神曲
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著者名:ダンテアリギエリ 

四三―四五
【豚】アルノ上流の地カセンティーノ(地、三〇・六四―六參照)の民を指す
【貧しき】水少なき
四六―四八
【小犬】Botoli(小さくして善く吠ゆる犬)アレッツオ人を指す
【顏を曲げ】カセンティーノを南に下れるアルノはアレッツオ市を距る三哩の處にいたり忽ち曲折して西に向ふ
四九―五一
【狼】フィレンツェ人を指す
五二―五四
【狐】ピサ人を指す
五五―五七
【聞く者】主としてダンテを指す
【眞の靈の】聖靈の教へに從つてわが豫言するところ
五八―六〇
【汝の孫】フルチェーリ・ダ・カールボリ。リニエールの孫、一三〇二年フィレンツェのポデスタとなりて大いに白黨を虐ぐ
六一―六三
【賣り】黒黨の賄賂をうけて多くの白黨をその敵の手に渡したればなり
六四―六六
【血】市民の
【林】フィレンツェ市
七〇―七二
【魂】リニエール
七六―七八
【好まざる】二〇―二一行參照
七九―八一
【グイード・デル・ドゥーカ】ブレッティノロ(一一二―四行註參照)の名族の出、十三世紀の人にてギベルリニ黨に屬す、傳不詳
八五―八七
【我自ら】我は己が罪によりてこの淨めの罰をうく(ガラテヤ、六・八參照)
【侶】を他人とともに頒つあたはざる世の福に(淨、一五・四三以下參照)
八八―九〇
【リニエール】リニエール・ダ・カールボリ。フォルリの名族の出、十三世紀の後半の人にてグエルフィ黨に屬す
九一―九三
【ポーと山と海とレーノの間】ローマニア。北はポー河、南はアペンニノ山脈、東はアドリアティコ海、西はレーノ河をその堺とす(地、二七・二八―三〇註參照)
【眞と悦びに】精神上及び處世上に必要なる文武の徳
【その血統】カールボリ一家
九四―九六
【有毒の雜木】敗徳の民
九七―一一一
【リーチオ】リーチオ・ダ・ヴァールボナ
リーチオ、アルリーゴ、ピエートロ、グイード等皆ローマニアの名族の出、十三世紀の人々にて仁侠を以て名高かりきといふ
【庶子】父祖の徳を繼ぐ能はざるをいふ
【フアッブロ】フアッブロ・デ・ラムベルタッチ。ボローニアのギベルリニ黨(一二五九年死)
【ベルナルディン・ディ・フォスコ】卑賤より身を起しその徳によりてファーエンツァ(ローマニア州ラーモネ河畔の町)第一流の市民となれるもの
【トスカーナ人】ダンテを指す
【グイード・ダ・プラータ】プラータはファーエンツァの附近にある町
【ウゴリーン・ダッツォ】トスカーナに名高きウバルディーニ家の者にて長くローマニアに住めりといふ
【フェデリーゴ・ティニヨーソ】リミニの人
【トラヴェルサーラ、アナスタージ】ともにラヴェンナ第一流の家柄なりしが一三〇〇年の頃殆んど斷絶の悲境にありきといふ
【處】ローマニア
【愛と義氣】或ひは戀愛のため或ひは義侠のため騎士等が多くの冒險を試みしたしく苦樂を味ひたりしその昔の日をしのぶなり
一一二―一一四
【ブレッティノロ】(今ベルティノロといふ)フォルリとチェゼナの間の町にて前出グイード及びアルリーゴ・マナルディの郷里なり
【汝の族と多くの民】族はブレッティノロを治めしマナルディ家を指せるか。スカルタッツィニ曰く、こは一二九五年ギベルリニ黨がブレッティノロより逐はれしをいふと
一一五―一二〇
【バーニアカヴァル】バーニアカヴァルロ、ラヴェンナの西にある町。十三世紀の頃この町を治めしマルヴィチーニ伯爵家には男子なかりきといふ
【カストロカーロ】モントネの溪にある町
【コーニオ】イモラ附近の町
不徳の子孫仁侠の父祖に代りて君たれば惡しといへり
【パガーニ】ファーエンツァの貴族
【鬼】パガーニ家の家長マギナルド・パガーニ・ダ・スシナーナ(地、二七・四九―五一參照)
【去る】一三〇二年に死す
【徴】美名
一二一―一二三
【ウゴリーン・デ・ファントリーン】ファーエンツァの人、徳を以て知らる、一二八二年に死し、その二子また相尋で死して家絶ゆ
一二七―一二九
かの魂等足音によりてわれらが右にゆくを知り而して何をもいはざるは即ち我等が方向を誤らざる證據なり、若し誤らば彼等必ず我等に教ふべければなり
一三〇―一三二
【聲】見えざる靈の(淨、一三・二五―七參照)
一三三―一三五
嫉妬の罰の第一例としてカインをあぐ、カインは嫉みのためにその弟アベルを殺せし者なり(創世記、四・三以下)
【およそ我に】神罰をおそれしカインの詞(創世記、四・一四)
一三九―一四一
罰第二例。アグラウロはアテナイ王ケクロップスの女アグラウロスなり、その姉妹ヘルセがヘルメス神に愛せらるゝを嫉み、神罰を蒙りて化石す(オウィディウスの『メタモルフォセス』二・七〇八以下)
一四二―一四四
【これは】これ等の例は人の心を抑制して他人の福を嫉むことなからしむるための善き誡めなり
一四五―一四七
【汝等】世人
【敵】惡魔
【銜】罰の例(淨、一三・四〇―二註參照)
【呼】徳に誘ふもの即ち徳の例。鳥を呼ぶにたとふ(地、三・一一五―七註參照)
一四八―一五〇
【美しき物】諸星(地、三四・一三六―八參照)
一五一
これ故に神は汝等を罰したまふ


    第十五曲

詩人等天使の教へに從つて階を踏み幸福の分與を論じつゝ第三圈即ち忿怒の罪の淨めらるゝところにいたる、ダンテこゝに異象によりて寛容柔和の例をみ後導者と共にすゝみて遂に一團の黒煙につゝまる
一―六
今見ゆる太陽と地平線との間は日出時の太陽と第三時(午前九時頃)の終りの太陽との間に同じ。即ち此時は日沒より三時間前(午後三時頃)なり
【球】太陽の天。そのつねに□轉して止まざること稚兒の戲るゝに似たり
【かしこ】淨火
【夕】Vespero 午後三時より日沒迄の間をいふ
【こゝ】イタリア。ダンテの計算に從へば淨火の午後三時はイエルサレムの午前三時に當り、聖都の西四十五度の位置にあるイタリアの夜半にあたる
一〇―一二
【輝】光輝のひときは強くなりてダンテの目を眩(くる)めかせしは(額を壓す)天使の光日光に加はりたればなり
一六―二一
ダンテは直接に天使より來る光を被はんとて手を目に翳せるもなほ間接の光(即ち天使よりいでて路にあたり反射してダンテを射る光)に堪ふる能はざりし次第を説きあかさんため光線反射の原理をこゝに敍せるなり
【くだるとおなじ】反射角の投射角と相等しきをいふ、この兩角相等しきがゆゑに反射線と垂線の間は投射線と垂線の間に等し
【垂線】原文、石の墜下(cader de la pietra)
二二―二四
【目は】光を避けんとてウェルギリウスの方にむかへるをいふ
三一―三三
罪清まるに從ひて光を喜ぶこといよ/\深し
三七―三九
【慈悲ある者】(マタイ、五・七)慈悲仁愛は嫉妬に反す
【勝者】嫉みの罪に勝つ者
四三―四五
【ローマニアの魂】グイード・デル・ドゥーカ(淨、一四・八五―七參照)
四六―四八
【最(いと)大いなる罪】嫉み(淨、一四・八二以下參照)
四九―五一
【處】地上の幸
五二―五四
汝等天上の幸を愛して心をこれに向はしむれば分の減ずる憂ひなし
【至高き球】エムピレオの天
五五―五七
【我等の所有と稱ふる者】幸を享くる者
【かの僧院に】聖徒の心に燃ゆる愛、僧院は天堂を指す(淨、二六・一二七―九註參照)
六四―六六
【眞の光より】われ眞を告ぐれども汝さとらず
六七―六九
【幸】神。神が己を愛する者に臨みたまふこと恰も太陽の光が光澤ある物體に臨むごとし
七〇―七二
神は己を愛する者の愛の熱度に應じて幸を與へたまふ、このゆゑに神を愛することいよ/\深ければその者のうくる幸またいよ/\大なり
七三―七五
天上の幸を愛するもの愈□多ければ神の賜ふ幸從つて多く彼等の神を愛する愛また從つて深し(五五―七行參照)、しかして彼等がおの/\自己の幸を他の者に映(うつ)すこと鏡に似たり
七九―八一
【五の傷】天使が劒を以てダンテの額にしるせし七のPの中の五(淨、九・一一二―五參照)即ち悔恨の苦しみによりて清まる五の罪
【かの二】誇りと嫉みの
八二―八四
【次の圓】第三圈、忿怒の罪を淨むるところ
【目の】處のさまを見んとの
八五―九三
寛容の徳の第一例として聖母マリアの事蹟をあぐ。マリアその子イエスを見失ひ夫と倶にこれを尋ね求むること三日、漸くにしてそのイエルサレムの神殿内にあるを知れるも怒らず罵らず、たゞ言葉を和らげて我子よ云々といへること聖書にみゆ(ルカ、二・四一以下)
【多くの人】イエスと問答しゐたる教師等(ルカ、二・四六)
九四―一〇五
第二例としてアテナイの君ペイシストラトス(前五二七年頃死)の寛容をあぐ。嘗て一青年路にてペイシストラトスの女に接吻せしかば母怒りて夫に復讎を求めしかども夫これに應ぜざりきといふことローマ古代の文人ヴァレリウス・マクシムスの説話集にいづといふ
【これが名に】アテナイの都ははじめその命名に就いてポセイドン、アテナ二神の間に激しき爭ひありしもアテナの勝となりしためかく名づけられたりとの傳説によれり(オウィディウス『メタモルフォセス』六・七〇以下參照)
一〇六―一一四
己を殺すもののために神の赦しを乞へる最初の殉教者ステパノをあげて第三例とす(使徒、七・五四以下)
【民】ユダヤ人
【目を天の】目をひらきて天を望み
一一五―一一七
【わが魂】わが魂己が外(そと)なる實在に歸れるとき、換言すればわが魂夢幻の境界を脱して五官の覺醒に歸れるとき
スカルタッツィニ曰。ダンテはこゝに客觀と主觀の別を明かにせるなり、彼がその幻の中に見し物は眞(實物)なれどもそは主の眞即ち己が心の中(うち)にある物にて心の外(そと)の眞に非ず、されど人には己の外の存在として物を見るの習ひあれば己の内のみの現象を己の外の現象と見做し主の實を客の實に變へ易し、此故にダンテはその夢心地なりし間己が見もし聞きもせることを己の外にて實際に起れること即ち客の眞客の實なりと思へるなり、而してかく思へることの誤りなるをさとれるはその心外物の感觸に歸れる刹那にあり、されど彼がこの誤りを僞りならざる誤りといへるは、いまだ欺かるとの自覺なく己が前に現はれしもの(こは存在の象(かたち)にして實在の象にあらねど)を實際に見たりと思ひたればなり、物の現はれしは眞なれどもこれをまことに彼に見せしめしものはその肉眼にあらずしてその心その魂その靈の眼なり
【僞りならざる】主觀の眞なれば
一二一―一二三
【レーガ】二三哩(ミーリア)
一三〇―一三二
【泉】神
【平和の水】寛容の徳
一三三―一三五
我は肉眼のみをもて物を見る人と異なりてよく物の内部をみるが故に今かくの如く汝に問へるも汝の足の定まらざりし理由を問へるにあらずしてたゞ汝を勵ませしなり
一三六―一三八
【怠惰】怠惰のため眠り覺めて後もなほ容易に活動せざるもの
一四二―一四四
【煙】忿怒の罪を淨むる烟。烟の目を冒して物を見るあたはざらしむるは怒りの智をくらまして是非を辨ぜしめざるに似たり


    第十六曲

黒烟につゝまれて忿怒の罪を淨むる魂の一、ロムバルディアのマルコ、ダンテの問ひに答へて意志の自由と世の腐敗を論ず
一―三
【乏しき】限界狹き
【星】原文、遊星。すべての天體の光をいふ
一三―一五
【のみ】pur これをウェルギリウスの詞とし、汝たゞ我と離れざるやう心せよと讀む人あり
一六―一八
【神の羔】キリスト(ヨハネ、一・二九)
一九―二一
【アーグヌス・デイー】Agnus Dei(神の羔)名高き祈りの歌にてその各節この二語にはじまる
神の羔、世の罪を取去りたまふものよ、我等を憐みたまへ
神の羔、世の罪を取去りたまふものよ、我等を憐みたまへ
神の羔、世の罪を取去りたまふものよ、我等に平安を與へたまへ
二二―二四
【怒りの結を】怒りの罪を淨む
二五―二七
【いまだ】猶世に生くる者のごとく
【月】calendi(各月の第一日)。永遠の世にては時をかく分つことなし
三一―三三
【奇しき事】生者にして冥界に旅すること
三四―三六
【行くをうる】罪を淨むる者烟の外に出づる能はず、されどその内にては進むも退くも自由なるに似たり
三七―三九
【纏布】肉體
四〇―四二
【近代に】使徒パウロ以來(地、二・二八以下參照)
四六―四八
【ロムバルディアの者】Lombardo 或曰。ロムバルドは國を指せるにあらず、マルコがヴェネツィアのロムバルディ家の出なればかくいへるなりと
【マルコ】十三世紀の人、傳不詳
【ひとりだに狙ふ人なき】原文、人みな弓を弛むべし
四九―五一
【高き處】天の王宮
五二―五四
【死すべし】その苦しみに堪へずして
五五―五七
この疑ひ(世の腐敗の原因に關する)はさきにグイード・デル・ドゥーカよりイタリアの罪惡を聞きしとき(淨、一四・二九以下)既に起れるものなるが今また汝より人類のおしなべて徳に遠ざかることを聞き彼此相對比していよいよ世の眞相をたしかめ疑ひ從つていよ/\深し
【これと連なる事】わがこの疑ひに關すること即ち世の腐敗
【こゝにもかしこにる】マルコの言とグイードの言とを指す。ダンテはマルコの言によりてマルコ自らいへることとグイードのいへることとの眞なるをかたく信ずるにいたれるなり
六一―六三
【或者】或者は世の墮落を星辰(諸天)の人間に及ぼす影響に歸し、或者はこれを人間の惡に傾く性情、その自由の意志の濫用に嫁す
六四―六六
【汝まことに】汝の無智は汝が世より來り世に屬する者なるを示す
七〇―七二
善惡の應報は自由の意志を豫想す
七三―七五
【天は】星辰の影響は人慾の最初の作用に及べどもその作用の全體に及ぶにあらず(星辰以外の影響あり)
七六―七八
【天と戰ふ】星辰の人慾に及ぼす影響と戰ふ。自由の意志もしこの戰ひに勝ちて而して後修養を經れば遂に何物の影響をもうけざるにいたる
七九―八一
汝等は神の大能の下に屬してしかして自由を失はず、この大能は星辰の力の左右し能はざる理智の魂を汝等に賦與す
八二―八四
【明かに】原文、眞(まこと)の説明者とならむ。spia は穿鑿者の義より轉じて説明者若くは報告者の意に用ゐられしもの
八五―九三
創造の初めに於ては人の魂無邪氣にして思慮なくたゞ本能に從つて己を樂します物にむかふ、かくて世の幸を味ふに及び、これに欺かれて以て眞(まこと)の幸となしたゞこれをのみ追ひ求む
【未だあらざるさきより】人の魂はそのいまだ造られざるさきに既に神の聖意(みこころ)の中に存在す、神見てこれを善しとしたまふ
【導者か銜】皇帝(及び法王)か律法、もしその愛慾を正しき道に向はしめずば
九四―九六
【眞の都の塔】天の王宮の塔如ち正義
九七―九九
【手をこれにつくる者】律法を施行する者
【牧者】法王
【□む】モーゼの律法はイスラエル人が反芻せず蹄分れざる獸の肉を食ふことを禁ぜり(レビ、一一・三以下)
註釋者曰。反芻は智をあらはし雙蹄は善惡の別をあらはす、即ち法王が聖典の事に通ずれども善惡の別をあきらかにせず、天上の幸を顧みずして地上の幸をのみ求め、帝王に代りて正義を行ふ能はざるをいふと
一〇〇―一〇二
【幸】地上の。民その導者に傚ひて地上の慾を追ひ、靈の幸を求むることなし
一〇三―一〇五
かく見來れば世の腐敗の原因は星辰にあらずして人間にあり、人間にありと雖もこは人の性惡しきの謂にあらずして治者の指導その宜しきをえざるの謂なり
一〇六―一〇八
【二の日】二の主權即ち皇帝と法王(地、三四・六七―九註參照)
一〇九―一一一
【一は】然るにその後法王の權は皇帝の權を奪ひ、地上の權は靈界の權に合せらる
【杖】pastorale 僧官のしるしの杖
一一二―一一四
【恐れざれば】二個の獨立せる主權相扶掖してはじめて治國の道を全うす、しかるに政教一途よりいづれば互ひに相顧みて警戒するの要なく互ひに相助くるの要なきがゆゑに從つてその權を恣にするにいたる
【穗を】二主權混合の結果のいかなるやを思ふべし、すべて草木の善惡はその結ぶ實によりて知らるゝなり(マタイ、七・一六以下參照)
一一五―一一七
以下實例を擧げて政教混亂の禍ひを示せり
【國】ロムバルディア。アデーチエ(アディージェ)及びポーの兩河の流るゝ國
【フェデリーゴ】皇帝フリートリヒ二世(地、一〇・一一八―二〇註參照)。フリートリヒがいまだ法王と爭はざりし頃
一一八―一二〇
己あしきため善人と語りまたはこれに近づくことをすら恥づる者今は恐れずしてかの地を過ぐるを得、かの地に善人なければなり
一二一―一二三
【神の己を】かの敗徳の地を去りて神の許に歸るをうる日を待侘(まちわぶ)る三人の翁
一二四―一二六
【クルラード・ダ・パラッツオ】ブレッシアの貴族
【ゲラルド】ゲラルド・ダ・カーミノ。トレヴィーゾの人にて長くこの町を治めしもの(一三〇六年死)、ダンテ『コンヴィヴィオ』の中に(四、一四・一一四以下)その徳を稱せり
【グイード・ダ・カステル】レッジオの人
【ロムバルド】(ロムバルディアの人)グイードはこの異名によりて却つてよく知らるとの意、フランス人云々については或ひはグイードの聞えフランス人の間に高く彼等グイードを呼ぶにこの異名を以てせりといひ或ひはフランス人はイタリア人をおしなべてロムバルドと呼べりともいふ
一二七―一二九
【荷】政教の
一三〇―一三二
【レーヴィ】イスラエルの民の中なる僧侶の族にて代々産業をうくるをえず(民數紀略一八・二三)。ダンテはマルコの言を聞きて寺院の徒に俗慾に腐心するの非なるを思ひ、レーヴィの族が專心神に事ふるをえんため産業に與かる能はざりし次第をさとりえたりとの意
一三三―一三五
【消えにし民】昔の民(文武の徳あまねかりし頃の)
一三六―一三八
我汝の言を聞き違へたるか或ひは汝我になほもゲラルドの事をいはしめんとてかくいひて我を試むるか、汝トスカーナの者にして少しも彼の事を知らざる筈なし
【トスカーナ】ゲラルドの名はトスカーナにて最も人に知られきといふ
一三九―一四一
我若し彼をゲラルドと呼ばずばガイアの父といふの外なし
【ガイア】ゲラルドの女(一三一一年死)、素行修まらざるを以て知らるといふ(但し異説あり、されど思ふにこゝにては善き父と惡しき子とを對照せるならむ)
一四二―一四四
【光】天使よりいづる
【彼に見えざるさきに】罪未だ清まらざるがゆゑに天使の前にいづるをえず


    第十七曲

ウェルギリウスとともに黒烟をいでて後ダンテまづ忿怒の罰の例を異象に觀、次で天使の教へに從ひ階を上りて第四圈即ち懶惰の罪の淨めらるゝ處にいたる、この時日既に暮れてまた進むこと能はざれば導者はこゝにダンテのために人間の愛慾を論じ、淨火の罪の分類を明かにす
一―三
【□鼠】□鼠の眼は薄き膜に蔽はれて物を見る能はずといへる古説によれり
七―九
【第一に】畑をいでて第一に
一〇―一二
【雲】黒烟
【水際に死せる】水際即ち山麓を照らさざる
一三―一五
【外部より奪ふ】外物の刺激を人に感ぜしめざる
一六―一八
想像の力を刺激してこれを活動せしむるもの官能にあらざるときは即ち星辰若くは天意なり
【光】力。天より出づる力は或ひは星辰の影響により(自ら)或ひは上帝の聖旨(意志)によりて人の想像を刺激す
一九―二一
怒りの罰の第一例、プロクネ(プロニエ)
【鳥】鶯
【女】プロクネ。トラキア王テレウスの妻なり、その妹ピロメラ、テレウスに辱しめられしとき、仇を報いんため己とテレウスの間の子イテュスを殺し、夫を欺いてこれが肉をくらはしむ、神々即ちその罪を惡み化して鳥となす(オウィディウス『メタモルフォセス』六・四一二以下參照)
ギリシアの物語によればプロクネは鶯にピロメラは燕に化し、ラテンの物語によれば前者は燕に後者は鶯に化す、ダンテはギリシアの物語に從へり
二二―二四
【わが魂は】心異象にのみ凝りて外部の印象をうけざるをいふ
二五―三〇
第二例、ハマン。ハマンはペルシア王アハシュエロス(アッスエロ)の臣なり、君寵淺からず諸民跪きてこれを拜す、しかるにユダヤ人モルデカイ(マルドケオ)なるもの獨りこれを敬はざりしかばハマン大いに怒り諸州のユダヤ人を悉く殺さんと謀れり、王妃エステルこの謀を王に告げハマン遂に木に懸けて殺さる(エステル書、三以下)
三四―三九
第三例、アマータ。ラチオ人の王ラティヌスの妻なり、アエネアスの軍近づくを見てこれと戰へるツルヌス(女婿となるの約ありし)既に死せりと思ひその女ラウィニアがかの漂流の客アエネアスの妻とならんこと恐れ怨みの餘り縊りて死す(『アエネイス』一二・五九五以下參照)
【處女】ラウィニア
【かの人】ツルヌス(地、一・一〇六―八並びに註參照)
四〇―四二
【消えざるさきに】睡り未だ全く去らずしばらく覺醒と戰ひ眠れる者をして夢現の間にさまよはしむるをいふ、ダンテの異象の一時に消え失せずしてなほしばらく眼前にちらつきたるにたとへしなり
四二―四五
【見慣るゝ光】日光
【もの】天使の光
四九―五一
【顏を合す】物を見るの願ひ切なる時はまのあたりこれを見るにあらざればしづまることなし
五二―五四
【わが力】わが視力
五八―六〇
かの天使の人を愛することは人の己を愛するごとく深し、彼は人に請はるゝを待たずして進んで人を助け導き、人は他人の乏しきをみれば未だ乞はれざるにはやくも助けを拒まんとす
六一―六三
夜の間は一歩もさきに進むをえざること前に見ゆ(淨、七・五二以下參照)
六七―六九
【顏を】天使羽をもて詩人の額上なるP字の一を消せるなり
【平和を愛する】マタイ、五・九。惡しき怒り云々はその解にて善き怒り(義憤)に對す
八五―八七
ウェルギリウスはダンテの問ひに答へて懶惰の罪のこの圈に淨めらるゝをつげたり、懶惰の罪は即ち第一の幸を愛してその熱心足らず(義務に缺く)、あたかも舟人の擢を怠りて徒に時を失ふに似たる罪なればなり
九一―九三
【自然の愛】宇宙萬物の中に自然に備はる愛即ち本能的の愛慾
【魂より出づる愛】自由意志により選びて物を求むる愛即ち理性的の愛慾
九四―九六
【他は】選擇の愛の誤るさま三あり、(一)人の禍ひを愛するとき、即ち誇り、嫉み、怒り(一一二行以下參照)、(二)第一の幸(神)を愛してその愛足らざるとき、即ち懶惰(一二七―三二行參照)、(三)第二の幸を過度に愛するとき、即ち、貪慾、多食、邪淫(一三三行以下參照)
九七―九九
【第一の幸】(複數)天上の幸特に上帝
【第二の幸】地上の幸
一〇六―一〇八
愛慾の目的はこれを起すもの(主體)の福にあるがゆゑに苟くも愛慾を起しうるものにして己が禍ひを求むるはなし
一〇九―一一一
何物も神を離れて自ら存在し能はざるがゆゑに從つて神を憎む能はず、神を憎むは己を憎むにほかならざればなり
一一二―一一四
禍ひを愛する愛かく己にも神にもむかはずばたゞ他人にむかふのみ
【汝等の泥】人間の性情
一一五―一一七
傲慢
一一八―一二〇
嫉妬
一二一―一二三
忿怒
一二四―一二六
【下に】下の三圈に
一二七―一二九
【一の幸】神
一三三―一三五
【また一の幸】地上の幸
【凡ての幸の】眞の幸福の因たり果たるものはたゞ神のみ
一三六―一三八
【三に分る】貪慾、暴食、邪淫の


    第十八曲

ウェルギリウスまたダンテのために愛慾と自由意志の關係を論じ、論じ終れば時既に夜半に近し、懶惰の罪を淨むる一群の靈後(うしろ)より來て彼等を過ぎつゝ熱心の例及び懶惰の罰の例を唱ふ、靈遠く去るに及びてダンテ眠る
四―六
【渇】求知の念
一三―一五
【すべての善惡の】淨、一七・一〇三―五參照
一六―一八
【瞽等】無智の徒。彼等はいかなる愛に於ても愛その者はあしからずとの謬見をいだき(三四―六行)而して自ら世の指導者たらんとす
一九―二一
人の魂には物を求むる天授の力あり、誘ふものにあはざる間はこの方内に眠れども一たび幸のために目覺むれば直ちに外にあらはれて凡てその幸と認むる物を求めんとす(淨、一六・八五以下參照)
二二―二四
汝等の智力は外物の印象をとらへ來りてこれを汝等の心に示す
二五―二七
若し心この印象に傾きこれと結合するにいたればこゝに愛生ず、これ覺醒の愛即ち外物の刺激によりて心の中なる自然に物を求むる情とあらたに合する力なり
二八―三〇
【ところ】火炎界(淨、九・二八―三〇註參照)。古、火の上方に向ふを以て火炎界に登らんとするその本來の性向によるとおもへるなり、火こゝにあれば即ちその處をえ、地上にあるよりも長く保つを得
三一―三三
實在の樂しみに捉へられし魂はその愛慾の目的に到達せんとの願ひを靈的作用によりて起しこの願ひを滿たさざればやまじ
ダンテは『コンヴィヴィオ』三、二・一八以下に愛の眞義を論じて、こは魂と愛せらるゝものとの靈的結合に外ならず、魂はたとひその自由なると然らざるとによりて緩急の差ありとも、その本來の性質にもとづき走りてこの結合を求むといへり
三七―三九
凡そ人はその自ら認めて幸となすところのものを求むるが故に目的(めあて)(客體)常に善しとみゆれど、その實常によきにあらず(淨、一七・九四以下參照)、また假りによしと見做すも愛の過不足によりて罪を犯すことあるは恰も良き蝋の上にあしき印影(かた)を捺(お)すがごとし
四三―四五
若し外物の印象をうけて愛生じ、魂は物を求むるその自然の性に從つて動くの外なしとせばその向ふところ正しとも正しからずとも何ぞこれがために善惡の報いをうくるに當らむや
四九―五一
物質と類を異にし而してなほこれと相合するすべての靈魂は一種特有の力即ち人自然に物を認め且つ愛する性向を有す
【靈體】forma sustanzial 主要の本質。人間に於てはその靈魂
五二―五四
この性向魂の中に潜む間は見えずさとられず、そのはたらきによりてはじめてさとられ結果によりてはじめてあらはる
五五―六〇
物を認むる最初の力(理智の基)と物を求むる最初の情(愛慾の基)とは自然に魂に備はるものにてそのいづこより來るやは人知り難し
【最初の願ひ】自然に物を認めてこれを愛する情。自由の愛にあらざるがゆゑに毀譽褒貶を受くべきものにあらず
六一―六三
他の諸□の愛慾がこの自然の愛と相結び相和するにあたりては即ち自然の愛が自由の愛にうつるにあたりては善惡をわかちてしかして取捨すべき一種の力(理性)汝等の中にあり
六七―六九
古來哲人が徳義を説けるは意志の自由を認めたればなり
七三―七五
【ベアトリーチェ】月天に自由の意志を説く(天、五・一九以下)
七六―七八
【月】四月十一日と十二日の間の夜半近き月。その一面缺くれども猶小さき屋の光を沒するに足る
おくれしは月出のおそきをいへるにあらずして、夜半近きほどおそき時にみえしをいふ、月の出でしは午後十時の頃なり
【釣瓶】secchion イタリアに用ゐらるゝ金屬製の釣瓶、その形球の上部を切り取れるごとし
七九―八一
十一月後半の頃ローマより見れば日はサールディニアとコルシーカ兩島の間に當る方向(やゝ南にかたよれる西)に沒す
【天に逆ひて】西より東に。即ち諸天の運行に從つて東より西に運行するのほか、その固有の□轉によりて西より東に逆行するなり(ムーア『ダンテ研究』第三卷六―七頁並びに脚註同七二頁以下參照)
八二―八四
【マントヴァーナの邑よりも】或ひはマントヴァ(マントヴァーナ)領内の何れの村よりもの意と解する人あり
【ピエートラ】古名アンデス、ウェルギリウスの生地にしてマントヴァ市の附近にあり
【わが負はせし荷】わが彼に負はせし疑ひの荷或ひは、わが負へる荷
八八―九〇
【民】懶惰の罪を淨むる
九一―九三
【イスメーノ、アーソポ】イスメノス、アソポス。テバイ附近の河の名。テバイ人等夜燈火をともし、これらの川の邊に群がり走りてこの町の守護神なるバッコス(バッコ)の助けを求めきといふ
一〇〇―一〇二
熱心の例。マリア、カエサル
【マリア】聖母マリアがその親戚エリザベツを訪はんとて山地なるユダの邑にいそぎてゆけることルカ傳(一・三九)にいづ
【チェーザレ】ユーリウス・カエサル。
カエサル、マルシリア(マッシリア、今のマルセイユ)を圍み、ブルートゥスをこゝにとゞめて急遽イスパニアに赴き、ポムペイウス部下の將アフラニオ等をイレルダ(今のレリダ)に攻む
一〇三―一〇五
【恩惠】神恩
一〇九―一一一
【徑】pertugio(孔又は裂目)掘り穿たれし岩間の徑をいふ、一一四行のbucaこれと同じ
一一五―一一七
【我等の】我等の止まらざるは神の正義に從はんためなれば無禮とみゆとも許せとの意
一一八―一二〇
【バルバロッサ】フリートリヒ一世(一一五二年より一一九〇年まで皇帝)の異名
【ミラーノ】一一六二年。バルパロッサこの市を破壞す
【院主】註釋者或曰。こは一一八七年に死せる「サン・ヅェノ」僧院の院主ゲラルド二世の事を指すと
一二一―一二三
【ひとりの者】ヴェロナの君アルベルト・デルラ・スカーラ(一三〇一年死)。一二九二年その庶子ジュセッペをかの僧院の主となせり
一二四―一二六
【身全からず】跪者なりきといふ、モーゼの律法に從へば不具者聖職を奉ずるをえず(レビ、二一・一七以下)
一三〇―一三二
【噛み】懶惰の罰せられし例をあげてこの罰を責むるをいふ
一三三―一三五
罰の第一例、イスラエル人。水分たれし紅海を渡りて、エヂプトよりのがれいでしイスラエル人(出エヂプト、一四・二一以下)は神の人モーゼの教へを守らざりしため、ヨルダン川の流るゝ地パレスティナに到らずして死せり(ヨシュア、五・六)
一三六―一三八
罰の第二例、アエネアスの侶等。アンキセスの子アエネアスと漂流の苦しみを最後まで倶にする能はざりしトロイア人は譽を棄ててシケリアに殘れり(『アエネイス』五・七〇〇以下參照)


    第十九曲

ダンテ夢にセイレン(シレーナ)を見、さめて後天使に導かれてウェルギリウスとともに第五圈に達す、こゝには貪慾の罪を淨むる魂の俯きて地に伏せるあり、その一法王ハドリアヌス五世ダンテとかたる
一―三
明方近き時(地、二六・七―一二並びに註參照)
【地球】前日の暑さの空中又は地上に殘れるもの冷やかなる地球のために消ゆ
【土星】古、土屋に熱を消す力ありとおもへるによる
【月】月はその光によりて空氣と地球を冷却すとおもへるなり、月の寒さといふは猶夜の寒さといふごとし
四―六
【ゼオマンティ等】geomanti 偶然に地上に劃點し、その點にもとづきて線をひき形を作りて卜する者
【大吉】maggior fortuna その所謂大吉なるものは劃點の位置殆んど寶瓶宮の後半と雙魚宮の前半の星を連ねし如し。太陽は今白羊宮にあり、而して雙魚寶瓶の二宮はこれに先だつものなればこれらの星の東にあらはるゝは日出前約二時間なり
【ほどなく白む】日光のため。原文、その(大吉の)ためにしばし暗さを保つ
七―九
【女】シレーナ(一九―二一行)。貪婪、暴食、多淫の象徴なり(五八―六〇行)、これらはその實極めて醜きものなれども人、情に動かされ誤り見て美しとす(一〇―一五行)
一九―二一
【シレーナ】セイレン、神話に曰。セイレンはイタリア西南の海の一島に住む妖女なり、その美しき歌をもて航海者の心を迷はしこれを引きよせて命を斷つと。海は地中海
二二―二四
【わが歌をもて】異本、わが歌まで
【ウリッセ】オデュセウス。神話によればオデュセウスを迷はせしものはキルケ(チルチェ)にして(地、二六・八八以下)キルケはセイレンにあらず、ホメロスの『オデュセイア』にはオデュセウス、チルチェの教へに從ひ蝋をもて耳を塞ぎてセイレンの難を免かれしことみゆ、ダンテの據る處あきらかならず
【我と親しみて】一たび罪の快樂に耽る者容易に正道に歸らざるの意を寓す
二五―二七
【淑女】註釋者多くはこれを道理の表象となす、異説多し
三一―三三
【とらへ】淑女かのセイレンをとらへ
三四―三六
この一聯すべてムーアの『ダンテ全集』によれり、異本多し、委くは『神曲用語批判』(三九三―四頁)
【門】岩間の徑をいふ
三七―三九
【新しき日】四月十二日午前の太陽
四〇―四二
ダンテは頭をたれ身をかゞめて歩みゐたるなり
四九―五一
【哀れむ者】マタイ、五・四に曰、哀れむ者は福なり。この圈の靈泣き悲しめること前にいづ(淨、一八・九九)
【女王】所有者
【扇げり】ダンテの額上に現れるP字の一を消さんため
五八―六〇
【上】上の三圈即ち貪婪、多食、及び邪淫の罪を淨むるところ
【年へし】世の初めよりありし罪なればなり
【人いかにして】人、道理の光に照らして此等の慾の眞相を觀その誘ひに勝つをいふ
六一―六三
【歩履をはやめ】原、踵に地をうち
【天】原、大いなる海
神は諸天をめぐらしその美を示して汝等を抱けば汝等その招き(餌)に從つて心を天にむかはしめよ(淨、一四・一四八以下參照)
六四―六六
【聲】鷹匠の
【食物】獲物の一部を鷹に與ふる習ひなりきといふ
六七―六九
【環り】環行すべき處即ち第五圈、第五圈は貪婪の罪を淨むるところなり、ダンテは七大罪の分類に從ひ主としてこの罪をあげたれど浪費者も亦この圈に罰せらるゝこと地獄の場合と同じ(淨、二二・四九以下參照)
七三―七五
【わが魂は】詩篇一一九・二五。塵は地なり
七六―七八
ウェルギリウスの詞
【義と望み】神の正義に從つて淨めの苦しみをうくとの觀念及び時至れば天に登るを得との信仰
七九―八一
魂(ハドリアヌス)の答へ
【右を】園を右よりめぐれば兩詩人の左は山腹右は圈の外側なり
八二―八四
【かくれたる者】かく我等に答へし靈。靈皆俯むきて伏しゐたれば目にてはそれと知り難かりしも耳にて知りえたりとの意
八五―八七
かの靈と語らんとて目付にて導者に許しを請へるに導者もまた目付にて許しを與へしなり
九一―九三
【物】罪を淨むること。罪の清むるを果實の熟するにたとへしなり
【意】罪を淨むるの願ひ
九七―九九
【ペトルスの繼承者】法王(地、二・二二―四參照)。この法王は名なオットブオノ・デ・フィエースキといひコンチ・ディ・ラヴァーニアと稱するゼーノヴァの貴族の出なり、一二七六年七月選ばれて法王となりハドリアヌス五世と稱し在位三十八日にして死す
一〇〇―一〇二
【流れ】ラヴァーニア
【シェストリとキアーヴェリ】東シエストリ及びキアーヴェリはともにゼーノヴァの東にある町の名
【稱呼】川の名なとりてコンチ・ディ・ラヴァーニアといへり
一〇三―一〇五
われ法王の位にあること僅かに月餘に過ぎざりしかど、よくこの任の甚だ重きを知りえたり
【これを泥に汚さじ】法王の位を辱しめじ
一〇六―一〇八
【虚僞】世の富貴は眞の幸にあらざること
一〇九―一一一
かくの如き榮位をうるも慾心なほ飽かずまた飽かすべき地位なきを見て我は永遠の生命(いのち)眞(まこと)の幸を愛するにいたれり
一一二―一一四
【かの時】法王となれる時
一一五―一一七
【爲すところのこと】精神上に及ぼす惡結果
【苦き】忌むべきさまなる
一二一―一二六
【働】善行
【正しき主の】神の善しとみたまふまで、罪の全く清まるまで
―二七―一二九
【耳を傾け】ダンテを見る能はざれども聲近く聞ゆるによりてその跪けるをさとり
一三〇―一三二
【汝の分】地、一九・一〇〇―一〇二參照
一三三―一三五
默示録、一九・一〇參照
一三六―一三八
【また嫁せず】或問ひに答へて甦る者は嫁娶せずといへるキリストの言(マタイ、二二・三〇等)。寺院は淑女法王はその夫なり(地、一九・五五―七及び同一〇六―八註參照)、されどかゝる關係は現世にのみありて後世(ごせ)になし故に昔法王なりきとて我今何ぞ殊更に敬をうくるに足らむ
一三九―一四一
【ところのもの】即ち神に歸るにあたりて缺くべからざるところのもの(九一―三行)
一四二―一四四
【アラージヤ】ハドリアヌス五世の姪にてルーニジアーナの猛將モロエルロ・マラスピーナ(地、二四・一四五―七註參照)の妻となれるもの。古註に曰、ダンテは一三〇六年マラスピーナ家に客たりしときこの女を見かつその多くの善行を知れりと
【わが族】原、我等の家。フィエースキ一家
一四五
わが近親の中にはアラージャの外に善人なければ汝彼女に請ひてわがために天に祈らしめよ


    第二十曲

ダンテ、ウェルギリウスとともに山側に沿ひて進み清貧と慈善の例を聞く、ユーグ・カペーの靈第五圈にありてダンテとかたり己が子孫の罪業をのべかつその夜の間に誦(ず)すべき貪慾の罰の例を告ぐ、詩人等さらに前進すれば全山こゝに鳴動して頌詠の聲四方に起る
一―三
一の意は法王ハドリアヌス五世となほも語らんと欲するダンテの願ひ、まさる意はダンテに妨げられずして罪を淨めんと欲する法王の願ひにあたる
四―六
【障礙なき】地に伏しゐて路の妨げとなる魂なき
七―九
【縁】第四圈に界する斷崖
一〇―一二
【牝の狼】貪婪(地、一・四九以下參照)。始祖の昔より故にありし罪(地、一・一一一參照)なれば年へしといふ
一三―一五
【人或ひは】地上の事物の變遷するを諸天の運行に基因すとなす(淨、一六・六一以下參照)
【逐ふ者】獵犬(地、一・一〇〇以下參照)
一九―二四
清貧任慈の第一例、聖母マリア
【客舍】厩。聖母キリストをこゝに生みて馬槽(かひをけ)の中に臥さしむ(ルカ、二・四以下)
二五―二七
第二例、ガイウス・ファーブリキウス・ルスキヌス。紀元前二八二年ローマのコンスルとなりサンニタ人と和を議するにあたりてその賄賂を却く、ファーブリキウス死して餘財なく市民公金を以てその埋葬の費を辨ぜりといふ、ダンテの彼を賞せる詞他の著作にもいづ(『コンヴィヴィオ』四、五・一〇七以下及び『デ・モナルキア』二、五・九〇以下參照)
三一―三三
第三例、ニコラウス(ニッコロ)。聖ニコラウスはミーラ(小アジアのリキアにあり)の僧正なり、傳へ曰ふ、嘗て人あり貧困のためにその三人の女を賣らんとす、ニコラウスこれを聞きてひそかに財嚢をその家の窓より投げ入れかの女子等なして汚辱の生涯を免れしむと
三七―三九
【報酬】かの靈のために世の善人の祈りを請ふこと
四〇―四二
【慰】善人の祈り。そのこれを望まざるは子孫に善人なければなるべし
四三―四五
フランスのカペー王家(惡き木)の祖先(根)なるを告げしなり、このカペー家は一三〇〇年にフランス、ナポリ、イスパニアの諸國を治めき
四六―四八
されどフランドル人にして若し充分の力あらば速かに仇をわが子孫にむくいむ
ドアジォ、リルラ等はフランドルの主なる町の名なり、こゝにてはフランドル全體を代表す
一三〇二年クルトレイの戰ひにフランドル人大いにフランス軍を破りてこれを國外に逐ひ以てフランス王フィリップ四世の奪略に報いたり
四九―五一
【ウーゴ・チャペッタ】ユーグ・カペ―。フランスのユーグ公の子なり、九八七年ルイ五世の後を承けてフランス王となり九九六年に死す
【フィリッピとルイージ】フィリップ一世、二世、三世、四世。ルイ(ルイージ)六世、七世、八世、九世(以上一三〇〇年までにフランス王となれるもの)
五二―五四
【屠戸の子】或ひは、牛商の子。訛傳に基づく
註釋者のいふごとくダンテはユーグ・カペーとその父ユーグとを混じ、當時の俗説に從つてこれを牛商の子となせるに似たり
【昔の王達】カロリング王家の諸王。その最後の王はルイ五世(九八七年死)なり
【灰色の衣を着る者】僧となれる者。但し何人を指せるや明かならず、恐らくはダンテの記憶の誤りならむ
ルイ五世死して嗣子なく當時カロリング家に屬する者とてはたゞその叔父、ロレーヌ公のシヤルルありしのみ、されどこのシヤルルはユーグ・カペーにとらはれて獄に下され九九二年に死せり
五五―五七
五五行より六〇行に亙る二聯もユーグ父子の事蹟の相混じたる結果なるべし
【わが手に】攝政として
五八―六〇
【わが子】ユーグ・カペーの子はロべ―ル二世といひ九九六年より一〇三一年までフランス王たり、その戴冠式を行へるは九八八年即ちカペー即位の翌年なり
【寡となれる】ルイ五世の死によりて
【かの受膏の族】原、これ等の者の聖別せられし骨(即ちカペー家よりいでし前記の諸王)
六一―六三
【プロヴェンツア】一二四六年、シヤルル・ダンジューがプロヴァンスの伯(きみ)なるラモンド・ベリンギエーリの女ベアトリスを娶れるためこの地フランス王家に屬せり
六四―六六
【贖ひのために】暴逆の罪を贖はんために、嘲りの反語
【ポンティ】ポンティウ、ノルマンディー(ノルマンディア)、ガスコニー(グアスコニア)はいづれもフランス王(特にフィリップ四世)の奪へるイギリス領地
六七―六九
【カルロ】シヤルル・ダンジュー。一二六五年ナポリ王國を征服せんとてイタリアに來れり
【クルラディーノ】一二六八年とらへられてナポリに殺さる(地、二八・一三―八註參照)、時に年十六
【トムマーゾ】聖トマス・アクィナス。名高きイタリアの聖僧(天、一〇・九七―九註參照)、一二七四年リオンの宗教會議に赴かんとてナポリを出でしときシヤルル・ダンジュー己が非行の法王の前に摘發せられんことを恐れ途にて毒殺せしめきとの説による
七〇―七二
以下九三行までカペーの豫言
【他のカルロ】シヤルル・ド・ヴァロア。フランス王フィリップ四世の弟なり、法王ボニファキウス八世に招かれ平和の使命を帶びてフィレンツェに來れるも(一三〇一年)黒黨をたすけて白黨をしひたげたれば却つて甚しく市の擾亂を大ならしむ、後又シケリアを碍んとてかの地に赴けるもその志を果さず翌二年手を空しうしてフランスに歸れり
【己と】己と己が一族の罪惡を
七三―七五
【身を固めず】軍を率ゐず
【槍】裏切(うらぎり)。ジユダこの武器を用ゐてキリストを賣れり(ルカ、二二・四七―八參照)
七六―七八
【いよ/\重し】かゝる罪かゝる恥を小さしとしてその非を悔いざるによりて罪も恥もいよ/\重き報いを來す
七九―八一
【カルロ】シヤルル・ダンジューの子シヤルル二世(一二四三―一三〇九年)。一二八四年アラゴーナ王ペドロ三世の將ルージアロ・ディ・ラウリアとナポリ灣に戰ひ虜となりてシケリアに送らる、されど殺さるゝにいたらず、父の死後その王位を繼ぐ
【己が女】一三〇五年その女ベアトリスをフェルラーラの君なるエスティ家のアッツオ八世(淨、五・七六―八並びに註參照)に與へて莫大の金を得たりといふ
八二―八四
【己が肉】わが肉親の子
八五―八七
以下九〇行まではフィリップ四世の法王ボニファキウス八世をとらへしことを責む、ボニファキウスは聖者にあらずして却つて墮地獄の罪人なれどもその位貴ければこれを責むる者その道を得ざりしを以てダンテは大罪と認めしなり。フィリップ四世ボニファキウスと相敵視すること久し、僧侶課税の爭ひ及びその他の衝突あるに及びて兩者の隔離愈□甚しく遂に一三〇三年四月フランス王の破門となり、フランス王はこれに對して法王の廢位を圖り同年九月グィリエルモ・ディ・ノガレット及びシアラ・デルラ・コロンナをして法王をその郷里アナーニ(即ちアラーニア)にとらへしむ
【小さく】わが子孫の過去未來における一切の罪業も法王虐待の一事に比ぶれば小さしとみゆべし
【百合の花】フランス王家の旗章
【代理者】法王。法王は地上におけるキリストの代表者なり
八八―九〇
【嘲り】昔の嘲り(マタイ、二七・三九以下等)をこの時ボニファキウスの身にて再びうけたまふ
【酷と膽】聖書の語(マタイ、二七・三四)を借りてボニファキウスの苦しみをいひあらはせるなり
【生ける盜人】二人の盜人キリストと共に磔殺せられし古事(マタイ、二七・三八及び四四)に基づき、かのボニファキウスを嘲りし前記ノガレット及びシアラの二人を指す
この二者は自ら苦しみをうけしにあらず、また殺されしにも何等の害を被りしにもあらず、彼と此と異なるところこゝにあり、しかしてこの差別を適確にあらはせるもの即ちvivi(生ける)の一語なり、さればこの形容詞は當時の光景に一の新しき色彩を施すものといふべし(ムーア)
法王は獄にあること三日にしてローマに歸るをえたれどもかゝる汚辱の痛苦に堪へかね遂に病を得て薨ず(一三〇三年十月)
九一―九三
【第二のピラート】フィリップ四世。キリストを敵手に渡せしポンテオ・ピラト(ルカ、二三・二四―五)に似たれば斯く
【殿の中】フィリップ四世がテムプル騎士團(もとソロモン王の宮殿ありし處にその本部を置きたるをもてこの名あり)を迫害してその富を私せるをいふ(一三〇七年以降)。法によらずしてといへるは騎士等の正不正を分明に審理せずしての意
九四―九六
【うるはしうする】人の怒りの如く直ちに激發することなく、しづかに時の至るな待つをいふ
九七―九九
【新婦】處女マリア。聖靈に感じてキリストを生めり(マタイ、一・一八)
【わが語り】一九―二四行
一〇〇―一〇二
晝の間は我等祈る毎に恰も祈りの後の唱和の如く清貧仁惠の例を誦(ず)し夜到ればこれに代へて貪慾の罰の例を誦す
一〇三―一〇五
罰の第一例。ピュグマリオン(ピグマリオン)はトュロス(フィニキアにあり)の王なり、その姉妹ディドの夫なるシュカイウスの財寶を奪はんためこれを殺しかつディドを欺きて己が罪を蔽へり(『アエネイス』一・三四〇以下參照)
一〇六―一〇八
第二例。ミダス(ミーダ)はフルュギアの王なり、己が身に觸るゝもの悉く變じて黄金となるを願ひ、バッコス神に請ひてその許しをえたり、されど食物もまた口に觸るゝに從つてすべて黄金に化するをみ、遂に救ひをバッコスに求む(オウィディウス『メタモルフォセス』一一・八五以下參照)
一〇九―一一一
第三例。ユダヤ人アカン、エリコの分捕品の中より金銀若干を盜みしかば、ヨシュア(ヨスエ)人々に命じ石にてこれをうちころさしむ(ヨシュア、七・一以下)
一一二―一一七
第四例、サツピラとその夫アナニア。あひはかりて己が私慾の爲に使徒等を欺かんとし、ペテロに責められて仆れ死す(使徒、五・一―一〇)
第五例、ヘリオドロス(エリオドロ。シリア王セレウコスの命をうけてイエルサレムの殿(みや)の資物を奪はんとせし時一騎士忽焉としてその前に現はれ、馬蹄にかけてこれを逐へり(マッカベエイ後、三・七以下)
第六例、ポリュメストル(ポリネストル)。トラキアの王なり、トロイア王デリアモスの委托によりてその末の子ポリュドロス(地、三〇・一八)を養ひゐたるがトロイアの衰運に赴くを見るやポリュドロスの富を私せんとし、これを殺してその骸(むくろ)をば海に投じぬ、プリアモスの妃ヘカべ、ギリシア軍にとらへられてこの地を過ぐとてはからずもわが子の骸を海濱に見出し(地、三〇・一六―二一參照)悲しみのあまりに復讎を企て、僞り謀りてポリュメストルに近づき、その兩眼を抉りてこれを殺せり(オウィディウス『メタモルフォセス』一三・四二九以下參照)
第七例、マルクス・リキニウス・クラッスス(前五三年死)。カエサル、ポムペイウスとともにローマの三頭政治を行へるもの、強慾を以て名高し、傳へ曰ふ、クラッスス、パルチア人に殺されしとき王オロデスその首級を求めて熔かせる黄金を口につぎこみ、汝常に黄金に渇きゐたれば今こそこれを飮めといへりと
一三〇―一三二
【デロ】デロス、キュクラデス諸島の一にてエーゲ海中にあり、神話に曰、この島はもと浮島なりしがレトこゝにてアポロン、アルテミスの二神(即ちゼウスとレトの間の子)を生むにいたれるより爾來一處に固定して再び浮遊することなしと(『メタモルフォセス』六・一八九以下參照)
【天の二の目】日(アポロン)と月(アルテミス)
一三六―一三八
【至高處】キリストの降誕にあたりて諸天使のうたへる歌(ルカ、二・一四)
一三九―一四一
【牧者】ルカ、二・八以下參照
一四二―一四四
【歎】淨、一九・七〇―二及び二〇・一六―八參照
一四五―一五〇
鳴動及び合唱の原因(淨、二一・四〇以下)を知るの願ひ甚だ切なるをいふ
【疑ひ】原、無智
【解説を】原、知るを


    第二十一曲

ラテン詩人スタティウスの靈罪清まりて天に登らんとし、兩詩人の後より來りてこれに加はり地震と頌詠の由來を説き且つその一の己が師事せしウェルギリウスなるを知りて大いに喜ぶ
一―三
【サマーリアの女】井の傍に坐せるキリスト、サマリアの女の水を汲まんとて來れるを見、我に飮ませよといふ、女そのユダヤ人なるを知りてあやしむ、キリスト曰、汝若し我に求めば我活水を汝に與へん、およそこれを飮む者永遠に渇くことなし、女いふ、主よその水を我に與へよ(ヨハネ、四・六以下)
【水】眞
【渇】求知の願ひ(淨、二〇・一四五以下參照)。ダンテが『コンヴィヴィオ』の卷頭に引用せるアリストテレスの言に曰、人皆自然に知を求むと
四―六
【障】路に伏せし魂
七―九
キリスト甦りて後イエルサレムとエマオの間の路にてその二人の弟子に現はれたまへり(ルカ、二四・一三以下)
一三―一五
【表示】答禮の。或曰、cenno は挨拶の詞にて Pace con voi(汝等安かれ)に對し E collo spirito tuo(汝の靈も)と應ふる定例の挨拶をいふと
一六―一八
問ふ(地震の原因を)に當りてまづ對話者の幸を希へる詞(地、一〇・八二―四並びに註參照)
【永遠の流刑】郷土なる天に歸るをえずして永くリムボに止まること
【眞の法廷】神の正しき審判
一九―二一
ウェルギリウスの問はざるさきにその詞をさへぎりていへむ
【その段】神の許に通ずる路即ち淨火
二二―二四
【標】額上のP字
【善き民と】天上の祝福を受くる者なるを
二五―二七
されど彼猶生くるがゆゑに
【女神】ラケシス。運命を司る三神(モイライ又はパルカエ)の一にて生命(いのち)の絲を紡ぐ者
【クロート】同三神の一、人生るゝ毎にその生命の絲となるべき麻の量を定めてこれを絲車の棒に掛く
二八―三〇
【姉妹】同じ造主よりいづれば
【物を見る】肉體の覊絆を放せざるをもてその理性の目我等の如く明かならず
三一―三三
【闊き喉】地獄の最も輝き廣き圈即ちリムボ
三四―三六
【濡るゝ】海波に
三七―三九
【要にあたれり】原、針の目を透せり
四〇―四二
【この山の聖なる律法は】或ひは、この聖なる山は
四三―四五
【その原因と】淨火門内における變異の原因となるべきものはたゞ罪淨まれる魂のみ。換言すれば、天よりいでし(即ち神に造られし)魂天に歸ることある時に於てのみかの地震喊聲の如き變異起る
四六―四八
【階】淨火の門の(淨、九・七六以下參照)
四九―五一
【タウマンテの女】イリス。タウマス(タウマンテ)とオケアノスの間に生る、虹の女神なり(神話)。朝は西夕は東にあらはるゝをもて處を變ふるといへり
五二―五四
【乾ける氣】アリストテレスの説に曰。地上の變異すべて地氣より生ず、此氣の濕(しめ)れるもの雨、雪、雹、露、霜となり、その乾けるもの風を起し乾きて強きもの地震を起すと(地、三三・一〇三―五註參照)
【ピエートロの代理者】門を守る天使(淨、九・一〇三―五及び一二七―九參照)
五五―五七
【下】淨火門外
【地にかくるゝ】地下にひそむ乾ける氣の動くによりて地震ふといへる古の學説によれり
五八―六〇
【起ち】起つは地上に伏す第五圈の魂につきていひ、進むは他の諸圈の魂につきていふ
六一―六三
【意志】天に登るの願ひ。己が罪清まる時は魂忽ちこの願ひを起しかつこれを起すをよるこぶ、故にこの願ひの起るは即ち罪清まれる證據なり
【侶を變ふる】罪を淨むる魂を離れて福を享くる民に到る
六四―六六
罪未だ清まらざる時に於てる天に登るの願ひなきにはあらず、されどかゝる時の願ひは正義に從つて罪を淨めんとする他の願ひに檢束せらるゝが故に自由の願ひにあらず
【罪を求めし如く】在世の日は心の願ひ罪に傾きて意志(眞の幸を求むる願ひ)にさからひ、今は心の願ひ罪を淨むることを求めて意志(天に昇るの願ひ)にさからふ
六七―六九
【我】プブリウス・パピニウス・スタティウス。有名なるラテン詩人、一世紀の後半の人
【五百年餘】その以前は第四圈にあり(淨、二二・九一―三參照)
【まされる里】原、まされる閾。天
七六―七八
【網】罪を淨むる願ひ
【解くる】罪清まるによりて
【倶に喜ぶ】喊聲をあげて
八二―八七
ローマ皇帝ヴェスパシアヌスの子ティトウス(後、位を嗣ぎ七九年より八一年まで皇帝たり)がイエルサレムを毀てる頃即ちキリスト暦の七〇年
【主】神
【傷】キリストの。聖都の毀たれし事をキリストの磔殺に對する神罰と見做せるなり
【名】詩人の
【信仰】キリスト教の
八八―九〇
【有聲の靈】歌
【トロサ】フランスの南にある町(トウルーズ)。註釋者曰。スタティウスの生地はトロサにあらすしてナポリなり、こはこの詩人の詩集『サルヴェ』に因りて知るをうべし、されど『サルヴェ』の發見は十五世紀の事に屬しダンテの時代にては一般にトロサの文人ルーチオ・スターツィオ・ウルソロと詩人スタティウスとを混じたりと
【ミルト】常縁樹の名、これを詩人の冠とすること桂樹(ラウロ)の如し
九一―九三
スタティウスの作に敍事詩『テーバイス』十二卷及び未完成の『アキルレース』二卷あり
【第二の】『アキルレース』未だ完結せざるうちに我は死せり
九四―九六
【情熱】詩的
【焔】『アエネイス』
九七―九九
【これなくば】この歌なくばわが著作に何等の價値もなかりしなるべし。一ドラクマは一※[#「オンス」の単位記号、291-16]の八分の一
一〇〇―一〇二
ウェルギリウスは前一九年に死せり
【一年】たとひ今一年淨火にとゞまるとも
一〇六―一〇八
【誠實】その人正直なれば正直なるほど哀樂の情を蔽ひ難し
一三〇―一三二
【しかするなかれ】されど淨、六・七五にはウェルギリウスとソルデルロと相抱けること見ゆ


    第二十二曲

詩人等第五圈より階を踏みてのぼる、その道すがらスタティウス、ウェルギリウスに己が罪と改悔の次第を告げかくて第六圈に到りて右に進めば路の中央に一果樹あり、聲葉の中よりいでて節制の例を誦(ず)す
一―三
【疵】額上のP
四―六
【彼は我等に】異本、また義を慕ふ者等(天使等)我等に福なりといひ
【シチウント】sitiunt(渇く)。マタイ傳に曰く、義に饑ゑ渇く者は福なり(五・六)
この一節ウルガータには Beati qui esuriunt et sitiunt institiam とあり、その中の esuriunt を省きて單に Beati qui sitiunt iustitiam(義に渇く者は福なり)といへるなり、饑う(esuriunt)を省けるはこれを渇くとわかちて第六圈の頌詠となさんためなり(淨、二四・一五一以下參照)
異本にシチオー(sitio 我渇く)とあり、前項異本の文とあはせて委しくはムーアの『用語批判』四〇五頁以下を見よ
一三―一五
【ジヨヴェナーレ】デーチムス・ユーニウス・ユーヴェナリス。有名なるラテン詩人(一三〇年頃死)、その諷刺詩第七篇(八二行以下)にスタティウスの著作を稱讚せる詞いづ
一九―二一
【わが手綱】わが問ひ露骨にして禮を失ふことあらば
三一―三三
【圈】第五圈
三四―三六
【あまりに】浪費の罪に陷るばかりに
【幾千の月】五百年餘の間(淨、二一・六七以下)浪費の罰をうく
三七―四二
【あゝ黄金の】貪る者も費す者も共に黄金を求めていかなる惡をも行ふをいふ
この句『アエネイス』三・五六―七にいづ、但し sacra(sacer 聖(きよ)き、不淨の)を不淨の意に用ゐることイタリア語の用例に反するがゆゑに異説多し
【轉ばしつゝ】第四の地獄にて重荷をまろばすこと(地、七・二五以下參照)
【牴觸】原、試合。貪る者と費す者と相互に打當ること(同上)
四三―四五
汝の言を聞きてみだりに費すことの罪なるを知り、これを悔ゆることわが他の罪の如くなりき
四六―四八
【髮を削りて】最後の審判の日浪費の記念に髮を短くして墓より起き出るをいふ(地、七・五五―七並びに註參照)
四九―五一
地獄と同じく淨火にても罪の相反するもの(浪費と強慾の如き)同一の場所に罰せらる。縁を涸らすは活力を消耗するなり、即ち悔恨によりて罪を贖ふなり
五五―五七
【牧歌】ウェルギリウスの著作に牧歌十篇(Bucolica)あり
【二重の憂ひ】テバイ王オイディプスとヨカステ(ヨカスタ)の間の二子(エテオクレス、ポリュネイケス)。
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