神曲
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著者名:ダンテアリギエリ 

【聖ピエートロの門】淨火の門、キリスト鑰をピエートロに與へ(マタイ、一六・一九)、ピエートロはこれを天使に托して淨火の門を開閉せしむ(淨、九・一一七以下參照)


    第二曲

既にしてダンテ自らかへりみてその力よく冥界をめぐるに足るや否やを疑ふ、ウェルギリウス乃ちこれに告ぐるに己がリムボを出でゝ曠野に來るに至れる由來を以てし、これを勵まして地獄にむかはしむ
一―三
【日は傾けり】一三〇〇年四月八日の夕暮
兩詩人の地獄にむかへるは一三〇〇年の聖金曜日なりしこと地、二一・一一二以下なるマラコダの言によりて明かなり、されどこの金曜日は何月何日に當りしや、或人は三月二十五日といひ或人は四月八日といふ、こゝにはムーア博士の説に從ひて後説を採れり、詳しくは博士の『神曲中の時に就て』(Moore, Time-Reference in the Divina Commedia)を見よ
四―六
ダンテに二の難あり、路の瞼惡なるは其一、見るに忍びざる罪人の苦患を見るの苦しみ其二なり、前者は身を攻め後者は心を攻む
七―九
【ムーゼ】ムーサ、神話中の女神、九柱ありて詩音樂等を司る
第一曲は『神曲』の總序にして所謂地獄篇は第二曲にはじまるが故にこゝにムーゼと理想の才と記憶とを呼べり、卷頭に詩神をよべるは古來詩人の例に倣へるなり、『神曲』の他の二篇また然り
一三―一五
【いへらく】『アエネイス』六・二三六以下に
【シルヴィオの父】アユネアス、シルウィウス(シルヴィオ)はアエネアスとラウィニア(地、四・一二六)の間の子なり
一六―一八
【誰】ローマ人の祖先
【何】ローマ帝國の創業者
【衆惡の敵】神
一九―二一
【エムピレオの天】至高の天
二二―二四
ローマ(彼)もローマ帝國(此)も神の定むるところによりて共に聖地となり聖ピエートロの後繼者なる法王の座所こゝにあり
寺院と互に獨立し、しかも相提携して天命を行ふ、これダンテの理想の帝國なり
【大ピエロ】聖ピエートロ又はペテロ、キリスト十二弟子の一、道をローマに傳へ、教に殉じて死す
二五―二七
アエネアス冥府にゆきてその父アンキセスにめぐりあひ、これと語りて己が將來の事を知り信念いよ/\固く遂にイタリアにいたりて亂を平げ建國の基を起せり、されば後年法王の座所をこの地に見るにいたれるもアエネアスの冥府めぐりに負ふとこる多し
二八―三〇
【選の器】使徒パウロ(使徒、九・一五)
【かしこ】冥界
コリント後、一二・二以下にはたゞ第三の天に擧げらる云々とあり、されど中世紀の傳説によればパウロは天堂のみならず地獄にも赴けるなり
五二―五四
【懸垂の衆】第一の地獄なるリムボの賢哲、天界の祝福を受くるにあらず地獄の苛責を受くるにあらすその中間に懸れるなり
【淑女】ベアトリーチェ(七〇―七二行註參照)
五八
【動】諸天の運行、即ち時の存するかぎり
異本、世のあるかぎりは殘らん
譯者曰くこの書本文殆ど全くムーアの『ダンテ全集』(Tutte le Opere di Dante Alighieri)に據れり、異本各種の比較については同博士の『神曲用語批判』(Textual Criticism of the Divina Commedia)を見ば詳細を知るをうべし、乃ちこの項 moto 及び mondo の比較はその第二七一―三頁にあり、以下煩を避けて一々引照せず
六一―六三
我に愛せられてしかも命運に愛せられざるもの
七〇―七二
【ベアトリーチェ】ダンテの『新生』(La Vita Nuova)に出づる詩人の戀人
(1)『新生』の解説につきては甲論乙駁今に至りて定説なし、されどこれを以て史實に基づき詩想によりて潤飾せる詩人自傳の一部と見做す説多くの點に於て信ずべきに似たり、故にベアトリーチェ及びベアトリーチェとダンテの關係を知らんと欲せば必ずまづ『新生』によらざるをえず
また假りに『新生』を以て一種の譬喩と見做しダンテはこれによりて自己の理想を表現しその理想の形成せるところに「ベアトリーチェ」なる名稱を冠らしめしに過ぎずとし或ひは之を以て詩人の宗教觀詩人時代の寺院及び教理等を寫し出せる一種の象徴に過ぎずと見做すも、ダンテのベアトリーチェを知らんと欲せば同じくまづ『新生』によらざるをえざるなり
(2)『新生』中ベアトリーチェに關する事項の主なるものをあぐれば、ダンテが始めてベアトリーチェを見たる事及びこの時八歳の少女が九歳の少年の心に殘せし深き印象(二)、ダンテが寺院内に一婦人を帷としてベアトリーチェの祈姿をうかゞひ見しこと(五)、ベアトリーチェを婚姻の(ベアトリーチェ自身の婚姻なるべし)席上に見、友の扶けによりてこの席を去れること(一四)、ベアトリーチェの父の死=一二八九年(二二)、ベアトリーチェの死=一二九〇年(二九、但し學會本によれば――從つて岩波文庫も――二八)、等なり、戀人の家系住居につきては何等云ふ所なし
(3)ベアトリーチェを史實と配合せる者はボッカッチョなり、その説に曰く、ベアトリーチェはフォルコ・ポルチナーリの女にしてフィレンツェに生る、一二七四年ダンテ始めてこの女を見、後次第に愛慕するにいたれり、一二八六年の頃ベアトリーチェはシモネ・デ・バルヂなるものと婚し一二九〇年六月死すと
(4)『神曲』中のベアトリーチェは『新生』のベアトリーチェのさらに理想化したる者にて神學の象徴なり、ダンテ、ウェルギリウスに導かれて地獄・淨火の兩界をめぐれども、進んで天上に赴くに及びてはベアトリーチェに導かれざるをえず、これ靈界の機微にいたりては天啓によるにあらざれば覺得し難きを示せるなり
【愛】淨、三〇・七九以下及び天、一・一〇一―二參照
七六―七八
【天】月天、地球は宇宙の中心にありて日月星辰の諸天之をめぐる、而して月は最も地球に近ければその天は諸天中最小の天なり、人、地上の萬物にまさるはたゞ天の奧義をさとるによる
九四―九六
慈悲の泉なる聖母マリア、ダンテの大難をあはれみてその罪に對する上帝の怒りをやはらぐ
九七―九九
【ルチーア】聖ルチーア、シラクサ(シケリア島にあり)の殉教者を指せるなるべしといふ、惠みの光なり
一〇〇―一〇二
【ラケーレ】ラケル。ラバンの女にしてヤコブの妻(創世記、二九・一〇以下及び地、四・六〇)、默想の象徴
一〇三―一〇五
【神の眞の讚美】『新生』二六・一四(岩波文庫『新生』八七頁參照)以下に曰く
かれ(ベアトリーチェ)過ぐる時多くの人々いひけるは、こは女にあらでいと美しき天使のひとりなり、またほかの人々いひけるは、こは世の常の女にあらず、かくたへなるみわざをあらはし給ふ主は讚むべきかな
【汝のために】『新生』の末(同上・一二九頁參照)に曰く
この歌ありて後我は異象によりて多くの事を見、わがいまよりもなほふさはしくこの惠まれしもの(ベアトリーチェの事を陳ぶるをうるにいたるまでは再びかれの事をいはじと思ひ定めたり、またわがこゝにいたらんため力を盡して勵みいそしむことはかれのよく知るところなり、かくて萬物に生をさづくるものわが世にあるなほ數年なるを許したまはゞ望むらくはわれ未だ女につきて用ゐられざりし言をかれにつきて用ゐることをえん
一〇六―一〇八
【河水漲りて】或ひは、河波さわぎたち(詩篇、九三・三―四參照)、罪の路を激流にたとへしなり
一一八―一二〇
【獸】狼
一二一―一二六
【三人】聖母、ルチーア、ベアトリーチェ
一三三―一三五
【淑女】ベアトリーチェ
一四二
【艱き】或ひは、低き


    第三曲

地獄門上の銘を讀みて後兩詩人まづ地獄圈外に入りこゝに怯者の魂を見、進んでアケロンテの川にいたれば舟子カロン亡魂を麾き船に載せて對岸にむかふ、この時曠野鳴動して電光閃めきダンテ爲に喪神して地に倒る
一―三
【憂ひの都】地獄全體
四―六
正義の念によりて獄門を建つるの天意定まり、父(威力)子(智慧)聖靈(愛)なる三一の神の働きによりてその意行はる
七―九
【永遠の物】諸天、天使等
一六―一八
【智能の功徳】神を見ること
【さきに】地、一・一一四以下
一九―二一
【祕密の世】原文、祕密の物の中
二八―三〇
【旋風吹起る時】異本、風旋風に似たる時
三一―三三
【怖れ】異本、迷ひ
三四―三六
地獄外房の罪人、善を行ふの勇なく惡を行ふの膽なく、卑怯にして意味なき生を送れるもの
三七―三九
ルキフェル(魔王ルチーフェロ)神に背ける時、中立の態度に出でし天使の一群
四〇―四二
【罪ある者】地獄に罰をうくる者等惡を行はざりし天使の一群の己と同じく罰せらるゝを見て自ら得たりとなさゞらんため
四六―四八
【死】魂の消滅
【失明】暗く光なき地獄のさまに神を見るをえざる迷ひの生涯を含めていへり
【いかなる分際】天上の祝福を享くる者をも地獄圈内に前を受くるをも妬むなり
四九―五一
【慈悲も正義も】天を逐はれ地獄は拒まる
五八―六〇
【魂】『神曲』中疑問の人物の一なり、されど古來最も有力なる説はこれを以て法王ケレスティヌス五世を指せりとなす。ケレスティヌス五世はピエートロ・ダ・モルロネといひアブルッチの隱者なりしが一二九四年選ばれて法王となり在位五ケ月の後自らその器に非ざるをしりて辭しボニファキウス(ボニファーチョ)八世其後をうくるに至れり、一説にはボニファキウス、法王の位を望み謀を以てケレスティヌスに退位の意を固めしめきといふ(地、一九・五五―七參照)
六四―六六
【生けることなき】一生を空しくおくれる
七〇―七二
【川】アケロンテ、冥界を流るゝ諸水の一、屡□『アエネイス』にいづ
八二―八四
【翁】カロン、神話にいづる三途の川の渡守なり
古代神話にみゆる多くの神々は中古なほその存在を保ち寺院に屬する人々之を以て鬼となせり、使徒パウロの言に、異邦人の獻ぐるものは神に獻ぐるにあらず鬼に獻ぐるなり(コリント前、一〇・二〇)とあるもかゝる信仰を生むにいたれる一因なるべし、さればダンテが傳説の神々傳説の人物材料を多く『神曲』中に收むるにいたりしも此等のものゝ存在を認め事件を事實と信ぜしにあらず、たゞその人口に膾炙し當時の思想を具體的にあらはすに最も適したるによりてなり、古典とダンテの關係を詳しく知らんと欲する人はムーア博士の『ダンテ研究』(Studies in Dante)第一卷を見よ
九一―九三
フラティチェルリ(Fraticelli)曰く、カロンが此處には他に渡る舟なく舟子なきをしりてかくいへるは生者に對する怒りと嘲りをあらはせるなりと
註釋者多くはこれを以て淨火の路即ちテーヴェレの河口より淨火の山に至る路をいひ、輕き舟は淨、二・四一なる天使の舟を指すものとなせども、生けるダンテに對する怒れるカロンの言としてふさはしからざるに似たり
九四―九六
地、二一・八三―四參照
一〇三―一〇五
神、親、人類、生國、生時、祖先(蒔かれし種)、生みの親(生れし種)
一〇九―一一一
【後るゝ、】或ひは、くつろぐ(船の中にて)
一一二―一一四
『アエネイス』六・三〇九以下に曰く
たとへば秋始めて冷やかなる頃、數しれぬ木の葉の凋みて林に落つるごとく、または鳥群をなして寒さきびしき年に逐はれ、暖き陸を求めてわたつみのかなたより來るごとく
【衣】或ひは、獲物
【地にをさむる】異本、地に見る
一一五―一一七
【アダモ】アダム、人類の始祖(創世記)
【呼ばるゝ】鷹匠が小鳥若しくは鳥の羽を合せしものを示して放ちやりし鷹を呼戻すこと
一二四―一二六
【願ひ】望なきを知りて刑に服せんとの心
一二七―一二九
【善き】罰のためにくだれるにあらざる


    第四曲

我にかへれば詩人すでに第一の地獄の縁にあり、こゝよりウェルギリウスに導かれてリムボにくだる、すなはちキリストを知らず洗禮をうけざりし者の止まるところなり、ダンテこゝに古の詩人哲人名將烈婦の魂を見、導者とともにさらに進んで第二の地獄にむかふ
一―三
【雷】第三曲の終りにみえたる電光にともなふ雷
或ひは曰、九行の雷と同じく罪人の叫喚あつまりて雷の如きをいふと、ダンテがいかにしてアケロンテの川を越えしやは知りがたし
七―九
【溪】地獄全體
一三―一五
【盲の世】地、三・四七註參照
一九―二一
【下なる民】リムボ即ち第一の地獄の民
二二―二四
【獄】原語、圈、深淵の縁をめぐる一帶の地にて一大環状をなすが故にかくいふ
三四―三六
【一部】異本、門
三七―三九
【道】天啓によりキリストの出現を信じて神を拜すること
【我も】ウェルギリウスの詩によりて詩人となり又キリストの徒となれるスタティウスは救はれて福の路に就きウェルギリウス自身は今もリムボにゐて望みなき生をおくる、これ彼は、火をうしろにともして夜行く人の如くわが身に益をえず後の人をさとくす(淨、二二・六七以下)る者なればなり
四〇―四二
【願ひ、望み】神を見るの願ひ、その願ひ成るの望み
四三―四五
【リムボ】(端、縁の義)第一の地獄の名
【懸れる】地、二・五二―四註參照
四六―四八
【信仰】キリスト教の信仰、特にキリスト、地獄に下り給へることありとの信仰
五二―五四
【ほどなき】ウェルギリウスの死せる年乃ち紀元前一九年よりキリストの死乃ち紀元三三年までの間
【權能あるもの】キリスト、聖母と同じく地獄内に名を稱へず
五五―六三
【第一の父】アダム
【アベル】アダムの第二子(創世記四・二以下)
【ノエ】ノア、大洪水を免かれしヘブライ人の族長(創世記五・二八以下)
【モイゼ】モーゼ、舊約時代の偉人にしてヘブライ人の律法を定めし者(出エヂプト記二以下)
【神に順へる】民數紀略一二・七に曰く、わが僕モーゼは然らず、彼はわが全家に忠義なる者なり(ヘブル、三・五參照)
或ひは ubidiente を五八行のアブラハムに附し、立法者モーゼ、從順なる族長アブラハムと讀む人あり、これアブラハムがその子イサクを神に捧げんとしたる(創世記第二二章)を特にこゝに指せりとなせしなり
【アブラアム】アブラハム、舊約時代の偉人(創世記一一・二六以下)
【ダヴィーデ】ダヴィデ、イスラエルの王、『詩篇』中の詩人(ルツ、四・二二、其他)
【イスラエル】アブラハムの孫なるヤコブ、天使と相撲ひて後この名を得たり(創世記三二・二八)
【その父】アブラハムの子イサク
【その子等】創世記二九・三一以下參照
【ラケーレ】ラケル、イスラエルの妻
【多くの事】ラケルを妻とせんためその父ラバンの許にとゞまりて十四年間勞役に從へるをいふ(創世記二九・九以下)
六四―六六
【林】古はリムボを大人と小兒との二部に分ちしかどダンテは當時の教に基づきこの區別を廢して之を厚く遇せらるゝ魂と然らざるものとの二にわかてるなり、こゝにいふ林は即ち後者の群なり
六七―六九
【睡り】この曲の始めダンテが頭の中なる熟睡を破られしところ
異本、響き(雷の)または頂
【半球の闇を】偉人等の止まるところより道理の光いでゝリムボの獄の一半を照せるなり
七九―八一
【聲】註釋者多くはこれをホメロスの聲なりといふ
八五―八七
【劒】その詩多く戰ひを敍したればなり
八八―九〇
【オーメロ】ホメロス、ギリシアの詩聖、『イリアス』の作者(前九〇〇年頃)
ダンテは零碎なるラテン語の飜譯によりて僅かにその一部をうかゞひみしに過ぎず、しかれども彼がこの大詩人を尊重する甚だ大なるを見る(淨、二二・一〇一―二參照)
【オラーチオ】ホラティウス、有名なるラテン詩人(前六五―八年)、『サチレス』(諷刺の詩)二卷及び其他の著作あり
されどムーア博士は Satiro は教の詩人(乃ち詩論の著者として)の意にて、諷刺家の意にあらず、ダンテがホラティウスの『サチレス』を知れることはその著作の中にあらはれずといへり、いかゞ
【オヴィディオ】オウィディウス、有名なるラテン詩人(前四三―後一八年)、その著書の中『メタモルフォセス』最もあらはる、ダンテがウェルギリウスに次ぎて最も多く引用せる詩人なり
【ルカーノ】ルカヌス、有名なるラテン詩人(三九―六五年)、カエサルとポムペイウスとの戰ひを敍したる『ファルサリア』の作者なり
九一―九三
【一の聲】或ひはひとりの聲、七九行にいでし聲をいふ
いとたふとき詩人の讚辭は彼等皆我と同じくうくべきものなり、かゝる詩人にしてはじめてよく詩人をしりかく我をうやまふ、また詩聖等相和して他を讚むるに吝ならざるは善し
九四―九六
【鷲の如く天翔る歌聖】ホメロス
一〇三―一〇八
【光】六七―九行
一〇六―一〇八
【城】智徳世にすぐれし知名の士女にしてしかもキリストを信ずるにいたらざりし者のとゞまるところ
【七重の高壘】註釋者曰、七重の高壘は四徳(思慮、公義、剛氣、節制)三知(聰明、知識、智慧)をあらはし一一〇行の七の門は當時ローマの教育科目たりし三文(文法、修辭、論理)四數(音樂、算術、幾何、天文)をあらはせるなりと
ダンテの七數にかゝる寓意ありしや否やもとより明かに知り難し、或ひは單に七數を好み用ゐし一例に過ぎざるか
【流れ】註釋者曰、これ美しき詞の流れなり、これを地上をゆく如く容易に渡りゆきしは筆路の難は詩人の難しとするところにあらざればなりと
一一八―一二〇
【緑の※[#「さんずい+幼」、222-7]藥】緑草の美しきをいへり
一二一―一二三
【エレットラ】エレクトラ、神話、アトラスの女にしてゼウス(ジョーヴェ)神との間にトロイアの建設者なるダルダノスを生めり
【侶】エレクトラの子孫なるトロイア人
【エットル】ヘクトル、トロイア王プリアモスの長子、トロイア戰役の名將
【エーネア】地、一・七三―五註參照
【チェーザレ】ユーリウス・カエサル、最も著名なる古の英傑(前一〇〇―四四年)
アエネアスはイタリア帝業の基をたてしトロイア人なればローマ人はその起源をトロイア人と同じうするのみならず中古の人々カエサルを最初の皇帝と信ぜるが故にダンテ彼をヘクトル、アエネアスと並ばしめしなり
一二四―一二六
【カムミルラ】地、一・一〇六―八註參照
【パンタシレア】アレスの女にしてアマゾン(女軍)の王たり、トロイアの役にギリシア軍と戰ひて死す
【ラティーノ】ラティヌス、ラティウム人の王、アエネアスの外舅
【ラヴィーナ】ラウィニア、ラティヌスの女、アエネアスの妻
一二七―一三二
【ブルート】ルキウス・ユウニウス・ブルートゥス、前六世紀の人、ローマ最後の王タルクィニウス・スペルブスを逐ひローマ共和國を建設す
【ルクレーチア】ルクレティア、ブルートゥスと共にローマ共和國の民政官となれるコルラティヌスの妻なり、タルクィニウスの子セスト(セクストゥス)の辱しむるところとなりて死す
【ユーリア】カエサルの女、ポムペイウスの妻
【マルチア】マルキウス・フィリップスの女にして初めカートン(カトー・ウティケンシス)の妻たりし者
【コルニーリア】スキピオ・アフリカヌスの女、ティベリウス・セムプロニウス・グラックスの妻にてローマ施政の改革に殉ぜる有名なるグラックス兄弟の母なり
【サラディーノ】エヂプト及びシリアのソルダン、寛仁大度の明君として世に知らる(一一三七―一一九三年)
【智者の師】アリストテレス、(アリストーテレ)有名なるギリシアの哲學者、中古の人これを以て哲人中の第一となせり、ダンテはラテン語譯によりてその著書に精通し引用せること甚だ多し(前三八四―三二二年)
一三三―一三五
【ソクラーテ】ソクラテス、有名なるギリシアの哲學者(前四七〇―三九九年)
【プラートネ】プラトン、有名なるギリシアの哲學者(前四二七―三四七年)
一三六―一三八
【デモクリート】デモクリトス、ギリシアの哲學者、その師レウキッボスの説に基づきて原子論を敷衍せり(前三六一年死)
デモクリトスを原子偶然に結合して世界成ると説けりといへるはキケロの著書に據れるなり
【ディオジェネス】ディオゲネス、有名なるキュニコス派の哲學者、小アジアに生れてギリシアに住めり(前三二三年死)
【アナッサーゴラ】アナクサゴラス、ギリシアの哲學者(前四二八年死)
【ターレ】タレス、ギリシア七賢の一、水原説を以て名高し(前六世紀)
【エムペドクレス】シケリアの哲學者(前五世紀)
【エラクリート】ヘラクレイトス、ギリシアの哲學者(前六世紀)
【ツェノネ】ゼノン、ギリシアの哲學者、ストア學派を起せる者(前三〇〇年頃)
一三九―一四四
【ディオスコリーデ】ディオスクリデス、ギリシアの名醫、藥法に關する著者五卷ありてその中に草木の特性を論じたりといふ(一世紀)
【オルフェオ】オルフェウス、ギリシア神話中の詩人樂人
【ツルリオ】マルクス・ツルリウス・キケロ、ローマの哲人能辯家、ダンテ善くその著作に通ぜり(前四三年死)
【リーノ】リノス、ギリシア神話中の詩人伶人
異本、リヴィウス(ローマの史家)
【セネカ】ルキウス・アンナエウス・セネカ、ローマの哲學者、ダンテ善くその著作に通ぜり(六五年死)
【道徳を説ける】文人なりしその父セネカと區別せるなり
【エウクリーデ】エウクレイデス、有名なるアレクサンドレイアの數學者、『幾何原理』十三卷を著はす(前三〇〇年頃)
【トロメオ】クラウディウス・プトレマイオス、有名なるアレクサンドレイアの天文地理學者、ダンテ時代の天文學多く之に據れり(二世紀)
【イポクラーテ】ヒッポクラテス、ギリシアの名醫(前四世紀頃)
【アヴィチェンナ】アラビアの名醫(一〇三七年死)
【ガリエーノ】クラウディウス・ガレヌス、ギリシアの名醫(二〇一年死)
【アヴェルロイス】アラビアの名醫、哲學者、アリストテレスの註疏を大成せるを以て廣く世に知らるゝにいたれり(一一二六―一一九八年)
一四八―一五〇
【二者】ダンテと導者
或ひは、分れて二(乃ち二組)となれりと解する人あり、事同じ
【震ひゆらめく空】第二の獄の


    第五曲

やがて第二の地獄にいたればこゝには邪淫の罪を犯せる多くのものゝ狂風に漂はされて暗空の中をめぐるあり、その一なるフランチェスカ・ダ・リミニの魂ダンテに招かれて戀人パオロと共にこれに近づきおのが悲哀なる戀物語をなす
一―三
【少なく】地獄は一大漏斗状をなすが故に下るに從つて地狹し
四―六
【ミノス】地獄の法官
神話に曰、ミノスはゼウスとエウロペの間の子なりクレタ島の君となりて賢明の聞え高し、死後ラダマントス及びアイアコスと共に冥界の法官となると
【入る者あれば】或ひは、入口にて
七―九
【幸なく】マタイ、二六・二四に曰く、その人生れざりしならばかへつて幸なりしならん
一〇―一二
ミノス、刑を宣告するにあたり尾にて身を卷きその卷きたる囘數によりて送るべき獄を示すなり、地、二七・一二
四―六に彼グイードを第八の地獄に送らんため八度尾をもておのが背を卷きしこといづ
一三―一五
【投げらる】地、二一・三四―六には鬼によりて獄に送らるゝ例もあれど多くは罪人のみ各自の刑場におちゆくに似たり
一九―二一
ミノスはダンテと共にあるものの鬼にあらずしてウェルギリウスなるを見、ダンテを威嚇してその導者に對する信念を奪はんとせしなり
【入口ひろき】マタイ、七・一三に曰く、滅亡にいたる路は廣し
三一―三三
心に檢束を加へず情の翼に駕してその行方に任せし生前のさまをあらはすなり
三四―三六
ruina(狂風の吹きまく勢ひ)、異説或ひはこれをキリスト磔殺の當時に起れる岩の崩れ(地、一二・三一以下及び二一・一一二以下)とし或ひはこれを第二の地獄の入口とす
四六―五〇
【暴風】原語、なやむるもの、或ひは爭ひ
五二―五四
【語】語を異にする國民
五五―五七
己が非倫の行爲を蔽はんため不正の結婚を諸氏にゆるせる事
五八―六〇
【セミラミス】アッシリアの女王、前十四世紀頃の者なりといはる
【書】中古廣く行はれし五世紀の史家パウルス・オロシウスの歴史、乃ちダンテの引用書目の主なるものゝ一なり
【ニーノ】ニーヌス。オロシウス曰く、彼ニーノ(ニーヌス)死せる時その妻セミラミス位を繼げり(オロシウス『歴史』第一卷四の四)
【ソルダンの治むる地】エヂプトなるバビロニア(昔のカイロ)
セミラミスはアッシリアの女王なればこゝにソルダンの治むる地云々といへるはエウフラテス河畔のバビロニアとナイル河畔のバビロニアとを混同せるダンテの誤りか、或ひは或る註釋者のいへる如くニーヌスはその存命中にエヂプトの一部を征服してこれをアッシリアの領地に加へしことありとの傳説によれるものか明かならず
六一―六三
【操を破れる者】ディド、アフリカ北海岸なるカルタゴの女王、夫死して後こゝに漂着せるアエネアスを慕ひ、アエネアス、イタリアに向ふに及びて失望のあまり自刃して死す、事『アエネイス』第四卷にくはし
【クレオパトラース】クレオパトラ、有名なるエヂプトの女王、カエサル及びアントニウスを惱まし嬌名甚高し、オクタウィアヌス權を執るに及び恥をローマに晒すをおそれ毒蛇の毒をうけて死す(前六九―三〇年)
六四―六六
【エレーナ】ヘレネ、スパルタ王メネラオスの妻、パリスに誘はれてトロイアに赴き、爲に十年に亙れるトロイア戰役を惹起すにいたれるもの(地、一・七三―五註參照】
【アキルレ】アキレウス、トロイア戰役の猛將
アキレウスはホメロスに歌はれしギリシア方の名將なり、傳説に曰、トロイア戰役の際、彼敵將プリアモスの女ポリユクセナ(地、三〇・一七)を慕ひ武裝を解きてアポロンの宮殿に入りこゝにてパリスの殺すところとなれりと
六七―六九
【パリス】ヘレネを奪へるもの(六四―六行註參照)
【トリスターノ】トリスタン、中古ひろく行はれし英王アーサー物語にいづ、叔父マークの妻を戀ひ、マークの殺すところとなる
七三―七五
【かのふたり】パオロ・マラテスタ及びフランチェスカ・ダ・リミニ(ポレンタ)
今當時の記録によりてこの悲劇の大要をあぐれば左の如し
フランチェスカはラヴェンナの君なるグイード・ダ・ポレンタ(老グイード)の女なり、當時ポレンタ家とリミニなるマラテスタ家の間に葛藤絶ゆることなかりしが仲裁者いでて和議成るに及び、いよ/\和親を固うせんため老グイードはその女フランチェスカをマラテスタ・ダ・ヴェルルッキオ(地、二七・四六―八註參照)の子ジャンチオットに嫁するを許せり、このジャンチオットは武勇の聞えありしものなれども風姿粗野にして且つ不具なりければグイード、人の諫めに從ひその弟パオロを兄に代りてポレンタ家に來らしむ、フランチェスカはパオロの若くして美しきを見これをその夫となるべき人なりと聞き伴はれてリミニにいたれり
フランチェスカ、リミニにいたりこゝにはじめて己が欺かれしを知りて悔ゆれどもおよばず、されどパオロに對する戀々の情はかへつてこの事あるによりてまされり、會□ジャンチオット公務のため出でゝ家に在らず、兩人相會して情をかたる、ジャンチオット下人の告ぐるところによりてこれを知り不意にひきかへして彼等を殺せり(一二八五年頃の事といふ)
七九―八一
【彼】神、(Altri は古く大能ある者をあらはすに用ひし不定代名詞)、地獄内にては罪人にをかひて神の名を稱ふることなし
八二―八四
【願ひ】巣に歸らんとの
【たかめ】異本、ひらき
八五―八七
【ディド】六一−三行註參照
八八―九〇
以下一〇七行までフランチェスカの詞
【暗闇の】Perso. ダンテの『コンヴィヴィオ』第四卷二〇の一四―五に曰く、ペルソは紫と黒とまじりてしかも黒勝てる色なり
九一― 三
ヘブライの古諺に曰、祈りの門は閉さるとも涙の門は閉されず
九七― 九
【邑】ラヴェンナ、アドリアティコ海濱にあり、ダンテ時代にはこの町今よりもなほ海に近かりきといふ
【ポー】イタリア最大の川、ラヴェンナの北にあたりてアドリアティコ海に入る
【從者ら】多くの支流
一〇〇―一〇八 
三聯みな Amor(戀)なる一語にはじまる
【そのさま】ジャンチオットの刃にかゝりてこの身の魂より奪はれしさま
ムーア博士の引用せるフォスコロの説にてはこのさきに三の條項あり、乃ち、(一)死を招くにいたれる事情(二)死の急にして悔ゆるに暇なかりし事(三)殺害てふ蠻的行爲
【今猶】この戀今猶わが心を離れじ
【カイーナ】アダムの子にして弟アベルを殺せるもの(創世記四・八)、第九の地獄第一の圓はカインに因みてカイーナの名を得たる處なればこの獄に下り來るをカイーナ待つといへり、ジャンチオットの死せるは一三〇四年にて『神曲』の時なる一三〇〇年には猶存命せるなり
一二一―一二三
【汝の師】ウェルギリウス、古註曰、ウェルギリウスは願ひありてしかも望みなきリムボに止まり生時の光榮を囘顧し自己の經驗によりてかゝる苦患を味ひしると
一二七―一二九
【ランチャロット】ランスロット、『アーサー物語』(六七―九行註參照)にみゆる圓卓武士の一人にてアーサーの妻ギニヴァーを慕へるもの
【おそるゝこと】戀をそれと知らぎりしさきなれば本讀の危險なるべきを思はざりしなり
一三三―一三五
【微笑】ゑみを湛へし王妃の口
一三六―一三八
【ガレオット】王妃ギニヴァーとランスロットの不義の取持をなせるもの、昔のガレオットの如くこの物語と作者とは我等を罪に陷らしめきとの意
一三九―一四一
【一の魂】フランチェスカ


    第六曲

第三の地獄は飮食の慾に耽りし者の罰せらるゝ處なり、鬼チェルベロ雨雪と共に彼等を苛責す、こゝにフィレンツェのチヤッコなる者ありダンテを認めて之を呼び、近くその郷土に起るべき黒白兩黨の爭ひをかたる
一―三
ダンテが失神せる間に第二の地獄より第三の地獄におくられしことさきにアケロンテの川を越えし場合と同じ
【所縁】パオロはフランチェスカの義弟にあたる
七―九
【法と質】雨の落ちる度及び雨の成立に變化なく、詛ひの雨間斷なく降りくだるをいふ
一三―一五
【チェルベロ】ケルベロス、神話に出づ、地獄の門を守る怪犬、頭三ありて尾は蛇なり
一六―一八
【噛み】異本、皮剥ぎ
二二―二四
【蟲】姿の忌むべく怒るべきをいへるなり、他の生物を蟲とよべること聖書に例多し(イザヤ、四一・一四、詩篇二二・六等參照)
三四―三六
あゝ姿のほか凡て空しき魂よ(淨、二・七九)
されど地、三二にはダンテがボッカといへる罪人の頭を蹴りまたその毛髮を拔きしことあり(七八行及び一〇三行以下)
三七―三九
【ひとり】チヤッコ、フィレンツェの人にてボッカッチョが食をたしなむこと何人にも劣らじといへるものなり
四〇―四二
【わが毀たれぬ】チヤッコいまだ死なざるさきにダンテ生れしをいふ(或曰、チヤッコは一二八六年に死すと)
四九―五一
【汝の邑】フィレンツェ、黒白兩黨の爭ひ皆權勢の嫉みより起れり
五二―五四
【チヤッコ】或人はこれを食を貪るを嘲りて呼べる綽名(豚の義)なりといひ或人はジャコモの略名といひ或人は普通の家名にてフィレンツェには今もチヤッキ家なるものありといへり
五八―六三
【もし知らば】ダンテは既に魂のよく未來を知るを聞きゐたればこの問を起せるなり(地、二・二五―七註參照)
【分れし邑】フィレンツェ
一二一五年この方フィレンツェはグエルフィ、ギベルリニの兩黨に分る、十三世紀の末グエルフィ黨、獨り權勢を得て爭亂一時鎭靜に歸せしもピストイアに生ぜし黒白兩黨の軋轢ひいて濁波をフィレンツェに揚げチェルキ、ドナーティ兩家の確執となり次第にその範圍をひろくし一三〇〇年の始めにいたりて遂に激烈なる黒白の爭ひをこゝに見るにいたれるなり
六四―六六
【長き爭ひ】チェルキ、ドナーティ兩家の互に敵視せるは一二八〇年にはじまれり、前者は白黨を後者は黒黨を率ゆ
【鄙の徒黨】ビアンキ(白黨)
チェルキ家はヴァル・ディ・シエヴェといふ片田舍より來れる粗野の民なりき
【敵を逐ふべし】一三〇一年五月ネーリ(黒黨)フィレンツェの市外に逐はる
六七―六九
【三年の間】原文、三の日輪の間に(地、二九・一〇五參照)すなはちチヤッコの語れる時より三年の間に
白黨の逐はるゝにいたりしは一三〇二年の四月四日にしてチヤッコの豫言は一三〇〇年の四月八日なれば誠はこの事二年の間に起れるなり、これにつきスカルタッチニ(G. A. Scartazzini)は曰く、ダンテのかく三年といへるは(一)三の數を好みて用ゐしによるか(二)歴史傳記と異なり正確なる日子を豫言に附するをふさはしからずと思へるによるか(三)白黨が最後の迫害を受けしは一三〇二年の十月なればこれに基づきてかくしるせるか云々
【操縱(あやな)すもの】法王ボニファキウス八世、當時未だあらはに黒黨を助くるに至らず黒白兩黨の間に立ちて巧みにこれをあやつりフランスのシャルル・ド・ヴアロア(フランス王フィリップ四世の弟)のフィレンツェに至るを待てり
七〇―七二
【憤り】或ひは恥
七三―七五
【義者二人】何人を指せるや不明なり
さきに、いま操縱(あやな)すものといひこゝに義者二人ありといふ、チヤッコは未來を知るのみならずまたよく現在をも知るに似たり(地、一〇・一〇〇―一〇二註參照)
七九―八一
【ファーリナータ】(地、一〇・三一―三註參照)
【テッギアイオ】(地、一六・四〇―四二註參照)
【ヤーコポ・ルスティクッチ】(地、一六・四三―五註參照)
【アルリーゴ】アルリーゴの事この後に見えず、註者多くは之をもてブォンデルモンテの殺害に與れるものゝ一人なるべしといふ(地、二八・一〇六―八註參照)
【モスカ】(地、二八・一〇六―八註參照)
以上皆當時世に知られしフィレンツェ人
【善を行ふ】市政に關する(地、一六・三―一八及び五八―六〇參照)
八八―九〇
一切の望みなき地獄の魂その慰藉をたゞ知人の記憶に求むるのみ(地、二七―六四―六註參照)
九一―九三
【盲】汚泥の上にうつむき伏して見ることをえざる暴食者
九四―九六
【喇叭ひゞくまで】世界審判の日來るまで(マタイ、二四・三一)
【仇なる權能】諸惡の敵なるキリスト、人類の罪を定めんために來るなり
九七―九九
審判の日いたれば魂ヨサファットの溪にゆきて再び肉體の衣をうけ永遠きはみなき刑罰の宣言をきくべし(地、一〇・一一―二及び三の一〇三以下參照)
一〇六―一〇八
【汝の教】アリストテレスの教
一〇九―一一一
【その後】天使の喇叭ひゞきし後即ち最後の審判の後
靈肉相合して人はじめて全し、されど此等の罪人は魂すでに全からねばたとひ肉を得るも眞の完全にいたれりといふをえす、たゞ肉を離れし時に比すれば完全に近きが故に審判の後の苦しみは從つて前よりも深し
一一五
【プルート】ハデス、神話にいづる富の神なり、財寶の慾は世界人類の平和を亂し諸惡の源となるものなれば大敵といへり


    第七曲

兩詩人第四の地獄の入口にいたりてプルートを見、のち獄内に進む、この獄二に分たれ一には貪り貯へし者一には妄りに費せる者罰せらる、導者は命運を論じつゝダンテと共に此處を過ぎて第五の地獄にくだり忿怒の罪を犯せる者スティージェの沼泥濘の中にひたりて相爭ふをみる
一―三
【パペ・サタン・パペ・サタン・アレッペ】Pap□ Sat□n, Pap□ Sat□n aleppe ! 怒れるプルートの詞、義不明
七―九
【狼】貪りをあらはすこと地、一・四九と同じ
一〇―一二
【ミケーレ】ミカエル、天使の長(ユダ、九)、魔軍と戰ひこれに勝つ(默示録一二・七―九)
【非倫】strupo(姦淫、強姦)、ルキフェル一味の魔軍が慢心を起して神に背くにいたれること
神と人との關係を男女の關係によりてあらはせること聖書に例多し(詩篇、七三・二七、イザヤ、一・二一等)
一六―一八
【第四の坎】第四の地獄
一九―二〇
【誰ぞ】汝正義にあらずして誰ぞ
二二―二四
【カリッヂ】カリブディス。ホメロス、ウェルギリウス、オウィディウス等の詩に見えて名高き渦卷、メッシナ海峽(イタリア、シケリア間)にあり、イオニオ海の潮とチレニア海の潮(逆浪)とうちあひて波荒く古より航海の難所たり
【リッダ】大勢にて舞ひめぐる舞踏の一種
二八―三〇
第四の地獄には貪る者と費す者と同一の罰を受く、圈二に等分せられその一乃ち兩詩人の左には貪る者(三八―九行)同じく右には費す者あり、罪人等胸にて重荷をまろばしつゝ各□その半圈を來往し半圈の兩端なる分岐點にいたれば彼此こゝにうちあひ、これと同時に費す者は貪る者にむかひて何ぞ貪り貯ふるやと罵り貪る者は費す者にむかひて何ぞ漫りに費すやと難じ各□踵をめぐらして一端にむかひかくして限りなくその觸[#底本では一字あき]をくりかへすなり
三一―三三
【歌】何ぞ溜むるや云々なる罵詈の叫び
三七―三九
【僧】cherci 僧侶たると俗僧たるとを問はずすべて寺院に屬する者をいふ
四〇―四二
【ほどよく】一方は費すべきに費さず一方は費すべからざるに費せるなり
四六―四八
【カルディナレ】寺院の高官、七十人相集まりてローマの聖團を組織し法王選擧の權を有す、當時寺院に屬するものゝ貪婪なること俗衆に比して更に甚しきをいへるなり
五五―五七
【二の】半圈の兩端なる
【手を閉ぢ】固く握りて放たざる守錢奴のさま
【髮を短くし】浪費者の姿、イタリアの諺に dissipato fino a'capelli(髮の毛までも遣ひ果す)といふことありと
五八―六〇
【美しき世】天堂
【いはじ】汝のしたしく目撃するところなれば
六一―三
【戲】或ひは、力、空なる事、欺、と解する人あり
七〇―七二
【わがいふところ】命運に關するダンテの所説は多くボエティウス(天、一〇・一二四―六註參照)の著書に據れり
七三―七八
神は日月及びその他の諸天を造りたまひ、これと同時に此等諸天の運行を司るもの即ち各種の天使をも造りたまへり、是に於てか九種の天使九個の天にわかれて輝きいづれもその神より附與せられたる光の割合に應じて天の全體を照すなり、これと等しく神は世界に命運なるものを立てゝその光輝となるべきもの即ち財産、地位、名譽等を司らしめたまふ
七九―八一
【血】血統
八五―八七
【神々】天球の運行を司る靈體乃ち九種の天使、これらの天使の諸天を司るに似たり
八八―九〇
【流轉】命運のめぐり來るにあひて世の幸をうくる人、相ついで出づ
九一―九三
【十字架につけ】責め誹り
九四―九六
【はじめて造られしもの】天使
九七―九九
【進みしとき】地、一・一三六、星の傾くは子午線を過ぎ西にむかひて降るなり、時夜半を過ぐ乃ち一三〇〇年四月九日聖土曜日の初めなり
一〇三―一〇五
【ペルソ】地、五・八八―九〇註參照
一〇六―一〇八
【スティージェ】ディーテ(地、八・六八)を繞れる沼
スティージェは神話にいづる地獄の川の一なり、神々この川によりて誓ひを立てしこと古詩に散見す
一一八―一二〇
泥水の下に沈める者は忿怒の罪人の一種にして邪氣を宿し怨みをいだき沈鬱陰險なる徒なり
一二一―一二三
【空氣】地上の
【無精の】accidioso 心のひきたゝぬ、美しき日の光をうくるもなほ樂しまず快き外界の響きに應ぜざる
一二四―一二六
【聖歌】反語、歎聲
一二七―一二九
坂(第四と第五の地嶽の間の)と沼との間の路をあゆみてこの地獄の大部分をへめぐり


    第八曲

彼等進んでディーテの城樓の下にいたりフレギュアスの船に乘りてスティージェの沼に浮びこゝにフィリッポ・アルゼンティなる者にあふ、やがて岸につきてディーテの門にむかふに魔軍群集して之を固め彼等の内に入るを許さず
一―三
【續いて】第七曲の物語をうけて
四―六
【焔】二の烽火は魂の來れるを示す相圖にて他の一の烽火はこれに應へこの相圖の通じたるをあらはす
七―九
【全智の海】ウェルギリウス
一〇―一二
【來らんとすること】相圖の結果として
一六―一八
【舟子】フレギュアス、神話に曰。フレギュアスはアレスの子なり。その女コロニスがアポロンに辱められしを憤りデルポイなるこの神の宮殿に火を放てりと、ダンテがこれに第五の地獄をまもらしめしもその愛みによりてなりされどフレギュアスの舟子なりしことはダンテ以前の記録に見えずといふ
【魂】原語に單數を用ゐしにつきては古註或ひは沼を渡る魂多からねば口ぐせとなりてかくいへるなりといひ或ひはウェルギリウスとダンテとを別々に指していへるなりともいふ
二八―三〇
【常よりも】原文、ほかの者等を載する時よりも(肉體の重みあれば)、思ふにフレギュアスの來れる時ウェルギリウスの載れる時のさまを見、一般をおしはかりてかくいへるなるべし
三一―三三
【死の】水の淀みて動かざる
【一人】フィリッポ・アルゼンティ、フィレンツェの貴族アーヂマリ家の者にてボッカッチョが怒り易きこと他に類を見ずといへる者
【時いたらざるに】いまだ死なざるに(八四行參照)
四〇―四二
ダンテを害せんとて手を伸べしなり
【犬共】怒り易き罪人等
六一―六三
【おのれを】怒りのあまり我とわが身を噛めるなり(地、二七・一二六參照)
六七―六九
【ディーテ】神話、プルート(魔王即ち『神曲』中のルチーフェロ)の異名、ディーテの都はディーテの城壁より地心に至るまでの地獄全體を含む、ダンテが魔王ルキフェル(ルチーフェロ)をディーテと呼べる例は地、一一・六五、一二・三九、三四・二〇に見えたり
【重き】罪も罰も(地、一一・七九以下參照)
七〇―七二
【伽藍】meschite(マホメット教徒の禮拜所)、ディーテの城樓をかくいへり
七六―七八
【固むる】或ひは、繞れる
八二―八七
【天より降れる】ルキフェルと共に神に背きて天を逐はれしもの
【門上】閾の上の意に解する人あり
九一―九三
【狂へる】地、二・三四―五參照
九四―九六
【世に】原語、こゝに
九七―一〇二
【七度あまり】思ふに地、二二・一〇三に見ゆるとおなじくあまたゝびの意に用ゐしなるべし、七なる數を不定數若しくは完全數として用ゐしこと聖書中に例多し(詩篇、一二・六、箴言、二四・一六等)
一〇三―一〇五
【彼】神
一〇九―一一一
【然と否】ウェルギリウスの歸り來るべきや否やを判じえざりしなり
一一八―一二〇
【憂ひの家】ディーテの邑
一二四―一二六
【門】地獄の門、傳説に曰ふ、キリスト、リムボに降れる時(地、四・五二以下)惡鬼等地獄の門を閉ぢてこれにさからひしかば打碎きて内に入りその後この門再び閉さるゝことなしと
一二七―一二九
【死の】永久に滅亡を宣言する
【ひとりのもの】天より遣はされしもの(地、九・八〇註參照)


    第九曲

あまつさへフーリエあらはれいでゝ彼等を威嚇す、彼等すなはち天の冥助を待ち遂にこれによりて門内に入りこゝに異端邪説の徒を葬れる多くの熱火の墓を見る
一―三
ウェルギリウスの事成らずして歸り來る姿を見、おそれのあまりダンテの顏蒼白となりたれば導者はその恐れを去らしめんため己が怒りの色を外にあらはさじとつとめしなり
【常ならぬ色】怒りの色(地、八―一二一―三參照)
七―九
【彼なりき】ベアトリーチェを指せるなるべし(地、二・七〇以下參照)
【一者】天より遣はされしもの
一〇―一二
先にはされどもしといひて疑ひをあらはし後には助けを約せる者のことをいひて望みをあらはせり
一六―一八
【望みを絶たれし】地、四・四〇―四二
二二―二四
【エリトン】テッサリアの巫女、大ポムペイウスの子セクスツスの請ひによりファルサーリアの戰ひ(ポムペイウスとカエサルとの)を語らしめんため一兵士の魂を呼起せることルカヌスの『ファルサーリア』(六・五〇七以下)にいづ
二五―二七
【ジュダの獄】ジュデッカ(地、三四・一一七)、第九の地獄にあり、イスカリオテのユダの罰せらるゝところ
二八―三〇
【天】プリーモ・モービレとて他の諸天を囘轉せしむる第九の天なり(天、二八・七〇―七一參照)
三一―三三
【怒りを見ずして】尋常にては
三七―三九
【フーリエ】エリニュエス、神話にいづる三女神、仇を報い罪ある者を罰す
四〇―四二
【チェラスタ】頭に二個の黒き角ある小蛇
異本、小蛇とチェラスタ
四三―四五
【侍婢等】フーリエ傳説に曰、フーリエは魔王ハデスの妻ペルセポネの侍婢なりと、かぎりなき歎きは、かぎりなき歎きの國乃ち地獄なり
【エーリネ】エリニュエス、フーリエのギリシア名
五二―五四
【メヅーサ】神話ゴルゴン(三女怪)の一、その頭を見るもの直ちに化して石となるといふ
【テゼオ】テセウス、神話に曰、テセウスはアテナイ王アイゲウスの子なり、その友ピリトウスを助けペルセフォネを奪はんとて地獄に下りハデスの捕ふるところとなる、後エルクレ(ヘラクレス)地獄にゆきて之を救へりとテセウスに十分の怨みをむくいしならば世の人おそれて再び地獄に入來る者あるまじかりしを
五五―五七
【ゴルゴン】メヅーサの頭
六一―六三
メヅーサの譬喩的解説につきてはダンテの眞意明かならず古來或ひはこれを異端邪説の象徴とし、或ひは色慾、貪婪、恐怖、嫉妬、疑惑、絶望等の表示とし異説甚だ多し、されどおもふにディーテの城は放縱の罪乃ち情を制する能はずして犯せる罪と邪惡乃ち惡心衷に萌して人を害するにいたりし罪とをわかつ境にあるものなれば、メヅーサを邪惡の代表と見做す説採るべきに似たり、その頭を見る人化石するはディーテ城外の罪と異なり惡念心に入りて習性的色彩を帶びあたかも惡性の痼疾の醫藥に於ける如く解脱の望みさらになきを示せり(詳しくはスカルタッチニの註にいづ、スカルタッチニはエリニュエスを本心の苦しみ乃ち自責としメヅーサを疑念と解せり)
六七―七二
【反する熱】異なる地方の熱
七九―八一
【一者】天使、兩詩人をたすけて門内に入らしめんため特に天よりくだれるもの
【魂】怒る者の魂
【徒歩にてスティージェを渡るに】或ひは、スティージェの渡りをわたるに
九七―九九
【チェルベロ】ケルベロス、(地、六・一三)、神話に曰、ヘラクレス天の命によりて地獄にくだれる時ケルベロスこれにさからひたれば鎖をもてこれをいましめ地獄門外に引出せりと
【毛なき】鎖のあと
一〇〇―一〇五
【ほかの思ひ】天に歸るを願ふ心
一一二―一一五
【アルリ】アルル。ローダーノ(フランスのローン川)河畔の町、河水わかるゝにあたり停滯して一湖をなす、名高き墓地ありしところ、傳説に曰、シヤルルマーニュ(カルロ・マーニオ)こゝにサラセン人と戰ひキリスト教徒の死者甚だ多くして葬るに暇なかりしが神恩これに臨み一夜にして無數の墳墓現出せりと
【ポーラ】イストリア(現今オーストリヤ領)の南端にある町、昔ローマの墓地ありし處、カルナーロ灣はアドリアティコ海の一部にてイストリアの岸を洗ふ
一二七―一二九
【邪宗】こゝに eresia といへるは寺院の教理に反して靈魂の不滅キリストの神性等な認めざりし者の謂なり
【荷】罪人、一の墓の中に多くの罪人を葬れるなり
一三〇―一三二
【右】詩人等地獄をくだるに常に道を左にとれり、これ罪の道は左より左にむかひ、惡より惡に進むを示せるなり(地、一四・一二六參照)しかるにこれに反し道を右にとれること二囘ありその一はこの處、他は地、一七・三一にいづ、この二囘の例外につきてはダンテの眞意知りがたし


    第十曲

詩人等第六の地獄の中エピクロス(エピクロ)及びその一派の者の葬らるゝところにいたりし時ダンテはこゝにファーリナータ及びカヴァルカンテとかたり前者の言によりてその身のフィレンツェより逐はるべきを知る
一―三
【かくれたる】異本、狹き
一〇―一二
【ヨサファット】エルサレムに近き溪の名、最後の審判の行はるゝところ(ヨエル書三・二及び一二)
一三―一五
【エピクロ】エピクロス、有名なるギリシアの哲學者、エピクロス學派を起せるもの(前三四一―二七〇年)
一六―一八
【願ひ】フィレンツェの者を見んとの願ひなるべし
一九―二一
【今のみならじ】多言を愼しむの意を起さしめしは今のみにあらず(地、三・七六―八一參照)
二二―二四
【トスカーナ】ダンテの郷國、フィレンツェこの中にあり
二五―二七
【郷土】フィレンツェ
【虐げし】フィレンツェのグエルフィ黨を惱まし(三一―三行註參照)
三一―三三
【ファーリナータ】フィレンツェなるウベルティ家の出、一二三九年ギベルリニ黨の首領となる、一二五八年その徒黨と共に郷土を逐はれてシエーナにいたりこゝに同志を糾合し同六〇年九月グエルフィ黨とモンタペルティ(八五―七行註參照)に戰ひ大いにこれを敗る(一二六四年死)
三七―三九
【明かならしめよ】政敵に對して言語の明截的確なるべきを注意せしなり
四三―四五
【從はん】ウェルギリウスの注意に背かざらんため
【眉をあげ】過去の記憶を呼起すさま
四六―四八
【かれら】ダンテの父祖は皆グエルフィ黨なりければ
【兩度】一二四八年友び一二六〇年
四九―五一
【前にも後にも】一二五一年及び一二六六年
【術】フィレンツェに歸ること、一二六六年ベネヴェントの戰ひの後グエルフィ黨再びフィレンツェに歸りギベルリニ黨はこゝより逐はる、一二八〇年にいたりて兩黨調停の事あり、されどウベルティ一家の者はなほその郷土に入るを許されざりき
五二―五四 或ひは、この時頤まであらはなりし一の魂これとならびてあらはれいでたり
【口】墓の
【一の魂】カヴァルカンテ・カヴアルカンティ、グエルフィ黨に屬せり、ファーリナータと同じく來世の存在を信ぜざりきといふ
五八―六〇
【わが兒】グイード・カヴァルカンティ、ダンテが『新生』三・九八―九にわが第一の友といへるもの、詩を書くしまた哲學に通ぜり、十三世紀の半フィレンツェに生る、一三〇〇年黒白兩黨の爭ひこゝに起れる時故ありて白黨に與し、これがためにフィレンツェの西北なるサルツァーナに幽せられ病を得、郷に歸りて死す(同年八月)、グイードの妻はファーリナータの女なり
カヴァルカンテはわが兒グイードの才ダンテに劣るまじきとまたそのダンテの親しき友なるをおもひてかくいへるなり
六一―六三
【侮りし】義不明、ドヴィディオ(D' Ovidio)はこは『アエネイス』の著者としてのウェルギリウスに對するグイードの態度をいへるに外ならずとし兩者の趣味詩風の相違を論じかつグイードのエピクロス派的傾向若しこの問題に聯關せば『アエネイス』にあらはれし宗教思想來世の状態の記述等この傾向と相反するの謂なるべしといへり
六四―六六 その言によりて友の父なるを知りその罰によりてエピクロスの末流なるを知る
六七―六九 侮るといはずして侮りしといひ過去の動詞を用ゐたるをあやしめるなり
【光】日の
七三―七五
【請ひて】二二―四行
七六―七八
【床】燃ゆる墓
七九―八一
ファーリナータの豫言なり、曰く、汝は今より五十ケ月以内に郷里に歸ることのいかばかり難きやを自ら味ひ知るなるべしと
【女王】魔王プルートの妻ペルセポネ(地、九・四三―五註參照)神話によりて月と見做せるなり
八二―八四
【願はくは】物を請ふにあたりて請はるゝ人の幸を希ふ意を陳ぶ、以下この例甚だ多し
【わが宗族】四九―五一行註參照
八五―八七
【アルビア】トスカーナ州の川の名、有名なるモンタペルティの戰場(シエーナの東南六十餘哩)はこの河畔にあり、一二六〇年九月四日追放されしフィレンツェのギベルリニ黨シエーナ人と合してフィレンツェのグエルフィ黨と戰ひ大いに之を敗る(三一―三三行註參照)
【祈りを】再び政權をフィレンツェにえしグエルフィ黨はモンタペルティの殺戮を惡むのあまりかくウベルティ家に不利なる法令を出してその郷土にかへるをゆるさず
【神宮】註釋者曰ふ、當時聖ジョヴアンニの寺院をフィレンツェ高官の議場にあてたればこれに因みて法令を祈りといへるなりと
八八―九〇
【かの事】モンタペルティの戰ひ
九一―九三
【處】エムポーリ、フィレンツェの西十九哩なるアルノ河畔の町、モンタペルティの戰ひの後ギペルリニ黨の人々この處に相會し後日の累を免かれんためフィレンツェ破壞の事を議せしがファーリナータ一人の劇烈なる反對ありて議遂に成るに至らざりきといふ
九七―九九
汝等は未來の事を知りてしかも現在の事に暗きに似たり、ファーリナータはダンテの未來を豫知しカヴァルカンテはわが兒の生死を知らず
一〇〇―一〇二
【光備はらざる】遠視眼の
こゝに我等といへるは地獄全體の罪人を指せるか第六の地獄の罪人のみを指せるか明かならざるに似たれども註釋者多くは之をもて全地獄の罪人と解せり、地、二七・二五以下にグイード・ダ・モンテフェルトロがローマニアの現状をダンテに問ひし如きまたこの例に洩れず、罪人の未來を豫言せる例は處々に見ゆれども現在の事を語れる例はたゞ第六曲のチヤッコの物語にあるのみ(地、六・四九以下、同七三)、さればむしろチヤッコを例外と見做すかた自然なるべし
一〇六―一〇八
最後の審判の日至れば未來の門は閉されて永遠の門開かる、未來既に消滅すれば未來の事にかぎられし罪人の知識は從つて全く消滅す
一〇九―一一一
【咎】カヴァルカンテの問に直ちに答へざりしこと(七〇―七一行)
一一八―一二〇
【フェデリーコ】有名なるローマ皇帝フリートリヒ二世(一一九四―一二五〇年)、エピクロスの徒と見做されし者
【カルディナレ】オクタヴィアーノ・デーリ・ウバルディニ、一二四五年カルディナレとなり、同七三年に死す、ギベルリニ黨に屬しエピクロスの流れを汲める者にて死に臨み、たとひ世に魂なるものありとも我は既にギベルリニ黨のためにこれを失へりといへりと傳へられる
一二七―一二九
【わが言に】原、こゝに
【指を擧げたり】ダンテの注意を促すため
一三〇―一三二
【淑女】ベアトリーチェ。ベアトリーチェ、ダンテにすゝめてカッチャグイーダにその生涯の事を問はしむ(天、一七・七以下)
一三三―一三五
【溪】第七の地獄


    第十一曲

第六の地獄を去るに臨みウェルギリウスはこれよりめぐるべき三の地獄の構造とその中なる罪人の分類を論じディーテ城門の内と外との罪を比較しさらに高利を貪る者の罪を擧げてダンテに教ふ
一―三
【岸】第六と第七の地獄の間の(第十二曲の始めにくはし)
四―九
【フォーチン】フォティヌス、テッサロニアの僧、チェーザレア(パレスチナにあり)の僧正アカキウスが異端の故をもて僧籍より除名されしことありしときフォティヌス彼のために復籍を取りはからはんとてローマにいたれり
【アナスターショ】法王アナスタシウス二世(四九六年より同八年まで在位)、ローマの人、當時東西二派の寺院異端につきて爭へるにアナスタシウスその調停に志しその頃ローマに來れるフォティヌスを屡□引見せるより己もまた異端に陷れるが如くおもはるゝにいたりしなりといふ
一六―一八
【次第】大小高低次をなすこと
一九―二一
【見るのみにて】罪人の種類をウェルギリウスに問ふ(地、三・三三、七三、四・七四等)に及ばざるため
三一―三三
【屬けるもの】神に屬するものは自然と神恩、人に屬するものはその持物(三四行以下)
四〇―四五
第七の地獄第二圓に罰せらるゝ浪費者は第四の地獄に罰せらるゝ放縱なる浪費者と異なり博奕またはこの類の事により人の不利をわが利となさんとするものなり
【喜ぶべき處】地上、生命財産は善用して幸に入るの階段となすべきを惡用して自ら悲歎の境界に陷るなり
四九―五〇
【ソッドマ】男色即ち自然に反する罪(創世記第一九章)
【カオルサ】高利貸即ち神の恩惠(自然の賜なる財寶)にむかひて暴を行ふ罪、カオルサはフランスの南にある一都會(カオルス)の名なり、中古、高利貸の極めて多かりしところなりければかくいふ
【封ず】默示録、二〇・三參照
五二―五四
【心これによりて】豫め深くたくらみて人を欺くが故にこれを行ふ人、本心に痛みを感ぜざるはなし
五五―六〇
己に特殊の關係なきものを欺くは人間相愛の道に背くなり
第八の地獄なる各種罪惡の分布左の如し
僞善     第六嚢  地、二三
諂諛     第二嚢    一八
惑はす者   第四嚢    二〇
詐欺     第十嚢 二九、三〇
竊盜     第七嚢 二四、二五
シモニア   第三嚢    一九
判人     第一嚢    一八
汚吏     第五嚢 二一、二二
外にこのたぐひの汚穢
詐りの謀   第八嚢 二六、二七
爭ひを蒔く者 第九嚢    二八
【シモニア】僧官及び其他の神聖なる物を賣買すること、この語の出處につきては地、一九・一―六註參照
【汚吏】baratti 公私に論なく己が職務を利用して益をはかる者
【第二の】これよりめぐらんとする獄の中の第二、即ち全體よりいへば第八の獄
六四―六六
【ディーテ】地獄王ルキフェル(地、八・六七―九註參照)
七〇―七二

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