三木清を憶う
著者名:豊島与志雄
ナチスの焚書事件以来、私はヒットラーを憎んでいたし、なにか無理なところと一抹の曇りとを彼に見出してはいたが、まさか自殺の予想はつかなかった。が、三木は、その自殺を断言し、常に説を変えなかった。――現在、ヒットラーが戦死したか、自殺したか、生きのびているか、未だ確証されてはいないが、いずれにしても自殺的末路たることに変りはない。
この種のことは、三木についてはまだあるが、もう止めよう。書いているうちにひどく淋しくなった。彼を失ったことは実に淋しい。彼の死は吾々にとって大きな損失であり、日本にとっても大きな損失であるが、それはそれとして、人間三木を失ったことが淋しいのである。
三木は笑うであろう。損失のことはよいとして、淋しいなどと言えば、笑うであろう。宜しい、出来得べくんば、三木の知性から吾々は新たな時代に出発したいものと思う。
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