お月様の唄
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著者名:豊島与志雄 

 その鳥は王子の方へ一つ頭を下げたかと思うと、もう翼を広げて飛び上がりました。王子は一生懸命にその尾(お)にすがりつかれますと、尾だけがぬけ落ちて王子の手に残りました。あたりの小鳥は悲しい声で鳴き立てましたが、もう森の精ではなくて鳥になっていますので、その意味は王子にわかりませんでした。
 王子はぼんやり立っていられますと、どこからか矢車草(やぐるまそう)の花をつけた森の精が出て来まして、腕輪と黒い鳥の尾とを手にしていられる王子を、お城の中へ送り返してくれました。
 その後、白樫(しらがし)の森はすっかり切り倒されて畑になり、城下には立派な町が出来ました。けれどもどうしたことか、月が毎晩曇(くも)って少しも晴れませんでした。そして次のような唄が、城下の子供達の間にはやり出しました。
お月様の中で、
尾(お)のない鳥が、
金の輪をくうわえて、
お、お、落ちますよ、
お、お、あぶないよ。
 月の光りが少しもさしませんので、国中の田畑の物はよく成長しませんでした。草木が大きくなるには露と月の光りとが大切なのです。国中は貧乏になり、人々は陰気(いんき)になりました。それで王様も非常に困られて、位(くらい)を王子に譲(ゆず)られました。
 王子は、白樫(しらがし)の森の跡に、木を植えさして小さな森を作られ、その中に宮を建てて、千草姫(ちぐさひめ)からもらった腕輪と鳥の尾とを祭られました。それからは急に月が晴れ、五穀(ごこく)がよく実り、国中の者が喜び楽しみました。そして満月の度ごとに、お城の門をすっかり開いて城下の者も呼び入れ、月見の会が催(もよお)されました。

 今でもその神社と森とは残っています。森の中にはいろんな色の小鳥がたくさん住んでいます。これは神社の前で小鳥の餌(え)を売ってる婆さんの話です。婆さんはその話をすると、いつもおしまいには小さな声で「お月様の唄」を歌ってきかせてくれます。




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