都会に於ける中流婦人の生活
著者名:豊島与志雄
勿論、女が男と共に仕事をし共に思考するというまでには、女の人間的な進歩を俟ってでなければ不可能である。然し女は直接その衝に当るのではない。それだけの意識を失わない生活をすればよい。家政や育児の仕事が如何に労多いものであるかを、私は知らないではないが、また私は、中流の婦人に右の意識を持つだけの余裕があることをも、知らないではない。
良人と共に仕事をし共に思考してるという意識を持つとき、そして実際にそういう生き方をする時、女の家庭生活にも初めて、一定の方向――目的――が生じてくる。広々とした眼界が開けてくる。精神的に窒息しないだけの、充分の空気と光とがさし込んでくる。そして生活に張りと力とが生じてくる。張りのある力強い生活さえしていれば、吾が中流の婦人にとっては、家政や育児の業は比較的容易になし遂げられて、なお余裕綽々たるものがあるだろう。
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