ピンカンウーリの阿媽
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著者名:豊島与志雄 

 暫く立ち止り、いくら考えても分らないし、ただふらりと、路傍の草むらの中にはいって行ったものらしい。空襲の焼け跡の荒地で、背高く繁茂してる雑草が冬枯れになっている。その中に私は寝転んで、高声に何か歌いながら、空の星を眺めた。
 オリオン星座が中天近く輝いている。
 その美しい星座を見ていると、ふと、ピンカンウーリの阿媽さんを思い出した。ばかりでなく、彼女の姿がはっきりと空中に顕現したのである。それが宙に浮いて、私の方をじっと見ている。私は虚を衝かれた思いで、眼を醒した気持ちになり、立ち上って、家へ帰って行った。なんのことはない、道筋ははっきりしてるし、真直に家へ帰りついた。
 そういうわけで、今、ピンカンウーリの阿媽さんへ、私は感謝の気持ちもこめて、手紙を書こうと思うのだが、書くことはただ、鳥の声とか日の光りとか身辺の器具とか、意味のないつまらないものに就いてだけだ。然し、こういう埒もない手紙を書く相手を一人持ってることは、人生の幸福の一つだという感じが深い。
 手紙とは言うものの、相手の近況も分らないから、これは単に夢想の中のものであろうか。




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