晶子詩篇全集拾遺
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著者名:与謝野晶子 

はしきやし美くし妻(づま)の
昨夜(よべ)磯に得たる刺櫛
床に敷き寝(い)ねてし夢ぞ
上□や星や竜神
めづらかに尊かりしな

あな愚(うつ)け此櫛こそは
昨(きそ)の朝七日七夜を
御方(おんかた)の御裳(みも)の端だに
得ばやとて相摸七浦
上総(かづさ)潟長柄(かたながら)の辺(へ)にも

寄らずやと尋ねわびたる
纒向(まきむく)の日代(ひしろ)の宮の
御舎人(みとねり)が詞(ことば)の御櫛(みくし)
さらば妻帆岡の方(かた)に
御軍(みいくさ)の跡を追はまし


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 明治三十八年


  〔無題〕

あさはかにものいふ君よ、
うまびとは耳もて聴かず、
いとふかき心に聴きぬ。
世はみな君をあざむとも、
とまれ、千とせのいちにんに
うなづかれまくものはのたまへ。


  恋ふるとて

恋ふるとて君にはよりぬ、
君はしも恋は知らずも、
恋をただ歌はむすべに
こころ燃え、すがた□せつる。


  いかが語らむ

いかが語らむ、おもふこと、
そはいと長きこゝろなれ、
いま相むかふひとときに
つくしがたなき心なれ。

わが世のかぎり思ふとも、
われさへ知るは難からし、
君はた君がいのちをも
かけて知らむと願はずや。

夢のまどひか、よろこびか、
狂ひごこちか、はた※[#「執/れっか」、9巻-322-上-1]か、
なべて詞に云ひがたし、
心ただ知れ、ふかき心に。


  皷いだけば

皷いだけば、うらわかき
姉のこゑこそうかびくれ、
袿(うちぎ)かづけば、華やぎし
姉のおもこそにほひくれ、
桜がなかに簾(すだれ)して
宇治の河見るたかどのに、
姉とやどれる春の夜の
まばゆかりしを忘れめや、
もとより君は、ことばらに
うまれ給へば、十四まで、
父のなさけを身に知らず、
家に帰れる五つとせも
わが家ながら心おき、
さては穂に出ぬ初恋や
したに焦るる胸秘めて
おもはぬかたの人に添ひ、
泣く音をだにも憚れば
あえかの人はほほゑみて
うらはかなげにものいひぬ、
あゝさは夢か、短命の
二十八にてみまかりし
姉をしのべば、更にまた
そのすくせこそ泣かれぬれ。


  しら玉の

しら玉の清らに透る
うるはしきすがたを見れば、
せきあへず涙わしりぬ、
しら玉は常ににほひて
ほこりかに世にもあるかな。

人のなかなるしら玉の
をとめ心は、わりなくも、
ひとりの君に染みてより、
命みじかき、いともろき
よろこびにしもまかせはてぬる。


  冥府のくら戸は

よみのくら戸はひらかれて
恋びとよよといだきよれ、
かの天(あめ)に住む八百星(やほぼし)は
かたみに目路(めぢ)をなげかはせ、
土にかくれし石屑は
皆よりあひて玉と凝れ、
わが胸こがす恋の息
今つく熱きひと息に。


  ほそまゆ
   (絶句九章)
つづみうち扇とりては、みづいろの袖ふる京の人形を、おもしとわびぬ。円山や、雪見る家をたづねきて、扶けおろすと同車の人の。

よしのがは、下市(しもいち)ゆくと橋こえず、かなたはるかに上市(かみいち)の、川ぞひ家並(やなみ)絵とかすむ、車峠の大坂や、車にちりぬ、山ざくら花。

いかだしは歌うてくだる川ぎしの、濃花(こばな)つつじとしら藤と、山吹わけて阿伽くむに、よべ夢みたる黒髪を、うつさぬ水のただにうらめし。

うつくしき君が御歌を画といはば、このみますなる御画題の、われのすがたは舞すがた、ふり袖きせて花櫛を添へたまふこそ今はをかしき。

髪すけば、君すむかたの山あをくわれに笑む日か、さくらさく君があたりの朝の雲、きて春雨とわが髪に油のごとくそそぐらむ日か。

われぞ病む、愛憎度なきおん神のしもべとなのるわかうどの、祝詞(のりと)か咒詛か、ほそごゑのふしをかしきを戸にききて、うしろ姿を見たるものゆゑ。

ききたまへ、扇に似たる前髪にふさふとあへて云ふならば、われは后(きさい)のおん料の牡丹もきらむ、おほきみの花もぬすまむ。食まじ、木(こ)の果(み)は。

細眉や、こき前髪や、まろき頬や、姉によう似る我なれば、春ひねもすを小机の、はしに肘して人おもふ御病(みやまひ)さへも得つと申さむ。

おん髪はむすばず結はず、土に曳き尋(ひろ)する藤を挿してゆけ、かぐろの髪と紫と大路に浪をなさむ時、みやこをとめはさうぐるひ、千人(ちたり)にわけて与へよと、おん跡おはむそのなかに、われもまじりて西鶴の経師(きやうじ)が妻のふりに似る、よき人得よと祝ぎて帰らむ。


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 明治四十年


  親の家

目にこそ浮べ、ふるさとの
堺の街の角の家、
帳塲づくゑと、水いろの
電気のほやのかがやきと、
店のあちこち積み箱の
かげに居睡る二三人。

この時黒き暖簾(のれん)より
衣ずれもせぬ忍び足
かいま見すなる中の間(ま)の
なでしこ色の帯のぬし、
あな、うら若きわが影は
そとのみ消えて奥寄(あうよ)りぬ。

ほとつく息はいと苦し、
はたいと※[#「執/れっか」、9巻-326-下-4]し、さはいへど
ふた親いますわが家を
捨てむとすなる前の宵
しづかに更くる刻刻の
時計の音ぞ凍りたる。

一番頭と父母と
茶ばなしするを安しと見、
こなたの隅にわが影は、
親を捨つると恋すると
繁き思(おもひ)をする我を
あはれと歎き涙しぬ。

よよとし泣けば鈴(べる)鳴りぬ、
電話の室のくらがりに
つとわが影は馳せ入りて
茶の間を見つつ受話器とる。
すてむとすなるふるさとの
和泉なまりの聞きをさめ。

人の声とは聞きしかど、
ただわがための忘れぬ日
楽しき日のみ作るとて、
なにの用とも誰ぞとも
知らず終りき。明日の日は
長久(とは)に帰らぬ親の家。


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 明治四十一年


  赤とんぼ

酒屋の庫(くら)のうら通り、
二間(にけん)にたらぬ細通り、
向ひの側の屋根火の見
釣半鐘やものほしの
曲(ゆが)みてうつる影の上、
二間ばかりを初秋の
日はしら壁につぶと照る。

ゆききとだえし細通り、
少女(をとめ)二人は学校の
おやつ下りを帰りきぬ。
十四と十二髪さげし
その幼きはわれなりき。
一人の髪は今しらず。

評判者のいぢわるの
しげをの君は隣の子、
五町ばかりのゆきかへり
つれだつことを悲みぬ。
この日は何か先生に
しげをの君はしかられて
腹立泣(はらだちなき)に泣きしあと。

しげをの君はもの云はず、
何を云ひてもいらへせず、
いとおそろしき化(ばけ)ものと
肩ならべゆくここちして
われは死ぬべく思ほえぬ。
酒屋の庫のうら通り。

庫の下なる焼板に
あまたとまれる赤とんぼ
しげをの君の肩にきぬ。
一つと思ふにまた一つ
帯にとまりぬ、また一つ
裾にもとまる、赤とんぼ。

つと足とめて、あなをかし
とんぼの衣(きぬ)とわれ云ひぬ。
とんぼの衣とその人も
はじめてものを云ふものか。
酒屋の庫のうら通り、
初秋の日は黄に照りき。


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 明治四十二年


  宿屋

八番の客人(まらうど)の室(ま)に
行き給へ、われに用なき
君なりと、いとあらゝかに
云ふめるは、この朝日屋の
中二階赤ら顔なる
宿ぬしの住ふ部屋より
もるゝ声、腹立ちの声。

小田原の小住(こすみ)と云ひし
宿の妻、夕方ときし
洗ひ髪しづくのたるを
いとへれば椽にたゝずみ
大嶋の灯など見るらし。
水いろの絽の染裕衣(そめゆかた)[#「裕衣」はママ]
繻子(しゆす)の帯風に吹かるゝ。

いまだなほ去(い)にをらずやと
蚊帳(かや)の人云ふのゝしれど、
もの云はず蚊うつ団扇の
はた/\と音するばかり。
若い衆(しゆ)の風呂仕まひする
唄の声何を云ひしか
この女闇にほゝ笑む。


  産の床

甘睡(うまゐ)せる我が枕辺に
音も無く物ぞ来れる。
静かなる胸を叩きて
傍らに寄り添ふけはひ。
見開きて見る目に映る
影ならず、黄色の衣
まばゆくも匂へるを着て
物は今足のまはりを
往来(ゆきゝ)しぬ。あさましき物
見じとして心ふたげば
物は消ゆ。嬉しと思ひ
目ひらけば又この度は
緋のころも袖うち振て
魔ぞ立てる。黄色の物と
緋の物とこもごも見えつ。
且つ見れば彼方(かなた)向く時
黄色にて、こなたの袖は
赤なりき。物がうち振る
袖の間(ま)にしら鳥の雛
その如き真白き影の
ふと見えぬ。黄色の袖と
緋の袖とやがて消し時
残りしはしら鳥の雛。
わが悩み早も残らず、
子よ、汝(なれ)を生みし夕の
うら若き母のまぼろし。


  〔無題〕

しろがねの噴上の水に
仄かなる紫陽花(あぢさゐ)色の日影ちりぼふ。
あはれまた目にこそ浮べ、
若かりしわが盛り。


  〔無題〕

君知るや、若き男よ、
日は晴れて静かなる海のかなしさ。
あはれまた君知るや、
三十路(みそぢ)を越えしをみなにも
涙しづかに流るゝを。


  〔無題〕

夏のゆふべのおもしろさ。
夏のゆふべとなりぬれば
をみなの身こそうれしけれ。
湯槽(ゆぶね)を出でて端ぢかき
鏡の前にうづくまり
うすく我が刷く白粉(おしろい)の
いとよきかをり身に染(し)むよ。
帷子(かたびら)を着て団扇とり
二階の屋根の物干に
街の灯を見るおもしろさ。


  〔無題〕

誰か知る、をみなの城を。
われはここにぞ立て籠る。
来り攻めよ、わがおほぎみ、
わが親、わが夫(せ)、わがはらから、
あはれ最後の戦ひに
われは瘋癲病院の
冷き城に立て籠る。


  〔無題〕

庭つ鳥くだかけも能(よ)くすなる
みにくき事す。
ただそれのみ。
あはれ言ひ解くすべも無しや。
麗しき、麗しき歌はあれども。


  〔無題〕

われは歩める。うなだれて
そそ走り、また、たもとほり。
さざら波うち寄する白き渚を。
ああ今は男に作るわが媚も懶(ものう)きよ。
あはれ其の男の笑みも醜かり。
唯白き、白き渚のつづくまで
われは歩まめ。


  〔無題〕

家もたぬ身は羨し、
新しき家、空色の
四階の家のうらやまし。
都大路は馬、くるま、
人のゆききに塵あがり
笑ひ罵りわめくこゑ
恐しきまで覚ゆるを、
四階の家はおほどかに
街の上より見下ろしぬ。
家もたぬ身もなぐさむは
新しき家、そらいろの
四階の家を仰ぐ時。


  〔無題〕

ひさかたの空色の家、
さき草の三葉四葉に殿作り
日かげにほへる此家は、
あはれ此家は誰が為にある。
新しき大御代の為、国人の為。


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 明治四十三年


  〔無題〕

しちめんだうな主(しゆ)の宿を
忘れて二人囃しごと、
ひやろ、ひやろ、と囃しごと。
お気に入らずはお主様
お叱りなされと囃しごと。


  ないしよごと

わたしキュラソオの酒を飲んだ事があつてよ、
四年ほど前の事なのよ。
こんな事云ツたツて
なんにも不思議では無いでせう。
けれどね、
今まで飲んだ事の無い様な顔をして居た事ね。

紫苑の花がひよろひよろと咲いてゐてね。
隣で蓄音器がしよつちゆう泣いてゐた
あの松井さんの柏木のお宅(うち)ね、
あすこのお座敷の隅にあツた本棚、
そら、扇のやうな形のね、
あの下から三つ目に有ツたわ、
キュラソオの罎が
罌粟(けし)の花を生けた白い水注(みづさし)と並んでね。

わたしはね、
日本の女が飲むもんじや無いと思ツてたの、
きつい、きついお酒だと思ツてね。
或日わたしは又良人(うち)に叱られたの。
それで悲しくツてね、
ぶるぶると慄へながら行ツたの。あのお宅(うち)へね。
すると、婆あやさんもゐました。
わたしは婆あやさんに「又叱られてよ」と云ひました。

松井さんがね、
「奥さん、キュラソオでもお上んなさいツ」と仰(おつ)しやるの。
中が水色でね、
外が牡丹色でね、
金のふくりんのね、
やツぱし日本の酒盃(さかづき)なのよ。

たツた一つ丈わたしは飲みました。
ちツとも辛く無いの。
辛いとばかし思ツてたものがね、
甘かツたから
今日まで誰にも話が出来なかつたの。


  お俊傳兵衞

俊子(としこ)ツてえのはね、
お嫁に来てからの名なの、
真実(ほんたう)はお俊(しゆん)と云ふ名なの、
いい名でせう。

小説家が来てね、
女主人公(ひろいん)の名をつけてくれつてね、
私に云つたの。
あの傑作の「煙」ですよ。

その時私はね、
唯かう云つたの、
私の真実(ほんたう)の名はおしゆんです。
いい名でせうツて。

「煙」の女主人公(ひろいん)はね、
用吉の相手はね、
おしゆんぢやなかツた、
ねえ、おしゆんぢやないのよ。

だツて好(い)いのよ、
「煙」におしゆんが出ないからツて、
用吉の相手にならないだツて、
好いのですとも。

鳥部山を知ツていらしツて。
男肌には白無垢や、
上に紫藤の紋ツてね。
傳兵衞はいいわねえ、
用吉はいけないわねえ。


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 明治四十四年


  〔無題〕

来て寝やしやんせ、三本木。
前の河原に脊の高い、
青い蓬のあひだから、
ちよ、ちよ、ろ、ちよ、ちよ、ろと水が鳴る。

来て寝やしやんせ、三本木。
知恩院の鐘がどんよりと
曇る月夜に鳴る晩は
前の河にも花が散る。

来て寝やしやんせ、三本木。
祇園の夢を見残して
ひとり千鳥を聞く夜さは
しんぞ恋路が悲しかろ。

来て寝やしやんせ、三本木。
あの鳴る鐘は黒谷の
松に涼しい明(あけ)の鐘。
お目が覚めたぢやないかいな。


  〔無題〕

朝顔の花の朝咲いて
まだ午前(ひるまへ)にしぼむとも、
わたしの知つたことで無い。
あなたの恋が尽きたとて、
わたしが何んで泣きませう。
わたしの泣くのはいつも一人で。


  〔無題〕

唯だ「人」と、若しくは「我」とのみ名乗るぞよき。
雑多の形容詞を附け足さんとするは誰ぞ。
大と云ひ、小と云ひ、善と云ひ、悪と云ひ……
そは事を好む子供の所為(わざ)なり。
何物をも附け足さぬはやがて一切を備へし故なるを。


  〔無題〕

行くほどに街は暮れて明るき月夜の海となり、
人は魚の如く跳り、ともし火は波の如く泡立つ。
地に落つる人影にわが影の入りまじる如く、
われは他の遊ぶを遊ぶ。
われは知る。つひに一人なり。


  風邪

十月八日の夜の十二時すぎ、
三人の男女(なんによ)の客を帰したあと、
語り疲れて床に入つたが、寝つかれぬ。

いつも点けて置く瓦斯の火を起きて消せば、
部屋中の魔性の「闇」ははたと音(ね)をひそめ、
みるみる大きく成つて行く黒猫の柔かな手触りで
わたしの友染の掻巻の上を軽く圧へ、
また、涙に濡れた大きな黒目がちの
人を引く目の優形(やさがた)の二十三四の女と変つて
片隅に白い右の手を頤(あご)にしたまま寄りかかり、
天井の同じ方ばかり待ち人のあるよな気分で見上げる。
(それはわたしの影であろ。)

部屋中の静かなことは石炭の庫(くら)の如く、
何処からとなく障子の破れを通す霜夜の風は
長い吹矢の管(くだ)をわたしの髪にそおつとさし向ける。

わたしはますます寝つかれぬ。
閉ぢても、閉ぢても目は円く開き、
横向に一人じつとして身ゆるぎもせぬ体は
慄毛(おぞけ)だつ寒さと汗に蒸される熱さとの中で烹られる。

わたしは風邪を引いたらしい。
それとも何かに生血を吸はして寝てるのか。
時計は二時を打つ。


  〔無題〕

東京のお客さんは皆さうお云ひやはる。
「京の秋は早よ寒い」と。
そないに寒がつておいでやしたら、あんたはん、
嵐山の紅葉(もみぢ)は見られやしまへんえ。
紅葉の盛りは十一月の中頃、
なんの寒いことがおすかいな。
大井川の時雨によいお客さんと屋形船に乗つて、
紅葉を見ながら、わたしら揃うて鼓を打つのどつせ。
姉はん、さうどすえなあ。

と云ひました。一人の舞妓が、
わたしの好きな、優しい京の言葉で。


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 明治四十五年


  〔無題〕

跣足(はだし)で歩いた粗樸な代(よ)の人が
石笛を恋の合図に吹くよな雲雀(ひばり)。
九段(くだん)の阪を上(のぼ)るとて
鳥屋の軒で啼く雲雀、それを聞けば、
わたしの二人の子を預けて置く
玉川在の瑠璃色の空で啼いて雲雀が
薄くらがりの麦畑(むぎばた)で
村のわんぱくに捕られたのぢや無(ない)か。
雛から鳥屋で育つた雲雀と知(しり)ながら、
五町すぎ、七町すぎ、
うちの門まで気に掛る雲雀。


  〔無題〕

善しと人の褒むる物事の裏に
偽と慢心と嫉妬と潜む。
そは醜き不純の光なり
我は身を投げてあらゆる罪悪と悔恨と耻辱とに抱かまし、
その隠れて徐徐にあらはるるものほど、
遠空の星の永久に輝く如く、
純金の錆びず、金剛石の透きとほる如く、
いつ見ても活活として美くしく好ましきかな
あだし人のそを罵るも正直に罵るなれば亦美くし。


  〔無題〕

彩色硝子の高き窓を半ひらき、
引きしぼりたる印度更紗の窓紗の下に
下町の煙突の煤煙を見下しつつ、
小やかな軽き朝飯のあとに若き貴女の弾くピヤノの一曲、
東京の二月の空は曇れども、
若き貴女の心に緑さす
明るき若葉の夏の色、恋の色生の色。


  〔無題〕

たそがれに似るうす明り、
二月の庭の木を透きて、
赤むらさきのびろうどの
異国模様に触れるとき。

たそがれに似るうす明り、
赤むらさきのびろうどの
窓掛に凭(もた)るわが肌を
夢となりつゝ繞(めぐ)るとき。

たそがれに似るうす明り、
朝湯あがりの身を斜(はす)に、
軽く項を抱きかゝへ、
つく/″\人の恋しさよ。


  〔無題〕

昨日も今日も啼き渋る
若い気だてのうぐひす。
一こゑ渋るも恋のため、
二こゑ渋るも…………
おゝ、わたしに似たうぐひす。


  〔無題〕

東京の正月の或日、
うれしくも恋しき人の手紙着けり。

「今わが船の行くは北緯一度の海、
白金(プラチナ)色の月死せる如く頭の真上に懸り、
甲板に立てる人皆陰影(かげ)を曳かず。」

「印度洋の一千九百十一年
十二月二日の日の出の珍しさよ、美くしさよ。
輝紅(ピンク)の濡れ色に
鮮かな橄欖青を混へし珍しさよ、美くしさよ。」

「二十の旋風器(フアン)は廻れども、
食堂のあひも変らぬむし暑さ。
今宵も青玉色(エメラルド)の長い裾を曳く
英吉利西婦人のミセス、ロオズが
人の目を惹く話しぶり。
それに流れ渡りの一人もの
素性の知れぬ諾威人が気を取られ、
果物マンゴスチインを下手に割れば
指もナフキンも紅く染む。」

かかることを数多書きて、
若やかに跳れる旅人の心うらやまし。
寒きかな、寒きかな、東京は
霙となりて今日も暮れゆく。


  〔無題〕

旅順の港に
堅い防波堤を築くなら、
せつかく凍らぬ港でも
潮が動かないで凍りませう。
君とわたしもそのとほり、
夫婦の頑固な築石(つきいし)とならずに
いつまでも恋する仲で居ませうよ。
たとへば沖つ浪きらく気ままに遊ぶやうに。


  〔無題〕

正月元日、
鏡餅の傍に寒牡丹一つ開き、
子供等みな健やかに、
良人(をつと)の留守護(も)る我家は清し。
東京よりも寒しと云ふ巴里の正月は如何に。
歳の暮君は其処に着き給ひしならん、
君の旅にかずかずの幸あれと
家を挙げて祝ふ清き正月元日。


  〔無題〕

真赤な花のいく盛(さか)り。
透きとほつたる真紅から、
うす紫を少し帯び、
さてはほんのり上白(うはじろ)み、
また物恨むしつこさの
黒味に移るいく盛り。
君よ棄てゆくこと勿れ、
真赤な花は泣いてゐる。


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 大正元年


  〔無題〕

虻のうなりか、わが髪に
触れて呼吸(いき)つくそよ風か、
遠い木魂か、噴上か、
をりをり斯んな声がする。
「君もわたしも出来るだけ
物の中身を吸ひませう。
今日のよろこび、行くすゑの
夢のかぎりを尽しませう。」


  〔無題〕

うすく紅(べに)さす百合の花、
ひと花づつを、朝ごとに、
咲けば、どうやら、わが頼む
よい幸福(しあはせ)はまのあたり。

うすく紅さす百合の花、
ひと花づつを、朝ごとに、
散らせば、あたら、わが夢も、
しばし香りて消えて行く。

うすく紅さす百合の花、
よし、幸福(しあはせ)でないとても、
また、かりそめの夢とても、
わたしは花をじつと嗅ぐ。


  〔無題〕

若い娘の言ふことに、
「別れを述べる時が来た。
美くしい花、にほふ花。
わたしの無垢な日送りに
さびしい友であつた花。
今日までわたしを慰めた
やさしい花のかずかずに、
別れを述べる時が来た。
花の神様、いざさらば。
わたしは愛の神様に
手をば執られて参りましよ。」

若い娘の言ふことに、
「別れを述べる時が来た。
美くしい花、にほふ花。
弥生に代る初夏の、
青い海から吹いて来る
五月の風に似た男、
若い、やさしい、あたたかな、
生々としたあの男、
すべての花に打勝つて、
その目にわたしを引附けた。
男の中の花男。」

若[#「若」は底本では「花」]い娘の言ふことに、
「別れを述べる時が来た。
美くしい花、にほふ花。
おお、その上に、よい声で、
いつもわたしを呼び慣れた
赤い小鳥よ、そなたにも、
別れを述べる時が来た。
どれどれ籠から放しましよ。
済まないながら、今日からは、
燃えた、やさしいくちびるの外に聞きたい声もない。」


  〔無題〕

若い娘の言ふことに、
「雲雀よ、雲雀、
そなたは空で誰を喚ぶ。
――それは何(ど)うでもよいわいな。
わたしは君の名をば喚ぶ。
昼は百たび、
夜(よる)は二百たび。」

若い娘の言ふことに、
「あれ、あの青い
空であらうか、君の名は。
――それに違ひがないわいな。
ひとり小声で喚ぶたびに、
沈んだ心も、
しんぞ高くなる。」

若い娘の言ふことに、
「また、あの燃える
お日様である、君が名は。
――さうではないと誰が言はう。
わたしの心を眩暈(めまひ)させ、
熱い吐息を
投げぬ間もない。」

若い娘の言ふことに、
「ああ、君が名を
喚ぶと云うても口の中(うち)。
――それを何うして君が知ろ。
自分の喚んで聴くばかり。
雲雀よ、雲雀、
音(ね)の高い雲雀。」


  〔無題〕

わたしの上を掠めて通らぬ雲ならば、
勝手に曇れ、
勝手に渦巻け、
わたしの足もとの遠い雲。
憎悪(ねたみ)の風に、
愚痴のしぶき雨、
嘲りの霞をまじへた、
低い、低い、通り雲。
わたしの上には、水色の
ひろい空、日輪の金(きん)の点。
けれど、なんだか気に掛る。
あれ、あの地平線に見えるのは、
不安な、黒い雲の羽。
それとも、わたしに二度帰る
空飛ぶ馬の持つ羽か。
けれど、なんだか気に掛る。


  〔無題〕

かかる文書くべき人と、
かの人の思ひ当る名、
もつが憎くけれ、いかにしてまし。
   ○
をりふしに美くしき
いみじきすごき稲妻おこる
陰陽のあるらむ、わが一つなる心にも。
   ○
紅(くれなゐ)の血ながして、
みな死ぬべきを閉ぢこめぬ。
チヤアルス王の、倫敦塔に似る心かな。
   ○
寒さをも、熱をも知らず、
ある人に云ふ如きこと、聞くは厭、
横恋慕などうち明けよかし。
   ○
おほよそは、そのむかし、
二十ばかりの若き日に、
過ちて入りたる門をわが家とする。
   ○
わが心、尼院の中に、尼達に、
かくまはれあればすべなし。
思ふとも、思はるるとも、全(また)くすべなし。
   ○
かの人が七人の子を見に帰れば、
かの人に、
老は俄におそひいたりぬ。
   ○
自らがちかひけるやう。
檀那様と生き、
檀那様と死に、
檀那様の知らぬまに、
唯ひとつ、何かしてまし。
   ○
別れて憂愁に居ぬ。
はねらるるとも、くれなゐに、
血のとばじな。あぢきなの身。
   ○
得たるもの忽にして擲つは
財宝すらもここちよし
まして、まして、何と云はむ。
   ○
大空の雪のごと、浮きたる心と、
流れの浄き心と
はらからなるをわれのみぞ知る。
   ○
いつの日か、いかなる時か、
しのびてわれに恩売りし、
美くしき見覚え人よ。
   ○
目に見たる津津浦浦よ、
わが上を、語らむ時にまさりたる、
おもむきなきをいかにしてまし。
   ○
うれしくも、幸と云ふものよりも、
好むところを語らせし、
夜の涙よ。拭ひ筆おく。
   ○
わが心唯ひとたびなりきと云ふ
何を云ふぞよ。かこつのかや。
恋を男を。
   ○
水色の船室に月さし入り、
隣なる、大僧正の飼犬が、
夜寒げに絶えずうめける。
   ○
老の魔がしのびより、鉛をかけぬ。
心に、あらずまづ面わに、髪に、
かなしきかなや三十路。
   ○
男来て導かむと思ひつるかな。
美くしくとも、醜くとも、
そはわれの若ければ、
あなものうし。かかる思ひ出。
   ○
別るるもよしや、うれしかりけり。
口づけを束にして、
環になしてもちかへること。
   ○
うつし世の渦巻の中、
と云ふにあらねども、なけれども、
する息のむづかし。落す涙も。


  〔無題〕

おのれをば殺せと云はむ、
誰に云はむや
十余年添ひたる人か、
いたりあの笛吹の子か。
   ○
男より退きて
地か空か知らず、走せ過ぎる。
驚くべきを見顕(みあら)はさずに。
   ○
安らかに眠らむとして帰り来つるや
否々夢を、悪夢をば、
見むとぞ呼ぶ。やがて死ぬらむ。
   ○
恋をする時、死なむとする時
無くもがなの賢き頭(つむり)よ
烏羽玉の髪覆ひぬれども。
   ○
かかる夕に思ふこと、
少しことなるものながら、
哲学と浮きたる恋と何(いづ)れよからむ。
   ○
ひそかにも火の燃ゆる口われのみぞ知る
遠方(をちかた)に居てかの山を見む。
   ○
続けざまに杯あげて酔ひ給へ。
いとほしの君、
みじめなる君、
わが思ふ君。
   ○
ここちよきものならまし。
悪の醒むるも善よりするも、
わが目きはめてさはやかならば。
   ○
むかしとは若き日のこと、
昔にもまさり恋はると、
云ふことが、心より、
うれしきや、よろこぶや。
   ○
灰色の壁による人。
みづいろの玻璃(はり)の板による。
金色(こんじき)の雲による。
自(みづか)らは男によれる。
   ○
檀那をば彼は忘れず、
肩すぎてブロンドの髪ゆらめきし、
わざをぎ男目に消えぬごと。
   ○
手さぐりに人心よぢてゆく、
女の恋のはかなかりけれ。
かの時より死の友となりけれ。
   ○
眠りたる心をば、呼び起すとて、
線香花火、青なると、
うす紫と、くれなゐと、
ばらばらばつと焚き給ふ君。
   ○
何方(いづかた)に向きて長ぜむ。
かく人は眉をひそめぬ。
わが心今日も昨日も夢のみを見る。
   ○
われは思ひき、毒婦ならまし。
ある宵にかたへ聞きせる
不幸なる運命の
性(しやう)を変へむと、十五より。
   ○
ひとびとが憚らず、
声放ち歌ふ時、
君は知れりや、悲しみよりも、
悦びは少しみにくし。


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 大正二年


  巴里雑詠

巴里(パリイ)の宿の朝寝髪、
しろい象牙の細櫛で
梳けばほろほろ、あさましく
昨日も今日も落ちること。

君に見せじと、物かげに
隠れて梳けば、わが額(ぬか)の
鏡にうつる青白さ。
身のすくむまでうら悲し。

巴里の街の橡(とち)の葉は
はや八月に散りかかる。
わたしの髪もこの国の
慣れぬ夜風に吹かれたか。

いいえ、それとも、憎らしく、
しろい象牙の細櫛が
鑢となりて擦り切るか。
恋を貪るこらしめに。

または悲しい人の世の
命の秋の入口に、
わたしも早く著きながら、
真夏の花をまだ嗅ぐか。

梳けばほろほろ、堪(こら)へかね、
昨日の恋が、今日の血が、
明日(あした)の夢が泣きじやくる。
からんだ髪を琴にして。

心ひとつは若々と、
かをる油に打浸り、
死なぬ焔を立つれども、
ああ灰のよに髪が散る。


  秋の朝(あした)

卓の上から二三輪
だりあの花の反りかへる
赤と金とのヂグザグが
針を並べた触をして、
きゆつと瞳を刺し通し、
朝のこころを慄はせる。
見返る角(かく)な鏡にも
赤と金とのヂグザグが
花の酒杯(クウプ)を尖らせて、
今日の命を吸へと云ふ。

それに書斎の片隅の
積んだ書物の間から、
夜の名残をただよはす
蔭に沈んで、寒さうに、
痩せた死人の頬を見せる
青いさびしい白菊が、
薬局で嗅ぐ風のよに
苦いかをりを立てるのは
まだ覚め切らぬ来し方の
わたしの夢の影であろ。


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 大正三年


  ひるまへ

てれ、れん、れんと鳴り出した。
つて、れん、れんと鳴り出した。
それは傴僂(せむし)のマンドリン、
昼まへに来るマンドリン
歌もうたやるマンドリン。

窓の硝子(がらす)に寄つたれば、
白いレエスの冷たさよ。
お城の壁に紅葉(もみぢ)した、
蔦の葉のよな襟かざり。
上を見上げる襟かざり。

ちり、りん、りんと一(アン)スウの
小(ちさ)い銅貨が敷石の
上で立てたる走り泣き。
初めのお客は誰れであろ、
わたしも投げてやりませう。

今朝の夜明の四時過ぎに、
誰れかとしたる喧嘩から、
ずつと泣いてたお隣の、
夫人(マダム)の顔をちよいと見た。
向うもわたしをちよいと見た。

思はず髪を引き入れた、
白い四階の窓口へ、
(巴里(パリー)は今日も薄曇り)
湿つた金薄(はく)[#「金薄」はママ]を撒くやうに、
アカシヤの葉が散りかかる。


  ノオトル・ダアム

ああ巴里(パリー)の大寺院ノオトル・ダアムよ、
年経しカテドラルの姿は
いと厳かに、古けれど、
その鐘楼の鐘こそは
万代に腐らぬ金銅の質を有(も)ちて、
混沌の蔓の最先(いやさき)にわななく
青き神秘の花として開き、
チン、カン、チン、カンと鳴る音は
爽かに清(す)める、
劇しき、力強き、
併せて新しき匂ひを
「時」の動脈に注しながら、
「時」の血を火の如く逸ませ、
洪水(おほみづ)の如く跳らせ、
常に朝の如く若返らせ、
はた、休む間なく進ましむ。
その響につれて
塔の上より降(くだ)る鳥の群あり、
人は恐らく、そを
森の梢より風に散る
秋の木(こ)の葉と見ん。
我は馬車、自動車、オムニブスの込合ふサン・ミツセルの橋に立ちつつ、
端なく我胸に砕け入る
黄金(きん)の太陽の片と見て戦(をのの)けり。
その刹那、わが目に映る巴里(パリー)の明るさ、
否(いな)、全宇宙の明るさ。
そは目眩(めくる)めく光明遍照の大海(おほうみ)にして、
微塵もまた玉の如く光りながら波打ち、
我も人も
皆輝く魚として泳ぎ行きぬ。


  覇王樹[#「覇王樹」は底本では「覊王樹」]と戦争

シヤボテンの樹を眺むれば、
芽が出ようとも思はれぬ
意外な辺が裂け出して、
そして不思議な葉の上へ
新しい葉が伸びてゆく。

ああ戦争も芽である、
突発の芽である、
古い人間を破る
新しい人間の芽である。

シヤボテンの樹を眺むれば、
生血に餓ゑた怖ろしい
刺(はり)の陣をば張つて居る。
傷つけ合ふが樹の意志か、
いいえ、あくまで生きる為。

ああ今、欧洲の戦争で、
白人の悲壮な血から
自由と美の新芽が
ずつとまた伸びようとして居る。

それから、
ここに日本人と戦つて居る、
日本人の生む芽は何だ。
ここに日本人も戦つて居る。


  晩秋

S(エス)の字がたの二人(ふたり)椅子(いす)、
背中あはせのいやな椅子、
これにあなたと掛けたなら、
この気に入つた和蘭陀(オランダ)が
唯だの一夜(ひとよ)で厭になろ、
その思出もうとましい。
ギヤルソン外[#「外」はママ]にいい部屋は無いの。
(アムステルダムの一夜)


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 大正四年


  温室

広き庭の片隅に
物古りたる温室あり、
そこ、かしこ、硝子(ガラス)に亀裂(ひび)入り、
塵と蜘蛛の糸に埋れぬ。

棚の上の鉢の花は皆
何をも分かず枯れたれど、
一鉢の麝香撫子のみ
はかなげに花小(ちさ)く咲きぬ。

去年(こぞ)までは花皆が
おのが香と温気とに
呼吸(いき)ぐるしきまでに酔ひつゝ、
額(ぬか)重く汗ばみしを、

今、温室は荒れたり、
何処(いづこ)よりか入りけん、
憎げなる虻一つ
昼の光に唸るのみ。


  〔無題〕

今夜巴里(パリー)は泣いて居る。
シヤン・ゼリゼエの植込も、
セエヌの水もしつとりと
青い狭霧に街灯の
涙を垂れて泣いて居る。


  〔無題〕

群をはなれて□ランダに
君ただひとり立つなかれ、
今宵は空の月さへも
人の踊を覗けるに。

いざ君、室内(うち)の卓に凭り、
ワルツの曲を聞きながら、
夜(よ)ひと夜(よ)取れよ、花の香(か)と、
香料の香と、さかづきと、

女の燃ゆるまなざしと、
きやしやに艶(いろ)めく肉づきと、
軽き笑まひと、足取と、
さらに渦巻く愛と美と。


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 大正五年


  〔無題〕

せよ、怖い顔を、
せよ、みんなでせよ。
そしておまへ達の宝である
唯一の劒を大事にせよ。

せよ、賢相(かしこさう)な顔を、
せよ、みんなでせよ。
そしておまへ達の護符である
てんかこくかを口にせよ。
おまへ達は決して笑はない。
おまへ達の望んで居る
日独同盟の成る日が来るとも、
どうして神聖サムラヒ族の顔が崩れよう。

おまへ達は科学主義の甲(よろひ)を着て、
血のシンボルの旗の下(もと)に、
おまへ達の祖先である
南洋食人族の遺訓を行はうとする。

世界人類の愛に憧れる
われわれ無力の馬鹿者どもは
みんなおまへ達に殺されねばなるまい、
おまへ達が初めて笑ふ日のために。

併し……


  春より夏へ

八重の桜の盛りより
つつじ、芍薬、藤、牡丹、
春と夏との入りかはる
このひと時のめでたさよ。

街ゆく人も、田の人も、
工場(こうば)の窓を仰ぐ身も、
今めづらしく驚くは
隈(くま)なく晴れし瑠璃(るり)の空。

独(ひとり)立つ木も、打むれて
幹を出す木も枝毎に
友禅染の袖を掛け、
花と若芽と香り合ふ。

忙(せは)しき蝶の往来(ゆきき)にも
抑へかねたる誇りあり、
ただ一粒の砂さへも
光と熱に汗ばみぬ。

まして情(なさけ)に生くる人、
恋はもとより、年頃の
恨める中も睦み合ひ、
このひと時に若返る。

ああ、またありや、人の世に
之に比ぶる好(よ)き時の。
いでや短き讃歌(ほめうた)も
金泥をもてわれ書かん。


  西部利亜所見

汽車は吼ゆ。
されどシベリヤの
雪と氷の原を行く汽車は
胴体こそ巨大の象のやうなれ、
この怪獣は石炭の餌(ゑ)を与へられず、
薪のみを食らへば、
吼ゆる声の力無く、
のろのろと膝行(ゐざ)りゆく。

露西亜文字(ろしあもじ)を読み得ざれば、
今停まれるは何と云ふ駅か知らず。
荒野(あらの)の中の小き停車場(ステイシヨン)に
人の乗降(のりおり)も無く、
落葉したる白楊の木
其処此処に聳えて、
灰色の低き空の下(もと)
五月の風猶雪を散らせり。

汽笛の叫びに引かれて、
男、女、子供、
すべて靴を穿かぬ
シベリヤの農民等は
手に手に、大(おほい)なる雁を、
鶏を、牛乳を捧げて、
汽車の窓に馳せ寄り、
かしましく買へと云ひぬ。


  〔無題〕

わたしの庭の高い木に
秋が琴をば掛けにきた。
翡翠を柱(ぢ)とし、銀線を
絃(いと)にすげたる黄金(きん)の琴。
風は勝れた弾手にて、
人の心の奥にある
弧独の夢をゆり起し、
木(こ)の葉と共に泣かしめる。


  〔無題〕

うす紫と、淡紅色(ときいろ)と、
白と、萠黄と、海老色と、
夢の境で見るやうな
はかない色がゆらゆらと
わたしの前で入りまじる。
女だてらに酔ひどれて、
月の明りにしどけなく
乱れて踊る一むれか。
わたしの窓の硝子(がらす)ごし
風が吹く、吹く、コスモスを。


  炉の前

かたへの壁の炉の火ゆゑ
友の面輪も、肩先も、
後ろの椅子も、手の書(ふみ)も、
濃き桃色にほほゑみぬ。

部屋の四隅の小暗くて、
中に一もと寒牡丹
われと並びて咲くと見る
友の姿のあてやかさ。

春にひとしき炉の火ゆゑ
友も我身も、しばらくは
花の木蔭を行く如く
こゝろごころに思ひ入る。

楽しき由を云はんとし、
伏せし瞳を揚ぐる時
友も俄かに手を解きて
我手の上にさし延べぬ。


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 大正六年


  〔無題〕

わが前の丘に
断えず歌ふは
桃色に湧き上る噴水。
青白き三人の童子は
まるまると肥えし肩に
緑玉の水盤を支へたり。
われは、その桃色の水の
猛火に変るを待ちながら、
ぢつと今日も見まもる。


  元旦の歌

初春はきぬ、初春は
新たに焚ける壁の炉よ、
誰もこの朝うきうきと
身をくつろげて打向ふ。

初春はきぬ、初春は
誰の顔にも花にほひ、
誰の胸にも鳥うたひ、
誰の口にも韻の鳴る。

初春はきぬ、初春は
愛の笑まへる広場なり
雄雄しき人も恋人も
踊らんとして手を繋ぐ。


  我傍らに咲く花は

わが傍らに咲く花は
傷より滴(た)るゝ血の如し、
この花を見てかなしげに
思ひたまふや何ごとを。
嵐のあとに猶しばし
海の入日の泣くことか、
さては三十路(みそぢ)の更け行けど
飽くこと知らぬわが恋か。


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 大正七年


  冬の一夜

おお、錫箔の寒さを持つた夜の空気が、
いつぱいに口を開(あ)いて、
わたしを吸はうとする。
二階の欄干(てすり)に手を掛けながら
わたしの全身は慄へあがる。

屋外(そと)はよく晴れた、冴えた、
高々とした月夜。
コバルトと、白と、
墨とから成つた、素朴な、
さうして森厳な月夜。

月は何処にある。
見えない、見えない、
長く出た庇の上に凍てついて居るのか。
きつと、氷と、されかうべと、
銀の髪とを聯想させる月であらう。

軍医学校の建物はすべて尖り、
軒と軒との間にある空間は
遠くまで運河のやうに光つて居る。
近い一本の電柱は
大地へ無残に打ち込んだ巨きな釘の心地。

あの鈍い真鍮色の四角な光は
崖上の家の書斎の窓の灯火(あかり)。
今、わたしの心に浮ぶのは、
その窓の中に沈思して、恐らく、
まだ眠らずに居る一人の神経質な青年。

ああ世界はしんとして居る。
冬だ、冬だ、
空気は真白く、
天は玲瓏として透きとほり、
月は死霊(しりやう)のやうに通つて行く。

かさ、こそと、低く、
何処かにかすれた一つの物おと……
枝を離れる最後の落葉か、
わたしの心の秘密(ないしよ)の吐息か、
それとも霜であらうか。


  元旦の歌

やれ、春が来た、ほんのりと
日のさす中に、街々の
並木二側、梅ねずみ。

やれ、春が来た、この朝の
空は藤色、日本晴
下に並木の梅ねずみ。

やれ、春が来た、金の目が
どの窓からもさし覗く
そして並木の梅ねずみ。


  春の初めに

春の初めに打て、打て、鼓。
打てば小唄に、やれ、この、さあ、
四方(よも)の海さへ音(ね)を挙げる。

春の初めに振れ、振れ、袂。
振れば姿に、やれ、この、さあ、
天つ日さへも靡き寄る。

春の初めに舞へ、舞へ、舞を。
舞へば情に、やれ、この、さあ、
野山の花も目を開く。

春の初めに飲め、飲め、酒を。
飲めば笑らぎに、やれ、この、さあ、
福の神さへ踊り出す。


  夜の色

うれしきものは、春の宵、
人と火影(ほかげ)の美くしい
銀座通を行くこころ。
それにも増して嬉しきは、
夜更けて帰る濠ばたの
柳の靄の水浅葱(みづあさぎ)。


  一九一八年よ

暗い、血なまぐさい世界に
まばゆい、聖い夜明が近づく。
おお、そなたである、
一千九百十八年よ、
わたしが全身を投げ掛けながら
ある限りの熱情と期待を捧げて
この諸手をさし伸べるのは。

そなたは、――絶大の救世主よ――
世界の方向を
幾十万年目に
今はじめて一転させ、
人を野獣から救ひ出して、
我等が直立して歩む所以(ゆゑん)の使命を
今やうやく覚らしめる。

そなたの齎(もたら)すものは
太陽よりも、春よりも、
花よりも、――おお人道主義の年よ――
白金(はくきん)の愛と黄金(わうごん)の叡智である。
狂暴な現在の戦争を
世界の悪の最後とするものは
必定、そなたである。

わたしは三たび
そなたに礼拝を捧げる。
人間の善の歴史は
そなたの手から書かれるであらう、
なぜなら、――ああ恵まれたる年よ、――
過去の路は暗く塞がり、
唯だ、そなたの前のみ輝いて居る。


  見ずや君

「見ずや君よ」と書きてまし、
ひと木盛りの紅梅を。
否、否、庭の春ならで、
猶も蕾のこの胸を。


  〔無題〕

うすくれなゐの薔薇さきぬ、
妬ましきまで、若やかに
力こもりて笑む花よ、
人の持つより熱き血を
自然の胸に得し花か。

うすくれなゐの薔薇さきぬ、
この花を見て、傷ましき、
はた恨めしき思出の
何一つだに無きことも
先づこそ我に嬉しけれ。

うすくれなゐの薔薇さきぬ、
人よ、来て訪(と)へ、この日頃。
我等が交す言の葉に
燃ゆる命の有り無しは
花に比べて知りぬべし。

うすくれなゐの薔薇さきぬ、
この美くしく清らなる、
この尊げに匂ひたる、
花の証のある限り、
愛よ、そなたを我れ頼む。


  〔無題〕

おお、薔薇よ、
ゆたかにも、
うす紅く、
あまき香(か)の、
肉感の薔薇よ、
今日、そなたは
すべて唇なり。

花ごとに、
盛り上り、
血に燃えて、
かすかに戦(わなゝ)く
熱情の薔薇よ、
一切を吸ひ尽す
愛の唇よ。

その唇の上に、
太陽も、人も、
そよかぜも、
蜜蜂も、
身を投げて寄り伏し、
酔ひと夢の中に、
焼けて咽ぶ。

おお、五月の
名誉なる薔薇よ、
香ぐはしき刹那に
永久を烙印し、
万物の命を保証する
火の唇よ、
真実の唇よ。


  〔無題〕

薔薇よ、如何なれば
休むひま無く香るや。
花は、微風(そよかぜ)に托して
之に答へぬ。
「我は自らを愛す、
されば思ふ、
妙香の中に生きんと。
たとひ香ることは
身一つに過ぎずとも、
世界は先づ
我よりぞ浄まる。」


  〔無題〕

薔薇の花打つ、あな憎し、
煤色の雨、砂の風。
薔薇は青みぬ、うつ伏しぬ、
砕けて白く散るもあり。

之を見るとき、花よりも
苛(さいな)まるるは我が心。
堪へ難ければ、傘とりて、
花の上にぞさしかざす。


  〔無題〕

淡黄(うすき)と、白と、肉色と、
三輪の薔薇、わが手より
和蘭(オランダ)焼の花瓶(はながめ)に
移さんとして躊躇(ため)らひぬ、
またと得難き宝玉の
身をば離るる心地して。

瓶に移せる薔薇の花、
さて今は是れ、一人(にん)の
私に見る花ならず、
我背子も愛で、友も愛で、
美くしきかな、安きかな、
見る人々の為に咲く。


  〔無題〕

衰へて、濡れたる紙の如く、
瓶の端に撓(たわ)める薄黄の薔薇、
されど、しばし我は棄てじ。
花は仄かに猶呼吸(いき)づきぬ、
あはれ、こは、臨終(いまは)の女詩人の如く、
香る、美くしき言葉も断続(きれぎれ)に……


  〔無題〕

わが運命の贈りもの、
恋と歌とに足る身には
薔薇を並べた日が続く、
真珠を並べた日が続く。

かよわき身には、有り余る、
幸(さち)も重荷となるものを、
思ひやりなき運命よ
情(なさけ)の過ぎた運命よ。

多くの幸(さち)が贖罪を
終(つひ)に求める日は来ぬか、
風が木(こ)の葉を剥ぐやうに
裸に帰る日は来ぬか。


  〔無題〕

このアカシヤの木(こ)のもとを
わが今日踏みて思ふこと
甘き怖えに似たるかな。
かかる木蔭にそのむかし、
逢はで止まれぬ初恋の
人を待ちたる思ひ出か、
はた、此処に来て、はるばると
見渡す池の秋の水
濃き紫の身に沁むか。


  〔無題〕

夜(よる)は美くし、安し、
人を脅かす太陽は隠れて、
星ある空は親しげに垂れ下り、
地は紫の気に満つ。

神秘と薄明の中(うち)に我等を据ゑて、
微風(そよかぜ)のもと、
夜は花の香(か)に濡れたる
その髪を振り乱す。

夜は美くし、安し、
今こそ小き我等も
一つの恋と一つの歌をもて
無限の世界に融け入るなれ。


  〔無題〕

大輪の向日葵(ひまはり)を斫らんとして、
ぢつと見れば、
太陽の娘なる花の明るさ、
軽き眩暈(めまひ)に身はたじろぐ。
斫りし大輪の向日葵を採れば
花粉はこぼれて身に満つ、
おお、金色(こんじき)の火の屑……
君よ、我は焼かれんとするなり。


  〔無題〕

我は俄に筆を擱(お)きぬ、
我が書き行く文字の上に、
スフインクスの意地悪るき片頬(かたほ)の
ちらと覗く、それを見つれば。


  〔無題〕

吝(やぶさ)かなれば言ひ遣りぬ、
永久の糧を送れと。

わが思ひつる如くにも
かの人は返事せず。

さて、ひと日過ぎ、二日(ふたひ)過ぎ、
何故(なにゆゑ)か、我は淋しき。

われは今みづから思ふ、
まことに恋に飢ゑつと。


  〔無題〕

灰となれば淋しや、
薔薇を焼きしも、
榾(ほだ)を焼きしも、
みな一色(ひといろ)に薄白し。
されば、我は
薔薇に執せず、
榾に著せず、
唯だ求む、火となることを。


  〔無題〕

悒欝の日がつづく、
わが思ひは暗し。
わが肩を圧(お)すは
重き錯誤の時。
身は醒めながら
悪夢の中に痩せて行く。


  〔無題〕

月の出前の暗(やみ)にさへ
マニラ煙草(たばこ)の香(か)を嗅げば、
牡丹の花が前に咲き、
孔雀の鳥が舞ひ下(くだ)る。
まして、輪を描(か)く水色の
それの煙を眺むれば、
黄金(きん)のうすぎぬ軽々と
舞うて空ゆく身が見える。


  我家

崖の上にも街、
崖の下にも街、
尺蠖虫(しやくとりむし)の如く
その間を這ふ細き小路(こうぢ)は
坑道よりも薄暗し。

我家(わがいへ)は小路に沿ひて、
更に一段低き窪にあり。
門を覗きて斜めに
人も、我も
横穴の悒欝を思ふ。

門と玄関との間、
両側に立つ痩せし樫の幹は
土中より出でし骨の如くに黒み、
その灰色する疎らなる枝は
鉛の静脈を空に張れり。

我家は佝僂病者(くるびやうしや)なり、
その内部は暗く屈みて
常に太陽を見ず、
陰湿の空気壁に沁みて
菊の香(か)の如く苦(にが)し。

さもあらばあれ、我は愛す、
我家の傷ましく淋しきを。
精舎と行者との如く、
同じ忍辱の中に
人と家とは黙し合ふ。

さて、我家にも、
二階の障子に
朝の日の射す片時あり、
見給へこの稀なる
我家の桃色の笑顔を。


  永き別れ

発車前三分……
我は更に戦きて
汽車の窓に歩み寄る。
発車前三分……
中なる人も
湿(うる)みたる目に見下ろし、
痙攣(ひきつ)る如く手を伸べぬ。

いかで、我等に残るこの束の間、
猶吸はばや、君が心を、
君が※[#「執/れっか」、10巻-377-下-7]を、君が香(か)を。
発車前三分
はた、わが命のため、
捉へて我目に留めばや、
君が顔を、君が姿を。

狂ほしくなれる我は
君が手の上に
はげしき接吻(くちづけ)を押して、
思はず、きと噛みぬ。
おゝ、今、基督(クリスト)の其れの如く、
わが脈管を伝ひて拡がるは
君が聖なる血の一滴……

汽笛は空気を裂く。
時なり、汽車は動き、
二度と来らぬ旅人の
君は遠く去り行く……
さはれ匂はしき記憶よ、
証(あか)せかし、常に猶、
我が衷(うち)に君の在るを。


[#改ページ]



 大正八年


  朝晴雪

ひと夜(よ)明くれば時は春、
おお、めでたくも晴れやかに
天は紺青、地の上は
淡紫と薔薇色を
明るく混ぜた銀の雪、
強き弱きの差別なく
世の争ひを和らげて
まんまろと積む春の雪、
平等の雪、愛の雪。
此処へ東の地平から
黄金(こがね)の色に波打つは、
身を躍らして駈け上(のぼ)る
若い初日の額髪。


  朝晴雪

おお、此処に、
躍りつつ、
歌ひつつ、
急ぐ女の一むれ……
時は朝、
地は雪の原。

急ぐ女の一むれ、
青白き雪の上を
真一文字に北へ向き、
風に逆ふ髪は
後ろに靡きて
大馬の鬣(たてがみ)の如く、
折からの日光を受けて
金色(こんじき)に染まりぬ。

高く前に張れる両手は
確かに掴まんとする
理想の憧れに慄へて
槍の穂の如くに輝き、
優しの素足に
さくさくと雪を蹴りつつ、
甲斐甲斐しくも穿きたるは
希臘(ギリシヤ)風の草鞋(サンダル)……

さて桔梗色や
淡紅(とき)色の
明るき衣(ころも)
霧よりも軽(かろ)く
膝を越えて
つつましやかに靡けば、
女達の身は半
浮ぶとぞ見ゆる。

この美くしき行列は
断えず歌へり。
その節は
かすかに軽(かろ)き
快き眩暈(めまひ)の中に
人と万物を誘ひ、
人には平和を、
木草には花を感ぜしむ。

女達は歌ひつつ行く。
「全世界を恋人とし、
いとし子として、
この温かき胸に抱(いだ)かん。
我等は愛の故郷(ふるさと)――
かの太陽より来りぬ」と。

おお、此処に、
踊りつつ、
歌ひつつ、
急ぐ女の一むれ……
女達の踏む所に
紅水晶の色の香水
光の如くに降り注ぎ、
雪の上に一すぢ
春の路は虹の如く
ほのぼのとして現れぬ。


  手の上の氷

日の堪へ難く暑きまゝ
しばらく筆をさし置きて、
我れは氷のかたまりを
載せて遊びぬ、手のひらに。

貧しき家の我子等は
未だ見ざりしその母の
この戯れを怪しみて、
我が前にしも集まりぬ。

可愛ゆき子等よ、こは母が
珍しきまゝする事ぞ、
唯だ気紛れにする事ぞ、
いはれも無くてする事ぞ。

かゝる果敢なきすさびすら
母が昔の家にては
許されずして育ちにき、
唯だ頑なに護られて。

可愛ゆき子等よ、摸(ま)ねたくば
いざ氷をば手に載せよ。
さて年長けて後(のち)思へ、
母は自由を愛でにきと。


  我は矛盾の女なり

我れは矛盾の女なり、
また恐らくは、魂に
病を持てる女なり。
我れを知らんとする人は
先づ此事を知り給へ。


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