうさんが、不幸な友人を救おうとして財産を失くしたとき、二人はすこしでも家のためになりたくてはたらき、それからずっとはたらいているのです。メグの給料はわずかで、しかもまい日キング家で、年上の姉妹たちが、ぜいたくをしているのを見るので、だれよりも貧乏をつらがっていました。ジョウはびっこのマーチおばさんの世話をしますが、気みじかのおばさんと、よく気が合いました。それに、死んだおじさんの文庫がすばらしく、おばさんが昼寝をしたり、来客でいそがしいときさっそく文庫にはいりこんで、詩、歴史、旅行記だのに読みふけりました。それはいいとしても、思うさまかけまわったり、馬にのったりできないのは、なやみの種でした。
 ベスは、はにかみ屋で、学校へもいけないほどでした。それでおとうさんが勉強を見ていましたが出征しなすってからはおかあさん、かあさんが軍人後援会へいくようになってからは、ひとりで勉強します。性質は勤勉で家事が好きで、ハンナを助けて家をきれいにしますが、まだ子供で、人形と遊ぶことが、なによりのたのしみでした。けれど、このベスにも、苦になることがありました。それは、音楽好きなのに、よいピアノもないし、音譜もないことで、音楽の勉強が思うようにできないので、涙をながすことがときどきありました。
 エミイのつらいことには、鼻が美しくないことで、エミイにいわせると、あかんぼのとき、ジョウが手をすべらして炭取のなかへ落したためだそうです。エミイは絵がじょうずで、花を写生したり、空想的な絵もかきます。それに十あまりの曲もひくし、フランス語も読めるし、性質は素直でおとなしいので、みんなからかわいがられました。
 さて、晩に、みんながいっしょにお裁縫をはじめたとき、メグがいいました。
「今日はほんとにくさくさした日だったわ。なにかおもしろい話でもない?」
 すると、ジョウがすぐにいいました。
「あたし、今日はへんなことあったのよ。マーチおばさんがいねむりをはじめたので、おばさんが読め読めという、つまらない、ベルシャムを読みかかったら、こっちもねむくなり、大きなあくびをしたの。そうしたら、おばさんは、罪ということについて、ながながとお説教をやりだし、お説教がすむと、よく考えなさいといって、またいねむりよ。そこでわたしは、「村牧師」を出して読みだしたのよ。そしたら、水のなかへころげこむところで、つい大声をあげて笑ったの。すると、おばさんが目をさまして、それを読んで聞かせなさいとおっしゃるの。私は読んであげた。おもしろかったのね。だから、お昼すぎに、あたしが手袋をとりにいったら。おばさんは、じぶんで「村牧師」を熱心に読んでるのよ。ね。やっぱりベルシャムなんかよりおもしろいのよ。おばさんみたいな金持だって貧乏人とおなじような心配があるんだわ。だから、「村牧師」にひきつけられるのだわ。」
 すると、メグがいいました。
「それで、あたしも話すこと思いついたわ。今日キングさんのところへいったら、なんだかへんなの。[#「。」は底本では欠落]それで、あたし一人の子に尋ねたら、一ばん上の兄さんがなにか大へんなことをして、おとうさんから家をおいだされたんですって。泣き声、どなり声がして大へんだったわ。家のはじになるような、らんぼうな男の兄弟がいなくてよかったわねえ。」
 すると、エミイがいいました。
「今日、スージーさんは、先生の漫画を書いたので、三十分も教壇にたたされたの。あたしスージーさんが、きれいな、めのうの指輪をはめて学校へ来たので、うらやましく思っていたけれど、あんなはずかしい目にあうようじゃ、いい指輪はめたってしあわせじゃないわ。」
 つぎに、ベスが話しました。
「今朝あたしハンナにかわって、魚屋へかきを買いにいったの。すると、貧乏そうな女の人が来て、仕事がなくて子供に食べさせるものがないから、みがきものでもさせて、お魚をすこし下さいと頼んだの。すると、魚屋さんいそがしいもので、つっけんどんに、だめよといったの。すると、そのときローレンスさんがしおれて帰っていく女に、大きな魚をステッキでひっかけてあげたの。女は、びっくりして、よろこんで、なんどもお礼をいって、ローレンスさんに天国へいけるようにって祈ったの。」
 みんなはベスの話を笑いましたが、もちろん心をうたれました。そして、おかあさんにお話をねだりました。
「そうね、おかあさんは、会で青いネルを裁っていたら、おとうさんのことが、みょうに心配になって、もしものことがあったら、どんなに頼りなく、さびしいだろうと思っていました。すると、なにか註文をもっておじいさんが、心配そうな、疲れたようすでやって来ました。身の上を尋ねてみたら四人息子が戦争に出ていて、二人は戦死をし、一人はとりこになり、一人はワシントン病院にいるんですって。そして、これからそこへいくんですって。けれど、すこしもぐちをこぼさないで、よろこんでお国のために、子供たちを出したというのです。おかあさんは、たった一人おとうさんを出してつらがっています。はずかしくなりました。そればかりか、おじいさんは、たった一人ぼっちですがおかあさんには四人も娘がいて、なぐさめてくれます。ほんとに、おかあさんは、じぶんの恵みふかい幸福がありがたかったので、おじいさんに、つつみとお金をあげ、教えていただいた教訓に、心からのお礼をいいました。」
 みんなは、この話にも心をうたれました。ジョウは、もう一つ、今のようないい話をと望みました。おかあさんは、にっこり笑って、すぐに話しはじめました。
「むかし、食べたり着たり、なに不足のない四人の娘がありました。たのしみも、よろこびもありあまり、親切なお友達や両親があって、愛されていたのに、娘たちは満足しませんでした。(ここで聞き手たちは、こっそり見かわして、お裁縫に精を出しました)娘たちはよくなろうと決心するのですが、やりとげることができないで、これがあったらとか、あれができたらとかと、考えました。それで、あるおばあさんに、幸福にしてくれるまじないがあれば教えて下さいといいましたら、あなたがたが満足に思うとき、恵みということを考えて感謝なさいといいました。(ここでジョウは、なにかいいたそうでしたが、話がおわらないのでいうのをやめました)それで、りこうな娘たちが、その言葉を試してみますと、じぶんたちがいかによい暮しをしているかわかってびっくりしました。一人は、お金持でも家のはじと悲しみは救えないということがわかりました。一人は、貧乏でも、若くて元気なら、じぶんのたのしみもたのしめない、気むずかしいおばあさんより、ずっと幸福ということがわかりました。一人は食事の仕事はいやだけど、食物をもらって歩くのは、つらいということがわかりました。
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