蜘蛛
著者名:豊島与志雄
女郎蜘蛛のあの美しい色彩は、太陽の光の中で赤蜂の好目標となるのかも知れない。恐らく赤蜂は背後から狙い寄って、背と腹との間の急所に喰いつくのであろう。然し、その死体を別に食うのでもないらしいところを見ると、何故の襲撃か訳が分らない。それについては、何れ学者の示教を乞いたいと思っている。が兎に角、赤蜂が跋扈して女郎蜘蛛が滅びるということは、淋しいことである。
田舎に旅をして、静寂な自然と素朴な人事とに接する喜びの大半は、都会人としてそれらに接するところにあるということが、一面の真理であるとするならば、都会に住んで庭に蜘蛛の巣を張らして楽しむのは、野人としての楽しみであるというのも、一面の真理かも知れない。然しながら、蜘蛛を嫌う者は性格的に弱者であり、蜘蛛を好む者は性格的に強者であると、そういうことが云われないものだろうか。偏奇な趣味の対象としては、蜘蛛は余りに多くのものを持っていると、蜘蛛好きな私は勝手な考え方をしたいのである。
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