神曲
[青空文庫|▼Menu|JUMP]
著者名:ダンテアリギエリ 

一二一五年この方フィレンツェはグエルフィ、ギベルリニの兩黨に分る、十三世紀の末グエルフィ黨、獨り權勢を得て爭亂一時鎭靜に歸せしもピストイアに生ぜし黒白兩黨の軋轢ひいて濁波をフィレンツェに揚げチェルキ、ドナーティ兩家の確執となり次第にその範圍をひろくし一三〇〇年の始めにいたりて遂に激烈なる黒白の爭ひをこゝに見るにいたれるなり
六四―六六
【長き爭ひ】チェルキ、ドナーティ兩家の互に敵視せるは一二八〇年にはじまれり、前者は白黨を後者は黒黨を率ゆ
【鄙の徒黨】ビアンキ(白黨)
チェルキ家はヴァル・ディ・シエヴェといふ片田舍より來れる粗野の民なりき
【敵を逐ふべし】一三〇一年五月ネーリ(黒黨)フィレンツェの市外に逐はる
六七―六九
【三年の間】原文、三の日輪の間に(地、二九・一〇五參照)すなはちチヤッコの語れる時より三年の間に
白黨の逐はるゝにいたりしは一三〇二年の四月四日にしてチヤッコの豫言は一三〇〇年の四月八日なれば誠はこの事二年の間に起れるなり、これにつきスカルタッチニ(G. A. Scartazzini)は曰く、ダンテのかく三年といへるは(一)三の數を好みて用ゐしによるか(二)歴史傳記と異なり正確なる日子を豫言に附するをふさはしからずと思へるによるか(三)白黨が最後の迫害を受けしは一三〇二年の十月なればこれに基づきてかくしるせるか云々
【操縱(あやな)すもの】法王ボニファキウス八世、當時未だあらはに黒黨を助くるに至らず黒白兩黨の間に立ちて巧みにこれをあやつりフランスのシャルル・ド・ヴアロア(フランス王フィリップ四世の弟)のフィレンツェに至るを待てり
七〇―七二
【憤り】或ひは恥
七三―七五
【義者二人】何人を指せるや不明なり
さきに、いま操縱(あやな)すものといひこゝに義者二人ありといふ、チヤッコは未來を知るのみならずまたよく現在をも知るに似たり(地、一〇・一〇〇―一〇二註參照)
七九―八一
【ファーリナータ】(地、一〇・三一―三註參照)
【テッギアイオ】(地、一六・四〇―四二註參照)
【ヤーコポ・ルスティクッチ】(地、一六・四三―五註參照)
【アルリーゴ】アルリーゴの事この後に見えず、註者多くは之をもてブォンデルモンテの殺害に與れるものゝ一人なるべしといふ(地、二八・一〇六―八註參照)
【モスカ】(地、二八・一〇六―八註參照)
以上皆當時世に知られしフィレンツェ人
【善を行ふ】市政に關する(地、一六・三―一八及び五八―六〇參照)
八八―九〇
一切の望みなき地獄の魂その慰藉をたゞ知人の記憶に求むるのみ(地、二七―六四―六註參照)
九一―九三
【盲】汚泥の上にうつむき伏して見ることをえざる暴食者
九四―九六
【喇叭ひゞくまで】世界審判の日來るまで(マタイ、二四・三一)
【仇なる權能】諸惡の敵なるキリスト、人類の罪を定めんために來るなり
九七―九九
審判の日いたれば魂ヨサファットの溪にゆきて再び肉體の衣をうけ永遠きはみなき刑罰の宣言をきくべし(地、一〇・一一―二及び三の一〇三以下參照)
一〇六―一〇八
【汝の教】アリストテレスの教
一〇九―一一一
【その後】天使の喇叭ひゞきし後即ち最後の審判の後
靈肉相合して人はじめて全し、されど此等の罪人は魂すでに全からねばたとひ肉を得るも眞の完全にいたれりといふをえす、たゞ肉を離れし時に比すれば完全に近きが故に審判の後の苦しみは從つて前よりも深し
一一五
【プルート】ハデス、神話にいづる富の神なり、財寶の慾は世界人類の平和を亂し諸惡の源となるものなれば大敵といへり


    第七曲

兩詩人第四の地獄の入口にいたりてプルートを見、のち獄内に進む、この獄二に分たれ一には貪り貯へし者一には妄りに費せる者罰せらる、導者は命運を論じつゝダンテと共に此處を過ぎて第五の地獄にくだり忿怒の罪を犯せる者スティージェの沼泥濘の中にひたりて相爭ふをみる
一―三
【パペ・サタン・パペ・サタン・アレッペ】Pap□ Sat□n, Pap□ Sat□n aleppe ! 怒れるプルートの詞、義不明
七―九
【狼】貪りをあらはすこと地、一・四九と同じ
一〇―一二
【ミケーレ】ミカエル、天使の長(ユダ、九)、魔軍と戰ひこれに勝つ(默示録一二・七―九)
【非倫】strupo(姦淫、強姦)、ルキフェル一味の魔軍が慢心を起して神に背くにいたれること
神と人との關係を男女の關係によりてあらはせること聖書に例多し(詩篇、七三・二七、イザヤ、一・二一等)
一六―一八
【第四の坎】第四の地獄
一九―二〇
【誰ぞ】汝正義にあらずして誰ぞ
二二―二四
【カリッヂ】カリブディス。ホメロス、ウェルギリウス、オウィディウス等の詩に見えて名高き渦卷、メッシナ海峽(イタリア、シケリア間)にあり、イオニオ海の潮とチレニア海の潮(逆浪)とうちあひて波荒く古より航海の難所たり
【リッダ】大勢にて舞ひめぐる舞踏の一種
二八―三〇
第四の地獄には貪る者と費す者と同一の罰を受く、圈二に等分せられその一乃ち兩詩人の左には貪る者(三八―九行)同じく右には費す者あり、罪人等胸にて重荷をまろばしつゝ各□その半圈を來往し半圈の兩端なる分岐點にいたれば彼此こゝにうちあひ、これと同時に費す者は貪る者にむかひて何ぞ貪り貯ふるやと罵り貪る者は費す者にむかひて何ぞ漫りに費すやと難じ各□踵をめぐらして一端にむかひかくして限りなくその觸[#底本では一字あき]をくりかへすなり
三一―三三
【歌】何ぞ溜むるや云々なる罵詈の叫び
三七―三九
【僧】cherci 僧侶たると俗僧たるとを問はずすべて寺院に屬する者をいふ
四〇―四二
【ほどよく】一方は費すべきに費さず一方は費すべからざるに費せるなり
四六―四八
【カルディナレ】寺院の高官、七十人相集まりてローマの聖團を組織し法王選擧の權を有す、當時寺院に屬するものゝ貪婪なること俗衆に比して更に甚しきをいへるなり
五五―五七
【二の】半圈の兩端なる
【手を閉ぢ】固く握りて放たざる守錢奴のさま
【髮を短くし】浪費者の姿、イタリアの諺に dissipato fino a'capelli(髮の毛までも遣ひ果す)といふことありと
五八―六〇
【美しき世】天堂
【いはじ】汝のしたしく目撃するところなれば
六一―三
【戲】或ひは、力、空なる事、欺、と解する人あり
七〇―七二
【わがいふところ】命運に關するダンテの所説は多くボエティウス(天、一〇・一二四―六註參照)の著書に據れり
七三―七八
神は日月及びその他の諸天を造りたまひ、これと同時に此等諸天の運行を司るもの即ち各種の天使をも造りたまへり、是に於てか九種の天使九個の天にわかれて輝きいづれもその神より附與せられたる光の割合に應じて天の全體を照すなり、これと等しく神は世界に命運なるものを立てゝその光輝となるべきもの即ち財産、地位、名譽等を司らしめたまふ
七九―八一
【血】血統
八五―八七
【神々】天球の運行を司る靈體乃ち九種の天使、これらの天使の諸天を司るに似たり
八八―九〇
【流轉】命運のめぐり來るにあひて世の幸をうくる人、相ついで出づ
九一―九三
【十字架につけ】責め誹り
九四―九六
【はじめて造られしもの】天使
九七―九九
【進みしとき】地、一・一三六、星の傾くは子午線を過ぎ西にむかひて降るなり、時夜半を過ぐ乃ち一三〇〇年四月九日聖土曜日の初めなり
一〇三―一〇五
【ペルソ】地、五・八八―九〇註參照
一〇六―一〇八
【スティージェ】ディーテ(地、八・六八)を繞れる沼
スティージェは神話にいづる地獄の川の一なり、神々この川によりて誓ひを立てしこと古詩に散見す
一一八―一二〇
泥水の下に沈める者は忿怒の罪人の一種にして邪氣を宿し怨みをいだき沈鬱陰險なる徒なり
一二一―一二三
【空氣】地上の
【無精の】accidioso 心のひきたゝぬ、美しき日の光をうくるもなほ樂しまず快き外界の響きに應ぜざる
一二四―一二六
【聖歌】反語、歎聲
一二七―一二九
坂(第四と第五の地嶽の間の)と沼との間の路をあゆみてこの地獄の大部分をへめぐり


    第八曲

彼等進んでディーテの城樓の下にいたりフレギュアスの船に乘りてスティージェの沼に浮びこゝにフィリッポ・アルゼンティなる者にあふ、やがて岸につきてディーテの門にむかふに魔軍群集して之を固め彼等の内に入るを許さず
一―三
【續いて】第七曲の物語をうけて
四―六
【焔】二の烽火は魂の來れるを示す相圖にて他の一の烽火はこれに應へこの相圖の通じたるをあらはす
七―九
【全智の海】ウェルギリウス
一〇―一二
【來らんとすること】相圖の結果として
一六―一八
【舟子】フレギュアス、神話に曰。フレギュアスはアレスの子なり。その女コロニスがアポロンに辱められしを憤りデルポイなるこの神の宮殿に火を放てりと、ダンテがこれに第五の地獄をまもらしめしもその愛みによりてなりされどフレギュアスの舟子なりしことはダンテ以前の記録に見えずといふ
【魂】原語に單數を用ゐしにつきては古註或ひは沼を渡る魂多からねば口ぐせとなりてかくいへるなりといひ或ひはウェルギリウスとダンテとを別々に指していへるなりともいふ
二八―三〇
【常よりも】原文、ほかの者等を載する時よりも(肉體の重みあれば)、思ふにフレギュアスの來れる時ウェルギリウスの載れる時のさまを見、一般をおしはかりてかくいへるなるべし
三一―三三
【死の】水の淀みて動かざる
【一人】フィリッポ・アルゼンティ、フィレンツェの貴族アーヂマリ家の者にてボッカッチョが怒り易きこと他に類を見ずといへる者
【時いたらざるに】いまだ死なざるに(八四行參照)
四〇―四二
ダンテを害せんとて手を伸べしなり
【犬共】怒り易き罪人等
六一―六三
【おのれを】怒りのあまり我とわが身を噛めるなり(地、二七・一二六參照)
六七―六九
【ディーテ】神話、プルート(魔王即ち『神曲』中のルチーフェロ)の異名、ディーテの都はディーテの城壁より地心に至るまでの地獄全體を含む、ダンテが魔王ルキフェル(ルチーフェロ)をディーテと呼べる例は地、一一・六五、一二・三九、三四・二〇に見えたり
【重き】罪も罰も(地、一一・七九以下參照)
七〇―七二
【伽藍】meschite(マホメット教徒の禮拜所)、ディーテの城樓をかくいへり
七六―七八
【固むる】或ひは、繞れる
八二―八七
【天より降れる】ルキフェルと共に神に背きて天を逐はれしもの
【門上】閾の上の意に解する人あり
九一―九三
【狂へる】地、二・三四―五參照
九四―九六
【世に】原語、こゝに
九七―一〇二
【七度あまり】思ふに地、二二・一〇三に見ゆるとおなじくあまたゝびの意に用ゐしなるべし、七なる數を不定數若しくは完全數として用ゐしこと聖書中に例多し(詩篇、一二・六、箴言、二四・一六等)
一〇三―一〇五
【彼】神
一〇九―一一一
【然と否】ウェルギリウスの歸り來るべきや否やを判じえざりしなり
一一八―一二〇
【憂ひの家】ディーテの邑
一二四―一二六
【門】地獄の門、傳説に曰ふ、キリスト、リムボに降れる時(地、四・五二以下)惡鬼等地獄の門を閉ぢてこれにさからひしかば打碎きて内に入りその後この門再び閉さるゝことなしと
一二七―一二九
【死の】永久に滅亡を宣言する
【ひとりのもの】天より遣はされしもの(地、九・八〇註參照)


    第九曲

あまつさへフーリエあらはれいでゝ彼等を威嚇す、彼等すなはち天の冥助を待ち遂にこれによりて門内に入りこゝに異端邪説の徒を葬れる多くの熱火の墓を見る
一―三
ウェルギリウスの事成らずして歸り來る姿を見、おそれのあまりダンテの顏蒼白となりたれば導者はその恐れを去らしめんため己が怒りの色を外にあらはさじとつとめしなり
【常ならぬ色】怒りの色(地、八―一二一―三參照)
七―九
【彼なりき】ベアトリーチェを指せるなるべし(地、二・七〇以下參照)
【一者】天より遣はされしもの
一〇―一二
先にはされどもしといひて疑ひをあらはし後には助けを約せる者のことをいひて望みをあらはせり
一六―一八
【望みを絶たれし】地、四・四〇―四二
二二―二四
【エリトン】テッサリアの巫女、大ポムペイウスの子セクスツスの請ひによりファルサーリアの戰ひ(ポムペイウスとカエサルとの)を語らしめんため一兵士の魂を呼起せることルカヌスの『ファルサーリア』(六・五〇七以下)にいづ
二五―二七
【ジュダの獄】ジュデッカ(地、三四・一一七)、第九の地獄にあり、イスカリオテのユダの罰せらるゝところ
二八―三〇
【天】プリーモ・モービレとて他の諸天を囘轉せしむる第九の天なり(天、二八・七〇―七一參照)
三一―三三
【怒りを見ずして】尋常にては
三七―三九
【フーリエ】エリニュエス、神話にいづる三女神、仇を報い罪ある者を罰す
四〇―四二
【チェラスタ】頭に二個の黒き角ある小蛇
異本、小蛇とチェラスタ
四三―四五
【侍婢等】フーリエ傳説に曰、フーリエは魔王ハデスの妻ペルセポネの侍婢なりと、かぎりなき歎きは、かぎりなき歎きの國乃ち地獄なり
【エーリネ】エリニュエス、フーリエのギリシア名
五二―五四
【メヅーサ】神話ゴルゴン(三女怪)の一、その頭を見るもの直ちに化して石となるといふ
【テゼオ】テセウス、神話に曰、テセウスはアテナイ王アイゲウスの子なり、その友ピリトウスを助けペルセフォネを奪はんとて地獄に下りハデスの捕ふるところとなる、後エルクレ(ヘラクレス)地獄にゆきて之を救へりとテセウスに十分の怨みをむくいしならば世の人おそれて再び地獄に入來る者あるまじかりしを
五五―五七
【ゴルゴン】メヅーサの頭
六一―六三
メヅーサの譬喩的解説につきてはダンテの眞意明かならず古來或ひはこれを異端邪説の象徴とし、或ひは色慾、貪婪、恐怖、嫉妬、疑惑、絶望等の表示とし異説甚だ多し、されどおもふにディーテの城は放縱の罪乃ち情を制する能はずして犯せる罪と邪惡乃ち惡心衷に萌して人を害するにいたりし罪とをわかつ境にあるものなれば、メヅーサを邪惡の代表と見做す説採るべきに似たり、その頭を見る人化石するはディーテ城外の罪と異なり惡念心に入りて習性的色彩を帶びあたかも惡性の痼疾の醫藥に於ける如く解脱の望みさらになきを示せり(詳しくはスカルタッチニの註にいづ、スカルタッチニはエリニュエスを本心の苦しみ乃ち自責としメヅーサを疑念と解せり)
六七―七二
【反する熱】異なる地方の熱
七九―八一
【一者】天使、兩詩人をたすけて門内に入らしめんため特に天よりくだれるもの
【魂】怒る者の魂
【徒歩にてスティージェを渡るに】或ひは、スティージェの渡りをわたるに
九七―九九
【チェルベロ】ケルベロス、(地、六・一三)、神話に曰、ヘラクレス天の命によりて地獄にくだれる時ケルベロスこれにさからひたれば鎖をもてこれをいましめ地獄門外に引出せりと
【毛なき】鎖のあと
一〇〇―一〇五
【ほかの思ひ】天に歸るを願ふ心
一一二―一一五
【アルリ】アルル。ローダーノ(フランスのローン川)河畔の町、河水わかるゝにあたり停滯して一湖をなす、名高き墓地ありしところ、傳説に曰、シヤルルマーニュ(カルロ・マーニオ)こゝにサラセン人と戰ひキリスト教徒の死者甚だ多くして葬るに暇なかりしが神恩これに臨み一夜にして無數の墳墓現出せりと
【ポーラ】イストリア(現今オーストリヤ領)の南端にある町、昔ローマの墓地ありし處、カルナーロ灣はアドリアティコ海の一部にてイストリアの岸を洗ふ
一二七―一二九
【邪宗】こゝに eresia といへるは寺院の教理に反して靈魂の不滅キリストの神性等な認めざりし者の謂なり
【荷】罪人、一の墓の中に多くの罪人を葬れるなり
一三〇―一三二
【右】詩人等地獄をくだるに常に道を左にとれり、これ罪の道は左より左にむかひ、惡より惡に進むを示せるなり(地、一四・一二六參照)しかるにこれに反し道を右にとれること二囘ありその一はこの處、他は地、一七・三一にいづ、この二囘の例外につきてはダンテの眞意知りがたし


    第十曲

詩人等第六の地獄の中エピクロス(エピクロ)及びその一派の者の葬らるゝところにいたりし時ダンテはこゝにファーリナータ及びカヴァルカンテとかたり前者の言によりてその身のフィレンツェより逐はるべきを知る
一―三
【かくれたる】異本、狹き
一〇―一二
【ヨサファット】エルサレムに近き溪の名、最後の審判の行はるゝところ(ヨエル書三・二及び一二)
一三―一五
【エピクロ】エピクロス、有名なるギリシアの哲學者、エピクロス學派を起せるもの(前三四一―二七〇年)
一六―一八
【願ひ】フィレンツェの者を見んとの願ひなるべし
一九―二一
【今のみならじ】多言を愼しむの意を起さしめしは今のみにあらず(地、三・七六―八一參照)
二二―二四
【トスカーナ】ダンテの郷國、フィレンツェこの中にあり
二五―二七
【郷土】フィレンツェ
【虐げし】フィレンツェのグエルフィ黨を惱まし(三一―三行註參照)
三一―三三
【ファーリナータ】フィレンツェなるウベルティ家の出、一二三九年ギベルリニ黨の首領となる、一二五八年その徒黨と共に郷土を逐はれてシエーナにいたりこゝに同志を糾合し同六〇年九月グエルフィ黨とモンタペルティ(八五―七行註參照)に戰ひ大いにこれを敗る(一二六四年死)
三七―三九
【明かならしめよ】政敵に對して言語の明截的確なるべきを注意せしなり
四三―四五
【從はん】ウェルギリウスの注意に背かざらんため
【眉をあげ】過去の記憶を呼起すさま
四六―四八
【かれら】ダンテの父祖は皆グエルフィ黨なりければ
【兩度】一二四八年友び一二六〇年
四九―五一
【前にも後にも】一二五一年及び一二六六年
【術】フィレンツェに歸ること、一二六六年ベネヴェントの戰ひの後グエルフィ黨再びフィレンツェに歸りギベルリニ黨はこゝより逐はる、一二八〇年にいたりて兩黨調停の事あり、されどウベルティ一家の者はなほその郷土に入るを許されざりき
五二―五四 或ひは、この時頤まであらはなりし一の魂これとならびてあらはれいでたり
【口】墓の
【一の魂】カヴァルカンテ・カヴアルカンティ、グエルフィ黨に屬せり、ファーリナータと同じく來世の存在を信ぜざりきといふ
五八―六〇
【わが兒】グイード・カヴァルカンティ、ダンテが『新生』三・九八―九にわが第一の友といへるもの、詩を書くしまた哲學に通ぜり、十三世紀の半フィレンツェに生る、一三〇〇年黒白兩黨の爭ひこゝに起れる時故ありて白黨に與し、これがためにフィレンツェの西北なるサルツァーナに幽せられ病を得、郷に歸りて死す(同年八月)、グイードの妻はファーリナータの女なり
カヴァルカンテはわが兒グイードの才ダンテに劣るまじきとまたそのダンテの親しき友なるをおもひてかくいへるなり
六一―六三
【侮りし】義不明、ドヴィディオ(D' Ovidio)はこは『アエネイス』の著者としてのウェルギリウスに對するグイードの態度をいへるに外ならずとし兩者の趣味詩風の相違を論じかつグイードのエピクロス派的傾向若しこの問題に聯關せば『アエネイス』にあらはれし宗教思想來世の状態の記述等この傾向と相反するの謂なるべしといへり
六四―六六 その言によりて友の父なるを知りその罰によりてエピクロスの末流なるを知る
六七―六九 侮るといはずして侮りしといひ過去の動詞を用ゐたるをあやしめるなり
【光】日の
七三―七五
【請ひて】二二―四行
七六―七八
【床】燃ゆる墓
七九―八一
ファーリナータの豫言なり、曰く、汝は今より五十ケ月以内に郷里に歸ることのいかばかり難きやを自ら味ひ知るなるべしと
【女王】魔王プルートの妻ペルセポネ(地、九・四三―五註參照)神話によりて月と見做せるなり
八二―八四
【願はくは】物を請ふにあたりて請はるゝ人の幸を希ふ意を陳ぶ、以下この例甚だ多し
【わが宗族】四九―五一行註參照
八五―八七
【アルビア】トスカーナ州の川の名、有名なるモンタペルティの戰場(シエーナの東南六十餘哩)はこの河畔にあり、一二六〇年九月四日追放されしフィレンツェのギベルリニ黨シエーナ人と合してフィレンツェのグエルフィ黨と戰ひ大いに之を敗る(三一―三三行註參照)
【祈りを】再び政權をフィレンツェにえしグエルフィ黨はモンタペルティの殺戮を惡むのあまりかくウベルティ家に不利なる法令を出してその郷土にかへるをゆるさず
【神宮】註釋者曰ふ、當時聖ジョヴアンニの寺院をフィレンツェ高官の議場にあてたればこれに因みて法令を祈りといへるなりと
八八―九〇
【かの事】モンタペルティの戰ひ
九一―九三
【處】エムポーリ、フィレンツェの西十九哩なるアルノ河畔の町、モンタペルティの戰ひの後ギペルリニ黨の人々この處に相會し後日の累を免かれんためフィレンツェ破壞の事を議せしがファーリナータ一人の劇烈なる反對ありて議遂に成るに至らざりきといふ
九七―九九
汝等は未來の事を知りてしかも現在の事に暗きに似たり、ファーリナータはダンテの未來を豫知しカヴァルカンテはわが兒の生死を知らず
一〇〇―一〇二
【光備はらざる】遠視眼の
こゝに我等といへるは地獄全體の罪人を指せるか第六の地獄の罪人のみを指せるか明かならざるに似たれども註釋者多くは之をもて全地獄の罪人と解せり、地、二七・二五以下にグイード・ダ・モンテフェルトロがローマニアの現状をダンテに問ひし如きまたこの例に洩れず、罪人の未來を豫言せる例は處々に見ゆれども現在の事を語れる例はたゞ第六曲のチヤッコの物語にあるのみ(地、六・四九以下、同七三)、さればむしろチヤッコを例外と見做すかた自然なるべし
一〇六―一〇八
最後の審判の日至れば未來の門は閉されて永遠の門開かる、未來既に消滅すれば未來の事にかぎられし罪人の知識は從つて全く消滅す
一〇九―一一一
【咎】カヴァルカンテの問に直ちに答へざりしこと(七〇―七一行)
一一八―一二〇
【フェデリーコ】有名なるローマ皇帝フリートリヒ二世(一一九四―一二五〇年)、エピクロスの徒と見做されし者
【カルディナレ】オクタヴィアーノ・デーリ・ウバルディニ、一二四五年カルディナレとなり、同七三年に死す、ギベルリニ黨に屬しエピクロスの流れを汲める者にて死に臨み、たとひ世に魂なるものありとも我は既にギベルリニ黨のためにこれを失へりといへりと傳へられる
一二七―一二九
【わが言に】原、こゝに
【指を擧げたり】ダンテの注意を促すため
一三〇―一三二
【淑女】ベアトリーチェ。ベアトリーチェ、ダンテにすゝめてカッチャグイーダにその生涯の事を問はしむ(天、一七・七以下)
一三三―一三五
【溪】第七の地獄


    第十一曲

第六の地獄を去るに臨みウェルギリウスはこれよりめぐるべき三の地獄の構造とその中なる罪人の分類を論じディーテ城門の内と外との罪を比較しさらに高利を貪る者の罪を擧げてダンテに教ふ
一―三
【岸】第六と第七の地獄の間の(第十二曲の始めにくはし)
四―九
【フォーチン】フォティヌス、テッサロニアの僧、チェーザレア(パレスチナにあり)の僧正アカキウスが異端の故をもて僧籍より除名されしことありしときフォティヌス彼のために復籍を取りはからはんとてローマにいたれり
【アナスターショ】法王アナスタシウス二世(四九六年より同八年まで在位)、ローマの人、當時東西二派の寺院異端につきて爭へるにアナスタシウスその調停に志しその頃ローマに來れるフォティヌスを屡□引見せるより己もまた異端に陷れるが如くおもはるゝにいたりしなりといふ
一六―一八
【次第】大小高低次をなすこと
一九―二一
【見るのみにて】罪人の種類をウェルギリウスに問ふ(地、三・三三、七三、四・七四等)に及ばざるため
三一―三三
【屬けるもの】神に屬するものは自然と神恩、人に屬するものはその持物(三四行以下)
四〇―四五
第七の地獄第二圓に罰せらるゝ浪費者は第四の地獄に罰せらるゝ放縱なる浪費者と異なり博奕またはこの類の事により人の不利をわが利となさんとするものなり
【喜ぶべき處】地上、生命財産は善用して幸に入るの階段となすべきを惡用して自ら悲歎の境界に陷るなり
四九―五〇
【ソッドマ】男色即ち自然に反する罪(創世記第一九章)
【カオルサ】高利貸即ち神の恩惠(自然の賜なる財寶)にむかひて暴を行ふ罪、カオルサはフランスの南にある一都會(カオルス)の名なり、中古、高利貸の極めて多かりしところなりければかくいふ
【封ず】默示録、二〇・三參照
五二―五四
【心これによりて】豫め深くたくらみて人を欺くが故にこれを行ふ人、本心に痛みを感ぜざるはなし
五五―六〇
己に特殊の關係なきものを欺くは人間相愛の道に背くなり
第八の地獄なる各種罪惡の分布左の如し
僞善     第六嚢  地、二三
諂諛     第二嚢    一八
惑はす者   第四嚢    二〇
詐欺     第十嚢 二九、三〇
竊盜     第七嚢 二四、二五
シモニア   第三嚢    一九
判人     第一嚢    一八
汚吏     第五嚢 二一、二二
外にこのたぐひの汚穢
詐りの謀   第八嚢 二六、二七
爭ひを蒔く者 第九嚢    二八
【シモニア】僧官及び其他の神聖なる物を賣買すること、この語の出處につきては地、一九・一―六註參照
【汚吏】baratti 公私に論なく己が職務を利用して益をはかる者
【第二の】これよりめぐらんとする獄の中の第二、即ち全體よりいへば第八の獄
六四―六六
【ディーテ】地獄王ルキフェル(地、八・六七―九註參照)
七〇―七二
デイーテ城外の諸地獄にある者(第五、第二、第三、第四)
七九―八四
【汝の倫理】アリストテレスの倫理學第七卷の始め
ダンテの分類とアリストテレスの分類とは同一にあらず、ダンテの邪惡はアリストテレスの邪惡とその義を異にすムーア博士曰、ダンテはまづアリストテレスにより、地獄に罰せらるべき凡ての罪をば情を制する能はずして犯せる罪と痼疾の罪との二にわかちさらにキケロにより、後者を力と欺の二にわかてるなりと(『ダンテ研究』第二卷一五八頁以下)
八五―八七
【上に外に】地獄の上方ディーテの門外
八八―九〇
【復讎】異本、正義
九一―九六
【汝の言】四六行以下
九七―一〇五
【その枝】神が自ら定めたまひし故に從ひてその業をなしたまふこと
【汝の理學】アリストテレスの『理學』(フィージカ)二卷二・七
【孫】人間の技は自然よりいで自然は神よりいづ、故に人間の技は神の孫の如し
一〇六―一〇八
【二のもの】自然と技、即ち人は自然に倣ひその法に從つて努力し神の賜を自然の中に求むべきものなること
【創世記】創世記三・一九に曰く、汝顏に汗して食を得べし
一〇九―一一一
高利を貪る者は神の定むるところに反し自然の恩惠と自己の努力によりて富を求むることをなさずたゞ貨をして貨を生ましむるの道をとりその望みを不正の利益におきて自然とその從者なる人間の技とをないがしろにす
一一二―一一四
【雙魚】雙魚宮は白羊宮にさきだつ天の十二宮の一、この時太陽は白羊宮にあり(地、一・三八)そのあらはるゝは雙魚の星に後るゝこと約二時間なり、故に兩詩人がアナスタシウスの墓側を離れしは日出前約二時間乃ち四月九日年前四時の頃なるべし
【コーロ】西北の風、こゝには西北の空の意


    第十二曲

詩人等斷崖を下りて第七の地獄第一の圓にいたればこゝに血の流れあり他人にむかひて暴なるものを煮またあまたのケンタウロス(チェンタウロ)ありて掟に從はざるものを射る、その一ネッソス(ネッソ)ウェルギリウスの請ひによりダンテを負ひて淺瀬を渡り第二の圓にむかふ
一―三
【物】一一行以下のミノタウロス(ミノタウロ)
四―六
【トレント】イタリア北方の山地にある町(チロルの南)
【アディーチェ】川の名、チロルよりいでヴェロナの市街を貫流し北イタリアの平野を過ぎてアドリアティコ海に入る
山壞れのありしところはトレントとヴェロナ兩市の間なるロヴェレートの町に近き處にてスラヴィーニ・ディ・マルコといひ一三〇二年ダンテ逐はれてヴェロナに客たりし時親しく見し處と傳へらる
一〇―一五
【くだけし坎の端】破岩により成る第六獄の端
【クレーチの名折】ミノタウロス(ミノタウロ)
神話に曰、ミノタウロスは牛頭人體の怪物なり、その母パシファエ(パシフエ)(淨、二六・四一)はクレタ(クレーチ)島(ギリシアの南地中海にあり)の王ミノス(地、五・四にみゆるミノスの孫)の妻なりしが海神ポセイドンよりミノスに賜はれる牡牛を慕ひ當時の名匠ダイダロスの造れる木製の牝牛の中に入りて遂にミノタウロスを生むに至れり
一六―一八
【アテーネの公】テセウス(テゼオ)
神話に曰、ミノスはミノタウロスの生れしを恥辱とし、ダイダロスの造れる一迷宮の中にこれを幽して外に出づるをなからしめ且つ年々若き男女各□七人をアテナイに課してこの怪物の食に宛てたり、アテナイ王アイゲウスの子テセウス(地、九・五四)ミノスの不法を憤り海を渡りてクレタに赴きまづミノスとパシファエの間に生れしアリアドネ(乃ち、汝の姉妹)の歡心を得その教に從ひ歸路に迷ふことなからんため絲を身に結びて迷宮に入りミノタウロスを殺せり
三四―三六
【地獄に下れる】エリトネ(エリトン)の命をうけて(地、九・二二以下)
三七―三九
【ディーテ】地獄の王ルキフェル(ルチーフェロ)
キリスト地獄にくだり第一の獄乃ちリムボにとゞまる人類の始祖アダムの魂をはじめ多くの魂をルキフェルの手より奪ひ去りしことあり(地、四・五二以下)この時より少しく前といへるは即ちキリスト磔殺の時を指せるなり、地獄内の岩の壞れを教祖磔殺の時に起れることゝなせるはマタイ、二七・五一に、地震ひ岩裂け云々とあるによれり
四〇―四五
【宇宙愛に】エムペドクレス(地、四・一三八)の説を指せり
エムペドクレス思へらく宇宙は愛と憎の如き異分子の結合によりてその常の状態を持續するものなれば若し一方の力勝ち類その類と相合ふにいたる時は却つてこれがために混亂の状態に變ずと
四六―四八
【血の河】地獄の川の一なるフレジェトンタ(地、一四・一三〇以下參照)
四九―五一
異本、あゝ失明の慾よ狂へる怒りよ
四九行よりは地の文なり
五二―五四
【告げし】地、二・三〇、三七―九
五五―五七
【チェンタウロ】ケンタウロス、暴びの代表なり、神話にいふ、この者胸部より上は人にして下は馬なりと
【世に住みて】ケンタクロスはもとギリシアのテッサリア山地の蠻民なりしを次第に誤り傳へて妖怪となせしなり、骨格逞しき山地の蠻民が肥馬に跨がつて狩にいでし姿はげに半人半馬の怪物群を成して横行するの風情ありしなるべし
六四―六六
【キロン】キロネ、ケンタウロスの一、クロノス神の子、天文、醫藥、音樂、狩獵の諸術に通じ兇猛なるケンタウロスの中にありてひとり異彩な放てり、ホメロスかつてこれをよびてケンタウロスの中の最も義しきものといへることあり、また善く人と親しみアキレウスの父ペレウスとテチスの媒となり又自らアキレウスの師となれり、ウェルギリウスが殊更にキロンをえらべるも此等の消息に通ぜるによりてなり
【禍ひをえき】死を抱くにいたれり(ネッソの條參照)
六七―六九
【ネッソ】ネッソス、神話に曰、ヘラクレスその妻デイアネラ(デイアニーラ)と旅してエウェノス河(ギリシア)に至れる時こゝにケンタウロス、ネッソスの川越人足をなしゐたるを見、妻をその背に托し自らまづ川を渡り岸に着きて後をみしにネッソスはデイアネラを負ひしまゝ逃げさらんとするところなりければ乃ち弓にてこれを射その矢ネッソスの胸を貫けり、ネッソス死に臨み血に染みし己が衣をデイアネラに與へこの衣には男の心を放れしめざる不思議の力ありと欺き教ふ、この後いくばくもなくヘラクレスの心他の女にうつれりとの評さかんなるなきゝデイアネラ乃ちネッソスの衣をこれに送れり、ヘラクレス之を着くるに及びて忽ちその毒に感じ苦悶甚しく遂にオエタ山上に死せり(オウィディウスの『メタモルフォセス』九・一〇一行以下)
七〇―七二
【胸をみる】沈思の状
【はぐゝめる】教育せる(六四―六行註參照)
【フォーロ】フォロス、ケンタウロスの一、テセウスの友ピリトウスとヒッポダーミアの婚姻の筵に招かれ酒に醉ひて暴れ廻り自ら死を招くにいたれり(オウィディウスの『メタモルフォセス』一二・二一〇以下)
八二―八四
【二の象】人と馬との
八八―九〇
【ひとりのもの】ベアトリーチェ
【アレルヤ】(主をたゝへよ)天堂にて歌ふ頌詠
【盜人の魂】或ひは惡き魂、欺く魂
一〇六―一〇八
【アレッサンドロ】有名なるマケドニア王アレクサンドロス(前三五六―三二三年)の事なるべし
異説曰、テッサリアのフェレ市の暴君アレクサンドロス(前三五九年死)の事と
【ディオニシオ】ディオニシウス、シケリア島シラクサ市の僭主(前三六七年死)
一〇九―一一四
【アッツォリーノ】アッツォリーノ(或ひはエッツェリーノ)・ダ・ローマーノ(一一九四―一二五九年)北イタリアに多くの地を領し暴虐を極めし者
【オピッツォ・ダ・エスティ】一二六四年よりポー河の南三哩なるフェルラーラ市に君たり、一二九三年その妾腹の子アッツォ(淨、五・七七)の殺すところとなる
或曰、こゝに繼子といへるはたゞ罪の不自然なるより實子アッツォをダンテかく呼べるならんと
【この者今は】今はネッソス第一の案内者にて我はこれに次ぐものなれば彼の云ふところな疑ふ勿れ
一一五―一一七
【煮ゆる血汐】bulicame ブリカーメはヴィテルポに近き温泉の名(地、一四・七九及び註參照)をとれるなり
【一の民】人を殺せる者等
一一八―一二〇
【一の魂】ガイ・オブ・モンフォート、その父シモンがイギリス王エドワード一世のため死するにいたれる(一二六五年)を怨みエドワードの叔父にてシモンの義兄弟なるリチャードの子ヘンリー(即ちガイの從兄弟にあたる)が法王選擧の事に關しヴィテルポに止まれるを知りこの地の寺院の式に臨める時をうかゞひこれを寺院内(神の懷)に刺殺せり(一二七一年)
【ターミーチ】ロンドンのテムズ川、ヘンリーの心臟は黄金の器にをさめられてテムズ橋上に供へられきといふ説あるによれり
一二一―一二三
【民】人を傷けまたはその持物を奪へる者
一二四―一二六
【燒く】異本、蔽ふ
一三〇―一三二
【暴虐】一〇三行の僭主
一三三―一三八
【アッティラ】神の笞と呼ばれし有名なる匈奴(フンヌ)人の王にて五世紀にイタリアを襲へるもの
【ピルロ】ギリシアのエピロスの王ピルロス(前三一八―二七二年)、イタリアを攻めてローマ人を惱ませし者一説にはアキレウスの子ピルロスを指せりともいふ
【セスト】セクスツス、大ポムペイウスの子、イタリアの海岸を荒せしもの(前三五年死)
【リニエール・ダ・コルネート】ダンテ時代の名高き盜賊
【リニエール・パッツォ】同上


    第十三曲

第七の地獄第二の圓は己が身己が産に暴を加へし者の罰せらるゝ處なり、詩人等こゝに自殺者ピエール・デルラ・ヴィーニアと語りまた産を荒せし者の犬に噛み裂かるゝを見る
七―九
チェチーナとコルネートの間の不毛の地をえらびて棲む猛き獸、チェチーナはイタリアの西海岸地中海に注ぐ小河コルネートは同じ海岸の町、この川と町との間は略□マレムマと稱せらるゝ一帶不毛の地にあたり山林沼地多くして耕地甚だ少なし
一〇―一二
【アルピーエ】ハルプュイアイ、神話にいづる怪物、頭處女の如く體羽翼爪は鳥に似たり常に群集し汚穢極りなしといふ
【悲報】アエネアスその士卒と共にストロファデス(ストロファーデ、イオニア海中の二小島)に上陸せし時、ハルプュイアスのために惱まされ劒を拔いてこれを追へるに其一ケライノなる者トロイア人にむかひ汝等後日饑に迫りて食卓をも喰ひ盡すに至るべしといへること『アエネイス』三・二〇九以下に見ゆ
一六―二〇
【恐ろしき砂】第三の圓なる砂
【信を奪ふ】わが言をきくのみにては眞と信ずまじき
異本、わが言に信を與ふべき
二五―二七
【我等のために】我等をおそれて、我等に見れらざらんため
三七―三九
【木】自殺者の理性と官能の作用とを失へるをあらはせり
四三―四五
【尖】折取りし小枝の先
四六―四八
【我詩の中にのみ見しこと】アエネアス、トラキヤに上陸しその母アプロディテ及び其他の神々を祭らんとし祭壇を蔽はんためそのあたりの丘にゆきて樹木を曳けるに黒き血滴りて地を染む、かくすること三度に及べば悲しき聲丘下より出で、アエネアスよ何とて幸なき者を裂くや云々とつぶやき且つその生前はアエネアスの身寄なるポリドロス(地、三〇・一八)といへる者なりしことを告ぐ(『アエネイス』三・一九以下)
五八―六〇
【我】ピエール・デルラ・ヴィーニア、十二世紀の末ナーポリ附近の下賤の家に生れしものなりしが皇帝フリートリヒ(フェデリーコ)二世に事ふるに及びてその信任を得大いに用ゐらる、一二四八年反逆の罪をうけて獄に投ぜられ翌九年獄中に自殺す、彼また詩文を善くしその著作今に傳るといふ
【或は閉ぢ或は開き】わが好むところには帝の心を開き好まざるところには之を閉ぢ
六一―六三
【睡りをも脈をも】夜は眠りをなさず晝はいたく疲勞す
異本、血筋をも脈をも
六四―六六
【チェーザレの家】王宮
【遊女】嫉み、萬民共通の罪惡にして特にやんごとなきあたりに甚し
六七―六九
【アウグスト】オクタウィアヌス以下ローマ皇帝の稱號、こゝにてはフリートリヒ二世を指す
七三―七五
【奇しき】或ひは、新しき
九四―九六
【第七の口】第七の地獄
一〇〇―一〇五
【窓】痛みの歎きとなりて外に出るところ即ち傷口
【行くべし】肉體をえんとてヨサファッテの溪にゆくなり(地、六・九七―九、同一〇・一一)
一〇六―一〇八
魂木に入り、體はその木の上に懸けらる
一一二―一一四
【立處】獵の一行のうち野獸の逃げ路を見張る者の立つ處
一一八―一二三
【さきの者】ラーノ、シエーナの人、一二八八年フィレンツェ人を助けピエーヴェ・デル・トッポ(寺領の名)の戰ひに臨みアレッツォ人の敗るところとなりて死す
【疾く】或ひは、助けよ
苦しさのあまり魂の無に歸せんことを希ひて死を呼べるなり
【ひとり】ジャーコモ・ダ・サント・アンドレーア、パードヴアの人にてラーノと同じくその資産を妄りにせしものなりといふ
【汝の脛】トッポの戰ひにラーノは戰場をのがれて命を全うし得べかりしも資産すでに盡き餘生を幸ならしむる望みなきをおもひ軍利なきにかゝはらずとゞまりて敵に當れるなりといふ
一二四―一二六
【牝犬】ハルプュイアイ(アルピーエ)の徐々蠶食しゆくは自殺者の心を晝き黒犬の猛烈なるは浪費者の生涯を寫せるなり
一三〇―一三五
【折際(をりめ)より】或ひは、折傷のため
ジャーコモのかくれしため折り荒されしなり
一三九―一四一
【彼】自殺者の名不明
一四二―一四四
【邑】フィレンツェ、初め軍神マルス(ギリシアではアレス)をその守護神とせしがキリスト教の傳來と共にバプテスマのヨハネを以てこれに代へたり
一四五―一四七
【その術】軍神の術乃ち戰亂
【アルノの渡り】マルスの堂宇ジョヴァンニの寺院に變ずるとともに人々軍神の像をアルノ河邊の一塔中になさめたりしが五四二年ゴート人の王トチラ、フィレンツェを攻めて陷るゝに及びこの像アルノの水に沈めり、シャルルマーニュの世フィレンツェ復舊の事ありし時、人々まづ沈めるマルスの像を取上げこれをアルノの渡乃ちポンテ・ヴェッキオと名づくる橋の一端に安置す、こゝに名殘といへるはこの像すでに多く破損したればなり(天、一六・一四五參照)
一四八―一五〇
【アッティラ】有名なる匈奴(フンヌ)人の王(地、一二・一三四)、されどフィレンツェに侵入せるはトチラにしてアッティラにあらず、ダンテは傳説によりてこの名をあげしなるべし
【灰の上】トチラ(或ひはアッティラ)、フィレンツェを燒けりといふ傳説によれり
一五一
我はわが家の内にて首を縊れるなり


    第十四曲

第七の地獄第三の圓は神及び神の物にむかひて暴を行へる者の罰せらるゝ處にてこゝに三種の罪人ありこの曲にてはまづその一種乃ち神を侮るものゝ刑罰をあぐ、詩人等そのひとりなるカパネウス(カパーネオ)を見その暴言をきゝて後フレジェトンタの川にいたりこゝに導者地獄内なる諸川の由來をダンテにかたる
一―三
【郷土の愛】自殺者と同郷の好みあれば
一〇―一二
【憂の林】自殺者の森
【悲の濠】血の河
一三―一五
【カートンの足踏めるもの】アフリカなるリビヤの砂漠
紀元前四七年ウティカのカトー(カートン)(前九五―四六年)ポンペイウス敗餘の軍を率ゐてヌミディア王ジウバと合せんためリビヤの砂漠を過ぐ
二二―二四
【臥せる】神を侮れる者
【坐せる】自然と神の賜をしひたげしもの(高利貸)
【歩める】自然に背けるもの(男色)
仰臥するは侮蔑の目を天にむかはしむるなり、坐するは額に汗せずして貸殖に腐心するなり、歩むは情慾の誘ふままに正道を離るゝなり、三種の罪人いづれも生前の状態に從つてその罰を異にす
二五―二七
男色を行ふものその數最も多く高利貸これに次ぎ神を侮る者最も少なし、しかもその最も少なき者罪却つて重ければ歎聲を發することまた却つて他よりも多し
三一―三三
【アレッサンドロ】アレクサンドロス大王よりアリストテレスに送れりと傳へらるゝ書簡の中インド行軍の記あるによれり
この書の中には大王、大雪にあひ士卒にこれを踏ましめ次に雨下する火焔にあひ部下に衣をもて拂はしめしことしるさるゝも火焔を踏ましめしことみえねばダンテは中古の大哲アルベルトス・マグヌスの著書によりてかく火と雪とを混ずるにいたれるなるべしといふ、委しくはトインビーの『ダンテ字典』(A Dictionary of Proper Names and Notable Matters Works of Dante-P. Toynbee)にいづ
四〇―四二
【亂舞(トレスカ)】手足を急速に動かして舞ふ舞踏の一種
四六―四八
【大いなる者】カバネウス、テバイを圍める際ゼウスの怒りに觸れその電光に撃たれて死す(六七―七二註參照)
【熟ましめじ】火の雨もその慢心を挫く能はず、果實の始めは固く酸くして後は軟かく甘きに譬へしなり
五二―五四
【ジョーヴェ】ゼウス。ギリシア・ローマの神話にいづる神
カパネウスの神は昔の神にしてキリスト教の神にあらず、彼は全く智能の功徳を失ひ(地、三・一八)我を罰する神の何たるを知らざるなり、ダンテがこゝに神を侮るものゝ代表者としてカパネウスをあげしはその神と信ずる者にむかひて不遜なる點よりみれば名異なるも實同じきを以てなり、淨、六・一一八にダンテ自らキリスト教の神をジョーヴェと呼べることあるをおもふべし
【鍛工】ヴルカーノ(ヴルカヌス又はヘファイストス)。ゼウスの子にして火の神なり、神話に曰ふ、この神エトナ山中の工場にてゼウス神のためにその電光の矢を鍛へりと
五五―六〇
【フレーグラ】プレグライ。ギリシアのテッサリアの曠原、ゼウスと巨人軍との戰ひありしところ
【モンジベルロ】エトナ山の古名なり、シケリア島にある火山にてヘファイストスの鍛工場ありしところ
【鍛工等】キクロペ(チクロピ)と稱する一眼の巨人等、ヘファイストスをたすけてエトナの工場に鐡鎚をふるふ
六一―六六
【劇しき怒り】怒りて自ら苦しむは神の刑罰をいよ/\大ならしむるに外ならず
六七―七二
【七王】ギリシアの七王、カパネウス、アドラストス、テュデウス、ヒッポメドン、アンフィアラオス、パルテノパイオス、ポリュネィケス
テバイ王オイデプスとイオカステの間に二兒あり、エテオクレス、ポリュネィケスといふ、父オイデプスの後を承け年毎に交代してテバイを治むる約ありしにエテオクレス時至るもなほ弟に讓るを肯はざらしかば、ポリュネィケスこゝに諸王をかたらひその助けを得て軍を起しテバイを攻む、是即ち七王の役なり
七六―七八
【小川】フレジェトンタ(一三一行)、地獄の川の一、第一の圓の血の河自殺者の森の下を過ぎてこゝに流れ下れるなり
七九―八一
【ブリカーメ】ヴィテルボを距る二哩にある温泉の名、この水集まりて池となり池より一の細流いづ(ダンテ時代に)、こゝにては水の湧くと流れの急なるとをくらべしなり
【罪ある女等】遊女等、彼等他の婦人と混じて浴を取る能はず少しく水源地を離れしところより各戸に水を引きて己が浴場の用となせりといふ
八二―八四
【路】第八獄への
八五―八七
【門】地獄の門(地、八・一二四―六及び註參照)
八八―九〇
【その上に消す】地、一五・二―三參照
九一―九三
【慾を】流れの不思議なるを告げて求知の念を起させたれば今教示してその念を滿足せしめよ
九四―九六
【海】當時地中海を單に海といへり
【クレータ】地、一二・一二
【王】クロノス(サトルノ)神、クレタ島最初の王にてこの王の治めし頃を黄金時代といふ
九七―九九
【イーダ】イダ、クレタ島の中央にあり
一〇〇―一〇二
【レーア】レア、神話に曰、レアはクロノス神の妻にてゼウス及びその他の神々の母なり、そのころクロノスの位はその子の奪ふところなるべしとの豫言ありしかばわが子の生るゝに從ひ神これを喰ひ盡せり、ゼウス生るゝに及び母レアこれをイダ(イーダ)山中の洞窟にかくし且つ泣く聲によりてその所在を知られんことを恐れクレタ人に命じ或ひは樂を奏し或ひは饗宴を張りて聲をあげて以て呱々の聲を沒せしむ
一〇三―一〇五
【老巨人】ダニエル、二・三一以下ネブカドネザル王の夢の中にあられし巨人の像によれり、聖書の巨人はこの王以後の世の變遷を示しダンテの巨人は人類の歴史を總括す、頭より以下金の銀となり銅となり鐡となるは黄金時代次第に退歩し歴史の老ゆるに從つて人類次第に墮落しゆくを示せるなり、またクレタ島を巨人の立つ處となせるはクロノスの治世の下にこゝに理想の世を現出したるとこの島は當時の所謂世界三大睦の略□中央に位するが故なるべし(スカルタッチニ註參照)
【ダーミアータ】エヂプトの北海岸ナイル河口を距る八哩にある町、こゝにては東方一帶の地を指し古代王國の所在地として過去を代表す
【ローマ】世界活動の中心として現在を代表す
一〇九―一一一
【右足】註釋者曰、巨人の兩足は帝國と寺院なり、寺院の腐敗したるを燒土にたとへしかも輿望のなほ之にあつまれるを巨人を支ふるにたとへしなりと
一一二―一一四
罪の涙流れざるはたゞ黄金時代あるのみ
【窟】イダ山中の洞窟
一一五―一一七
【アケロンテ】地、三・七〇以下
【スティージェ】地、七・一〇六以下
【フレジェトンタ】地、一二・五二以下
一一八―一二〇
【コチート】地獄の底の池、地、三二・二二以下
一二一―一二三
【縁】第二の圓の
一二四―一二六
【左】地、九・一三〇―三二註參照
一三〇―一三二
【レーテ】一三六―八行註參照、ウェルギリウス未だレーテの事をいはず、フレジェトンタは巨人の罪の涙より成るといへり
一三三―一三五
【煮ゆる紅の水】第一の圓の河水赤く湧くをみてそのフレジェトンタなるを知りうべかりきとなり
ウェルギリウスはダンテの『アエネイス』に精しきを知りてかくいへり、この歌六・五五〇―五一に、冥府の急流フレジェトンタその迸る焔をもてこれをめぐり云々とあり
一三六―一三八
レーテ(忘るゝ義)の川は地獄の外淨火に穢れを淨むる魂己を洗はんとてゆくところにあり(淨、二八・一二一以下)


    第十五曲

兩詩人フレジェトンタの堤を傳ひて進み第三の圓第二種の罪人乃ち自然を亂せる者(男色)の火の雨にうたれつゝ砂上を歩み來るをみる、その中にブルネット・ラティーニあり己が群を離れてダンテと共にゆきその將來を豫言しまたその群の中の主なる罪人の名をこれに告ぐ
四―六
【グイッツァンテ】(乃ちウィサント)ダンテ時代のフランドル(フィアンドラ)の西端カレーに近き町
【ブルッジア】ブルージェ、同東端の町
兩地の間約六十五哩にて略□フィランドルの海邊(今のフランスの東北端とベルギーの一部の)といふに同じ、土地低きが故に海水の浸入を防がんため堤防を築く
七―九
【ブレンタ】アルピの峰よりパードヴァの町のほとりに流れ下る川
【キアレンターナ】バードヴァの北の山地にてブレンタの水源地をも含む、この山地の雪春日の熱をうくれば溶けて流れて河水ために氾濫す
一〇―一二
【誰にてもあれ】神か天使か惡魔か(地、三一・八五參照)
二二―二四
【裾】岸高く砂低ければなり
二五―三〇
【わが顏を】異本、手を
【セル・ブルネット】ブルネット・ラティーニ、一二一〇年頃、フィレンツェに生る。哲學文學に通じまたグエルフィ黨に屬して時の政治に干與せり、一二六〇年モンタペルティの戰ひの後、グエルフィ黨の首領と共に郷土を追はれフランスのパリに赴き久しくこゝに止まりてその間佛文『テゾーロ』を編せり、後再びフィレンツェに歸り一二九四年に死す、「セル」は、ブルネットが逐客とならざりし前公證人たりしことあればその尊稱をここにも用ゐしなり
四九―五〇
【齡未だ滿たざるに】未だ人生の半乃ち頂點に達せざるに、備へ未だ全く成らざるに
ダンテの林に迷ひ入れるは神曲示現の以前にあり
五二―五四
【昨日の朝】四月八日の朝(地、一・三七)、今は翌土曜日の未明なり
【この者】罪人にむかひてウェルギリウスの名をいはず
【わが家】世界、三界を歴程して再び世に歸る路にあればウェルギリウスはたゞ地獄、淨火の導者なれどもかくいへるなるべし
或曰、地上乃ち南半球(地、三四・一三九)と、又或曰、天と
五五―五七
【星に從】天賦の才のあるところに從つて進まば(古來天文によりて人の運命を測知しうべしとの信仰ありしに基づけり)
五八―六〇
【早からざりせば】ダンテと聯關して己が死の早きをいへりブルネット自身は齡八十に及ぶまで世にながらへるなり
六一―六三
【フィエソレ】フィレンツェを距る約三哩なる一丘上の町、この町ローマ人のために攻め落されし時その民アルノ河畔にのがれ、ローマの移住者とこ、に合してフィレンツェ市な成すにいたれりといふ傳説によれり
【山と岩とを含める】粗野にして拗執なる
六四―六六
【ソルボ】果樹、その實酸く醂して始めて食用とす
六七―六九
【古き名】史家ヴィルラーニの説によればフィレンツェ人の瞽と呼ばるゝにいたりしはトチラ侵略(地、一三・一四五―七註參照)の際その甘言に欺かれ門なひらきてこれを迎へ入れたるによれりといふ
【貪嫉傲】地、六・七四參照
七〇―七二
【彼黨此黨】黒白の兩黨
【飢ゑて汝を求めむ】汝を害せんとはかるべし
七三―七五
フィエソレの血をわかつフィレンツェ人たゞ相互に搏噬しその腐敗の中より一人たりとも眞のローマ人のあらはるるあらば彼等手をこれに觸るべからず
七六―七八
フィエソレ人下り來りて邪惡の巣なるフィレンツェの町建てられし時
【聖き】ローマは聖地、ローマ人は選民なり
七九―八〇
【汝は未だ】汝は未だ死せざりしものを
八二―八七
【教へたまひし】ダンテはしば/\この老碩儒の教をうけたれども所謂師として之に事へたりしや否やは明かならず(スカルタッツィニ註參照)
八八―九三
【録し】記憶に
【他の文字】チヤッコ及びファーリナータの豫言(地、六・六四以下及び地、一〇・七九以下)
【淑女】ベアトリーチェ(地、一〇・一三〇―三二參照)
九四―九六
【契約】未來の契約即ち不吉なる豫言
或曰、人と命運との間の契約即ち人の命運に逆ふべからざることをいふと
【農夫は鋤を】人事を盡して天命を待つの外なきをいへり
九七―九九
【善く聽く】聖賢の教をきゝ之をさとりて心にをさむるものこれ善く聽く者なり
ウェルギリウスはこの答によりダンテが地、一〇・一二七以下ファーリナータの豫言に關しまた地、七・七〇以下命運に關し師の教へしところを理解し銘記するをしりて大いにこれを賞せるなり
一〇九―一一四
【プリシアン】プリスキアヌス、有名なるラテン文法學者、六世紀の始めの人
【フランチェスコ・ダッコルソ】有名なるフィレンツェの法律學者アッコルソの子にて父と同じく法理を修め一二七三年イギリスのオックスフォードに赴きて講師となれり(一二二五―一二九三年)
【瘡】汚き罪人等、かゝる穢れを見んことを願ひたらば
【僕の僕】法王
【アルノ】フィレンツェをいふ、川の名を町に代へしなり
【バッキリオーネ】ヴィチェンツァの町を貫流する川、前のアルノと同じく町の名に代へて用ゐしなり
【殘せし者】アンドレーア・デ・モッチ、フィレンツェの人、一二八七年この邑の僧正となりしも不徳のため同九五年法王ボニファキウス八世の命により遷されてヴィチェンツァの僧正となり翌九六年此處に死す
一一五―一一七
【烟】砂烟
一一八―一二〇
世の地位により分たれて多くの小團をなしその一に屬する者他の一團に加はるをえず、ブルネットの一群には學者と僧とあり
【テゾーロ】ブルネットがフランスに滯在中フランス文にて編せる百科事典的著作
ブルネットの著作にはこの他、本國の語にてしるせる短詩『テゾレット』あり
一二一―一二四
【ヴェロナ】中古ヴェロナ市の郊外には四〇日齋の始めの日曜日に徒歩競爭行はるゝ例あり、勝者はいろどれる衣を受け敗者即ち最後の到着者は一初の雄鷄を受けたりといふ


    第十六曲

かくてさらに進みゆくにフィレンツェの者みたり群を離れてはせ來りそのひとりヤーコポ・ルスティクッチといへる者ダンテと語る、彼等去りて後詩人等第七の地獄盡くるところにいたりウェルギリウスはこゝにダンテの身にまける紐を解かしめ斷崖の上より之を投げおろしてジェーリオネ(ジェーリオン)を招く
一―三
【次の獄】第八獄
四―六
【群】男色の罪を犯せる者の一群にて文武の公職にありしものをあつむ
七―九
【衣】町によりては特殊の服裝行はれし處あればなり
一三―一五
【聲に心をとめ】或ひは、聲をきゝてとゞまり
一六―一八
この處の習として火の雨下ることなくば彼等のはせ來るを待たず汝まづいそぎすゝみて彼等を迎ふべきなり
一九―二〇
【古歌】例となれる歎聲
【輪】しばらくもとゞまること能はざれば輪をつくりてめぐれるなり
二二―二四
【勇士】註釋者曰、この譬は人に雇はれてその權利の保護者となり拳鬪によりて司法上の爭ひを決せし力士にとれるなり、かゝる風習は十三世紀より十四世紀の始めにかけイタリア各地の都市に行はれたるなり云々
二五―二七
【頸は】目ダンテに注ぎ足圓を畫けばなり
三一―三三
【名】世に殘せる
三四―三六
【毛】異本、皮
三七―三九
【グイード・グエルラ】フィレンツェ、グエルフィ黨の首領。一二六〇年モンタペルティの戰ひ敗れて後郷里を逐はれ亡命の士を糾合して之に將たり、一二六六年ベネヴェントの戰ひに殊勳をあらはし翌六七年黨與を率ゐてフィレンツェに歸り同七二年に死す、その父マルコヴァルドはグアルドラーダとその夫、老グイードの間の第四子なりグアルドラーダはフィレンツェの名門ラヴィニアーニ家の者なるベルリンチオン・ベルティ(天、一五・一一二)の女、容姿美にして夙に貞淑の聞えあり、老グイードに嫁して四子を生む
四〇―四二
【テッギアイオ・アルドブランディ】フィレンツェの名門アヂマーリ家の出にて、當時著名の武人なり、フィレンツェなるグエルフィ黨の人々にシエーナな攻むるの無謀なるを諭せしもその言用ゐられずして遂にモンタペルティの大敗を招くにいたれり(一二六六年死)
【名】voce この字を言の意にとりその言(乃ちグエルフィ黨を戒めし)世に用ゐらるべかりし云々と解する人あり
四三―四五
【十字架にかゝれる】苛責を受くる
【ヤーコポ・ルスティクッチ】傳不詳、十三世紀の半の人、古註曰、彼、妻と合はずして別れしため一般婦人を厭ひて不自然の罪を犯すにいたれるなりと
五五―五七
【主の言】一四―五行
六一―六三
【膽】にがき罪、禍ひ
【甘き實】あまき救ひ、福
七〇―七二
【グイリエイルモ・ボルシーレ】ボッカッチョの『デカメローネ』に見ゆるフィレンツェの武人
七三―七五
ダンテの詞
【新なる民】十三世紀の末フィレンツェ附近より來りて住むにいたれる民、民新なるによりて市を愛するの念うすし
【フィオレンツァ】フィレンツェ
【汝は既に】爭亂分離の萌既にこの時にあらはれしなり
七九―八一

次ページ
ページジャンプ
青空文庫の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
作品情報参照
mixiチェック!
Twitterに投稿
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶし青空文庫

Size:376 KB

担当:undef