神曲
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著者名:ダンテアリギエリ 

【シヴィリア】イスパニアの西南にある町(地、二〇・一二四―六註參照)
【セッタ】セウタ、ジブラルタルの海峽に面するアフリカの一市
一一二―一二〇
【日を追ひ】日の行方を追うて西に進み
【人なき】南半球はみな水に蔽はれて人の住むべきところなしとの古の話によりてかくいへり
我等既に年老いて餘命いくばくもなければ五官の未だ死の眠りにいらざる間に南半球をさぐるべし
【起原】人間の世にいでし
一二四―一二六
かくて船尾を東にし櫂の翼を驅りて不知の大海に漂ひたえず西南(地球面よりみて東南)の航路を取れり
一三〇―一三二
我等大海に浮びしこの方五ヶ月にして
【月下の光】月の地球にむかへる半面の光
一三三―一三五
【山】淨火の山、イエルサレムの反對面にあり
一三九―一四一
【天意】神は生ける者の足淨火の陸を踏むを許したまはざるなり(淨、一・一三〇―三二參照)


    第二十七曲

ウリッセ(オデュセウス)等去りて後グイード・ダ・モンテフェルトロの魂同じく焔に包まれて來りローマニアの現状をダンテに問ひ己が地獄にくだるにいたれる顛末を告ぐ
一―三
【許し】二一行
七―九
【シチーリアの牡牛】アテナイの工匠ペリルロスがシケリア島アグリゲントウムの暴君ファラリスの爲に造れる銅製の牡牛なり、人をこの中に入れて燒けば外に洩るゝ呻吟の聲恰も牛の鳴くに似たり、しかしてその最初の犧牲となれる者乃ちペリルロスなりきといふ
【好し】詩篇五七・六に曰、彼等はわが前に※[#「こざとへん+井」、292-20]をほれりしかしてみづからその中に陷れりと(箴言二六・二七、傳道之書一〇・八等參照)
一三―一五
【はじめは火に】異本、火の尖に
【火のことば】焔の風にゆらめく音(地、二六・八六―七參照)
一六―一八
【舌】グイードの詞はその口を過ぐる時舌よりうけし動搖を炎の尖に傳へ
一九―二二
【ロムバルディアの語】ウェルギリウスの本國の語(地、一・六八參照)
【いざゆけ】ウェルギリウスのオデュセウスにいへる言をくりかへせるなり
ウェルギリウスの首をロムバルディア(地、二八・七三―五註參照)方言といへるについては諸説あり、(一)issa(異本、istra)と adizzo とをこの地方特有の語となすもの(二)前者のみを然りとなすもの(三)言の形にあらず單に發音の相違をいへりとなすもの等これなり
二五―二七
【ラチオの國】ラティウム。イタリア(地、二二・六四―九註參照)
【盲の世】地、四・一三參照、グイードはウェルギリウスを前をうけんためにくだれる罪人なりとおもへるなり
二八―三〇
【ローマニア人】當時のローマニアは東にアドリアティコ海西にボローニア市南にアペンニノ山脈北にポー河を境とせるイタリア東北一帶の地を指す、ラヴェンナ、チェルヴィア、フォルリ、リミニ等の諸市皆この中にあり
【我は】グイード・ダ・モンテフェルトロ、ローマニアなるギベルリニ黨の首領にて當時武勇第一と稱せらる、その生地モンテフェルトロはウルビーノ市とティーヴェレ河の水源地なるコロナーロ山(アペンニノ連峰中の一高山)の間にあり
三四―三六
【下にかくるゝ】橋の下火の中に
三七―三九
【汝の】汝の郷國
【去るにあたりて】一三〇〇年には公けの戰ひなくたゞ例によりて權門勢家互に嫉視反目せり
四〇―四二
【ラヴェンナ】一二七〇年ポレンタ家の手に歸してより一四四一年までその治下にあり
【鷲】ポレンタ家の紋はラーナの説によれば黄地に朱の鷲なり
一三〇〇年にはグイード・ダ・ポレンタ即ち老グイードとて、第五曲にうたはれしフランチェスカの父なりし者ラヴェンナを治めたり
【チェルヴィア】ラヴェンナの南約十二哩アドリアティコ海濱の町にて當時ポレンタ家の治下に屬せり
四三―四五
【邑】フォルリ、一二八一年法王マルチーノ四世多くのフランス人にイタリアのグエルフィ黨を加へし一軍をローマニアに遣はしこの地方のギベルリニ黨を攻めしを、この軍久しくフォルリを圍みしかども城善くその難に耐へ城主グイード・モンテフェルトロ兵を集めて市外に突進し大に敵軍を敗れり
當時フォルリを治めしオルデラッフィ家の紋は上半金地に緑の獅子(ベンヴェヌーチ Benvenut の説による)あるものなりしかばフォルリを緑の足の下にありといへるなり
四六―四八
【ヴェルルッキオの猛犬】マラテスタ家、ヴェルルッキオはリミニの西南約十哩にある城の名、この城久しくマラテスタ家の所有たり、古き犬は第五曲の中なるパオロ及びその兄ジャンチオットの父にてマラテスタ・ダ・ヴェルルッキオといひ新しき犬はその長子乃ち前二者の異母兄にてマラテスティーノといふ、父子共に獰猛リミニ及び其他の領地に君となりて民の膏血を絞れり
【モンターニア】リミニ市ギベルリニ黨の首領なるモンターニア・デ・パルチターティ、一二九五年マラテスタ父子のために虜はれて獄中に死しリミニ市彼等の手に落つ
四九―五一
【白巣の小獅子】マギナルド・パガーニ・ダ・スシナーナ(淨、一四・一八―二〇參照)家紋白地に青の獅子を用ゐたり
【夏より冬に】四季のたえず變遷する如くマギナルドの時宜に應じて黨與を變ぜるをいへり、史家ヴィルラーニ曰、この者ローマニアにてはギペルリニ黨に屬しフィレンツェにてはグエルフィ黨に屬せりと
【ラーモネ】川の名によりて町を示す、即ちラーモネ河畔のファーエンヅァ
【サンテルノ】同上、サンテルノ河に近きイモラ
五二―五四
【洗はるゝもの】チェゼナ、サーヴィオ河畔にある町、一三〇〇年チェゼナ自治制を布き年々ポデスタを選びて政務をとらしめこの者政權を亂用し市民を虐ぐる恐れあるにいたれば直ちにこれを追へり
五五―五七
【人】地獄内なる他の罪人、或曰、ダンテ自身よくグイードの問に答へしをいふと
六一―六三
【この焔は】我は何事をも其人に語るまじ
六四―六六
地獄に苛責を受くる者多くは、詩人の傳言によりて在世知友の間に新しき記憶を呼起さんことを願へり、チヤッコ(地、六・八九)ピエール・デルラ・ヴィーニア(地、二二・五五―六)みたりのフィレンツェ人(地、一六・八五)等これなり、しかるにこれに反し一方には生者にあふを恥辱としつとめてその罪業を掩はんとするものあり、カッチァニミーコ(地、一八・四六)この曲のグイード、コチートのボッカ(地、三二・一〇〇―一〇三)等これなり
六七―七二
【帶紐僧】聖フランチェスコ派の僧。身に紐を帶ぶるを以てこの名あり(九一―三行註參照)、グイードが結縁の身となりしは一二九六年のことなり
【大いなる僧】法王ボニファキウス八世
七三―七五
わが世に住みし間の行は猛者の行といはんよりはむしろ奸智に長けし者の行なりき
七九―八一
ダンテの『コンヴィヴィオ』四、二八・一四以下に曰く
クリオがその『老年論』にいへる如く自然の死は長き航海の後なる港また休みともいひつべし、されば良き舟人の港に近づくにあたり其帆をおるしてゆるやかに船を操りしづかにそこに入る如く、人また地上の活動の帆ををさめその志を盡し心を盡して神に歸るべきなり
八五―八七
【ファリセイびとの王】法王ボニファキウス八世、即ち當時の僧侶(僞善者)の王なり、僞善者を第二のパリサイ(ファリセイ)人といへるは聖書によれり(マタイ、二三・一三等)
【ラテラーノ】ローマ市の一部、コロンナ家はラテラーノなる聖ジョヴァンニの寺院近き處にありしなり
一二九七年法王ボニファキウス八世軍を起してコロンナ家を攻め遂にペネストリーノ(ローマを距る約二十四哩)にあるその本城を圍むにいたれり、されどこの城はアペンニノ連峰の裾にあり要害堅固にして容易に落つべくもあらざりければ法王やがてグイードの智を借り奸計を用ゐてこれを奪へり
【サラチーノ(サラセン)人、ジュデーア人】法の爲、教の爲、異教徒と戰へるにあらず
八八―九〇
その一人だに教に背きキリスト教徒たる實を失ひしはなし
【アークリ】シリアの一市、パレスチナなるキリスト教徒最後の苦戰その效なく、一二九一年、サラセン人の手に歸せり
【ソルダーノの地】ソルダン。アークリ陷落の後法王令旨を下し一般キリスト教徒のイスラム教徒と貿易を行ふことを禁ぜり、ソルダンの地は主にアレクサンドレア及びエヂプトを指す
九一―九三
【瘠する】戒めと斷食によりて身瘠するなり
【紐】天、一一・八七に卑しき紐といひ同一二・一三二に紐に上りて神の友となりとあり、身を卑しうして貧しき者と親しみ慾を戒めて上帝と親しむの意を寓せるなり
九四―九九
【コスタンティーン】コンスタンティヌス。當時の傳説に曰、コンスタンティヌスはキリスト教徒を迫害せるため冥罰によりて癩を病めり時に一醫の言を進むるあり曰ふ小兒を集めその血を絞り大帝自らこれに浴せば病即ち癒えんと、無辜の兒童等宮廷に集めらるゝに及び母の號泣する聲大帝の耳に入る大帝小兒を殺すにしのびずこれを殺さんよりは我むしろ死を待つべしといふ、この憐憫の情上帝の嘉納し給ふところとなりペテロ、パウロの兩聖徒夜帝にあらはれてシルヴェステル(地、一九・一一五―七註參照)を訪ふべしと告ぐ、この頃シルヴェステルは迫害を避けてシラッティといふローマ附近の山中にひそみゐたりければ大帝即ちこゝに赴き洗禮をうけてキリスト教徒となり癩病全く癒えたり、かの有名なる大帝供物の一條(地、一九・一一五―七)もまたこの事に基づきてなりと
【傲の熱を】コロンナ一家を倒してひとり勝を誇らんとの熱望を達せんとて
一〇〇―一〇二
【ペネストリーノ】八五―七行註參照
一〇三―一〇五
【鑰】天國の(地、一九・九二參照)
【我よりさきに】ケレスティヌス五世、位を退けるを鑰を尊まずといへり(地、三・五八―六〇註參照)
一〇六―一一一
【長く約し】ペネストリーノをわが物とする策は他にあらず、多くの事を約束してしかもその約束を果さざるにあり
ペネストリーノの城危機に瀕し和を乞ふにいたれる時(一二九八年)法王より寛典の沙汰ありければコロンナ家の出なる二人のカルディナレ、法王の許にいたれるに法王はたゞに破門の取消ををせるのみならず彼等の名譽地位財産をももとのまゝならしむる意あることを告げ彼等をこゝに止めおき之と同時に人を遣はしてペネストリーノを占領せしめ盡くこの市を破壞したり
一一二―一一四
【黒きケルビーニ】鬼(地、二三・一三一)、當時色黒き人の形を畫きて鬼となせるより黒きといふ、またケルビーニは九種の天使の一なり、各種の天使天を逐はれて地獄にくだれり
一一八―一二〇
【悔いと願ひ】罪を悔ゆる心と罪を犯さんとの意志とは兩立せず
一二四―一二六
【ミノス】ミノスの八度尾を捲くは罪人の第八の地獄に落つべきものなるを示す(地、五・四以下)
一二七―一二九
【盜む火】罪人をつゝみかくす火乃ち第八嚢(地、二六・四一―二參照)
【衣】炎の
一三三―一三六
【分離を】不和軋轢の種を蒔きそのため罪の重荷を負ふにいたれる者こゝに應分の罰を受く


    第二十八曲

詩人等やがて第九嚢にいたれば鬼に斬られし多くの罪人あり即ち宗教政治の上に不和分爭の種を蒔ける者なり、このうちマホメット、ピエール・ダ・メディチーナ、モスカ、ベルトラムの四人ダンテとかたりて己と侶との事を告ぐ
一―三
【紲なき者】平仄押韻の制限なき者乃ち散文
七―一二
【プーリア】イタリアのナポリの王國を指す
【トロイア人】アエネアスと共にイタリアに來れるトロイア亡命の勇士等。古代ローマの東南に居住せるサンニタ人とローマ人との間に屡□戰ひ起り(前三四三―二九〇年)サンニタ人遂に征服せらる
異本、ローマ人とありされどダンテはトロイア人をローマ人の意に用ゐしものなればその實同じ
【リヴィオ】ティトゥス・リウィウス、有名なるローマの歴史家(前五九―一六年)、『ローマ史』の著あり
【長き戰ひ】第二のポエニ戰爭(前二一八―二〇一年)とてカルタゴ人とローマ人の間に起れる戰ひなり、この戰ひの中カルタゴの驍將ハンニバル、プーリアのカンナエといふところにて大いにローマの軍を敗ることあり(前二一六年)戰ひ終りて後敵の死者の指より黄金の指輪を集めしに數俵の多きにいたれりといふ(リウィウスの『ローマ史』二三・一二及びダンテの『コンヴィヴィオ』四、五・一六四以下參照)
一三―一八
【ロベルト・グイスカールド】ロベール・ギスカール(天、一八・四八)、ノルマンディの勇將にてプーリア及びカーラブリアに君たり、十一世紀の後半サラセン人並びにギリシア人此等の地をロベールの手より奪はんとして軍敗れ南部イタリアを逐はる
【チェペラン】チェペラーノ。リリス河畔にある町の名、ローマよりナポリ王國に入る通路として重要の地なり、一二六六年シヤルル・ダンジュウ(カルロ・ダンジオ)、ナポリ王國を攻めし時チェペラーノの橋を守れるプーリアの貴族等私怨を懷いてその王マンフレディに背き、橋を敵の過ぐるに任し遂にベネヴェントの激戰となりマンフレディ戰場の露と消ゆ、註釋者多くはダンテのチェペラーノは乃ち間接にベネヴェントの戰ひを指せるものなるべしといふ
【ターリアコッツォ】アブルッツォ國の一城市(ローマの東)
【アーラルド】エラール・ド・ヴァレリ。フランス軍の將なり、マンフレディ殪れシャルル一世既にプーリアに王たるにいたりしも、マンフレディの甥コルラディーノ(コンラッド)なほ干戈を用ゐてこれに當りしかばシャルルはその軍師老エーラルの謀に從ひ軍を三手に分け、まづ二手をもてコルラディーノを迎へしむ、かくて一二六八年ターリアコッツォのあたりに激戰あり敵軍勝に乘じて戰場に散亂す、シヤルルこの機をうかゞひ軍を收めてこれを殘しおきし一手の兵と合し不意に敵を襲ひ大いにこれを敗りコルラディーノを虜にす、ベネヴェントの戰ひと共に世これを稱してアンジュウの亂といふ
二二―二四
【中板、端板】mezzul は樽の底三枚の板のうち中央にある物 lulla は同じく兩端にある物
三一―三三
【マオメット】マホメット。イスラム教の教祖、紀元五六〇年アラビアのメッカに生れ同六三三年メヂナに死す、ダンテは宗教の分爭を釀せる者としてこゝにこの偉人を罰せり
【アーリ】マホメットの從兄弟にして且つその筋なりし者(五九七―六六〇年)
三七―四二
【裝ふ】或ひは、傷つく、截る
四三―四五
【自白】ミノスの前にて告白せる罪(地、五・七―八參照)
五五―六〇
【フラー・ドルチン】ドルチーノ。有名なる使徒派の管長、一二九六年使徒派(寺院を使徒時代の状態に復歸せしむとの主義によりてかく名づけしなり)の長となりその勢力次第にトレント、ブレッシア、ベルガーモ等の諸處に及ベり、法王クレメンス五世令旨を下し十字軍を起してこれを攻む、ドルチーノ、ヴァル・セシアにて久しくこの軍と對峙し一三〇六年五千の宗徒を率ゐてノヴァーラとヴェルチェルリ兩市の間の山地に籠れり、一三〇七年三月にいたり糧の乏しきと雪の大いなるため遂に法王の軍に降り同年六月ヴェルチェルリに於て火刑に處せらる
【ノヴァーラ人】十字軍に加はれる
六一―六三
カーシーニ(T. Casini)曰、この一聯はマホメットの人に後れざらんため早口にかたりて去れるを示すと
七三―七五
【ヴェルチェルリ、マールカーボ】ヴェルチェルリはピエーモンテ州の一市、マールカーポはポーの河口に近きラヴェンナの一城なり、故にこゝに所謂麗しき野はアルピの麓よりアドリアティコの海岸にわたりて次第に傾斜する一帶の曠野即ちロムバルディアを指せるなり
【ピエール・ダ・メディチーナ】ローマニア各市を歴遊してその侯伯等の間に爭亂の種を蒔ける者、傳不詳
メディチーナはボローニア、イモラ兩市の間にあり、或曰、ピエールはこの邑を治めしカッターニ家の出と
ペンヴェヌーチ曰、ダンテ嘗てメディチーナに赴きカッターニの歡待をうけしことあり七一行にダンテをみしことありとピエールのいへるもこれによりてなり云々
七六―八一
【ファーノ】リミニの東南約三十哩にある海濱の町、ピエールはボローニアを逐はれし後この町に住めることありといふ
【メッセル・グイード、アンジオレルロ】グイード・デル・カッセロ及びアンジオレルロ・ダ・カリニアーノ、共にファーノの貴族
一三一二年の頃リミニの暴君マラテスティーノ(新しき犬、地、二七・四六)この二人とラ・カットリーカに會して國事を議せんといひて彼等を欺きひそかに人を遣はしてその船を路に要し彼等を殺しその黨與を逐ひ自らファーノを治む
【ラ・カットリーカ】アドリアティコの海濱リミニとファーノの間にある町
八二―八四
【チープリ、マイオリカ】キュプロス、マジョリカ。地中海の東端及び西端にある島、兩島の間は猶地中海といふが如し
【アルゴス人】昔、地中海上を横行せるよりいふ
【ネッツーノ】海の神、ポセイドン(ネプチューン)
八五―八七
【一をもて】マラテスティーノは生れて獨眼なりしなり
【ひとり】クーリオ(九七―九註參照)
【邑】リミニ
八八―九〇 【フォカーラ】ファーノとラ・カットリーカの間の岬。このあたり航海の難所にて風荒き時は舟子等神に誓願かけ航路の安全を求むるを常とせりといふ、グイード、アンジオレルロの二人はこの難所にさしかゝらざるうちに殺され誓願の必要なきにいたれるなり
九一―九三
【見しことを】リミニを見しことを悔ゆるなり、九七―九註參照
九七―九九
【彼】クーリオ。ローマの民政官、カエサルがローマ議會に敵視せらるゝに及び彼ローマを逐はれてラヴェンナにいたりこゝにカエサルにあひこれにすゝめてルビコン川(リミニの北數哩)を渡らしむ、ルビコンを渡るはローマ共和國に對して宣戰の布告をなすと等しければ當時カエサルが容易にその心を決し得ざりしこと人の知るところなり
クーリオのリミニを見しことを悔ゆるはこの附近にてカエサルの心をうごかし爭亂の基を起せるため第九嚢に罰せらるゝにいたりたればなり
一〇六―一〇八
【モスカ】モスカ・デ・ロムベルティ(一二四三年死)
こゝにフィレンツェの貴族ブオンデルモンテ家の一人にて同じ町なるアーミデイ家の一女と許嫁の間柄なりし者あり、この者約に背き他家と縁を結びしかばアーミデイ家にてはこれを以て忍び難き侮辱となし親戚知己を集めて復讐の策を講ぜり、席に連れるモスカこの時辯をふるつて破約者の殺害を説き議ここに一決す
ブオンデルモンテ殺害せられこの報全市に傳はるに及びて事態いよ/\紛亂し市民のうち或者は殺害者に與してギベルリニ黨となり或者は被害者に加擔してグエルフィ黨となりかくて兩黨相軋轢し禍亂長く盡きざるに至れるなり
【事行はれて輙ち成る】Capo ha cosa fatta 事一度行はるればまたいかんともしがたし、進んで事を成せさらば好結果を生ぜん、換言すればブオンデルモンテを殺せさらば一切の解決を見ん
【トスカーナ】兩黨の爭ひはフィレンツェよりトスカーナ州の各地にひろまれり
一〇九―一一一
【宗族の死】一二五八年ロムベルティ家は他のギベルリニと共にフィレンツェを逐はれ再び歸ることをえず遂にはその消息を知るものすらなきにいたれるなり
一二四―一二六
體は己の爲に己の一部なる首を燈となせり(目ありて前を見分くればなり)されば體と首とは二にして一、一にして二なり、かゝる不思議のいかでありうべきやはたゞ神のみ知りたまふ
一三三―一三五
【ベルトラム・ダル・ボルニオ】ベルトランド・デル・ボルン。フランスのペリゴー(當時英領)の貴族にてオートフォルの城主(地、二九・二九)なり、十二世紀の半の人、英王ヘンリー二世(一一三三―一一八九年)の長子ヘンリー(一一五五―一一八三年)に説きてその父に叛かしむ、子死して後父の補ふるところとなりしも赦されて僧となりその身を終ふ
【若き王】ヘンリー二世の長子ヘンリー。父の在世中兩度まで戴冠式を行へるためフランスにてもイタリアにても若き王として知られたりきといふ
異本、王ジョヴァンニ(ジョン)とありて謄寫本多く之によれりといふ、この異本と本文との比較につき委しく知らんと欲する人は異本を可とするスカルタッツィニ不可とするムーア(『用語批判』三四四―五一頁)の説を參照せらるべし、王ジョンはヘンリー二世の末子にて一一九九年より一二一六年までイギリス王たり
一三六―一四一
【アーキトフェル】イスラエル王ダヴィーデの議官、王子アブサロムの反逆を助けこれに授くるに父を殺すの謀を以てす(サムエル後、一五・一二以下、一六・一五以下、一七・一以下)
【根元】脊髓


    第二十九曲

ダンテ、ウェルギリウスと第九嚢を去り第十嚢の橋をわたりて最後の堤の上に下り左の溪を見おろせば種々なる手段を用ゐて人を欺けるもの種々なる惡疫に罹りて苦しめり、その一部錬金の術を行へるもの、うちアレッツォ、シエーナの二の魂兩詩人と語る
一―三
【目を醉はしめ】目に涙を湛へしめ
七―九
【二十二哩】地、三〇・八六註參照
一〇―一二
【月】地、二〇・一二七に昨夜圓かりきといへる月は今南の中天にあり即ち年後一時と二時との間なり、地獄内の時間は日によらずして月によりてあらはすを例とす(地、一〇・七九以下、同二〇・一二四以下參照)
【時】地獄全體にて約一晝夜を費す豫定なれば殘すところ今や僅かに五六時間あるのみ
一六―二一
或ひは、導者は我に答へんとしてすゝみ我はうしろに從ひつゝさらににいひけるは
【岩窟】第九嚢
【價高き】罰重き
二五―二七
【指示し】仲間の罪人等に
【指をもて】指をうちふりて
【ジェリ・デル・ベルロ】ベルロ・アリギエーリ(ダンテの祖父ベルリンチオネの兄弟)の子。性極めて爭ひを起すを好み之がために自ら禍ひを招きて同じ町(フィレンツェ)なるサッケッティ家の者に殺さる、一三〇〇年の頃はこの怨みいまだ報いられざりしがジェリの死後三十年にいたりてその甥等サッケッティ家のひとりを殺しそれより一三四二年まで兩家の間に爭ひ絶ゆることなかりしといふ
二八―三〇
【アルタフォルテの主】ベルトラム・ダル・ボルニオ(地、二八・一三三―五及び註參照)アルタフォルテは城の名なり
三一―三六
【恥をわかつもの】死者の血族、仇討をもて死者に對する遺族の義務とをせること恰も昔時の日本の如し
四〇―四二
【僧院】嚢、chiostra は壁に圍まるゝところ及び僧院の兩義を有するが故に、前の意によりて嚢をひゞかせ後の意をうけてその内なる罪人を役僧といへるなり
四六―五一
【七月九月の間】夏。沼澤の地病最も多き時
【ヴァルディキアーナ】キアーナ河の流域に沿へる溪、アレッツオ、コルトナ、キウーシ、モノテプルチアーノ等の諸市このあたりにあり、當時夏に至れば河水停滯してその毒氣に感ずる者多かりしところなり
【マレムマ】トスカーナ州海邊の沼地
【サールディニア】中古人口少なく沼多かりきといふ
五五―五七
【世に】原語、こゝに正義は神の使命によりて罪人の名を娑婆世界に録しおき後彼等を地獄に罰す
五八―六六
【エージナ】アイギナ。アテナイ西南の一小島、女神アイギナに因みてこの名あり
神話に曰、ヘラ(ジュノー)神夫ゼウスがアイギナを愛せるを怨み疫癘の禍ひをアイギナ(乃ち女神の住めるとこる)に下せり、人畜悉く斃れ死したゞ殘れるものはアイギナの子エアコありしのみ、エアコ樫のほとりに立ちて蟻群の樹皮を上下するを見、かくの如く多くの民を新に與へられんことを父ゼウスに請へり、ゼウス即ち蟻を變じて人となし民再びアイギナに滿つ(オウィディウスの『メタモルフォセス』七・五二三以下)
七三―七五
【瘡】癩病の
七六―八一
【心ならず】早く馬の手入を終りて臥床に入らんとおもふ僕
八八―九〇
【ラチオ人】イタリア人
九七―九九
二人背を合せて凭れゐたるがむき直りてダンテを見しなり
一〇〇―一〇二
【身をいとちかく我によせ】或ひは、心を全く我にむけ
一〇三―一〇五
【第一の世】世界
【多くの日輪の下に】多くの年の間
一〇九―一一七
【我】十三世紀の半の人にて名をグリッフォリーノといへりと古註に見ゆ
【アールベロ・ダ・シエーナ】傳不詳
【デーダロ】ダイダロス。イカルスの父、翼を作りてクレタ島を脱せるもの(地、一七・一〇六―一四註參照)
【子となすもの】シエーナの僧正を指せりといふ、されどその名もまたアールベロの父なりしや單に恩人なりしやも明かならず
一一八―一二〇
【錬金の術】科學の研究を目的とせずして人を欺くを目的としたればなり
一二四―一二九
【癩を病める者】カポッキオ(一三六行)、シエーナ人の虚榮心を罵れるダンテの言に答へてストリッカ、ニッコロ等は例外なりといひ皮肉の反語を用ゐしなり
【ストリッカ】シエーナの者、傳不詳
【ニッコロ】同上、丁子の香料を燒鳥に加味してくらへりといふ(一説には丁子を炭の代りに用ゐこれにて雉子鷄等を燒けりともいふ)
【園】酒食に耽る人々の間
或曰、シエーナの町のことゝ
一三〇―一三二
【一晩】ブリガータ、スペンデレッチヤ(浪費隊)と名づくる一隊、十三世紀の後半シエーナ市中富豪の子等十二人相結んでこの一隊を組成し各自莫大の金を抛つて一高樓を營み日夜遊樂を事とす、ストリッカ、ニッコロ、カッチア、アッパリアート皆これに屬せりといふ
一三六―一三八
【カポッキオ】錬金の術によりて人を欺けるため一二九三年シエーナ市にて火刑に處せられし者、註或ひはフィレンツェの人とし或ひはシエーナの人とす、その言ふところによりてダンテと相識の間なりしことしるべし


    第三十曲

詩人等なほ第十嚢の堤をゆき詐僞によりて地獄に落ちし罪人の中姿を變へて欺ける者貨幣のまがひを造れるもの及び言によりて欺ける者を見る。
一―三
ヘラはゼウスがテバイ王カドモスの女セメレを愛せるを怨み、カドモスの全家に禍ひを下せることあり(オウィディウスの『メタモルフォセス』三・二五三以下參照)
【しば/\】カドモスの甥アクタイオンの横死、セメレの妹アガウエがわが子ペンテウスを殺せること等
四―六
【アタマンテ】アタマス。カドモスの女イノの夫にてテバイの王となれる者、イノが姉セメレの子バッコス(乃ちゼウスとセメレの間の子)を養育してヘラの怒りを招けるより禍ひアタマスに及びて心狂ふにいたれるなり
【妻】イノ
【男子】レアルコスとメリケルテス
七―九
オウィディウスの『メタモルフォセス』に曰く、いぎ侶よ網をこの林に張るべし我今こゝに二匹の仔ある牝獅子を見たりと(四・五一三)
一〇―一二
【荷】メリケルテス
一三―一五
【王】プリアモス(地、一・七三―五註參照)
一六―二一
【エークバ】ヘカベ。プリアモスの妻、トロイア城陷落の後虜はれてギリシア軍中にあり
【ポリツセーナ】ポリュクセナ、ヘカベの女、トロイアよりの歸途トラキヤに立寄れるギリシア軍アキレタスの靈を慰めんため(地、五・六四―六註參照)ポリュクセナをその墓前に殺せり(オウィディウスの『メタモルフォセス』一三・四三九以下)
【ポリドロ】ポリュドロス。ヘカベの子なり、ヘカベ、ポリュクセナの骸を淨めんとて海濱にゆきこゝにトラキヤ人に殺されしわが子ポリュドロスを見出せるなり(地、一三・四六―八註參照)
二二―二七
テバイのアタマス、トロイアのヘカベを狂はしめその他獸をも人をも狂はしむる瞋恚の一念
三一―三三
【アレッツォの者】グリッフォリーノ(地、二九・一〇九)
【ジャンニ・スキッキ】フィレンツェ市カヴァルカンティ家の一人
フィレンツェの貴族ブオソ・ドナーティなる者死するにあたりその子(或曰弟)シモン父が遺産の多くを他人に讓らんとするの意あるを察し遺言書を作らしめずブオソ死して後ジャンニに説き、これを床に臥さしめブオソ未だ死せざるが如く裝ふ、かくてジャンニは巧みに死者の聲調を似せて公吏を詐りこれに型の如くなる遺言書を認めしめきといふ
三七―三九
【ミルラ】神話に曰、ミルラはキュプロス島の王キニュラスの女なり、非倫の慾を滿たさんため變裝して己が父を欺きこれと罪を犯すにいたれり(オウィディウスの『メタモルフォセス』一〇・二九八以下)
四〇―四五
【群の女王】ブオソの所有せる騾馬、この騾馬は當時トスカーナ州第一と稱せられし名馬なりければスキッキは前記遺言書の中に一項を加へてこれを己の所有とをせり
五二―五四
水分の營養化せざるもの惡所に停滯して身ために權衡を失ひ顏瘠せ腹脹る
五五―五七
【エチカ】熱病の一種
五八―六三
【マエストロ・アダモ】プレシヤの人
【水の一滴】ルカ、一六・二四富者の言に、父アブラハムよ我を憐みてラザロを遣はし指の尖を水にひたしてわが舌を冷やさせ給へ
六四―六六
【カセンティーン】カセンティーノ。アペンニノ山間アルノの溪の一地方
七〇―七二
神の正義はわが犯罪地なるカセンチィーノのあたりの水ゆたかに空氣涼しき處を我に思ひ起さしめ、これによりて却つてわが苦を増しわが歎きを大ならしむ
七三―七五
【ロメーナ】カセンティーノの城。グイード伯爵家の所有たり
【バッティスタの像】フィレンツェの貨幣は一面に守護神なる洗禮者ヨハネの像あり一面にこの市のしるしなる百合の花形ありしなり
【燒かれし】アダモはカセンティーノ附近のコンスマといふ處にてフィレンツェ人により火刑に處せらる(一二八一年)
七六―七八
【グイード、アレッサンドロ、彼等の兄弟】グイード、アレッサンドロ及びアージノルフォ。ロメーナの伯爵にて三人共兄弟なり、アダモに勸めて通貨を贋造せしむ
【フォンテ・ブランダ】シエーナなるフォンテ・ブランダ(泉の名)最も名高く古註皆これをもつてダンテの指すところとす、されどその後ロメーナ附近に同名の泉あること知れ(フラティチェルリ註參照)近代之をあぐる註疏家多し
七九―八一
【ひとり】グイードなるべしといふ
【身繋がる】病ひの爲に動く能はざるをいふ
八二―八七
【十一哩】第十嚢の周圍はまさしく第九嚢の半にあたれり(地、二九・九)、地獄全體の大なることしるべし、されど或ひはこれを標準として第八嚢を四十四第七嚢を八十八哩と計算する人あるも思ふにこれ必ずしも詩人の意にあらじ
八八―九〇
【カラート】一※[#「オンス」の単位記号、307-7]の二十四分の一フィレンツェの金貨は二十四カラートの金なるにアダモの贋造貨幣は二十一カラートの金に三カラートの混合物を加へしものなり
【フィオリーノ】フィレンツェの本位貨幣。一面に花(フィオレ)の形あるよりかく名づけしもの
九四―九六
【巖間】greppo は、破鉢(古義)
九七―九九
【僞りの女】エヂプト王パロの司なるポテパルの妻、ヤコブの子ヨセフに思ひを懸けその己の意に從はざるをうらみて無實の罪をこれに責はしむ(創世記三九・六以下)
【シノン】トロイア軍中ギリシア人の殘せる木馬(地、二六・五八―六〇註參照)に就きての評定まち/\にして容易に決せざりし時シノンは恰もギリシア軍に背きて逃れ來りしものゝ如くみせかけ王プリアモスに近づきて巧みに辯を弄し遂に木馬を城内に曳入らしむ(『アエネイス』二・五七以下)
一〇三―一一五
【これにも】シノンの拳にも
一〇九―一一一
【火に行ける】火刑に處せられし時はその手縛られて動かすをえざりしなり
一一二―一一四
【トロイアにて】王プリアモスに木馬のことを問はれし時
一一五―一一七
【鬼より多し】貨幣の數即ち罪の數なり(地、一九の一一四參照)
一一八―一二〇
【誓ひ】『アエネイス』二・一五二以下にシノンが手をあげて日月星辰を指しその言の眞なるを證せしこといづ、馬は即ち木馬なり
一二四―一二六
汝世にある日僞りの口を開き身の禍ひを招ける如く今も我を罵りて却つて我にいひこめらる
【己が禍ひのために】異本、惡をいはんため
一二七―一二九
【ナルチッソの鏡】水
ナルチッソ(ナルキッソス)の物語はオウィディウスの『メタモルフォセス』三・四〇七以下にいづ、ある河神の子なりき嘗て水を呑まんとて澄める泉のほとりにいたり水にうつれる己が姿を見之を慕ふあまりに此處を放れずして死せり
一三〇―一三二
【少しく愼しむべし】Or pur mira! 思ひのまゝにみよと裏をいへるなりとの説あり
一三六―一三八
【すでに然るを】事實夢なるを夢ならざる如く
一三九―一四一
あまりに恥ぢかつ惑へるため却つて詫の詞出ねばこの無言の表情乃ち是詫なるを思はずしてなほ詞をもて詫びんとせるなり


    第三十一曲

かくして後最後の岸を横ぎりマーレボルジェ中央の坎にいたればこゝに多くの巨人ありその一アンテオなる者導者の請に從ひ兩詩人を第九の地獄におくる
一―三
【舌】ウェルギリウスの
【先には】地、三〇・一三一―二
【染め】恥、頬を赤く染めしなり
【藥】慰藉(地、三〇・一四二以下)
四―六
【槍】父ペレウスより傳はりしアキレウスの槍。傳説に曰、アキレウスの槍に突かれて傷をうけし者再びその槍に突かるれば傷癒ゆと
この槍トロイアのテレフオスを傷つけ後その疵を癒せることオウィディウスの『メタモルフォセス』一二・一一二、一三・一七一等にいづ
一〇―一五
【角笛】七〇―七二行註參照
一六―一八
【カルロ・マーニオ】シャルルマーニュ大王(七四二―八一四年)。イスパニヤ遠征の際此國の東北ロンチスバルレなるその後陣、敵の襲撃を受けて難戰苦鬪す、後陣の將ローラン(或ひはオルランド、シヤルルの甥なり)衆寡敵せざるを知り救ひをシャルルに求めんため角笛を吹きしに笛聲遠く響きわたりて既にこの地を距る四里なりしシヤルルの耳に達せりといふ、有名なるフランス中古の史詩『ローランの歌』にくはし
【聖軍】十字軍なれば
三一―三三
【巨人】神話の巨人、己が力を恃みて神に逆へる者
ムーア曰、ダンテが巨人の一群をこの處に置けるは『アエネイス』六・五八〇―八一に、地の古の族ティタンの子等(巨人)雷に撃たれてかくいと深き處にきまろべりとあるに基づくと
【坎】(地、一八・五)第九の地獄この底にあり、巨人等足を氷に觸れ半身を坎の外にあらはす
三七―三九
【誤り】巨人を櫓とおもへる誤り
四〇―四五
【モンテレッジオン】シエーナの北約九哩にある城にて圓き高き城壁の上にさらに十四個の櫓ありきといふ
【ジョーヴェ】ゼウス。フレーグラの戰ひ(地、一四・五五―六〇並びに註參照)にゼウス神雷にて巨人等を撃ち滅ぼせる事あればなり
四九―五一
巨人等新に生るゝことなければかくの如く剽悍獰猛の勇士(軍神アレスに事ふるものは乃ち戰士なり)跡を世に絶つにいたれり
五五―五七
【心の固め】智能、象鯨の類は巨大にして力餘りあれども智足らざれば危險ならず、此故に自然は巨人を滅ぼして象と鯨とを生存せしむ
五八―六〇
【松毬】青銅製の松毬にて長約七呎半あり、ローマ皇帝ハドリアヌスの廟を飾らんため作られしものと傳へらる、當時ローマ聖ピエートロの寺院の構内にありしが今はヴァチカンの宮殿内松毬の園と稱する園の中にあり
六一―六六
【フリジア人】大男の稱あるフリジア(オランダの北)人。三人の丈を繼合はすともその髮に達し能はざるべし
【三十パルモ】約二十一呎(頸より臍までの長)なり
六七―六九
バベル高塔の事によりて言語の亂れたる有樣をあらはさんため殊更に無意味の語を連ねしなり
七〇―七二
【角笛】獵夫(創世記一〇・九)に因みて
七三―七五
導者の嘲りていへる詞
七六―七八
【己が罪】言語の通ぜざるによりて罪の何たるをしるべし
ニムロデ(ネムブロット)の事創世記一〇・八以下にいづ、されどその巨人なりしこと及びバベル高塔の建築者なりしことは見えず
【一の言語】世界の言語はもとたゞ一のみなりしが人々バベルに高塔を築かんとするに及びて亂れわかれたり(創世記一一・一以下)
八二―八四
【左に】坎の縁に沿ひて左にむかへり
八五―九〇
【誰なりしや】地、一五・一二參照
九四―九六
【フィアルテ】(或ひはエフィアルテ)ゼウスに背ける巨人の一
【大いなる試み】山に山を重ねて天に達せんとせしこと
九七―九九
【ブリアレオ】神々と爭へる巨人の一、體躯巨大にしてはかりしり難きなり、『アエネイス』一〇・五六五以下に曰く
我聞くエゲオン(ブリアレオの一名)には百の腕百の手あり、彼五十の楯を鳴らし五十の劒を拔きてジョーヴェ(ゼウス、ユピテル)の雷を冐せる時その五十の口と胸とは焔を吐けり
と、されどダンテのブリアレオはその形フィアルテの如しとあれば五十頭百手の怪物にあらず
一〇〇―一〇二
【アンチオ】アンタイオス。リビアの巨人ポセイドンとゲーの間の子なり、人の過ぐるにあへば強ひてこれと力を競べかつ必ず勝ちて死にいたらしむ、ヘラクレスこれと爭ふに及びアンタイオスが地に倒れその母(ゲー即ち地)の身に觸るゝ毎に力新に加はるを知り宙に吊してこれを殺せり、アンタイオスの身に縛なきは、プレグライ(プレグラ)の戰ひの後に世に出で巨人軍に加はらざりしによりてなり
【凡ての罪の底】地獄の底、第九の地獄
一一二―一一四
【五アルラ】古註の曰ふところ一ならねば、今さだかに知り難し、フラティチェルリは曰く、一アルラはフィレンツェの二ブラッチヤに等しく一ブラッチヤは三パルモなり故に五アルラは即ち三十パルモに當ると
一一五―一一七
ウェルギリウスの詞
【シピオン】スキピオ
【溪間】バグラーダ川(アフリカ)の流域、ザマ(リビヤの西、カルタゴの南)の古戰場この附近にあり
紀元前二〇一年ローマのスキピオ、カルタゴのハンニバルとザマに戰ひてこれを敗る
一一八―一二三
【獅子】アンタイオスはバグラーダの溪間の岩窟に棲み常に獅子を捕へてその肉をくらへりといふ(ルカヌスの『ファルサリア』四・六〇一以下)、千匹は多數の意
【師】神々と巨人との戰ひ
【地の子等】地を母とする巨人等
【コチート】(歎きの川の義)氷の池(地、三二・二二以下)
一二四―一二六
【ティチオ、ティフォ】共に神話にいづる巨人の名
【求むるもの】名
一二七―一二九
【恩惠】神の
一三〇―一三二
【エルクレ】ヘラクレス。一〇〇―一〇二行註參照
一三六―一三八
【ガーリセンダ】有名なるボローニア雙塔の一、ガーリセンディ家の建設にかゝるが故にこの名あり、この塔高さ約百六十呎東方に傾斜すること約八呎ダンテの時代にはなほはるかに高かりきといふ
雲西方に飛行く時は恰も塔まづ雲にむかひて傾き倒るゝかと疑はる、アンタイオスの身を屈めし時もこれと同じく恰も我等の上に倒れかゝれる如く見えたり
一四二―一四四
【ジユダ】キリストを賣れるイスカリオテのユダ(地、三四・六二)
【ルチーフェロ】魔王(地三四・二八以下)、ルキフェルはもと明星を指していへる語なるを(イザヤ、一四・一二)後世の詩人等惡魔の名となすにいたれるなり


    第三十二曲

第九の地獄は特殊の信に背ける者の罰せらるゝところにてカイーナ、アンテノーラ、トロメア、ジュデッカの四圓にわかる、詩人等まづカイーナにいたりて血族の信に背ける者をみ、次にアンテノーラにいたりて郷土若しくは黨與を賣れる者を見る
一―三
【坎】第九の地獄、地球の中心なれば地獄全體の岩の重力皆此上に集まるなり
七―九
【全宇宙の底】プトレマイオスの天文學によれば地球は宇宙の中心にあり故に地獄の底は即ち全宇宙の底なり
【阿母阿父とよばゝる舌】我等乳臭の口をもて
或曰、俗語の謂と
一〇―一二
【アムフィオネ】神話にいづる有名なる樂人、テバイの王となり城壁を築かんとて琴を彈ぜしに岩石聲に應じてキタイロンの山よりまろび來り圍みおのづから成れりといふ
【淑女等】「ムーサ」(地、二・七)、詩音樂等の神々
一六―一八
巨人等の足を觸るゝところは第九の地獄の縁なり、しかるにこの地中央にむかひ次第に下方に傾斜するをもて兩詩人がアンタイオスの手によりて石垣を下れる時は既に巨人の足の前方即ち足元上り低き處に立てるなり
一九―二一
【兄弟等】我等二人の兄弟(四一行以下)
或曰、兄弟等は侶の謂にてこの地獄の罪人をすべて指せるなりと
二二―二四
【池】コチート、クレタの巨人の涙流れくだりて地獄の諸水となり後底に集まりて氷の池となる(地、一四・一〇三以下參照)、氷は罪人の心の冷酷なるを表はせるなり
二五―三〇
【オステルリッキ】オーストリア
【ダノイア】ダニューブ又はドナウ、オーストリア最大の川
【タナイ】ドン、ロシアの南にある川
【タムベルニッキ】山の名、所在不明
【ピエートラピアーナ】トスカーナ州の西北セルキオ、マーグラ兩河の間の連山(今のパーニア)
三一―三三
夏の初めの刈入時、農婦等その日なせしことをその夜の夢に見るなり
三四―三六
【愧あらはるゝところ】顏(地、三一・二參照)
或ひは、愧あらはるゝところまで蒼きなやめる魂等はと讀む人あり
【鶴の調】寒さのためにうちあふ齒の音鶴の嘴を鳴らすに似たり
三七―三九
【その證】寒さの強きは齒の音にてしられ苦しみの大なるは目の涙にてしらる
四六―四八
【唇】或ひは、瞼
五二―五四
【鏡】何ぞ鏡にむかふ如くかく我等を見るや
五五―五七
【ビセンツォ】トスカーナ州の川、プラート市の附近を流れフィレンツェの西約十哩にいたりてアルノに注ぐ、その上流の溪間にヴェルニオ、チェルバイアと名づくる二の城ありてアルベルト家に屬せり
【アルベルト】マンゴナの伯爵、二人の子ありてナポレオネ、アレッサンドロといへり、一二八二年の頃この二人の間に相續上の爭ひ起りて互に他を害せんことをはかり遂に共にたふる
五八―六〇
【一の身より出づ】母を同じうす
【カイーナ】第九の地獄第一圓の名、弟を殺せるカイン(創世記四・八)の名を附せるなり
六一―六六
カイーナの罪人をあぐ
【穿たれし者】モドレッド、有名なる『アーサー物語』にいづ
モドレッドはアーサーの子(或曰甥)なり、父の國を奪はんとして殺さる、傳へいふ、アーサーの突きいだせる槍モドレッドの胸を貫きやがて拔くに及びて日光その傷を射透せりと
【フォカッチャー】フッカッチャー・デ・カンチェルリエーリ、十三世紀の後半の人にてピストイアの白黨なり、伯父を殺せりとも父を殺せりともいふ人ありて罪業あきらかならず
【サッソール・マスケローニ】フィレンツェの者、父の兄弟にたゞ一人の男子ありしがサッソール之を欺きて市外に殺害し伯父死して後その資産を横領せりといふ、この罪業當時あまねくトスカーナ州にしれわたれるなるべし
六七―六九
【カミチオン・デ・パッチ】上アルノの溪なるパッチ家のアルベルト・カミチオネ、その血族の一人(從兄弟との説あり)ウベルチーノを殺せり
【カルリン】カルリーノ。同じパッチ家の一人、一三〇二年、フィレンツェの白黨と共にピアントラヴィーニの城(アルノの溪にあり)を守れる間、黄金を貪りてフィレンツェの黒黨と内通し之を城内に入らしめしため白黨多く殺され或ひは虜はれたり
【待つ】アンテノーラに落ち來るを待つなり、その罪甚だ大にしてこれに比すればカミチオネの罪さへいとかろしとみゆればわが罪をいひとくといへり
七〇―七二
以下アンチノーラを敍す
【犬の如く】註釋者或ひは色の蒼黒きをいふといひ或ひは齒をむき出すをいふといふ
【凍れる沼】池水の凍れるを見るごとに地獄の底を思ふなり
七三―七五
【重力】地、三四・一一一參照
七九―八一
【彼】ボッカ、フィレンツェなるアバーチ家の者、モンタペルティの戰ひ(地一〇・八五―七註參照)酣なりしころグエルフィ黨にまじりて戰ひゐたりしボッカは、旗手ヤーコポに近づきてその手を斬りフィレンツェ騎兵の軍旗を倒せり、是に於てかグエルフィの士氣大いに沮喪し遂にかの大敗を抱くにいたれるなり
八八―九〇
【アンテノーラ】第二圓の名、トロイアの老將アンテノルの名よりいづ(これ後代アンテノルを以てトロイアを賣れるものゝ如くいひなすにいたればなり)
一〇〇―一〇二
【あらはさじ】顏を上げて
一一五―一一七
【彼】ブオソ、クレモナ市(ミラーノの東南約六十哩)ヅエラ家の者なり、一二六五年ロムバルディアのギベルリニ黨に推され王マンフレディの命によりて一方の將となりシヤルル・ダンジュウの南進を防がんためパルマの附近に陣取りたりしがフランス軍より賄賂をうけ一戰にも及ばずして自由に敵を通過せしめきといふ
一一八―一二〇
【ベッケーリアの者】テサウロ・デイ・ベッケーリア。パーヴィア(ミラーノの南約二十二哩)の人にてヴァルロムブロサ(フィレンツェの東)僧院の院主なり、フィレンツェを逐はれしギベルリニ黨とひそかに歡を通じこれを郷土に入らしめんとしたりとの罪により一二五八年フィレンツェにて馘らる
一二一―一二三
【ガネルローネ】『ローランの歌』(地、三一・一六―八註參照)に名高き模範的賣國奴なり、彼シャルルマーニュの軍中にありてサラセン人の王より莫大の贈物を受けシャルルに説きてその軍を引上げしむ、こゝに於てかピレネイ連山のかなたに止まれるその後陣、敵の襲撃にあひロンチスパルレの敗戰となりてシャルル部下の名將多くこれに死せり
【テバルデルロ】ファーエンヅァの者、一二七四年ボローニアなるラムベルタッチ家(ギベルリニ黨)の人々その郷土を逐はれてファーエンヅァに來れり、テバルデルロはこれらの者に私怨をいだき一二八〇年ボローニアなるジエレメーイ家(グエルフィ黨)の人々を迎へ入れ多くの逐客を殺害せしむ
【眠れる】テバルデルロが門をひらきてグエルフィをファーエンヅァに導ける時は昧爽なりき
【ジャンニ・デ・ソルダニエル】フィレンツェの貴族にてギベルリニ黨に屬せる者なりしが一二六六年騷擾市民の間に起れる時己が黨與を棄てゝグエルフィ黨にくみしその權勢を振はんとはかれり
一三〇―一三二
【ティデオ】テュデウス、テバイを圍めるギリシア七王(地、一四・六七―七二註參照)の一なり、テバイ人メナリッポスと戰ひ致命傷をうけしかども奮つて敵を殺し猶餘怨を霽さんため侶に請ひて首級を得その骨を噛めり
一三九
我死なずして物言ふをえば


    第三十三曲

アンチノーラの罪人の中にウゴリーノ伯爵なる者ありてその悲慘の最期をダンテに告ぐ、詩人等さらに第三の圓にいたりこゝに友を賣れる者をみ、かつファーエンヅァのアルベリーゴとかたる
一〇―一二
【言】(地、一〇・二五―六參照)言の形にあらずして音を指せるなるべしといふ
一三―一五
【伯爵ウゴリーノ】ウゴリーノ・デルラ・ゲラールデスカ、ピサの貴族、十三世紀の前半に生る、一二八四年ピサの艦隊を率ゐてゼーノヴァと戰ひメロリアの海戰に敗れてピサにかへり、市を擾亂の中より救はんため若干の城をルッカ及びフィレンツェの軍に交付して以て敵の主力をわかてり、同年選ばれてポデスタとなり、その孫ニーノ・ヴィスコンティ(女婿ジョヴァンニ・ヴィスコンティの子、地、二二・七九―八四註及び淨、八・四六―八註參照)と共に市政を行へるもいくばくもなくこれと相爭ひ、ピサのグエルフィ黨また彼等に與して相わかるゝにおよびて葛藤止む時なく黨勢とみに衰ふ、ギベルリニ黨の首領大僧正ルツジェーリ時の至れるを見てひそかに爲す所あらんとし、まづウゴリーノを助けてニーノを逐はしむ、一二八八年ニーノ、ピサを去りて後ルツジェーリ乃ち伯の罪状を擧げて民心を煽動しこゝに猛烈なる市街戰を見るにいたれり
この戰ひ遂にグエルフィ黨の敗に歸し一二八八年七月ウゴリーノ及びその二子二孫共に虜はれてピサなるグアランディ家の塔中に幽せられ翌年に至りて悉く餓死す
【ルツジェーリ】ルツジェーリ・デーリ・ウバルディーニ。ピサの東ムジエルロの者、一二七八年ピサの大僧正となり、ウゴリーノの變にあづかりしこと前述の如し、法王ニコラウス四世彼がグエルフィ黨に對する行爲をにくみ終身禁錮の命を下せしかども法王死して彼刑を免かれ一二九五年ヴィテルポに死す
【かゝる隣人】隣人といへば親しみをあらはすこと常なるに彼等は同じ處にありてしかも仇敵なればなり
二二―二四
【塒】グアランディ家の塔(當時市有)、伯爵等の死後「餓ゑの塔」とよばる
muda は羽毛の變り時に鳥を養ふ處なり、ブーティ(Buti)曰、作者この塔をかくよべるは塔の中に羽替頃の市有の鷹を飼へるため當時かくよびならはせしによるかさらずば轉用して伯爵等がこゝに籠の鳥の如く幽閉せられしをいへるならんと
註釋者曰、この後にもなほ人を籠むべしといへるはウゴリーノの想像にてその後この塔中に幽せられし人あるを聞かずと
二五―二七
【多くの月】牢獄の中たゞ月の盈虚によりて時の過ぎゆくをしるなり、ウゴリーノ等のとらはれしは一二八八年七月にてその死せしは翌年三月なればその間幾多の月を閲せり
二八―三〇
【山】サン・ジュリアーノ、ピサとルッカの間にあり
三一―三三
【牝犬】ギベルリニ黨に屬する僧正一味のピサ人
【グアランディ、シスモンディ、ランフランキ】僧正に與せしピサの名族
三七―三九
【曉】地、二六・七參照
【兒等】四人の中ガッドとウグッチオネはウゴリーノの子ブリガータとアンセルムッチオはその孫なり、おしなべて兒等といへるは親愛の意をあらはせるなるべし
四六―四八
【釘打つ音】chiavar 異説に釘打つにあらず鍵もて閉すなりといへどうけがたし
四九ー五一
【アンセルムッチオ】(稚なきアンセルモの義)、ウゴリーノの長子グエルフォの子
五五―五七
【われ自らのすがた】血肉の似寄り並びに同じ憂ひ同じ恐れ

六四―六六
【土よ】何ぞ開きて我を呑みこの憂ひより救はざりしや
六七―六九
【第四日】釘打つ音をきゝし日より四日目
【ガッド】ウゴリーノの子にてウグッチオネの兄なり
七〇―七五
【まのあたり】原文、汝の我を見る如く
【二日】七日と八日目の二日(或曰、六日と七日目の二日と)
異本、三日
【斷食の力】悲哀その極みに達してしかもいまだ死なざりしかど遂に餓ゑの爲に死にたり
七九―八一
【うるはしき國】イタリア、「シ」siを然の意に用ゐる國なり
【隣人等】フィレンツェ、ルッカの人々
八二―八四
【カプライァ、ゴルゴーナ】チレニア海中の二島嶼、アルノ河口の西南にあり、ピサはこの河口に近く且つその兩岸に跨がる町なれば河水氾濫して全市の民溺れ死するを願へるなり
八五―八七
【城を賣れり】一三―五行註參照
【きこえ】ウゴリーノ伯が城を敵に渡せるは私慾を滿たさんためなりきとの流言當時行はれ僧正ルツジェーリ亦之を以て民心を煽動する一の利器たらしめし如し、されど伯のこの行爲はピサを窮厄の中より救ひ出さんとする苦肉の謀なりければダンテもこゝにたゞこれを世評として記載せるのみ、ウゴリーノのアンテノーラに罰せらるゝは己が權勢を大ならしめんためニーノ・ヴィスコンティを逐ひ却つて自らグエルフィ黨の禍ひを釀すにいたりたればなるべし
【十字架につく】苛責す
八八―九〇
【第二のテーべ】ピサ、テバイ(テーベ)は多くの殘虐行はれし處なればなり
【年若き】ダンテは事實を枉げて二子二孫皆幼少なりし如くしるせり、このうち丁年に滿たざりしはアンセルムッチオのみ
【ウグッチオネ】ウゴリーノの子にてガッドの弟なり
【イル・ブリガータ】アンセルッチオの兄、名をウゴリーノ又はニーノといふ、イル・ブリガータはその綽名なり
【此曲】五〇行及び六八行
九一―九三
以下トロメアを敍す
九四―九六
初めの涙凍りて次の涙を出でしめざるをいへり
九七―九九
【被物】visiere 眼鏡又は兜の表と解する人あり
【杯】眼孔
一〇三―一〇五
【地氣】太陽の熱によりて一種の氣地より生ずその乾けるもの風を起し濕れるもの雨を起すといへる古の學説によれり、ダンテは日光なき地獄の底に風あるをあやしめるなり
一〇六―一〇八
【源】地獄の王ルキフェルの翼(地、三四・五〇―五一)
一〇九―一一一
【最後の立處】第四圓即ちジュデッカ、詩人等をジュデッカに罰せらるべき魂なりとおもへるなり
一一二―一一四
【洩す】涙によりて
一一五―一一七
【氷の底】ルキフェルの許、ダンテは約を果すも果さゞるもいづれ地心にゆくべきものなればそのいへること誓言に似て誓言にあらず
一一八―一二〇
【アルベリーゴ】アルベリーゴ・ディ・マンフレディ。一二六七年より「フラーテ・ゴデンティ」(地、二三・一〇三參照)たり、ファーエンヅァのグエルフィ黨を統ぶ、その血族マンフレディ(弟なりとの説あり)及びマンフレディの子アルベルゲットと權勢を爭ひ、ひそかに彼等を害せんとはかり言を和親に托して宴に招き食終れる時果物を持來れといふ、この時忍びの者共この詞を相圖に座席に入來りて父子を殺せり(一二八五年)
【よからぬ園の】客人を賣る相圖に用ゐたれば罪の園に生ぜる果といへり
【無花果に代へ】罪業相當の刑罰をうく
一二一―一二三
【しらず】地、一〇・一〇三―五參照
一二四―一二六
【トロメア】第三園、賓客の信に背ける者の罰せらるゝところ、ジエリコの首長トロメオの名をとれるなり、このトロメオはおのが岳父にして祭司長なるシモネ・マッカベオ及びその二子をわが城内に招き酒を飮ましめて後殺せり(マッカベエイ前、一六・一一―六)
【アトローポス】運命を司る神の一にていのちの絲を斷ち切るもの
その人未だ死なざるに魂まづトロメアにくだりて罰をうくることありとの意なり、之に關し註釋者曰、ダンテは詩篇五五・一五に、願はくは彼等生けるまゝにてシエオルに下らんことをといへるにもとづきこの種の刑罰に思ひいたれるなるべしと
一三三―一三五
【おのれは】魂自らは地獄の底に落つ
一三六―一三八
【セル・ブランカ・ドーリア】ジエーノヴァの名族ドーリア家の者にてミケーレ・ツァンケ(一四〇行)の婿なり、一二九〇年の頃、(或ひは七五年の頃ともいふ)サールディニア島のロゴドロ州(地、二二・八八―九〇及び註參照)を奪はんため舅を招きて會食し欺いてこれを己が城内に殺せり
一四二―一四四
【マーレブランケの濠】第八の地獄第五嚢、汚吏の罰せらるゝところ
一四五―一四七
異本、この者己が身と……その近親のひとりの身に鬼を殘せり
一四八―一五〇
【暴】約を履まざりし事
一五四―一五七
【ローマニアの魂】アルペリーゴ(一一八行)、その郷里ファーエンヅァはローマニアにあり
【ひとり】ブランカ・ドーリア


    第三十四曲

ダンテ、ウェルギリウスと第九の地獄第四の圓にいたりこゝに恩人を賣れるものゝ魂を見、後その中央にあらはれし地獄の王ルキフェル(ルチーフェロ)に近づきその毛にすがりて地心を過ぎさらに一條の幽路をたどりて外界にむかふ
一―三
Vexilla Regis prodeunt inferni(地獄の王の旗進む)、この中初めの三語はフォルツナート・ヂ・チエーネダー(イタリアの生れにてフランス、ポアチエの僧正となれり)の作なるキリスト磔刑の聖歌の始めをとれるなり、この歌今も寺院の一部に用ゐらるといふ、地獄の王はルキフェル、旗はその翼なり
七―九
【風】五〇―五一行參照
一三―一五
四種の罪人、註釋者曰、恩人を賣れる罪人の中、伏したるは己と同等の地位にあるもの、直立せるは己より地位低きもの、倒立せるは同じく高きものを賣り、弓形をなすは高きと低きと二種の恩人を賣れる者なりと
一六―一八
【昔姿美】魔王が未だ天を逐はれざりしさきには天使中その姿特に美しく尊かりしと信ぜられたればなり(淨、一二・二五―六參照)
一九―二一
【ディーテ】魔王の名として用ゐられしこと『アエネイス』に例多し
二五―二七
【彼をも此をも】死をも生をも
三四―三六
特殊の神恩によりてその美しき事萬の天使にもまされる程なるになほその造主に背けりといへば今一切の禍ひの本となるもあやしむにたらず
三七―三九
【三の顏】寓意のあるところあきらかならず、註釋者曰、これ地、三・五―六なる三一の神の對照なり即ち權威智慧愛の三に對し無力無智憎惡の三を示せるものにて無力は黄無智は黒憎惡は赤を以てあらはすと
四〇―四二
【□冠あるところ】頭の頂、四七行に鳥といへると同じく翼あるに因みてなり
四三―四五
【ニーロ】エジプトのナイル川、南方エチオピアよりいづ
【人々】エチオピアの黒人
四九―五一
【羽なく】當時の説によれるなり。
五二―五四
【コチート】地、一四・一一八―二〇參照
五五―五七
【碎麻機】maciulla 二個の木片うちあひて麻を碎き莖と絲とをわかつ機具
六一―六三
【ジユダ・スカリオット】イスカリオテのユダ、キリスト十二弟子の一、師を賣りて銀三十をえ後悔いて縊る(マタイ、二六・一四以下及び二七の三以下等)
六四―六六
【プルート】マルクス・ユウニウス・ブルートゥス(前八五―四二年)、カエサル殺害者の一人
六七―六九
【カッシオ】カイウス・カッシウス・ロンギーヌス(前四二年死)ブルートゥスと共にカエサルを殺害せるもの、或人曰く、ダンテがカッシウスを肉逞しきものとせるはキケロがルキウス・カッシウスを肥えたりといへるに基づきルキウスを、カイウスと誤り混じたるによると

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