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著者名:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 

 クサカは別荘の人々の後について停車場まで行って、ぐっしょり沾れて別荘の処に帰って来た。その時クサカは前と変った芸当を一つしたが、それは誰も見る人がなかった。芸当というのは、別荘の側で、後脚で立ち上がって、爪で入口の戸をかりかりと掻いたのであった。最早別荘は空屋になって居る。雨は次第に強くふって来る。秋の夜長の闇が、この辺を掩(おお)うてしまう。別荘の周囲が何となく何時もより広いような心持がする。
 その内全く夜になった。犬は悲しげに長く吠えた。その声はさも希望のなさそうな、単調な声であった。その声を聞くものは、譬えば闇の夜が吐く溜息を聞くかと思った。その声を聞けば、何となく暖かい家が慕わしくなる。愛想のある女の胸が慕わしくなる。犬は吠え続けた。
(明治四十三年一月)



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